説明

キャリア濃度測定装置およびキャリア濃度測定方法

【課題】無機化合物半導体のキャリア濃度を非破壊で簡易に測定する。
【解決手段】非破壊キャリア濃度測定装置100は、テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率と、キャリア濃度との相関関係を記憶する記憶部101と、試料となる無機化合物半導体にテラヘルツ光105を照射する光照射部103と、照射されたテラヘルツ光105に対する無機化合物半導体の反射光108を検出する検出部109と、照射されたテラヘルツ光105と反射光108とを対比して無機化合物半導体の反射率の実測値を算出する反射率算出部111と、記憶された相関関係を参照し、反射率の実測値に対応する試料のキャリア濃度を読み取る読取部113と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物をドープした無機化合物半導体のキャリア濃度を測定するキャリア濃度測定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機化合物はTOフォノン周波数(横光学フォノン周波数)からLOフォノン周波数(縦光学フォノン周波数)の帯域で誘電率が負になることから、高反射することが知られている。(非特許文献1、2)
【0003】
テラヘルツ光による反射測定装置でキャリア濃度を求める方法は、特許文献1に記載されている。これは測定材料にテラヘルツ光を照射した状態で、磁場を加えるとホール効果による電場が生じる。この電場を観測することでホール係数を測定し、キャリア濃度を求める方法である。テラヘルツ光源に、フェムト秒レーザーを用いたテラヘルツ波発生装置を用いている。生じる電場の応答時間は数ピコ秒であり、周波数が0.5〜2.0THzのテラヘルツ光を発振する。
【0004】
テラヘルツ光による透過率測定から半導体材料の物性情報を検査する方法が特許文献2に記載されている。これは透過測定を行い、半導体の吸収損失から、物性情報を同定する方法である。
【特許文献1】特開2005−315708号公報
【特許文献2】特開2002−5828号公報
【非特許文献1】K.A.Maslin,C.Patel and T.J.Parker、"Far−Infrared Optical Constants of a selection of Zincblende Structure Crystals at 300K."Infrared Physics、Vol.32(1991)、P.303−310
【非特許文献2】「Charles.Kittel 固体物理学入門」上巻、第7版、宇野良清、津屋昇、森田章、山下次郎訳(丸善株式会社、1998)、P.321−328
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0006】
特許文献1に記載の方法では、テラヘルツ波照射と同時に、磁場を与える機構を設ける必要があり装置が高価で大型になる。また、数ピコ秒の電場を捉えるためには特殊な回路を必要とする。さらにテラヘルツ波の発振する周波数が0.5〜2THzの範囲で限定される。
【0007】
特許文献2に記載の透過測定では、反射損失と吸収損失の両方を含んだ情報のため、反射損失を見積もる必要があり、物性情報の算出工程は複雑になる。実際に測定した窒化ガリウム(GaN)の透過測定と反射測定結果を図12に示す。図12のグラフの横軸は周波数[THz]、左縦軸は透過率、右縦軸は反射率を示す。透過率データが0〜0.2の範囲で推移するのに対して、反射率データは0から1まで推移する。したがって、吸収損失を測定するためには、透過と反射の測定をしなければいけないことを示している。しかも、吸収損失を測定するためには、厚み、表面状態を揃える必要があるため、破壊検査である。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するために、無機化合物半導体のキャリア濃度を非破壊で簡易に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、不純物をドープした無機化合物半導体のキャリア濃度を測定するキャリア濃度測定装置であって、
テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率と、キャリア濃度との相関関係を記憶する記憶部と、
試料となる無機化合物半導体にテラヘルツ光を照射する光照射部と、
