キャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法
【課題】構成する有機分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法の提供。
【解決手段】キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm[Å3]、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
【解決手段】キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm[Å3]、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化に伴い、フラットパネルディスプレイのニーズが高まっている。フラットパネルディスプレイとしては、非自発光型の液晶ディスプレイ(LCD)、自発光型のプラズマディスプレイ(PDP)、無機エレクトロルミネセンス(無機EL)ディスプレイ、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)ディスプレイ等が知られているが、これらの中でも、有機ELディスプレイは、自発光の点で特に注目されている。
【0003】
有機EL素子としては、1960年代にアントラセン単結晶などの有機固体でのキャリア注入型EL素子が詳しく研究されていた。これら素子は単層型のものであったが、その後、Tang等により正孔注入電極と電子注入電極の間に発光層と正孔輸送層を有する積層型有機EL素子が提案されている。これら注入型有機EL素子の発光メカニズムは、(i)陰極からの電子注入と陽極からの正孔注入、(ii)電子と正孔の固体中の移動、(iii)電子と正孔の再結合、(iv)生成された一重項励起子からの発光、という段階を経由する点で共通している。
【0004】
有機EL素子のキャリア輸送層としては、例えば、導電性液晶分子を用いたものが知られている。例えば、「Nature,Vol.371,p.141,D.Adam et al」には、長鎖トリフェニレン系化合物である、ディスコティック液晶の液晶相(Dh相)のキャリア移動度が10−3〜10−2cm2/Vsecであり、メゾフェーズ(中間相、液晶相ではない)でのキャリア移動度が10−1cm2/Vsecであることが報告されている。さらに、棒状液晶分子においても、「応用物理、第68巻、第1号、p.26,半那純一」によると、フェニルナフタレン系のスメクチックB相におけるキャリア移動度が10−3cm2/Vsec以上であることが報告されている。
【0005】
従来の有機EL素子は、厚さが100nm程度の薄膜層に、100MV/cm程度の高電圧を印加するため、電極間ショートが起こり易いという問題点があった。高電圧を印加する理由は、有機層のキャリア移動度が小さいためであり、キャリア移動度が大きい有機層を形成できれば印加電圧を低減できる。現在の一般的な有機EL素子のキャリア輸送層の移動度は、10−5〜10−3cm2/Vsecであり、非晶質(アモルファス)材料でも10−3cm2/Vsec程度が限界といわれている。そこで、キャリア移動度が大きい導電性液晶分子を用いた新しいキャリア輸送層の開発が期待されている。これまでに、キャリア移動度が大きい導電性液晶分子としては、例えば、ディスコティック液晶分子や秩序度が高いスメクチック液晶分子が知られている。
【0006】
一方、有機薄膜の形成時には、有機分子の配向を制御することが重要である。有機EL素子において、キャリア輸送層の形成に導電性液晶分子を用いることにより、配向性が制御された有機薄膜を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)が、有機非晶質薄膜を形成する方法は開示されておらず、得られる有機EL素子の特性も不十分であるという問題点があった。
これに対して、近年は、π電子共役有機分子であるスチリル系化合物を蒸着させることで有機薄膜を形成した場合、前記化合物は基材表面に対して水平方向(平行)の配向が優先することが報告されている(非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−167887号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Organic Electronics 10(2009)127−137
【非特許文献2】Applied Physics Letters 93(2008)173302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非特許文献1及び2には、分子の配向方向を制御する具体的な因子、水平配向が優先することによるキャリア輸送特性の変化、水平配向が優先することを利用した具体的な有機半導体素子については何ら開示されていない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、構成する有機分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm[Å3]、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、非経験的分子軌道計算法により導出した最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が、前記有機分子間において基材表面に対して垂直方向に重なることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が直線状に並んだ構造を有し、前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が面状に並んだ構造を有し、前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記有機分子において、前記Tgが60℃以上であり、分子量が400〜2500であることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記基材の温度を、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]以下とすることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法で、複数層のキャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造することを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構成する有機分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、(c)は分子構造とLUMOの分布を、それぞれ示す。
【図2】本発明に係る製造方法の適用に好適な有機EL素子の要部を例示する概略断面図である。
【図3】図1に示す有機EL素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図4】N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、それぞれ示す。
【図5】4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、それぞれ示す。
【図6】2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とLUMOの分布を、それぞれ示す。
【図7】N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、それぞれ示す。
【図8】図2に示す有機EL素子を備えた表示装置の一実施形態の要部を例示する概略図であり、(a)は平面図、(b)は1画素の等価回路図、(c)は1画素の平面図である。
【図9】実施例1及び2における素子の要部を例示する概略断面図である。
【図10】(a)実施例1及び(b)比較例1における有機薄膜の屈折率n及び消衰係数kを示すグラフである。
【図11】実施例1及び比較例1の素子におけるMADN膜の電流−電圧特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<キャリア輸送性有機非晶質薄膜及びその製造方法>
本発明に係るキャリア輸送性有機非晶質薄膜(以下、単に「有機薄膜」又は「薄膜」と略記することがある)の製造方法は、キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm(Å3)、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とする。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
ここで「キャリア」とは、正孔又は電子を意味する。また、本発明において「非晶質」とは、結晶性を有していないこと、すなわち、分子の高次構造において規則性が無いことを指す。
前記製造方法によって、基材の温度だけでなく、蒸着させる有機分子の蒸着速度も同時に調節することによって、従来よりも精密に配向性が制御された非晶質の有機薄膜が得られる。
【0015】
本発明に係る製造方法を適用できる蒸着法としては、抵抗加熱蒸着法、電子線(EB)蒸着法、分子線エピタキシー(MBE)法、スパッタリング法、有機気相蒸着(OVPD)法等のドライプロセス;レーザー転写法等が例示できる。
【0016】
前記基材としては、各種素子で使用されるガラス製等の基板、該基板上にこれとは異なる無機薄膜又は有機薄膜が形成されたものが例示でき、目的に応じて適宜選択できる。前記無機薄膜又は有機薄膜としては、電極層、半導体層等の各種機能層が例示でき、例えば、後述するように、本発明に係る製造方法で形成された有機薄膜を最上層に備えたものを基材として用いてもよい。また、前記基材の形状も、プレート状をはじめ、目的に応じて任意に選択できる。
【0017】
一般的に、蒸着による薄膜の形成過程では、飛来した分子が基材表面上で運動しながら別の飛来分子と合体して核を形成し、その核に次々と分子が取り込まれて核成長し、場合によっては近傍で成長する別の核と合体しながら薄膜が形成される。その際、蒸着速度が所定の値よりも速くなると、飛来した分子が基板上で十分に運動しないうちに、別の飛来分子と合体して薄膜が形成される。このようにして形成される薄膜における分子の配向は等方的になるので、膜密度は蒸着速度が速くなるにしたがって低くなると予想される。
一方、基材温度が高いほど分子の熱運動のエネルギーは大きくなり、特定の時間内に基材上で配置を変える頻度は高くなる。したがって、基材温度が高いほど、分子はよりエネルギー的に安定な配置を取る機会が多くなり、特定の配向をとり易くなり、非晶質の場合でもより結晶に近い密度になると予想される。
そこで、蒸着速度と基材温度を適切に調整することにより、分子の配向が制御された有機薄膜を形成できると考えられ、このような観点から、本発明は完成されたものである。
【0018】
蒸着速度R[Å/sec]で有機薄膜が形成される場合には、有機分子(有機化合物)が基材表面上で運動できる時間を見積もると、以下のようになる。すなわち、形成される有機薄膜の密度から算出される有機分子1個あたりの体積をVm[Å3]とし、平均的に有機分子が一辺(Vm)1/3[Å]の立方体に1個存在すると考えると、蒸着速度R[Å/sec]で有機薄膜が形成されているとき、1分子層が形成される時間は(Vm)1/3/R[sec]となり、基材上の1cm2の領域に1秒あたりに飛来する分子数は、R×1016/Vm[個]となるので、有機分子が基材上で運動できる時間は、Vm/R×1016[sec]となる。
これに対して、有機分子が基材上で配置を変える頻度は、有機分子が基材上で配置を変えるための活性化エネルギーをQD、有機分子が基材上のある特定の位置にとどまっているときの振動数をν、基材温度をT、ボルツマン定数をkBとすると、
νexp(−QD/kBT)
となる。したがって、有機分子が基材上で配置を変える時間は、
(1/ν)exp(QD/kBT)
となる。
そこで、蒸着速度R[Å/sec]で決まる、有機分子が基材上で運動できる時間Vm/R×1016[sec]に対して、有機分子が基材上で配置を変える時間(1/ν)exp(QD/kBT)が十分長くなるように基材温度T[℃]を設定することにより、配向性が制御された有機薄膜を形成できると考えられる。
【0019】
そこで、有機薄膜を形成するときの有機分子の蒸着速度R[Å/sec]と基材温度T[℃]の条件を変えて、これらと、形成される有機薄膜の配向性との関係を詳細に調べたところ、有機薄膜を形成する有機分子のガラス転移点をTg[K]、有機薄膜の膜密度から算出される有機分子の一分子あたりの体積をVm(Å3)、有機分子の蒸着速度をR[Å/sec]としたときに、基材温度T[℃]が、上記の温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である場合に、配向性が制御された非晶質の有機薄膜を形成できることが明らかとなった。
本発明においては、このように基材温度を調節することで、有機薄膜の配向性が制御されるので、有機分子としてキャリア輸送性のπ電子共役有機分子を用いることで、有機薄膜のキャリア移動度(キャリア輸送性)が向上し、例えば、かかる薄膜を用いた有機EL素子は、印加電圧を低減でき、駆動電圧を低電圧化できる。
【0020】
本発明においては、前記基材の温度を、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]以下とすることが好ましい。このようにすることで、配向性がより制御された有機薄膜を形成できる。
【0021】
ここで、「有機薄膜の配向性が制御される」とは、例えば、非経験的分子軌道計算法により導出した最高占有分子軌道(HOMO)又は最低非占有分子軌道(LUMO)が、有機薄膜を構成する前記有機分子間において、基材表面に対して垂直方向に重なるように、前記有機分子が基材上で配置されることを意味する。
非経験的分子軌道計算法としては、米国Gaussian社製のGaussianシリーズ、Schrodinger社製のMarcoModel、Wavefunction社製のSpartan、アドバンスソフト社製のABINIT−MP/BioStation等の汎用の量子化学計算ソフトを用いた計算法が例示でき、なかでも、Gaussian09(Gaussian09W、Gaussian09M)が好適である。
【0022】
Gaussian09Wを用いてπ電子共役有機分子のHOMO又はLUMOの分布を計算する場合、まず、チェックポイントファイルを指定し、分子モデルの初期座標、計算方法と基底関数、電荷とスピン多重度をそれぞれ入力してインプットファイルを作成し、計算を実行することにより、最適構造化を行い、π電子共役有機分子の安定構造を計算する。次いで、得られた安定構造に対して分子軌道を表示することにより、π電子共役有機分子のHOMO又はLUMOの分布を可視化することができる。
なお、インプットファイルの作成及び実行の際の計算方法としては、Hartree−Fock法、密度汎関数(DFT)法、MP(Moller Plesset perturbation theory)法、CC(Coupled Cluster theory)法が選択できるが、本明細書におけるGaussian09Wを用いた計算では、DFT法を採用している。また、Gaussian09Wを用いた場合、安定構造の計算と同時に、HOMO及びLUMOも計算されており、GaussianViewによりHOMO及びLUMOの分布を可視化している。
【0023】
ここで、例えば、キャリア輸送性を示す有機材料として注目されている2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)の分子構造を以下に示す。
【0024】
【化1】
【0025】
MADNはアントラセン骨格の9位及び10位にナフタレン骨格が結合した構造を有する。MADNについて、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)により求めたMADNの安定構造を図1(a)に示す。また、この安定構造に対して、HOMOの分布を可視化したものを図1(b)に、LUMOの分布を可視化したものを図1(c)に、それぞれ分子構造と共に示す。
【0026】
図1に示すように、MADNのHOMO及びLUMOは、アントラセン骨格に主に存在し、ナフタレン骨格にはほとんど存在しない。
本発明によれば、有機薄膜を構成するMADN分子間において、MADNのHOMO又はLUMOが基材表面に対して垂直方向に重なる。これは、HOMO及びLUMOが主に分布しているアントラセン骨格のπ電子共役面が、基材表面に対して実質的に平行に配向することによる。ここで、「π電子共役面が基材表面に対して実質的に平行に配向する」とは、π電子共役面が基材表面に完全に平行な場合だけでなく、π電子共役面と基材表面とがなす角度が45°未満となるように、アントラセン骨格が配向することを示す。MADNはキャリア輸送性であるが、このように、MADNの配向が制御されることで、後述するように有機EL素子の一対の電極間に配置された有機薄膜の構成材料としてMADNを適用した場合には、かかるMADN膜が電荷輸送層及び正孔輸送層のいずれであっても、MADN膜のキャリア輸送性が向上し、有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0027】
このように、キャリア移動に関与する分子軌道(π電子共役有機分子が正孔輸送性の場合にはHOMO、電子輸送性の場合はLUMO)が主に分布するπ電子共役面が、基材表面に対して実質的に平行となることにより、キャリア移動に関与するπ電子の軌道の重なりが大きくなり、キャリア移動度が高くなる。
なお、π電子共役有機分子には、複数のπ電子共役面に満遍なくHOMO又はLUMOが分布している場合もある。この場合には、最も面積が大きいπ電子共役面を基材表面に対して実質的に平行に配向させることが好ましく、これにより、キャリア輸送性をより向上させることができる。
【0028】
ここでは、MADNについて説明したが、本発明においてはMADN以外のπ電子共役有機分子についても同様に配向を制御でき、HOMO又はLUMOが主に分布している(HOMO又はLUMOの分布が多い)骨格のπ電子共役面を、基材表面に対して実質的に平行に配向させることができる。
【0029】
本発明において好ましいπ電子共役有機分子としては、ベンゼン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、フェナントロリン骨格、ベンゾフラン骨格、ベンゾジフラン骨格、トリアジン骨格、イミダゾール骨格、ベンゾイミダゾール骨格、トリアゾール骨格、ピリジン骨格、オキサジアゾール骨格、カルバゾール骨格等のπ電子共役面を有するものが例示できる。
【0030】
従来の有機薄膜では、分子間においてπ電子共役面のπ電子の軌道が重なるものについては開示されているが、本発明により得られる有機薄膜では、π電子の軌道の中でも、HOMO又はLUMOが重なっており、これは本発明により初めて開示される構成であり、これにより、キャリア移動度が顕著に向上する。
【0031】
π電子共役有機分子としては、HOMO又はLUMOが直線状に並んだ構造を有するものが例示できる。ここで、「HOMO又はLUMOが直線状に並んだ構造」とは、HOMO又はLUMOを有するπ電子共役面が、基材表面に沿って直線を描くように配列した構造を意味する。
このような構造を有する場合、前記有機分子が電子輸送性の場合には、LUMOの前記直線方向(LUMOの配列方向)に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。そして、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、HOMOの前記直線方向(HOMOの配列方向)に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。これにより、有機薄膜のキャリア移動度がより向上する。
【0032】
また、π電子共役有機分子としては、HOMO又はLUMOが面状に並んだ構造を有するものが例示できる。ここで、「HOMO又はLUMOが面状に並んだ構造」とは、HOMO又はLUMOを有するπ電子共役面が、二つ以上の方向に伸びて基材表面に沿って面を描くように配列した構造を意味する。
このような構造を有する場合、前記有機分子が電子輸送性の場合には、LUMOの前記面内(LUMOの配列面内)に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。そして、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、HOMOの前記面内(HOMOの配列面内)に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。これにより、有機薄膜のキャリア移動度がより向上する。
【0033】
前記配向パラメータSは、基材上に形成された薄膜中の分子の配向方向を定量化する値であり(「Applied Physics Letters,93,2008,173302」参照)、薄膜の消衰係数kに依存し、下記式(B)で表される。
S=3/2cos2θ−1/2=(kz−kxy)/(kz+2kxy) ・・・・(B)
(式中、θは分子の配向軸と、基材表面に対して垂直な方向との為す角度(°)であり、kxyは基材表面と平行な方向の薄膜の消衰係数であり、kzは基材表面に対して垂直な方向の薄膜の消衰係数である。)
ここで、x及びyを、互いに直交し且つ光学的に等方的な二つの方向とし、これらの方向の消衰係数をkx及びkyとすると、kxy=kx=kyである。
