説明

キャンバ制御装置

【課題】キャビンが振動している場合には車輪に負のキャンバを付与することによって、車両のキャビンの振動を効果的に抑制することができるようにする。
【解決手段】ボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪とを備える車両における所定の車輪のキャンバを制御するためのキャンバ制御装置であって、前記複数の車輪のうちの所定の車輪に配設され、該所定の車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、該キャンバ可変機構を作動させ、前記所定の車輪に負のキャンバを付与するキャンバ付与処理手段と、前記ボディのキャビンが振動しているか否かを判定するキャビン振動判定処理手段とを有し、前記キャビンが振動している場合には、前記キャンバ付与処理手段によって前記所定の車輪に負のキャンバを付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪に負のキャンバ(ネガティブキャンバ)を付与することができるようにした車両が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この種の車両においては、車両を直進させて走行させる際、すなわち、車両の直進走行時に、左右の車輪のタイヤに、互いに対向する方向にキャンバスラストを発生させることができるので、車両の直進走行時の安定性(以下「走行安定性」という。)を高くすることができる。また、ステアリングホイールを操作して車両を旋回させる際、すなわち、車両の旋回時に、車両に遠心力が発生するので、外周側の車輪(外輪)のタイヤの接地荷重が大きくなり、外周側の車輪のタイヤに発生するキャンバスラストが内周側の車輪(内輪)のタイヤに発生するキャンバスラストより大きくなる。したがって、車両に十分な求心力を発生させることができるので、車両の旋回時の安定性(以下「旋回安定性」という。)を高くすることができる。なお、前記接地荷重は、タイヤが路面を押圧する荷重である。
【0004】
ところが、車輪にネガティブキャンバが付与された状態で車両を長期間走行させると、タイヤに偏摩耗が発生し、タイヤの寿命が短くなってしまう。そこで、車両が安定し、ネガティブキャンバを付与する必要性が低い走行状態では、ネガティブキャンバの付与を解除して、タイヤに偏摩耗が発生するのを抑制することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の車両においては、車輪にネガティブキャンバを付与することによって、路面の轍(わだち)、凹凸、うねり、継ぎ目等の段差からボディへの振動の伝達が抑制されることについては、何ら考慮されていない。そのため、段差の多い道路区間を走行中にネガティブキャンバの付与を解除して、乗り心地が低下してしまうことがある。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解決して、キャビンが振動している場合には車輪に負のキャンバを付与することによって、車両のキャビンの振動を効果的に抑制することができるキャンバ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明のキャンバ制御装置においては、ボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪とを備える車両における所定の車輪のキャンバを制御するためのキャンバ制御装置であって、前記複数の車輪のうちの所定の車輪に配設され、該所定の車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、該キャンバ可変機構を作動させ、前記所定の車輪に負のキャンバを付与するキャンバ付与処理手段と、前記ボディのキャビンが振動しているか否かを判定するキャビン振動判定処理手段とを有し、前記キャビンが振動している場合には、前記キャンバ付与処理手段によって前記所定の車輪に負のキャンバを付与する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の構成によれば、キャビンが振動している場合には車輪に負のキャンバを付与するので、キャビンの振動を抑制して乗り心地を向上させることができる。
【0010】
請求項2の構成によれば、キャビンの振動を正確に判定して車輪に負のキャンバを付与するので、車輪に負のキャンバを無用に付与することがなく、タイヤに偏摩耗が発生するのを十分に抑制することができ、タイヤの寿命を長くすることができる。
【0011】
