説明

キャブチルト装置

【課題】キャブチルト装置における操作力調整を容易にする。
【解決手段】サイドレール18に固定された一対のキャブヒンジブラケット20と、これに回動可能に軸支されつつ、外周面にキャブ10が固定されるマウントチューブ14と、マウントチューブ14に内挿され、一端部22Aがマウントチューブ14に固定される一方、他端部22Bがマウントチューブ14から突出するトーションバー22と、その他端部22Bをサイドレール18に固定するアンカーアーム24と、を備えたキャブチルト装置において、トーションバー22の他端部22Bに嵌合固定される内筒部材と、その車幅外方に位置する部位を除いた周囲に配設される外筒部材と、外筒部材をフレームに固定するアーム部材と、外筒部材に対する内筒部材の回転をトーションバーの捩じりが増加する方向にのみ許容するラチェット機構と、を含んでアンカーアーム24を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブチルト装置における操作力調整を容易にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブ下方にエンジンルームが位置するキャブオーバ型車両には、特開2002−96767号公報(特許文献1)に記載されるように、エンジン整備性向上のため、キャブをチルトアップさせるキャブチルト装置が備えられているものがある。キャブチルト装置は、フレームの左右方向に配設されたトーションバーの捩じりを利用し、小さな力でキャブをチルトアップできるようにしたものである。このとき、トーションバーの端部に固定されたアンカーアームをフレームと一体化されたアジャストボルトに当接させ、キャブをチルトダウンさせる回転力を利用してトーションバーに捩じりを生じさせている。
【特許文献1】特開2002−96767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、チルトアップに要する操作力は、トーションバーに蓄えられる捩じりエネルギに依存する。その捩じりエネルギは、経年変化などにより変化する特性があるので、必要に応じて、アンカーアームと当接するアジャストボルトを回転させ、初期捩じり量を調整する作業を行わなければならない。しかしながら、アジャストボルトの周囲には各種機器,配線及び配管などが配設されているため、これを外部から望めず、操作力調整が困難であった。
【0004】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、アンカーアームにトーションバーの捩じりを調整するラチェット機構を組み込むことで、チルトアップに要する操作力を車幅外方から容易に調整できるようにしたキャブチルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明では、フレームの左右に夫々固定された一対のキャブヒンジブラケットと、キャブヒンジブラケットに回動可能に軸支されると共に、その外周面にキャブの下面が一体的に固定される略円筒形状をなすマウントチューブと、マウントチューブに内挿され、その一端部がマウントチューブに相対回転不能に固定される一方、その他端部がマウントチューブから突出するトーションバーと、トーションバーの他端部をフレームに一体的に固定するアンカーアームと、を備えたキャブチルト装置において、アンカーアームは、トーションバーの他端部に嵌合固定される略円筒形状をなす内筒部材と、内筒部材の車幅外方に位置する部位を除いた周囲に配設される略円筒形状をなす外筒部材と、外筒部材をフレームに一体的に固定するアーム部材と、外筒部材に対する内筒部材の回転をトーションバーの捩じりが増加する方向にのみ許容するラチェット機構と、を含んで構成されたことを特徴とする。
【0006】
ここで、外筒部材に対する内筒部材の回転作業を容易にすべく、内筒部材の車幅外方に位置する部位の外周面に、工具が着脱可能に装着される工具装着部を形成することが望ましい。また、トーションバーの他端部をフレームに一体的に固定するアンカーアームの構造を簡略化すべく、その基端部が外筒部材の外周に嵌合固定される一方、その先端部がキャブヒンジブラケットにボルトで締結固定されるアーム部材を用いることが望ましい。さらに、内筒部材と外筒部材との間にラチェット機構を内蔵できるようにすべく、内筒部材の外周に一体形成された歯部と、外筒部材の内周面に形成された凹部に基端部が揺動可能に収納固定された係止部材と、係止部材の先端部を歯部の方向に付勢する付勢部材と、を含んでラチェット機構を構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るキャブチルト装置によれば、内筒部材の車幅外方に位置する部位、即ち、外筒部材から突出する内筒部材の部位を回転させることで、マウントチューブに対するトーションバーの捩じりを増加させることができる。このとき、アンカーアームの車幅外方、要するに、内筒部材の車幅外方には、各種機器などが配置されていないことが多いため、これを車幅外方から望むことが可能であり、内筒部材を容易に回転させることができる。このため、キャブのチルトアップに要する操作力を容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、本発明に係るキャブチルト装置を具現化した実施形態を示す。