薄膜が光学的異方性を有していない場合のSは0であり、薄膜中の分子の配向方向が基材表面に対して完全に水平方向(平行)である場合のSは−0.5である。消衰係数kは、分光エリプソメーターによる測定値から算出される。したがって、配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることは、有機薄膜中で、基材表面に対して水平方向(平行)に配向している有機分子の割合が高いことを示す。
【0034】
本発明において、前記有機分子は、明確な融点を示さず、ガラス転移点Tgが60℃以上であるものが好ましい。また、前記有機分子は、分子量が400〜2500であるものが好ましい。
【0035】
本発明においては、基材として、薄膜が形成されたものを用い、その最上層の薄膜上に有機薄膜を形成することができる。この場合には、基材中の少なくとも最上層の薄膜の温度を、新たに形成しようとする有機薄膜に関するTg、Vm及びRから前記式(A)で算出されるTA以上で、且つ1.15Tg以下である温度に調節すればよい。そして、新たに有機薄膜を形成しようとする前記最上層の薄膜は、有機薄膜及び無機薄膜のいずれでもよく、有機薄膜の場合、本発明に係る製造方法で形成されたものでもよい。このように、本発明においては、基材上に前記方法で複数層の有機薄膜を形成することもできる。
【0036】
前記有機薄膜は、非晶質であっても有機分子の配向が制御され、キャリア移動度に優れるので、有機EL素子への適用に好適なものである。
【0037】
本発明に係る製造方法は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「EL」と略記する)素子等、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を備えた各種素子の製造への適用に特に好適である。以下、前記素子として有機EL素子について説明する。
【0038】
図2は、本実施形態に係る有機EL素子の要部を例示する概略断面図である。
ここに示す有機EL素子1は、基材11上に、第一電極12、有機EL層13及び第二電極14がこの順に積層され、概略構成されている。すなわち、有機EL素子1は、基材11上に、第一電極12及び第二電極14からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された有機EL層13と、を備えたものである。
【0039】
基材11としては、ガラス基板が例示できる。
基材11の厚さは、0.4〜1.1mmであることが好ましい。
【0040】
第一電極12及び第二電極14は、陽極又は陰極として機能するものである。
陰極の材質としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;アルミニウム;銅;ケイ素;二種以上のこれら金属からなる合金;一種以上のこれら金属を含む合金以外の化合物等が例示できる。なかでも、安定性が良好な点から、リチウム、セシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ナトリウムカリウム合金、セシウム化合物、マグネシウム合金、バリウム化合物、アルミニウムリチウム合金、アルミニウム銅合金、アルミニウム銅シリコン合金が好ましい。また、これら以外でも、好ましいものとしてフッ素化合物が例示できる。
陰極は、二種以上の材質からなる層が積層された複数層のものでもよく、この時の層数は特に限定されない。複数層の陰極で好ましいものとしては、カルシウム層及びアルミニウム層が積層されたものが例示できる。
【0041】
陽極の材質としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO(登録商標))、酸化インジウム、酸化スズ、カドミウムスタネート(Cd2SnO4)、酸化亜鉛、ヨウ化銅、金、白金等が例示できる。
【0042】
第一電極12及び第二電極14の膜厚は、それぞれ50〜200nmであることが好ましい。
【0043】
有機EL層13は、陽極である第一電極12側から、陰極である第二電極14側へかけて、正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fがこの順に積層され、概略構成されている。
正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fは、それぞれ単層構造及び多層構造のいずれであってもよい。
【0044】
正孔注入層13aは、正孔の第一電極12からの注入を効率よく行うものである。
正孔輸送層13bは、正孔の発光層13cへの輸送を効率よく行うものである。
電子輸送層13eは、電子の発光層13cへの輸送を効率よく行うものである。
電子注入層13fは、電子の第二電極14からの注入を効率よく行うものである。
これらは、キャリア注入輸送層に該当する。
【0045】
有機EL層13において、正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fのうちの少なくとも一層は、上記本発明の非晶質薄膜の製造方法で形成された有機薄膜であり、すべての層が該有機薄膜であってもよい。そして、有機EL層13において、該有機薄膜ではない層は、公知の方法で形成されたものであり、上記本発明の非晶質薄膜の製造方法以外の方法で形成された有機薄膜であってもよいし、無機薄膜であってもよい。
【0046】
正孔注入層13a及び正孔輸送層13bの材質は、公知のものでよく、好ましいものとしては、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物や無機p型半導体材料;ポルフィリン化合物、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)、4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA、Tg151℃)、N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP、Tg55℃)、4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)、2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)、N1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)、N3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)、4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)、2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)等の芳香族第三級アミン化合物;ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチリルアミン化合物等の低分子含窒素化合物;ポリアニリン(PANI)、ポリアニリン−樟脳スルホン酸(PANI−CSA)、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン)誘導体(Poly−TPD)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)(PNV)等の高分子化合物;2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN、Tg120℃)等の芳香族炭化水素化合物等が例示できる。なお、ここで「Tg」とはガラス転移点であり、これは以降において例示する有機分子でも同様である。
【0047】
正孔注入層13aの材質としては、陽極からの正孔の注入及び輸送をより効率よく行う観点から、正孔輸送層13bの材質よりも、HOMOのエネルギー準位が低い材質が好ましい。そして、正孔輸送層13bの材質としては、正孔注入層13aの材質よりも、正孔の移動度が高いものが好ましい。
【0048】
正孔注入層13a及び正孔輸送層13bは、任意に添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。
そして、正孔の注入性及び輸送性をより向上させるためには、正孔注入層13a及び正孔輸送層13bは、アクセプターを含むことが好ましい。
【0049】
前記アクセプターは、公知のものでよく、無機材料及び有機材料のいずれでもよい。
前記無機材料の好ましいものとしては、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オキシ塩化リン(POCl3)、六フッ化ヒ酸イオン(AsF6−)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等が例示できる。
前記有機材料の好ましいものとしては、7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(TCNQF4)、テトラシアノエチレン(TCNE)、ヘキサシアノブタジエン(HCNB)、ジシクロジシアノベンゾキノン(DDQ)等のシアノ基を有する化合物;トリニトロフルオレノン(TNF)、ジニトロフルオレノン(DNF)等のニトロ基を有する化合物;フルオラニル;クロラニル;ブロマニル等が例示できる。
【0050】
前記アクセプターは、これらのなかでも、正孔濃度を増加させる効果がより高いことから、シアノ基を有する化合物が好ましい。
【0051】
正孔注入層13aの膜厚は、1〜500nmであることが好ましい。
正孔輸送層13bの膜厚は、5〜500nmであることが好ましい。
【0052】
発光層(有機発光層)13cの材質は、公知のものでよく、有機発光材料のみでもよいし、発光性のドーパントとホスト材料との組み合わせでもよく、さらに任意に正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。また、上記の各材料が高分子材料(結着用樹脂)又は無機材料中に分散されていてもよい。発光効率及び耐久性の観点からは、発光層13cの材質としては、ホスト材料中に発光性のドーパントが分散されたものが好ましい。
【0053】
前記有機発光材料は、低分子発光材料及び高分子発光材料等に分類でき、蛍光材料又は燐光材料等に分類されるものでもよい。
【0054】
発光層(有機発光層)13cに用いる低分子有機材料(ホスト材料を含む)の好ましいものとしては、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデン化合物;5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物;3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体;1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物;チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料;アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光発光有機金属錯体;BeBq(ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体);4,4’−ビス−(2,2−ジ−p−トリル−ビニル)−ビフェニル(DTVBi);トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオノ)(モノフェナントロリン)Eu(III)(Eu(DBM)3(Phen));ジフェニルエチレン誘導体;トリス[4−(9−フェニルフルオレン−9−イル)フェニル]アミン(TFTPA、Tg186℃)等のトリフェニルアミン誘導体;ジアミノカルバゾール誘導体;ビススチリル誘導体;芳香族ジアミン誘導体;キナクリドン系化合物;ペリレン系化合物;クマリン系化合物;ジスチリルアリーレン誘導体(DPVBi);オリゴチオフェン誘導体(BMA−3T);4,4’−ジ(トリフェニルシリル)−ビフェニル(BSB、Tg100℃)、ジフェニル−ジ(o−トリル)シラン(UGH1、Tg26℃)、1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH3、Tg46℃)、トリフェニル−(4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル)シラン(TPSi−F、Tg100℃)等のシラン誘導体;9,9−ジ(4−ジカルバゾール−ベンジル)フルオレン(CPF)、3,6−ビス(トリフェニルシリル)カルバゾール(mCP)、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP、Tg62℃)、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−2,2’−ジメチルビフェニル(CDBP、Tg111℃)、N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP、Tg55℃)、3−(ジフェニルホスホリル)−9−フェニル−9H−カルバゾール(PPO1、Tg74℃)、3,6−ジ(9−カルバゾリル)−9−(2−エチルヘキシル)カルバゾール(TCz1、Tg88℃)、9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP、Tg101℃)、ビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)、3−(ジフェニルホスホリル)−9−(4−ジフェニルホスホリル)フェニル)−9H−カルバゾール(PPO21、Tg111℃)、2,2−ビス(4−カルバゾリルフェニル)−1,1−ビフェニル(4CzPBP、Tg120℃)、3,6−ビス(ジフェニルホスホリル)−9−フェニル−9H−カルバゾール(PPO2、Tg123℃)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi、Tg131℃)、3,6−ビス[(3,5−ジフェニル)フェニル]−9−フェニル−カルバゾール(CzTP、Tg135℃)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ジトリチル−9H−カルバゾール(CzC、Tg167℃)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(9−(4−メトキシフェニル)−9H−フルオレン−9−イル)−9H−カルバゾール(DFC、Tg180℃)、2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)、9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)等のカルバゾール誘導体;4−(ジフェニルフォスフォイル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)等のアニリン誘導体;1,3−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(mDPFB)、1,4−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(pDPFB)、2,7−ビス(カルバゾール−9−イル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−CBP、Tg131℃)、2−[9,9−ジ(4−メチルフェニル)−フルオレン−2−イル]−9,9−ジ(4−メチルフェニル)フルオレン(BDAF、Tg153℃)、2−(9,9−スピロビフルオレン−2−イル)−9,9−スピロビフルオレン(BSBF、Tg176℃)、9,9−ビス[4−(ピレニル)フェニル]−9H−フルオレン(BPPF、Tg177℃)、2,2’−ジピレニル−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−Pye、Tg189℃)、2,7−ジピレニル−9,9−スピロビフルオレン(2,2’−Spiro−Pye、Tg186℃)、2,7−ビス[9,9−ジ(4−メチルフェニル)−フルオレン−2−イル]−9,9−ジ(4−メチルフェニル)フルオレン(TDAF、Tg201℃)、2,7−ビス(9,9−スピロビフルオレン−2−イル)−9,9−スピロビフルオレン(TSBF、Tg231℃)、9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)等のフルオレン誘導体;1,3−ジ(ピレン−1−イル)ベンゼン(m−Bpye、Tg97℃)等のピレン誘導体;プロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)等のベンゾエート誘導体;4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)、2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)等のフォスフィンオキサイド誘導体;4,4”−ジ(トリフェニルシリル)−p−ターフェニル(BST、Tg113℃)等のターフェニル誘導体;2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)等トリアジン誘導体が例示できる。
【0055】
発光層(有機発光層)13cに用いる高分子有機材料の好ましいものとしては、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体;ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)等のポリスピロ誘導体;ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK、Tg200℃)等のポリカルバゾール誘導体等が例示できる。
【0056】
前記有機発光材料は、低分子発光材料が好ましく、低消費電力化の観点から、発光効率が高い燐光材料が好ましい。
【0057】
前記発光性のドーパントの材質のうち、紫外発光材料であれば、p−クォーターフェニル、3,5,3,5テトラ−tert−ブチルセクシフェニル、3,5,3,5テトラ−tert−ブチル−p−クィンクフェニル等の蛍光発光材料等が例示できる。また、青色発光材料であれば、スチリル誘導体等の蛍光発光材料;ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2’]ピコリネート イリジウム(III)(FIrpic)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルポリジナト)テトラキス(1−ピラゾイル)ボレート イリジウム(III)(FIr6)等の、また、緑色発光材料であれば、トリス(2−フェニルピリジナート)イリジウム(Ir(ppy)3)等の燐光発光有機金属錯体等が例示できる。
【0058】
発光層13cの膜厚は、5〜500nmであることが好ましい。
【0059】
正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fの材質は、公知のものでよく、好ましいものとしては、低分子材料であれば、n型半導体である無機材料;1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゼン(Bpy−OXD、Tg102℃)、1,3−ビス(5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−1,3,4−オキサジアゾールー2−イル)ベンゼン(OXD7)等のオキサジアゾール誘導体;3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体;チオピラジンジオキシド誘導体;ベンゾキノン誘導体;ナフトキノン誘導体;アントラキノン誘導体;ジフェノキノン誘導体;フルオレノン誘導体;ベンゾジフラン誘導体;8−ヒドロキシキノリノラート−リチウム(Liq、Tg130℃)等のキノリン誘導体;2,7−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]−9,9−ジメチルフルオレン(Bpy−FOXD、Tg134℃)等のフルオレン誘導体;1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TmPyPB、Tg79℃)、1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TpPyPB、Tg80℃)等のベンゼン誘導体;2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリイル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンゾイミダゾール)(TPBI、Tg122℃)等のベンゾイミダゾール誘導体;3,5−ジ(ピレン−1−イル)ピリジン(PY1、Tg107℃)等のピリジン誘導体;3,3’,5,5’−テトラ[(m−ピリジル)−フェン−3−イル]ビフェニル(BP4mPy、Tg107℃)等のビフェニル誘導体;4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等のフェナントロリン誘導体;トリス(2,4,6−トリメチル−3−(ピリジン−3−イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)等のトリフェニルボラン誘導体;ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)等のテトラフェニルシラン誘導体が例示できる。また、高分子材料であれば、ポリ(オキサジアゾール)(Poly−OXZ)、ポリスチレン誘導体(PSS)等が例示できる。特に、電子注入層13fの材質としては、フッ化リチウム(LiF)、フッ化バリウム(BaF2)等のフッ化物;酸化リチウム(Li2O)等の酸化物等が例示できる。
