説明

キャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造

【課題】本発明は、シートに対してシートベルト荷重が加わったときのエンジンカバーの変形を抑える部材の配置自由度を向上させ、さらに前記部材により車室内のスペースが狭められないようにする。
【解決手段】本発明に係るキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造によると、エンジンカバー10は、ヒンジ装置によって車室床部を構成するボディ7に対して上下回動可能な状態で連結されており、エンジンカバー10の裏側には係合部材30が設けられ、ボディ7の裏側には被係合部材50が設けられており、係合部材30と被係合部材50とは、ヒンジ装置を利用してエンジンカバー10を上下回動させるときは非接触状態に保持され、シートに対してシートベルト荷重が加わり、エンジンカバー10がシートベルト荷重の方向に変形することにより、互いに係合するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームの点検口を開閉するエンジンカバーが車室内に設けられており、前記エンジンカバー上に三点式シートベルトを備えるシートが設置されているキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造に関する技術が特許文献1に記載されている。
特許文献1に記載のキャブオーバ車では、図11(A)に示すように、車室のフロントフロアFにエンジンルームの点検口(図示省略)が形成されており、その点検口がエンジンカバー100によって開閉可能に構成されている。エンジンカバー100は、カバー本体部100mと、そのカバー本体部の左側に配置された平面略L字形のヒンジアーム101と、両者100m,101を連結する連結板部102とから構成されている。そして、エンジンカバー100のカバー本体部100mの右後端部とヒンジアーム101の後端部とがヒンジ装置104によってフロントフロアFと側壁Wとに連結されている。これにより、エンジンカバー100はヒンジ機構104を中心に上下回動することで、前記点検口を開閉できるようになる。
前記エンジンカバー100上には、中央シート(図示省略)と助手席シート(図示省略)が設置されている。
【0003】
前記エンジンカバー100の連結板部102にはスリット状の開口102hが形成されており、その開口102hに、図11(B)に示すように、フロントフロアF側のフック105が非接触状態で挿通されている。このため、点検口を開くためにエンジンカバー100を上方に回動させる際には、前記フック105が開口102hの周縁に係合することがない。一方、前記シートに対してシートベルト荷重が加わり、前記エンジンカバー100がシートベルト荷重の方向に変形するときは、エンジンカバー100の開口102hの周縁がフロントフロアF側のフック105に掛けられて、エンジンカバー100及びシートの移動が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開昭62−199553号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したキャブオーバ車では、エンジンカバー100の連結板部102に形成された開口102hとフロントフロアF側のフック105とは、フロントフロアFの上側に設けられている。このため、前記フック105等を前記シートのスライド動作と干渉しない位置に配置する必要があり、前記フック105等の配置が制限される。また、前記フック105等に着座者が触れないようにカバー等で覆う必要があり、車室内のスペースが狭められる。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、シートに対してシートベルト荷重が加わったときのエンジンカバーの移動(変形)を抑える部材の配置自由度を向上させるとともに、前記部材により車室内のスペースが狭められないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、エンジンルームの点検口を開閉するエンジンカバーが車室内に設けられており、前記エンジンカバー上に三点式シートベルトを備えるシートが設置されているキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造であって、前記エンジンカバーは、ヒンジ装置によって前記車室床部を構成するボディに対して上下回動可能な状態で連結されており、前記エンジンカバーの裏側には係合部材が設けられ、前記ボディの裏側には被係合部材が設けられており、前記係合部材と前記被係合部材とは、前記ヒンジ装置を利用して前記エンジンカバーを上下回動させるときは非接触状態に保持され、前記シートに対してシートベルト荷重が加わり、前記エンジンカバーが前記シートベルト荷重の方向に変形することにより、互いに係合するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によると、係合部材と被係合部材とは、シートに対してシートベルト荷重が加わってエンジンカバーが変形することにより、互いに係合するように構成されている。即ち、前記シートベルト荷重がシーとを介してエンジンカバーに加わると、前記エンジンカバーは係合部材と被係合部材、及びヒンジ装置によってボディに保持される。したがって、エンジンカバーがヒンジ装置だけでボディに保持される構成と比較して、エンジンカバーの変形が抑制される。この結果、エンジンカバー上に設置されているシートのシートバックの肩部分が規定値を超えて前進することがなくなる。
