説明

キャンバ制御装置

【課題】制動安定性を高くすることができ、車両を急激に制動しても、十分な制動力を発生させることができるようにする。
【解決手段】車両のボディと、複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、急制動判定指標に基づいて、車両が急激に制動されたかどうかを判断する急制動判断処理手段と、車両が急激に制動されたと判断された場合に、前記所定の車輪へのキャンバの付与を阻止するキャンバ付与阻止処理手段とを有する。車両が急激に制動されると、所定の車輪へのキャンバの付与が阻止されるので、タイヤにおける接地面積が小さくなるのを抑制することができる。タイヤのグリップ力が小さくなることがないので、車両を急激に制動しても、十分な制動力を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の車輪、例えば、後方の各車輪に負のキャンバ(ネガティブキャンバ)を付与することができるようにした車両が提供されている。
【0003】
この種の車両においては、車両を直進させて走行させるとき、すなわち、車両の直進走行時に、後方の各車輪のタイヤに、互いに対向する方向にキャンバスラストを発生させることができるので、車両の直進走行時の安定性(以下「走行安定性」という。)を高くすることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、車両を制動するとき、すなわち、車両の制動時に各車輪に、車両の姿勢を変化させるような外力が加わると、車両を安定させて制動することができない。
【0006】
そこで、車両の制動時に、後方の各車輪に負のキャンバを付与することが考えられる。その場合、制動時に各車輪に、車両の姿勢を変化させるような外力が加わると、各車輪のタイヤにキャンバスラストが発生させられ、キャンバスラストによって車両の姿勢が復元されるので、制動時の安定性(以下「制動安定性」という。)を高くすることができる。
【0007】
ところが、各車輪にキャンバを付与すると、タイヤにおける接地面積がその分小さくなり、タイヤの路面を掴(つか)む力、すなわち、グリップ力が小さくなる。したがって、車輪にキャンバが付与された状態で車両を急激に制動すると、グリップ力が小さくなる分だけ十分な制動力を発生させることができなくなってしまう。
【0008】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、制動安定性を高くすることができ、車両を急激に制動しても、十分な制動力を発生させることができるキャンバ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明のキャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、急制動判定指標に基づいて、車両が急激に制動されたかどうかを判断する急制判断処理手段と、該急制判断処理手段によって、車両が急激に制動されたと判断された場合に、前記キャンバ可変機構による前記所定の車輪へのキャンバの付与を阻止するキャンバ付与阻止処理手段とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、急制動判定指標に基づいて、車両が急激に制動されたかどうかを判断する急制動判断処理手段と、該急制判断処理手段によって、車両が急激に制動されたと判断された場合に、前記キャンバ可変機構による前記所定の車輪へのキャンバの付与を阻止するキャンバ付与阻止処理手段とを有する。
【0011】
この場合、車両が急激に制動されると、所定の車輪へのキャンバの付与が阻止されるので、タイヤにおける接地面積が小さくなるのを抑制することができる。その結果、タイヤのグリップ力が小さくなることがないので、車両を急激に制動しても、十分な制動力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態におけるキャンバ付与阻止条件成立判断処理のサブルーチンを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態における車両の制動時の姿勢の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図2は本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【0015】
図において、11は車両の本体であるボディ、12は駆動源としてのエンジン、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪である。なお、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。
【0016】
本実施の形態において、車両は後輪駆動方式の構造を有し、前記車輪WLB、WRBが駆動輪として機能する。そして、エンジン12と各車輪WLB、WRBとが第1の伝動軸としてのプロペラシャフト17、差動装置18及び第2の伝動軸としてのドライブシャフト46を介して連結され、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転が車輪WLB、WRBに伝達される。本実施の形態において、車両は後輪駆動方式の構造を有するようになっているが、前輪駆動方式の構造を有するようにすることもできる。
【0017】
また、13は車両の操舵を行うための操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイール、14は車両を加速するための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダル、15は車両を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルである。
【0018】