照射されたテラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射光を検出する検出部と、
照射されたテラヘルツ光の強度に対する反射光の強度の比率を求めることにより、無機化合物半導体の反射率の実測値を算出する反射率算出部と、
を有し、
記憶された相関関係を参照し、反射率の実測値に対応する試料のキャリア濃度を読み取る読取部と、
を有することを特徴とするキャリア濃度測定装置
が提供される。
【0010】
この発明によれば、無機化合物半導体のテラヘルツ光に対する反射率と、キャリア濃度との相関関係を記憶するため、テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率を実測することにより、試料のキャリア濃度を取得することができる。したがって、無機化合物半導体のキャリア濃度を非破壊で簡易に測定することができる。
【0011】
また、本発明によれば、不純物をドープした無機化合物半導体のキャリア濃度を測定するキャリア濃度測定方法であって、
テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率と、キャリア濃度との相関関係を取得するステップと、
試料となる無機化合物半導体にテラヘルツ光を照射するステップと、
照射されたテラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射光を検出する検出部と、
照射されたテラヘルツ光の強度に対する反射光の強度の比率を求めることにより、無機化合物半導体の反射率の実測値を算出するステップと、
を含み、
記憶された相関関係を参照し、算出された反射率の実測値に対応する試料のキャリア濃度を読み取るステップと、
含むことを特徴とするキャリア濃度測定方法
が提供される。
【0012】
本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要もなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でよい。
【0013】
また、本発明のキャリア測定方法には複数の工程を順番に記載してあるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番を限定するものではない。このため、本発明のキャリア測定方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障しない範囲で変更することができる。
【0014】
さらに、本発明のキャリア測定方法の複数の工程は個々に相違するタイミングで実行されることに限定されない。このため、ある工程の実行中に他の工程が発生すること、ある工程の実行タイミングと他の工程の実行タイミングとの一部ないし全部が重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機化合物半導体のキャリア濃度を非破壊で容易に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施の形態は、不純物をドープした無機化合物半導体のキャリア濃度を測定するキャリア濃度測定装置である。図1は、本実施形態の非破壊キャリア濃度測定装置100を模式的を示すブロック図である。
【0017】
本実施の形態の非破壊キャリア濃度測定装置100は、テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率と、キャリア濃度との相関関係を記憶する記憶部101と、試料となる無機化合物半導体にテラヘルツ光105を照射する光照射部103と、照射されたテラヘルツ光105に対する無機化合物半導体の反射光108を検出する検出部109と、照射されたテラヘルツ光105および反射光108に基づいて、無機化合物半導体の反射率の実測値を算出する反射率算出部111と、記憶された相関関係を参照し、反射率の実測値に対応する試料のキャリア濃度を読み取る読取部113と、を有する。
【0018】
また、非破壊キャリア濃度測定装置100は、試料設置部107を備える。試料設置部107は、試料となる無機化合物半導体を設置する。
【0019】
無機化合物半導体には、GaN、SiC、GaAs、GaAlN(窒化アルミニウムガリウム)、GaP、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、AlGaP、AlGaAs、AlGaSb、GaInN、GaInP、GaInAs、GaInSb、AlInN、AlInP、AlInAs、AlInSb等を用いてもよい。