さらに、前記係合部材と被係合部材とは、エンジンカバーの裏側、及びボディの裏側に設けられているため、前記係合部材と被係合部材が車室内のシート等と干渉することがなく、前記係合部材と被係合部材との配置の自由度が向上する。また、前記係合部材と被係合部材とにより、キャブオーバ車の車室内のスペースが狭められることがない。
【0009】
請求項2の発明によると、前記シートは、そのシートバックの左上端、あるいは右上端でシートベルト荷重を受けることができる構成であり、前記シートバックが左上端で前記シートベルト荷重を受ける場合には、前記係合部材と被係合部材とは前記シートの左後隅部の近傍に配置されており、前記シートバックが右上端で前記シートベルト荷重を受ける場合には、前記係合部材と被係合部材とは前記シートの右後隅部の近傍に配置されていることを特徴とする。
例えば、シートベルト荷重によりシートバックの左上端が右前方に引っ張られると、エンジンカバーに対しても右前方向の引っ張り荷重が加わる。これにより、エンジンカバーはヒンジ機構を中心にして右前方に回動するように変形しようとする。しかし、シートの左後隅部の近傍には、係合部材と被係合部材とが配置されているため、両者の係合によりエンジンカバーの右前方向の回動が効率的に抑えられる。
【0010】
請求項3の発明によると、前記エンジンカバーの係合部材は、そのエンジンカバーの回動軌跡に沿って形成されたフック部と、そのフック部に形成された開口部、あるいは突起部とを備えており、前記ボディの被係合部材は、前記エンジンカバーが前記点検口を塞いだ状態で、前記フック部の開口部、あるいは突起部と同軸に配置される突起部、あるいは開口部を備えていることを特徴とする。
このように、係合部材のフック部の開口部等が同軸に配置された被係合部材の突起部等に掛けられる構成のため、エンジンカバーの変形時に係合部材と被係合部材とが係合し易くなる。
【0011】
請求項4の発明によると、エンジンカバーの回動自由端の裏側には、そのエンジンカバーが前記シートベルト荷重の方向に変形するときに、前記点検口の周縁と係合可能に構成された鉤状部材が設けられていることを特徴とする。
このように、エンジンカバーがシートベルト荷重の方向に変形する際に、エンジンカバーの回動自由端の鉤状部材が前記点検口の周縁と係合するため、前記エンジンカバーがさらに変形し難くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、シートに対してシートベルト荷重が加わったときのエンジンカバーの変形を抑える係合部材と被係合部材とがエンジンカバーの裏側、及びボディの裏側に設けられている。このため、係合部材と被係合部材との配置自由度が向上するとともに、それらの部材により車室内のスペースが狭められることがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造を表す全体模式縦断面図(図2のI-I矢視縦断面図)である。
【図2】エンジンカバー取付け構造を表す一部破断平面図である。
【図3】エンジンカバー取付け構造を表す斜視図である。
【図4】図2のIV-IV矢視断面図(A図)、及び係合部材と被係合部材の斜視図(B図)である。
【図5】係合部材と被係合部材の働きを表す縦断面図(A図、B図)である。
【図6】図1のVI矢視拡大図である。
【図7】エンジンカバーに取付けられる中央シートの斜視図である。
【図8】変更例に係るエンジンカバー取付け構造において使用される係合部材、被係合部材を表す斜視図(A図)、縦断面図(B図)である。
【図9】変更例に係るエンジンカバー取付け構造において使用される係合部材、被係合部材を表す斜視図(A図)、係合部材と被係合部材の働きを表す縦断面図(B図、C図)である。
【図10】変更例に係るエンジンカバー取付け構造において使用される係合部材、被係合部材を表す斜視図(A図)、縦断面図(B図)である。
【図11】従来のキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造を表す全体模式縦断面図(A図)、及びフック等を表す側面図(B図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
以下、図1から図10に基づいて本発明の実施形態1に係るキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造について説明する。ここで、図中の前後左右、及び上下は前記キャブオーバ車の前後左右及び上下に対応している。