キャブ10の前方下面には、車幅方向に所定距離を隔てて配設される一対のキャブマウントブラケット12を介して、略円筒形状をなすマウントチューブ14が固定される。マウントチューブ14の両端部近傍は、弾性部材としてのラバーブッシュ16を介して、梯子型フレームを構成する左右のサイドレール18に固定された一対のキャブヒンジブラケット20に回動可能に軸支される。マウントチューブ18に内挿されるトーションバー22の一端部22Aは、マウントチューブ14に相対回転不能に固定される一方、その他端部22Bは、キャブヒンジブラケット20を貫通して車幅外方へと延伸される。そして、マウントチューブ14から突出したトーションバー22の他端部22Bに、これをキャブヒンジブラケット20に一体的に固定するアンカーアーム24が嵌合固定される。
【0009】
アンカーアーム24は、図2及び図3に示すように、トーションバー22の他端部22Bに嵌合固定される略円筒形状をなす内筒部材24Aと、その車幅外方に位置する部位を除いた周囲に配設される略円筒形状をなす外筒部材24Bと、これをキャブヒンジブラケット20に一体的に固定するアーム部材24Cと、外筒部材24Bに対する内筒部材24Aの回転をトーションバー22の捩じりが増加する方向にのみ許容するラチェット機構26と、を含んで構成される。
【0010】
内筒部材24Aの車幅外方に位置する部位の周囲には、図2(B)で詳細に示すように、外筒部材24Bに対する内筒部材24Aの回転作業を容易にすることを目的として、スパナなどの工具が着脱可能に装着される、横断面が略正六角形状をなす工具装着部Aが形成される。また、トーションバー22の他端部22Bをフレームに一体的に固定するアンカーアーム24の構造を簡略化すべく、アーム部材24Cは、その基端部が外筒部材24Bの外周に嵌合固定される一方、その先端部がキャブヒンジブラケット20のボス部20Aにボルト28で締結固定される。
【0011】
一方、ラチェット機構26は、図3に示すように、外筒部材24Bに対面する内筒部材24Aの外周に一体的に形成された歯部26Aと、これと対面する外筒部材24Bの内周面に形成された凹部Bに基端部が揺動可能に収納固定された係止部材26Bと、その先端部を歯部26Aの方向に付勢する付勢部材26Cと、を含んで構成される。なお、歯部26Aを挟んだ内筒部材24Aと外筒部材24Bとの間には、歯部26Aの形成高さに相当する間隔が形成されてしまうので、内筒部材24Aの外周に略円筒形状をなす一対のリング26Dが嵌合固定される。
【0012】
歯部26Aは、図4に示すように、内筒部材24Aの中心を通る平面上に位置する第1の面と、その最外周端から回転許容方向に向かって鋭角をなす平面上に位置する第2の面と、が交互に連続する形状に形成される。係止部材26Bは、歯部26Aの外周形状に倣った略円弧形状をなし、その基端部が外筒部材24の軸方向に沿って回動可能に配設されたピンCに固定される一方、その先端部が歯部26Aの第1の面及び第2の面に倣った略三角形状に形成される。付勢部材26Cは、係止部材26Bの外周面に形成された窪みDにその一部が嵌合するボールEと、これを係止部材26Bの方向に付勢する圧縮コイルばねFと、頭部に工具嵌合孔が形成された止め螺子Gと、を含んで構成される。そして、外筒部材24Bの周壁に形成された雌螺子部Hに、ボールE及び圧縮コイルばねFが収納された後、止め螺子Gが螺合され、付勢部材26Cが構成される。
【0013】
ここで、ラチェット機構26の作用について説明する。
内筒部材24Aを図中時計回りに回転させるとき、即ち、トーションバー22の捩じりを増加させる方向に回転させるときには、付勢部材26Cの付勢力に抗して、歯部24Aの第2の面が係止部材26Bの先端部を半径外方に移動させる。そして、係止部材26Bの先端部が歯部24Aの第1の面の最外周端を乗り越えると、付勢部材26Cの付勢力により、これが隣接する歯部26Aの谷部へと押圧される。このため、トーションバー22の捩じりを増加させる回転方向には、内筒部材24Aを自由に回転させることができる。一方、内筒部材24Aを図中反時計回りに回転させるとき、即ち、トーションバー22の捩じりを減少させる方向に回転させるときには、内筒部材24Aの中心を通る平面上で、歯部24Aの第1の面と係止部材26Bの先端部とが当接するので、その回転が阻止される。従って、ラチェット機構26は、外筒部材24Bに対する内筒部材14Aの回転をトーションバー22の捩じりが増加する方向にのみ許容し、その反対方向への回転を阻止する機能を奏することとなる。
