説明

キャンバ制御装置及びキャンバ制御方法

【課題】電源装置を小型化することができ、車両を小型化することができ、車両のコストを低くすることができるようにする。
【解決手段】車両のボディと、複数の車輪と、所定の車輪とボディとの間に配設され、モータ41を備え、車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、電源装置と、電源装置からモータ41にキャンバ角付与電流を供給して車輪にャンバ角を付与する第1のモータ駆動処理手段と、電源装置からモータ41にキャンバ角解除電流を供給して車輪へのキャンバ角の付与を解除する第2のモータ駆動処理手段とを有する。キャンバ角付与電流はキャンバ角解除電流より大きくされる。車輪にキャンバ角を付与する際にモータ41に大きい電流が供給されるので、急速にキャンバ角を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバ制御装置及びキャンバ制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪にキャンバ角を付与するために、油圧式のアクチュエータを使用した車両が提供されている。
【0003】
該車両においては、アクチュエータに油圧シリンダが配設され、該油圧シリンダに油圧源からの油圧が供給されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許明細書第6347802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、車輪に付与されたキャンバ角を維持しようとすると、前記油圧シリンダに、常時、所定の油圧を供給するための動力が必要になり、例えば、油圧源を駆動するためのエンジンの効率が低下するだけでなく、車両の燃費が悪くなってしまう。
【0006】
そこで、アクチュエータにモータを使用してキャンバ角を付与することが考えられる。
【0007】
ところが、モータを駆動することによってキャンバ角を付与しようとすると、モータを駆動するために大きな電力が必要になり、モータに電力を供給するための電源装置としてのバッテリの容量を大きくする必要がある。
【0008】
その結果、バッテリが大型化し、車両が大型化するだけでなく、車両のコストが高くなってしまう。
【0009】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、電源装置を小型化することができ、車両を小型化することができ、車両のコストを低くすることができるキャンバ制御装置及びキャンバ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明のキャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該複数の車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、モータを備え、該モータを駆動することによって、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、前記モータに電流を供給する電源装置と、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角付与電流を供給して前記所定の車輪にキャンバ角を付与する第1のモータ駆動処理手段と、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角解除電流を供給して前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する第2のモータ駆動処理手段とを有する。
【0011】
そして、前記キャンバ角付与電流は、前記キャンバ角解除電流より大きくされる。
【0012】
本発明の他のキャンバ制御装置においては、さらに、前記電源装置はバッテリ及び充電要素を備える。
【0013】
そして、第1のモータ駆動処理手段はバッテリ及び充電要素からモータに電流を供給する。
【0014】
また、第2のモータ駆動処理手段はバッテリからモータに電流を供給する。
【0015】
本発明の更に他のキャンバ制御装置においては、さらに、前記電源装置は、バッテリ、充電要素、及び該充電要素をバッテリから切り離すことを可能にするスイッチ要素を有する。
【0016】
そして、前記第2のモータ駆動処理手段は、前記スイッチ要素をオフにして、バッテリからモータに電流を供給する。
【0017】
本発明の更に他のキャンバ制御装置においては、さらに、前記第2のモータ駆動処理手段は、充電要素の充電が終了した後、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する。
【0018】
本発明の更に他のキャンバ制御装置においては、さらに、キャンバ角が付与される車輪のタイヤに、転がり抵抗及びグリップ性能が異なる複数の領域が形成される。
【0019】
そして、前記第1のモータ駆動処理手段は、前記所定の車輪にキャンバ角を付与することによってグリップ性能が高い領域を路面に接地させる。
【0020】
また、前記第2のモータ駆動処理手段は、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除することによって転がり抵抗が小さい領域を路面に接地させる。
【0021】
本発明のキャンバ制御方法においては、車両のボディ、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪、該複数の車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、モータを備え、該モータを駆動することによって、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータ、並びに前記モータに電流を供給する電源装置を備えた車両に適用される。
【0022】
そして、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角付与電流を供給して前記所定の車輪にキャンバ角を付与し、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角解除電流を供給して前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する。
【0023】