請求項3の構成によれば、車輪に負のキャンバを付与する頻度を低下させ、タイヤに偏摩耗が発生するのを十分に抑制することができ、タイヤの寿命を長くすることができる。これは、車輪に負のキャンバを付与することの効果が、左右方向の振動に対するものの方が、上下及び前後方向の振動に対するものよりも大きいからである。つまり、左右方向の振動が大きい場合には、効果が大きいので、車輪に負のキャンバを付与し、上下及び前後方向の振動が大きい場合には、効果が乏しいので、車輪に負のキャンバを付与しないことによって、車輪に負のキャンバを付与する頻度を低下させることができる。
【0012】
請求項4の構成によれば、前輪のみ、又は、後輪のみに負のキャンバを付与する場合よりも効果的にキャビンの振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における車両の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における懸架装置を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における車両の制御装置を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態における操縦安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるキャビン振動判定処理のサブルーチンを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態における直進安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における接地荷重判定処理のサブルーチンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図2は本発明の実施の形態における車両の概念図である。なお、矢印U−D、L−R及びF−Bは、車両の上下方向、左右方向及び前後方向を示している。
【0016】
図において、10は乗用車、バス、トラック等の車両であり、11は該車両10の本体であるボディであり、12は車両10の駆動源としてのエンジンであり、WLF、WRF、WLB及びWRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪である。なお、前記車両10は、前輪が左右二輪であって後輪が一輪の三輪車であってもよいし、前輪が一輪であって後輪が左右二輪の三輪車であってもよいが、本実施の形態においては、図に示されるように、前輪及び後輪が左右二輪の四輪車である場合について説明する。
【0017】
前記車両10は後輪駆動方式の構造を有し、前記車輪WLB及びWRBが駆動輪として機能する。そして、エンジン12と各車輪WLB及びWRBとが第1の伝動軸としてのプロペラシャフト17、差動装置18及び第2の伝動軸としてのドライブシャフト52を介して連結され、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転が各車輪WLB及びWRBに伝達される。本実施の形態において、前記車両10は後輪駆動方式の構造を有するようになっているが、前輪が駆動輪として機能する前輪駆動方式の構造を有するようにすることもできるし、すべての車輪が駆動輪として機能する全輪(四輪)駆動方式の構造を有するようにすることもできる。
【0018】
また、エンジン12に代えて、電気モータを駆動源として使用することもできる。さらに、各車輪に内蔵可能な電気モータであるインホイールモータを駆動源として使用することもできる。この場合には、プロペラシャフト17、差動装置18及びドライブシャフト52を省略することができる。
【0019】
13は車両10の操舵(だ)を行うための操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイールであり、14は車両10を加速するための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダルであり、15は車両10を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルである。
【0020】
そして、31及び32は、キャンバ可変機構の一部としてのアクチュエータであり、それぞれ、ボディ11と各車輪WLB及びWRBとの間に配設され、車輪WLB及びWRBを回転させたり、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりする装置である。なお、本実施の形態において、キャンバの付与とは、別段の断りがない限り、負のキャンバ(ネガティブキャンバ)の付与を意味する。
【0021】
本実施の形態においては、ボディ11と各車輪WLB及びWRBとの間に各アクチュエータ31及び32が配設されるようになっているが、ボディ11と各車輪WLF及びWRFとの間にアクチュエータを配設したり、ボディ11と各車輪WLF、WRF、WLB及びWRBとの間にアクチュエータを配設したりすることができる。
【0022】
