説明

キラルポリマーの製造方法、キラルポリマーを有する積層体の製造方法及び積層体。

【課題】成型性を担保しつつ、キラリティーを有するキラルポリマー及び、このキラルポリマーを有する積層体を得る。
【解決手段】アキラル前駆体ポリマー層14にキラルネマティック液晶層16を接触させ、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件に付して、前記アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換する。このとき、アキラル前駆体ポリマーが、下記一般式(I)で表されるポリマーであることが好ましい。


(式中、Xは脱離基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルポリマーの製造方法、キラルポリマーを有する積層体の製造方法及び積層体に関し、特にアキラル前駆体ポリマーを用いたキラルポリマーの製造方法、キラルポリマーを有する積層体の製造方法及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)は蛍光性及び電界発光性を有するため、ポリマーエレクトロルミネセント素子(ポリマー−OLEDs)の発光層として、最も有望な共役ポリマーのうちの1つである。このPPVは、多くの経路により製造することができるが、PPVが有機溶媒に溶けず、加工性が悪いという特性があり、この不溶不融性のため成型することができないという問題を有していた。これを解消するために、前駆体ポリマーをキャスト法で特定の形に成型してから、PPVに変換させる前駆体方法が種々用いられている。これにより、機械的に強靱で安定なフィルムを得ることができる。
【0003】
この前駆体方法として周知で最も広く使われている方法は、Wessling及びZimmermanにより発見されたもの(特許文献1及び非特許文献1)であり、ここでは、スルホニウム塩を塩基で処理して、水溶性物質を得る。生成物が透析によって効率的に精製され得るが、それは低分子量のものであった。
またムラセらは、安定なPPVフィルムの製造のための他のスルホニウム前駆体方法を開発した(非特許文献2)。この方法により製造されたポリマーは、前記報告と比較してSO3又はAsF5ドーピングによって非常に高い導電率を呈する。更に、Louwet-Vanderzande 経路は、この分野の更に興味深い開発を約束する優れたアプローチを提供する(非特許文献3)。彼らの方法は、PPVのための前駆体経路の欠点の多くを克服するものであり、減圧条件下での加熱処理を伴い、良好な機械的強度を有する不溶不融性の蛍光性フィルム又はファイバーの製造を可能にする。
【0004】
一方、赤木及び白川は、一方に偏った螺旋構造を有する非置換ポリアセチレンを製造するための新しい方法を開発した(非特許文献4)。キラルネマチック液晶(N*−LC)場の下で化学重合法によって合成されたポリアセチレンは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察下で明白な螺旋構造を示し、分子レベルでの片手の螺旋構造によって明瞭な正又は負のコットン効果を示す。螺旋状ポリアセチレンは、不溶不融性であるので極めて安定なキラリティを示している。この結果は、キラル液晶場がポリマーの分子的レベルから巨視的形態まで、ポリマー構造に強く影響を及ぼすことを示している。
【0005】
また、非置換光学活性及びキラルポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を製造するために、キラルネマチック液晶(N*−LC)場を使用した新規な電気化学重合方法が開発されている(特許文献2)。このように製造されるポリマーは、キラルネマチック相のものと同様な、フィンガープリント光学組織及びスパイラル物理的なマクロ組織を示す。円二色性測定もPEDOTフィルムのためのコットン効果を明らかにし、これは、N*−LCのような不斉反応場が、はっきりしたキラル構造を有するポリマーを得るために使用できることを示唆した。
【非特許文献1】J. Poly. Sci. Polym. Symp., 1985, Vol.72, pp.55-66
【非特許文献2】Polym. Commun. 1984, 25, 327-328.
【非特許文献3】Macromolecules 1995, 28, 1330-1331.
