説明

ギアケース及びギアユニット

【課題】機充填剤の使用量、特に繊維状無機充填剤の使用量を抑えつつ、摺動性、機械的強度、寸法安定性の点で優れたギアケース及び当該ギアケースを有するギアユニットを提供する。
【解決手段】ポリアセタールを70質量%以上85質量%以下含み、繊維状無機充填剤を5質量%以上25質量%以下含み、非繊維状無機充填剤を5質量%以上20質量%以下含み、繊維状無機充填剤の含有量と非繊維状無機充填剤の含有量との合計が30質量%以下であるギアケース用ポリアセタール樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアケース及び当該ギアケースにギアが収容されたギアユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ギアは、動力を伝達させるための機械部品として、様々な分野に使用されている。従来、ギアやギアを収容するギアケースは、金属材料を用いて製造されていたが、近年では、部品の軽量化等の観点から熱可塑性樹脂を用いて製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成されるギアケースが開示されている。特許文献1に記載の樹脂組成物を用いて製造されたギアは、制振性、静音性に優れる。また、特許文献1に記載の樹脂組成物にはガラス繊維が含まれ、この含有量も多いため、特許文献1に記載のギアは、機械的強度、寸法安定性の点でも優れる。
【0004】
また、特許文献2には、ポリアセタール樹脂組成物から構成されるギアが開示されている。ポリアセタール樹脂は機械的強度、及び摺動性のバランスに優れ、かつ、加工性の点でも優れることから、ギア(歯車)用途として広く利用されている。
【0005】
また、摺動性に非常に優れた材料が特許文献3に記載されている。具体的には、熱可塑性樹脂と、無機充填材と、繊維状充填剤と、潤滑油と、油を保持可能な無機充填剤とを含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−009143号公報
【特許文献2】特開2011−017398号公報
【特許文献3】特開平07−228883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載の通り、ギアやギアケースの原料として熱可塑性樹脂を用いることは一般的である。また、特許文献3に記載の通り、摺動性等のギアやギアケースに必要な物性に優れた樹脂組成物の開発も進められている。
【0008】
ところで、ギアやギアケースを実用化するにあたっては、ギアケース等の生産コストも考慮する必要がある。通常、無機充填剤の含有量が多い樹脂組成物を用いると上記生産コストが高まる傾向にある。特に、ガラス繊維等の繊維状無機充填剤を多く含む樹脂組成物を用いると、ギアケース等の生産コストが非常に高くなる。しかし、無機充填剤の使用量を抑えると、求められる物性を有するギアケースが得られないというのが現状である。また、高温環境下で使用する場合、樹脂組成物によっては高い負荷に耐えられずに部分的とはいえ変形してしまい問題となることがある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、無機充填剤の使用量、特に繊維状無機充填剤の使用量を抑えつつ、摺動性、機械的強度、寸法安定性の点で優れたギアケース及び当該ギアケースを有するギアユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ポリアセタールを70質量%以上85質量%以下含み、繊維状無機充填剤を5質量%以上25質量%以下含み、非繊維状無機充填剤を5質量%以上20質量%以下含み、繊維状無機充填剤の含有量と非繊維状無機充填剤の含有量との合計が30質量%以下であるギアケース用ポリアセタール樹脂組成物を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) ポリアセタールを70質量%以上85質量%以下含み、繊維状無機充填剤を5質量%以上25質量%以下含み、非繊維状無機充填剤を5質量%以上20質量%以下含み、前記繊維状無機充填剤の含有量と前記非繊維状無機充填剤の含有量との合計が30質量%以下であるギアケース用ポリアセタール樹脂組成物から構成されるギアケース。
【0012】
(2) 前記非繊維状無機充填剤は、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及びタルクから選択される少なくとも一種である(1)に記載のギアケース。
【0013】
(3) (1)又は(2)に記載のギアケースと、前記ギアケースに内蔵されるギアと、を備えるギアユニット。
【0014】
(4) 前記ギアは、ポリアセタール樹脂組成物から構成される(3)に記載のギアユニット。
【発明の効果】
【0015】
本発明のギアケースは、機械的強度、摺動性、寸法安定性の点で優れつつ、従来から存在する優れたギアケースと比較して生産コストが低い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、ギアユニットの内部を模式的に示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のMM断面図である。
【図2】図2は、実施例で行った反り変形量の評価方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
