キラルセンサーおよびキラルセンシング方法
【課題】 広範なサイズと種類のキラル分子を高感度にキラルセンシングすることのできる新しい技術を提供する。
【解決手段】 例えば下記の式で表わされる、ポルフィリンが三次元的に広がったデンドリマー構造の化合物をホスト化合物として、目的のキラル分子の両末端をビピリジン環などで修飾したゲスト化合物とのホスト−ゲスト錯体の円二色性スペクトルを測定する。下記式中、nは1〜10の整数(好ましくは1〜3の整数)、Xは例えばエステル結合、Zは例えばベンジルエーテル基、Yは例えば水素原子、Mは例えば亜鉛を表わす。
【解決手段】 例えば下記の式で表わされる、ポルフィリンが三次元的に広がったデンドリマー構造の化合物をホスト化合物として、目的のキラル分子の両末端をビピリジン環などで修飾したゲスト化合物とのホスト−ゲスト錯体の円二色性スペクトルを測定する。下記式中、nは1〜10の整数(好ましくは1〜3の整数)、Xは例えばエステル結合、Zは例えばベンジルエーテル基、Yは例えば水素原子、Mは例えば亜鉛を表わす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルセンシング方法、および該方法に有用なキラルセンシング剤(キラルセンサー)に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル分子(キラル化合物)のキラリティーを判別(識別)するキラルセンシングは、不斉触媒反応や立体選択性合成と関連して基礎科学ばかりでなく、キラル分離、製薬などへの応用的側面からも注目されている。しかしながら、分子量、融点・沸点、極性などの物理特性が全く同じであるキラル分子のキラリティーを判別することは容易ではない。キラルセンシングを効率的に行なうには、ゲスト分子としてのキラル分子に対してできるだけ数多くの分子認識部位を有するホスト分子を用いることが望ましい。さらに、ゲスト分子のキラリティーをシグナルに変換してアウトプットし、かつそのシグナルを増幅する機能を持ち合わせたホスト分子を開発することが重要なポイントとなる。これまでに、分子認識能とシグナル増幅能のどちらかの一方を優先的に有する系は数多く報告されているが、両者を兼備した系はほとんど見出されない。
【0003】
最近、所謂超分子を用いるキラルセンシングが、基礎・応用の両面から注目されている。キラルセンシングを行なうには、あらかじめ設計された超分子をホスト分子として用い、キラルなゲスト分子との相互作用によって生じたホスト−ゲスト錯体の吸収スペクトルや円二色性スペクトルを測定し、その変化(相違)をシグナルとしてキラリティーを判別するという手法が有効で、関心を集めつつある。これまでに、ホスト分子としてクラウンエーテルやカリックスアレンなどの大環状化合物とそれらの金属錯体や直鎖状の共役ポリマーなどが用いられた。しかし、これらの多くはキラルセンシング能がきわめて低い。大環状化合物の場合、キラルゲストを環内にトラップすることが可能であり、高い分子認識能は得られるが、可視部に吸収バンドを持たないとシグナルの転写・増幅能が非常に低くなる。また、直鎖状の共役ポリマーは広いπ−共役系を有するため、シグナルの増幅は可能であるが、キラル分子を捕捉する能力が乏しい。
【0004】
共役系大環状分子であるポルフィリンは様々なゲスト分子と配位結合により錯体を形成する。それに伴い、紫外・可視吸収スペクトルが大きく変化することがよく知られている。また、キラルゲスト分子の場合、吸収スペクトルだけではなく、ゲスト分子のキラリティーに応じて、円二色性スペクトルも大きく変化する。従って、これらのスペクトル変化がゲスト分子のキラリティーを識別するためのシグナルとして利用できる。これまでに、ポルフィリン二量体を用いたキラルセンシングが行なわれているが(中西ら、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 5962:非特許文献1;井上ら、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 2979:非特許文献2)、ポルフィリン間の距離が空間的に制限されているため、ゲスト分子のサイズや種類が限られている。
【非特許文献1】中西ら、J. Am.Chem. Soc. 2001, 123, 5962
【非特許文献1】井上ら、J. Am.Chem. Soc. 2001, 123, 2979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、広範なサイズと種類のキラル分子を高感度にキラルセンシングすることのできる新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、検討を重ねた結果、多数のポルフィリンが三次元的に広がったデンドリマー構造から成る新規な化合物の合成に成功し、この化合物を用いることにより如上の目的を達成し得ることを見出した。
【0007】
かくして、本発明に従えば、下記の式1、式2または式3で表わされるマルチポルフィリンデンドリマー化合物から成ることを特徴とするキラルセンシング剤が提供される。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
【0011】
式1、式2および式3において、nは、1〜10の整数を表し、Xは、エステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドから選ばれる結合を表わし、Zは水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基、または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Yは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Mは、水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子を表わす。
【0012】
さらに、本発明に従えば、キラル分子のキラリティーを判別するキラルセンシング方法であって、
(1)下記の式4で表され目的のキラル分子の両末端を窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団で修飾したゲスト化合物を調製する工程、および、
(2)式1、式2または式3のいずれかのマルチポルフィリンデンドリマー化合物をホスト化合物として、前記ゲスト化合物とのホスト−ゲスト錯体の円二色性スペクトルを測定する工程、
を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0013】
【化4】
【0014】
式4において、CR*は目的のキラル分子の残基を表わし、Lは窒素原子、リン原子、
イオウ、または酸素を含む原子団を表わす。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従うマルチポルフィリンデンドリマーを用いれば、分子サイズに関する制約を殆んど受けることなく広範囲のキラル分子についてキラリティーを高感度に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に従いキラルセンシング剤として用いられる既述の式1、式2または式3の化合物は、球状(車輪状)のマルチポルフィリンデンドリマー構造を有することにより、キラル分子を捕捉することとキラルシグナルを増幅することを同時に可能にしている。すなわち、式1、式2または式3の化合物はポルフィリンユニットをデンドリマー組織の外表面に有しているため、外部からのアクセスが高い自由度をもち、配位結合によりキラルゲストを容易に捕捉することができる。また、分子内に多数のポルフィリンユニットを有するため、巨大な光吸収断面積をもち、円二色性スペクトルで示されるキラルシグナルを著しく増幅することが可能となる。
【0017】
ホスト分子として特筆すべき点は、本発明で用いられる式1、式2または式3のマルチポルフィリンデンドリマーは、すべてのポルフィリンユニットがデンドリマー組織の特定の層に位置し、すべてのポルフィリンユニットが同様な化学環境に取り込まれているということである。これは配位結合、分子認識、さらにシグナル増幅などにおいて非常に有利な構造となっている。また、このマルチポルフィリンデンドリマーでは、ぽるふぃるん環が配位する金属イオンの種類を自由自在に変えることができ、様々な金属マルチポルフィリンデンドリマー錯体を簡便に構築できるという利点も持ち合わせている。既述のように、2個のポルフィリンユニットを有するビスポルフィリン誘導体を用いるキラルセンシングは従来も提案されているが、多数のポルフィリンをデンドリマーに配置した巨大なマルチポルフィリンデンドリマーから成るキラルセンシング剤の例はない。
【0018】
かくして、本発明のキラルセンシング剤を構築する式1、式2または式3のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、ホスト分子として、ゲスト分子となる広範囲のキラル分子とホスト−ゲスト錯体を形成し、このホスト−ゲスト錯体の形成は、キラル分子のキラリティーに応じて、円二色性スペクトルの明確なシグナルとして検出される。
【0019】
本発明に従い式1、式2または式3のマルチポルフィリンデンドリマー化合物を用いてキラルセンシング方法を実施するには、ポルフィリン環の中心金属に配位し得るような原子、具体的には、窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団で、目的のキラル分子の両末端を修飾したゲスト化合物を調製する。すなわち、このゲスト化合物は下記の式4で表わすことができる。
【0020】
【化5】
【0021】
式4において、CR*は目的のキラル分子の残基を表わし、Lは窒素原子、リン原子、
イオウ、または酸素を含む原子団を表わす。
【0022】
L(窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団)としては、種々のものが適用可能であり、例えば、ピリジン、イミダゾール、ヒスチジン、トリフェノールホスフィン、フェノール、ベンジルアルコールまたはスルフィドを含むものなどが挙げられ、この場合、式4のゲスト化合物は、それぞれ、ビピリジン誘導体、ビスイミダゾール誘導体、ビスヒスチジン誘導体、ビストリフェニルホスフィン誘導体、フェノール誘導体、ベンジルアルコール誘導体、またはスルフィド誘導体として使用されることになる。
【0023】
合成や入手の容易性などの理由からLとして特に好ましいのはピリジンを含むものであり、この場合、式4のゲスト化合物(キラルゲスト化合物)は、下記の式5で表わすことができる。
【0024】
【化6】
【0025】
式5のゲスト化合物は、キラリティーを判別しようとする目的のキラル分子(キラル化合物)を例えばイソニコチン酸と反応させることによって得られる(後述の実施例3参照)。したがって、CR*はそのようにして得られたキラル分子の残基を表わす。