【0020】
無機化合物半導体にドープする不純物(添加物)には、たとえば、n型(ドナー)として珪素、窒素またはリン等を用いることができる。
【0021】
記憶部101で記憶される反射率とキャリア濃度の相関関係は、誘電率を介して、式(1)〜式(4)で表される。各パラメーターを表1に示す。下記式(1)〜(4)を用いて反射率の計算を行うことができる。非特許文献3から式を引用している。自由電子のプラズマ振動数ωは式2から求まり、キャリア濃度Nを含んでいる。式(2)から求めたプラズマ振動数ωを式1に代入し、誘電率εを求める。求めた誘電率εは式(3)で表され、誘電率のルート(√ε)の実数部が屈折率n、虚数部が消衰係数κである。式(4)から屈折率nと消衰係数κを用いて反射率Rを求める。したがって、キャリア濃度Nが変化すると、反射率Rが変化する。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
【数3】

【0025】
【数4】

【0026】
【表1】

【0027】
(非特許文献3)R.T.Holm,J.W.Gibson and E.D.Palik"Infrared reflectance studies of bulk and epitaxial−film n−type GaAs."Journal of Applied Physics,Vol.48(1977)P.212‐223
【0028】
以上のように、相関関係を表す反射率は、式(1)〜(4)に基づき、キャリア濃度から無機化合物半導体の誘電率を算出し、算出された誘電率から予測反射率を算出し、算出された予測反射率と、キャリア濃度との相関関係を求めることができる。求めた予測反射率と、キャリア濃度との相関関係は記憶部101に記憶する。
【0029】
光照射部103は、Nd:YAGレーザーの第二高調波(波長:532nm)を、KTP結晶を使用した光パラメトリック発振器に入射し、1.3μm帯の二波長を発振させ、その二波長をDAST結晶(4−dimethylamino−N−methyl−4−stilabazolium−tosylate)に入射して1.5〜40THzのテラヘルツ帯域の光波を照射する。なお、試料となる無機化合物半導体にテラヘルツ光を照射することができれば、DAST結晶の変わりに他の結晶を使用しても差し支えない。また、フェムト秒レーザーを使用して発振したテラヘルツ帯域の光波を使用しても差し支えない。光照射部103は、照射した光の波長、光量、試料に対する入射角等の情報を記憶部101に記憶する。
【0030】
検出部109は、検出した反射光の入射角を反射率算出部111に送出する。検出部109は、DTGS(Deuterated Triglycine Sulfate)検出器を用いることができる。
【0031】
反射率算出部111は、検出部109が検出した反射光の入射角、光量等の情報が検出部109受け付ける。記憶部101に記憶された照射光の情報と、受け付けた反射光の情報とから反射率の実測値を算出することができる。算出された反射率は、読取部113に送出する。また、算出された反射率は、記憶部101に記憶してもよいし、出力してもよい。
【0032】
反射率は、以下のように測定することができる。まず、試料設置部107に参照板(例えば、金ミラー)を置く。照射光が金ミラーで反射した光を照射光強度と定義する。次に、試料設置部107に化合物半導体を置く。照射光が化合物半導体で反射した光を反射光強度と定義する。反射光強度を照射光強度で割った値を反射率として測定する。
【0033】
読取部113は、記憶部101を参照し、記憶された相関関係に基づいて、反射率算出部111から受け付けた反射率からキャリア濃度を取得する。読取部113は、取得されたキャリア濃度を出力することができる。
【0034】
また、式(1)〜(4)を用いて、テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率がキャリア濃度に依存して変化する測定帯域のテラヘルツ光に対する反射率(測定反射率)を求める。また、テラヘルツ光に対する無機化合物半導体の反射率がキャリア濃度に依存して変化しない参照帯域のテラヘルツ光に対する反射率(参照反射率)を求める。こうすることにより、測定反射率と、参照反射率とを対比して予測反射率比を算出することができる。算出された予測反射率比と、キャリア濃度との相関関係は、記憶部101に記憶することができる。