ところで、前記車輪WLF、WRF、WLB及びWRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び、該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。そして、該タイヤ36として、損失正接を小さくすることにより、タイヤ36の変形によって発生する転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗タイヤが使用される。本実施の形態においては、転がり抵抗を小さくするためにタイヤ36の幅が通常のタイヤより小さくされるが、トレッドの溝のパターンであるトレッドパターンを、転がり抵抗が小さくなるような形状にしたり、少なくともトレッドの部分の材料を、転がり抵抗が小さいものにしたりすることができる。
【0023】
なお、前記損失正接は、トレッドが変形する際のエネルギの吸収の度合いを示し、貯蔵剪(せん)断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほどエネルギの吸収が少なくなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が小さくなり、タイヤ36に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほどエネルギの吸収が多くなるので、転がり抵抗が大きくなり、タイヤ36に発生する摩耗が多くなる。
【0024】
前記構成の車両10においては、タイヤ36の転がり抵抗が小さくされるので、燃費をよくすることができる。
【0025】
次に、各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりするためのアクチュエータ31及び32の構造について詳細に説明する。この場合、各アクチュエータ31及び32の構造は同じであるので、車輪WLB及びアクチュエータ31についてだけ説明する。
【0026】
図3は本発明の実施の形態における懸架装置を示す図である。
【0027】
図において、40は車両10の懸架装置であり、路面から車輪を介してボディ11に伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、伸縮可能に構成され、各車輪に対応してそれぞれ設けられている。なお、ここでは、車輪WLBに対応する懸架装置40を代表例として説明する。また、キャンバ可変機構として機能する部分についてのみ説明し、サスペンションとして機能する部分については周知のサスペンションと同様であるので、その説明を省略する。さらに、図3では、理解を容易とするために、ドライブシャフト52等の図示が省略されている。
【0028】
懸架装置40は、ストラット41及びロアアーム42を介してボディ11に支持されるベース部材としてのナックル43と、該ナックル43に固定されたキャンバ制御用の駆動部としてのモータ44と、該モータ44の駆動力を伝達するウォームホイール45及びアーム46と、前記ウォームホイール45及びアーム46を介して伝達されるモータ44の駆動力によってナックル43に対して揺動駆動される可動部材としての可動プレート47とを有する。
【0029】
ナックル43は、車輪WLBを支持する部材であり、上端がストラット41に連結されるとともに、下端がボールジョイントを介してロアアーム42に連結されている。また、モータ44は、例えば、DCモータから成り、その出力軸44aには図示されないウォームギヤが形成されている。そして、ウォームホイール45は、モータ44の出力軸44aに形成されたウォームギヤに噛(か)み合い、該ウォームギヤとともに食い違い軸歯車対を構成している。
【0030】
アーム46は、ウォームホイール45から伝達されるモータ44の駆動力を可動プレート47に伝達する部材であり、一端(図における右端)が第1連結軸48を介してウォームホイール45の回転軸45aから偏心した位置に連結され、他端(図における左端)が第2連結軸49を介して可動プレート47の上端に連結されている。また、可動プレート47は、車輪WLBを回転可能に支持する部材であり、上端がアーム46に連結され、下端がキャンバ軸50を介してナックル43に揺動可能に軸支されている。
【0031】
そして、モータ44が作動すると、ウォームホイール45が回転し、該ウォームホイール45の回転運動がアーム46の直線運動に変換される。その結果、アーム46が直線運動することで、可動プレート47がキャンバ軸50を揺動軸として揺動し、車輪WLBのキャンバ角が変化する。
【0032】
次に、前記構成の車両10の制御装置について説明する。
【0033】
図4は本発明の実施の形態における車両の制御装置を示すブロック図である。
【0034】