【0026】
かくして、本発明に従えば、適当な溶媒(例えばクロロホルム)の溶液としてマルチポルフィリンデンドリマー化合物に如上のゲスト化合物を添加すると、該ゲスト化合物がその両末端のピリジン環などを介してポルフィリンの中心金属に配位して捕捉され、円二色性スペクトルの大きなシグナル変化がもたらされる。本発明において用いられるマルチポルフィリンデンドリマー化合物では、個々のポルフィリンユニットが、外表面に独立して存在し、且つ、デンドリマー構造の大きさに応じて互いの距離を種々に異ならせることができるので、キラル分子(ゲスト分子)のサイズに関しての制約は殆んどない。すなわち、このマルチポルフィリンデンドリマー化合物を用いることにより、低分子のキラル化合物(アミノ酸、アルコールなど)から、オリゴペプチド、DNAなどのサイズの大きなキラル化合物に至る広範なキラル化合物(キラル分子)についてキラリティーを判別することが可能となる。
【0027】
本発明においてキラルセンシング剤として用いられる化合物は、式1、式2または式3においてnが1〜10の整数を表わすような多数のポルフィリンユニットが三次元的に広がったデンドリマー構造から成るものであるが、実用的にはnが1〜3の整数となるような構造のものが好適である。
【0028】
式1、式2または式3において、Xは、ポルフィリンを含む構造単位とコアとなるヘキサフェニルベンゼン構造と結合する部位を表わし、有機化合物でよく知られたエステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドなどの各種の結合が適用可能であるが、合成の容易さから好ましいのは、エステル、エーテル、またはアミドから選ばれる結合であり、特に好ましいのはエステル結合である。
【0029】
本発明において用いられるマルチポルフィリンデンドリマーを表わす式1、式2または式3において、Zは、デンドリマー構造の外表面に位置するポルフィリンユニットにベンゼン環(フェニル基)を介して結合されている有機基を表わす。Zとしては、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団が可能であるが、実用上好適なものは、水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、または置換もしくは無置換のベンジルエーテル基であり、特に好ましいのは置換もしくは無置換のベンジルエーテル基である。
【0030】
本発明のキラルセンシング剤を構成するデンドリマー化合物を表わす式1、式2または式3において、Yは、ポルフィリンの光学的機能を損なわない有機基であり、水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または、置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団が適用可能であるが、実用上好ましいのは水素原子またはハロゲン原子であり、特に好ましいのは水素原子(すなわち、無置換)である。
【0031】
本発明で用いられるマルチポルフィリンデンドリマー化合物を表わす式1、式2または式3におけるMとしては、ポルフィリンと軸配位子錯体を形成するものとして知られた水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子が適用可能であるが、実用上好ましいのは、亜鉛、鉄、マンガンまたはコバルトであり、特に好ましいのは亜鉛である。
【0032】
式1、式2または式3で表わされるマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、既知の各種の反応を工夫することによって合成することができる。図1は、本発明で用いられるデンドリマー化合物を合成するための一般的な反応スキームを概示するものであり、また、図2および図3は、後の実施例に記述するデンドリマー化合物を例に合成スキームを更に詳細に示すものである。
【0033】
図1に示すように、本発明で用いられるマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、一般に、ポルフィリン誘導体からデンドロンの世代を増やす反応(1)(例えば、エステル化反応、アミド化反応、エーテル反応)、およびその後の脱保護反応(2)を繰り返すことにより、ポルフィリン環を含む構造ユニットを合成した後、該構造ユニットをコアユニットであるヘキサ(4−置換フェニル)ベンゼンとのカップリング反応(例えば、エステル反応、アミド反応、エーテル反応)に供することにより合成することができる。なお、図1中、Aはカルボン酸、ベンジルブロマイド、エチニールなどの反応基を表わし、Bはエステル、ベンジルアルコール、三重結合などの保護した官能基を表わし、Cは水酸基、ハロゲンなどの反応基を表わす。また、図1では、図を複雑にしないために、式1の一連の化合物の合成法について示していないが、世代を増やす反応(1)においてポルフィリン誘導体を下記の化合物と反応させた後、式2または式3の化合物の場合と以下同様の反応工程を経て式1の化合物を合成することができる。
【0034】
【化7】
【0035】
このようにして得られたマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、可視の吸収能に優れ、例えば414nmにおけるモル吸光係数は106〜107M−1cm−1の大きさに達し、しかもその吸光係数はポルフィリンユニットの数に増大して比例する。これは、このデンドリマー化合物は、多数のポルフィリンが車輪状を成して配列されている特異な構造を有しているためと推測される。すなわち、このマルチポルフィリンデンドリマー化合物では、すべてのポルフィリンユニットがデンドリマー構造の外表面において言わば同じ化学・物理環境に配列されているので、従来の直鎖状ポルフィリンポリマーとは著しく異なり、分子間の会合を抑制してポルフィリン本来の性質を発揮させながら巨大な光吸収面積を呈するとともに、そのポルフィリンユニットの数によりその大きさを容易に制御することができるためと理解される。
【0036】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すため、実施例を記すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した試薬、装置等は次のとおりである。
1.試薬等
・反応はすべて乾燥アルゴン下で行った。
・溶剤類は無水のものはそのまま使用した。
クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メタノール、ベンゼン、トルエン、酢酸亜鉛、水酸化カリウム、塩酸、酢酸、フッ化カリウム、炭酸カリウム、18−c−6および粉末亜鉛は(株)東京化成工業から供給されるものをそのまま使用した。
なお、明細書および図面において、Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基、Phはフェニル基、DCCはジシクロヘキシルカルポジイミド、DPTSは4−ジメチルアミノピリジニウム−4−トルエンスルホン酸塩を表わすものである。
2.測定装置と条件等
・1H−NMR スペクトル:JEOL社製EX500型NMR(500MHz)を使用し測定した。溶媒はCDCl3を用い、基準は残存するCHCl3の7.28ppmのシグナルとした。
・マススペクトル(MS):Applied
Biosystems 社製Voyager D STR型MALDI−TOF/MSを使用した。
・紫外・可視吸収スペクトル:日本分光社製Ubest
V−560型分光光度計を使用した。光路長1センチの四面透明石英セルを用いた。
・リサイクル分取型用高速液相クロマトグラフ:日本分析工業社製HPLC−980;カラム1H/2Hの組み合わせで、THFを流出溶媒として使用した。
・円二色性スペクトル:光路長1センチの四面透明石英セルを用いて、日本分光社製J-820型分光偏光計を使用して測定した。
・ゲルカラムクロマトグラフ:Si−200(200μm)シリカゲルを用いた。
【実施例1】
【0037】
マルチポルフィリンデンドリマー化合物の合成
図2および図3に示す反応スキームに従い、本発明に従う車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物として、6−PZn(図4)、12−PZn(図5)、18−PZn(図6)、24−PZn(図7)および36−PZn(図8)を合成した。なお、6−PZnは式1においてn=1、12−PZnは式2においてn=1、18−PZnは式3においてn=1、24−PZnは式2においてn=2、36−PZnは式3においてn=2に、それぞれ対応するデンドリマー化合物である。
【0038】
<1−(Si)2PH2−CO2Meの合成>
アルゴン雰囲気下、3、5−(tert−ブチルジフェニルシロキシ)ベンズアルデヒド(14.27g、0.023mol)、p−ホルミル安息香酸メチル(3.81g、0.023mol)およびジピロールメタン(6.79g、0.046mol)のジクロロメタン混合溶液(4L)に撹拌しながら三フッ化ほう素・ジエチルエーテル錯体(1.0mL)を加え、暗所下でさらに1日間撹拌した。反応系にパラークロラニール(17g、0.069mol)を加え、室温下で5時間撹拌し、減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレンから塩化メチレン/ヘキサン(2/1))にかけ、紫色結晶として得られた。収量:7.0g。収率:30%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z1029.51(M+)、(計算値M+1029.38:C66H60N4O4Si2として)。
【0039】
<1−PZn−CO2Meの合成>
18−c−6(0.39g、0.0014mol)、炭酸カリウム(0.43g、3.07mmol)およびフッ化カリウム(0.86g、0.015mol)の存在下、1−(Si)2PH2−CO2Me(0.76g、0.75mmol)と3,5−ジメトキシベンジルブロミド(0.88g、3.82mmol)のTHF(20mL)溶液をアルゴン下にて三3日間加熱還流した。反応溶液を濃縮乾固した後、塩化メチレン/水で洗浄、抽出し、有機層をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン)にかけた。得られたピンク色の固体を塩化メチレン(5mL)に溶かし、酢酸亜鉛(1.0g、0.0054mol)を加え、混合溶液を24時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し,酢酸エチル/水で洗浄、抽出し、有機層をシリカゲルカラム(塩化メチレンから塩化メチレン/メタノール(90/10;勾配1%メタノール))にかけ、赤色結晶として得られた。収量:0.58g。収率:85%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 916.27(M+)、(計算値M+916.30:C52H42N4O8Znとして)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、581nm。