【0060】
電子注入層13fの材質としては、陰極からの電子の注入及び輸送をより効率よく行う観点から、電子輸送層13eの材質よりも、LUMOのエネルギー準位が高い材質が好ましい。そして、電子輸送層13eの材質としては、電子注入層13fの材質よりも、電子の移動度が高いものが好ましい。
【0061】
電子輸送層13e及び電子注入層13fは、任意に添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。
そして、電子の輸送及び注入性をより向上させるためには、電子輸送層13e及び電子注入層13fは、ドナーを含むことが好ましい。
【0062】
前記ドナーは、公知のものでよく、無機材料及び有機材料のいずれでもよい。
前記無機材料の好ましいものとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;希土類元素;アルミニウム(Al);銀(Ag);銅(Cu);インジウム(In)等が例示できる。
前記有機材料の好ましいものとしては、芳香族3級アミン骨格を有する化合物、フェナントレン、ピレン、ペリレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等の置換基を有していてもよい縮合多環化合物、テトラチアフルバレン(TTF)類、ジベンゾフラン、フェノチアジン、カルバゾール等が例示できる。
【0063】
前記芳香族3級アミン骨格を有する化合物としては、アニリン類;フェニレンジアミン類;N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン等のベンジジン類;トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン等のトリフェニルアミン類;N,N’−ジ−(4−メチル−フェニル)−N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミンのトリフェニルジアミン類が例示できる。
【0064】
前記縮合多環化合物が「置換基を有する」とは、前記縮合多環化合物中の一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基(置換基)で置換されていることを指し、前記置換基の数は特に限定されず、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。そして、置換基の位置も特に限定されない。
前記置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数6〜15のアリールオキシ基、水酸基、ハロゲン原子等が例示できる。
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基が例示できる。
また、環状のアルキル基は、単環状及び多環状のいずれでも良く、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基が例示できる。
前記アルコキシ基としては、前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
前記アルケニル基としては、炭素数が2〜10の前記アルキル基において、炭素原子間の一つの単結合(C−C)が二重結合(C=C)に置換されたものが例示できる。
前記アルケニルオキシ基としては、前記アルケニル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、環員数は特に限定されず、好ましいものとしては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が例示できる。
前記アリールオキシ基としては、前記アリール基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0065】
前記ドナーは、これらのなかでも、電子濃度を増加させる効果がより高いことから、芳香族3級アミン骨格を有する化合物、置換基を有していてもよい縮合多環化合物、アルカリ金属が好ましい。
【0066】
電子輸送層13eの膜厚は、5〜500nmであることが好ましい。
また、電子注入層13fの膜厚は、0.1〜100nmであることが好ましい。
【0067】
有機EL素子1は、例えば、以下の方法で製造できる。図3は、有機EL素子1の製造方法を説明するための概略断面図である。
まず、図3(a)に示すように、基材11上に、スパッタリング法、真空蒸着法等により第一電極12を形成する。
【0068】
次いで、図3(b)に示すように、第一電極12上に、正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fをこの順に積層し、有機EL層13を形成する。この時、有機EL層13(正孔注入層13a〜電子注入層13f)のうちの少なくとも一層を、上記本発明の非晶質薄膜の製造方法で形成する。そして、本発明の製造方法で形成する層は、正孔注入層13a〜電子注入層13fのすべての層でもよい。また、本発明の製造方法で形成しない層は、例えば、真空蒸着法等で形成する。
【0069】
次いで、図3(c)に示すように、有機EL層13上に、真空蒸着法等により第二電極14を形成する。
上記工程を行うことで、図2に示す有機EL素子1が得られる。
【0070】
本発明に係る製造方法を適用する有機EL素子は、図2に示すものに限定されず、有機EL層13が少なくとも発光層を備えていればよく、発光層のみを備えたもの、又は発光層とキャリア輸送層とを備えたもの等、有機EL素子1の構成の一部が変更されたものでもよい。例えば、有機EL層13の構成を以下のようにしたものが挙げられる。
(1)発光層のみの有機EL層。
(2)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔輸送層及び発光層がこの順に積層された有機EL層。
(3)第一電極12側から第二電極14側へかけて、発光層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(4)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(5)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(6)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に積層された有機EL層。
(7)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔防止層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(8)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔防止層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に積層された有機EL層。
(9)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、電子防止層、発光層、正孔防止層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に積層された有機EL層。
【0071】
前記電子防止層は、有機EL用として公知のものでよく、単層構造及び多層構造のいずれであってもよく、有機薄膜及び無機薄膜のいずれでもよい。
【0072】
上記のような有機EL素子1以外の有機EL素子も、少なくとも一層の有機薄膜を本発明に係る製造方法で形成することで、有機EL素子1と同様に製造できる。
【0073】
なお、ここまで、有機EL層を構成する各層の材質(材料)について説明したが、例えば、ホスト材料は正孔輸送材料又は電子輸送材料としても使用でき、正孔輸送材料及び電子輸送材料もホスト材料として使用できる。
【0074】
前記有機EL素子は、これを構成する有機薄膜が非晶質であっても、有機薄膜を構成する分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いので、高電圧を印加する必要が無く、消費電力が少なく、信頼性及び耐久性にも優れる。前記有機EL素子は、例えば、電極間ショートが防止され、従来その防止策としてとられていた有機薄膜の多層化や厚膜化等の手段も不要なので、簡便に且つ低コストで製造できる。
【0075】
以下、本発明に係る製造方法で有機薄膜を形成するのに好適な、MADN以外のπ電子共役有機分子の具体的構造を例示する。ただし、π電子共役有機分子はここに例示するものに限定されるものではない。
【0076】
下記N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)について、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めた安定構造を図4(a)に、分子構造と前記計算法で求めたHOMOの分布を図4(b)に、それぞれ示す。
α−NPDは、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、正孔輸送に関与するHOMOが中央付近のビフェニル骨格に主に分布しており、ナフタレン骨格におけるHOMOは僅かである。したがって、α−NPDを正孔輸送層又は正孔注入層の形成に用いる場合には、ナフタレン骨格ではなくビフェニル骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、α−NPDを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0077】
【化2】
【0078】
下記4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)について、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めた安定構造を図5(a)に、分子構造と前記計算法で求めたHOMOの分布を図5(b)に、それぞれ示す。
正孔輸送性のTCTAは、正孔輸送に関与するHOMOが分子全体に分布しているが、カルバゾール骨格に最も面積の広いπ電子共役面を有するので、少なくともいずれかのカルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TCTAを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0079】
【化3】
【0080】
下記2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)について、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めた安定構造を図6(a)に、分子構造と前記計算法で求めLUMOの分布を図6(b)に、それぞれ示す。
BCPは、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、電子輸送に関与するLUMOがフェナントロリン骨格に主に分布している。したがって、BCPを電子輸送層又は電子注入層の形成に用いる場合には、フェナントロリン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BCPを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0081】
【化4】
【0082】
下記N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP)の安定構造を図7(a)に、分子構造とHOMOの分布を図7(b)に、それぞれ示す。
m−CPは、正孔輸送層、正孔注入層又は発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、正孔輸送に関与するHOMOが、カルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、m−CPを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0083】
【化5】
【0084】
以下、同様に、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めたHOMO及び/又はLUMOの分布と、分子の配向について説明する。
【0085】
下記4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有し、各π電子共役面は6角形状又は円状になり、正孔輸送に関与するHOMOが、シクロヘキサン骨格に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、前記ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TAPCを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0086】
【化6】
【0087】
下記2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有し、正孔輸送に関与するHOMOがジフェニルアミン骨格に主に分布している。したがって、ジフェニルアミン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DPASを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0088】
【化7】
【0089】
下記N1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は同一平面状にはなく、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有する。そして、HOMOが、窒素原子で挟まれた四つのベンゼン骨格(一つのビフェニレン基を構成する二つのフェニレン基、該フェニレン基に該当しない二つのフェニレン基)に広がっている。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DNTPDを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0090】
【化8】
【0091】
下記N3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は同一平面状にはなく、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有する。そして、HOMOが、窒素原子に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BTPDを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0092】
【化9】
【0093】
下記4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有する。そして、正孔輸送に関与するHOMOが、窒素原子に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DTASiを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0094】
【化10】
【0095】
下記2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々の互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、正孔輸送に関与するHOMOがカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、Ad−Czを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0096】
【化11】
【0097】
下記4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々のπ電子共役面有し、全てのπ電子共役面が互いに平行ではない。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CBPを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、窒素原子で挟まれたビフェニル骨格に主に分布している。したがって、前記ビフェニル骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CBPを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0098】
【化12】
【0099】
下記ジフェニル−ジ(o−トリル)シラン(UGH1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOは、メチル基を有するベンゼン骨格(o−トリル基)に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、UGH1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、メチル基を有していないベンゼン骨格(フェニル基)に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、UGH1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0100】
【化13】
【0101】
下記1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMO及びLUMOは、ケイ素原子で挟まれたベンゼン骨格に主に分布している。したがって、前記ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、UGH2を配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0102】
【化14】
【0103】
下記9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCPを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、中央付近のベンゼン骨格(一つのトリフェニルシリル基、二つのカルバゾリル基がそれぞれ結合しているベンゼン骨格)に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCPを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0104】
【化15】
【0105】
下記ビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCP2を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、ケイ素原子及び窒素原子が共に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCP2を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0106】
【化16】
【0107】
下記9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、正孔輸送に関与するHOMOが、リン原子に結合していない方のフルオレン骨格に主に分布している。したがって、このフルオレン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SPPO1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、電子輸送に関与するLUMOは、リン原子に結合している方のフルオレン骨格に主に分布している。したがって、このフルオレン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SPPO1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0108】
【化17】
【0109】
下記プロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOは、酸素原子に結合したベンゼン骨格に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、MMA1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、末端のベンゼン骨格(カルボニル基に結合しているベンゼン骨格)に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、MMA1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0110】
【化18】
【0111】
下記9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、カルバゾール骨格、その他のベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMO及びLUMOがカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CzSiを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0112】