図において、16はCPU等の演算手段を備え、一種のコンピュータとして機能する制御部である。61は第1の記憶部としてのROMであり、62は第2の記憶部としてのRAMである。63は車両10の走行速度である車速を検出する車速検出部としての車速センサであり、64はステアリングホイール13の操作量を表すステアリング角度を検出するステアリング操作量検出部としてのステアリングセンサである。
【0035】
また、65aは車両10のヨーレートを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサであり、65bは車両10のピッチレートを検出するピッチレート検出部としてのピッチレートセンサであり、65cは車両10のロールレートを検出するロールレート検出部としてのロールレートセンサである。なお、前記ヨーレートセンサ65a、ピッチレートセンサ65b及びロールレートセンサ65cは、それぞれ、個別のセンサであってもよいし、ヨーレート、ピッチレート及びロールレートを単体で検出可能な三軸ジャイロセンサ等の姿勢センサであってもよい。
【0036】
さらに、66は横G(横方向加速度)を検出する第1の加速度検出部としての横Gセンサであり、67は前後G(前後方向加速度)を検出する第2の加速度検出部としての前後Gセンサであり、68は各車輪WLB及びWRBに付与されたキャンバ角を検出するキャンバ検出部としてのキャンバセンサである。
【0037】
そして、71はアクセルペダル14の操作量を表す踏込量を検出するアクセル操作量検出部としてのアクセルセンサであり、72はブレーキペダル15の操作量を表す踏込量を検出するブレーキ操作量検出部としてのブレーキセンサである。73は各車輪WLB及びWRBのサスペンションとして機能する懸架装置40のストロークを検出する懸架検出部としてのサスストロークセンサであり、75は各車輪WLB及びWRBに加わる荷重を検出する荷重検出部としての荷重センサであり、76はタイヤ36の潰(つぶ)れ代、すなわち、タイヤ潰れ代を検出するタイヤ潰れ代検出部としての、かつ、タイヤ状態検出部としてのタイヤ潰れ代センサである。本実施の形態において、タイヤ36の潰れ代は、タイヤ36のサイドウォールの変形量によって表される。
【0038】
なお、前記ステアリングセンサ64は、ステアリング角度に代えて、ステアリングホイール13の操作量を表す舵角、舵角速度等を検出することができ、アクセルセンサ71は、アクセルペダル14の踏込量に代えて、アクセルペダル14の操作量を表す踏込速度、踏込加速度等を検出することができ、ブレーキセンサ72は、ブレーキペダル15の踏込量に代えて、ブレーキペダル15の操作量を表す踏込速度、踏込加速度等を検出することができる。
【0039】
また、前記サスストロークセンサ73は、例えば、ハイトセンサ、磁気センサ等であり、荷重センサ75は、例えば、サスペンション装置に配設されたロードセル(歪(ひず)みセンサ)であり、タイヤ潰れ代センサ76は、例えば、タイヤ36のサイドウォールに配設されたロードセル(歪みセンサ)である。
【0040】
さらに、77は車両10に搭載された環境情報取得手段としてのナビゲーション装置である。該ナビゲーション装置77は、一種のコンピュータであり、GPS(Global Positioning System)レシーバ等によって車両10の現在位置を検出する現在位置検出部、道路の勾(こう)配、道路種別、降坂路、登坂路等の道路データ、探索データ等が記憶された記憶媒体としてのデータ記憶部、入力された情報に基づいて、ナビゲーション処理等の各種の演算処理を行うナビゲーション処理部、入力部、表示部、音声入力部、音声出力部、通信部等を有し、前記制御部16に接続されている。そして、ナビゲーション装置77は、車両10の現在位置及び道路データに基づいて、車両10が走行中であることを示すことができる。
【0041】
そして、78はキャビン振動センサであり、ボディ11において乗員が搭乗する部分であるキャビンの振動を検出する振動検出部である。前記キャビン振動センサ78は、例えば、左右方向、上下方向及び前後方向の振動を検出可能なセンサあり、加速度を検出する一種のGセンサである。なお、前記キャビン振動センサ78は、左右方向の振動を検出するセンサ、上下方向の振動を検出するセンサ及び前後方向の振動を検出するセンサを組み合わせたものであってもよいし、左右方向、上下方向及び前後方向の振動を検出可能な単体のセンサであってもよい。また、左右方向及び前後方向の振動は、前記横Gセンサ66及び前後Gセンサ67の検出結果を利用することもできる。
【0042】
前記ボディ11、車輪WLF、WRF、WLB、WRB、制御部16、アクチュエータ31及び32、タイヤ36、後述される車両状態検出部等がキャンバ制御装置の少なくとも一部として機能する。
【0043】