【0040】
<1−PZn−CO2Hの合成>
1−PZn−CO2Me(0.26g、0.284mmol)と水酸化カリウム(0.1g、0.0017mol)のTHF/水混合溶液(10mL/5mL)を60℃にて12時間加熱撹拌した。反応溶液を酢酸で中和し、酢酸エチル/水で洗浄、抽出し、有機層を減圧乾固した。粗生成物をTHF/ヘキサンから再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.24g。収率:95%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 900.57(M+)、(計算値M+902.28:C51H40N4O8Znとして)。
【0041】
<2−PZn−CO2CH2CCl3の合成>
DPTS(73.0mg、5mL塩化メチレン)の存在下、1−PZn−CO2H(0.45g、0.5mmol)と3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリクロロエチル(58mg、0.2mmol)のTHF(5mL)溶液を10分間撹拌した後、DCC(154mg、5mL塩化メチレン)を加え、さらに4日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:0.39g。収率:95%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 2053.26(M+)、(計算値M+2054.03:C111H83Cl3N8O18Zn2として)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、582nm。
【0042】
<2−PZn−CO2Hの合成>
2−PZn−CO2CH2CCl3(0.39g、0.19mmol)と粉末状亜鉛(0.26mg、3.92mmol)のTHF/酢酸混合溶液(5mL/5mL)を60℃にて6時間加熱撹拌した後、反応混合物を濾過し、亜鉛残査を除去した。ろ液をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をTHF/ヘキサンで再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.25g。収率68%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 1920.26(M+)、(計算値M+1922.64:C109H82N8O18Zn2として)。
【0043】
<4−PZn−CO2CH2CCl3の合成>
DPTS(22.4mg、4mL塩化メチレン)の存在下、2−PZn−CO2H(0.25g、0.13mmol)と3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリクロロエチル(16.8mg、0.06mmol、2mL THF)の混合溶液を10分間撹拌した後、DCC(46.3mg、4mL塩化メチレン)を加え、さらに3日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:0.26g。収率:94%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 4094.37(M+)、(計算値M+4094.76:C227H167Cl3N16O38Zn4として)。
UV−vis(THF、25℃):415、544、581nm。
【0044】
<4−PZn−CO2Hの合成>
4−PZn−CO2CH2CCl3(0.22g、0.055mmol)と粉末状亜鉛(0.62mg、9.34mmol)のTHF/酢酸混合溶液(5mL/5mL)を60℃にて6時間加熱撹拌した後、反応混合物を濾過し、亜鉛残査を除去した。ろ液をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をTHF/ヘキサンで再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.13g。収率58%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 3962.46(M+)、(計算値M+3963.37:C225H166N16O38Zn4として)。
【0045】
<6−PZnの合成>
DPTS(8.6mg、1mL塩化メチレン)とDCC(43.7mg、2mL塩化メチレン)の存在下、1−PZn−CO2H(75.5mg、0.09mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(7mg、2mL THF)の混合溶液を5日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:54.5mg。収率:88%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 5938(M+H+)、(計算値M+5936:C348H258N24O48Zn6として)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、583nm。
【0046】
<12−PZnの合成>
DPTS(6.1mg、2mL塩化メチレン)とDCC(35mg、5mL塩化メチレン)の存在下、2−PZn−CO2H(37.7mg、0.019mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(6.9mg、10mL THF)の混合溶液を3日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:21.1mg。収率:89%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 12061(M+H+)、(計算値M+12058:C696H510N48O108Zn12として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0047】
<24−PZnの合成>
DPTS(2.86mg、0.94mL塩化メチレン)とDCC(6.05mg、0.85mL塩化メチレン)の存在下、4−PZn−CO2H(37.7mg、0.0196mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(6.9mg、1.97μmol、10mL THF)の混合溶液を4日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:21.1mg。収率:89%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 24293.09(M+K+)、(計算値M+24251.37:C1392H1014N96O228Zn24として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0048】
<18−PZnの合成>
DPTS(10mg、2mL塩化メチレン)とDCC(28.5mg、2mL塩化メチレン)の存在下、3−PZn−CO2H(62.3mg、0.0221mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(1.519mg、2mL THF)の混合溶液を6日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:4.8mg。収率:11%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 17479(M+)、(計算値M+17459:C1002H738N72O156Zn18として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0049】
<36−PZnの合成>
DPTS(9.8mg、1mL塩化メチレン)とDCC(14mg、2mL塩化メチレン)の存在下、6−PZn−CO2H(32.1mg、0.00556mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(0.89mg、2mL THF)の混合溶液を6日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:7.8mg。収率:39%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 35202(M+K+)、(計算値M+35105:C2004H1470N144O324Zn36として)。
UV−vis(THF、25℃):414、546、583nm。
【実施例2】
【0050】
マルチポルフィリンデンドリマー化合物の物性評価
実施例1で合成した車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物はいずれも通常の有機溶媒(例えば、クロロホルム、塩化メチレン、THFなど)に優れた溶解性を示した。また、外表面にポリベンジルエーテルデンドロンを持つため,成膜性にも優れていた。
次に、紫外・可視吸収スペクトルや蛍光発光スペクトルの測定から、これらのマルチポルフィリンデンドリマーはポルフィリンユニットの数が増大しても、吸収バンドの位置(図9)や蛍光バンドの位置(表1)がほとんど変わらないことが分かった。一方、これらの化合物はモル吸光係数がポルフィリンユニットの数に比例して増大し、可視光領域において巨大な光吸収断面積を有することが明らかである(表1)。すなわち、本発明の車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物は、多数のポルフィリンユニットを有するが、基底状態や光励起一重項状態において会合による分子間の相互作用がほとんど見られない。
【0051】
【表1】
【実施例3】
【0052】
キラルゲスト化合物の合成
実施例1で合成したマルチポルフィリンデンドリマー化合物のキラルセンシング機能を調べるために、下記に示すように、キラル分子(キラル化合物)として、低分子アルコール、アミノ酸およびオリゴペプチドについて、それぞれの末端をピリジン環で修飾したゲスト化合物RR−Py2/SS−Py2、L−Leu−Py2、および(Aib)2−L−Leu−(Aib)2−Py2を合成した。合成は、いずれもGuoらの方法(J. Am.