【化19】
【0113】
下記4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、中央付近の二つのベンゼン骨格(ビフェニレン基を構成する二つのベンゼン骨格)が同一平面上にあり、一つのπ電子共役面を有し、その他のベンゼン骨格のπ電子共役面とは互いに平行でない。そして、HOMO及びLUMOが前記二つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これら二つのベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、PO1を配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0114】
【化20】
【0115】
下記2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、両末端側のカルバゾール骨格と中央付近の四つのベンゼン骨格は同一平面上になく、互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BCBPを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、四つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BCBPを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0116】
【化21】
【0117】
下記2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、中央付近のジベンゾチオフェン骨格とベンゼン骨格とが互いに平行でないπ電子共役面を有し、HOMO及びLUMOがジベンゾチオフェン骨格に主に分布している。したがって、ジベンゾチオフェン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、PPTを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0118】
【化22】
【0119】
下記4−(ジフェニルフォスフォイル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格が別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはN,N−ジフェニルアニリン骨格に主に分布している。したがって、N,N−ジフェニルアニリン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、HM−A1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、窒素原子及びリン原子で挟まれたベンゼン骨格に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、HM−A1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0120】
【化23】
【0121】
下記9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、ベンゾジフラン骨格と両末端側のカルバゾール骨格、その他のベンゼン骨格が互いに平行でないπ電子共役面を有し、HOMO及びLUMOがベンゾジフラン骨格に主に分布している。したがって、ベンゾジフラン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CZBDFを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0122】
【化24】
【0123】
下記2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、トリアジン骨格、各ベンゼン骨格が互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはジフェニルアミノ骨格に主に分布している。したがって、ジフェニルアミノ骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BPMTを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、トリアジン骨格と、酸素原子に結合しているベンゼン骨格とに主に分布している。したがって、これらトリアジン骨格、ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BPMTを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0124】
【化25】
【0125】
下記2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ベンゾイミダゾール骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが中央付近のベンゼン骨格(三つのベンゾイミダゾール骨格が結合しているベンゼン骨格)に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TPBIを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0126】
【化26】
【0127】
下記3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、トリアゾール骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが、ビフェニル基を構成する二つのベンゼン骨格のうち、トリアゾール骨格に結合しているものに主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TAZを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0128】
【化27】
【0129】
下記4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、フェナントロリン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOがフェナントロリン骨格に主に分布している。したがって、フェナントロリン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BPhenを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0130】
【化28】
【0131】
下記ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ピリジン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが、ピリジン骨格と、このピリジン骨格に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらピリジン骨格、ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DPPSを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0132】
【化29】
【0133】
下記1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TmPyPB)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ピリジン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが四つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TmPyPBを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0134】
【化30】
【0135】
下記1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TpPyPB)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ピリジン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが四つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TpPyPBを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0136】
【化31】
【0137】
<表示装置>
前記有機EL素子を備えた表示装置としては、画像信号を発生して出力する画像信号出力部と、前記画像信号に基づいて電流又は電圧を発生する駆動部と、発生した前記電流又は電圧により発光する発光部とを備え、前記発光部が、前記有機EL素子であるものが例示できる。そして、かかる有機EL素子を備えたこと以外は、従来の表示装置と同様の構成とすることができる。このような表示装置は、前記有機EL素子を備えたことで、電力消費量が少ないものとなる。
以下、図面を参照しながら説明する。
【0138】
図8は、前記有機EL素子を備えた表示装置の一実施形態の要部を例示する概略図であり、(a)は平面図、(b)は1画素の等価回路図、(c)は1画素の平面図である。
ここに示す表示装置5Aは、前記有機EL素子1を用いた有機EL表示装置である。
表示装置5Aにおいては、複数の走査線(ゲート配線)50と、複数の信号線(ソース配線)51とが縦横に配されたマトリクスが形成されており、それぞれの交差部に一つの画素が設けられた画素アレイが形成されている。画素アレイの周囲領域には、走査線50に接続された走査線駆動回路(ゲートドライバ)55と、信号線51に接続された信号線駆動回路(ソースドライバ)56が、それぞれ配置されている。そして、前記走査線駆動回路55及び信号線駆動回路56には、画像表示を行うためのタイミング信号やRGB輝度信号等の画像信号を供給するためのコントローラ57が接続され、さらに走査線50及び信号線51に与える信号電圧を供給するための電源回路59が接続されている。コントローラ57には、表示装置5Aに対して外部より水平・垂直同期信号や画像信号を与えるための外部処理装置58が接続されている。
表示装置5Aを構成する画素アレイの1画素は、図8(b)に示すように、走査線50及び信号線51に接続されたスイッチング用トランジスタ52、画素を駆動するための駆動用トランジスタ53、並びに保持容量54を備え、駆動用トランジスタ53に有機EL素子1からなる画素部が接続されている。有機EL素子1は、駆動電流又は電圧により発光する。
スイッチング用トランジスタ52及び駆動用トランジスタ53は、例えば、一般的な多結晶シリコンを半導体として用いたトランジスタ等で構成できる。以上により表示装置5Aが構成されている。
有機EL素子としては、図1に示すものに限定されず、本発明に係る製造方法が適用された有機薄膜を備えたものであれば、いずれも用いることができる。
【実施例】
【0139】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0140】
<キャリア輸送性有機非晶質薄膜を備えた素子の製造>
[実施例1]
下記手順により、図9に示す素子2を製造した。なお、図9では、図2に示す有機EL素子1の構成要素と同じものには、図2と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
電極及び配線としてパターニングされた厚さ150nmのIZO膜(第一電極12、陽極)が表面に形成された厚さ0.7mmのガラス基板(基材11)を用い、これを水洗後、純水超音波洗浄を10分、アセトン超音波洗浄を10分、イソプロピルアルコール蒸気洗浄を5分、それぞれ順次行い、100℃で1時間乾燥させた。
次いで、酸素ガスを少量含む窒素ガス雰囲気下、前記基板にUV光を照射して、表面を洗浄処理した後、真空蒸着装置内に導入した。
次いで、得られた基板を80℃に加熱し、この温度を保持したまま、蒸着速度1Å/secで、膜厚100nmの2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN、Tg120℃、分子量444.57)膜(正孔輸送層13b)を真空蒸着により形成した。
次いで、形成したMADN膜の分子の配向状態を確認するため、基板を取り出し、分光エリプソメーター(M−2000U、J.A.Woollam社製)による測定に供し、得られた測定データを解析し、MADN膜の光学定数(屈折率n及び消衰係数k)を算出した。測定データの解析は、MADN膜が基板に垂直な方向に一軸対称性を有するとしたモデルで行った。結果については後述する。
次いで、基板を再度真空蒸着装置内に導入し、電極及び配線パターンを形成するためのシャドーマスクを用いて、前記MADN膜上に膜厚100nmのアルミニウム(Al)膜(第二電極14、陰極)を真空蒸着により形成した後、封止することで、素子2を製造した。
【0141】
X線反射率測定(XRR)により測定したMADN膜の密度は1.15g/cm3、MADNのTgは120℃、蒸着速度は1Å/secであり、前記式(A)から算出される基板温度TAは61.1℃、1.15Tgは138℃となるので、実際の基材温度80℃は、「TA以上、1.15Tg以下」の条件を満たしていた。
【0142】
[比較例1]
MADN膜の形成を80℃ではなく室温で行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、素子を製造した。
【0143】
<薄膜中の分子の配向状態の確認>
実施例1及び比較例1におけるMADN膜について、算出した前記光学定数(屈折率n及び消衰係数k)を図10に示す。図10中、(a)は実施例1、(b)は比較例1の結果である。また、Sは前記配向パラメータであり、前記式(B)にしたがって算出した値である。
消衰係数(kx、ky、kz)には、ピークが二つ見られた。ここで、x、y及びzは、互いに直交する三つの方向であり、そのうちx及びyは、基材表面(ガラス基板上のIZO膜の表面)と平行な方向であり、zは、基材表面に対して垂直な方向であって、すなわち、kx、ky及びkzは、これらの方向に対応した消衰係数である。
【0144】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)によるMADNの遷移双極子モーメントの計算結果から、これらのうち波長250nm付近のピークは、図1(a)に示すMADNにおけるアントラセン骨格の長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに由来し、波長400nm付近のピークは、図1(a)に示すアントラセン骨格の短軸方向(x方向)の遷移双極子モーメントに由来することが判った。
一方、先に説明した通り、図1(b)及び(c)から明らかなように、MADNのHOMO及びLUMOは、主にアントラセン骨格に分布しており、ナフタレン骨格にはほとんど分布していない。
そして、図10から、実施例1では、MADNを構成するアントラセン骨格の長軸方向(y方向)の異方性が強く、これは、アントラセン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行になる傾向があることを意味している。これに対して、比較例1では、アントラセン骨格の短軸方向(x方向、二つのナフタレン骨格を結ぶ方向)の異方性が強く、これは、アントラセン骨格ではなくナフタレン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行になる傾向があることを意味している。このように、MADN膜形成時の基板の温度調節の有無によって、MADN膜の配向性が変化することを確認できた。
【0145】
<薄膜の電気的特性の評価>
実施例1及び比較例1の素子について、電流−電圧(I−V)特性を測定し、実施例1及び比較例1におけるMADN膜の電気的特性を評価した。電流−電圧特性の測定結果を図11に示す。
図11から、実施例1の方が比較例1よりも、印加電圧に対して電流が流れ易く、MADNを構成する二つのナフタレン骨格のπ電子共役面ではなく、アントラセン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行な状態の方が、キャリア移動度が高いことを確認できた。
【0146】
以上の結果から、実施例1におけるMADN膜は、配向性が良好に制御され、電気的特性に優れることが確認できた。
【0147】
<キャリア輸送性有機非晶質薄膜を備えた素子の製造、薄膜中の分子の配向状態の確認、薄膜の電気的特性の評価>
[実施例2]
MADN膜形成時の基板の加熱温度を80℃に代えて90℃とし、蒸着速度を1Å/secに代えて10Å/secとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、素子を製造した。
その結果、MADN膜は、分光エリプソメーターによる測定の結果、実施例1の場合と同じであり、得られた素子は実施例1の素子と同様の電流−電圧(I−V)特性を有し、実施例1よりも印加電圧に対してより電流が流れ易かった。このように、基板の加熱温度を変えても、MADNを構成する二つのナフタレン骨格のπ電子共役面ではなく、アントラセン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行な状態の方が、キャリア移動度が高いことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、有機EL素子を備えた有機デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0149】
1・・・有機EL素子、11・・・基材、12・・・第一電極、13・・・有機EL層、13a・・・正孔注入層、13b・・・正孔輸送層、13c・・・発光層、13d・・・正孔ブロッキング層、13e・・・電子輸送層、13f・・・電子注入層、14・・・第二電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化に伴い、フラットパネルディスプレイのニーズが高まっている。フラットパネルディスプレイとしては、非自発光型の液晶ディスプレイ(LCD)、自発光型のプラズマディスプレイ(PDP)、無機エレクトロルミネセンス(無機EL)ディスプレイ、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)ディスプレイ等が知られているが、これらの中でも、有機ELディスプレイは、自発光の点で特に注目されている。
【0003】
有機EL素子としては、1960年代にアントラセン単結晶などの有機固体でのキャリア注入型EL素子が詳しく研究されていた。これら素子は単層型のものであったが、その後、Tang等により正孔注入電極と電子注入電極の間に発光層と正孔輸送層を有する積層型有機EL素子が提案されている。これら注入型有機EL素子の発光メカニズムは、(i)陰極からの電子注入と陽極からの正孔注入、(ii)電子と正孔の固体中の移動、(iii)電子と正孔の再結合、(iv)生成された一重項励起子からの発光、という段階を経由する点で共通している。
【0004】
有機EL素子のキャリア輸送層としては、例えば、導電性液晶分子を用いたものが知られている。例えば、「Nature,Vol.371,p.141,D.Adam et al」には、長鎖トリフェニレン系化合物である、ディスコティック液晶の液晶相(Dh相)のキャリア移動度が10−3〜10−2cm2/Vsecであり、メゾフェーズ(中間相、液晶相ではない)でのキャリア移動度が10−1cm2/Vsecであることが報告されている。さらに、棒状液晶分子においても、「応用物理、第68巻、第1号、p.26,半那純一」によると、フェニルナフタレン系のスメクチックB相におけるキャリア移動度が10−3cm2/Vsec以上であることが報告されている。
【0005】
従来の有機EL素子は、厚さが100nm程度の薄膜層に、100MV/cm程度の高電圧を印加するため、電極間ショートが起こり易いという問題点があった。高電圧を印加する理由は、有機層のキャリア移動度が小さいためであり、キャリア移動度が大きい有機層を形成できれば印加電圧を低減できる。現在の一般的な有機EL素子のキャリア輸送層の移動度は、10−5〜10−3cm2/Vsecであり、非晶質(アモルファス)材料でも10−3cm2/Vsec程度が限界といわれている。そこで、キャリア移動度が大きい導電性液晶分子を用いた新しいキャリア輸送層の開発が期待されている。これまでに、キャリア移動度が大きい導電性液晶分子としては、例えば、ディスコティック液晶分子や秩序度が高いスメクチック液晶分子が知られている。
【0006】
一方、有機薄膜の形成時には、有機分子の配向を制御することが重要である。有機EL素子において、キャリア輸送層の形成に導電性液晶分子を用いることにより、配向性が制御された有機薄膜を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)が、有機非晶質薄膜を形成する方法は開示されておらず、得られる有機EL素子の特性も不十分であるという問題点があった。
これに対して、近年は、π電子共役有機分子であるスチリル系化合物を蒸着させることで有機薄膜を形成した場合、前記化合物は基材表面に対して水平方向(平行)の配向が優先することが報告されている(非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−167887号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Organic Electronics 10(2009)127−137