【非特許文献4】Science, 1998, Vol.282, pp1683-1688
【特許文献1】米国特許第3401152号明細書
【特許文献2】特開2003−306531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機EL素子のような積層体を得るために前駆体ポリマーを用いたキャスト法では、キャストする際に一方向に配向処理を行うことによって一軸配向性のPPVを得ることができるが、キラリティーを付与して、直線偏光性や円偏光性を有する共役ポリマーの積層体を得ることができなかった。
従って、本発明の目的は、成型性を担保しつつ、キラリティーを有するキラルポリマーの製造方法、キラルポリマーを有する積層体の製造方法及び積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のキラルポリマーの製造方法は、アキラル前駆体ポリマーにキラルネマティック液晶を接触させること、前記アキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶を、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件に付して、前記アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換すること、を含む方法である。
また本発明のキラルポリマーを有する積層体の製造方法は、アキラル前駆体ポリマーを基板上に積層すること、キラルネマティック液晶を、前記アキラル前駆体ポリマー上に積層すること、前記アキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶を、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件に付して、前記アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換すること、を含む方法である。
本発明のキラルポリマーを有する積層体は、基板と、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件下でキラルネマティック液晶と接触することによってアキラル前駆体ポリマーから変換されたキラルポリマーを含むポリマー層と、を有する積層体である。
【0008】
ここで、前記アキラル前駆体ポリマーが、下記一般式(I)で表されるポリマーであることが好ましい。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xは脱離基を表す。)
ここで、前記キラルポリマーがポリパラフェニレンビニレンであることが好ましい。
【0011】
本発明は、アキラル前駆体ポリマーをキラルネマティック液晶と所定の条件で接触させることによってアキラル前駆体ポリマーから目的のポリマーへ変換する際、キラルネマティック液晶との界面において、キラルネマティック液晶のキラリティーがポリマーに転写されるとの知見に基づくものである。これにより、特別な触媒等を用いることなく、液晶と同じテクスチャのキラリティーを有する所望のポリマーを得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成型性を担保しつつ、キラリティーを有するキラルポリマーを得ることができ、また、この製造方法を用いることによって、キラルポリマーを含むポリマー層を有する積層体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のキラルポリマーの製造方法は、アキラル前駆体ポリマーにキラルネマティック液晶を接触させること、前記アキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶を、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件に付して、前記アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換すること、を含む。
【0014】
反応場として使用されるキラルネマティック液晶は、重合反応に適した温度範囲内でキラルネマティック液晶性を示すものであれば、R型の絶対配置であってもS型であってもよい。
また、ある程度フレキシブルな主鎖に液晶形成基(メソゲン)を導入した側鎖型の液晶であっても、主鎖にメソゲンがある主鎖型の液晶であってもよいが、一環型、二環型又は三環型でキラリティーを持ち、サーモトロピック液晶性を示す直鎖状の化合物であることが好ましい。例えば、2つのベンゼン環をトランス−スチルベンやアゾベンゼンなどの二重結合を含む連結基や、ビフェニル又はシクロヘキサンなどの連結基でつないだものを挙げることができる。また本キラルネマティック液晶を構成する構造単位としては、例えば、ピロール、チオフェン、イソチアナフラン、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、アニリン、フラン、ビチオフェン、ターチオフェン、ベンゼン又はこれらの誘導体を挙げることができる。なお、汎用のポリマーとブレンドすることもできる。
【0015】
更に、メソゲン化合物の末端には、アルキル基又はアルコキシ基などのフレキシブルな置換基が導入されていることが好ましく、脂肪族鎖、剛直鎖又は非対称構造を有する置換基等が導入されていてもよいが、立体的な形状からキラルネマティック液晶反応場を破壊する可能性がある芳香族基よりも、柔軟なアルキル基(好ましくは炭素数20以下のもの)であることが好ましく、エステル結合部位を有する置換基であることが更に好ましい。これらの置換基の長さは液晶の転移温度に影響を及ぼすため、重合時の温度等を考慮して適宜選択することが好ましい。
また、本キラルネマティック液晶の分子量は、後述するモノマーの液晶への溶解性の観点からなるべく低いものが好ましく、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィによる測定で2000〜10万の重量平均分子量とすることができる。
【0016】
このようなキラルネマティック液晶としては、末端アルキル基を含む三環系を有するN*−LC化合物、シクロヘキシルビフェニル、ビフェニルなどのメソゲンコアにキラルな末端置換基を導入したもの等を挙げることができる。
【0017】
このような本キラルネマティック液晶は、例えば、ベンゼン、ビフェニルなどからなるメソゲンコアに、光学活性なアルキル基を末端に導入することによって容易に合成することができる。メソゲンコアにキラル置換基を導入するには、縮合反応が用いられ、とりわけ光延反応がよく使われる。この際、SN1型の反応を用いるとラセミ化が生じて分子キラリティーが失われてしまうため、SN1反応を用いるときは、キラル中心が反応部位より離れたものを用いることが好ましく、反応部位の近くにキラル中心が存在する場合は、SN2型の反応を用いることが好ましい。
【0018】
