説明

キャリア治具

【課題】 ダイシングテープの余剰部を刃物により除去する際、成形されたフレームから切削屑が発生して半導体ウェーハを汚染させるのを抑制することができ、しかも、刃物による切削跡に切削屑の付着するおそれの少ないキャリア治具を提供する。
【解決手段】 バックグラインドにより薄片化された半導体ウェーハを収容する中空のフレーム1と、フレーム1の裏面4に貼着され、半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープ10とを備え、フレーム1を、樹脂を含む成形材料により射出成形する。また、フレーム1の裏面4の外周部を切り欠いてカッタ刃回避用の段差部20を平坦に形成する。フレーム1から食み出るダイシングテープ10の不要な余剰部11をカッタ刃31により切断する際、凹んだ段差部20にカッタ刃31の接触することがないので、フレーム1の裏面4をカッタ刃31により切削してしまうことがなく、異物の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハのダイシング工程で使用されるキャリア治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハのダイシング工程では半導体ウェーハを保護・固定するキャリア治具が使用されるが、このキャリア治具は、図示しないが、バックグラインドにより薄片化された半導体ウェーハを収容するフレームと、このフレームの裏面に接着され、バックグラインドされた半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープとを備えて構成され、半導体ウェーハが高速で回転するブレードにより個々のチップに分離される(特許文献1、2参照)。
【0003】
フレームは、例えばSUS等の材料を使用して中空のリングに形成され、300g程度の重量を有している。また、ダイシングテープは、例えば紫外線の照射により硬化したり、接着力が低下するUVテープ等からなり、使用後にフレームの裏面から剥離される。
【0004】
このようなキャリア治具を製造する場合には、ダイシングテープ貼付装置にフレームをセットしてその裏面にダイシングテープを接着し、フレームの裏面外周部から食み出たダイシングテープの余剰部をダイシングテープ貼付装置のカッタ刃により切断して除去すれば、キャリア治具を製造することができる。
【特許文献1】特開2005‐251986号公報
【特許文献2】特開2005‐203540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来におけるキャリア治具は、以上のように構成され、フレームが通信特性に悪影響を及ぼす重いSUS等を使用して製造されているので、半導体ウェーハ収納時のカセットが全体として重く(例えば、約18kg)なり、しかも、近年注目されているRFIDシステムを活用して履歴管理することができないという問題がある。
【0006】
係る問題を解消するには、樹脂を含む成形材料によりフレームを成形すれば良いが、単なる成形では、フレームの裏面外周部から食み出たダイシングテープの余剰部をカッタ刃により切断する際、フレームをもカッタ刃により切削してしまい、切削屑が発生して半導体ウェーハの汚染を招くという大きな問題が新たに生じることとなる。また、使用済みのダイシングテープを剥離する際、カッタ刃による切削跡に切削屑の付着するおそれが少なくない。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたもので、ダイシングテープの余剰部を刃物により除去する際、成形されたフレームから切削屑が発生して半導体ウェーハを汚染させるのを抑制することができ、しかも、刃物による切削跡に切削屑の付着するおそれの少ないキャリア治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては上記課題を解決するため、半導体ウェーハを収容する中空のフレームと、このフレームの裏面に貼り付けられ、半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープとを備え、このダイシングテープの余剰部を刃物により除去するものであって、
フレームを、樹脂を含む成形材料により成形し、フレームの裏面の外周部を切り欠いて刃物回避用の段差部を形成し、この段差部によりダイシングテープの余剰部除去に伴う切削屑の発生を抑制するようにしたことを特徴としている。
【0009】
なお、フレームの裏面における内周部と段差部とに切削屑発生防止層を設け、この切削屑発生防止層の一部にダイシングテープを接着することができる。
また、フレームの段差部に、切削屑用の粘着捕獲層を設けることもできる。
【0010】
また、薄片化された半導体ウェーハを収容する中空のフレームと、このフレームの裏面に貼り付けられ、半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープとを備え、このダイシングテープの余剰部を刃物により除去するものであって、
フレームを、樹脂を含む成形材料により成形し、フレームの裏面の外周部を切り欠いて刃物回避用の段差部を略平坦に形成し、この段差部によりダイシングテープの余剰部除去に伴う切削屑の発生を抑制するようにしたことを特徴としても良い。
【0011】
また、樹脂を含む成形材料により成形された中空のフレームの裏面に、バックグラインドされた半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープを貼り付け、このダイシングテープの余剰部を刃物により除去するキャリア治具の製造方法であって、
フレームの裏面の外周部を切り欠いて刃物回避用の段差部を形成し、この段差部によりダイシングテープの余剰部除去に伴う切削屑の発生を抑制することを特徴としても良い。
【0012】
また、フレームに、RFIDシステムのRFタグを貼り付けることができる。
また、フレームの裏面の内周部と段差部のうち、少なくとも内周部にダイシングテープと貼り付く切削屑発生防止層を設けることができる。