【0015】
<キャブオーバ車のエンジンカバー10回りの概要について>
キャブオーバ車は、運転席がエンジンの上にある形式の車両である。このため、図1に示すように、車室内の前列シート(運転席(図示省略)、中央シートCS、助手席(図示省略))の下側にエンジンルームEが設けられている。
車両ボディの車室床面は、側面略台形状に形成されたフロントフロアパネル3と、平らなリアフロアパネル5と、前記フロントフロアパネル3とリアフロアパネル5間で段差状に形成されたヘッダパネル7とから構成されている。そして、エンジンルームEがフロントフロアパネル3とヘッダパネル7とを利用して形成されている。エンジンルームEの天井部分を構成するフロントフロアパネル3の上部には、そのエンジンルームEの点検口Edが形成されており、その点検口Edがエンジンカバー10によって開閉可能に構成されている。そして、前記エンジンカバー10上に中央シートCSと助手席とが設置されている。
【0016】
<エンジンカバー10について>
エンジンカバー10は、図2、図3に示すように、平面略台形状をしたカバー本体部12と、そのカバー本体部12の左前部に固定された平面略L字形のヒンジアーム14とから構成されている。カバー本体部12は、フロントフロアパネル3の上面形状に合わせて緩やかな山形に形成されており、そのカバー本体部12の後端縁右側がヒンジ装置20によって点検口Edの開口縁後部を構成するヘッダパネル7の上板部7fに連結されている。また、ヒンジアーム14の後端部には、図2に示すように、補助ヒンジピン25が挿通されるヒンジ孔14hが形成されており、前記補助ヒンジピン25がボディの左側壁8から車幅方向に突出形成されている。ここで、前記補助ヒンジピン25とヒンジ装置20のヒンジピン(図示省略)とは同軸に位置決めされている。これにより、エンジンカバー10は、補助ヒンジピン25とヒンジ装置20のヒンジピン(以下、回転中心C(図1等参照)という)とを中心に上下回動が可能となり、前記エンジンカバー10が上下回動することによりエンジンルームEの点検口Edが開閉される。
エンジンカバー10のカバー本体部12の表面には、図2、図3に示すように、右端前後と中央前後とに中央シートCSの四隅がボルト止めされる受け金具12kが設けられている。そして、エンジンカバー10の右端後部に設けられた受け金具12kの近傍にヒンジ装置20が配置されている。
なお、前記助手席をエンジンカバー10にボルト止めする受け金具は、図示省略されている。
【0017】
<中央シートCSについて>
エンジンカバー10上に設置される中央シートCSは、運転席と助手席との間に設置されるシートであり、図7に示すように、独立した三点式シートベルト40を備えている。三点式シートベルト40は、ベルト本体41と、中央シートCSのシートバックSb内に設けられ、ベルト本体41を巻き取るリトラクタ(図示省略)と、前記シートバックSbの左肩部に設けられたベルトガイド46と、タングプレート45、及びベルト本体41の先端部を中央シートCSの左横でヘッダパネル7に固定する左アンカ(図示省略)とを備えている。また、中央シートCSの右横には、タングプレート45が連結されるバックル43が配置されており、そのバックル43が右アンカ(図示省略)によってヘッダパネル7に固定されている。
上記構成により、例えば、車両衝突時等のシートベルト荷重は、中央シートCSのシートバックSbの左肩部に加わり、そのシートバックSbを右上前方に引っ張るように作用する。そして、前記シートバックSbを右上前方に引っ張る力が中央シートCSを介してエンジンカバー10に加わるようになる。また、前記シートベルト荷重は、左右のアンカを介してヘッダパネル7に加わるようになる。
【0018】
<係合部材30と被係合部材50について>
エンジンカバー10のカバー本体部12の裏側後端縁には、図2等に示すように、中央後部の受け金具12kから補助ヒンジピン25近傍までの範囲に2個の係合部材30が固定されている。また、ヘッダパネル7の上板部7fの裏側には、カバー本体部12のそれぞれの係合部材30に対応する位置に被係合部材50が非接触状態で固定されている。
二組の係合部材30と被係合部材50とは、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを開閉する際には非接触状態に保持され、エンジンカバー10が後記するようにシートベルト荷重を受けて変形する際に互いに係合するように構成されている。
【0019】
係合部材30は、図4(A)(B)に示すように、エンジンカバー10の裏面に連結されるフランジ部32と、そのフランジ部32に対して直角下側に折り曲げられた縦壁部34と、その縦壁部34の先端から緩やかに水平方向に湾曲するように形成されたフック部36とから構成されている。