【0035】
光照射部103は、測定帯域のテラヘルツ光および参照帯域のテラヘルツ光を試料にそれぞれ照射する。反射率算出部111は、測定帯域のテラヘルツ光を照射したとき算出された反射率と、参照帯域のテラヘルツ光を照射したとき算出された反射率と、を対比して、反射率比の実測値を算出する。読取部113は、記憶部101に記憶された反射率比と、キャリア濃度との相関関係を参照し、算出された反射率比の実測値に対応するキャリア濃度を読み取ることができる。
【0036】
参照帯域はTOフォノン周波数とLOフォノン周波数の間の高反射帯域とすることができる。
【0037】
以下、図面を参照して本実施形態に係わる非破壊キャリア濃度測定装置の構成についてさらに具体的に説明する。
【0038】
図2は、非破壊キャリア濃度測定装置の構成図の一例を示す。テラヘルツ光発振装置として、非特許文献4に記載のDAST結晶11を用いた光パラメトリック発振器3を用いている。光パラメトリック発振器3の励起光2にはNd:YAGレーザー1の第二高調波(波長:532nm)を用いている。励起光2を光パラメトリック発振器3に入射する。光パラメトリック発振器3内は、反射鏡4と透過鏡5で構成する一台の共振器内に結晶角度が僅かに異なるKTP結晶(KTiOPO結晶)が2個設置されている。KTP結晶6とKTP結晶7から異なる1.3μm帯の二波長9を発振させることができる。1.3μm帯の二波長9を反射鏡8と反射鏡10で反射させ、DAST結晶11に入射すると非線形光学効果により1.5THz以上47THz以下のテラヘルツ光12(図2ではテラヘルツ波)を取り出すことができる。発振したテラヘルツ光12を反射鏡13で反射させ、無機化合物半導体14に照射する。無機化合物半導体14で反射したテラヘルツ光12を反射鏡15で反射し、DTGS検出器16(図2では、DTGS)で受光する。
【0039】
(非特許文献4)H.Ito, K. Suizu, T. Yamashita, A. Nawahara and T. Sato, "Random Frequency Accessible Broad Tunable Terahertz−Wave Source Using Phase−Matched 4−Dimethylamino−N−methyl−4−stilbazolium Tosylate Crystal,"Jpnanese Journal Applied Physics Vol.46 (2007) p.7321−7324
【0040】
つづいて、図1の装置を用いたGaNのキャリア濃度の測定方法について説明する。まず、式(1)〜式(4)を用いて無機化合物半導体のテラヘルツ光に対する反射率と、キャリア濃度との相関関係を求める。図3は、計算から導いたGaNの周波数に対する反射率の関係を示す図である。図3で示すグラフの横軸は周波数[THz]、縦軸は反射率を示す。また、図3のグラフにはキャリア濃度1.0×1016、1.0×1018および5.0×1018[atom/cm]のGaNについての計算結果が示されている。反射率17THz以上20THz以下の帯域でキャリア濃度の変化によらず全反射する。また、1THz以上16THz以下の帯域で、キャリア濃度の変化に応じて反射率が変化する。21THz以上23THz以下においても、キャリア濃度の変化により、反射率が変動している。したがって、17THz以上20THz以下の帯域を参照帯域とし、1THz以上16THz以下または21THz以上23THz以下の帯域を測定帯域とすることができる。図4は、計算から導いたGaNの反射率とキャリア濃度の関係を示す。
【0041】
図4で示すグラフの横軸は反射率、縦軸はキャリア濃度[atoms/cm]を示す。具体的には、図4の反射率は、参照帯域のテラヘルツ光に対する反射率を1として、他の帯域のテラヘルツ光に対する反射率を求める。記憶部101は、図4で表される相関関係を示すデータを記憶する。
【0042】
つづいて、キャリア濃度が未知のGaNの試料を用意し、試料設置部107に設置する。光照射部103は、参照帯域として高反射帯域の17THz以上20THz以下のテラヘルツ光を一光波、測定帯域としてキャリア濃度に応じて反射率が変化する1THz以上16THz以下、または、21THz以上23THz以下のテラヘルツ波を一光波、計二光波を試料にそれぞれ照射する。
【0043】
検出部109は、照射された参照帯域のテラヘルツ光に対する試料の反射光を検出する。また、検出部109は、照射された測定帯域のテラヘルツ光に対する試料の反射光を検出する。
