説明

キャブフロア構造

【課題】フロアパネル上面の位置が高くなるのを抑えながら、電着液がフロアパネル上面から確実に流れ落ちるキャブフロア構造を提供する。
【解決手段】センターシート部1aと、該センターシート部1aの両側に設けられるサイドシート部1bと、を有するフロアパネル1と、該フロアパネル1を支持する骨組み部材と、を有するキャブフロア構造であって、フロアパネル1の上面には、該フロアパネル1の強度を向上させるための補強用凹ビード1a1が形成され、フロアパネル1に電着液を塗布した後に補強用凹ビード1a1に電着液が残留することを防止するため、フロアパネル1から電着液が流れ落ちるように、補強用凹ビード1a1の底面はフロアパネル1の上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアパネルを備えるトラックのキャブフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックのキャブフロア構造として、センターシート部と、該センターシート部の両側に設けられるサイドシート部と、を有するフロアパネルと、該フロアパネルを支持する骨組み部材と、を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
前記センターシート部は、キャブフロアの中央後部側に設けられており、乗員が着座するためのものである。このセンターシート部には、乗員が着座することによる荷重に確実に耐え得るように、図4に示すような長尺状の補強用凸ビード100が形成されている。図では、2本の補強用凸ビード100が相互に平行に形成されている。補強用凸ビード100が車体前後方向に形成されているのは、キャブ101を電着液槽110内の電着液Wに浸漬させてから取り出した後に(図5参照)、キャブフロア102に電着液Wが残留しないように、電着液Wを重力で流れ落ち易くするためである(図7(a)参照)。
【0003】
しかし、図4に示す補強用凸ビード100は車体前後方向に沿って形成されているので、車体幅方向に曲げ応力が加わった場合にセンターシート部の強度が不十分になる可能性がある。
そこで、車体幅方向の強度をも向上させるために、図6に示すように補強用凸ビード104の形状がH形状にされた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−34933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のキャブフロア構造では、車体の設計上、フロアパネル上面に高さ制限がある場合には、補強用凸ビード100、104はフロアパネル上面の高さを増加させるので、問題となっていた。この高さ制限を解決する手段として補強用凸ビード100、104を形成するのではなく、溝状の補強用凹ビード103を形成する方法が考えられる。
しかし、従来の補強用凸ビード100の場合は、図7(a)に示すように、凸部から電着液が流れ落ちるが、補強用凹ビード103の場合は図7(b)に示すように、補強用凹ビード103の溝に電着液Wが溜まり、電着液Wが流れ落ちないという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、フロアパネル上面の位置が高くなることを抑えながら、電着液がフロアパネル上面から確実に流れ落ちるキャブフロア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決する手段としてなされたものである。
請求項1に記載の発明は、センターシート部と、該センターシート部の両側に設けられるサイドシート部と、を有するフロアパネルと、該フロアパネルを支持する骨組み部材と、を有するキャブフロア構造であって、前記フロアパネルの上面には、該フロアパネルの強度を向上させると共に底面は前記フロアパネルの上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜している補強用凹ビードが形成されていることを特徴とする。
本発明では、フロアパネルの強度を向上させるために補強用凹ビードが形成されているが、補強用凹ビードの底面は傾斜面とされ、フロアパネルに電着液を塗布した後に補強用凹ビードに電着液が残留することが防止される。具体的には補強用凹ビードは、フロアパネルから電着液が流れ落ちるように、フロアパネルの上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜している。すなわち、電着液を塗布した後に多少の電着液がフロアパネル上面に残留しても経時的に電着液がフロアパネル上面から確実に流れ落ちる。また、補強用凹ビードであるため、補強用凸ビードと比べてフロアパネル上面の位置が高くなるのを抑えることができる。また、フロアパネルは板金プレス成形品であるため、現行の凸ビードが形成された金型の軽微な修正のみで対応することができる。従って、現行金型の流用が可能であり、コストが低減される。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、前記補強用凹ビードはセンターシート部の上面に形成されているとよい。
かかる構成によると、補強用凹ビードはセンターシート部の上面に形成されるが、センターシート部はキャブフロアで最も高さが高くなる位置であるので、特に有効である。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、前記補強用凹ビードは車体前後方向に沿って配置されたH形状であるとよい。
かかる構成によると、補強用凹ビードは車体前後方向に沿って配置されたH形状であるので、フロアパネルの縦方向の強度だけではなく幅方向の強度も向上する。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、前記補強用凹ビードの下方への傾斜は、車体後方へ向けられていることを特徴とする。