本発明のギアケースは、特定のギアケース用ポリアセタール樹脂組成物を用いて製造される。このように本発明のギアケースは、ギアケースを構成する材料に特徴の一つがあるため、構成する材料が異なる以外は、従来公知のギアケースと共通してもよい。そこで、先ず、一般的な形状のギアケースを備えるギアユニットを説明する。なお、以下に示す実施形態では、ギアユニットに、ギアケースとギア以外の部品も含まれるが、これらの部品は必要に応じて使用されるものであり、本発明に必須の部品ではない。
【0019】
<ギアユニット>
本発明のギアケースは、上記の通り、ギアケースを構成する材料に特徴があるため、その形状等は特に限定されない。例えば、図1に示すギアユニットに本発明のギアケースを用いることができる。なお、本発明のギアケースを備えるギアユニットは、本発明のギアユニットにあたる。
【0020】
図1は、ギアユニットの内部を模式的に示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のMM断面図である。図1に示す通り、ギアユニット1は、ギアケース10と、ギアケース10に配設されたウォームギア付シャフト11と、ギアケース10に収容されウォームギア付シャフト11のウォームギア部分と噛み合うギア12と、ギアケース10に保持され、ギア12とともに可動するシャフト13とを備える。
【0021】
ギアケース10は、ウォームギア付シャフト11を配設するためのシャフト配設部101と、ギア12を収容するためのギア収容部102とを有する。また、このギアケース10は、後述するギアケース用ポリアセタール樹脂組成物から構成される。
【0022】
シャフト配設部101は、ウォームギア付シャフト11を保持するための軸受1011を有し、軸受1011は、ウォームギア部分を挟むように2箇所に設けられている。
【0023】
ギア収容部102は、ギア12の中央の開口に挿通されギアを保持するための保持部1021を有し、保持部1021にはシャフト13を回転可能に挿通するためのシャフト保持孔1022と、シャフト保持孔1022に取り付けられ、シャフト13を保持するための軸受1023とが設けられている。
【0024】
ウォームギア付シャフト11は、上記の通り、軸受1011を介して、ギアケース10に回転可能に保持されている。また、ウォームギア付シャフト11は、端部がモーター(図示せず)と連結されており、このモーターの駆動力でウォームギア付シャフト11が回転する。ウォームギア付シャフト11及び軸受1011は、一般的に金属材料から構成される。
【0025】
ギア12は中央に開口を有し、この開口にシャフト13の凸状部が入り込むことでギア12とシャフト13とが一体化され、この凸状部の側面と開口との間には環状の空間が形成される。この環状の空間に、保持部1021が、環状の空間を形成する上記開口の側面(ギア12側の面)と接するように挿通するとともに、シャフト13の凸状部がシャフト保持孔1022に挿通する。このようにしてシャフト13は軸受け1023に保持される。このシャフト13と軸受1023とのいずれもが、一般的には金属材料から構成される。なお、上記シャフトは他のギア等の駆動系と連結しており、モーターからウォームギアとギアを介して駆動力を伝達する役割を果たしている。
【0026】
ギア12は、通常、熱可塑性樹脂組成物から構成される。ギア12を構成する材料については後述する。
【0027】
続いて、ギアユニット1の動作について説明する。ウォームギア付シャフト11と連結したモーター(図示せず)が、ウォームギア付シャフト11を回転させる。このウォームギア付シャフト11の回転により、ウォームギアと噛み合うギア12が回転する。ギア12の回転により、ギア12と連結したシャフト13が回転し、このシャフト13の回転は、シャフト13の他端に連結された他のギア等の駆動力となる。
【0028】
続いて、本発明の効果について説明する。本実施形態のギアユニット1において、上記のギア12が回転すると、ギア12がギア収容部102の収容面を摺動する。ギア12及びギアケース10のいずれも樹脂材料から構成されるため、ギア12、ギア収容部102のそれぞれの摺動面付近での磨耗が問題となる。本発明では、ギアケース10が後述するギアケース用ポリアセタール樹脂組成物から構成されているため、ギアケース10は摺動性に優れる。その結果、ギア12の摩耗量も少ない。また、高温雰囲気下もしくはモーター駆動時に発生する熱等によりギアケース等の一部が一時的に高温状態となる等の使用にあたっては、機械的強度が低いと変形が問題となる。本発明では、高温環境下での機械的強度の低下が少ないため、変形による問題が生じ難い。
【0029】
そして、後述するギアケース用ポリアセタール樹脂組成物は、高コストの一因となる無機充填剤の含有量が、従来の樹脂製のギアケースを構成する樹脂組成物と比較して少ないにもかかわらず、機械的強度に優れ、高い寸法安定性を有し、高温環境下における機械的強度の低下が少ない。
【0030】
<ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物>
本発明で使用するギアケース用ポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタールを70質量%以上85質量%以下含み、繊維状無機充填剤を5質量%以上25質量%以下含み、非繊維状無機充填剤を5質量%以上20質量%以下含み、上記繊維状無機充填剤の含有量と上記非繊維状無機充填剤の含有量との合計が30質量%以下である。