ところで、車両10が路面の轍、凹凸、うねり、継ぎ目等の段差を通過する際に、該段差から受ける振動がボディ11、特にキャビンに伝達されると、乗員が不快に感じ、乗り心地が悪化してしまう。また、不規則な横風を受けたときにも、キャビンが振動し、乗り心地が悪化してしまう。そこで、本実施の形態においては、キャビンが振動している場合には、その振動の原因である路面からの入力を低減して、乗り心地を向上させることができるように、前記アクチュエータ31及び32を作動させ、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する。より具体的には、所定の条件に基づいてキャビンが振動しているか否かを判断し、キャビンが振動していると判断した場合には、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する。なお、前述のように、キャンバの付与は、四輪すべてであってもよいし、前輪のみであってもよいが、ここでは、説明の都合上、後輪のみに付与する場合についてのみ説明する。
【0044】
図3に示されるように、懸架装置40は、ストラット41、ロアアーム42等の多数の可動部材を含む一種のリンク機構であって、路面からタイヤ36へ入力された振動は、多数の可動部材を通って、最終的にボディ11に伝達される。この場合、前記可動部材は、複数の異なった方向に変位し、また、複数の異なった方向に力を伝達するので、路面からの振動も、複数の異なった方向の振動となって、最終的にボディ11に伝達される。そのため、例えば、上下方向のみの振動が路面からタイヤ36へ入力されても、最終的にボディ11に伝達される振動には、上下方向の成分のみならず、左右方向の成分も含まれることになる。
【0045】
そこで、本実施の形態においては、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与し、車輪WLB及びWRBのタイヤ36に互いに対向する方向にキャンバスラストを発生させて左右方向の変位を抑制することによって、振動に含まれる左右方向の成分のみならず、他の方向の成分も抑制する。これにより、ボディ11の全方向の振動を抑制することができ、乗り心地を向上させることができる。また、路面の段差からの入力に起因する振動のみならず、横風からの入力のようなその他の要因に起因する振動も抑制することができる。
【0046】
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。ここでは、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりする動作についてのみ説明する。
【0047】
図1は本発明の実施の形態における車両の動作を示すフローチャート、図5は本発明の実施の形態における操縦安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図、図6は本発明の実施の形態におけるキャビン振動判定処理のサブルーチンを示す図、図7は本発明の実施の形態における直進安定キャンバ要否判定処理のサブルーチンを示す図、図8は本発明の実施の形態における接地荷重判定処理のサブルーチンを示す図である。
【0048】
まず、制御部16の図示されない判定指標取得処理手段は、判定指標取得処理を行い、各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与したり、キャンバの付与を解除したりするために必要な判定指標、本実施の形態においては、車両10の状態を表す車両状態、及び、操作者による各操作部の操作の状態を表す操作状態を検出する(ステップS1、S2)。
【0049】
そのために、前記判定指標取得処理手段は、前記ヨーレートセンサ65a、ピッチレートセンサ65b、ロールレートセンサ65c、横Gセンサ66、前後Gセンサ67、キャンバセンサ68、サスストロークセンサ73、荷重センサ75、タイヤ潰れ代センサ76等のセンサ出力を読み込み、車両状態として、ヨーレート、ピッチ角、ロール角、横G、前後G、キャンバの角度、サスストローク、荷重、タイヤ潰れ代等を取得する。なお、前記判定指標取得処理手段は、サスストロークに基づいてロール角を算出することもできる。
【0050】
そして、前記判定指標取得処理手段は、ステアリングセンサ64、アクセルセンサ71、ブレーキセンサ72等のセンサ出力を読み込み、操作状態として、ステアリング角度、アクセルペダル14の踏込量、ブレーキペダル15の踏込量等を取得する。また、前記判定指標取得処理手段は、ステアリング角度に基づいて、ステアリング角度の変化率を表すステアリング角速度、及び、該ステアリング角速度の変化率を表すステアリング角加速度を操作状態として取得する。
【0051】
なお、前記ヨーレートセンサ65a、ピッチレートセンサ65b、ロールレートセンサ65c、横Gセンサ66、前後Gセンサ67、キャンバセンサ68、サスストロークセンサ73、荷重センサ75、タイヤ潰れ代センサ76、キャビン振動センサ78等の各センサは車両状態検出部として機能し、ステアリングセンサ64、アクセルセンサ71、ブレーキセンサ72等の各センサは操作状態検出部として機能する。
