説明

キャリブレーションシステムおよび電力測定装置

【課題】キャリブレーションを効率的に実行可能な電力測定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】電力測定装置10によって、交流電源装置20から力率1の交流負荷装置30に電力を供給する電力線101から電流および電圧信号が取り出される。電流、電圧信号は、それぞれアナログ回路103、105でアナログ処理された後、A/D変換器104、106でデジタル変換される。電圧信号は、さらに波形位相器107において位相がシフトされる。電力演算器108は、デジタル電流信号および位相シフト後のデジタル電圧信号を入力し、有効電力値APを演算する。CPU109は、波形位相器107に様々な位相補正値PCを出力するとともに対応する有効電力値APを取得する。CPU109は、有効電力値APがピークとなる位相補正値PCを特定し、位相キャリブレーションを終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力測定装置における電力量の測定結果を調整するキャリブレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の施設に供給される電力あるいは各種の負荷装置に供給される出力を測定する電力測定装置がある。電力会社は、電力測定装置の測定結果に基づいて電気料金の請求を行う。つまり、電力測定装置の測定結果は、電気料金計算の基礎になる情報であり、高い精度が求められる。
【0003】
電力測定装置内には、各種のアナログ回路が組み込まれている。電力量を測定するために入力した電流信号や電圧信号は、アナログ回路で処理されることによりゲインや位相にずれが生じる。その結果、電力量の測定値に誤差が生じる。
【0004】
このように、ある負荷装置に対して電力測定装置が測定する電力量と、負荷装置本来の負荷電力との間には誤差が生じることになるが、この誤差の大きさは電力測定装置ごとに異なる。つまり、電力測定装置には装置ごとに固有の特性があり、正確な電力量を測定するためには、電力測定装置ごとの特性を調整するキャリブレーションを行う必要がある。
【0005】
図3は、従来のキャリブレーションシステム50を示す図である。キャリブレーションシステム50は、電力測定装置51、交流電源装置52、負荷装置53、パーソナルコンピュータ54および周波数カウンタ56を備えて構成される。このキャリブレーションシステム50は、電力測定装置51の電力測定精度を調整するためのシステムである。
【0006】
負荷装置53は、力率1.0の装置である。まず、キャリブレーションシステム50は、力率1.0の負荷装置53を利用して、ゲインのキャリブレーションを行う。負荷装置53には、交流電源装置52から電力が供給される。電力測定装置51は、交流電源装置52から負荷装置53に供給される電力量を測定し、CF端子55から測定した電力量に応じたパルス周波数を出力する。CF端子55から出力されたパルス周波数は、周波数カウンタ56でカウントされる。パーソナルコンピュータ54は、電力測定装置51内のレジスタから情報を取得し、あるいは、電力測定装置51内のレジスタに情報を入力する。
【0007】
CF端子55から出力されるパルス周波数は、理論上は、数(1)式に示すとおりである。
【0008】
【数1】

【0009】
数(1)式において、CF_expは、計算により求められる理論上のパルス周波数(Hz)であり、MCは、電力メータ定数(imp/Wh)であり、LDは、負荷装置53の負荷電力(W)であり、PFは、負荷装置53の力率である。ここでは、負荷装置53の力率は1.0であるから、PF=1.0である。
【0010】
これに対して、実際に電力測定装置51において測定されるパルス周波数は、数(2)式で表される。
【0011】
【数2】

【0012】
数(2)式において、CF_realは、電力測定装置51内のレジスタ値に基づいて演算されたパルス周波数(Hz)であり、PMRは、電力測定装置51内の電力情報レジスタの値である。また、Tは、測定時間(秒)であり、GRは、電力測定装置51内の電力情報レジスタの値を補正するためのゲイン調整レジスタの値である。
【0013】
そして、数(3)式に示すように、理論上のパルス周波数CF_expと測定されたパルス周波数CF_realとのゲイン誤差PowerErrorを求める。ゲイン誤差PowerErrorとは、電流信号と電圧信号のゲインのずれによって生じるパルス周波数の誤差である。
【0014】
【数3】

【0015】
このようにして、ゲイン誤差PowerErrorが求められるので、ゲイン誤差PowerErrorが0となるように、ゲイン調整レジスタの値を調整する。そして、ゲイン誤差PowerErrorが0となったところで、周波数カウンタ56のカウント値を確認し、負荷装置53の負荷電力と一致していれば、ゲインキャリブレーションを終了する。ゲインキャリブレーションが終了した時点でゲイン調整レジスタに設定されていた値は固定される。
【0016】
ゲインキャリブレーションが終了すると、続いて、位相キャリブレーションを行う。図4に示すように、キャリブレーションシステム50には、力率0.5の負荷装置57が接続される。その他の構成は、図3と同様である。
【0017】
CF端子55から出力されるパルス周波数の理論値は、数(1)式と同様の式で求められる。ただし、PF=1.0となるため、力率1.0の状態で求められた理論値CF_expを用いて表すと、PF=0.5の場合の理論値は、CF_exp/2となる。
【0018】