かかる構成によると、補強用凹ビードの下方への傾斜は、車体後方へ向けられているので、1つの傾斜を形成すればよい。仮に、車体幅方向へ傾斜させる場合にはキャブフロアの左右対称性を保つためにセンターシート部の中央から左右に傾斜面を形成することになる。よって、1つの傾斜面での流れ落ちようとする電着液の量が減少し、電着液が掃け難くなる。従って、傾斜が車体前後方向に向けられた本発明は、電着液の掃け易さにおいて優れている。
また、図5(c)に示すように電着液槽110からキャブ101を引き上げるときは、キャブ後方が下がるため、補強用凹ビードの下方への傾斜が、車体後方へ向けられていることによって、一層、電着液が掃け易くなる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載のキャブフロア構造において、前記補強用凹ビードの底面と前記センターシート部の上面とは、センターシート部の上面端部において高さが等しくされていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明では、補強用凹ビードの底面とセンターシート部の上面とは、センターシート部の上面端部において高さが等しくされているので、センターシート部の上面端部における電着液の排出性が良好である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のキャブフロア構造では、フロアパネル上面の位置が高くなるのを抑えながら、電着液をフロアパネル上面から確実に流れ落とすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対位置などは特に記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0014】
図1は、本発明のキャブフロア構造の一実施形態を示す説明図である。図に示すキャブフロア構造は、センターシート部1aと、該センターシート部1aの両側に設けられるサイドシート部1bと、を有するフロアパネル1と、該フロアパネル1を支持する骨組み部材と、を有している。骨組み部材は、車体前後方向及び車体幅方向に配設されたフロアパネル用の支持部材であり、フロアパネル1の裏面側に設けられている。
【0015】
フロアパネル1のセンターシート部1a上面には、キャブフロアの強度を向上させるための補強用凹ビード1a1が形成されている。凹ビードとした場合、フロアパネルの裏面側は凸ビードとなるので、ビードがない場合と比べて高強度化が図られる。ここで、凸ビードでなく凹ビードとしているのは、凹ビードの場合は、凸ビードの場合と比べて、センターシート部1aが凸ビードの高さだけ低くなるからである。設計上、フロア上面の高さ制限がある場合に特に有効である。フロア上面の高さ制限をすると、センターシート部1aの上面からキャブ室の天井までの間隔をより長く確保することができるが、このようにセンターシート部1aの上面からキャブ室の天井までの間隔を十分に確保しようとするのは、乗員がセンターシート部1a上に背筋を丸めずに座わるためである。
【0016】
この補強用凹ビード1a1は車体前後方向に沿って配置されたH形状である。そのため、フロアパネル1の縦方向の強度だけではなく幅方向の強度も向上する。勿論、2本の長尺状の溝に掛け渡す溝は1本ではなく、2本以上としてもよい。
【0017】
図2は、図1のA−A線に沿った断面を示している。このA−A線は車体前後方向に沿った線であり、H形状の補強用凹ビード1a1の中央部を通過している。すなわち、A−A線はフロアパネルの幅方向中央に位置する。図に示すように、補強用凹ビード1a1の下方への傾斜は、車体後方へ向けられている。より具体的には、補強用凹ビード1a1の底面がフロアパネル1の上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜しており、ビードの長手方向が車体の前後方向と一致する。補強用凹ビード1a1の底面が水平方向に対して下方へ傾斜していると、その傾斜は重力方向の成分を有するので、電着液は重力に引かれながら斜面を流れ落ちる。この斜面の傾斜は、図2では、センターシート部1aの上面端部に向けて単調減少する直線であり、電着液が流れ落ちることの妨げとなるものはない。そして、センターシート部1aの最上点から上面端部までの間に上り坂が存在せず、電着液の流れを妨げるものはない。
【0018】
本実施形態では、補強用凹ビード1a1の下方への傾斜は車体後方へ向けられているので、1本の補強用凹ビード1a1に付き1つの平面状の傾斜面を形成すればよい。仮に、補強用凹ビードを車体幅方向へ沿って補強用凹ビードの上面端部まで形成した場合、フロアパネルの左右対称性を保つためにセンターシート部1aの中央から左右に傾斜面を形成することになる。すなわち、1本の補強用凹ビードに付き2つの平面状の傾斜面が必要になる。よって、傾斜面の傾きが等しいことを前提として、2つの傾斜面の場合(車体幅方向のビード)を1つの傾斜面(車体前後方向のビード)と比べると、流れ落ちようとする電着液の量が減少し、電着液が掃け難くなる。従って、電着液の掃け易さでは、車体前後方向に向けられた本実施形態の補強用凹ビードは車体前後方向に向けられた補強用凹ビードと比べて優れている。なお、センターシート部1aの強度上、車体幅方向端部側に凹溝を形成するのは車体前後方向に形成する場合と比べて好ましくない。
【0019】
また、本実施形態では、図5(a)、(b)、(c)に示すように電着液槽110にキャブ101を進入させてから引き上げるときは、キャブ後方が下がるため、補強用凹ビード1a1の下方への傾斜が車体後方へ向けられていることとによって、キャブ101の傾斜と補強用凹ビード1a1の傾斜とが一致して、一層、電着液の排出性が良くなる。
【0020】
また、本実施形態では、センターシート部1aの上面1a2もセンターシート部1aの上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜している。そして、補強用凹ビード1a1の底面とセンターシート部1aの上面1a2とは、センターシート部1aの上面端部において高さが等しくされている。このようにセンターシート部1aの上面端部において、補強用凹ビード1a1の底面とセンターシート部1aの上面1a2の高さを等しくすると、センターシート部1aの上面端部において電着液の液溜まりが発生し難い。仮に、センターシート部1aの上面端部において、補強用凹ビード1a1の底面とセンターシート部1aの上面1a2の高さを等しくしないことにすると、補強用凹ビード1a1の底面と側面とで形成される角部に電着液の液溜まりが発生し易くなる。