Chem. Soc. 2003, 126, 716:非特許文献3)に従った。1例として、RR−Py2とSS−Py2の合成スキームを図10に示す。
【0053】
【化8】
【0054】
【化9】
【0055】
【化10】
【0056】
<RR−Py2の合成>
Guoらの方法(非特許文献3)により合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、イソニコチン酸(0.35g、2.82mmol)、(2R, 3R)−(−)−2,3−ブタンジオール(0.1g、1.11mmol)およびDPTS(0.34g、1.14mmol)のジクロロメタン混合溶液(15mL)に撹拌しながらDCC(1.44g、6.98mmol)を加え、暗所下で2日間撹拌した。反応混合物を濾過し、ろ液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(2/1))にかけ、白色結晶として得た。収量:0.3g。収率:95%。MS(MALDI−TOF, CHCA):実測値m/z 301.06 (M+)、(計算値M+ 301.31、calcd. for C16H16N2O4)。
【0057】
<SS−Py2の合成>
アルゴン雰囲気下、イソニコチン酸(0.35g、2.82mmol)、(2S, 3S)−(+)−2,3−ブタンジオール(0.1g、1.11mmol)およびDPTS(0.34g、1.14mmol)のジクロロメタン混合溶液(15mL)に撹拌しながらDCC(1.44g、6.98mmol)を加え、暗所下で2日間撹拌した。反応混合物を濾過し、ろ液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(2/1))にかけ、白色結晶として得られた。収量:0.3g。収率:95%。MS(MALDI−TOF, CHCA):実測値m/z 301.05(M+)、(計算値M+301.31、calcd. for C16H16N2O4)。
【0058】
<L−Leu−Py2の合成>
Guoらの方法(非特許文献3)により、合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、H-L-Leu-NHPy(250mg、1.2mmol)と4−ピリジンカルボン酸(165mg、1.35mmol)のTHF混合溶液(20mL)を室温下、12時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン・メタノール(5/1))にかけ、白色の結晶として得られた。収量:194mg。収率:52%。MS(ESI-MS):実測値m/z 312.37(M+)、(計算値M+312.36)。
【0059】
<(Aib)2−L−Leu−(Aib)2−Py2,の合成>
Guoらの方法(非特許文献3)により、合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、H-(Aib)2-L-Leu-(Aib)2-NHPy(205mg、0.37mmol)と4−ピリジンカルボン酸(55mg、0.45mmol)のTHF混合溶液(30mL)を室温下、24時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン・メタノール(5/1))にかけ、白色の結晶として得られた。収量:116mg。収率:47%。MS(ESI-MS):実測値m/z 653.39(M+)、(計算値M+653.38)。
【0060】
〔比較例1〕
キラルゲストの円二色性スペクトル
RR−Py2とSS−Py2のクロロホルム溶液中の円二色性スペクトルを測定し、図11に示す結果を得た。図11に示されるように、RR−Py2とSS−Py2は紫外部にそれぞれ正反対の弱い円二色性スペクトルを有しているが、可視部にはシグナルがない。
【実施例4】
【0061】
キラルセンシング
マルチポルフィリンデンドリマー24−PZn(0.26μM)のクロロホルム溶液にキラル分子RR−Py2またはSS−Py2のクロロホルム溶液を滴下し、円二色性スペクトルを測定し、図12を得た。
RRPy2とSS−Py2のそれぞれ単独の円二色性スペクトル(比較例1、図11)と比べて、シグナルが可視光部にシフトし、その強度が約1000倍も増幅している。また、RR−PY2とSS−Py2は正反対の円二色性スペクトルシグナルを有している。このように、マルチポルフィリンデンドリマー化合物24−PZnを用いることにより、キラル分子(キラル化合物)の立体配置(RRまたはSS)に応じて相違する円二色性スペクトルが示されるとともに、その円二色性スペクトルシグナルが大幅に増幅されていることが理解される。
【実施例5】
【0062】
RR−Py2に対するキラルセンシングのデンドリマーの影響
マルチポルフィリンデンドリマーとして6−PZn、12−PZn、18−PZnおよび36−PZnをそれぞれ用いて実施例4と同様に円二色性スペクトルを測定し、結果を24−PZnとともに図13に示す。図13の縦軸は、円二色性スペクトルシグナル(CDシグナル)の大きさを示す。マルチポルフィリンデンドリマー化合物を用いることにより、CDシグナルが増幅されており、キラリティーを高感度に検出できることが理解される。
【実施例6】
【0063】
24−PZnによるアミノ酸誘導体L−Leu−Py2のセンシング
マルチポルフィリンデンドリマーとして24−PZnを用いて、実施例4と同様に円二色性スペクトルを測定した。結果を図14に示す。図中、矢印で示しているのが24−PZnを用いた場合であり、24−PZnを用いない場合(図中、矢印で示していないスペクトル曲線)に比べて、円二色性スペクトルシグナルが大幅に増幅していることが理解される。
【実施例7】
【0064】
24−PZnによるペプチド鎖Aib2−L−Leu−Aib2−Py2のセンシング
マルチポルフィリンデンドリマーとして24−PZnを用いて、実施例4と同様に円二色性スペクトルを測定した。結果を図15に示す。図中、矢印で示しているのが24−PZnを用いた場合であり、24−PZnを用いない場合(図中、矢印で示していないスペクトル曲線)に比べて、円二色性スペクトルシグナルが大幅に増幅しており、マルチポルフィリンデンドリマー化合物が分子サイズの大きいペプチドのキラリティーの検出にも有効であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、有用な薬剤、試薬、農薬、化学物質等の開発に際して、広範な物質についてキラルセンシングを可能にするので、産業の多くの分野での利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明で用いられるデンドリマー化合物を合成するための一般的な反応スキームを示す。
【図2】実施例に記述する本発明で用いられるデンドリマー化合物24−PZnの合成スキームを示す。
【図3】実施例に記述する本発明で用いられるデンドリマー化合物を合成する最後の工程を示す。
【図4】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である6−PZnの化学構造式を示す。
【図5】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である12−PZnの化学構造式を示す。
【図6】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である18−PZnの化学構造式を示す。
【図7】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である24−PZnの化学構造式を示す。
【図8】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である36−PZnの化学構造式を示す。
【図9】本発明で用いられるデンドリマー化合物の紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図10】本発明で用いられるキラルゲスト化合物の1例であるRR−Py2およびSS−Py2の合成スキームを示す。
【図11】本発明のキラルゲスト化合物の1例であるRR−Py2とSS−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【図12】クロロホルム中の24PZn・RR−Py2と24PZn・SS−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【図13】円二色性シグナル強度に対するデンドリマーの影響を示す。
【図14】クロロホルム中の24PZn・L−Leu−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【図15】クロロホルム中の24PZn・Aib2−L−Leu−Aib2−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルセンシング方法、および該方法に有用なキラルセンシング剤(キラルセンサー)に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル分子(キラル化合物)のキラリティーを判別(識別)するキラルセンシングは、不斉触媒反応や立体選択性合成と関連して基礎科学ばかりでなく、キラル分離、製薬などへの応用的側面からも注目されている。しかしながら、分子量、融点・沸点、極性などの物理特性が全く同じであるキラル分子のキラリティーを判別することは容易ではない。キラルセンシングを効率的に行なうには、ゲスト分子としてのキラル分子に対してできるだけ数多くの分子認識部位を有するホスト分子を用いることが望ましい。さらに、ゲスト分子のキラリティーをシグナルに変換してアウトプットし、かつそのシグナルを増幅する機能を持ち合わせたホスト分子を開発することが重要なポイントとなる。これまでに、分子認識能とシグナル増幅能のどちらかの一方を優先的に有する系は数多く報告されているが、両者を兼備した系はほとんど見出されない。
【0003】
最近、所謂超分子を用いるキラルセンシングが、基礎・応用の両面から注目されている。キラルセンシングを行なうには、あらかじめ設計された超分子をホスト分子として用い、キラルなゲスト分子との相互作用によって生じたホスト−ゲスト錯体の吸収スペクトルや円二色性スペクトルを測定し、その変化(相違)をシグナルとしてキラリティーを判別するという手法が有効で、関心を集めつつある。これまでに、ホスト分子としてクラウンエーテルやカリックスアレンなどの大環状化合物とそれらの金属錯体や直鎖状の共役ポリマーなどが用いられた。しかし、これらの多くはキラルセンシング能がきわめて低い。大環状化合物の場合、キラルゲストを環内にトラップすることが可能であり、高い分子認識能は得られるが、可視部に吸収バンドを持たないとシグナルの転写・増幅能が非常に低くなる。また、直鎖状の共役ポリマーは広いπ−共役系を有するため、シグナルの増幅は可能であるが、キラル分子を捕捉する能力が乏しい。
【0004】