【0052】
次に、制御部16の図示されない第1のキャンバ要否判定処理手段としての操縦安定キャンバ要否判定処理手段は、第1のキャンバ要否判定処理としての操縦安定キャンバ要否判定処理を行い、車両10の旋回時に、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する必要があるか否か、すなわち、キャンバ付与が必要であるか否かを判断する(ステップS3、S4)。
【0053】
そのために、前記操縦安定キャンバ要否判定処理手段は、ステアリング角度を読み込み、ステアリング角度を読み込む直前の所定の時間、本実施の形態においては、過去X秒間のステアリング角度が閾(しきい)値以上であるか否かを判断し(ステップS3−1)、過去X秒間のステアリング角度が閾値以上である場合、キャンバ付与条件が成立した、すなわち、キャンバ付与が必要であると判断する(ステップS3−2)。
【0054】
そして、キャンバ付与が必要であると判断した場合、制御部16の図示されないキャンバ判定処理手段は、キャンバ判定処理を行い、キャンバの角度を読み込み、各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与されているか否か、すなわち、キャンバがネガティブであるか否かを判断する(ステップS5)。各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与されている場合、すなわち、キャンバがネガティブである場合、制御部16は処理を終了する。
【0055】
また、キャンバが付与されていない場合、すなわち、キャンバがネガティブでない場合、制御部16の図示されないキャンバ制御処理手段は、キャンバ制御処理を行う。すなわち、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ付与処理手段は、キャンバ付与処理を行い、前記アクチュエータ31及び32を作動させて各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する(ステップS6)。
【0056】
このとき、各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与されるのに伴って、各車輪WLB及びWRBのタイヤ36に互いに対向する方向にキャンバスラストが発生するが、車両10を左方に向けて旋回させる場合は、車両10に遠心力が発生するので、外周側の車輪WRB(外輪)の接地荷重が大きくなり、車輪WRBのタイヤ36に発生するキャンバスラストが内周側の車輪WLB(内輪)のタイヤ36に発生するキャンバスラストより大きくなる。また、車両10を右方に向けて旋回させる場合は、外周側の車輪WLB(外輪)の接地荷重が大きくなり、車輪WLBのタイヤ36に発生するキャンバスラストが内周側の車輪WRB(内輪)のタイヤ36に発生するキャンバスラストより大きくなる。
【0057】
したがって、車両10に十分な求心力を発生させることができるので、車両10の旋回安定性を高くすることができる。
【0058】
一方、操縦安定キャンバ要否判定処理を行い、キャンバ付与が必要であるか否かを判断してキャンバ付与が必要でない場合、制御部16の図示されない第2のキャンバ要否判定処理手段としてのキャビン振動判定処理手段は、第2のキャンバ要否判定処理としてのキャビン振動判定処理を行い、ボディ11のキャビンの振動が所定条件に該当するか否か、すなわち、キャビン振動であるか否かを判断する(ステップS7、S8)。
【0059】
そのために、前記キャビン振動判定処理手段は、キャビン振動センサ78の検出した振動の値を読み込み、キャビンにおける左右方向の振動の加速度、すなわち、左右振動Gが閾値以上であるか否かを判断し、閾値以上でない場合にはキャビン振動と判断しない(ステップS7−1)。また、閾値以上である場合、前記キャビン振動判定処理手段は、キャビンにおける左右方向の振動の加速度が前後方向の振動の加速度又は上下方向の振動の加速度以上であるか否か、すなわち、左右振動G≧前後及び上下振動Gであるか否かを判断する(ステップS7−2)。そして、左右振動G≧前後及び上下振動Gでない場合には、キャビン振動と判断せず、左右振動G≧前後及び上下振動Gである場合に、キャビン振動であると判断する(ステップS7−3)。
【0060】
経験上、後輪のみにキャンバを付与することによるキャビンの振動抑制効果は、キャビンの振動が左右方向の振動である場合に最大であり、続いて、上下方向の振動、前後方向の振動の順に小さくなる。そこで、ここでは、左右振動Gが閾値より小さい場合、及び、左右振動Gが前後及び上下振動Gより小さい場合には、振動抑制効果が大きくないので、タイヤ36の偏摩耗を防止するためにも、キャビン振動と判断せずにキャンバの付与を行わないこととする。
【0061】