さらに、切削屑発生防止層を金属材料あるいは軟質材料を使用して形成することもできる。
【0013】
ここで、特許請求の範囲におけるフレームは、中空であれば、リング形でも良いし、枠形等でも良い。また、半導体ウェーハは、200mm、300mm、450mmタイプ等を特に問うものではない。ダイシングテープは、PVC系型や紫外線硬化型等の種類を特に問うものではない。さらに、成形材料には、樹脂の他、帯電防止剤等の各種のフィラーを必要に応じて添加することができる。
【0014】
本発明によれば、通信特性に悪影響を及ぼさない樹脂を含む成形材料によりフレームを成形するので、半導体ウェーハ収納時のカセットの軽量化を図ることができ、しかも、RFIDシステムを有効に活用して履歴管理等することができる。また、ダイシングテープの余剰部を刃物により切断する際、フレームの裏面に切り欠かれた段差部が刃物との接触を避けるので、切削屑等からなる異物の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダイシングテープの余剰部を刃物により除去する際、成形されたフレームから切削屑が発生して半導体ウェーハを汚染させるのを抑制することができるという効果がある。また、刃物による切削跡に切削屑の付着するおそれを低減することができる。
また、フレームの段差部に切削屑用の粘着捕獲層を設ければ、段差部に刃物が接触して切削屑を発生させても、粘着捕獲層に切削屑が捕獲されるので、ダイシングテープや半導体ウェーハに切削屑が付着するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態におけるは、図1ないし図5に示すように、薄片化された半導体ウェーハWを収容するフレーム1と、このフレーム1に収容された半導体ウェーハWを粘着保持するダイシングテープ10とを備え、フレーム1の裏面4の一部に、カッタ刃回避用の段差部20を形成するようにしている。
【0017】
半導体ウェーハWは、例えば口径300mm(12インチ)に丸くスライスされ、表面に回路パターンが描画形成されており、半導体パッケージの薄型化に鑑み、前工程のバックグラインドにより750μm程度の厚さから100μm以下の厚さに薄片化される。
【0018】
フレーム1は、図1ないし図5に示すように、所定の樹脂を含む成形材料により半導体ウェーハWよりも大きい中空の平面略リング形に射出成形され、平坦な表面に矩形の収納穴2が凹み形成されており、この収納穴2内に、表面に面一に揃えられるRFIDシステムのRFタグ3が貼着される。
【0019】
所定の樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば機械的強度に優れるPPS、PA、PEI、PAI、PEEK、PES、LCP、PBT等があげられる。この樹脂には、強度や剛性を確保するガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム等のフィラーが必要に応じて配合される。
【0020】
RFIDシステムは、電波により内部メモリがアクセスされ、フレーム1と共に移動するRFタグ3と、このRFタグ3との間で電波や電力を送受信するアンテナユニットと、RFタグ3との交信を制御するリーダ/ライタと、このリーダ/ライタを制御するコンピュータとを備えて構成される。アンテナユニットとリーダ/ライタとは、別々に構成されるが、必要に応じて一体化される。また、リーダ/ライタの制御に支障を来たさなければ、コンピュータの代わりに各種のコントローラが使用される。
【0021】
ダイシングテープ10は、図1、図4、図5に示すように、例えば紫外線の照射により硬化したり、接着力が低下する可撓性のUVテープ等からなり、半導体ウェーハWよりも大きい平面円形の薄膜に形成されてフレーム1の裏面4の内周部に接着されており、フレーム1の中空部に収容された半導体ウェーハWを粘着保持するとともに、使用後にフレーム1から剥離される。
【0022】
段差部20は、図3ないし図5に示すように、フレーム1の裏面4の内周部と外周部のうち、外周部が切削加工やレーザ加工等により厚さ方向に切り欠かれることで平坦に凹み形成され、ダイシングテープ10の切断時に既存のダイシングテープ貼付装置30のカッタ刃31との間に空隙を形成するよう機能する。
【0023】
上記において、キャリア治具を製造する場合には、既存のダイシングテープ貼付装置30に成形されたフレーム1をセットしてその裏面4と段差部20とを上方に向け(図3参照)、この露出した裏面4の内周部に大き目のダイシングテープ10を接着し、その後、裏面4の内周部から食み出るダイシングテープ10の余剰部11をダイシングテープ貼付装置30のカッタ刃31により切断(図4参照)して除去すれば、キャリア治具を製造することができる(図5参照)。カッタ刃31は、フレーム1の裏面内周部に沿って移動するようダイシングテープ貼付装置30に支持されている。
【0024】
上記構成によれば、フレーム1を、重いSUS等を使用して製造するのではなく、絶縁性の樹脂を含む成形材料により薄く軽く射出成形するので、半導体ウェーハW収納時のカセット全体の著しい軽量化(例えば、約13kg)を図ることができ、しかも、RFIDシステムを有効に活用して履歴管理することができる。
【0025】
また、フレーム1から食み出るダイシングテープ10の不要な余剰部11をカッタ刃31により切断する際、凹んだ段差部20にカッタ刃31の接触することがないので、フレーム1の裏面4をカッタ刃31により切削してしまうことがなく、異物の発生を防止することができる。したがって、切削屑が発生して半導体ウェーハWの汚染を招いたり、使用済みのダイシングテープ10を剥離する際、カッタ刃31による切削跡に切削屑の付着するのをきわめて有効に抑制防止することができる。
【0026】
また、薄いフレーム1の裏面4に段差部20を形成する以外、構造的に何ら従来と異なるものではないから、既存のダイシングテープ貼付装置30や後工程装置を改良することなく、そのまま有効利用することが可能になる。さらに、フレーム1の表面にRFIDシステムのRFタグ3を面一の高さに揃えて貼着することができるので、フレーム1の平滑性を維持・向上させることができ、しかも、RFタグ3を貼着したまま繰り返して使用することが可能になる。