【0021】
図3は、図2の断面図の変形例を示している。図3(a)の補強用凹ビード1a1の底面は、図2の平面状の斜面とは異なり湾曲した斜面となっている。より具体的には、図3(a)の補強用凹ビード1a1の底面は、単調減少カーブを描いており、電着液流れ方向下流側に行くに従い、傾斜角度が大きくなる曲線である。このような湾曲した斜面を有する補強用凹ビード1a1であっても図2の補強用凹ビード1a1と同様の作用効果を奏する。
【0022】
また、この湾曲方向が図3(b)に示すように図3(a)と逆の方が好ましい。電着液流れ方向下流側に行くほど、電着液の量は増加する傾向にあるため、下流側が急な勾配でなくても電着液はセンターシート部1aの上面端部から流れ落ちるからである。図3(b)に示す補強用凹ビード1a1であっても図2の補強用凹ビード1a1と同様の作用効果を奏する。
【0023】
その他の変形例としては、図3(c)に示すように、センターシート部1aの上面1a2が単調減少カーブを描く例が挙げられ、この例では、電着液流れ方向下流側に行くに従い、上面1a2の傾斜角度が大きくなっている。図3(c)に示す補強用凹ビード1a1であっても図2の補強用凹ビード1a1と同様の作用効果を奏する。
【0024】
上述した実施形態のキャブフロア構造では、フロアパネル1のセンターシート部1aの強度を向上させるために補強用凹ビード1a1が形成されているが、補強用凹ビード1a1の底面は傾斜面とされ、センターシート部1aに電着液を塗布した後に補強用凹ビード1a1に電着液が残留することが防止される。具体的には補強用凹ビード1a1は、フロアパネル1から電着液が流れ落ちるように、補強用凹ビード1a1の上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜している。すなわち、電着液を塗布した後に多少の電着液がセンターシート部1aの上面に残留しても経時的に電着液がセンターシート部1aの上面から確実に流れ落ちる。
【0025】
また、補強用凹ビード1a1であるため、補強用凸ビードと比べてフロアパネル上面の位置が高くなるのを抑えることができる。また、センターシート部1aは、板金プレス成形品であるため、現行の凸ビードが形成された金型の軽微な修正のみで対応することができる。従って、現行金型の流用が可能であり、コストが低減される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のキャブフロア構造では、フロアパネル上面の位置が高くなるのを抑えながら、電着液をフロアパネル上面から確実に流れ落とすことができる。本発明は、トラックのキャブフロアに適用することができるが、センターシート部に限られることはなく、フロアパネルの全面に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明のキャブフロア構造(H型の凹ビード)の一実施形態を示す説明図である。
【図2】図2は、図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図3は、図2の変形例を示す説明図である。図3(a)は補強用凹ビードの底面が湾曲した例を示している。図3(b)は補強用凹ビードの底面が図3(a)とは反対方向に湾曲した例を示している。図3(c)はセンターシート部の上面が湾曲した例を示している。
【図4】図4は、従来のキャブフロア構造(長尺状の凸ビードが2本)を示す説明図である。
【図5】図5は、フロアパネルへの電着液の塗布方法を示す説明図である。
【図6】図6は、従来のキャブフロア構造(H型の凸ビード)を示す説明図である。
【図7】図7は、電着液の流れ状態を示す説明図である。図7(a)は、補強用凸ビードから電着液が流れ落ちる状態を示しており、図7(b)は、補強用凹ビードに電着液が溜まった状態を示している。
【符号の説明】
【0028】
1 フロアパネル
1a センターシート部
1a1 補強用凹ビード
1a2 上面
1b サイドシート部
100、104 補強用凸ビード
101 キャブ
102 キャブフロア
103 補強用凹ビード
W 電着液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センターシート部と、該センターシート部の両側に設けられるサイドシート部と、を有するフロアパネルと、
該フロアパネルを支持する骨組み部材と、
を有するキャブフロア構造であって、
前記フロアパネルの上面には、該フロアパネルの強度を向上させると共に底面は前記フロアパネルの上面端部に向かって水平方向に対して下方へ傾斜している補強用凹ビードが形成されていることを特徴とするキャブフロア構造。
【請求項2】
前記補強用凹ビードはセンターシート部の上面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のキャブフロア構造。
【請求項3】
前記補強用凹ビードは車体前後方向に沿って配置されたH形状であることを特徴とする請求項1又2に記載のキャブフロア構造。
【請求項4】
前記補強用凹ビードの下方への傾斜は、車体後方へ向けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のキャブフロア構造。
【請求項5】
前記補強用凹ビードの底面と前記センターシート部の上面とは、センターシート部の上面端部において高さが等しくされていることを特徴とする請求項2に記載のキャブフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149619(P2010−149619A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328470(P2008−328470)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】