本発明におけるアキラル前駆体ポリマーは、所望のポリマーを得るために利用される前駆体ポリマーとして公知のものが該当する。共役系骨格をもつPPVへの転換性の観点から下記一般式(I)で表されるポリマーであることが好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
一般式中、Xは脱離基を表す。この脱離基は、エチレン部位に結合された置換基であり、液晶のキラリティーが転写される条件下で脱離することにより、エチレン部位が二重結合を形成することが可能となる基である。好ましくはXは、脱離によってキラルネマティック液晶を破壊するおそれがない気体となって脱離する基である。
このようなXとしては、共役系分子骨格へ転換性の観点から、−(S=O)−R1あることが好ましい。ここで、R1は、炭素数2〜20のアルキル基であることが好ましく、変換の容易性の観点から炭素数5〜8であることがより好ましい。
【0021】
nは、目的とするキラルポリマーの種類や用途によって異なるが、一般に、50〜1000が望ましい。このnの値は、ポリマーの分子量に対応した数が該当し、成型性と成膜性の観点から100前後であることが好ましい。
また。アキラル前駆体ポリマーの分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィによる測定で2000程度の重量平均分子量から、10万程度の重量平均分子量まで幅広いものにすることができる。
【0022】
アキラル前駆体ポリマーとキラルネマティック液晶との接触は、アキラル前駆体ポリマーの層上にキラルネマティック液晶を載置すればよく、一般にキラルネマティック液晶上にアキラル前駆体ポリマーを積層することによって行われる。この際、反応時にキラルネマティック液晶反応場を接触させた状態が維持できれば如何なる方法を用いてもよい。
例えば、クロロホルム、THF等の溶媒にアキラル前駆体ポリマーを混合した後に、基板等に塗布し、乾燥後に得られたポリマーフィルム上に、キラルネマティック液晶を均一に塗布すればよい。このような方法として溶媒によるキャスト法や、スピンコート法、スプレー法等を挙げることができる。
【0023】
本発明において反応場としての液晶のキラリティーがポリマーに転写されるには、前駆体ポリマーから目的のポリマーへの変換の際、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件下であることが必要である。このような条件にすることによって、前駆体ポリマーから所望の共役二重結合を有する発光性のポリマーに変換すると共に、キラルネマティック液晶からポリマーへのキラリティの転写が生じる。
【0024】
ここで液晶相が維持される温度とは、選択されたN*−LCの液晶相が維持される温度範囲をいい、当業者であれば、使用するN*−LCの種類及び構造に基づいてそれぞれ決定でき、かつこの温度範囲内で反応を終了させることができる。この液晶相が維持される温度は、通常、70〜140℃であり、熱安定性の観点から80〜100℃である。70℃よりも低いと液晶が固体となる場合があり、一方、140℃よりも高いと等方相となる場合があり、それぞれ好ましくない。液晶相が維持される温度範囲は、一般的に熱分析によって得ることができ、示差走査熱量計(DSC)を用いて決定される。
【0025】
また本発明における減圧条件とは、0〜1.0×104Pa、真空度の観点から好ましくは0〜100Pa、更に好ましくは0〜10Paである。0Paよりも低いと前駆体がPPVに変換されない場合があり、1×104Paよりも高いと前駆体がPPVに全く変換されなくなるので、それぞれ好ましくない。
【0026】
アキラル前駆体ポリマーからキラルポリマーへの変換に必要な時間は、用いられるアキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶の種類や変換温度によって異なるが、一般に、1〜600分、好ましくは30〜360分である。
【0027】
本発明のキラルポリマーの製造方法によって得られたキラルポリマーは、成型後のアキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換したものであり、ポリマーの特性は、各種光学活性によって特定することができ、CDスペクトル、CPF(円偏光二色性発光)及びORD(旋光分散)スペクトルにより確認できる。
また本発明によるキラルポリマーの分子量には特に制限がない。
【0028】
本発明のキラルポリマーの製造方法は、アキラル前駆体ポリマーを簡便にキラルポリマーに変換することができるため、種々の用途に効果的に用いることができる。そのような用途の一例を以下に説明する。
【0029】
本発明のキラルポリマーを有する積層体は、上記キラルポリマーの製造方法を適宜そのまま利用して製造することができ、アキラル前駆体ポリマーを基板上に積層すること、キラルネマティック液晶を、アキラル前駆体ポリマー上に積層すること、アキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶を、液晶が維持される温度で且つ減圧条件に付して、アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換すること、を含むものである。
【0030】
本発明に用いられる基板としては、一般に、有機EL素子等の基板として通常使用されているものをそのまま使用することができ、例えば、ITOガラス等を挙げることができる。この基板には、液晶層との間に他の有機層を設けてもよく、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのバッファー層を含むことができる。
基板上へのポリマーフィルムの形成には、前述したと同様に、通常の方法をそのまま適用することができる。たとえば溶媒によるキャスト法や、さらにスピンコート法、およびスプレー法が適用できる。
【0031】
ポリマー層を構成するアキラル前駆体ポリマーの層は、積層体の用途に応じた厚みとなるように形成される。ポリマー層の厚みは、当業者であれば、エリプソメトリー法、三次元表面構造解析顕微鏡などの通常用いられる手段を用いて測定することができる。
ポリマー層の厚みは、通常レーザー干渉法または光エリプソメトリー法による測定で20〜200nmの厚みにすることができるが、液晶からのキラリティーの変換作用を直接受ける観点から厚みは薄い方がよく、好ましくは100nm以下であり、60nm程度であれば、アキラル前駆体ポリマーの層をほぼすべてキラルポリマーの層に変換することができる。
【0032】
なお、アキラル前駆体ポリマーの層が充分な厚みを有する場合には、液晶との界面のアキラル前駆体ポリマーのみがキラルポリマーに変換されるため、アキラルポリマー層とキラルポリマー層との積層構造となる。このような層構成となっても、アキラルポリマー層は光学的に等方性であるため、基板としての光の透過には影響しない。このため、得られた積層体におけるポリマー層の厚みは、所定の厚みに限定されることはない。