係合部材30のフランジ部32は、平らな帯板状に形成されており、エンジンカバー10の裏側に接合された補強板12x(図4(A)参照)に、例えば、ボルト32b等により固定される。係合部材30の縦壁部34は、図4(B)に示すように、フランジ部32からフック部36の位置まで緩やかに幅が狭くなるように構成されており、その縦壁部34の幅方向中央位置に断面略台形状の縦溝34mがフック部36の位置まで成形されている。係合部材30は、鋼板をプレスすることにより成形される。このため、前述のように、縦壁部34からフック部36にかけて縦溝34mが形成されることで、前記縦壁部34からフック部36にかけての折り曲げ強度が向上する。
係合部材30のフック部36は、前記係合部材30がエンジンカバー10に固定された状態で、図4(A)に示すように、エンジンカバー10の回動軌跡Rに沿うように形成されている。これにより、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを閉じた状態で、係合部材30のフック部36の先端部分はほぼ水平に保持される。前記フック部36の先端部分には、幅方向中央位置に係合孔36hが形成されている。
【0020】
被係合部材50は、図4(A)(B)に示すように、ヘッダパネル7の上板部7fの裏面に連結される連結板52と、その連結板52に固定される軸部材54とから構成されている。被係合部材50の連結板52は、図4(B)に示すように、長手方向両側に形成された固定部52sと、中央部分に設けられた底平板部52bと、その底平板部52bと固定部52s間に設けられた段差部52dとから構成されている。そして、前記連結板52の底平板部52bの中央に前記軸部材54の軸本体54jが挿通される貫通孔52h(図4(A)参照)が形成されている。
被係合部材50の軸部材54は、軸本体54jと円板部54eとから構成されており、その円板部54eが軸本体54jの一端に同軸に固定されている。そして、前記軸部材54の軸本体54jが連結板52の貫通孔52hに挿通された状態で、その軸部材54の円板部54eが連結板52の底平板部52bに固定されている。
【0021】
被係合部材50は、その連結板52の固定部52sがヘッダパネル7の裏側に接合された補強板7xに対し、例えば、溶接等により固定される。これにより、被係合部材50は、ヘッダパネル7の上板部7fの裏面所定位置に固定される。ここで、被係合部材50は、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを閉じた状態で、その被係合部材50の軸本体54jが係合部材30のフック部36の係合孔36hと同軸になるように位置決めされている。また、被係合部材50の軸本体54jの先端から係合部材30のフック部36までの軸方向の距離は、エンジンカバー10を上下回動させるときに両者54j,36が接触しない距離で、前記エンジンカバー10がシートベルト荷重により変形するときにフック部36の係合孔36hが被係合部材50の軸本体54jに掛かるような距離に設定されている。
【0022】
<鉤状部材60について>
エンジンカバー10のカバー本体部12の裏側前端縁には、図2、図6等に示すように、右端前部の受け金具12kと中央前部の受け金具12k間の位置に鉤状部材60がそのカバー本体部12の端縁に沿って固定されている。鉤状部材60は、図6に示すように、固定フランジ部61と縦壁部63とにより断面略逆L字形に形成されており、前記固定フランジ部61がカバー本体部12の裏面に固定される。鉤状部材60は、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを閉鎖している状態、及びエンジンカバー10が上下に回動する際に、回動軌跡Rに沿って移動し、その鉤状部材60の縦壁部63が点検口Edの開口縁3xと接触しないように構成されている。しかし、鉤状部材60の縦壁部63は、エンジンカバー10がシートベルト荷重を受けて前方に移動しようとする際には、点検口Edの開口縁3xに係合するように構成されている。
【0023】
<本実施形態に係るエンジンカバー10の動作について>
車両停止時にエンジンルームEの点検口Edを開く場合には、エンジンカバー10を中央シートCS、助手席と共に上方に回動させる。即ち、エンジンカバー10等をヒンジ装置20のヒンジピンと補助ヒンジピン25(回転中心C)を中心にして上方に回動させる。前述のように、エンジンカバー10の裏面後端縁に固定された係合部材30のフック部36はエンジンカバー10の回動軌跡Rに沿って形成されている。さらに、エンジンカバー10側の係合部材30のフック部36と、ヘッダパネル7側の被係合部材50の軸本体54jとは、軸方向に離れている。このため、前記エンジンカバー10が上方に回動してもフック部36はエンジンカバー10の回動軌跡Rに沿って移動し、ヘッダパネル7側の被係合部材50とは接触しない(図5(A)参照)。また、エンジンカバー10の裏面前端縁に固定された鉤状部材60は、エンジンカバー10が上下に回動する際、エンジンルームEの点検口Edの開口縁3xと接触しないように構成されている。
したがって、係合部材30と被係合部材50、及び鉤状部材60がエンジンカバー10等の上下回動を妨げることがない。