そして、31、32は、それぞれ、前記ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLB、WRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりするためのキャンバ可変機構としてのアクチュエータである。なお、本実施の形態においては、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に各アクチュエータ31、32が配設されるようになっているが、ボディ11と各車輪WLF、WRFとの間にアクチュエータを配設したり、ボディ11と車輪WLF、WRF、WLB、WRBとの間にアクチュエータを配設したりすることができる。
【0019】
前記車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。そして、該タイヤ36として、後述される損失正接を小さくすることにより、トレッドの変形によって発生する転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗タイヤが使用される。本実施の形態においては、転がり抵抗を小さくするためにタイヤ36の幅が通常のタイヤより小さくされるが、トレッドの溝のパターンであるトレッドパターンを、転がり抵抗が小さくなるような形状にしたり、少なくともトレッドの部分の材料を、転がり抵抗が小さいものにしたりすることができる。
【0020】
なお、前記損失正接は、トレッドが変形する際のエネルギーの吸収の度合いを表し、貯蔵剪(せん)断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほどトレッドによって吸収されるエネルギーが少なくなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が小さくなり、タイヤ36に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほどトレッドによって吸収されるエネルギーが多くなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が大きくなり、タイヤ36に発生する摩耗が多くなる。
【0021】
前記構成の車両においては、タイヤ36の転がり抵抗が小さくされるので、燃費を良くすることができる。
【0022】
次に、各車輪WLB、WRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりするための前記アクチュエータ31、32について説明する。この場合、アクチュエータ31、32の構造は同じであるので、車輪WLB及びアクチュエータ31についてだけ説明する。
【0023】
図3は本発明の実施の形態における車輪の断面図である。
【0024】
図において、WLBは車輪、21はホイール、31はアクチュエータ、36はタイヤである。
【0025】
前記アクチュエータ31は、ベース部材としての図示されないナックルに固定されたキャンバ制御用の駆動部としてのモータ41、前記ナックルに対して揺動自在に配設された可動部材としての可動プレート43、前記モータ41の回転運動を可動プレート43の揺動運動に変換する運動方向変換機構としてのクランク機構45、前記エンジン12(図2)の回転をホイール21に伝達する前記ドライブシャフト46等を備える。前記ホイール21は、可動プレート43に対して回転自在に支持され、ドライブシャフト46と連結される。
【0026】
また、前記クランク機構45は、前記モータ41の出力軸に取り付けられた第1の変換要素としてのウォームギヤ51、前記ナックルに対して回転自在に配設され、前記ウォームギヤ51と噛(し)合させられる第2の変換要素としてのウォームホイール52、及び該ウォームホイール52と可動プレート43とを連結する第3の変換要素としての、かつ、連結要素としてのアーム53を有する。該アーム53は、一端において、ウォームホイール52の回転軸から偏心させた位置で、第1の連結部を介してウォームホイール52と連結され、他端において、可動プレート43の上端で、第2の連結部を介して可動プレート43と連結される。この場合、前記可動プレート43によって第4の変換要素が構成される。
【0027】
前記ウォームギヤ51及びウォームホイール52によって、ウォームギヤ51及びウォームホイール52の各回転運動の軸心の向きが変換され、ウォームホイール52及びアーム53によってウォームホイール52の回転運動がアーム53の直進運動に変換され、アーム53及び可動プレート43によってアーム53の直進運動が可動プレート43の揺動運動に変換される。
【0028】
したがって、モータ41を駆動すると、ウォームギヤ51及びウォームホイール52が回転させられ、アーム53が進退させられ、可動プレート43が揺動させられる。その結果、可動プレート43が回動させられ、路面上の垂線に対して傾けられた角度と等しいキャンバが車輪WLBに付与される。
【0029】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0030】
図1は本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0031】
図において、16はキャンバの付与及び付与の解除の制御を行う第1の制御装置としての制御部、19は車両の全体の制御を行う第2の制御装置としての車両制御部、61は第1の記憶部としてのROM、62は第2の記憶部としてのRAMである。前記制御部16及び車両制御部19は、コンピュータとして機能し、各種のデータに基づいて各種の演算及び処理を行う。
【0032】
また、63は車速vを検出する車速検出部としての車速センサ、64は前記ステアリングホイール13(図2)の操作量を表すステアリング角度を操舵値として検出するステアリング操作量検出部としての、かつ、操舵値検出部としてのステアリングセンサ、65は車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ、66は横加速度を検出する第1の加速度検出部としての横Gセンサ、67は前後加速度gを検出する第2の加速度検出部としての前後Gセンサ、68は各車輪WLB、WRBに付与されたキャンバを検出するキャンバ検出部としてのキャンバセンサ、71はアクセルペダル14の操作量を表す加速操作値としての踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量検出部としての、かつ、加速操作値検出部としてのアクセルセンサ、72はブレーキペダル15の操作量を表す踏込量(ブレーキストローク)βを制動操作値として検出するブレーキ操作量検出部としての、かつ、制動操作値検出部としてのブレーキセンサ、73は各車輪WLB、WRBの図示されないサスペンション装置のストロークを検出する懸架検出部としてのサスストロークセンサ、75は各車輪WLB、WRBに加わる荷重を検出する荷重検出部としての荷重センサ、76はタイヤ36の潰れ代、すなわち、タイヤ潰れ代を検出するタイヤ潰れ代検出部としてのタイヤ潰れ代センサである。なお、ステアリングセンサ64に代えて、車両の縦方向の軸に対する車輪WLF、WRFの傾きを表す舵角を検出する舵角センサを配設することができる。その場合、前記舵角が操舵値とされ、舵角センサによって操舵値検出部が構成される。