このようにして、キャビン振動判定処理手段がキャビン振動であると判断すると、キャンバ判定処理手段は、キャンバ判定処理を行い、キャンバの角度を読み込み、キャンバがネガティブであるか否かを判断する(ステップS9)。そして、キャンバがネガティブである場合、制御部16は処理を終了する。また、キャンバがネガティブでない場合、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ付与処理手段は、キャンバ付与処理を行い、前記アクチュエータ31及び32を作動させて各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する(ステップS10)。
【0062】
このとき、各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与するのに伴って、各車輪WLB及びWRBのタイヤ36に互いに対向する方向にキャンバスラストが発生するので、横方向の変位が抑制され、キャビンの振動が抑制され、乗り心地を向上させることができる。
【0063】
一方、キャビン振動判定処理を行い、キャビン振動でない場合、制御部16の図示されない第3のキャンバ要否判定処理手段としての直進安定キャンバ要否判定処理手段は、第3のキャンバ要否判定処理としての直進安定キャンバ要否判定処理を行い、車両10の直進走行時に、車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する必要があるか否か、すなわち、キャンバ付与が必要であるか否かを判断する(ステップS11、S12)。
【0064】
そのために、前記直進安定キャンバ要否判定処理手段は、車速を読み込み、車速を読み込む直前の所定の時間、本実施の形態においては、過去Z秒間の車速に基づいて車速算出値、本実施の形態においては、平均車速を算出するとともに、過去Z秒間の平均車速が閾値以上であるか否かを判断する(ステップS11−1)。過去Z秒間の平均車速が閾値以上である場合、さらに、過去Z秒間におけるステアリングホイール13の操作量を表すステアリング角度の平均値、すなわち、平均ステア角が閾値以下であるか否かを判断する(ステップS11−2)。平均ステア角が閾値以下である場合、キャンバ付与条件が成立した、すなわち、キャンバ付与が必要であると判断する(ステップS11−3)。
【0065】
そして、キャンバ付与が必要であると判断した場合、前記キャンバ判定処理手段は、キャンバ判定処理を行い、キャンバの角度を読み込み、各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与されているか否か、すなわち、キャンバがネガティブであるか否かを判断する(ステップS13)。キャンバが付与されていない場合、すなわち、キャンバがネガティブでない場合には、前記キャンバ付与処理手段は、キャンバ付与処理を行い、前記アクチュエータ31及び32を作動させて各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する(ステップS14)。
【0066】
このとき、各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与するのに伴って、各車輪WLB及びWRBのタイヤ36に互いに対向する方向にキャンバスラストが発生するので、各車輪WLB及びWRBに外力が加わった場合は、外力と逆方向のキャンバスラストが大きくなる。したがって、車両10の復元力が大きくなり、車両10の走行安定性を高くすることができる。
【0067】
ところで、前述されたように、各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与された状態で車両10を長時間走行させるのに伴ってタイヤ36に偏摩耗が発生すると、タイヤ36の寿命が短くなってしまう。
【0068】
そこで、制御部16の図示されないキャンバ解除判定処理手段としての接地荷重判定処理手段は、キャンバ解除判定処理としての接地荷重判定処理を行い、キャンバ解除条件が成立したか否か、すなわち、キャンバ付与解除が必要であるか否かを判断する(ステップS15、S16)。そのために、前記接地荷重判定処理手段は、接地荷重指標として、タイヤ潰れ代、サスストローク、前後G、ヨーレート、ロール角、荷重、ブレーキストローク、アクセル開度、ステアリング角度、ステアリング角速度、ステアリング角加速度等を読み込み、各接地荷重指標が、それぞれの閾値以上であるか否かを判断し(ステップS15−1〜S15−11)、各接地荷重指標のうちのいずれか一つが閾値以上である場合に、接地荷重がタイヤ36に偏摩耗を発生させると判断し、キャンバ解除条件が成立した、すなわち、キャンバ付与解除が必要であると判断する(ステップS15−12)。なお、前記接地荷重判定処理において、各接地荷重指標がそれぞれの閾値以上であるか否かによって、接地荷重がタイヤ36に偏摩耗を発生させるか否かを判断するための各接地荷重条件が成立したか否かが判断される。