【0024】
一方、車両走行中、即ち、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを閉鎖している状態で、例えば、中央シートCSに対してシートベルト荷重による衝撃が加わると、中央シートCSは、前述のように、前記シートベルト荷重によって右上前方に引っ張られる。そして、中央シートCSが右上前方に引っ張られることにより、エンジンカバー10にも右上前方の引っ張り荷重が加わる。これにより、エンジンカバー10はヒンジ装置20を中心にして右上前方に回動するように変形しようとする。即ち、エンジンカバー10の後端縁は、ヒンジ装置20の左側が、図5(A)(B)に示す移動軌跡Yに沿って移動しようとする。この結果、エンジンカバー10に設けられた係合部材30のフック部36の係合孔36hが、図5(B)に示すように、ヘッダパネル7の被係合部材50の軸本体54jに掛けられる。また、エンジンカバー10が前方に移動しようとすることにより、エンジンカバー10の前端縁に設けられた鉤状部材60がエンジンルームEの点検口Edの開口縁3xと係合するようになる。即ち、エンジンカバー10は、係合部材30、被係合部材50、ヒンジ装置20、補助ヒンジピン25、及び鉤状部材60によって車室床部を構成するボディ(フロントフロア3、ヘッダパネル7)に保持される。
これにより、エンジンカバー10がヒンジ装置20、補助ヒンジピン25等だけでヘッダパネル7(ボディ)に保持される構成と比較して、エンジンカバー10の変形が抑制される。この結果、エンジンカバー10上に設置されている中央シートCSのベルトガイド46の部分が規定値を超えて前進することがなくなる。
【0025】
<本実施形態に係るエンジンカバー取付け構造の長所について>
本実施形態に係るエンジンカバー取付け構造によると、エンジンカバー10側に係合部材30が設けられており、ヘッダパネル7(ボディ)側に被係合部材50が設けられている。そして、シートベルト荷重でエンジンカバー10が変形することにより、係合部材30と被係合部材50とが係合するように構成されている。また、エンジンカバー10がシートベルト荷重の方向に変形する際に、エンジンカバー10の前端縁の鉤状部材60がエンジンルームEの点検口Edの周縁と係合する。このため、エンジンカバー10がヒンジ装置20等だけでボディに保持される構成と比較して、エンジンカバー10の変形が抑制され、エンジンカバー10上に設置されている中央シートCSのベルトガイド46の部分が規定値を超えて前進することがなくなる。
さらに、係合部材30と被係合部材50等は、エンジンカバー10の裏側、及びヘッダパネル7(ボディ)の裏側に設けられているため、係合部材30と被係合部材50等が車室内のシート等と干渉することがなく、係合部材30と被係合部材50との配置の自由度が向上する。また、係合部材30と被係合部材50等とにより、キャブオーバ車の車室内のスペースが狭められることがない。
【0026】
<変更例>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、係合部材30のフック部36に係合孔36hを形成し、被係合部材50の連結板52に軸部材54を設ける例を示した。しかし、図8(A)(B)に示すように、係合部材30のフック部36に軸部材38を設け、被係合部材50の連結板52に係合孔52hを形成し、軸部材38の軸本体38jを連結板52の係合孔52hに係合させる構成でも可能である。
また、本実施形態では、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを閉鎖した状態で、係合部材30のフック部36と被係合部材50の連結板52及び軸部材54とが上下に間隔をおいて配置される例を示した。しかし、図9(A)(B)(C)に示すように、係合部材72のフック部73と被係合部材76の軸本体76jとを前後に配置することも可能である。
【0027】
即ち、係合部材72の先端部分には、エンジンカバー10がエンジンルームEの点検口Edを閉鎖した状態で縦向きに位置決めされるフック部73が設けられており、そのフック部73の中心に係合孔73hが形成されている。また、被係合部材76は、ヘッダパネル7の上板部7fの裏面から下方に延びる縦壁部76xを備えており、その縦壁部76xに先端鉤部76kを備える軸本体76jが直角に固定されている。そして、被係合部材76の軸本体76jが係合部材72のフック部73の係合孔73hに非接触状態で挿通されている。これにより、エンジンカバー10が上方に回動して、係合部材72のフック部73が回動軌跡Rに沿って移動する際、ヘッダパネル7側の被係合部材76の軸本体76jがフック部73の係合孔73h開口縁に係合することがなくなる。
一方、エンジンカバー10がシートベルト荷重を受けて移動軌跡Yに沿って移動しようとすると、図9(C)に示すように、係合部材72のフック部73の係合孔73hが被係合部材76の軸本体76jの先端鉤部76kに掛けられる。このように、被係合部材76の軸本体76jが係合部材72のフック部73の係合孔73hに非接触状態で挿通される構成であるため、エンジンカバー10の変形時に両者76,72が確実に係合するようになる。