これに対して、実際に電力測定装置51において測定されるパルス周波数は、数(4)式で表される。
【0019】
【数4】

【0020】
数(4)式において、CF(0.5)_realは、電力測定装置51内のレジスタ値に基づいて演算されたパルス周波数(Hz)である。PRは、電力測定装置51内の電力情報レジスタの値を補正するための位相調整レジスタの値である。
【0021】
そして、数(5)式に示すように、理論上のパルス周波数CF_exp/2と測定されたパルス周波数CF(0.5)_realとの位相誤差PhaseErrorを求める。位相誤差PhaseErrorとは、電流信号と電圧信号の位相のずれによって生じるパルス周波数の誤差である。
【0022】
【数5】

【0023】
このようにして、位相誤差PhaseErrorが求められるので、位相誤差PhaseErrorが0となるように、位相調整レジスタの値を調整する。そして、位相誤差PhaseErrorが0となったところで、周波数カウンタ56のカウント値を確認し、負荷装置57の負荷電力と一致していれば、位相キャリブレーションを終了する。位相キャリブレーションが終了した時点での位相調整レジスタの値を固定することで、電力測定装置51の調整作業は終了する。調整作業の終了した電力測定装置51は、出荷され、実際の環境で電力測定に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2000−74961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上述したように、従来のキャリブレーションシステム50においては、まず、力率1.0の負荷装置53を用いてゲインキャリブレーションを行い、続いて、力率0.5の負荷装置57を利用して位相キャリブレーションを行うようにしていた。なお、位相キャリブレーションを行うためには、力率1.0以外の値であれば他の力率の負荷装置を利用することもできる。そして、ゲイン調整レジスタおよび位相調整レジスタの値を調整することで、電力測定装置51に対するゲインおよび位相キャリブレーションを行うことができる。
【0026】
しかし、ゲインキャリブレーションシステム50を利用する場合、ゲインキャリブレーションを行うための力率1.0の負荷装置と、位相キャリブレーションを行う力率1.0以外の負荷装置を2種類用意する必要があった。また、力率1.0の負荷装置に比べると、力率0.5などの精度の高い負荷装置を準備することは簡単ではない。したがって、従来のキャリブレーションシステム50は、システムの設定、構築に手間がかかり、生産性が悪かった。さらには、負荷装置の理論上の負荷電力を比較対象とするため、負荷装置の高い精度が必要であった。
【0027】
上記特許文献1において、電力計は位相調整回路を備えている。特許文献1に係る位相調整回路は、アナログ回路により構成されており、可変抵抗器の抵抗値を加減することによって、電流・電圧間の位相を調整するようにしている。
【0028】
そこで、本発明は前記問題点に鑑み、キャリブレーションを効率的に実行可能な電力測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、交流電源装置と、前記交流電源装置から電力の供給を受ける力率1の交流負荷装置と、前記交流電源装置から前記交流負荷装置に供給される電力を測定する電力測定装置と、を備え、前記電力測定装置は、前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電流信号を入力する第1アナログ回路と、前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電圧信号を入力する第2アナログ回路と、前記第1アナログ回路から出力された電流信号をデジタル変換する第1変換回路と、前記第2アナログ回路から出力された電圧信号をデジタル変換する第2変換回路と、前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号と前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号とから電力値を演算する電力演算回路と、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整する制御回路と、を備えることを特徴とする。
【0030】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のキャリブレーションシステムにおいて、さらに、前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号の位相を調整する位相調整回路、を備え、前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とする。
【0031】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載のキャリブレーションシステムにおいて、さらに、前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号の位相を調整する位相調整回路、を備え、前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とする。
【0032】