【非特許文献2】Applied Physics Letters 93(2008)173302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非特許文献1及び2には、分子の配向方向を制御する具体的な因子、水平配向が優先することによるキャリア輸送特性の変化、水平配向が優先することを利用した具体的な有機半導体素子については何ら開示されていない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、構成する有機分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm[Å3]、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、非経験的分子軌道計算法により導出した最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が、前記有機分子間において基材表面に対して垂直方向に重なることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が直線状に並んだ構造を有し、前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が面状に並んだ構造を有し、前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記有機分子において、前記Tgが60℃以上であり、分子量が400〜2500であることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法において、前記基材の温度を、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]以下とすることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかるキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法で、複数層のキャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造することを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構成する有機分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、(c)は分子構造とLUMOの分布を、それぞれ示す。
【図2】本発明に係る製造方法の適用に好適な有機EL素子の要部を例示する概略断面図である。
【図3】図1に示す有機EL素子の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図4】N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、それぞれ示す。
【図5】4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、それぞれ示す。
【図6】2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とLUMOの分布を、それぞれ示す。
【図7】N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP)の構造を示す図であり、(a)は安定構造を、(b)は分子構造とHOMOの分布を、それぞれ示す。
【図8】図2に示す有機EL素子を備えた表示装置の一実施形態の要部を例示する概略図であり、(a)は平面図、(b)は1画素の等価回路図、(c)は1画素の平面図である。
【図9】実施例1及び2における素子の要部を例示する概略断面図である。
【図10】(a)実施例1及び(b)比較例1における有機薄膜の屈折率n及び消衰係数kを示すグラフである。
【図11】実施例1及び比較例1の素子におけるMADN膜の電流−電圧特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<キャリア輸送性有機非晶質薄膜及びその製造方法>
本発明に係るキャリア輸送性有機非晶質薄膜(以下、単に「有機薄膜」又は「薄膜」と略記することがある)の製造方法は、キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm(Å3)、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とする。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
ここで「キャリア」とは、正孔又は電子を意味する。また、本発明において「非晶質」とは、結晶性を有していないこと、すなわち、分子の高次構造において規則性が無いことを指す。
前記製造方法によって、基材の温度だけでなく、蒸着させる有機分子の蒸着速度も同時に調節することによって、従来よりも精密に配向性が制御された非晶質の有機薄膜が得られる。
【0015】
本発明に係る製造方法を適用できる蒸着法としては、抵抗加熱蒸着法、電子線(EB)蒸着法、分子線エピタキシー(MBE)法、スパッタリング法、有機気相蒸着(OVPD)法等のドライプロセス;レーザー転写法等が例示できる。
【0016】
前記基材としては、各種素子で使用されるガラス製等の基板、該基板上にこれとは異なる無機薄膜又は有機薄膜が形成されたものが例示でき、目的に応じて適宜選択できる。前記無機薄膜又は有機薄膜としては、電極層、半導体層等の各種機能層が例示でき、例えば、後述するように、本発明に係る製造方法で形成された有機薄膜を最上層に備えたものを基材として用いてもよい。また、前記基材の形状も、プレート状をはじめ、目的に応じて任意に選択できる。
【0017】
一般的に、蒸着による薄膜の形成過程では、飛来した分子が基材表面上で運動しながら別の飛来分子と合体して核を形成し、その核に次々と分子が取り込まれて核成長し、場合によっては近傍で成長する別の核と合体しながら薄膜が形成される。その際、蒸着速度が所定の値よりも速くなると、飛来した分子が基板上で十分に運動しないうちに、別の飛来分子と合体して薄膜が形成される。このようにして形成される薄膜における分子の配向は等方的になるので、膜密度は蒸着速度が速くなるにしたがって低くなると予想される。
一方、基材温度が高いほど分子の熱運動のエネルギーは大きくなり、特定の時間内に基材上で配置を変える頻度は高くなる。したがって、基材温度が高いほど、分子はよりエネルギー的に安定な配置を取る機会が多くなり、特定の配向をとり易くなり、非晶質の場合でもより結晶に近い密度になると予想される。
そこで、蒸着速度と基材温度を適切に調整することにより、分子の配向が制御された有機薄膜を形成できると考えられ、このような観点から、本発明は完成されたものである。
【0018】
蒸着速度R[Å/sec]で有機薄膜が形成される場合には、有機分子(有機化合物)が基材表面上で運動できる時間を見積もると、以下のようになる。すなわち、形成される有機薄膜の密度から算出される有機分子1個あたりの体積をVm[Å3]とし、平均的に有機分子が一辺(Vm)1/3[Å]の立方体に1個存在すると考えると、蒸着速度R[Å/sec]で有機薄膜が形成されているとき、1分子層が形成される時間は(Vm)1/3/R[sec]となり、基材上の1cm2の領域に1秒あたりに飛来する分子数は、R×1016/Vm[個]となるので、有機分子が基材上で運動できる時間は、Vm/R×1016[sec]となる。
これに対して、有機分子が基材上で配置を変える頻度は、有機分子が基材上で配置を変えるための活性化エネルギーをQD、有機分子が基材上のある特定の位置にとどまっているときの振動数をν、基材温度をT、ボルツマン定数をkBとすると、
νexp(−QD/kBT)
となる。したがって、有機分子が基材上で配置を変える時間は、
(1/ν)exp(QD/kBT)
となる。
そこで、蒸着速度R[Å/sec]で決まる、有機分子が基材上で運動できる時間Vm/R×1016[sec]に対して、有機分子が基材上で配置を変える時間(1/ν)exp(QD/kBT)が十分長くなるように基材温度T[℃]を設定することにより、配向性が制御された有機薄膜を形成できると考えられる。
【0019】
そこで、有機薄膜を形成するときの有機分子の蒸着速度R[Å/sec]と基材温度T[℃]の条件を変えて、これらと、形成される有機薄膜の配向性との関係を詳細に調べたところ、有機薄膜を形成する有機分子のガラス転移点をTg[K]、有機薄膜の膜密度から算出される有機分子の一分子あたりの体積をVm(Å3)、有機分子の蒸着速度をR[Å/sec]としたときに、基材温度T[℃]が、上記の温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である場合に、配向性が制御された非晶質の有機薄膜を形成できることが明らかとなった。
本発明においては、このように基材温度を調節することで、有機薄膜の配向性が制御されるので、有機分子としてキャリア輸送性のπ電子共役有機分子を用いることで、有機薄膜のキャリア移動度(キャリア輸送性)が向上し、例えば、かかる薄膜を用いた有機EL素子は、印加電圧を低減でき、駆動電圧を低電圧化できる。
【0020】
本発明においては、前記基材の温度を、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]以下とすることが好ましい。このようにすることで、配向性がより制御された有機薄膜を形成できる。
【0021】
ここで、「有機薄膜の配向性が制御される」とは、例えば、非経験的分子軌道計算法により導出した最高占有分子軌道(HOMO)又は最低非占有分子軌道(LUMO)が、有機薄膜を構成する前記有機分子間において、基材表面に対して垂直方向に重なるように、前記有機分子が基材上で配置されることを意味する。
非経験的分子軌道計算法としては、米国Gaussian社製のGaussianシリーズ、Schrodinger社製のMarcoModel、Wavefunction社製のSpartan、アドバンスソフト社製のABINIT−MP/BioStation等の汎用の量子化学計算ソフトを用いた計算法が例示でき、なかでも、Gaussian09(Gaussian09W、Gaussian09M)が好適である。
【0022】
Gaussian09Wを用いてπ電子共役有機分子のHOMO又はLUMOの分布を計算する場合、まず、チェックポイントファイルを指定し、分子モデルの初期座標、計算方法と基底関数、電荷とスピン多重度をそれぞれ入力してインプットファイルを作成し、計算を実行することにより、最適構造化を行い、π電子共役有機分子の安定構造を計算する。次いで、得られた安定構造に対して分子軌道を表示することにより、π電子共役有機分子のHOMO又はLUMOの分布を可視化することができる。
なお、インプットファイルの作成及び実行の際の計算方法としては、Hartree−Fock法、密度汎関数(DFT)法、MP(Moller Plesset perturbation theory)法、CC(Coupled Cluster theory)法が選択できるが、本明細書におけるGaussian09Wを用いた計算では、DFT法を採用している。また、Gaussian09Wを用いた場合、安定構造の計算と同時に、HOMO及びLUMOも計算されており、GaussianViewによりHOMO及びLUMOの分布を可視化している。
【0023】
ここで、例えば、キャリア輸送性を示す有機材料として注目されている2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN)の分子構造を以下に示す。
【0024】
【化1】
【0025】
MADNはアントラセン骨格の9位及び10位にナフタレン骨格が結合した構造を有する。MADNについて、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)により求めたMADNの安定構造を図1(a)に示す。また、この安定構造に対して、HOMOの分布を可視化したものを図1(b)に、LUMOの分布を可視化したものを図1(c)に、それぞれ分子構造と共に示す。
【0026】
図1に示すように、MADNのHOMO及びLUMOは、アントラセン骨格に主に存在し、ナフタレン骨格にはほとんど存在しない。
本発明によれば、有機薄膜を構成するMADN分子間において、MADNのHOMO又はLUMOが基材表面に対して垂直方向に重なる。これは、HOMO及びLUMOが主に分布しているアントラセン骨格のπ電子共役面が、基材表面に対して実質的に平行に配向することによる。ここで、「π電子共役面が基材表面に対して実質的に平行に配向する」とは、π電子共役面が基材表面に完全に平行な場合だけでなく、π電子共役面と基材表面とがなす角度が45°未満となるように、アントラセン骨格が配向することを示す。MADNはキャリア輸送性であるが、このように、MADNの配向が制御されることで、後述するように有機EL素子の一対の電極間に配置された有機薄膜の構成材料としてMADNを適用した場合には、かかるMADN膜が電荷輸送層及び正孔輸送層のいずれであっても、MADN膜のキャリア輸送性が向上し、有機EL素子の駆動電圧を低電圧化できる。
【0027】
このように、キャリア移動に関与する分子軌道(π電子共役有機分子が正孔輸送性の場合にはHOMO、電子輸送性の場合はLUMO)が主に分布するπ電子共役面が、基材表面に対して実質的に平行となることにより、キャリア移動に関与するπ電子の軌道の重なりが大きくなり、キャリア移動度が高くなる。
なお、π電子共役有機分子には、複数のπ電子共役面に満遍なくHOMO又はLUMOが分布している場合もある。この場合には、最も面積が大きいπ電子共役面を基材表面に対して実質的に平行に配向させることが好ましく、これにより、キャリア輸送性をより向上させることができる。
【0028】
ここでは、MADNについて説明したが、本発明においてはMADN以外のπ電子共役有機分子についても同様に配向を制御でき、HOMO又はLUMOが主に分布している(HOMO又はLUMOの分布が多い)骨格のπ電子共役面を、基材表面に対して実質的に平行に配向させることができる。
【0029】
本発明において好ましいπ電子共役有機分子としては、ベンゼン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、フェナントロリン骨格、ベンゾフラン骨格、ベンゾジフラン骨格、トリアジン骨格、イミダゾール骨格、ベンゾイミダゾール骨格、トリアゾール骨格、ピリジン骨格、オキサジアゾール骨格、カルバゾール骨格等のπ電子共役面を有するものが例示できる。
【0030】
従来の有機薄膜では、分子間においてπ電子共役面のπ電子の軌道が重なるものについては開示されているが、本発明により得られる有機薄膜では、π電子の軌道の中でも、HOMO又はLUMOが重なっており、これは本発明により初めて開示される構成であり、これにより、キャリア移動度が顕著に向上する。
【0031】
π電子共役有機分子としては、HOMO又はLUMOが直線状に並んだ構造を有するものが例示できる。ここで、「HOMO又はLUMOが直線状に並んだ構造」とは、HOMO又はLUMOを有するπ電子共役面が、基材表面に沿って直線を描くように配列した構造を意味する。
このような構造を有する場合、前記有機分子が電子輸送性の場合には、LUMOの前記直線方向(LUMOの配列方向)に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。そして、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、HOMOの前記直線方向(HOMOの配列方向)に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。これにより、有機薄膜のキャリア移動度がより向上する。
【0032】
また、π電子共役有機分子としては、HOMO又はLUMOが面状に並んだ構造を有するものが例示できる。ここで、「HOMO又はLUMOが面状に並んだ構造」とは、HOMO又はLUMOを有するπ電子共役面が、二つ以上の方向に伸びて基材表面に沿って面を描くように配列した構造を意味する。
このような構造を有する場合、前記有機分子が電子輸送性の場合には、LUMOの前記面内(LUMOの配列面内)に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。そして、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、HOMOの前記面内(HOMOの配列面内)に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることが好ましい。これにより、有機薄膜のキャリア移動度がより向上する。
【0033】
前記配向パラメータSは、基材上に形成された薄膜中の分子の配向方向を定量化する値であり(「Applied Physics Letters,93,2008,173302」参照)、薄膜の消衰係数kに依存し、下記式(B)で表される。
S=3/2cos2θ−1/2=(kz−kxy)/(kz+2kxy) ・・・・(B)
(式中、θは分子の配向軸と、基材表面に対して垂直な方向との為す角度(°)であり、kxyは基材表面と平行な方向の薄膜の消衰係数であり、kzは基材表面に対して垂直な方向の薄膜の消衰係数である。)
ここで、x及びyを、互いに直交し且つ光学的に等方的な二つの方向とし、これらの方向の消衰係数をkx及びkyとすると、kxy=kx=kyである。
薄膜が光学的異方性を有していない場合のSは0であり、薄膜中の分子の配向方向が基材表面に対して完全に水平方向(平行)である場合のSは−0.5である。消衰係数kは、分光エリプソメーターによる測定値から算出される。したがって、配向パラメータSが、−0.1〜−0.5の範囲にあることは、有機薄膜中で、基材表面に対して水平方向(平行)に配向している有機分子の割合が高いことを示す。
【0034】
本発明において、前記有機分子は、明確な融点を示さず、ガラス転移点Tgが60℃以上であるものが好ましい。また、前記有機分子は、分子量が400〜2500であるものが好ましい。
【0035】
本発明においては、基材として、薄膜が形成されたものを用い、その最上層の薄膜上に有機薄膜を形成することができる。この場合には、基材中の少なくとも最上層の薄膜の温度を、新たに形成しようとする有機薄膜に関するTg、Vm及びRから前記式(A)で算出されるTA以上で、且つ1.15Tg以下である温度に調節すればよい。そして、新たに有機薄膜を形成しようとする前記最上層の薄膜は、有機薄膜及び無機薄膜のいずれでもよく、有機薄膜の場合、本発明に係る製造方法で形成されたものでもよい。このように、本発明においては、基材上に前記方法で複数層の有機薄膜を形成することもできる。
【0036】
前記有機薄膜は、非晶質であっても有機分子の配向が制御され、キャリア移動度に優れるので、有機EL素子への適用に好適なものである。
【0037】
本発明に係る製造方法は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「EL」と略記する)素子等、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を備えた各種素子の製造への適用に特に好適である。以下、前記素子として有機EL素子について説明する。
【0038】
図2は、本実施形態に係る有機EL素子の要部を例示する概略断面図である。
ここに示す有機EL素子1は、基材11上に、第一電極12、有機EL層13及び第二電極14がこの順に積層され、概略構成されている。すなわち、有機EL素子1は、基材11上に、第一電極12及び第二電極14からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された有機EL層13と、を備えたものである。
【0039】
基材11としては、ガラス基板が例示できる。
基材11の厚さは、0.4〜1.1mmであることが好ましい。
【0040】
第一電極12及び第二電極14は、陽極又は陰極として機能するものである。
陰極の材質としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;アルミニウム;銅;ケイ素;二種以上のこれら金属からなる合金;一種以上のこれら金属を含む合金以外の化合物等が例示できる。なかでも、安定性が良好な点から、リチウム、セシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ナトリウムカリウム合金、セシウム化合物、マグネシウム合金、バリウム化合物、アルミニウムリチウム合金、アルミニウム銅合金、アルミニウム銅シリコン合金が好ましい。また、これら以外でも、好ましいものとしてフッ素化合物が例示できる。
陰極は、二種以上の材質からなる層が積層された複数層のものでもよく、この時の層数は特に限定されない。複数層の陰極で好ましいものとしては、カルシウム層及びアルミニウム層が積層されたものが例示できる。
【0041】
陽極の材質としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO(登録商標))、酸化インジウム、酸化スズ、カドミウムスタネート(Cd2SnO4)、酸化亜鉛、ヨウ化銅、金、白金等が例示できる。
【0042】
第一電極12及び第二電極14の膜厚は、それぞれ50〜200nmであることが好ましい。
【0043】
有機EL層13は、陽極である第一電極12側から、陰極である第二電極14側へかけて、正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fがこの順に積層され、概略構成されている。