共役系大環状分子であるポルフィリンは様々なゲスト分子と配位結合により錯体を形成する。それに伴い、紫外・可視吸収スペクトルが大きく変化することがよく知られている。また、キラルゲスト分子の場合、吸収スペクトルだけではなく、ゲスト分子のキラリティーに応じて、円二色性スペクトルも大きく変化する。従って、これらのスペクトル変化がゲスト分子のキラリティーを識別するためのシグナルとして利用できる。これまでに、ポルフィリン二量体を用いたキラルセンシングが行なわれているが(中西ら、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 5962:非特許文献1;井上ら、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 2979:非特許文献2)、ポルフィリン間の距離が空間的に制限されているため、ゲスト分子のサイズや種類が限られている。
【非特許文献1】中西ら、J. Am.Chem. Soc. 2001, 123, 5962
【非特許文献1】井上ら、J. Am.Chem. Soc. 2001, 123, 2979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、広範なサイズと種類のキラル分子を高感度にキラルセンシングすることのできる新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、検討を重ねた結果、多数のポルフィリンが三次元的に広がったデンドリマー構造から成る新規な化合物の合成に成功し、この化合物を用いることにより如上の目的を達成し得ることを見出した。
【0007】
かくして、本発明に従えば、下記の式1、式2または式3で表わされるマルチポルフィリンデンドリマー化合物から成ることを特徴とするキラルセンシング剤が提供される。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
【0011】
式1、式2および式3において、nは、1〜10の整数を表し、Xは、エステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドから選ばれる結合を表わし、Zは水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基、または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Yは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Mは、水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子を表わす。
【0012】
さらに、本発明に従えば、キラル分子のキラリティーを判別するキラルセンシング方法であって、
(1)下記の式4で表され目的のキラル分子の両末端を窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団で修飾したゲスト化合物を調製する工程、および、
(2)式1、式2または式3のいずれかのマルチポルフィリンデンドリマー化合物をホスト化合物として、前記ゲスト化合物とのホスト−ゲスト錯体の円二色性スペクトルを測定する工程、
を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0013】
【化4】
【0014】
式4において、CR*は目的のキラル分子の残基を表わし、Lは窒素原子、リン原子、
イオウ、または酸素を含む原子団を表わす。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従うマルチポルフィリンデンドリマーを用いれば、分子サイズに関する制約を殆んど受けることなく広範囲のキラル分子についてキラリティーを高感度に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に従いキラルセンシング剤として用いられる既述の式1、式2または式3の化合物は、球状(車輪状)のマルチポルフィリンデンドリマー構造を有することにより、キラル分子を捕捉することとキラルシグナルを増幅することを同時に可能にしている。すなわち、式1、式2または式3の化合物はポルフィリンユニットをデンドリマー組織の外表面に有しているため、外部からのアクセスが高い自由度をもち、配位結合によりキラルゲストを容易に捕捉することができる。また、分子内に多数のポルフィリンユニットを有するため、巨大な光吸収断面積をもち、円二色性スペクトルで示されるキラルシグナルを著しく増幅することが可能となる。
【0017】
ホスト分子として特筆すべき点は、本発明で用いられる式1、式2または式3のマルチポルフィリンデンドリマーは、すべてのポルフィリンユニットがデンドリマー組織の特定の層に位置し、すべてのポルフィリンユニットが同様な化学環境に取り込まれているということである。これは配位結合、分子認識、さらにシグナル増幅などにおいて非常に有利な構造となっている。また、このマルチポルフィリンデンドリマーでは、ぽるふぃるん環が配位する金属イオンの種類を自由自在に変えることができ、様々な金属マルチポルフィリンデンドリマー錯体を簡便に構築できるという利点も持ち合わせている。既述のように、2個のポルフィリンユニットを有するビスポルフィリン誘導体を用いるキラルセンシングは従来も提案されているが、多数のポルフィリンをデンドリマーに配置した巨大なマルチポルフィリンデンドリマーから成るキラルセンシング剤の例はない。
【0018】
かくして、本発明のキラルセンシング剤を構築する式1、式2または式3のマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、ホスト分子として、ゲスト分子となる広範囲のキラル分子とホスト−ゲスト錯体を形成し、このホスト−ゲスト錯体の形成は、キラル分子のキラリティーに応じて、円二色性スペクトルの明確なシグナルとして検出される。
【0019】
本発明に従い式1、式2または式3のマルチポルフィリンデンドリマー化合物を用いてキラルセンシング方法を実施するには、ポルフィリン環の中心金属に配位し得るような原子、具体的には、窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団で、目的のキラル分子の両末端を修飾したゲスト化合物を調製する。すなわち、このゲスト化合物は下記の式4で表わすことができる。
【0020】
【化5】
【0021】
式4において、CR*は目的のキラル分子の残基を表わし、Lは窒素原子、リン原子、
イオウ、または酸素を含む原子団を表わす。
【0022】
L(窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団)としては、種々のものが適用可能であり、例えば、ピリジン、イミダゾール、ヒスチジン、トリフェノールホスフィン、フェノール、ベンジルアルコールまたはスルフィドを含むものなどが挙げられ、この場合、式4のゲスト化合物は、それぞれ、ビピリジン誘導体、ビスイミダゾール誘導体、ビスヒスチジン誘導体、ビストリフェニルホスフィン誘導体、フェノール誘導体、ベンジルアルコール誘導体、またはスルフィド誘導体として使用されることになる。
【0023】
合成や入手の容易性などの理由からLとして特に好ましいのはピリジンを含むものであり、この場合、式4のゲスト化合物(キラルゲスト化合物)は、下記の式5で表わすことができる。
【0024】
【化6】
【0025】
式5のゲスト化合物は、キラリティーを判別しようとする目的のキラル分子(キラル化合物)を例えばイソニコチン酸と反応させることによって得られる(後述の実施例3参照)。したがって、CR*はそのようにして得られたキラル分子の残基を表わす。
【0026】
かくして、本発明に従えば、適当な溶媒(例えばクロロホルム)の溶液としてマルチポルフィリンデンドリマー化合物に如上のゲスト化合物を添加すると、該ゲスト化合物がその両末端のピリジン環などを介してポルフィリンの中心金属に配位して捕捉され、円二色性スペクトルの大きなシグナル変化がもたらされる。本発明において用いられるマルチポルフィリンデンドリマー化合物では、個々のポルフィリンユニットが、外表面に独立して存在し、且つ、デンドリマー構造の大きさに応じて互いの距離を種々に異ならせることができるので、キラル分子(ゲスト分子)のサイズに関しての制約は殆んどない。すなわち、このマルチポルフィリンデンドリマー化合物を用いることにより、低分子のキラル化合物(アミノ酸、アルコールなど)から、オリゴペプチド、DNAなどのサイズの大きなキラル化合物に至る広範なキラル化合物(キラル分子)についてキラリティーを判別することが可能となる。
【0027】
本発明においてキラルセンシング剤として用いられる化合物は、式1、式2または式3においてnが1〜10の整数を表わすような多数のポルフィリンユニットが三次元的に広がったデンドリマー構造から成るものであるが、実用的にはnが1〜3の整数となるような構造のものが好適である。
【0028】
式1、式2または式3において、Xは、ポルフィリンを含む構造単位とコアとなるヘキサフェニルベンゼン構造と結合する部位を表わし、有機化合物でよく知られたエステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドなどの各種の結合が適用可能であるが、合成の容易さから好ましいのは、エステル、エーテル、またはアミドから選ばれる結合であり、特に好ましいのはエステル結合である。
【0029】
本発明において用いられるマルチポルフィリンデンドリマーを表わす式1、式2または式3において、Zは、デンドリマー構造の外表面に位置するポルフィリンユニットにベンゼン環(フェニル基)を介して結合されている有機基を表わす。Zとしては、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団が可能であるが、実用上好適なものは、水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、または置換もしくは無置換のベンジルエーテル基であり、特に好ましいのは置換もしくは無置換のベンジルエーテル基である。
【0030】
本発明のキラルセンシング剤を構成するデンドリマー化合物を表わす式1、式2または式3において、Yは、ポルフィリンの光学的機能を損なわない有機基であり、水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または、置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団が適用可能であるが、実用上好ましいのは水素原子またはハロゲン原子であり、特に好ましいのは水素原子(すなわち、無置換)である。
【0031】
本発明で用いられるマルチポルフィリンデンドリマー化合物を表わす式1、式2または式3におけるMとしては、ポルフィリンと軸配位子錯体を形成するものとして知られた水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子が適用可能であるが、実用上好ましいのは、亜鉛、鉄、マンガンまたはコバルトであり、特に好ましいのは亜鉛である。
【0032】
式1、式2または式3で表わされるマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、既知の各種の反応を工夫することによって合成することができる。図1は、本発明で用いられるデンドリマー化合物を合成するための一般的な反応スキームを概示するものであり、また、図2および図3は、後の実施例に記述するデンドリマー化合物を例に合成スキームを更に詳細に示すものである。