また、前記キャンバ角付与電流は、前記キャンバ角解除電流より大きくされる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該複数の車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、モータを備え、該モータを駆動することによって、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、前記モータに電流を供給する電源装置と、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角付与電流を供給して前記所定の車輪にキャンバ角を付与する第1のモータ駆動処理手段と、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角解除電流を供給して前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する第2のモータ駆動処理手段とを有する。
【0025】
そして、前記キャンバ角付与電流は、前記キャンバ角解除電流より大きくされる。
【0026】
この場合、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記電源装置からモータに大きい電流が供給され、前記所定の車輪にキャンバ角が付与されるので、急速にキャンバ角を付与することができ、車両の安定性を高くすることができる。
【0027】
また、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記電源装置からモータに小さい電流が供給されるので、電源装置の容量を小さくすることができる。したがって、電源装置を小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。
【0028】
本発明の他のキャンバ制御装置においては、さらに、前記電源装置はバッテリ及び充電要素を備える。
【0029】
そして、第1のモータ駆動処理手段はバッテリ及び充電要素からモータに電流を供給する。
【0030】
また、第2のモータ駆動処理手段はバッテリからモータに電流を供給する。
【0031】
この場合、車輪にキャンバ角が付与されるときに、バッテリ及び充電要素からモータに電流が供給され、車輪へのキャンバ角の付与が解除されるときに、バッテリからモータに電流が供給されるので、バッテリ及び充電要素の容量を小さくすることができ、バッテリ及び充電要素を小型化することができる。
【0032】
本発明の更に他のキャンバ制御装置においては、さらに、前記第2のモータ駆動処理手段は、充電要素の充電が終了した後、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する。
【0033】
この場合、充電要素の充電が終了するまでは、キャンバ角の付与が解除されないので、充電要素を十分に充電することができる。したがって、急に、車輪にキャンバ角を付与する必要が生じても、確実にキャンバ角を付与することができる。
【0034】
本発明の更に他のキャンバ制御装置においては、さらに、キャンバ角が付与される車輪のタイヤに、転がり抵抗及びグリップ性能が異なる複数の領域が形成される。
【0035】
そして、前記第1のモータ駆動処理手段は、前記所定の車輪にキャンバ角を付与することによってグリップ性能が高い領域を路面に接地させる。
【0036】
また、前記第2のモータ駆動処理手段は、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除することによって転がり抵抗が小さい領域を路面に接地させる。
【0037】
この場合、急速にキャンバ角を付与し、グリップ性能が高い領域を路面に接地させることができるので、車両の安定性を一層高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態におけるキャンバ駆動回路部を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【図4】本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における電力供給処理手段の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0040】
図3は本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【0041】
図において、11は車両の本体であるボディ、12は駆動源としてのエンジン、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪であり、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。そして、前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。なお、この場合、前記車両は前輪駆動方式の構造を有し、前記エンジン12と車輪WLF、WRFとが図示されないドライブシャフトによって連結される。エンジン12を駆動することによって発生させられた回転は車輪WLF、WRFに伝達され、該車輪WLF、WRFが、回転させられ、駆動輪として機能する。
【0042】
また、13は車両の操舵を行うための操作部としての、かつ、操舵装置としてのステアリングホイール、14は車両を加速するための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダル、15は車両を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルであり、操作者としての運転者がステアリングホイール13を操作して回転させると、ステアリングホイール13の操作量を表すステアリング角度に応じて車輪WLF、WRFに舵角が付与され、車両を旋回させることができる。また、運転者がアクセルペダル14を踏み込むと、アクセルペダル14の操作量を表す踏込量(ストローク)に応じて車両を加速することができ、運転者がブレーキペダル15を踏み込むと、ブレーキペダル15の操作量を表す踏込量に応じて車両を制動することができる。なお、前記舵角は、ステアリングホイール13の回転に伴って車輪WLF、WRFの向きが変化させられたときの、車両の前後方向と車輪WLF、WRFの向きとが成す角度である。
【0043】