正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fは、それぞれ単層構造及び多層構造のいずれであってもよい。
【0044】
正孔注入層13aは、正孔の第一電極12からの注入を効率よく行うものである。
正孔輸送層13bは、正孔の発光層13cへの輸送を効率よく行うものである。
電子輸送層13eは、電子の発光層13cへの輸送を効率よく行うものである。
電子注入層13fは、電子の第二電極14からの注入を効率よく行うものである。
これらは、キャリア注入輸送層に該当する。
【0045】
有機EL層13において、正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fのうちの少なくとも一層は、上記本発明の非晶質薄膜の製造方法で形成された有機薄膜であり、すべての層が該有機薄膜であってもよい。そして、有機EL層13において、該有機薄膜ではない層は、公知の方法で形成されたものであり、上記本発明の非晶質薄膜の製造方法以外の方法で形成された有機薄膜であってもよいし、無機薄膜であってもよい。
【0046】
正孔注入層13a及び正孔輸送層13bの材質は、公知のものでよく、好ましいものとしては、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物や無機p型半導体材料;ポルフィリン化合物、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)、4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA、Tg151℃)、N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP、Tg55℃)、4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)、2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)、N1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)、N3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)、4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)、2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)等の芳香族第三級アミン化合物;ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチリルアミン化合物等の低分子含窒素化合物;ポリアニリン(PANI)、ポリアニリン−樟脳スルホン酸(PANI−CSA)、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン)誘導体(Poly−TPD)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)(PNV)等の高分子化合物;2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN、Tg120℃)等の芳香族炭化水素化合物等が例示できる。なお、ここで「Tg」とはガラス転移点であり、これは以降において例示する有機分子でも同様である。
【0047】
正孔注入層13aの材質としては、陽極からの正孔の注入及び輸送をより効率よく行う観点から、正孔輸送層13bの材質よりも、HOMOのエネルギー準位が低い材質が好ましい。そして、正孔輸送層13bの材質としては、正孔注入層13aの材質よりも、正孔の移動度が高いものが好ましい。
【0048】
正孔注入層13a及び正孔輸送層13bは、任意に添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。
そして、正孔の注入性及び輸送性をより向上させるためには、正孔注入層13a及び正孔輸送層13bは、アクセプターを含むことが好ましい。
【0049】
前記アクセプターは、公知のものでよく、無機材料及び有機材料のいずれでもよい。
前記無機材料の好ましいものとしては、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オキシ塩化リン(POCl3)、六フッ化ヒ酸イオン(AsF6−)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブデン(MoO2)等が例示できる。
前記有機材料の好ましいものとしては、7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(TCNQF4)、テトラシアノエチレン(TCNE)、ヘキサシアノブタジエン(HCNB)、ジシクロジシアノベンゾキノン(DDQ)等のシアノ基を有する化合物;トリニトロフルオレノン(TNF)、ジニトロフルオレノン(DNF)等のニトロ基を有する化合物;フルオラニル;クロラニル;ブロマニル等が例示できる。
【0050】
前記アクセプターは、これらのなかでも、正孔濃度を増加させる効果がより高いことから、シアノ基を有する化合物が好ましい。
【0051】
正孔注入層13aの膜厚は、1〜500nmであることが好ましい。
正孔輸送層13bの膜厚は、5〜500nmであることが好ましい。
【0052】
発光層(有機発光層)13cの材質は、公知のものでよく、有機発光材料のみでもよいし、発光性のドーパントとホスト材料との組み合わせでもよく、さらに任意に正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。また、上記の各材料が高分子材料(結着用樹脂)又は無機材料中に分散されていてもよい。発光効率及び耐久性の観点からは、発光層13cの材質としては、ホスト材料中に発光性のドーパントが分散されたものが好ましい。
【0053】
前記有機発光材料は、低分子発光材料及び高分子発光材料等に分類でき、蛍光材料又は燐光材料等に分類されるものでもよい。
【0054】
発光層(有機発光層)13cに用いる低分子有機材料(ホスト材料を含む)の好ましいものとしては、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデン化合物;5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物;3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体;1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物;チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料;アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光発光有機金属錯体;BeBq(ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体);4,4’−ビス−(2,2−ジ−p−トリル−ビニル)−ビフェニル(DTVBi);トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオノ)(モノフェナントロリン)Eu(III)(Eu(DBM)3(Phen));ジフェニルエチレン誘導体;トリス[4−(9−フェニルフルオレン−9−イル)フェニル]アミン(TFTPA、Tg186℃)等のトリフェニルアミン誘導体;ジアミノカルバゾール誘導体;ビススチリル誘導体;芳香族ジアミン誘導体;キナクリドン系化合物;ペリレン系化合物;クマリン系化合物;ジスチリルアリーレン誘導体(DPVBi);オリゴチオフェン誘導体(BMA−3T);4,4’−ジ(トリフェニルシリル)−ビフェニル(BSB、Tg100℃)、ジフェニル−ジ(o−トリル)シラン(UGH1、Tg26℃)、1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)、1,3−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH3、Tg46℃)、トリフェニル−(4−(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)フェニル)シラン(TPSi−F、Tg100℃)等のシラン誘導体;9,9−ジ(4−ジカルバゾール−ベンジル)フルオレン(CPF)、3,6−ビス(トリフェニルシリル)カルバゾール(mCP)、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP、Tg62℃)、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−2,2’−ジメチルビフェニル(CDBP、Tg111℃)、N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP、Tg55℃)、3−(ジフェニルホスホリル)−9−フェニル−9H−カルバゾール(PPO1、Tg74℃)、3,6−ジ(9−カルバゾリル)−9−(2−エチルヘキシル)カルバゾール(TCz1、Tg88℃)、9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP、Tg101℃)、ビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)、3−(ジフェニルホスホリル)−9−(4−ジフェニルホスホリル)フェニル)−9H−カルバゾール(PPO21、Tg111℃)、2,2−ビス(4−カルバゾリルフェニル)−1,1−ビフェニル(4CzPBP、Tg120℃)、3,6−ビス(ジフェニルホスホリル)−9−フェニル−9H−カルバゾール(PPO2、Tg123℃)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi、Tg131℃)、3,6−ビス[(3,5−ジフェニル)フェニル]−9−フェニル−カルバゾール(CzTP、Tg135℃)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ジトリチル−9H−カルバゾール(CzC、Tg167℃)、9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(9−(4−メトキシフェニル)−9H−フルオレン−9−イル)−9H−カルバゾール(DFC、Tg180℃)、2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)、9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)等のカルバゾール誘導体;4−(ジフェニルフォスフォイル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)等のアニリン誘導体;1,3−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(mDPFB)、1,4−ビス(9−フェニル−9H−フルオレン−9−イル)ベンゼン(pDPFB)、2,7−ビス(カルバゾール−9−イル)−9,9−ジメチルフルオレン(DMFL−CBP、Tg131℃)、2−[9,9−ジ(4−メチルフェニル)−フルオレン−2−イル]−9,9−ジ(4−メチルフェニル)フルオレン(BDAF、Tg153℃)、2−(9,9−スピロビフルオレン−2−イル)−9,9−スピロビフルオレン(BSBF、Tg176℃)、9,9−ビス[4−(ピレニル)フェニル]−9H−フルオレン(BPPF、Tg177℃)、2,2’−ジピレニル−9,9−スピロビフルオレン(Spiro−Pye、Tg189℃)、2,7−ジピレニル−9,9−スピロビフルオレン(2,2’−Spiro−Pye、Tg186℃)、2,7−ビス[9,9−ジ(4−メチルフェニル)−フルオレン−2−イル]−9,9−ジ(4−メチルフェニル)フルオレン(TDAF、Tg201℃)、2,7−ビス(9,9−スピロビフルオレン−2−イル)−9,9−スピロビフルオレン(TSBF、Tg231℃)、9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)等のフルオレン誘導体;1,3−ジ(ピレン−1−イル)ベンゼン(m−Bpye、Tg97℃)等のピレン誘導体;プロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)等のベンゾエート誘導体;4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)、2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)等のフォスフィンオキサイド誘導体;4,4”−ジ(トリフェニルシリル)−p−ターフェニル(BST、Tg113℃)等のターフェニル誘導体;2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)等トリアジン誘導体が例示できる。
【0055】
発光層(有機発光層)13cに用いる高分子有機材料の好ましいものとしては、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体;ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)等のポリスピロ誘導体;ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK、Tg200℃)等のポリカルバゾール誘導体等が例示できる。
【0056】
前記有機発光材料は、低分子発光材料が好ましく、低消費電力化の観点から、発光効率が高い燐光材料が好ましい。
【0057】
前記発光性のドーパントの材質のうち、紫外発光材料であれば、p−クォーターフェニル、3,5,3,5テトラ−tert−ブチルセクシフェニル、3,5,3,5テトラ−tert−ブチル−p−クィンクフェニル等の蛍光発光材料等が例示できる。また、青色発光材料であれば、スチリル誘導体等の蛍光発光材料;ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2’]ピコリネート イリジウム(III)(FIrpic)、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルポリジナト)テトラキス(1−ピラゾイル)ボレート イリジウム(III)(FIr6)等の、また、緑色発光材料であれば、トリス(2−フェニルピリジナート)イリジウム(Ir(ppy)3)等の燐光発光有機金属錯体等が例示できる。
【0058】
発光層13cの膜厚は、5〜500nmであることが好ましい。
【0059】
正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fの材質は、公知のものでよく、好ましいものとしては、低分子材料であれば、n型半導体である無機材料;1,3−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]ベンゼン(Bpy−OXD、Tg102℃)、1,3−ビス(5−(4−(tert−ブチル)フェニル)−1,3,4−オキサジアゾールー2−イル)ベンゼン(OXD7)等のオキサジアゾール誘導体;3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体;チオピラジンジオキシド誘導体;ベンゾキノン誘導体;ナフトキノン誘導体;アントラキノン誘導体;ジフェノキノン誘導体;フルオレノン誘導体;ベンゾジフラン誘導体;8−ヒドロキシキノリノラート−リチウム(Liq、Tg130℃)等のキノリン誘導体;2,7−ビス[2−(2,2’−ビピリジン−6−イル)−1,3,4−オキサジアゾ−5−イル]−9,9−ジメチルフルオレン(Bpy−FOXD、Tg134℃)等のフルオレン誘導体;1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TmPyPB、Tg79℃)、1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TpPyPB、Tg80℃)等のベンゼン誘導体;2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリイル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンゾイミダゾール)(TPBI、Tg122℃)等のベンゾイミダゾール誘導体;3,5−ジ(ピレン−1−イル)ピリジン(PY1、Tg107℃)等のピリジン誘導体;3,3’,5,5’−テトラ[(m−ピリジル)−フェン−3−イル]ビフェニル(BP4mPy、Tg107℃)等のビフェニル誘導体;4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等のフェナントロリン誘導体;トリス(2,4,6−トリメチル−3−(ピリジン−3−イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)等のトリフェニルボラン誘導体;ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)等のテトラフェニルシラン誘導体が例示できる。また、高分子材料であれば、ポリ(オキサジアゾール)(Poly−OXZ)、ポリスチレン誘導体(PSS)等が例示できる。特に、電子注入層13fの材質としては、フッ化リチウム(LiF)、フッ化バリウム(BaF2)等のフッ化物;酸化リチウム(Li2O)等の酸化物等が例示できる。
【0060】
電子注入層13fの材質としては、陰極からの電子の注入及び輸送をより効率よく行う観点から、電子輸送層13eの材質よりも、LUMOのエネルギー準位が高い材質が好ましい。そして、電子輸送層13eの材質としては、電子注入層13fの材質よりも、電子の移動度が高いものが好ましい。
【0061】
電子輸送層13e及び電子注入層13fは、任意に添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含んでいてもよい。
そして、電子の輸送及び注入性をより向上させるためには、電子輸送層13e及び電子注入層13fは、ドナーを含むことが好ましい。
【0062】
前記ドナーは、公知のものでよく、無機材料及び有機材料のいずれでもよい。
前記無機材料の好ましいものとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;希土類元素;アルミニウム(Al);銀(Ag);銅(Cu);インジウム(In)等が例示できる。
前記有機材料の好ましいものとしては、芳香族3級アミン骨格を有する化合物、フェナントレン、ピレン、ペリレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等の置換基を有していてもよい縮合多環化合物、テトラチアフルバレン(TTF)類、ジベンゾフラン、フェノチアジン、カルバゾール等が例示できる。
【0063】
前記芳香族3級アミン骨格を有する化合物としては、アニリン類;フェニレンジアミン類;N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン等のベンジジン類;トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−3−メチルフェニル−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン、4,4’4”−トリス(N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ)−トリフェニルアミン等のトリフェニルアミン類;N,N’−ジ−(4−メチル−フェニル)−N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミンのトリフェニルジアミン類が例示できる。
【0064】
前記縮合多環化合物が「置換基を有する」とは、前記縮合多環化合物中の一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基(置換基)で置換されていることを指し、前記置換基の数は特に限定されず、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。そして、置換基の位置も特に限定されない。
前記置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数6〜15のアリールオキシ基、水酸基、ハロゲン原子等が例示できる。
前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基が例示できる。
また、環状のアルキル基は、単環状及び多環状のいずれでも良く、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基が例示できる。
前記アルコキシ基としては、前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
前記アルケニル基としては、炭素数が2〜10の前記アルキル基において、炭素原子間の一つの単結合(C−C)が二重結合(C=C)に置換されたものが例示できる。
前記アルケニルオキシ基としては、前記アルケニル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、環員数は特に限定されず、好ましいものとしては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が例示できる。