【0033】
図1に示すように、本発明で用いられるマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、一般に、ポルフィリン誘導体からデンドロンの世代を増やす反応(1)(例えば、エステル化反応、アミド化反応、エーテル反応)、およびその後の脱保護反応(2)を繰り返すことにより、ポルフィリン環を含む構造ユニットを合成した後、該構造ユニットをコアユニットであるヘキサ(4−置換フェニル)ベンゼンとのカップリング反応(例えば、エステル反応、アミド反応、エーテル反応)に供することにより合成することができる。なお、図1中、Aはカルボン酸、ベンジルブロマイド、エチニールなどの反応基を表わし、Bはエステル、ベンジルアルコール、三重結合などの保護した官能基を表わし、Cは水酸基、ハロゲンなどの反応基を表わす。また、図1では、図を複雑にしないために、式1の一連の化合物の合成法について示していないが、世代を増やす反応(1)においてポルフィリン誘導体を下記の化合物と反応させた後、式2または式3の化合物の場合と以下同様の反応工程を経て式1の化合物を合成することができる。
【0034】
【化7】
【0035】
このようにして得られたマルチポルフィリンデンドリマー化合物は、可視の吸収能に優れ、例えば414nmにおけるモル吸光係数は106〜107M−1cm−1の大きさに達し、しかもその吸光係数はポルフィリンユニットの数に増大して比例する。これは、このデンドリマー化合物は、多数のポルフィリンが車輪状を成して配列されている特異な構造を有しているためと推測される。すなわち、このマルチポルフィリンデンドリマー化合物では、すべてのポルフィリンユニットがデンドリマー構造の外表面において言わば同じ化学・物理環境に配列されているので、従来の直鎖状ポルフィリンポリマーとは著しく異なり、分子間の会合を抑制してポルフィリン本来の性質を発揮させながら巨大な光吸収面積を呈するとともに、そのポルフィリンユニットの数によりその大きさを容易に制御することができるためと理解される。
【0036】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すため、実施例を記すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した試薬、装置等は次のとおりである。
1.試薬等
・反応はすべて乾燥アルゴン下で行った。
・溶剤類は無水のものはそのまま使用した。
クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メタノール、ベンゼン、トルエン、酢酸亜鉛、水酸化カリウム、塩酸、酢酸、フッ化カリウム、炭酸カリウム、18−c−6および粉末亜鉛は(株)東京化成工業から供給されるものをそのまま使用した。
なお、明細書および図面において、Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基、Phはフェニル基、DCCはジシクロヘキシルカルポジイミド、DPTSは4−ジメチルアミノピリジニウム−4−トルエンスルホン酸塩を表わすものである。
2.測定装置と条件等
・1H−NMR スペクトル:JEOL社製EX500型NMR(500MHz)を使用し測定した。溶媒はCDCl3を用い、基準は残存するCHCl3の7.28ppmのシグナルとした。
・マススペクトル(MS):Applied
Biosystems 社製Voyager D STR型MALDI−TOF/MSを使用した。
・紫外・可視吸収スペクトル:日本分光社製Ubest
V−560型分光光度計を使用した。光路長1センチの四面透明石英セルを用いた。
・リサイクル分取型用高速液相クロマトグラフ:日本分析工業社製HPLC−980;カラム1H/2Hの組み合わせで、THFを流出溶媒として使用した。
・円二色性スペクトル:光路長1センチの四面透明石英セルを用いて、日本分光社製J-820型分光偏光計を使用して測定した。
・ゲルカラムクロマトグラフ:Si−200(200μm)シリカゲルを用いた。
【実施例1】
【0037】
マルチポルフィリンデンドリマー化合物の合成
図2および図3に示す反応スキームに従い、本発明に従う車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物として、6−PZn(図4)、12−PZn(図5)、18−PZn(図6)、24−PZn(図7)および36−PZn(図8)を合成した。なお、6−PZnは式1においてn=1、12−PZnは式2においてn=1、18−PZnは式3においてn=1、24−PZnは式2においてn=2、36−PZnは式3においてn=2に、それぞれ対応するデンドリマー化合物である。
【0038】
<1−(Si)2PH2−CO2Meの合成>
アルゴン雰囲気下、3、5−(tert−ブチルジフェニルシロキシ)ベンズアルデヒド(14.27g、0.023mol)、p−ホルミル安息香酸メチル(3.81g、0.023mol)およびジピロールメタン(6.79g、0.046mol)のジクロロメタン混合溶液(4L)に撹拌しながら三フッ化ほう素・ジエチルエーテル錯体(1.0mL)を加え、暗所下でさらに1日間撹拌した。反応系にパラークロラニール(17g、0.069mol)を加え、室温下で5時間撹拌し、減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレンから塩化メチレン/ヘキサン(2/1))にかけ、紫色結晶として得られた。収量:7.0g。収率:30%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z1029.51(M+)、(計算値M+1029.38:C66H60N4O4Si2として)。
【0039】
<1−PZn−CO2Meの合成>
18−c−6(0.39g、0.0014mol)、炭酸カリウム(0.43g、3.07mmol)およびフッ化カリウム(0.86g、0.015mol)の存在下、1−(Si)2PH2−CO2Me(0.76g、0.75mmol)と3,5−ジメトキシベンジルブロミド(0.88g、3.82mmol)のTHF(20mL)溶液をアルゴン下にて三3日間加熱還流した。反応溶液を濃縮乾固した後、塩化メチレン/水で洗浄、抽出し、有機層をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン)にかけた。得られたピンク色の固体を塩化メチレン(5mL)に溶かし、酢酸亜鉛(1.0g、0.0054mol)を加え、混合溶液を24時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し,酢酸エチル/水で洗浄、抽出し、有機層をシリカゲルカラム(塩化メチレンから塩化メチレン/メタノール(90/10;勾配1%メタノール))にかけ、赤色結晶として得られた。収量:0.58g。収率:85%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 916.27(M+)、(計算値M+916.30:C52H42N4O8Znとして)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、581nm。
【0040】
<1−PZn−CO2Hの合成>
1−PZn−CO2Me(0.26g、0.284mmol)と水酸化カリウム(0.1g、0.0017mol)のTHF/水混合溶液(10mL/5mL)を60℃にて12時間加熱撹拌した。反応溶液を酢酸で中和し、酢酸エチル/水で洗浄、抽出し、有機層を減圧乾固した。粗生成物をTHF/ヘキサンから再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.24g。収率:95%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 900.57(M+)、(計算値M+902.28:C51H40N4O8Znとして)。
【0041】
<2−PZn−CO2CH2CCl3の合成>
DPTS(73.0mg、5mL塩化メチレン)の存在下、1−PZn−CO2H(0.45g、0.5mmol)と3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリクロロエチル(58mg、0.2mmol)のTHF(5mL)溶液を10分間撹拌した後、DCC(154mg、5mL塩化メチレン)を加え、さらに4日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:0.39g。収率:95%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 2053.26(M+)、(計算値M+2054.03:C111H83Cl3N8O18Zn2として)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、582nm。
【0042】
<2−PZn−CO2Hの合成>
2−PZn−CO2CH2CCl3(0.39g、0.19mmol)と粉末状亜鉛(0.26mg、3.92mmol)のTHF/酢酸混合溶液(5mL/5mL)を60℃にて6時間加熱撹拌した後、反応混合物を濾過し、亜鉛残査を除去した。ろ液をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をTHF/ヘキサンで再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.25g。収率68%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 1920.26(M+)、(計算値M+1922.64:C109H82N8O18Zn2として)。
【0043】
<4−PZn−CO2CH2CCl3の合成>
DPTS(22.4mg、4mL塩化メチレン)の存在下、2−PZn−CO2H(0.25g、0.13mmol)と3,5−ジヒドロキシ安息香酸トリクロロエチル(16.8mg、0.06mmol、2mL THF)の混合溶液を10分間撹拌した後、DCC(46.3mg、4mL塩化メチレン)を加え、さらに3日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:0.26g。収率:94%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 4094.37(M+)、(計算値M+4094.76:C227H167Cl3N16O38Zn4として)。
UV−vis(THF、25℃):415、544、581nm。
【0044】
<4−PZn−CO2Hの合成>
4−PZn−CO2CH2CCl3(0.22g、0.055mmol)と粉末状亜鉛(0.62mg、9.34mmol)のTHF/酢酸混合溶液(5mL/5mL)を60℃にて6時間加熱撹拌した後、反応混合物を濾過し、亜鉛残査を除去した。ろ液をシリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/THF(100/5))にかけ、粗生成物をTHF/ヘキサンで再沈し、赤色固体として得られた。収量:0.13g。収率58%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 3962.46(M+)、(計算値M+3963.37:C225H166N16O38Zn4として)。