【0033】
アキラル前駆体ポリマー上への液晶層の積層は、基板上に積層されたアキラル前駆体ポリマー上にキラルネマティック液晶を載置すればよく、アキラル前駆体ポリマーの表面から流れてしまわないように金属シートなどを用いてもよい。なお、液晶層の厚みは、1mm程度である。
【0034】
アキラル前駆体ポリマーからキラルポリマーへの変換は、上述したとおり、液晶が維持される温度で且つ減圧条件に付すことによって行われる。これにより、アキラル前駆体ポリマーからアキラルポリマーへ変換される際、液晶との界面におけるキラリティーの転写によって、基板上にキラルポリマーを含むポリマー層が形成される。
【0035】
その後、ポリマー層の上に設けられた液晶層は、洗浄液を用いた洗浄等を行うことによって除去される。このとき液晶相の除去と共に、洗浄液に可溶のアキラルポリマーも洗浄液と共に除去することができるが、キラルポリマーは不溶、不融のため有機溶媒には全く溶解せず、フィルムとして残存する。これにより、キラルポリマー層を有する基板が得られる。この洗浄に用いられる洗浄液は、通常、この用途に用いられるものをそのまま利用することができ、例えば、ジクロロメタン、クロロフォルム、THF等を挙げることができる。
【0036】
本発明によって得られた積層体では、ポリマー層の最上部分にキラルポリマー層を有する。ここで得られるキラルポリマーは、用いられたアキラル前駆体ポリマーの種類の応じたものである。特に、高い発光効率を有し、種々の用途での利用実績が豊富なポリパラフェニレンビニレン(PPV)であることが特に好ましい。
本発明による積層体では、基板上に所望の形状で成型されたキラルポリマー層を有するため、強靱で安定なフィルムであると共に直線偏光性や円偏光性を利用した所望の用途に好ましく用いることができる。
例えば、光スイッチ、光ファイバーケーブルに用いる光アイソレーター、光学モジュレーターや、円偏光二色性発光を利用した円偏光有機EL素子やデジタルペーパー表示素子などを挙げることができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0038】
[実施例1]
不斉反応場のためのN*−LC化合物の合成
(R)又は(S)−配置の末端アルキル基を有する3環系N*−LC化合物、(R)−3及び(S)−3は、スキーム1に示されるように、アキラル前駆体ポリマーの変換用キラルマトリックスとして製造された。
なお全ての実験は、Schlenk/減圧ライン技術を用いたアルゴン雰囲気下で実行された。テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、アセトン及びエーテルは、使用の前に蒸留した。高純度クロロホルム(和光)を、ポリマーに対する光学測定のために精製することなく使用した。プロトン核磁気共鳴(1H NMR)スペクトルを、Bruker社製、AV−600のFT−NMRスペクトロメータを用いてCDCl3中で測定した。円二色性(CD)測定は、JASCO社製J−720を用いて実行した。CD測定は、コットン効果のアーチファクト及び直線偏光を除外するために、サンプルを回転させることにより実行した。ケミカルシフトは、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)差のppmで示した。赤外スペクトルは、JASCO社製FT−IR 550スペクトロメータを用いてKBr法により測定した。光吸収スペクトルは、石英セルを備えたHITACHI U−2000スペクトロメータを用いて室温で測定した。相転移温度は、10℃/分の一定の加熱/冷却率でTAインスツルメント社製、Q−100示差走査熱量計を使用して測定し、組織(テクスチャ)観察は、Linkam社製、TM 600PM加熱冷却ステージ付きニコンECLIPS E400POL偏光顕微鏡を使用して行った。加熱ステージの温度較正は、DSCを用いることにより実行した。ポリマーの光学位相差顕微鏡法(PCM)観察は、位相差光ユニット付きWRAYMER社製、BX-3500T顕微鏡を使用することにより実行した。
【0039】
【化3】

【0040】
(a) 4’−[(R)−1−メチルヘプチロキシ]ビフェニル−4−カルボニトリル、(R)−1の合成
4−ヒドロキシ−4−シアノビフェニル(CBOH)は、(S)−(−)−2−オクタノール、ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)及びトリフェニルホスフィン(TPP)を用いたMitsunobu反応を介してエステル化され、エステル(R)−1を得た。キラルエステル(R)−1の形成をもたらす非ラセミ化を施された以外、この反応は、キラル中心でSN2型ワルデン反転によって特徴づけられる。
【0041】
60mLのTHF中、4−ヒドロキシ−4−シアノビフェニル(10.7g、55mmol)、DEAD(トリフェニルホスフィン)(24.1g、55.3mmol;40%トルエン溶液中)の溶液に対して、均等管滴下漏斗を用いて非常にゆっくりと、30mLのTHF中の(R)−(−)−2−オクタノール(6.5g、50.2mmol)及びTPP(トリフェニルホスフィン)(14.4g、55.1mmol)溶液を添加した。得られた反応混合物を、アルゴン雰囲気下で更に24時間撹拌し、薄層クロマトグラフィー(TLC)において反応の完了が示された。オレンジ色の反応混合物をそれから、蒸発させて溶媒を除去した。固形物を水でよく洗い、エーテルで抽出した。次に有機層を蒸発させて溶媒を除去した。カラムクロマトグラフィーによる精製(シリカゲル、n−ヘキサン/CH2Cl2=1)を行って、(S)−2の無色の液体10.8g(35.1mmol)を得た。収率は70%であった。
【0042】
Anal. Calcd for C2125NO4: C,82.04;H,8.20,N, 4.56。
Found: C,82.20; H,8.10, N,4.55. IR(KBr,cm-1): 2930(νCH2), 2255(νCN), 1603(νC=C), 1248(νC-O-C), 823(δCH)。
1H NMR(CDCl3,600MHz、TMSからのδ、ppm):0.88(t,J=7.08Hz,3H、CH3),1.27−1.35(m,6H、CH2×3),1.46(m,2H、CH2CH3),1.60(m,3H、C*HCH3O),1.76(m,2H、CH2CH2*HCH3O),4.41(六重項,J=6.12Hz,1H、C*HCH3O),7.01(d,J=8.76Hz,2H、ph),7.51(d,J=8.72Hz,2H,Ph),7.63(d,J=8.45Hz,2H、ph),7.68(d,J=8.22Hz,2H,ph)。
13C NMR(CDCl3,150MHz,TMSからのδ,ppm):14.1(CH3),19.7(C*HCH3O),22.6,25.5,29.3,31.8,36.4,74.0(C*HCH3O),110.0,116.2,119.1,127.0,128.3,131.1,132.5,145.3,158.9.