【0028】
ここで、係合部材72のフック部73に係合孔73hを形成し、被係合部材76の縦壁部76xに軸本体76jを形成する例を示したが、図10(A)(B)に示すように、係合部材72のフック部73に軸本体73jを設け、被係合部材76の縦壁部76xに係合孔76hを形成する構成でも可能である。
また、本実施形態では、中央シートCSのシートバックSbの左肩部にベルトガイド46を設け、エンジンカバー10の右後端縁(中央シートCSの右後角部近傍)にヒンジ装置20を設けた状態で、そのエンジンカバー10の中央後端縁(中央シートCSの左後角部近傍)に係合部材30、被係合部材50を配置する例を示した。しかし、中央シートCSのシートバックSbの右肩部にベルトガイド46を設け、エンジンカバー10の左後端縁(中央シートCSの左後角部近傍)にヒンジ装置20を設けた状態で、そのエンジンカバー10の中央後端縁(中央シートCSの右後角部近傍)に係合部材30、被係合部材50を配置しても良い。
また、本実施形態では、エンジンカバー10の後端縁とヘッダパネル7(ボディ)との間に係合部材30,72と被係合部材50,76を二組設ける例を示したが、係合部材30,72と被係合部材50,76を一組設けても良いし、三組以上設けても良い。
【符号の説明】
【0029】
7・・・・ヘッダパネル(ボディ)
7f・・・上板部
8・・・・左側壁
10・・・エンジンカバー
20・・・ヒンジ装置
30・・・係合部材
36・・・フック部
36h ・・係合孔
50・・・被係合部材
60・・・鉤状部材
CS・・・中央シート(シート)
E・・・・エンジンルーム
Ed・・・点検口
Sb・・・シートバック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの点検口を開閉するエンジンカバーが車室内に設けられており、前記エンジンカバー上に三点式シートベルトを備えるシートが設置されているキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造であって、
前記エンジンカバーは、ヒンジ装置によって前記車室床部を構成するボディに対して上下回動可能な状態で連結されており、
前記エンジンカバーの裏側には係合部材が設けられ、前記ボディの裏側には被係合部材が設けられており、
前記係合部材と前記被係合部材とは、前記ヒンジ装置を利用して前記エンジンカバーを上下回動させるときは非接触状態に保持され、前記シートに対してシートベルト荷重が加わり、前記エンジンカバーが前記シートベルト荷重の方向に変形することにより、互いに係合するように構成されていることを特徴とするキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造。
【請求項2】
請求項1に記載されたキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造であって、
前記シートは、そのシートバックの左上端、あるいは右上端でシートベルト荷重を受けることができる構成であり、
前記シートバックが左上端で前記シートベルト荷重を受ける場合には、前記係合部材と被係合部材とは前記シートの左後隅部の近傍に配置されており、
前記シートバックが右上端で前記シートベルト荷重を受ける場合には、前記係合部材と被係合部材とは前記シートの右後隅部の近傍に配置されていることを特徴とするキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載されたキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造であって、
前記エンジンカバーの係合部材は、そのエンジンカバーの回動軌跡に沿って形成されたフック部と、そのフック部に形成された開口部、あるいは突起部とを備えており、
前記ボディの被係合部材は、前記エンジンカバーが前記点検口を塞いだ状態で、前記フック部の開口部、あるいは突起部と同軸に配置される突起部、あるいは開口部を備えていることを特徴とするキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造であって、
前記エンジンカバーの回動自由端の裏側には、そのエンジンカバーが前記シートベルト荷重の方向に変形するときに、前記点検口の周縁と係合可能に構成された鉤状部材が設けられていることを特徴とするキャブオーバ車のエンジンカバー取付け構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−162988(P2010−162988A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5746(P2009−5746)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】