【0044】
反射率算出部111は、照射された参照帯域のテラヘルツ光と検出された反射光とを対比して、参照反射率を算出する。また、反射率算出部111は、照射された測定帯域のテラヘルツ光と検出された反射光とを対比して、測定反射率を算出する。反射率算出部111は、測定反射率と参照反射率とを対比して反射率の実測値を算出する。
【0045】
読取部113は、記憶部101に記憶された図4で示す相関関係図を参照し、算出された反射率の実測値に対応する試料のキャリア濃度を縦軸から読み取る。このようにして、試料のキャリア濃度を測定することができる。
【0046】
つづいて、本実施の形態の効果について説明する。本発明者等は鋭意研究した結果、不純物をドープした無機化合物半導体はテラヘルツ波の反射率とキャリア濃度の間に相関関係があり、二光波でキャリア濃度を算出できることを見出した。これにより、非破壊で無機化合物半導体のキャリア濃度を測定することができる。
【0047】
本実施の形態のキャリア濃度測定装置によれば、計算上、活性イオンとして働く自由電子をキャリアとして扱う。自由電子をキャリアと定義し、計算からキャリア濃度を求めることができる。計算から導かれるキャリア濃度はSIMSおよびホール測定と一致している。したがって、キャリア濃度を測定することができる。
【0048】
また、本実施の形態の装置を用いた非破壊キャリア濃度測定法によれば、GaNを試料としたとき、参照帯域として高反射帯域の17THz以上20THz以下のテラヘルツ光を一光波、測定帯域としてキャリア濃度に応じて反射率が変化する1THz以上16THz以下、または、21THz以上23THz以下のテラヘルツ波を一光波、計二光波による反射率測定を行う方法であり、キャリア濃度を非破壊で短時間に測定することが可能となる。
【0049】
たとえば、ホール測定では、ハンダを温めて、電極を付けて、四端子を電極に合わせて、接触測定を行う。電極を付けるために、試料となる無機化合物半導体を平面に加工する必要がある。測定後で試料を製品として使用する場合は電極を除去し、再加工が必要となる。
【0050】
一方、本実施の形態のキャリア濃度測定装置では、ウエハーホルダーに乗せて、測定するのみである。平坦に加工する必要はなく、as grownの状態で測定することができる。したがって、前準備として加工する時間は必要ない。そして、二つのテラヘルツ光を用いるだけでキャリア濃度を測定することができる。測定時間は数秒から数十秒と推測される。したがって、短時間でキャリア濃度を測定することができる。また、非接触測定であるため、測定後は試料を製品として出荷することが可能となる。
【0051】
(実施例1)
図2で示すキャリア測定装置を用いてGaNのキャリア濃度を測定した。無機化合物半導体であるGaNのキャリア濃度測定を行った。用いた試料の平面形状は、正方形で10mm角以上15mm角以下、厚さ1.0mm以上2.0mm以下である。キャリア濃度は二次イオン質量分析(SIMS)測定から2.7×1016[atms/cm]、1.2×1018[atms/cm]、2.2×1018[atms/cm]の試料を用いた。試料は測定面に加工、研磨等を施していないas−grown結晶である。
【0052】
図5は、GaNの周波数に対する反射率測定結果を示す図である。図5で示すグラフの横軸は周波数[THz]、縦軸は反射率を示す。また、図5のグラフにはキャリア濃度2.7×1016、1.2×1018および2.2×1018[atom/cm]のGaNについての測定結果が示されている。1THz以上16THz以下でキャリア濃度により反射率が異なっている。17THz以上20THzでは高反射している。また、21THz以上23THz以下においても、反射率の変化が確認される。
【0053】
図6は、GaNの反射率とキャリア濃度の計算値と測定値を示す図である。図6で示すグラフの横軸は反射率、縦軸はキャリア濃度[atoms/cm]を示す。図6には、高反射である帯域からテラヘルツ波を一光波、キャリア濃度により変化する帯域からテラヘルツ光を一光波、計二光波の反射率の対比から求めた反射率に対するキャリア濃度の計算値とSIMS測定値が示される。図6から、測定した反射率から求めたキャリア濃度とSIMS測定によるキャリア濃度が一致している。二つの波長のテラヘルツ光を用いるだけで、キャリア濃度を算出できることが示される。
【0054】
(実施例2)