【0043】
(b) 4’−[(S)−1−メチルヘプチロキシ]ビフェニル−4−カルボニトリル、(S)−1の合成
(S)−1は、(R)−2と同様にして製造した。使用量:60mLのTHF中で、4−ヒドロキシシアノビフェニル(10.7g、55mmol)、DEAD(24.1g、55.3mmol;40%トルエン溶液中);及び、(R)−(−)−2−オクタノール(6.5g、50.2mmol)、TPP(14.4g、55.1mmol)。収量:8.9g(28.9mmol)(58%)。
【0044】
Calcd for C2125NO4: C, 82.04; H,8.20, N,4.56.
Found: C,82.19; H,8.15, N,4.55。
IR(KBr,cm-1): 2930(νCH2), 2255(νCN), 1603(νC=C), 1248(νC-O-C), 823(δCH)。
1H NMR(CDCl3,600MHz、TMSからのδ、ppm): 0.87(t,J=7.08Hz, 3H、CH3), 1.27−1.35(m,6H、CH2×3), 1.46(m,2H、CH2CH3), 1.61(m,3H、C*HCH3O),1.76(m,2H、CH2CH2*HCH3O), 4.41(六重項,J=6.12Hz,1H、C*HCH3O), 7.01(d,J=8.76Hz,2H、Ph), 7.51(d,J=8.72Hz,2H、ph),7.63(d,J=8.45Hz,2H,ph), 7.68(d,J=8.22Hz,2H,ph).
13C NMR(CDCl3,150MHz,TMSからのδ):14.3(CH3), 19.6(C*HCH3O),22.6,25.4,29.3,31.8,36.4, 74.0(C*HCH3O),109.8,116.2,119.1,127.0,128.2,131.1,132.l,145.3,158.9.
【0045】
(c) 4’−[(R)−1−メチルヘプチロキシ]ビフェニル−4−カルボン酸、(R)−2の合成
次いで、キラル化合物(R)−1を、エタノール/水中の水酸化カリウムで処理して、カルボン酸として(R)−2を得た。
エタノール(120mL)中、(R)−1(10.8g、35.1mmol)溶液を、アルゴン雰囲気下で、水(80mL)中の水酸化カリウム(49.4g、0.81mol)の溶液に添加した。1週間後に、反応混合物を蒸発させて溶媒を除去し、濾過して白色粉末を得た。粗製生成物を大量のn−ヘキサンで洗い、真空乾燥して、(R)−2の白色固体を得た(9.2g、28.2mmol)。収率は80%であった。
【0046】
Anal. Calcd for C21263: C,77.27; H,8.03。
Found: C,77.20; H,8.10。
IR(KBr,cm-1): 2924(νCH2), 2668,2540,1680(νC=O), 1601(νC=C), 1283(νC-O-C), 838(δCH)。
1H NMR(CDCl3,600MHz、TMSからのδ、ppm):0.88(t,J=6.96Hz,3H、CH3), 1.27−1.35(m,6H,CH2×3), 1.47(m,2H、CH2CH3), 1.60(m,3H、C*HCH3O), 1.77(m,2H、CH2CH2*HCH3O), 4.42(六重項,J=6.12Hz,1H、C*HCH3O), 6.98(d,J=8.76Hz,2H、ph), 7.57(d,J=8.76Hz,2H、ph), 7.66(d,J=8,46Hz,2H、ph), 8.15(d,J=8.40Hz,2H、ph)。
13C NMR(CDCl3,150MHz、TMSからのδ):14.1(CH3), 19.7(C*HCH3O), 22.6,25.5,29.3,31.8,36.5,74.O(C*HCH3O), 116.2,126.5,127.1,128.4,130.7,131.9,145.3,158.9,171.1(COOH)。
液晶度: K160(152) Sx166(159) SmC*176(173) N*195(192) I,in℃, K:結晶, Sx:不明スメティック相, SmC*:キラルスメティック C,N*:キラルネマティック, I:等方性, カッコ内は冷却工程。
【0047】
(d) 4’−[(S)−1−メチルヘプチロキシ]ビフェニル−4−カルボン酸、(S)−2の合成
(S)−2は、(R)−2について記載されたものと同じ手順を使用して製造した。使用量:(S)−1(10.8g、35.1mmol)、水酸化カリウム(49.4g、0.81mol)、エタノール(120ml)及び水(80ml)。収量:7.9g(24.3mmol)(70%)。
Anal. Calcd for C21263: C,77.27;H,8.03。
Found: C,77.25; H,8.08。
IR(KBr,cm-1): 2924(νCH2), 2668,2540,1678(νC=O), 1601(νC=C), 1282(νC-O-C), 838(δCH)。
1H NMR(CDCl3,600MHz,TMSからのδ,ppm):0.88(t,J=6.96Hz,3H,CH3), 1.27−1.35(m,6H、CH2×3), 1.46(m,2H;CH2CH3), 1.60(m,3H;C*HCH3O), 1.77(m,2H、CH2CH2*HCH3O), 4.41(六重項,J=6,12Hz,1H、C*HCH3O), 6.98(d,J=8.76Hz,2H、ph), 7.57(d,J=8.76Hz,2H、ph), 7.66(d,J=8.46Hz,2H、ph), 8.15(d,J=8.40Hz,2H、ph)。