そして、31、32は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLF、WRFとの間に配設され、各車輪WLF、WRFを回転自在に支持するとともに、各車輪WLF、WRFに舵角を独立させて形成し、キャンバ角を独立させて付与するためのアクチュエータ(車輪駆動部)、33、34は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLB、WRBを回転自在に支持するとともに、各車輪WLB、WRBにキャンバ角を独立させて付与するためのアクチュエータである。なお、アクチュエータ31、32によってキャンバ角可変機構及び舵角可変機構が、アクチュエータ33、34によってキャンバ角可変機構が構成される。
【0044】
各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにおいては、タイヤ36のトレッド37が、転がり抵抗及びグリップ性能が異なる幅方向における複数の領域、本実施の形態においては、二つの領域に分割され、トレッド37の幅方向における中心を表す中心線を区分線Ld1としたとき、該区分線Ld1より外側(ボディ11から離れる側)に、損失正接を小さくすることによって、転がり抵抗が小さく、グリップ性能が低くされた第1の領域としての低転がり抵抗領域38が、区分線Ld1より内側(ボディ11側)に、損失正接を大きくすることによって、転がり抵抗が大きく、グリップ性能が高くされた第2の領域としての高グリップ領域39が形成される。
【0045】
そのために、前記低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39の各外周面には、それぞれ異なる溝のパターン(以下「トレッドパターン」という。)が形成される。すなわち、低転がり抵抗領域38には、タイヤ36の円周方向において溝が連続するリブタイプのトレッドパターンが形成され、高グリップ領域39には、タイヤ36の幅方向において溝が連続するラグタイプのトレッドパターンが形成される。また、高グリップ領域39に、独立した複数のブロックを備えるブロックタイプのトレッドパターンを形成することもできる。
【0046】
本実施の形態において、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39は、トレッドパターンを異ならせることによって形成されるようになっているが、トレッド37の材料を異ならせることによって低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39を形成することもできる。
【0047】
なお、前記損失正接は、トレッド37が変形する際のエネルギーの吸収の度合いを示し、貯蔵剪(せん)断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほどエネルギーの吸収が少なくなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が小さくなり、グリップ性能が低くなり、タイヤ36に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほどエネルギーの吸収が多くなるので、転がり抵抗が大きくなり、グリップ性能が高くなり、タイヤ36に発生する摩耗が多くなる。
【0048】
本実施の形態においては、前記区分線Ld1がトレッド37の幅方向における中心に置かれるようになっているが、区分線Ld1をトレッド37の幅方向における任意の位置に置き、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39の各接地面積の割合を異ならせることもできる。
【0049】
前記構成の車両においては、通常走行時に低転がり抵抗領域38を路面に接地させると、転がり抵抗が小さくされるので、燃費を良くすることができる。また、車両の加速時、制動時、旋回時等に高グリップ領域39を路面に接地させると、グリップ性能が高くされるので、車両の加速性を高くしたり、制動距離を短くしたり、横すべりが発生するのを防止したりすることによって車両の安定性を高くすることができる。
【0050】
次に、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与するためのキャンバ角可変機構について説明する。この場合、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにおけるキャンバ角可変機構の構造は同じであるので、左前方の車輪WLFについてだけ説明する。
【0051】
図4は本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【0052】
図において、21はホイール、31はアクチュエータ、36はホイール21に配設されたタイヤである。
【0053】
前記アクチュエータ31は、ベース部材としての図示されないナックルに固定されたキャンバ制御用の駆動部としてのモータ41、前記ナックルに対して揺動自在に配設された可動部材としての可動プレート43、前記モータ41の回転運動を可動プレート43の揺動運動に変換する運動方向変換部としてのクランク機構45、前記エンジン12(図2)の回転をホイール21に伝達する伝動軸としてのドライブシャフト46、前記ステアリングホイール13を操作するのに伴って車輪WLFの向きを変えるための操舵部材としてのロワアーム48を備える。なお、前記モータ41は直流モータから成る。
【0054】
そして、前記ホイール21は、可動プレート43に対して回転自在に支持され、ドライブシャフト46と連結される。
【0055】
また、前記クランク機構45は、前記モータ41の出力軸に取り付けられた第1の変換要素としてのウォームギヤ51、前記ナックルに対して回転自在に配設され、前記ウォームギヤ51と噛(し)合させられる第2の変換要素としてのウォームホイール52、及びウォームホイール52と可動プレート43とを連結する第3の変換要素としてのアーム53を有する。該アーム53は、一端において、ウォームホイール52の回転軸から偏心させた位置で、第1の連結部によってウォームホイール52と連結され、他端において、可動プレート43の上端の位置で、第2の連結部によって可動プレート43と連結される。この場合、可動プレート43によって第4の変換要素が構成される。
【0056】
前記ウォームギヤ51及びウォームホイール52によって、回転運動の軸の向きが変換され、ウォームホイール52及びアーム53によって回転運動が直進運動に変換され、アーム53及び可動プレート43によって直進運動が揺動運動に変換される。
【0057】
したがって、モータ41を駆動すると、ウォームギヤ51及びウォームホイール52が回転させられ、アーム53が進退させられ、可動プレート43が揺動させられる。その結果、可動プレート43が傾けられた角度のキャンバ角が車輪WLFに付与される。
【0058】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0059】