請求項4記載の発明は、キャリブレーション機能を備えた電力測定装置であって、前記電力測定装置は、交流電源装置および力率1の交流負荷装置に接続されることで前記交流電源装置から前記交流負荷装置に供給される電力を測定することが可能であり、前記電力測定装置は、前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電流信号を入力する第1アナログ回路と、前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電圧信号を入力する第2アナログ回路と、前記第1アナログ回路から出力された電流信号をデジタル変換する第1変換回路と、前記第2アナログ回路から出力された電圧信号をデジタル変換する第2変換回路と、前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号と前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号とから電力値を演算する電力演算回路と、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整する制御回路と、を備えることを特徴とする。
【0033】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載の電力測定装置において、さらに、前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号の位相を調整する位相調整回路、を備え、前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とする。
【0034】
請求項6記載の発明は、請求項4に記載の電力測定装置において、さらに、前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号の位相を調整する位相調整回路、を備え、前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明のキャリブレーションシステムは、デジタル領域で電流信号と電圧信号の位相を調整するので、電力測定装置のキャリブレーション作業を自動化させることが可能である。
【0036】
また、力率1の交流負荷装置を利用して、位相キャリブレーションを行うことができるので、ゲインキャリブレーションと位相キャリブレーションを行うために、2種類の力率の負荷装置を準備する必要はない。力率1の負荷装置を利用して、ゲインキャリブレーションと位相キャリブレーションの両方を行うことができる。
【0037】
また、力率0.5など力率1以外の負荷装置を準備する必要がないので、汎用的な力率1の負荷装置を利用することができ、キャリブレーションシステムの構築、設定が容易である。
【0038】
さらには、負荷装置の理論上の負荷電力を比較対象とするのではなく、計測された電力の分布から位相調整を行うので、負荷装置に求められる精度のレベルを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施の形態のキャリブレーションシステムを示す図である。
【図2】位相調整方法を示す図である。
【図3】従来のキャリブレーションシステムを示す図である。
【図4】従来のキャリブレーションシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るキャリブレーションシステム1を示す図である。キャリブレーションシステム1は、電力測定装置10、交流電源装置20および交流負荷装置30などを備えて構成される。
【0041】
キャリブレーションシステム1は、電力測定装置10のゲインおよび位相キャリブレーションを実行するためのシステムである。つまり、キャリブレーションシステム1は、電力測定装置10の調整工程において利用されるシステムである。調整工程が終了すれば、電力測定装置10は、キャリブレーションシステム1から取り外され、実際に電力を測定する環境で使用される。交流電源装置20および交流負荷装置30は、電力測定装置10のキャリブレーション作業のために用いられる調整用の装置である。上記のように、本実施の形態のキャリブレーションシステム1は、ゲインおよび位相キャリブレーションの両方を実行することが可能であるが、以下の説明においては、位相キャリブレーションを実行する場合を例に説明する。
【0042】
電力測定装置10は、カレントトランス102、アナログ回路103、A/D変換器104、アナログ回路105、A/D変換回路106、波形移相器107、電力演算器108、CPU109、メモリ110を備えて構成される。
【0043】
交流電源装置20と交流負荷装置30とは、電力線101を介して接続されており、交流電源装置20からの電力が電力線101を介して交流負荷装置30に供給される。
【0044】
電力線101には、カレントトランス102が取り付けられている。カレントトランス102によって取り出された電流信号は、アナログ回路103に入力される。
【0045】
アナログ回路103は、アンプ、フィルタ回路などを備えており、電流信号の増幅やノイズ除去などを行う。アナログ回路103から出力された電流信号は、A/D変換器104においてデジタル変換される。
【0046】
A/D変換器104においてデジタル変換された電流信号は、デジタルの電流信号として電力演算器108に入力される。
【0047】
また、電力線101から取り出された電圧信号は、アナログ回路105に入力される。アナログ回路105は、アンプ、フィルタ回路などを備えており、電圧信号の増幅やノイズ除去などを行う。アナログ回路105から出力された電圧信号は、A/D変換器106においてデジタル変換される。