【0014】
かかるキャブチルト装置によれば、内筒部材24Aの工具装着部Aに工具を装着し、これを時計回りに回転させることで、マウントチューブ14に対するトーションバー22の捩じりを増加させることができる。このとき、アンカーアーム24の車幅外方には、各種機器などが配置されていないことが多いため、内筒部材24Aを工具で容易に回転させることができる。このため、キャブ10のチルトアップに要する操作力を、車幅外方から容易に調整することができる。
【0015】
なお、キャブチルト装置においては、トーションバー22の経年変化により、ここに蓄えられる捩じりエネルギが減少し、チルトアップに要する操作力が徐々に増加する。このため、ラチェット機構26により、外筒部材24Bに対する内筒部材24Aの回転をトーションバー22の捩じりが増加する方向にのみ回転できれば足りる。その反対方向にトーションバー22を回転させる必要が生じたときには、ラチェット機構26を構成する止め螺子Gを取り外し、歯部26Aに対して付勢部材26Cの付勢力が作用しないようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るキャブチルト装置を具現化した実施形態の構成図
【図2】アンカーアームの概要を示し、(A)はその正面図、(B)は(A)におけるX−X断面図
【図3】アンカーアームの内部構造を示す縦断面図
【図4】ラチェット機構の詳細構造を示す横断面図
【符号の説明】
【0017】
10 キャブ
14 マウントチューブ
18 サイドレール
20 キャブヒンジブラケット
20A ボス部
22 トーションバー
22A 一端部
22B 他端部
24 アンカーアーム
24A 内筒部材
24B 外筒部材
24C アーム部材
26 ラチェット機構
26A 歯部
26B 係止部材
26C 付勢部材
28 ボルト
A 工具装着部
B 凹部
C ピン
D 窪み
E ボール
F 圧縮コイルばね
G 止め螺子
H 雌螺子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームの左右に夫々固定された一対のキャブヒンジブラケットと、該キャブヒンジブラケットに回動可能に軸支されると共に、その外周面にキャブの下面が一体的に固定される略円筒形状をなすマウントチューブと、該マウントチューブに内挿され、その一端部がマウントチューブに相対回転不能に固定される一方、その他端部がマウントチューブから突出するトーションバーと、該トーションバーの他端部をフレームに一体的に固定するアンカーアームと、を備えたキャブチルト装置において、
前記アンカーアームは、前記トーションバーの他端部に嵌合固定される略円筒形状をなす内筒部材と、該内筒部材の車幅外方に位置する部位を除いた周囲に配設される略円筒形状をなす外筒部材と、該外筒部材をフレームに一体的に固定するアーム部材と、前記外筒部材に対する内筒部材の回転をトーションバーの捩じりが増加する方向にのみ許容するラチェット機構と、を含んで構成されたことを特徴とするキャブチルト装置。
【請求項2】
前記内筒部材の車幅外方に位置する部位の外周面には、工具が着脱可能に装着される工具装着部が形成されたことを特徴とする請求項1記載のキャブチルト装置。
【請求項3】
前記アーム部材は、その基端部が外筒部材の外周に嵌合固定される一方、その先端部がキャブヒンジブラケットにボルトで締結固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキャブチルト装置。
【請求項4】
前記ラチェット機構は、前記内筒部材の外周に一体形成された歯部と、前記外筒部材の内周面に形成された凹部に基端部が揺動可能に収納固定された係止部材と、該係止部材の先端部を歯部の方向に付勢する付勢部材と、を含んで構成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のキャブチルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−176407(P2007−176407A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379076(P2005−379076)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)
【Fターム(参考)】