【0045】
<6−PZnの合成>
DPTS(8.6mg、1mL塩化メチレン)とDCC(43.7mg、2mL塩化メチレン)の存在下、1−PZn−CO2H(75.5mg、0.09mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(7mg、2mL THF)の混合溶液を5日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:54.5mg。収率:88%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 5938(M+H+)、(計算値M+5936:C348H258N24O48Zn6として)。
UV−vis(THF、25℃):414、544、583nm。
【0046】
<12−PZnの合成>
DPTS(6.1mg、2mL塩化メチレン)とDCC(35mg、5mL塩化メチレン)の存在下、2−PZn−CO2H(37.7mg、0.019mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(6.9mg、10mL THF)の混合溶液を3日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:21.1mg。収率:89%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 12061(M+H+)、(計算値M+12058:C696H510N48O108Zn12として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0047】
<24−PZnの合成>
DPTS(2.86mg、0.94mL塩化メチレン)とDCC(6.05mg、0.85mL塩化メチレン)の存在下、4−PZn−CO2H(37.7mg、0.0196mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(6.9mg、1.97μmol、10mL THF)の混合溶液を4日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:21.1mg。収率:89%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 24293.09(M+K+)、(計算値M+24251.37:C1392H1014N96O228Zn24として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0048】
<18−PZnの合成>
DPTS(10mg、2mL塩化メチレン)とDCC(28.5mg、2mL塩化メチレン)の存在下、3−PZn−CO2H(62.3mg、0.0221mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(1.519mg、2mL THF)の混合溶液を6日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:4.8mg。収率:11%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 17479(M+)、(計算値M+17459:C1002H738N72O156Zn18として)。
UV−vis(THF、25℃):414、545、583nm。
【0049】
<36−PZnの合成>
DPTS(9.8mg、1mL塩化メチレン)とDCC(14mg、2mL塩化メチレン)の存在下、6−PZn−CO2H(32.1mg、0.00556mmol)とコアとなるヘキサ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(0.89mg、2mL THF)の混合溶液を6日間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(100/5))にかけ、粗生成物をリサイクル分取型高速液相クロマトグラフ(展開液:THF)にかけ、赤色固体として得られた。収量:7.8mg。収率:39%。
MS(MALDI−TOF、dithranol):実測値m/z 35202(M+K+)、(計算値M+35105:C2004H1470N144O324Zn36として)。
UV−vis(THF、25℃):414、546、583nm。
【実施例2】
【0050】
マルチポルフィリンデンドリマー化合物の物性評価
実施例1で合成した車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物はいずれも通常の有機溶媒(例えば、クロロホルム、塩化メチレン、THFなど)に優れた溶解性を示した。また、外表面にポリベンジルエーテルデンドロンを持つため,成膜性にも優れていた。
次に、紫外・可視吸収スペクトルや蛍光発光スペクトルの測定から、これらのマルチポルフィリンデンドリマーはポルフィリンユニットの数が増大しても、吸収バンドの位置(図9)や蛍光バンドの位置(表1)がほとんど変わらないことが分かった。一方、これらの化合物はモル吸光係数がポルフィリンユニットの数に比例して増大し、可視光領域において巨大な光吸収断面積を有することが明らかである(表1)。すなわち、本発明の車輪状マルチポルフィリンデンドリマー化合物は、多数のポルフィリンユニットを有するが、基底状態や光励起一重項状態において会合による分子間の相互作用がほとんど見られない。
【0051】
【表1】
【実施例3】
【0052】
キラルゲスト化合物の合成
実施例1で合成したマルチポルフィリンデンドリマー化合物のキラルセンシング機能を調べるために、下記に示すように、キラル分子(キラル化合物)として、低分子アルコール、アミノ酸およびオリゴペプチドについて、それぞれの末端をピリジン環で修飾したゲスト化合物RR−Py2/SS−Py2、L−Leu−Py2、および(Aib)2−L−Leu−(Aib)2−Py2を合成した。合成は、いずれもGuoらの方法(J. Am.
Chem. Soc. 2003, 126, 716:非特許文献3)に従った。1例として、RR−Py2とSS−Py2の合成スキームを図10に示す。
【0053】
【化8】
【0054】
【化9】
【0055】
【化10】
【0056】
<RR−Py2の合成>
Guoらの方法(非特許文献3)により合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、イソニコチン酸(0.35g、2.82mmol)、(2R, 3R)−(−)−2,3−ブタンジオール(0.1g、1.11mmol)およびDPTS(0.34g、1.14mmol)のジクロロメタン混合溶液(15mL)に撹拌しながらDCC(1.44g、6.98mmol)を加え、暗所下で2日間撹拌した。反応混合物を濾過し、ろ液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(2/1))にかけ、白色結晶として得た。収量:0.3g。収率:95%。MS(MALDI−TOF, CHCA):実測値m/z 301.06 (M+)、(計算値M+ 301.31、calcd. for C16H16N2O4)。
【0057】
<SS−Py2の合成>
アルゴン雰囲気下、イソニコチン酸(0.35g、2.82mmol)、(2S, 3S)−(+)−2,3−ブタンジオール(0.1g、1.11mmol)およびDPTS(0.34g、1.14mmol)のジクロロメタン混合溶液(15mL)に撹拌しながらDCC(1.44g、6.98mmol)を加え、暗所下で2日間撹拌した。反応混合物を濾過し、ろ液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン/メタノール(2/1))にかけ、白色結晶として得られた。収量:0.3g。収率:95%。MS(MALDI−TOF, CHCA):実測値m/z 301.05(M+)、(計算値M+301.31、calcd. for C16H16N2O4)。
【0058】
<L−Leu−Py2の合成>
Guoらの方法(非特許文献3)により、合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、H-L-Leu-NHPy(250mg、1.2mmol)と4−ピリジンカルボン酸(165mg、1.35mmol)のTHF混合溶液(20mL)を室温下、12時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン・メタノール(5/1))にかけ、白色の結晶として得られた。収量:194mg。収率:52%。MS(ESI-MS):実測値m/z 312.37(M+)、(計算値M+312.36)。
【0059】
<(Aib)2−L−Leu−(Aib)2−Py2,の合成>
Guoらの方法(非特許文献3)により、合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、H-(Aib)2-L-Leu-(Aib)2-NHPy(205mg、0.37mmol)と4−ピリジンカルボン酸(55mg、0.45mmol)のTHF混合溶液(30mL)を室温下、24時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム(展開液:塩化メチレン・メタノール(5/1))にかけ、白色の結晶として得られた。収量:116mg。収率:47%。MS(ESI-MS):実測値m/z 653.39(M+)、(計算値M+653.38)。
【0060】
〔比較例1〕
キラルゲストの円二色性スペクトル
RR−Py2とSS−Py2のクロロホルム溶液中の円二色性スペクトルを測定し、図11に示す結果を得た。図11に示されるように、RR−Py2とSS−Py2は紫外部にそれぞれ正反対の弱い円二色性スペクトルを有しているが、可視部にはシグナルがない。
【実施例4】
【0061】
キラルセンシング
マルチポルフィリンデンドリマー24−PZn(0.26μM)のクロロホルム溶液にキラル分子RR−Py2またはSS−Py2のクロロホルム溶液を滴下し、円二色性スペクトルを測定し、図12を得た。
RRPy2とSS−Py2のそれぞれ単独の円二色性スペクトル(比較例1、図11)と比べて、シグナルが可視光部にシフトし、その強度が約1000倍も増幅している。また、RR−PY2とSS−Py2は正反対の円二色性スペクトルシグナルを有している。このように、マルチポルフィリンデンドリマー化合物24−PZnを用いることにより、キラル分子(キラル化合物)の立体配置(RRまたはSS)に応じて相違する円二色性スペクトルが示されるとともに、その円二色性スペクトルシグナルが大幅に増幅されていることが理解される。
【実施例5】
【0062】
RR−Py2に対するキラルセンシングのデンドリマーの影響
マルチポルフィリンデンドリマーとして6−PZn、12−PZn、18−PZnおよび36−PZnをそれぞれ用いて実施例4と同様に円二色性スペクトルを測定し、結果を24−PZnとともに図13に示す。図13の縦軸は、円二色性スペクトルシグナル(CDシグナル)の大きさを示す。マルチポルフィリンデンドリマー化合物を用いることにより、CDシグナルが増幅されており、キラリティーを高感度に検出できることが理解される。