【0048】
A/D変換器106においてデジタル変換された電圧信号は、波形移相器107に入力される。波形移相器107は、CPU109から入力した位相補正値PCに基づいて電圧信号の位相をシフトする。位相がシフトされたデジタルの電圧信号は、電力演算器108に入力される。
【0049】
電力演算器108は、A/D変換器104から入力したデジタルの電流信号と、波形移相器107から入力したデジタルの電圧信号とから有効電力値APを算出する。電力演算器108は、算出した有効電力値APをCPU109に出力する。
【0050】
CPU109は、有効電力値APを入力すると、現在、波形移相器107に設定している位相補正値PCと電力演算器108から入力した有効電力値APとを対応付けてメモリ110に格納する。続いて、CPU109は、現在設定されている位相補正値PCを異なる値に変更し、変更後の位相補正値PCを波形移相器107に出力する。
【0051】
波形移相器107は、変更後の位相補正値PCに基づいてデジタルの電圧信号の位相をシフトさせ、位相をシフトさせた電圧信号を電力演算器108に出力する。電力演算器108は、位相シフトされた電圧信号に基づいて有効電力値APを算出し、算出した有効電力値APをCPU109に出力する。CPU109は、変更後の位相補正値PCと更新された有効電力値APとを対応付けてメモリ110に格納する。
【0052】
この後も同様に、CPU109は、位相補正値PCを順次変更し、変更された位相補正値PCと、更新された有効電力値APとを対応付けてメモリ110に格納する。図2は、電流・電圧間の位相と有効電力値APとの関係を示す図である。
【0053】
図2(A)は、電流が電圧に対して遅れ位相となっている状態を示している。図2(B)は、電流と電圧が同位相となっている状態を示している。図2(C)は、電流が電圧に対して進み位相となっている状態を示している。図2(A)および図2(C)の状態における有効電力値APと瞬時電力値IPは、図2(B)の状態に比べて小さくなる。したがって、位相補正値PCを変更し、電流と電圧との間の位相を変化させていくと、図2(D)に示すように、有効電力値APの値が変動する。そして、電流と電圧との位相が同じになったところで有効電圧値APのピークが検出される。
【0054】
交流負荷装置30は、力率1.0の負荷装置であり、電流と電圧とは同位相である。電力演算器108に入力される電流信号と電圧信号に生じている位相のずれは、電力測定装置10内、特にアナログ回路103、105において生じた位相のずれである。したがって、波形移相器107において電流と電圧との間の位相を調整することで、有効電力値APのピークが得られれば、その有効電力値APは、交流負荷装置30の負荷電力値と等しくなる。
【0055】
CPU109は、上述したように、位相補正値PCと有効電力値APとを対応付けてメモリ110に格納している。CPU109は、メモリ110に格納された位相補正値PCと有効電力値APとの情報から、有効電力値APがピーク値をとる位相補正値PCを特定することができる。
【0056】
たとえば、CPU109は、所定の間隔で順番に位相補正値PCを変化させて、位相補正値PCを−180度から+180度まで変化させ、全ての位相補正値PCと有効電力値APとの対応を取得することで、有効電力値APのピークを検出することができる。あるいは、交流負荷装置30の力率は1.0であり、位相のずれはそれ程大きな値でないことを考慮し、位相補正値PCの設定範囲を狭くしてもよい。あるいは、有効電力値APの値が上昇から下降に転じたポイントでピークを検出するようにしてもよい。
【0057】
CPU109は、有効電力値APがピーク値をとる位相補正値PCを波形移相器107に出力し、キャリブレーションを終了する。CPU109は、波形移相器107に対する位相補正値PCの出力を停止する。これにより、有効電力値APがピーク値をとる状態で波形移相器107における位相シフト量が固定される。
【0058】
このように、本実施の形態のキャリブレーションシステム1は、デジタル領域において、電流信号と電圧信号の位相を調整するので、電力測定装置10に対するキャリブレーション作業を自動化することができる。
【0059】
そして、交流負荷装置30として、力率1.0の負荷装置を利用することで、位相キャリブレーションを行うことができる。したがって、位相キャリブレーションを行うために、力率1.0以外の他の力率の負荷装置を準備する必要はない。力率1.0の負荷装置を利用して、ゲインおよび位相の両方のキャリブレーションを行うことができる。また、力率1.0の装置は、汎用的な装置を容易に準備することができるので、システムの構築、設定が容易である。
【0060】
上記の実施の形態においては、電圧信号を波形移相器107に入力し、電圧信号の位相をシフトさせた。別の実施の形態として、電流信号を波形移相器に入力し、電流信号の位相をシフトさせることで、電流信号と電圧信号との間の位相を調整するようにしてもよい。
【0061】
つまり、図1に示した電力測定装置10においては、A/D変換器106と電力演算器108との間に波形移相器107が設けられているが、これに代えて、A/D変換器104と電力演算器108との間に波形移相器を設ける。そして、CPU109から出力される位相補正値に基づいて電流信号の位相をシフトさせるのである。
【0062】
上記の実施の形態においては、キャリブレーションシステム1によって電力測定装置10内で生じる位相のずれを補正する場合を例に説明した。上述したように、本実施の形態の電力測定装置1は、ゲインキャリブレーションを行う場合にもそのまま利用できる。実際には、本実施の形態のキャリブレーションシステム1を利用して、まずゲインキャリブレーションを行い、次に、位相キャリブレーションを行えばよい。