図2は本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0060】
図において、16は車両全体の制御を行うとともに、コンピュータを構成する制御部、41はそれぞれ前記車輪WLF、WRF、WLB、WRB(図3)ごとに配設されたモータ、61は第1の記憶部としてのROM、62は第2の記憶部としてのRAM、63は車速を検出する車速検出部としての車速センサ、64はステアリングホイール13のステアリング角度を検出する操舵検出部としてのステアリングセンサ、65は車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ、66は横G及び前後Gを検出する加速度検出部としてのGセンサ、68は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角を検出するキャンバ角検出部としてのキャンバ角センサ、80はモータ41の駆動を制御するキャンバ駆動回路部である。
【0061】
前記構成の車両において、前記制御部16の図示されないキャンバ制御処理手段は、キャンバ制御処理を行い、通常走行時に、低転がり抵抗領域38を路面に接地させることによって燃費を良くし、車両の加速時、制動時、旋回時等に、運転者によるアクセルペダル14、ブレーキペダル15、ステアリングホイール13等の操作量、車両に加わる横G、前後G等の加速度、ヨーレート等の各パラメータが一定の条件を満たすと、車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの所定の車輪、本実施の形態においては、すべての車輪WLF、WRF、WLB、WRBにネガティブ(負の)キャンバ角を付与し、高グリップ領域39を路面に接地させることによって車両の安定性を高くする。なお、本実施の形態においては、キャンバ角が付与されない状態で低転がり抵抗領域38が路面に接地させられる。
【0062】
そのために、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ角付与条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与条件成立判断処理を行い、前記各パラメータを読み込み、各パラメータがそれぞれ設定された第1の閾(しきい)値より大きいかどうかによって、キャンバ角を付与する条件、すなわち、キャンバ角付与条件が成立したかどうかを判断する。
【0063】
各パラメータのうちの少なくとも一つのパラメータが第2の閾値より大きい場合、急加速、急制動、急旋回等が行われたと判断することができるので、キャンバ角付与条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与条件が成立したと判断し、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ設定処理手段は、キャンバ設定処理を行い、キャンバオン指令を出力する。
【0064】
また、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ角付与解除条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与解除条件成立判断処理を行い、前記パラメータが前記第1の閾値より所定の値だけそれぞれ小さく設定された第2の閾値より小さいかどうかによって、キャンバ角の付与を解除する条件、すなわち、キャンバ角付与解除条件が成立したかどうかを判断する。
【0065】
前記パラメータが前記第2の閾値より小さい場合、急加速、急制動、急旋回等が行われていないと判断することができるので、キャンバ角付与解除条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与解除条件が成立したと判断する。
【0066】
このようにして、キャンバ角付与解除条件が成立したと判断されると、前記キャンバ設定処理手段は、キャンバオフ指令を出力する。
【0067】
ところで、前述されたように、本実施の形態においては、モータ41を駆動することによってキャンバ角を付与したり、キャンバ角の付与を解除したりするようになっているので、モータ41を駆動するために大きな電力が必要になる。
【0068】
各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに負のキャンバ角を付与する場合、短時間で高グリップ領域39を路面に接地させ、車両の安定性を高くする必要があるので、急速にキャンバ角を付与する必要があるのに対して、キャンバ角の付与を解除する場合、短時間で低転がり抵抗領域38を路面に接地させたり、燃費を良くしたりする必要がないので、急速にキャンバ角の付与を解除する必要はない。
【0069】
そこで、本実施の形態においては、バッテリのほかに充電要素としてのキャパシタが配設され、制御部16の図示されない電力供給処理手段が、電力供給処理を行い、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに負のキャンバ角を付与する必要がある場合、バッテリ及びキャパシタから大きい電力がモータ41に供給され、キャンバ角の付与を解除する必要がある場合、バッテリから小さい電力がモータ41に供給されるようになっている。なお、充電要素としてコンデンサを使用することもできる。
【0070】
図1は本発明の実施の形態におけるキャンバ駆動回路部を示す図、図5は本発明の実施の形態における電力供給処理手段の動作を示すフローチャートである。
【0071】
図1において、Btはバッテリ、Cpはキャパシタ、41はモータ、s1は第1のスイッチ要素としてのキャパシタリレー、s2〜s5は第2〜第5のスイッチ要素としての切替リレーである。前記キャパシタリレーs1はキャパシタCpをバッテリBtから切り離すことを可能にするために配設させる。本実施の形態においては、各スイッチ要素としてキャパシタリレー、切替リレー等のリレーが使用されるようになっているが、各スイッチ要素としてトランジスタ等を使用することができる。なお、前記バッテリBt及びキャパシタCpによって電源装置が構成される。
【0072】
前記バッテリBtに対して、第1〜第3の回路部cr1〜cr3が互いに並列に接続され、第1の回路部cr1にキャパシタリレーs1及びキャパシタCpが直列に接続され、第2の回路部cr2に切替リレーs2、s3が直列に接続され、第3の回路部cr3に切替リレーs4、s5が直列に接続される。そして、切替リレーs2、s3の結線部p1と、切替リレーs4、s5の結線部p2とを接続することによって形成された第4の回路部cr4に前記モータ41が配設される。