図2で示すキャリア測定装置を用いてSiC(炭化珪素)のキャリア濃度を測定した。用いた試料の平面形状は、正方形で10mm角以上15mm角以下、厚さ0.2mm以上〜0.7mm以下のas−grown結晶である。キャリア濃度はホール測定から2.7×1017[atms/cm]、4.2×1018[atms/cm]の試料を用いた。
【0055】
図7は、SiCの周波数に対する反射率測定結果を示す。図7で示すグラフの横軸は周波数[THz]、縦軸は反射率を示す。また、図7のグラフにはキャリア濃度2.8×1017および3.3×1018[atom/cm]のSiCについての測定結果が示されている。25THz以上27THz以下で高反射である。1THz以上24THz以下、および、28THz以上30THz以下において、キャリア濃度の違いによる反射率の変動が見られる。
【0056】
図8は、SiCの反射率とキャリア濃度の計算値と測定値を示す。図8で示すグラフの横軸は反射率、縦軸はキャリア濃度[atoms/cm]を示す。図8には、高反射である帯域からテラヘルツ波を一光波、キャリア濃度により変化する帯域からテラヘルツ光を一光波、計二光波の反射率の対比から求めた反射率に対するキャリア濃度の計算値とホール測定値が示される。測定した反射率から求めたキャリア濃度とホール測定によるキャリア濃度が一致している。
【0057】
(実施例3)
図2で示すキャリア測定装置を用いてGaAsのキャリア濃度を測定した。用いた試料の平面形状は、正方形で10mm角以上15mm角以下、厚さ0.3mm以上1.0mm以下でas−grown結晶である。キャリア濃度はホール測定から3.2×1015[atms/cm]、4.0×1017[atms/cm]の試料を用いた。
【0058】
図9は、GaAsの周波数に対する反射率測定結果を示す。図9で示すグラフの横軸は周波数[THz]、縦軸は反射率を示す。また、図9のグラフにはキャリア濃度3.2×1015および4.0×1017[atom/cm]のGaAsについての計算結果が示されている。8.2THz以上8.5THz以下で高反射である。8.6THz以上8.8THz以下においてキャリア濃度の違いによる反射率の変動が見られる。
【0059】
図10は、GaAsの反射率とキャリア濃度の計算値と測定値を示す。図10で示すグラフの横軸は反射率、縦軸はキャリア濃度[atoms/cm]を示す。図10には、高反射である帯域からテラヘルツ波を一光波、キャリア濃度により変化する帯域からテラヘルツ光を一光波、計二光波の反射率の対比から求めた反射率に対するキャリア濃度の計算値とホール測定値が示される。測定した反射率から求めたキャリア濃度とホール測定によるキャリア濃度が一致している。
【0060】
(実施例4)
図2で示すキャリア測定装置を用いてAlGaNのキャリア濃度を測定した。用いた試料の平面形状は、正方形で10mm角以上15mm角以下、厚さ5μmである。図11は、AlGaNの周波数に対する反射率測定結果を示す。図11で示すグラフの横軸は周波数[THz]、縦軸は反射率を示す。図11で示すように、AlGaNにおいても、反射率の変動が見られるため、キャリア濃度の異なる試料の反射測定からキャリア濃度を算出できると考えられる。
【0061】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0062】
以上、本発明の構成について説明したが、本発明は、これに限られず様々な態様を含む。以下はその例示である。
(1)キャリア濃度に依存せず反射率が一定である参照帯域、および、キャリア濃度に依存して反射率が変化する測定帯域の二つの波長のテラヘルツ光を無機化合物半導体に照射し、両光波の反射率の対比により無機化合物半導体のキャリア濃度を測定することを特徴とする無機化合物半導体のキャリア濃度測定方法。
(2)参照帯域はTOフォノン周波数とLOフォノン周波数の間の高反射帯域であることを特徴とする(1)に記載の無機化合物半導体のキャリア濃度測定方法。
(3)無機化合物半導体が窒化ガリウム(GaN)であり、参照帯域が17〜20THz、測定帯域が1〜16THzまたは21〜23THzであることを特徴とする(1)または(2)に記載の無機化合物半導体のキャリア濃度測定方法。
(4)無機化合物半導体が炭化珪素(SiC)であり、使用する参照帯域が25〜27THz、測定帯域が28〜30THzであることを特徴とする(1)または(2)に記載の無機化合物半導体のキャリア濃度測定方法。