前記アリールオキシ基としては、前記アリール基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0065】
前記ドナーは、これらのなかでも、電子濃度を増加させる効果がより高いことから、芳香族3級アミン骨格を有する化合物、置換基を有していてもよい縮合多環化合物、アルカリ金属が好ましい。
【0066】
電子輸送層13eの膜厚は、5〜500nmであることが好ましい。
また、電子注入層13fの膜厚は、0.1〜100nmであることが好ましい。
【0067】
有機EL素子1は、例えば、以下の方法で製造できる。図3は、有機EL素子1の製造方法を説明するための概略断面図である。
まず、図3(a)に示すように、基材11上に、スパッタリング法、真空蒸着法等により第一電極12を形成する。
【0068】
次いで、図3(b)に示すように、第一電極12上に、正孔注入層13a、正孔輸送層13b、発光層13c、正孔防止層13d、電子輸送層13e及び電子注入層13fをこの順に積層し、有機EL層13を形成する。この時、有機EL層13(正孔注入層13a〜電子注入層13f)のうちの少なくとも一層を、上記本発明の非晶質薄膜の製造方法で形成する。そして、本発明の製造方法で形成する層は、正孔注入層13a〜電子注入層13fのすべての層でもよい。また、本発明の製造方法で形成しない層は、例えば、真空蒸着法等で形成する。
【0069】
次いで、図3(c)に示すように、有機EL層13上に、真空蒸着法等により第二電極14を形成する。
上記工程を行うことで、図2に示す有機EL素子1が得られる。
【0070】
本発明に係る製造方法を適用する有機EL素子は、図2に示すものに限定されず、有機EL層13が少なくとも発光層を備えていればよく、発光層のみを備えたもの、又は発光層とキャリア輸送層とを備えたもの等、有機EL素子1の構成の一部が変更されたものでもよい。例えば、有機EL層13の構成を以下のようにしたものが挙げられる。
(1)発光層のみの有機EL層。
(2)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔輸送層及び発光層がこの順に積層された有機EL層。
(3)第一電極12側から第二電極14側へかけて、発光層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(4)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(5)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(6)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に積層された有機EL層。
(7)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔防止層及び電子輸送層がこの順に積層された有機EL層。
(8)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔防止層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に積層された有機EL層。
(9)第一電極12側から第二電極14側へかけて、正孔注入層、正孔輸送層、電子防止層、発光層、正孔防止層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に積層された有機EL層。
【0071】
前記電子防止層は、有機EL用として公知のものでよく、単層構造及び多層構造のいずれであってもよく、有機薄膜及び無機薄膜のいずれでもよい。
【0072】
上記のような有機EL素子1以外の有機EL素子も、少なくとも一層の有機薄膜を本発明に係る製造方法で形成することで、有機EL素子1と同様に製造できる。
【0073】
なお、ここまで、有機EL層を構成する各層の材質(材料)について説明したが、例えば、ホスト材料は正孔輸送材料又は電子輸送材料としても使用でき、正孔輸送材料及び電子輸送材料もホスト材料として使用できる。
【0074】
前記有機EL素子は、これを構成する有機薄膜が非晶質であっても、有機薄膜を構成する分子の配向が制御され、キャリア移動度が高いので、高電圧を印加する必要が無く、消費電力が少なく、信頼性及び耐久性にも優れる。前記有機EL素子は、例えば、電極間ショートが防止され、従来その防止策としてとられていた有機薄膜の多層化や厚膜化等の手段も不要なので、簡便に且つ低コストで製造できる。
【0075】
以下、本発明に係る製造方法で有機薄膜を形成するのに好適な、MADN以外のπ電子共役有機分子の具体的構造を例示する。ただし、π電子共役有機分子はここに例示するものに限定されるものではない。
【0076】
下記N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD)について、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めた安定構造を図4(a)に、分子構造と前記計算法で求めたHOMOの分布を図4(b)に、それぞれ示す。
α−NPDは、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、正孔輸送に関与するHOMOが中央付近のビフェニル骨格に主に分布しており、ナフタレン骨格におけるHOMOは僅かである。したがって、α−NPDを正孔輸送層又は正孔注入層の形成に用いる場合には、ナフタレン骨格ではなくビフェニル骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、α−NPDを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0077】
【化2】
【0078】
下記4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)について、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めた安定構造を図5(a)に、分子構造と前記計算法で求めたHOMOの分布を図5(b)に、それぞれ示す。
正孔輸送性のTCTAは、正孔輸送に関与するHOMOが分子全体に分布しているが、カルバゾール骨格に最も面積の広いπ電子共役面を有するので、少なくともいずれかのカルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TCTAを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0079】
【化3】
【0080】
下記2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)について、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めた安定構造を図6(a)に、分子構造と前記計算法で求めLUMOの分布を図6(b)に、それぞれ示す。
BCPは、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、電子輸送に関与するLUMOがフェナントロリン骨格に主に分布している。したがって、BCPを電子輸送層又は電子注入層の形成に用いる場合には、フェナントロリン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BCPを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0081】
【化4】
【0082】
下記N,N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン(m−CP)の安定構造を図7(a)に、分子構造とHOMOの分布を図7(b)に、それぞれ示す。
m−CPは、正孔輸送層、正孔注入層又は発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、正孔輸送に関与するHOMOが、カルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、m−CPを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0083】
【化5】
【0084】
以下、同様に、Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31Gにより求めたHOMO及び/又はLUMOの分布と、分子の配向について説明する。
【0085】
下記4,4’−(シクロヘキサン−1,1−ジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(TAPC)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有し、各π電子共役面は6角形状又は円状になり、正孔輸送に関与するHOMOが、シクロヘキサン骨格に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、前記ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TAPCを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0086】
【化6】
【0087】
下記2,2’−ビス(N,N−ジフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(DPAS)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有し、正孔輸送に関与するHOMOがジフェニルアミン骨格に主に分布している。したがって、ジフェニルアミン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DPASを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0088】
【化7】
【0089】
下記N1,N1’−(ビフェニル−4,4’−ジイル)ビス(N1−フェニル−N4,N4−ジ−m−トリルベンゼン−1,4−ジアミン)(DNTPD)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は同一平面状にはなく、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有する。そして、HOMOが、窒素原子で挟まれた四つのベンゼン骨格(一つのビフェニレン基を構成する二つのフェニレン基、該フェニレン基に該当しない二つのフェニレン基)に広がっている。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DNTPDを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0090】
【化8】
【0091】
下記N3,N3,N3”’, N3”’−テトラ−p−トリル−[1,1’:2’,1”:2”,1”’−クオーターフェニル]−3,3”’−ジアミン(BTPD)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は同一平面状にはなく、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有する。そして、HOMOが、窒素原子に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BTPDを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0092】
【化9】
【0093】
下記4,4’−(ジフェニルシランジイル)ビス(N,N−ジ−p−トリルアニリン)(DTASi)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各ベンゼン骨格はそれぞれπ電子共役面を有する。そして、正孔輸送に関与するHOMOが、窒素原子に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DTASiを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0094】
【化10】
【0095】
下記2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンティン(Ad−Cz)は、正孔輸送層又は正孔注入層の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々の互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、正孔輸送に関与するHOMOがカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、Ad−Czを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0096】
【化11】
【0097】
下記4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々のπ電子共役面有し、全てのπ電子共役面が互いに平行ではない。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CBPを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、窒素原子で挟まれたビフェニル骨格に主に分布している。したがって、前記ビフェニル骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CBPを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0098】
【化12】
【0099】
下記ジフェニル−ジ(o−トリル)シラン(UGH1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOは、メチル基を有するベンゼン骨格(o−トリル基)に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、UGH1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、メチル基を有していないベンゼン骨格(フェニル基)に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、UGH1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0100】
【化13】
【0101】
下記1,4−ビストリフェニルシリルベンゼン(UGH2)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMO及びLUMOは、ケイ素原子で挟まれたベンゼン骨格に主に分布している。したがって、前記ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、UGH2を配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0102】
【化14】
【0103】
下記9,9’−(5−(トリフェニルシリル)−1,3−フェニレン)ビス(9H−カルバゾール)(SimCP)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCPを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、中央付近のベンゼン骨格(一つのトリフェニルシリル基、二つのカルバゾリル基がそれぞれ結合しているベンゼン骨格)に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCPを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0104】
【化15】
【0105】
下記ビス(3,5−ジ(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)ジフェニルシラン(SimCP2)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各カルバゾール骨格、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCP2を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、ケイ素原子及び窒素原子が共に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SimCP2を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0106】
【化16】
【0107】
下記9,9−スピロビフルオレン−2−イル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(SPPO1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、正孔輸送に関与するHOMOが、リン原子に結合していない方のフルオレン骨格に主に分布している。したがって、このフルオレン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SPPO1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、電子輸送に関与するLUMOは、リン原子に結合している方のフルオレン骨格に主に分布している。したがって、このフルオレン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、SPPO1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0108】
【化17】
【0109】
下記プロパン−2,2’−ジイルビス(4,1−フェニレン)ジベンゾエート(MMA1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOは、酸素原子に結合したベンゼン骨格に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、MMA1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、末端のベンゼン骨格(カルボニル基に結合しているベンゼン骨格)に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、MMA1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0110】
【化18】
【0111】
下記9−(4−tert−ブチルフェニル)−3,6−ビス(トリフェニルシリル)−9H−カルバゾール(CzSi)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、カルバゾール骨格、その他のベンゼン骨格は、別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMO及びLUMOがカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CzSiを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0112】
【化19】
【0113】
下記4,4’−ビス(ジフェニルフォスフィンオキサイド)ビフェニル(PO1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、中央付近の二つのベンゼン骨格(ビフェニレン基を構成する二つのベンゼン骨格)が同一平面上にあり、一つのπ電子共役面を有し、その他のベンゼン骨格のπ電子共役面とは互いに平行でない。そして、HOMO及びLUMOが前記二つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これら二つのベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、PO1を配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0114】
【化20】
【0115】
下記2,2’−ビス(4−カルバゾール−9−イル)フェニル)−ビフェニル(BCBP)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、両末端側のカルバゾール骨格と中央付近の四つのベンゼン骨格は同一平面上になく、互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはカルバゾール骨格に主に分布している。したがって、カルバゾール骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BCBPを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、四つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BCBPを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0116】
【化21】
【0117】