【0073】
なお、初期状態において、前記キャパシタリレーs1はオンにされ、切替リレーs2〜s5はオフにされ、バッテリBtからキャパシタCpに電流(直流)が供給され、キャパシタCpが充電される。
【0074】
そして、前記電力供給処理手段は、キャンバオン指令が出力されるのを待機し、キャンバオン指令が出力されると、前記電力供給処理手段の第1のモータ駆動処理手段としてのモータ正方向駆動処理手段は、第1のモータ駆動処理としてのモータ正方向駆動処理を行い、切替リレーs2、s5をオンにし、切替リレーs3、s4をオフにする。
【0075】
これに伴って、バッテリBtからの電流が、切替リレーs2、モータ41及び切替リレーs5を流れるとともに、キャパシタCpからの電流が切替リレーs1、切替リレーs2、モータ41及び切替リレーs5を流れ、モータ41を正方向に駆動し、あらかじめ設定されたキャンバ角が各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与される。この場合、前記キャンバ角センサ68によって各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角が検出され、前記モータ正方向駆動処理手段は、検出されたキャンバ角が設定されたキャンバ角と等しくなると、切替リレーs2、s4をオフにし、切替リレーs3、s5をオンにする。その結果、モータ41及び切替リレーs3、s5が接続され、電流が短絡することによってモータ41を短絡制動し、停止させることができる。
【0076】
このようにして、モータ41に大きい電流が供給され、モータ41が正方向に駆動されているときに、キャンバオフ指令が出力されると、前記電力供給処理手段の充電終了判断処理手段は、充電終了判断処理を行い、キャパシタCpの充電が終了するのを待機する。なお、前記バッテリBt及びキャパシタCpからの電流によって、キャンバ角付与電流が構成される。
【0077】
そして、キャパシタCpの充電が終了すると、前記電力供給処理手段の電源切替処理手段は、電源切替処理を行い、前記キャパシタリレーs1をオフにする。
【0078】
前記電力供給処理手段の第2のモータ駆動処理手段としてのモータ逆方向駆動処理手段は、第2のモータ駆動処理としてのモータ逆方向駆動処理を行い、切替リレーs2、s5をオフにし、切替リレーs3、s4をオンにする。
【0079】
これに伴って、バッテリBtからの電流が、切替リレーs4、モータ41及び切替リレーs3を流れ、モータ41が逆方向に駆動され、キャンバ角の付与が解除され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されているキャンバ角が零(0)にされる。この場合、キャンバ角センサ68によって、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角が検出され、モータ逆方向駆動処理手段は、検出されたキャンバ角が零になると、切替リレーs2、s4をオフにし、切替リレーs3、s5をオンにする。その結果、モータ41及び切替リレーs3、s5が接続され、電流が短絡することによってモータ41を短絡制動し、停止させることができる。
【0080】
このようにして、モータ41に小さい電流が供給され、続いて、前記電源切替処理手段は、前記キャパシタリレーs1をオンにする。なお、前記バッテリBtからの電流によって、キャンバ角付与解除電流が構成される。
【0081】
このように、本実施の形態においては、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合、バッテリBt及びキャパシタCpからモータ41に大きい電流が供給され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除する場合、バッテリBtからモータ41に小さい電流が供給されるので、バッテリBt及びキャパシタCpの容量を小さくすることができる。
【0082】
したがって、急速にキャンバ角を付与することができるので、車両の安定性を高くすることができる。
【0083】
また、バッテリBt及びキャパシタCpを小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。
【0084】
さらに、キャパシタCpの充電が終了するまでキャンバ角の付与が解除されないので、キャパシタCpを十分に充電した状態にすることができる。したがって、急に、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する必要が生じても、確実にキャンバ角を付与することができる。
【0085】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 キャンバオン指令が出力されたかどうか判断する。キャンバオン指令が出力された場合はステップS2に、出力されていない場合はステップS3に進む。
ステップS2 モータ正方向駆動処理を行う。
ステップS3 キャンバオフ指令が出力されたかどうか判断する。キャンバオフ指令が出力された場合はステップS4に、出力されていない場合はステップS7に進む。
ステップS4 キャパシタCpの充電が終了するのを待機し、キャパシタCpの充電が終了した場合はステップS5に進む。
ステップS5 キャパシタリレーs1をオフにする。
ステップS6 モータ逆方向駆動処理を行う。
ステップS7 キャパシタリレーs1をオンにし、処理を終了する。
【0086】
本実施の形態においては、タイヤ36のトレッド37に低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39が形成され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与することによって、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39を選択的に路面に接地させるようにした車両について説明しているが、本発明を、トレッドに低転がり抵抗領域及び高グリップ領域のいずれも備えない通常のタイヤを使用し、キャンバ角を付与することによって旋回性を向上させるようにした車両に適用することができる。
【0087】
なお、本発明は、次のような他の実施の形態を有する。
【0088】
すなわち、本発明の他のキャンバ角制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に対してキャンバ角を付与する第1のアクチュエータ駆動処理手段と、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動して前記所定の車輪に付与されたキャンバ角を解除する第2のアクチュエータ駆動処理手段とを有する。