【0069】
そして、前記接地荷重判定処理において、キャンバ付与解除が必要であると判断した場合、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ解除処理手段は、キャンバ解除処理を行い、アクチュエータ31及び32を作動させて各車輪WLB及びWRBへのキャンバの付与を解除する(ステップS17)。
【0070】
一方、直進安定キャンバ要否判定処理を行い、キャンバ付与が必要であるか否かを判断してキャンバ付与が必要でない場合、前記キャンバ判定処理手段は、キャンバの角度を読み込み、現在、各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与されているか否か、すなわち、キャンバがネガティブであるか否かを判断する(ステップS18)。
【0071】
そして、各車輪WLB及びWRBにキャンバが付与されている場合、すなわち、キャンバがネガティブである場合、前記キャンバ解除処理手段は、制御部16に内蔵された図示されない計時処理部としてのタイマによる計時を開始し、所定の時間が経過すると(ステップS19)、アクチュエータ31及び32を作動させて各車輪WLB及びWRBへのキャンバの付与を解除する(ステップS20)。
【0072】
このように、本実施の形態においては、キャビンが振動している場合には各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与するので、キャビンの振動を抑制して乗り心地を向上させることができる。
【0073】
この場合、キャビン振動判定処理手段は、キャビンの左右方向、上下方向及び前後方向の振動に基づいて、キャビンが振動しているか否かを判定する。つまり、左右振動G、上下振動G及び前後振動Gに基づいて、キャビンが振動しているか否かを判定する。より具体的には、左右振動Gが閾値以上であり、かつ、左右振動Gが前後及び上下振動G以上である場合に、各車輪WLB及びWRBにキャンバを付与する。これにより、大きな振動抑制効果を得ることができるとともに、タイヤ36の偏摩耗を防止することができる。
【0074】
なお、本実施の形態においては、車輪WLB及びWRB、すなわち、後輪にのみキャンバを付与する例について説明したが、前輪にのみキャンバを付与してもよいし、全輪にキャンバを付与してもよい。
【0075】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、キャンバ制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 車両
11 ボディ
16 制御部
31、32 アクチュエータ
36 タイヤ
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪とを備える車両における所定の車輪のキャンバを制御するためのキャンバ制御装置であって、
前記複数の車輪のうちの所定の車輪に配設され、該所定の車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、
該キャンバ可変機構を作動させ、前記所定の車輪に負のキャンバを付与するキャンバ付与処理手段と、
前記ボディのキャビンが振動しているか否かを判定するキャビン振動判定処理手段とを有し、
前記キャビンが振動している場合には、前記キャンバ付与処理手段によって前記所定の車輪に負のキャンバを付与することを特徴とするキャンバ制御装置。
【請求項2】
前記キャビン振動判定処理手段は、前記キャビンの左右方向、上下方向及び前後方向の振動に基づいて、前記キャビンが振動しているか否かを判定する請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項3】
前記キャビン振動判定処理手段は、前記キャビンへの左右方向の振動が、前後方向の振動及び上下方向の振動よりも大きいか否かを判断するとともに、
前記キャンバ付与処理手段は、前記キャビン振動判定処理手段が、前記キャビンへの左右方向の振動が前後方向の振動及び上下方向の振動よりも大きいと判断した場合に、前記所定の車輪に負のキャンバを付与する請求項2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項4】
前記所定の車輪は全輪である請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−105203(P2011−105203A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263704(P2009−263704)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】