(5)無機化合物半導体が砒化ガリウム(GaAs)であり、使用する参照帯域が8.2〜8.5THz、測定帯域が8.6〜8.8THzであることを特徴とする(1)または(2)に記載の無機化合物半導体のキャリア濃度測定方法。
(6)キャリア濃度に依存せず反射率が一定である参照帯域、および、キャリア濃度に依存して反射率が変化する測定帯域の二つの波長のテラヘルツ光を無機化合物半導体に照射し、両光波の反射率の対比により無機化合物半導体のキャリア濃度を測定することを特徴とする無機化合物半導体のキャリア濃度測定装置。
(7)テラヘルツ帯域の光波を発生させる結晶にDAST結晶を使用することを特徴とする(6)に記載の無機化合物半導体のキャリア濃度測定装置。
【0063】
上記に例示した態様によれば、キャリア濃度に依存せず反射率が一定である参照帯域、および、キャリア濃度に依存して反射率が変化する測定帯域の二つの波長のテラヘルツ光を無機化合物半導体に照射し、両光波の反射率の対比により無機化合物半導体のキャリア濃度を非破壊で短時間に算出することができる。
【0064】
また、本発明によれば、GaP、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、においても、キャリア濃度に依存せず反射率が一定である参照帯域、および、キャリア濃度に依存して反射率が変化する測定帯域の二つの波長のテラヘルツ光を無機化合物半導体に照射し、両光波の反射率の対比によりキャリア濃度を算出することができる。
【0065】
また、本発明によれば、AlGaP、AlGaAs、AlGaSb、GaInN、GaInP、GaInAs、GaInSb、AlInN、AlInP、AlInAs、AlInSb、においても、キャリア濃度に依存せず反射率が一定である参照帯域、および、キャリア濃度に依存して反射率が変化する測定帯域の二つの波長のテラヘルツ光を無機化合物半導体に照射し、両光波の反射率の対比によりキャリア濃度を算出することができる。
【0066】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態の非破壊キャリア測定装置を模式的に示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の一形態を示す非破壊キャリア測定装置の構成図である。
【図3】計算から導いたGaNの周波数に対する反射率の関係を示す図である。
【図4】計算から導いたGaNの反射率とキャリア濃度の関係を示す図である。
【図5】GaNの周波数に対する反射率測定結果を示す図である。
【図6】GaNの反射率とキャリア濃度の計算値および測定値を示す図である。
【図7】SiCの周波数に対する反射率測定結果を示す図である。
【図8】SiCの反射率とキャリア濃度の計算値および測定値を示す図である。
【図9】GaAsの周波数に対する反射率測定結果を示す図である。
【図10】GaAsの反射率とキャリア濃度の計算値および測定値を示す図である。
【図11】AlGaNの周波数に対する反射率測定結果を示す図である。
【図12】GaNの透過率と反射率測定結果とを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 Nd:YAGレーザー
2 励起光
3 光パラメトリック発振器
4 反射鏡
5 透過鏡
6 KTP結晶
7 KTP結晶
8 反射鏡
9 1.3μm二波長
10 反射鏡
11 DAST結晶
12 テラヘルツ光
13 反射鏡
14 無機化合物半導体
15 反射鏡
16 DTGS検出器
100 非破壊キャリア濃度測定装置
101 記憶部
103 光照射部
105 テラヘルツ光
107 試料設置部
108 反射光
109 検出部
111 反射率算出部
113 読取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物をドープした無機化合物半導体のキャリア濃度を測定するキャリア濃度測定装置であって、
テラヘルツ光に対する前記無機化合物半導体の反射率と、前記キャリア濃度との相関関係を記憶する記憶部と、
試料となる前記無機化合物半導体にテラヘルツ光を照射する光照射部と、
照射された前記テラヘルツ光に対する前記無機化合物半導体の反射光を検出する検出部と、
照射された前記テラヘルツ光の強度に対する前記反射光の強度の比率を求めることにより、前記無機化合物半導体の反射率の実測値を算出する反射率算出部と、
記憶された前記相関関係を参照し、前記反射率の実測値に対応する前記試料のキャリア濃度を読み取る読取部と、
を有することを特徴とするキャリア濃度測定装置。