【0089】
そして、前記第1のアクチュエータ駆動処理手段によるアクチュエータの駆動動作が、前記第2のアクチュエータ駆動処理手段によるアクチュエータの駆動動作より速くされる。
【0090】
この場合、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記アクチュエータの駆動動作が速く行われ、前記所定の車輪にキャンバ角が付与されるので、急速にキャンバ角を付与することができ、車両の安定性を高くすることができる。
【0091】
また、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記アクチュエータの駆動動作が緩やかに行われ、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与が解除されるので、前記アクチュエータの駆動源を小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。
【0092】
本発明の更に他のキャンバ角制御装置においては、さらに、電源装置を有するとともに、前記アクチュエータは、前記電源装置から電流が供給されて、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うモータを備える。
【0093】
そして、前記第1のアクチュエータ駆動処理手段は、電源装置からモータにキャンバ角付与電流を供給して前記所定の車輪にキャンバ角を付与し、前記第2のアクチュエータ駆動処理手段は、前記電源装置からモータにキャンバ角解除電流を供給して前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する。
【0094】
また、前記キャンバ角付与電流は、前記キャンバ角解除電流より大きくされる。
【0095】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0096】
11 ボディ
16 制御部 31〜34 アクチュエータ
41 モータ
Bt バッテリ
Cp キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該複数の車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、モータを備え、該モータを駆動することによって、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、前記モータに電流を供給する電源装置と、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角付与電流を供給して前記所定の車輪にキャンバ角を付与する第1のモータ駆動処理手段と、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角解除電流を供給して前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する第2のモータ駆動処理手段とを有するとともに、前記キャンバ角付与電流は、前記キャンバ角解除電流より大きくされることを特徴とするキャンバ制御装置。
【請求項2】
前記電源装置はバッテリ及び充電要素を備え、第1のモータ駆動処理手段はバッテリ及び充電要素からモータに電流を供給し、第2のモータ駆動処理手段はバッテリからモータに電流を供給する請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項3】
前記電源装置は、バッテリ、充電要素、及び該充電要素をバッテリから切り離すことを可能にするスイッチ要素を有するとともに、前記第2のモータ駆動処理手段は、前記スイッチ要素をオフにして、バッテリからモータに電流を供給する請求項2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項4】
前記第2のモータ駆動処理手段は、充電要素の充電が終了した後、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除する請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。
【請求項5】
キャンバ角が付与される車輪のタイヤに、転がり抵抗及びグリップ性能が異なる複数の領域が形成され、前記第1のモータ駆動処理手段は、前記所定の車輪にキャンバ角を付与することによってグリップ性能が高い領域を路面に接地させ、前記第2のモータ駆動処理手段は、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除することによって転がり抵抗が小さい領域を路面に接地させる請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。
【請求項6】
車両のボディ、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪、該複数の車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、モータを備え、該モータを駆動することによって、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータ、並びに前記モータに電流を供給する電源装置を備えた車両のキャンバ制御方法において、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角付与電流を供給して前記所定の車輪にキャンバ角を付与し、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記電源装置から前記モータにキャンバ角解除電流を供給して前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除するとともに、前記キャンバ角付与電流は、前記キャンバ角解除電流より大きくされることを特徴とするキャンバ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−235093(P2010−235093A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88289(P2009−88289)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】