【0031】
[ポリアセタール]
ポリアセタールの種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されず、従来、種々の用途に使用されるポリアセタールから適宜選択して使用することができる。
【0032】
ポリアセタールには、オキシメチレン基(−CHO−)のみを構成単位とするポリアセタールホモポリマー、及びオキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を構成単位として含有するポリアセタールコポリマーが含まれる。コポリマーにおいて、コモノマー単位には、オキシC2−6アルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基等のオキシC2−4アルキレン単位)が含まれる。コモノマー単位の含有量は、ポリアセタールの構成単位全体に対して、例えば、0.01〜30モル%、好ましくは0.03〜20モル%、さらに好ましくは0.03〜15モル%程度の範囲から選択できる。
【0033】
ポリアセタールがポリアセタールコポリマーである場合は、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマー等であってもよい。ポリアセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってもよい。また、ポリアセタールは、線状のみならず分岐構造であってもよく、架橋構造を有していてもよい。さらに、ポリアセタールの末端は、例えば、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸又はそれらの無水物とのエステル化等により安定化されていてもよい。
【0034】
ポリアセタールとしては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、トリオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、ジエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール等の環状エーテルや環状ホルマールを重合することにより製造できる。
【0035】
[繊維状無機充填剤]
繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質等が例示できる。
【0036】
従来よりも少ない繊維状無機充填剤の使用量で、良好な機械的強度等の物性をギアケースに付与するためには、上記の繊維状無機充填剤の中でも、ガラス繊維の使用が特に好ましい。
【0037】
繊維状無機充填剤の繊維長、繊維径は特に限定されないが、繊維状無機充填材がガラス繊維の場合において、成形品に含まれる平均繊維長は200μm以上600μm以下であることが好ましく、平均繊維径は9μm以上13μm以下であることが好ましい。
【0038】
[非繊維状無機充填剤]
非繊維状無機充填剤としては、粒粉状無機充填剤、板状無機充填剤等が例示できる。粒粉状無機充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0039】
上記の非繊維状無機充填剤の中でも、従来よりも無機充填剤の使用量を抑えつつ、ギアケースの機械的強度、寸法安定性、摺動性等の物性を良好にするためには、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及びタルクから選択される少なくとも一種を使用することが好ましい。
【0040】
非繊維状無機充填剤は一般的に用いられるものを使用すればよく、粒径は特に限定されない。
【0041】
[各成分の含有量]
本発明で用いるギアケース用ポリアセタール樹脂組成物は、上記の成分を特定の割合で配合することで、無機充填剤の使用量、特に繊維状無機充填剤の使用量を抑えつつギアケースに、良好な機械的強度、寸法安定性、摺動性を付与する。
【0042】
ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物に含まれるポリアセタールの含有量は、70質量%以上85質量%以下である。ポリアセタールの含有量が85質量%を超える場合、通常、繊維状無機充填剤等の無機充填剤の含有量が少なすぎて、ギアケースとしたときに機械的強度、寸法安定性等の物性が不充分になりやすい。しかし、本発明においては、繊維状無機充填剤と非繊維状無機充填剤とを特定の割合で、ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物に配合するため、機械的強度、寸法安定性等に優れたギアケースになる。ポリアセタールの含有量が70質量%未満であると、繊維状無機充填剤、非繊維状無機充填剤の含有量が多すぎ、成形が困難となり良好な性能を備えたギアケースにならない。
【0043】
上記繊維状無機充填剤の含有量と上記非繊維状無機充填剤の含有量との合計は30質量%以下である。本発明においては、繊維状無機充填剤と非繊維状無機充填剤との使用量を30質量%以下に抑え、繊維状無機充填剤を特定の量含み、非繊維状無機充填剤を特定の量含む結果、上記ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物を成形してなるギアケースは、成形性を著しく損なうことなく、優れた機械的強度、寸法安定性、摺動性を備える。