【請求項2】
前記キャリア濃度から前記無機化合物半導体の誘電率を算出し、算出された前記誘電率から予測反射率を算出し、算出された前記予測反射率と、前記キャリア濃度との相関関係を前記記憶部に記憶することを特徴とする請求項1に記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項3】
前記無機化合物半導体が窒化ガリウム、炭化珪素及び砒化ガリウムのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項4】
前記光照射部は、DAST結晶を備えることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項5】
前記テラヘルツ光に対する前記無機化合物半導体の反射率が前記キャリア濃度に依存して変化する測定帯域のテラヘルツ光に対する前記反射率を測定反射率とし、前記テラヘルツ光に対する前記無機化合物半導体の前記反射率が前記キャリア濃度に依存して変化しない参照帯域のテラヘルツ光に対する前記反射率を参照反射率とし、前記測定反射率と、前記参照反射率とを対比して予測反射率比を算出し、算出された前記予測反射率比と、前記キャリア濃度との相関関係を前記記憶部に記憶することを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項6】
前記光照射部は、前記測定帯域のテラヘルツ光および前記参照帯域のテラヘルツ光を前記試料にそれぞれ照射し、
前記反射率算出部は、前記測定帯域のテラヘルツ光を照射したとき算出された前記反射率と、前記参照帯域のテラヘルツ光を照射したとき算出された前記反射率と、を対比して、反射率比の実測値を算出し、
前記読取部は、記憶された前記反射率比と、前記キャリア濃度との前記相関関係を参照し、算出された前記反射率比の実測値に対応する前記キャリア濃度を読み取ることを特徴とする請求項5に記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項7】
前記参照帯域はTOフォノン周波数とLOフォノン周波数との間の高反射帯域であることを特徴とする請求項5または6に記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項8】
前記無機化合物半導体が窒化ガリウムであり、
前記測定帯域が1THz以上16THz以下または21THz以上23THz以下であり、
前記参照帯域が17THz以上20THz以下であることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項9】
前記無機化合物半導体が炭化珪素であり、
前記測定帯域が28THz以上30THz以下であり、
前記参照帯域が25THz以上27THz以下であることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項10】
前記無機化合物半導体が砒化ガリウムであり、
前記測定帯域が8.6THz以上8.8THz以下であり、
前記参照帯域が8.2THz以上8.5THz以下であることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載のキャリア濃度測定装置。
【請求項11】
不純物をドープした無機化合物半導体のキャリア濃度を測定するキャリア濃度測定方法であって、
テラヘルツ光に対する前記無機化合物半導体の反射率と、前記キャリア濃度との相関関係を取得するステップと、
試料となる前記無機化合物半導体にテラヘルツ光を照射するステップと、
照射された前記テラヘルツ光に対する前記無機化合物半導体の反射光を検出する検出部と、
照射された前記テラヘルツ光の強度に対する前記反射光の強度の比率を求めることにより、前記無機化合物半導体の反射率の実測値を算出するステップと、
記憶された前記相関関係を参照し、算出された前記反射率の実測値に対応する前記試料のキャリア濃度を読み取るステップと、
を含むことを特徴とするキャリア濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−145223(P2009−145223A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323395(P2007−323395)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】