【0027】
次に、図6は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、フレーム1の裏面4における内周部と段差部20とに、屈曲した略リング形の切削屑発生防止層40を積層して接着し、この切削屑発生防止層40の一部、換言すれば、フレーム1の裏面内周部に対する切削屑発生防止層40の接着部にダイシングテープ10を接着するようにしている。
【0028】
切削屑発生防止層40は、所定の金属材料あるいは軟質材料を使用して平坦に形成され、フレーム1の裏面4における内周部から段差部20に亘る領域に接着剤を介して接着されており、ダイシングテープ10の対向面周縁部に接着する。この切削屑発生防止層40の所定の金属材料としては、例えばステンレスやチタン等があげられ、所定の軟質材料としては、ショアーA硬度が70Hs以下の軟質塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー等があげられる。
【0029】
上記において、キャリア治具を製造する場合には、ダイシングテープ貼付装置30に成形されたフレーム1をセットしてその段差部20や切削屑発生防止層40を上方に向け、この露出した切削屑発生防止層40の一部に大き目のダイシングテープ10を接着した後、切削屑発生防止層40の一部から食み出るダイシングテープ10の余剰部11をダイシングテープ貼付装置30のカッタ刃31により切断して除去すれば、キャリア治具を製造することができる。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0030】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、フレーム1の裏面4に別体の切削屑発生防止層40を保護用に接着するので、裏面4における内周部と段差部20との間の段差壁21や段差部20にカッタ刃31の接触するのを確実に防止することができるのは明らかである。
【0031】
次に、図7は本発明の第3の実施形態を示すもので、この場合には、フレーム1の段差部20上に、切削屑用の平坦な粘着捕獲層41を平面略リング形に接着するようにしている。
粘着捕獲層41は、ウレタン系やポリオレフィン系の自己粘着層が使用されたり、アクリル系やシリコーン系の粘着剤が塗布乾燥することにより形成されたり、あるいはウレタン系やシリコーン系のゲル状粘着層が使用される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0032】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、ダイシングテープ10の余剰部切断時に、凹んだ段差部20にカッタ刃31が接触して切削屑を発生させても、粘着捕獲層41に切削屑が粘着捕獲され、拡散しないので、ダイシングテープ10や半導体ウェーハWに切削屑が移行するのを簡易な構成で防止することができるのは明らかである。
【0033】
なお、上記実施形態ではフレーム1の裏面4に切削屑発生防止層40を接着したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、フレーム1と切削屑発生防止層40とをインサート成形により一体化し、製造の簡素化を図るようにしても良い。また、ダイシングテープ貼付装置30は、自動でも半自動でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るキャリア治具の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係るキャリア治具の実施形態におけるフレームを模式的に示す裏面図である。
【図3】本発明に係るキャリア治具の実施形態におけるフレームを模式的に示す断面説明図である。
【図4】図3のフレームの裏面にダイシングテープを貼着してその余剰部をカッタ刃により切断する状態を模式的に示す断面説明図である。
【図5】図4のダイシングテープの余剰部を除去した状態を模式的に示す断面説明図である。
【図6】本発明に係るキャリア治具の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図7】本発明に係るキャリア治具の第3の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 フレーム
2 収納穴
3 RFタグ
4 裏面
10 ダイシングテープ
11 余剰部
20 段差部
21 段差壁
30 ダイシングテープ貼付装置
31 カッタ刃(刃物)
40 切削屑発生防止層
41 粘着捕獲層
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハを収容する中空のフレームと、このフレームの裏面に貼り付けられ、半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープとを備え、このダイシングテープの余剰部を刃物により除去するキャリア治具であって、
フレームを、樹脂を含む成形材料により成形し、フレームの裏面の外周部を切り欠いて刃物回避用の段差部を形成し、この段差部によりダイシングテープの余剰部除去に伴う切削屑の発生を抑制するようにしたことを特徴とするキャリア治具。
【請求項2】
フレームの裏面における内周部と段差部とに切削屑発生防止層を設け、この切削屑発生防止層の一部にダイシングテープを接着した請求項1記載のキャリア治具。
【請求項3】
フレームの段差部に、切削屑用の粘着捕獲層を設けた請求項1記載のキャリア治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−335706(P2007−335706A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167063(P2006−167063)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】