【0033】
前記ボディ11、アクチュエータ31、32、制御部16、車輪WLB、WRB等によってキャンバ制御装置が構成される。
【0034】
また、前記サスストロークセンサ73は、ハイトセンサ、磁気センサ等によって構成され、荷重センサ75は、サスペンション装置に配設されたロードセル(歪みセンサ)によって構成され、タイヤ潰れ代センサ76は、タイヤ36に配設されたロードセル(歪みセンサ)によって構成される。
【0035】
ところで、タイヤ36の転がり抵抗が小さい場合、タイヤ36の剛性が低下する。そこで、本実施の形態においては、タイヤ36の剛性が低下している場合でも車両の制動安定性を高くすることができるように、車両が制動されたときに、アクチュエータ31、32を作動させて、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの所定の車輪、本実施の形態においては、各車輪WLB、WRBに所定の負のキャンバθを付与することができるようになっている。
【0036】
ところが、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されると、タイヤ36における接地面積がその分小さくなり、タイヤ36の転がり抵抗が一層小さくなる。したがって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与された状態で車両を急激に制動すると、転がり抵抗が小さくなる分だけタイヤ36のグリップ力が小さくなり、十分な制動力を発生させることができなくなってしまう。
【0037】
そこで、本実施の形態においては、車両が急激に制動された場合には、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与が阻止されるようになっている。
【0038】
次に、各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与したり、キャンバθの付与を阻止したりするための制御装置の動作について説明する。
【0039】
図4は本発明の実施の形態における制御装置の動作を示すフローチャート、図5は本発明の実施の形態におけるキャンバ付与阻止条件成立判断処理のサブルーチンを示す図、図6は本発明の実施の形態における車両の制動時の姿勢の変化を説明するための図である。
【0040】
まず、制御部16の図示されない判定指標取得処理手段は、判定指標取得処理を行い、各車輪WLB、WRBにキャンバθを付与したり、キャンバθの付与を阻止したり、キャンバθの付与を解除したりするために必要な判定指標、本実施の形態においては、車両の状態を表す車両状態、及び操作者としての運転者によるステアリングホイール13、アクセルペダル14、ブレーキペダル15等の各操作部の操作の状態を表す操作状態を取得する(ステップS1、S2)。
【0041】
そのために、前記判定指標取得処理手段は、前記前後Gセンサ67、キャンバセンサ68等の各センサのセンサ出力を読み込むとともに、制御部16から図示されないABS装置の作動状態を表すABS信号を読み込み、前後加速度g、キャンバθ、ABS装置の作動状態等を車両状態として取得する。
【0042】
また、前記判定指標取得処理手段は、ステアリングセンサ64、ブレーキセンサ72等の各センサのセンサ出力を読み込み、ステアリング角度γ、ブレーキペダル15の踏込量β等を操作状態として取得する。
【0043】
なお、前記判定指標取得処理手段は、ステアリング角度γに基づいて、ステアリング角度の変化率を表すステアリング角速度、該ステアリング角速度の変化率を表すステアリング角加速度等を操舵値として算出し、操作状態として取得することもできる。また、前記判定指標取得処理手段は、ステアリング角度γに代えて、前記舵角を操作状態として取得したり、舵角の変化率を表す舵角速度、舵角速度の変化率を表す舵角加速度等を操舵値として算出し、舵角速度、舵角加速度等を操作状態として取得したりすることができる。
【0044】
さらに、前記判定指標取得処理手段は、前記ブレーキペダル15の踏込量βに代えて、ブレーキペダル15の踏込量の変化率である踏込速度、踏込速度の変化率である踏込加速度等を制動操作値として算出し、操作状態として取得することもできる。
【0045】
次に、前記制御部16の図示されない制動判断処理手段は、制動判断処理を行い、車両を走行させているときに車両が制動されたかどうかを判断する(ステップS3、S4)。
【0046】
そのために、前記制動判断処理手段は、前記ブレーキペダル15の踏込量βを読み込み、踏込量βが閾(しきい)値βmin以上であるかどうかを判断し、踏込量βが閾値βmin以上であると判断された場合、車両が制動されたと判断し、踏込量βが閾値βminより小さいと判断された場合、車両が制動されていないと判断し、処理を終了する。なお、閾値βminは、車両を制動するのに必要な踏込量βの最小値である。
【0047】
車両が制動されたと判断された場合、前記制御部16の図示されないキャンバ付与条件成立判断処理手段は、キャンバ付与条件成立判断処理を行い、車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する条件、すなわち、キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS5、S6)。また、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、緩制動判断処理手段として機能し、緩制動判断処理を行い、車両が緩やかに制動されたかどうかを判断する。