下記2,8−ビス(ジフェニルフォスフォリル)ジベンゾ[b,d]チオフェン(PPT)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、中央付近のジベンゾチオフェン骨格とベンゼン骨格とが互いに平行でないπ電子共役面を有し、HOMO及びLUMOがジベンゾチオフェン骨格に主に分布している。したがって、ジベンゾチオフェン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、PPTを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0118】
【化22】
【0119】
下記4−(ジフェニルフォスフォイル)−N,N−ジフェニルアニリン(HM−A1)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、各ベンゼン骨格が別々に互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはN,N−ジフェニルアニリン骨格に主に分布している。したがって、N,N−ジフェニルアニリン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、HM−A1を配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、窒素原子及びリン原子で挟まれたベンゼン骨格に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、HM−A1を配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0120】
【化23】
【0121】
下記9,9’−((2,6−ジフェニルベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジフラン−3,7−ジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(9H−カルバゾール)(CZBDF)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、ベンゾジフラン骨格と両末端側のカルバゾール骨格、その他のベンゼン骨格が互いに平行でないπ電子共役面を有し、HOMO及びLUMOがベンゾジフラン骨格に主に分布している。したがって、ベンゾジフラン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、CZBDFを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0122】
【化24】
【0123】
下記2,4−ビス(フェノキシ)−6−(3−メチルジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン(BPMT)は、発光層(ホスト材料)の材質として好適であり、トリアジン骨格、各ベンゼン骨格が互いに平行でないπ電子共役面を有する。そして、HOMOはジフェニルアミノ骨格に主に分布している。したがって、ジフェニルアミノ骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BPMTを配向させることで、正孔移動度を高くできると考えられる。一方、LUMOは、トリアジン骨格と、酸素原子に結合しているベンゼン骨格とに主に分布している。したがって、これらトリアジン骨格、ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BPMTを配向させることで、電子移動度を高くできると考えられる。
【0124】
【化25】
【0125】
下記2,2’,2”−(1,3,5−ベンジントリル)−トリス(1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール)(TPBI)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ベンゾイミダゾール骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが中央付近のベンゼン骨格(三つのベンゾイミダゾール骨格が結合しているベンゼン骨格)に主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TPBIを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0126】
【化26】
【0127】
下記3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−tert−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、トリアゾール骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが、ビフェニル基を構成する二つのベンゼン骨格のうち、トリアゾール骨格に結合しているものに主に分布している。したがって、このベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TAZを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0128】
【化27】
【0129】
下記4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、フェナントロリン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOがフェナントロリン骨格に主に分布している。したがって、フェナントロリン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、BPhenを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0130】
【化28】
【0131】
下記ジフェニルビス(4−(ピリジン−3−イル)フェニル)シラン(DPPS)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ピリジン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが、ピリジン骨格と、このピリジン骨格に結合しているベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらピリジン骨格、ベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、DPPSを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0132】
【化29】
【0133】
下記1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TmPyPB)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ピリジン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが四つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TmPyPBを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0134】
【化30】
【0135】
下記1,3,5−トリ[(3−ピリジル)−フェン−3−イル]ベンゼン(TpPyPB)は、電子輸送層又は電子注入層の材質として好適であり、各ピリジン骨格と各ベンゼン骨格は互いに平行でないπ電子共役面を有し、電子輸送に関与するLUMOが四つのベンゼン骨格に主に分布している。したがって、これらベンゼン骨格のπ電子共役面が基板表面に対して実質的に平行となるように、TpPyPBを配向させることで、キャリア移動度を高くできると考えられる。
【0136】
【化31】
【0137】
<表示装置>
前記有機EL素子を備えた表示装置としては、画像信号を発生して出力する画像信号出力部と、前記画像信号に基づいて電流又は電圧を発生する駆動部と、発生した前記電流又は電圧により発光する発光部とを備え、前記発光部が、前記有機EL素子であるものが例示できる。そして、かかる有機EL素子を備えたこと以外は、従来の表示装置と同様の構成とすることができる。このような表示装置は、前記有機EL素子を備えたことで、電力消費量が少ないものとなる。
以下、図面を参照しながら説明する。
【0138】
図8は、前記有機EL素子を備えた表示装置の一実施形態の要部を例示する概略図であり、(a)は平面図、(b)は1画素の等価回路図、(c)は1画素の平面図である。
ここに示す表示装置5Aは、前記有機EL素子1を用いた有機EL表示装置である。
表示装置5Aにおいては、複数の走査線(ゲート配線)50と、複数の信号線(ソース配線)51とが縦横に配されたマトリクスが形成されており、それぞれの交差部に一つの画素が設けられた画素アレイが形成されている。画素アレイの周囲領域には、走査線50に接続された走査線駆動回路(ゲートドライバ)55と、信号線51に接続された信号線駆動回路(ソースドライバ)56が、それぞれ配置されている。そして、前記走査線駆動回路55及び信号線駆動回路56には、画像表示を行うためのタイミング信号やRGB輝度信号等の画像信号を供給するためのコントローラ57が接続され、さらに走査線50及び信号線51に与える信号電圧を供給するための電源回路59が接続されている。コントローラ57には、表示装置5Aに対して外部より水平・垂直同期信号や画像信号を与えるための外部処理装置58が接続されている。
表示装置5Aを構成する画素アレイの1画素は、図8(b)に示すように、走査線50及び信号線51に接続されたスイッチング用トランジスタ52、画素を駆動するための駆動用トランジスタ53、並びに保持容量54を備え、駆動用トランジスタ53に有機EL素子1からなる画素部が接続されている。有機EL素子1は、駆動電流又は電圧により発光する。
スイッチング用トランジスタ52及び駆動用トランジスタ53は、例えば、一般的な多結晶シリコンを半導体として用いたトランジスタ等で構成できる。以上により表示装置5Aが構成されている。
有機EL素子としては、図1に示すものに限定されず、本発明に係る製造方法が適用された有機薄膜を備えたものであれば、いずれも用いることができる。
【実施例】
【0139】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0140】
<キャリア輸送性有機非晶質薄膜を備えた素子の製造>
[実施例1]
下記手順により、図9に示す素子2を製造した。なお、図9では、図2に示す有機EL素子1の構成要素と同じものには、図2と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
電極及び配線としてパターニングされた厚さ150nmのIZO膜(第一電極12、陽極)が表面に形成された厚さ0.7mmのガラス基板(基材11)を用い、これを水洗後、純水超音波洗浄を10分、アセトン超音波洗浄を10分、イソプロピルアルコール蒸気洗浄を5分、それぞれ順次行い、100℃で1時間乾燥させた。
次いで、酸素ガスを少量含む窒素ガス雰囲気下、前記基板にUV光を照射して、表面を洗浄処理した後、真空蒸着装置内に導入した。
次いで、得られた基板を80℃に加熱し、この温度を保持したまま、蒸着速度1Å/secで、膜厚100nmの2−メチル−9,10−ビス(ナフタレン−2−イル)アントラセン(MADN、Tg120℃、分子量444.57)膜(正孔輸送層13b)を真空蒸着により形成した。
次いで、形成したMADN膜の分子の配向状態を確認するため、基板を取り出し、分光エリプソメーター(M−2000U、J.A.Woollam社製)による測定に供し、得られた測定データを解析し、MADN膜の光学定数(屈折率n及び消衰係数k)を算出した。測定データの解析は、MADN膜が基板に垂直な方向に一軸対称性を有するとしたモデルで行った。結果については後述する。
次いで、基板を再度真空蒸着装置内に導入し、電極及び配線パターンを形成するためのシャドーマスクを用いて、前記MADN膜上に膜厚100nmのアルミニウム(Al)膜(第二電極14、陰極)を真空蒸着により形成した後、封止することで、素子2を製造した。
【0141】
X線反射率測定(XRR)により測定したMADN膜の密度は1.15g/cm3、MADNのTgは120℃、蒸着速度は1Å/secであり、前記式(A)から算出される基板温度TAは61.1℃、1.15Tgは138℃となるので、実際の基材温度80℃は、「TA以上、1.15Tg以下」の条件を満たしていた。
【0142】
[比較例1]
MADN膜の形成を80℃ではなく室温で行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、素子を製造した。
【0143】
<薄膜中の分子の配向状態の確認>
実施例1及び比較例1におけるMADN膜について、算出した前記光学定数(屈折率n及び消衰係数k)を図10に示す。図10中、(a)は実施例1、(b)は比較例1の結果である。また、Sは前記配向パラメータであり、前記式(B)にしたがって算出した値である。
消衰係数(kx、ky、kz)には、ピークが二つ見られた。ここで、x、y及びzは、互いに直交する三つの方向であり、そのうちx及びyは、基材表面(ガラス基板上のIZO膜の表面)と平行な方向であり、zは、基材表面に対して垂直な方向であって、すなわち、kx、ky及びkzは、これらの方向に対応した消衰係数である。
【0144】
Gaussian09Wを用いた非経験的分子軌道計算法のレベルB3LYP/6−31G(d)によるMADNの遷移双極子モーメントの計算結果から、これらのうち波長250nm付近のピークは、図1(a)に示すMADNにおけるアントラセン骨格の長軸方向(y方向)の遷移双極子モーメントに由来し、波長400nm付近のピークは、図1(a)に示すアントラセン骨格の短軸方向(x方向)の遷移双極子モーメントに由来することが判った。
一方、先に説明した通り、図1(b)及び(c)から明らかなように、MADNのHOMO及びLUMOは、主にアントラセン骨格に分布しており、ナフタレン骨格にはほとんど分布していない。
そして、図10から、実施例1では、MADNを構成するアントラセン骨格の長軸方向(y方向)の異方性が強く、これは、アントラセン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行になる傾向があることを意味している。これに対して、比較例1では、アントラセン骨格の短軸方向(x方向、二つのナフタレン骨格を結ぶ方向)の異方性が強く、これは、アントラセン骨格ではなくナフタレン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行になる傾向があることを意味している。このように、MADN膜形成時の基板の温度調節の有無によって、MADN膜の配向性が変化することを確認できた。
【0145】
<薄膜の電気的特性の評価>
実施例1及び比較例1の素子について、電流−電圧(I−V)特性を測定し、実施例1及び比較例1におけるMADN膜の電気的特性を評価した。電流−電圧特性の測定結果を図11に示す。
図11から、実施例1の方が比較例1よりも、印加電圧に対して電流が流れ易く、MADNを構成する二つのナフタレン骨格のπ電子共役面ではなく、アントラセン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行な状態の方が、キャリア移動度が高いことを確認できた。
【0146】
以上の結果から、実施例1におけるMADN膜は、配向性が良好に制御され、電気的特性に優れることが確認できた。
【0147】
<キャリア輸送性有機非晶質薄膜を備えた素子の製造、薄膜中の分子の配向状態の確認、薄膜の電気的特性の評価>
[実施例2]
MADN膜形成時の基板の加熱温度を80℃に代えて90℃とし、蒸着速度を1Å/secに代えて10Å/secとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、素子を製造した。
その結果、MADN膜は、分光エリプソメーターによる測定の結果、実施例1の場合と同じであり、得られた素子は実施例1の素子と同様の電流−電圧(I−V)特性を有し、実施例1よりも印加電圧に対してより電流が流れ易かった。このように、基板の加熱温度を変えても、MADNを構成する二つのナフタレン骨格のπ電子共役面ではなく、アントラセン骨格のπ電子共役面が、基板表面に対して平行な状態の方が、キャリア移動度が高いことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、有機EL素子を備えた有機デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0149】
1・・・有機EL素子、11・・・基材、12・・・第一電極、13・・・有機EL層、13a・・・正孔注入層、13b・・・正孔輸送層、13c・・・発光層、13d・・・正孔ブロッキング層、13e・・・電子輸送層、13f・・・電子注入層、14・・・第二電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、
前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm[Å3]、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
【請求項2】
非経験的分子軌道計算法により導出した最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が、前記有機分子間において基材表面に対して垂直方向に重なることを特徴とする請求項1に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が直線状に並んだ構造を有し、
前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が面状に並んだ構造を有し、
前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記有機分子において、前記Tgが60℃以上であり、分子量が400〜2500であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材の温度を、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で、複数層のキャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造することを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項1】
キャリア輸送性のπ電子共役有機分子を基材上に蒸着させて、キャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造する方法であって、
前記有機分子のガラス転移点Tg[K]、前記薄膜の膜密度から算出される前記有機分子一分子あたりの体積Vm[Å3]、及び前記有機分子の蒸着速度R[Å/sec]を用いて下記式(A)から算出される温度TA[℃]以上で、且つ1.15Tg[K]以下である温度に、前記基材の温度を調節しながら、前記有機分子を蒸着させることを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
TA=0.85×Tg/(1+0.01846×ln(Vm/(600×R))−273 ・・・・(A)
【請求項2】
非経験的分子軌道計算法により導出した最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が、前記有機分子間において基材表面に対して垂直方向に重なることを特徴とする請求項1に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が直線状に並んだ構造を有し、
前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記直線方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記有機分子が、前記最高占有分子軌道又は最低非占有分子軌道が面状に並んだ構造を有し、
前記有機分子が電子輸送性の場合には、最低非占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、あるいは、前記有機分子が正孔輸送性の場合には、最高占有分子軌道の前記面内に存在する平行ではない二つの遷移双極子モーメントの方向に対する2次の配向パラメータSが、それぞれ−0.1〜−0.5の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記有機分子において、前記Tgが60℃以上であり、分子量が400〜2500であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材の温度を、前記有機分子のガラス転移点Tg[K]以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で、複数層のキャリア輸送性有機非晶質薄膜を製造することを特徴とするキャリア輸送性有機非晶質薄膜の製造方法。
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−30406(P2013−30406A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166656(P2011−166656)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]