【実施例6】
【0063】
24−PZnによるアミノ酸誘導体L−Leu−Py2のセンシング
マルチポルフィリンデンドリマーとして24−PZnを用いて、実施例4と同様に円二色性スペクトルを測定した。結果を図14に示す。図中、矢印で示しているのが24−PZnを用いた場合であり、24−PZnを用いない場合(図中、矢印で示していないスペクトル曲線)に比べて、円二色性スペクトルシグナルが大幅に増幅していることが理解される。
【実施例7】
【0064】
24−PZnによるペプチド鎖Aib2−L−Leu−Aib2−Py2のセンシング
マルチポルフィリンデンドリマーとして24−PZnを用いて、実施例4と同様に円二色性スペクトルを測定した。結果を図15に示す。図中、矢印で示しているのが24−PZnを用いた場合であり、24−PZnを用いない場合(図中、矢印で示していないスペクトル曲線)に比べて、円二色性スペクトルシグナルが大幅に増幅しており、マルチポルフィリンデンドリマー化合物が分子サイズの大きいペプチドのキラリティーの検出にも有効であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、有用な薬剤、試薬、農薬、化学物質等の開発に際して、広範な物質についてキラルセンシングを可能にするので、産業の多くの分野での利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明で用いられるデンドリマー化合物を合成するための一般的な反応スキームを示す。
【図2】実施例に記述する本発明で用いられるデンドリマー化合物24−PZnの合成スキームを示す。
【図3】実施例に記述する本発明で用いられるデンドリマー化合物を合成する最後の工程を示す。
【図4】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である6−PZnの化学構造式を示す。
【図5】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である12−PZnの化学構造式を示す。
【図6】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である18−PZnの化学構造式を示す。
【図7】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である24−PZnの化学構造式を示す。
【図8】本発明で用いられるデンドリマー化合物の1例である36−PZnの化学構造式を示す。
【図9】本発明で用いられるデンドリマー化合物の紫外・可視吸収スペクトルを示す。
【図10】本発明で用いられるキラルゲスト化合物の1例であるRR−Py2およびSS−Py2の合成スキームを示す。
【図11】本発明のキラルゲスト化合物の1例であるRR−Py2とSS−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【図12】クロロホルム中の24PZn・RR−Py2と24PZn・SS−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【図13】円二色性シグナル強度に対するデンドリマーの影響を示す。
【図14】クロロホルム中の24PZn・L−Leu−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【図15】クロロホルム中の24PZn・Aib2−L−Leu−Aib2−Py2の円二色性スペクトルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1、式2または式3で表わされるマルチポルフィリンデンドリマー化合物から成ることを特徴とするキラルセンシング剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(式1、式2および式3において、nは、1〜10の整数を表し、Xは、エステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドから選ばれる結合を表わし、Zは水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基、または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Yは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Mは、水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子を表わす。)
【請求項2】
nが1〜3の整数を表わすことを特徴とする請求項1に記載のキラルセンシング剤。
【請求項3】
Xがエステル、エーテル、またはアミドから選ばれる結合を表わすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキラルセンシング剤。
【請求項4】
Zが水素原子、ハロゲン原子、または置換もしくは無置換のベンジルエーテル基を表わすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキラルセンシング剤。
【請求項5】
Yが水素原子、またはハロゲン原子を表わすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のキラルセンシング剤。
【請求項6】
Mが亜鉛、鉄、マンガンまたはコバルトから選ばれる金属原子を表わすことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のキラルセンシング剤。
【請求項7】
キラル分子のキラリティーを判別するキラルセンシング方法であって、
(1)下記の式4で表され目的のキラル分子の両末端を窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団で修飾したゲスト化合物を調製する工程、および、
(2)請求項1〜6のいずれかに記載のマルチポルフィリンデンドリマー化合物をホスト化合物として、前記ゲスト化合物とのホスト−ゲスト錯体の円二色性スペクトルを測定する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【化4】
(式4において、CR*は目的のキラル分子の残基を表わし、Lは窒素原子、リン原子、
イオウ、または酸素を含む原子団を表わす。)
【請求項8】
式4で表されるゲスト化合物におけるLが、ピリジン、イミダゾール、ヒスチジン、トリフェニルホスフィン、フェノール、ベンジルアルコール、またはスルフィドを含むものから選ばれることを特徴とする請求項7に記載のキラルセンシング方法。
【請求項9】
ゲスト化合物が、下記の式5で表されるものであることを特徴とする請求項8に記載のキラルセンシング方法。
【化5】
(上記式中、CR*は目的のキラル分子の残基を表わす。)
【請求項1】
下記の式1、式2または式3で表わされるマルチポルフィリンデンドリマー化合物から成ることを特徴とするキラルセンシング剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(式1、式2および式3において、nは、1〜10の整数を表し、Xは、エステル、エーテル、アミド、アルケン、ケトン、アミン、アルコキシ、ビニル、フェニル、チオルエーテル、スルフォン、リン酸、環状チオフィン、環状アミン、または、ペプチドから選ばれる結合を表わし、Zは水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコール鎖もしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、置換もしくは無置換のフェニル基、または、置換もしくは無置換のベンジルエーテル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Yは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、直鎖状もしくは分岐状アルキル基、エチレングリコールもしくはそのオリゴマー、ポリマー鎖、または置換もしくは無置換のフェニル基から選ばれる官能基または原子団を表わし、Mは、水素原子、ケイ素原子、または亜鉛、鉄、マンガン、マグネシウム、コバルト、金、錫、ルテニウム、ロジウムもしくは希土類金属から選ばれる金属原子を表わす。)
【請求項2】
nが1〜3の整数を表わすことを特徴とする請求項1に記載のキラルセンシング剤。
【請求項3】
Xがエステル、エーテル、またはアミドから選ばれる結合を表わすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキラルセンシング剤。
【請求項4】
Zが水素原子、ハロゲン原子、または置換もしくは無置換のベンジルエーテル基を表わすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキラルセンシング剤。
【請求項5】
Yが水素原子、またはハロゲン原子を表わすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のキラルセンシング剤。
【請求項6】
Mが亜鉛、鉄、マンガンまたはコバルトから選ばれる金属原子を表わすことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のキラルセンシング剤。
【請求項7】
キラル分子のキラリティーを判別するキラルセンシング方法であって、
(1)下記の式4で表され目的のキラル分子の両末端を窒素原子、リン原子、イオウ、または酸素を含む原子団で修飾したゲスト化合物を調製する工程、および、
(2)請求項1〜6のいずれかに記載のマルチポルフィリンデンドリマー化合物をホスト化合物として、前記ゲスト化合物とのホスト−ゲスト錯体の円二色性スペクトルを測定する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【化4】
(式4において、CR*は目的のキラル分子の残基を表わし、Lは窒素原子、リン原子、
イオウ、または酸素を含む原子団を表わす。)
【請求項8】
式4で表されるゲスト化合物におけるLが、ピリジン、イミダゾール、ヒスチジン、トリフェニルホスフィン、フェノール、ベンジルアルコール、またはスルフィドを含むものから選ばれることを特徴とする請求項7に記載のキラルセンシング方法。
【請求項9】
ゲスト化合物が、下記の式5で表されるものであることを特徴とする請求項8に記載のキラルセンシング方法。
【化5】
(上記式中、CR*は目的のキラル分子の残基を表わす。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−242809(P2006−242809A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60283(P2005−60283)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]