【0048】
この場合、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、車速v及びブレーキペダル15の踏込量βを読み込み、車速vが閾値vth以上であり、かつ、踏込量βが閾値βth1以上であるかどうかによって、キャンバ付与条件が成立したかどうか(車両が緩やかに制動されたかどうか)を判断する。なお、前記閾値βth1は閾値βminより大きく設定される。
【0049】
そして、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、車速vが閾値vth以上であり、かつ、踏込量βが閾値βth1以上であると判断された場合、キャンバ付与条件成立した(車両が緩やかに制動された)と判断し、車速vが閾値vthより低いか、又は踏込量βが閾値βth1より小さいと判断された場合、キャンバ付与条件が成立していない(車両が緩やかに制動されていない)と判断する。
【0050】
キャンバ付与条件が成立していないと判断された場合、制御部16の図示されないキャンバ付与状態判断処理手段は、キャンバ付与状態判断処理を行い、前記キャンバセンサ68によって検出されたキャンバθpを読み込み、該キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<α〔°〕
であるかどうかによって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS7)。なお、値αは、車両の仕様で規定された、定常状態におけるキャンバである。
【0051】
各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていると判断された場合、制御部16の図示されないキャンバ制御処理手段は、キャンバ制御処理を行う。すなわち、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ付与解除処理手段は、キャンバ付与解除処理を行い、アクチュエータ31、32を作動させて各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を解除する(ステップS8)。また、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていないと判断された場合、制御部16は処理を終了する。
【0052】
キャンバ付与条件が成立したと判断された場合、前記制御部16の図示されないキャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、キャンバ付与阻止条件成立判断処理を行い、車両が急激に制動されたかどうかによって、各車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を阻止する条件、すなわち、キャンバ付与阻止条件が成立したかどうかを判断する(ステップS9、S10)。なお、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、急制動判断処理手段として機能し、急制動判断処理を行い、車両が急激に制動されたかどうかを判断する。
【0053】
この場合、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、踏込量βを第1の急制動判定指標として読み込み、踏込量βが閾値βth2以上であるかどうかによって第1の条件が成立したかどうか(車両が急激に制動されたかどうか)を判断する(ステップS9−1)。そして、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、踏込量βが閾値βth2以上であると判断された場合に、第1の条件が成立した(車両が急激に制動された)と判断し、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断する(ステップS9−2)。
【0054】
なお、前記閾値βth2は、雪道、凍結路等のような摩擦係数が低い道路(低ミュー路)を走行しているときに、最大の制動力で、タイヤ36と路面との間に限界摩擦力を発生させて車両を制動するのに必要となる踏込量βの最大値(限界値)であり、前記閾値βth1より大きく設定される。そして、閾値βth1、βth2によって第1、第2の閾値が構成される。
【0055】
踏込量βが閾値βth2より小さく、第1の条件が成立しないと判断された場合、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、前記前後加速度gを第2の急制動判定指標として読み込み、前後加速度gが閾値gth以上であるかどうかによって、第2の条件が成立したかどうか(車両が急激に制動されたかどうか)を判断する(ステップS9−3)。そして、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、前後加速度gが閾値gth以上であると判断された場合、第2の条件が成立した(車両が急激に制動された)と判断し、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断する(ステップS9−2)。
【0056】
なお、閾値gthは、摩擦係数が高い道路(高ミュー路)を走行しているときに、最大の制動力で、タイヤ36と路面との間に限界摩擦力を発生させて車両を制動する際に発生する前後加速度gの最大値(限界値)である。
【0057】
前後加速度gが閾値gthより小さく、第2の条件が成立しないと判断された場合、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、ABS信号を第3の急制動判定指標として読み込み、ABS信号がオンであるかどうかによって、第3の条件が成立した(車両が急激に制動された)かどうかを判断する(ステップS9−4)。そして、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、ABS信号がオンである場合に、第3の条件が成立した(車両が急激に制動された)と判断し、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断する(ステップS9−2)。