13C NMR(CDCl3,150MHz,TMSからのδ,ppm):14.1(CH3), 19.7(C*HCH3O), 22.6,25.5,29.3,31.8,36.5,74.0(C*HCH3O), 116.0,126.5,127.2,128.4,130.7,131.9,145.3,158.9,171.2(COOH)。
液晶度: K160(152) Sx166(159) SmC*176(173) N*195(192) I,in℃, K:結晶, Sx:不明スメティック相, SmC*: キラルスメティック C, N*:キラルネマティック, I:等方性, カッコ内は冷却工程。
【0048】
(e) 4−メトキシ−安息香酸4’−[(R)−1−メチルヘプチロキシ]ビフェニル−4−イルエステル、(R)−3の合成
(R)−2はそれから、室温でN−N’ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)及び4−メチルアミノピリジン(DMAP)と組み合わされてp−エトキシフェノールでエステル化され、目的物質である(R)−3とした。(S)−3は、(R)−3について記載したのと同じ手順を使用して製造された。
これらの化合物の相転移挙動を、示差走査熱量測定(DSC)及び偏光光学顕微鏡検査(POM)によって決定した:K 97(72) N*135(133) BP(134) Iso*(K:結晶、N*:キラルネマティック、BP:青相、Iso*:等方性;カッコ内は冷却工程を示す)。
【0049】
65mLのCH2Cl2中、(R)−2(9.2g、28.2mmol)、N−N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(5.8g、28.2mmol)及びアミノピリジン(DMAP)(3.5g、28.2mmol)及びp−エトキシフェノール(3.8g、28.2mmol)の溶液を、24時間室温で撹拌した。溶媒を除去した後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CH2Cl2)によって精製し、エタノールによる再結晶化によって、白色物9.6g(21.5mmol)を得た。収率は76%であった。
【0050】
Anal. Calcd for C29344: C,78.00, H,7.67。
Found: 78.00, H,7.66。
IR(KBr,cm-1): 2925(νCH2), 1726(νC=O), 1507(νC=C), 1250(νC-O-C), 814(δCH)。
1H NMR(CDCl3,600MHz,TMSからのδ,ppm):0.88(t,J=6.66Hz,3H、CH3), 1.27−1.36(m,6H、CH2×3), 1.42(t,J=6.96Hz,3H、phOCH2CH3), 1.46(m,2H、CH2CH3), 1.59(m,3H;C*HCH3O), 1.77(m,2H、CH2CH2*HCH3O), 4.03(q,J=7.00Hz,2H、ph−OCH2CH3), 4.41(六重項,J=6.06Hz, 1H、C*HCH3O), 6.93(d,J=8.94Hz,2H、ph), 6.98(d,J=8.64Hz,2H、ph), 7.12(d,J=8.88Hz,2H、ph), 7.57(d,J=8.58Hz,2H、ph), 7.67(d,J=8.28Hz,2H、ph), 8.22(d,J=8.22Hz,2H、ph)。
13C NMR(CDCl3,150MHz,TMSからのδ,ppm):14.1(CH3), 14.8(ph−OCH2CH3), 19.7(C*HCH3O), 22.6,25.5,29.3,31.8,36.5,63.8(ph−OCH2CH3), 74.0(C*HCH3O), 115.0,116.1,122.4,126.5,127.5,128.4,130.7,131.8,144.3,145.8,156.6,158.6,165.5(ph−COO−ph)。
[α]D20=+3.4(THF)。
【0051】
(f) 4−メトキシ−安息香酸4’−[(S)−1−メチルヘプチロキシ]ビフェニル−4−イルエステル、(S)−3
(S)−3は、(R)−3について記載したのと同じ手順を使用して製造した。使用量:(S)−2(7.9g、24.3mmol)、p−エトキシフェノール(3.6g、26.7mmol)、DCC(5.5g、26.7mmol)、DMAP(3.3g、26.8mmol)、CH2Cl2(70mL)。収量:8.7g(19.5mmol)。
【0052】
Anal. Calcd for C29344: C,78.00; H,7.67。
Found: 78.00, H,7.68. IR (KBr,cm-1): 2925(νCH2), 1726(νC=O), 1507(νC=C), 1250(νC-O-C), 814(δCH)。
1H NMR (CDCl3,600MHz,TMSからのδ,ppm):0.88(t,J=6.84Hz,3H、CH3), 1.27−1.36(m,6H,CH2×3), 1.42(t,J=6.96Hz,3H、phOCH2CH3), 1.46(m,2H、CH2CH3), 1.59(m,3H,C*HCH3O), 1.77(m,2H、CH2CH2*HCH3O), 4.03(q,J=6.98Hz,2H、ph−OCH2CH3), 4.41(六重項,J=6.06Hz,1H、C*HCH3O), 6.93(d,J=8.76Hz,2H、ph), 6.98(d,J=8.76Hz,2H,ph); 7.132(d,J=9.06Hz, 2H,ph), 7.58(d,J=8.82Hz,2H、ph), 7.67(d,J=8.58Hz,2H、ph), 8.22(d,J=8.58Hz,2H、ph)。