【0044】
具体的には、ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物に含まれる繊維状無機充填剤の含有量は5質量%以上25質量%以下である。本発明においては、繊維状無機充填剤の使用量が25質量%以下であっても、繊維状無機充填剤と非繊維状無機充填剤及びポリアセタールとを組み合わせることによって、ギアケースの機械的強度等の物性が良好になる。良好な物性をギアケースに付与しつつ、繊維状無機充填剤の含有量を抑えてギアケースの生産コストを抑える観点から、より好ましい繊維状無機充填剤の含有量は、5質量%以上15質量%以下である。
【0045】
また、ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物に含まれる非繊維状無機充填剤の含有量は5質量%以上20質量%以下である。非繊維状無機充填剤の含有量が5質量%以上であれば、非繊維状無機充填剤の使用量を少なくしたことによる機械的強度の低下等の物性低下を、許容範囲内(ギアケースとして使用する場合の許容範囲内)に抑えることができる。より好ましい非繊維状無機充填剤の含有量は、10質量%以上20質量%以下である。
【0046】
[任意成分]
なお、上記ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、ポリアセタール以外の樹脂、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、難燃剤等の添加剤が挙げられる。
【0047】
<ギアケースの製造方法>
上記ギアケース用ポリアセタール樹脂組成物は、従来から樹脂組成物の調製法として知られ一般に用いられる方法により容易に調製することができる。そして、このようにして調製したギアケース用ポリアセタール樹脂組成物を、射出成形等の一般的な成形方法を用いて成形することでギアケースを製造することができる。
【0048】
<熱可塑性樹脂組成物>
続いて、本発明のギアユニットに含まれるギアを構成する材料の一例である熱可塑性樹脂組成物について説明する。熱可塑性樹脂組成物に含むことができる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等を挙げることができる。なお、熱可塑性樹脂組成物は、2種以上の熱可塑性樹脂を含んでもよく、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含んでもよい。
【0049】
本発明に用いるギアについては、熱可塑性樹脂としてポリアセタールを含むポリアセタール樹脂組成物を使用することが価格と性能のバランスにおいて好ましい。なお、ポリアセタール樹脂組成物に含まれるポリアセタールは、上記のギアケース用ポリアセタール樹脂組成物に含まれるポリアセタールと同様であるため説明を省略する。
【0050】
<ギアユニットの製造方法>
先ず、上記熱可塑性樹脂組成物を従来公知の方法で調製する。次いで、熱可塑性樹脂組成物を射出成形等の一般的な成形方法を用いて成形してギアを製造する。最後に、このギアを上記本発明のギアケースに組み付けることで、本発明のギアユニットを製造できる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
<材料>
ポリアセタール(POM):「ジュラコンM90」(ポリプラスチックス社製)
繊維状無機充填剤1(ガラス繊維1):ガラス繊維 繊維径13μm
繊維状無機充填剤2(ガラス繊維2):ガラス繊維 繊維径10μm
非繊維状無機充填剤1:タルク 商品名:クラウンタルク 松村産業株式会社製
非繊維状無機充填剤2:炭酸カルシウム 商品名:ホワイトンP−30 東洋ファインケミカル製
非繊維状無機充填剤3:硫酸カルシウム
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂組成物:ポリブチレンテレフタレート70質量%とガラス繊維30質量%
ポリプロピレン(PP)樹脂組成物:ポリプロピレン70質量%とガラス繊維30質量%
【0053】
<寸法安定性の評価>
上記材料を表1に示す割合(表中の単位の「%」は質量%である。また、表1には樹脂以外の材料を示しており、実施例1〜7及び比較例1〜4では樹脂としてPOMを使用し、比較例5ではPBTを使用し、比較例6ではPPを使用した。)で用い、図2に示すギアケースを製造した(図2中の実線で表される所定の凹凸が付与された成形体)。ギアケースの反り変形から寸法安定性を評価した。具体的な評価方法は、図2に示すように、ギアケースの嵌合面の16点(図中の16箇所のドット部分)に基づいて仮想平面を構築し、この仮想平面に対する16点の垂直距離より、プラス側の最大値とマイナス側の最大値との差を平面度として評価する方法であり、評価結果を表1に示した。ここで、ギアケースの大きさは、縦横がおよそ103cm×65cmであり、ギアを収容するための凹凸等の凹凸が形成されている。また、ギアケースの厚みは、およそ1.5mmである。反り変形量は、ギアケースの金型キャビティ形状は、ギアケース成形品の周囲が同一平面上にあることから、この周囲において仮想平面からの高さを測定した値が最大となる値のことをいう。