【0058】
なお、ABS装置は、摩擦係数が高い道路(高ミュー路)を走行しているときに、最大の制動力で、タイヤ36と路面との間に限界摩擦力を発生させて車両を制動する際に作動し、ABS信号をオンにする。
【0059】
また、前記ABS信号がオンではない場合、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、車両が急激に制動されていないと判断し、第1〜第3の条件は成立せず、キャンバ付与阻止条件が成立していないと判断する(ステップS9−5)。
【0060】
このように、本実施の形態においては、第1〜第3の条件のうちの第1の条件が成立したと判断された場合に、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断され、第2、第3の条件が成立するかどうかは判断されないようになっているが、第1〜第3の条件が成立したかどうかを判断し、第1〜第3の条件のうちの少なくとも一つの条件が成立したときに、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断することもできる。
【0061】
このようにして、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理が行われ、キャンバ付与阻止条件成立判断処理において、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断された場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、キャンバθpを読み込み、キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<α〔°〕
であるかどうかによって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS11)。
【0062】
そして、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていると判断された場合、前記キャンバ付与解除処理手段は、キャンバθの付与を解除し(ステップS12)、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていないと判断された場合、制御部16は処理を終了する。
【0063】
一方、キャンバ付与阻止条件成立判断処理においてキャンバ付与阻止条件が成立しないと判断された場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、キャンバθpを読み込み、キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<α〔°〕
であるかどうかによって、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS13)。
【0064】
そして、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていると判断された場合、制御部16は処理を終了し、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていないと判断された場合、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ付与処理手段は、キャンバ付与処理を行い、アクチュエータ31、32を作動させて各車輪WLB、WRBにキャンバθ
−5〔°〕≦θ<α〔°〕
を付与する(ステップS14)。
【0065】
このように、本実施の形態においては、車両が緩やかに制動されると、キャンバ付与条件が成立し、各車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されるので、車輪WLB、WRBのタイヤ36に互いに対向する方向にキャンバスラストを発生させることができる。そして、各車輪WLB、WRBに外力が加わった場合に、外力と逆方向のキャンバスラストを大きくするくことができるので、制動安定性を高くすることができる。
【0066】
また、本実施の形態においては、例えば、路面の摩擦係数が一様でなく、車両を制動する際に所定の車輪のタイヤ36が路面上でスリップし、車両の姿勢が変化しても、制動安定性を高くすることができる。
【0067】
すなわち、図6に示されるように、車両の後方が右側に傾いた場合、車両の後方を右方に向けて移動させようとする外力が車輪WLB、WRBに加わるが、車両の後方が右側に傾くのに伴って、右後方の車輪WRBのタイヤ36の接地荷重FRが、左後方の車輪WLBのタイヤ36の接地荷重FLより大きくなる。したがって、車輪WRBのタイヤ36に発生するキャンバスラストTRが、車輪WLBのタイヤ36に発生するキャンバスラストTLより大きくなるので、車両の姿勢を復元させることができる。
【0068】
さらに、本実施の形態においては、キャンバ付与条件が成立しても、車両が急激に制動されると、キャンバ付与阻止条件が成立したと判断され、各車輪WLB、WRBへのキャンバの付与が阻止されるので、タイヤ36における接地面積が小さくなるのを抑制することができる。したがって、タイヤ36のグリップ力が小さくなることがないので、車両を急激に制動しても、十分な制動力を発生させることができる。
【0069】
なお、本実施の形態において、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、車速v及びブレーキペダル15の踏込量βを読み込み、車速vが閾値vth以上であり、かつ、踏込量βが閾値βth1以上であるかどうかによって、キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断し、前記キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、踏込量βを第1の急制動判定指標として読み込み、踏込量βが閾値βth2以上であるかどうかによってキャンバ付与阻止条件のうちの第1の条件が成立したかどうかを判断するようになっているが、車両の減速状態を表す減速度に基づいて、キャンバ付与条件が成立したかどうか、及びキャンバ付与阻止条件のうちの第1の条件が成立したかどうかを判断することができる。