13C NMR(CDCl3,150MHz,TMSからのδ,ppm):14.1(CH3), 14.8(ph−OCH2CH3), 19.7(C*HCH3O), 22.6,25.5,29.3,31.8,36.5,63.8(ph−OCH2CH3), 74.0(C*HCH3O), 115.0,116.1,122.4,126.5,127.5,128.4,130.7,131.8,144.4,145.9,156.6,158.6,165.5(ph−COO−ph)。
[α]D20=−3.7(THF)。
【0053】
[実施例2]
キラルPPVのポリマー層を有する積層体の製造
次に図1を参照して、ポリマー層14を有する積層体10の製造を説明する。
下記のスキームに示すように、キラルPPV(PPV*)を、110℃でN*−LC場におけるスルホニウム前駆体方法によって製造した。
【0054】
【化4】

【0055】
前駆体ポリマーを、Macromolecules 1995, Vol.28, pp.1330-1331.に記載されている方法によって製造した。得られたアキラル前駆体ポリマー溶液(1.9×10-2mol/L、5%クロロホルム溶液)を、1cm×3.5cm、厚さ0.5mmの石英基板12上にピペットを用いて滴下した。均一に広げた後に減圧下で24時間乾燥して、アキラル前駆体ポリマーのフィルムを石英基板12上に成型してポリマー層14を積層した。基板12の上部の開口部を残して基板12をアルミ箔18で包み、(R)−1又は(S)−1(N*−LC)をおよそ0.5g、ポリマー層14のアキラル前駆体ポリマーフィルム上に乗せた。
【0056】
次いで、この積層体を、大きな分離容器中へ非常に慎重に置いた。この容器を、0〜10Paの減圧下(超高真空)において油浴中93℃で加熱した。液晶層16のN*−LCは、光の選択反射のために真珠光沢を表示し、これはLCが、螺旋構造を有するキラルネマチック相を呈することを強く示唆している。
【0057】
12時間後、反応フラスコ中で液晶層16のN*−LCの可視選択的反射が再確認され、これはN*−LC相が維持されていることを示している。液晶層16の下には、暗いオレンジ色のポリマーフィルムが形成されていることが確認できた。その後、残りの前駆体及びN*−LCを完全に除去するためにアセトン、水、メタノール及びテトラヒドロフランで洗って、基板12とキラルポリマーで構成されたポリマー層14とを有する積層体10が得られた。この積層体10は、その後、0〜10Paの減圧下で乾燥した。
【0058】
[実施例3]
各種物性の測定
実施例2で得られた積層体10におけるポリマー層14のポリマーについて、以下に示すような特性を調べた。
(1)赤外線吸収分光学
熱処理後、ポリマーフィルムを、トランス−ビニレンC−H結合の面外変角振動に相当する962cm-1の赤外線(IR)吸収ピークを示した。この結果は、ポリマー鎖の配置が主にトランスであったことを示す。ポリ(パラフェニレンビニレン)前駆体がS=O伸長振動による1039cm-1の吸収を示すにも拘わらず、本合成で用いられたPPVは、ポリマー構造への変換でのS=O基脱離のために、この種の吸収バンドを呈しなかった。スペクトルも、(R)−1又は(S)−1、N*−LCのC=Oのために、1700cm-1あたりの特徴的な吸収バンドを欠いていた。
【0059】
(2)光学的性質
ポリマーは、PPV結合主鎖のπ−π*遷移による402nm-1の吸収バンドを示した。図2は、クロロホルム溶液中のポリマーのUV−可視光(UV−Vis)吸収及び円二色性(CD)スペクトルを示している。(R)及び(S)−N*−LC反応場の双方下で製造されたPPVは、418nmの吸収を示した。
【0060】
コットン効果の価値判断におけるアーチファクト及び直線偏光を除外するためにサンプルを回転させながら、CD測定を実施した。(R)−PPV*及び(S)−PPV*は、ポリマー主鎖の共役二重結合に対応する領域の鏡像イメージのbisignateなコットン効果を示した。(R)−1及び(S)−1のLC場のコットン効果がより短い波長で観察((R)−1,CD(CHCl3):λmax(Δε)=308(+0.51);(S)−1,CD(CHCl3):λmax(Δε)=308(−0.49))されるだけなので、ポリマーフィルムの測定で観察されたコットン効果は、残りのLCではなく、ポリマー自身のキラリティによるものでなければならない。
【0061】
これらの分光学的結果は、ポリマーがキラル置換基を有しない場合であっても、PPV*主鎖がキラル構造を有することを示している。光学活性ポリチオフェン誘導体の場合、貧溶媒又はキャストフィルムにより誘導されるbisignateなCDスペクトルは、振電分解と同じオーダーの励起子カップリング及びダビドフ分裂によるとして解釈されている。PPV*のキラル構造は、重合の間に発達したものであるが、これは、キラル凝集状態に関連することができる。(R)−PPV*フィルムの位相差光学顕微鏡写真(PCM)像は、N*−LCのものに似ているコレステリックなフィンガー様組織を示す(図示せず)。この結果は、PPVへの前駆体の変換が、N*−LC反応場との界面で巨視的構造の再構築を伴うことを示している。
【0062】
また図3に示されるように、本実施例によるポリマーは、550のnm付近の蛍光(励起波長:350nm)を示し(図3(A))、(S)−PPV*及び(R)−PPV*の双方とも、それぞれ正又は負のサインの円偏光ルミネセンス(CPL)を示した(図3(B))。gem=2(IL−IR)/(IL+IR)で与えられる発光における円偏光の角度は、(R)−PPV*及び(S)−PPV*についてそれぞれ、616nmで+2.38×10-2及び635nmで−5.33×10-2であった(図3(C))。両方のポリマーのためのCPLのサインは、350nmでのCDスペクトルのコットン効果の符号と一致した。