【0063】
ゲインキャリブレーションを実行する場合には、波形位相器107に代えてゲイン調整回路を動作させればよい。ゲイン調整器は、A/D変換器104と電力演算器108との間に設けてもよいし、A/D変換気106と電力演算器108との間に設けてもよい。CPU109は。電力演算器108から入力した電力量と理論値との差を吸収するように、ゲイン調整器を制御すればよい。
【符号の説明】
【0064】
1 キャリブレーションシステム
10 電力測定装置
20 交流電源装置
30 交流負荷装置
AP 有効電力値
IP 瞬時電力値
PC 位相補正値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源装置と、
前記交流電源装置から電力の供給を受ける力率1の交流負荷装置と、
前記交流電源装置から前記交流負荷装置に供給される電力を測定する電力測定装置と、を備え、
前記電力測定装置は、
前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電流信号を入力する第1アナログ回路と、
前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電圧信号を入力する第2アナログ回路と、
前記第1アナログ回路から出力された電流信号をデジタル変換する第1変換回路と、
前記第2アナログ回路から出力された電圧信号をデジタル変換する第2変換回路と、
前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号と前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号とから電力値を演算する電力演算回路と、
前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整する制御回路と、
を備えることを特徴とするキャリブレーションシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリブレーションシステムにおいて、さらに、
前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号の位相を調整する位相調整回路、
を備え、
前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とするキャリブレーションシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のキャリブレーションシステムにおいて、さらに、
前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号の位相を調整する位相調整回路、
を備え、
前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とするキャリブレーションシステム。
【請求項4】
キャリブレーション機能を備えた電力測定装置であって、
前記電力測定装置は、交流電源装置および力率1の交流負荷装置に接続されることで前記交流電源装置から前記交流負荷装置に供給される電力を測定することが可能であり、
前記電力測定装置は、
前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電流信号を入力する第1アナログ回路と、
前記交流電源装置と前記交流負荷装置との間の電圧信号を入力する第2アナログ回路と、
前記第1アナログ回路から出力された電流信号をデジタル変換する第1変換回路と、
前記第2アナログ回路から出力された電圧信号をデジタル変換する第2変換回路と、
前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号と前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号とから電力値を演算する電力演算回路と、
前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整する制御回路と、
を備えることを特徴とする電力測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力測定装置において、さらに、
前記第2変換回路から出力されたデジタル電圧信号の位相を調整する位相調整回路、
を備え、
前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とする電力測定装置。
【請求項6】
請求項4に記載の電力測定装置において、さらに、
前記第1変換回路から出力されたデジタル電流信号の位相を調整する位相調整回路、
を備え、
前記制御回路は、前記位相調整回路を制御することで、前記電力演算回路で演算される電力値がピーク値を取るようにデジタル電流信号とデジタル電圧信号との間の位相を調整することを特徴とする電力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216997(P2010−216997A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64258(P2009−64258)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)