【0070】
その場合、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、車速vを読み込み、車速vの変化量(微分値)である車両の減速度δvを算出し、車速vが閾値vth以上であり、かつ、減速度δvが閾値δvth1以上であるかどうかによって、キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断することができ、キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、前記減速度δvを第1の急制動判定指標として読み込み、減速度δvが閾値vth2以上であるかどうかによってキャンバ付与阻止条件のうちの第1の条件が成立したかどうかを判断することができる。なお、前記減速度δvによって車両の減速指標が構成される。
【0071】
また、減速度δvに代えて前後加速度gに基づいて、キャンバ付与条件が成立したかどうか、及びキャンバ付与阻止条件のうちの第1の条件が成立したかどうかを判断することができる。
【0072】
その場合、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、車速v及び前後加速度gを読み込み、車速vが閾値vth以上であり、かつ、前後加速度gが閾値gth1以上であるかどうかによって、キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断することができ、キャンバ付与阻止条件成立判断処理手段は、前記前後加速度gを第1の急制動判定指標として読み込み、前後加速度gが閾値gth2以上であるかどうかによってキャンバ付与阻止条件のうちの第1の条件が成立したかどうかを判断することができる。なお、前記前後加速度gによって車両の減速時における減速指標が構成される。
【0073】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0074】
11 ボディ
16 制御部
31、32 アクチュエータ
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、急制動判定指標に基づいて、車両が急激に制動されたかどうかを判断する急制動判断処理手段と、該急制動判断処理手段によって、車両が急激に制動されたと判断された場合に、前記キャンバ可変機構による前記所定の車輪へのキャンバの付与を阻止するキャンバ付与阻止処理手段とを有することを特徴とするキャンバ制御装置。
【請求項2】
前記所定の車輪に負のキャンバを付与するためのキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断するキャンバ付与条件成立判断処理手段を有するとともに、前記急制動判断処理手段は、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段によって、前記キャンバ付与条件が成立したと判断された場合に、車両が急激に制動されたかどうかを判断する請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項3】
前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、運転者による制動操作部材の制動操作値に基づいて、前記キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する請求項2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項4】
前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、車両の減速指標に基づいて、前記キャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する請求項2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項5】
前記急制動判定指標は、運転者による制動操作部材の制動操作値、車両の減速指標、及びABS装置が作動したことを表すABS信号のうちの少なくとも一つである請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項6】
前記急制動判定指標は、前記制動操作値、前記減速指標及び前記ABS信号のうちの少なくとも制動操作値である請求項5に記載のキャンバ制御装置。
【請求項7】
前記急制動判定指標は運転者による制動操作部材の制動操作値であり、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、前記制動操作値が第1の閾値以上である場合、キャンバ付与条件が成立したと判断し、前記急制動判断処理手段は、前記制動操作値が第1の閾値より大きい第2の閾値以上である場合、車両が急激に制動されたと判断する請求項3に記載のキャンバ制御装置。
【請求項8】
前記急制動判定指標は車両の減速指標であり、前記キャンバ付与条件成立判断処理手段は、前記減速指標が第1の閾値以上である場合、キャンバ付与条件が成立したと判断し、前記急制動判断処理手段は、前記減速指標が第1の閾値より大きい第2の閾値以上である場合、車両が急激に制動されたと判断する請求項4に記載のキャンバ制御装置。
【請求項9】
前記所定の車輪は後輪である請求項1〜8のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105043(P2011−105043A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259179(P2009−259179)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】