【0063】
このように、本発明によれば、非置換キラルPPVは、変換の間において、キラル分子とN*−LC界面との間で、特別な化学反応なしに、N*−LC反応場を使用してうまく製造された。このように、N*−LCはマトリックスとしてのみ機能したが、このような方法は界面キラル変換方法と記述されることができる。本方法によって、不斉N*−LC反応場の下で、アキラル前駆体ポリマーからキラルポリマーを得ることができる。
【0064】
[比較例1]
変換条件を160℃とした以外は実施例2で記載された方法と同様にして、等方相のN*−LCを用いて積層体を製造した。
得られた積層体のポリマー層を構成するポリマー(PPV)には、402nmでの特徴的な吸収バンドがUV−visスペクトルにおいて観察されたが、PCM観察の下では如何なる規則的な光学組織を呈することがなく、また、コットン効果を表示しなかった。これは、液晶分子がキラルネマティック相から等方相に転移することにより、螺旋構造をもつ液晶反応場が消失し、このため反応場が変化したためである。ここで液晶分子は、等方相の状態では、単なる光学活性液体として振舞うため、この状態ではキラル液晶反応場の効果が消失し、PPV前駆体相への効果的なキラリティーの転写がなされなかったためである。従って、このキラルネマティック液晶相を用いる場合、160℃の条件下ではキラルポリマーを得ることができないことがわかった。
【0065】
[比較例2]
アキラル前駆体ポリマーを下記(II)の化合物とした以外は、実施例2で記載された方法と同様にして、積層体を製造した。
【0066】
【化5】

【0067】
得られた積層体のポリマー層を構成するポリマー、PPM2Vは、CD測定において不明瞭なコットン効果を示した。これはフェニレン環にメチレン基を導入する化合物の直線性の減少によるものであるかもしれない。そして、これは、重合の間でのN*−LC場との親和性に劣り、反応場のキラル転写を限定的なものにしてしまうものと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(A)及び(B)は、本発明の製造方法を説明する概要図である。
【図2】(a)及び(b)は、本実施例にかかるキラルポリマーフィルムのUV−Visスペクトル(a)、CDスペクトル(b)をそれぞれ示すグラフであり、(c)は実施例で用いられたキラルネマティック液晶のCDスペクトルを示すグラフである。
【図3】本実施例で得られたキラルポリマーフィルムのPLスペクトル(A)、二色偏光ルミネセンス(CPL)スペクトル(B)、波長に対する関数としてのgem値(C)を、それぞれ示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
10 積層体
12 基板
14 ポリマー層
16 液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキラル前駆体ポリマーにキラルネマティック液晶を接触させること、
前記アキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶を、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件に付して、前記アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換すること、
を含むキラルポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記アキラル前駆体ポリマーが、下記一般式(I)で表されるポリマーであることを特徴とする請求項1記載のキラルポリマーの製造方法。
【化1】

(式中、Xは脱離基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(I)中、Xが−(S=O)−R1(R1は炭素数2〜20のアルキル基であることを特徴とする請求項2項記載のキラルポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記液晶相が維持される温度が、72〜133℃であることを特徴とする請求項1記載のキラルポリマーの製造方法。
【請求項5】
アキラル前駆体ポリマーを基板上に積層すること、
キラルネマティック液晶を、前記アキラル前駆体ポリマー上に積層すること、
前記アキラル前駆体ポリマー及びキラルネマティック液晶を、液晶相が維持される温度で且つ減圧条件に付して、前記アキラル前駆体ポリマーをキラルポリマーに変換すること、
を含む、キラルポリマーを有する積層体の製造方法。
【請求項6】
前記アキラル前駆体ポリマーが、下記一般式(I)で表されるポリマーであることを特徴とする請求項5記載の積層体の製造方法。
【化2】

(式中、Xは脱離基を表す。)
【請求項7】
基板と、
液晶相が維持される温度で且つ減圧条件下でキラルネマティック液晶と接触することによってアキラル前駆体ポリマーから変換されたキラルポリマーを含むポリマー層と、
を有する積層体。
【請求項8】
前記キラルポリマーがポリパラフェニレンビニレンであることを特徴とする請求項7記載の積層体。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−219639(P2006−219639A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36669(P2005−36669)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】