【0054】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂組成物は、従来からギアケースの材料に用いられる材料である。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂組成物を用いて、図2に示す形状のギアケースを製造し(ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて作製したギアケースが比較例5、ポリプロピレン樹脂組成物を用いて作製したギアケースが比較例6)、反り変形量を測定した。いずれのギアケースにおいても反り変形量は1.0mmであった。
【0055】
表1の結果から、実施例のポリアセタール樹脂組成物を原料として用いれば、ギアケースは、従来からギアケースに使用されている原料を用いる場合と同程度の寸法安定性を有することが確認された。
【表1】

【0056】
<摺動性の評価>
実施例のポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形体の摺動性を評価する目的で、摺動試験機を用い、ポリアセタールを射出成形してなる摺動評価用試験サンプル(外径Φ25.6mm、内径Φ20mmの円筒形状品)を回転側とし、実施例及び比較例で使用したポリアセタール樹脂組成物を射出成形してなる摺動評価用試験サンプル(同上)を固定側とした摺動性評価を下記の条件で行い、動摩擦係数と比摩耗量を(単位荷重(N)、単位摺動距離(km)あたりの摩耗量(mm)を導出した。試験はモリブデン系グリスを両摺動面に塗布した状態で行われた。なお、比摩耗量は摺動前後の試験片(ポリアセタールから構成される試験片)の質量から摩耗量(mg)を算出し、この摩耗量を用いて導出した。摩耗量(mg)、比摩耗量((mm/N・km)×10−3)、動摩擦係数を表1にまとめた。
(摺動条件)
試験機:スラストタイプ摩擦摩耗試験(株式会社オリエンテック社製)
面圧:0.06MPa
線速度:15.0cm/秒
摺動時間:24時間
摺動面積:2.0cm
雰囲気温度:23℃
【0057】
表1の結果から、実施例で使用された樹脂組成物を成形してなる成形体を、比較例5や比較例6で使用される樹脂組成物(従来からギアケースに用いられる原料)を成形してなる成形体と比較すると、実施例で用いた樹脂組成物から得られる成形体は同等又は同等以上の摺動性を有することが確認された。
【0058】
<機械的強度の評価>
上記実施例及び比較例で使用された材料を成形してなる成形体の機械的強度を、引張強さ、曲げ弾性率から評価した。引張強さはISO−527−2/1aに準拠して行われる引張り試験により23℃の温度環境下で測定し、曲げ弾性率はISO178に準拠して行われる曲げ試験により23℃の温度環境下で測定した。また、測定の際の温度を80℃に変更して、同様の測定を行った。測定結果を表1に示した。なお、表中の各数値の単位は、引張強さがMPa、引張り破断歪みが%、曲げ強さがMPa、曲げ弾性率がMPaである。
【0059】
<コストの評価>
また、生産コストに関する評価も表1に示した。評価は以下の4段階で行った。
「◎」生産コストが充分低い
「○」生産コストが低い
「△」生産コストが高い
「×」生産コストが非常に高い
【0060】
表1の結果から、実施例の製造で使用された樹脂組成物を成形してなる成形体は、上記ポリプロピレン樹脂組成物を成形してなる成形体と同等以上の機械的強度を備えることが確認された。また、実施例の製造で使用された樹脂組成物を成形してなる成形体は、80℃の高温環境下であっても、機械的強度の低下が小さいことが確認された。さらに、本発明の実施例の樹脂組成物を用いれば生産コストも充分に抑えられることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1 ギアユニット
10 ギアケース
101 シャフト配設部
1011 軸受
102 ギア収容部
1021 保持部
1022 シャフト保持孔
1023 軸受
11 ウォームギア付シャフト
12 ギア
13 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタールを70質量%以上85質量%以下含み、
繊維状無機充填剤を5質量%以上25質量%以下含み、
非繊維状無機充填剤を5質量%以上20質量%以下含み、
前記繊維状無機充填剤の含有量と前記非繊維状無機充填剤の含有量との合計が30質量%以下であるギアケース用ポリアセタール樹脂組成物から構成されるギアケース。
【請求項2】
前記非繊維状無機充填剤は、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及びタルクから選択される少なくとも一種である請求項1に記載のギアケース。
【請求項3】
前記ギアケースは、80℃以上の温度環境で一時的もしくは継続的に使用されるものである、請求項1又は2に記載のギアケース。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のギアケースと、
前記ギアケースに内蔵されるギアと、を備えるギアユニット。
【請求項5】
前記ギアは、ポリアセタール樹脂組成物から構成される請求項4に記載のギアユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−104026(P2013−104026A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250058(P2011−250058)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】