説明

ギアノイズ測定装置

【課題】構造の工夫により、振動の発生を抑制して、供試体から発せられるギアノイズの測定精度を高める。
【解決手段】模擬負荷用ダイナモD3 により供試体に負荷を発生させた状態で、模擬エンジン用ダイナモD1 により供試体を駆動させて生ずるギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置であって、前記ベースを厚さ方向に沿って二分割して、上下の各ベース分割体を粘弾性樹脂を介して貼り合わせた構成にして、上下の各ベース分割体のいずれか一方に、上方に向けて軍艦状に突出した機器据付部38が一体形成された構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び負荷を模擬した各ダイナモを用いて、試験室において自動車のトランスミッション等の供試体を現実の使用状態のように駆動して、駆動時に発生するギアノイズ(騒音)を測定して評価するためのギアノイズ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11及び図12は、供試体であるFF(Front-Engine・Front-Drive)車のトランスミッションTのギアノイズを測定している状態の従来のギアノイズ測定装置A’の正面図、及び平面図である。ギアノイズ測定装置A’は、模擬エンジンとして作用する第1ダイナモD1 と、模擬負荷として作用する第2及び第3の各ダイナモD2,D3 との3つのダイナモD1 〜D3 を備えている。共通ベースVcの上に、長手方向に所定間隔をおいて各ベースV',V0 が据え付けられて、ベースV' には、第1及び第3の各ダイナモD1,D3 の各軸DS1,DS3 がトランスミッションTの入力軸TS0 と第2出力軸TS2 の配置に対応して水平方向、及び垂直方向(高さ方向)にそれぞれ所定間隔をおいて配置され、ベースV0 には、トランスミッションTの第1出力軸TS1 の配置に対応して第2ダイナモD2 が配置されている。第1〜第3の各ダイナモD1,D2,D3 の各軸DS1,DS2,DS3 の軸端は、それぞれ中間軸受53,54,55で支持され、各中間軸受53,54,55と各ダイナモD1,D2,D3 との間に露出している各軸DS1,DS2,DS3 は、それぞれ軸カバー56,57,58で覆われている。各軸カバー56,57,58の内部には、接続カップリングと伝達トルク測定のためのトルク計(いずれも図示せず)とが同軸に配置されている。なお、上記説明において「ダイナモの軸」とは、ダイナモに直接に設けられた軸のみならず、当該軸にカップリングを介して接続された(中間)軸を含む概念である。
【0003】
供試体であるトランスミッションTは、ベースV’におけるベースV0 と対向する側の端部に垂直に支持された供試体取付ブラケット59の外側の取付け面59aに取付けられている。トランスミッションTの入力軸TS0 は、第1ダイナモD1 の軸DS1 に確動継手により連結され、トランスミッションTの第1及び第2の各出力軸TS1,TS2 は、第2及び第3の各ダイナモD2,D3 の軸DS2,DS3 にそれぞれフランジ連結される。また、供試体であるトランスミッションTを除く他の音発生源(第1〜第3の各ダイナモD1 〜D3 ,各中間軸受53,54,55等)は、各ベースV',V0 と略同一の平面形状を有していて、底面が開口された略直方体箱状の防音カバーC',C0 により覆われている。更に、供試体であるトランスミッションTの前方、上方、及び両側方の計4箇所には、供試体であるトランスミッションTから発せられるギアノイズを測定するためのマイクロフォンMが供試体に近接して配置されている。
【0004】
しかし、特に供試体を取付ける側のベースV’に搭載された第1及び第3の各ダイナモD1,D3 が振動源となって、ベースV’に伝達されるために、以下の各問題が発生していた。
(1)防音カバーC' で覆われていないベースV’の露出部からノイズが漏れて測定誤差を生ずる。
(2)ベースV’の振動が防音カバーC' に伝達され、防音カバーC' 自身からノイズを発するため、測定誤差を生ずる。
(3)ベースV’の振動が供試体取付ブラケット59に伝達され、供試体取付ブラケット59自身がノイズを発するため、測定誤差を生ずる。
(4)ベースV’の共振が原因となって、特定の回転数で振動やノイズが増大するため、測定誤差を生ずる。ベースV’は大きな面積を有するため、剛性を高めることで共振を回避しようとすると、重量が無駄に増大する。また、どのように工夫しても、ベースV’の素材自体の特性に由来する物理的な限界を超えることができない。
なお、他方のベースV0 に関しても同様な問題は生ずるが、供試体を取り付けている側のベースV’に比較すれば、供試体のノイズの測定誤差に及ぼす影響は遥かに小さいので、仮に振動が発生しても大きな問題とはならない。
【0005】
上記したベースの振動を防止する古典的な手段としては、特許文献1に記載のように、円筒状の防振ゴムを用いた多数の防振装置を用いてベースを支持する方法があるが、防振ゴムにより振動を直接に吸収する構造であるために、防振効果を高めるためには、多数の円筒状の防振ゴムが不可欠であるという問題があった。
【特許文献1】実開平5−50037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ギアノイズ測定装置において、ベース、及び供試体取付ブラケットの各構造の工夫により、振動の発生を抑制して、供試体から発せられるギアノイズの測定精度を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために請求項1の発明は、ベースに搭載された模擬エンジン用、及び模擬負荷用の各ダイナモと、供試体を取付けるために前記ベースに対して略垂直に固定された供試体取付ブラケットと、該供試体取付ブラケットに取付けられる前記供試体のみを露出させて、前記各ダイナモ等の全てのノイズ発生体から発生されるギアノイズを防音すべく前記ノイズ発生体の全てを覆うために、所定間隔をおいて対向配置された一組の防音カバーとを備え、前記模擬負荷用ダイナモにより供試体に負荷を発生させた状態で、前記模擬エンジン用ダイナモにより供試体を駆動させて生ずるギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置であって、前記ベースを厚さ方向に沿って二分割して、上下の各ベース分割体を粘弾性樹脂を介して貼り合わせた構成にして、上下の各ベース分割体のいずれか一方に、上方に向けて軍艦状に突出した機器据付部が一体形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項1の発明によれば、ギアノイズ測定装置を構成していて、ダイナモ等の振動発生源を搭載して据え付けるベースが厚さ方向に二分割されて、上下の各ベース分割体を粘弾性樹脂を介して貼り合わせた構成にして、上下の各ベース分割体のいずれか一方に、上方に向けて軍艦状に突出した機器据付部が一体形成されているために、ベースが制振構造となる。即ち、剛性がほぼ同等の上下の各ベース分割体が粘弾性樹脂を介して貼り合わされているために、機器据付部が一体形成された側の上下の各ベース分割体の一方の振動は、他方によって減衰される構造となって、基本的な制振構造である。このため、ベースの振動自体が小さいので、ベースの露出部から漏れるノイズ(振動音)が小さくなると共に、防音カバーに伝達される振動も小さくなって、防音カバー自身からの振動音も小さくなる。よって、供試体から発せられるギアノイズ以外の有害なノイズの発生を抑制できて、供試体のギアノイズの測定精度が高められる。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、上下の各ベース分割体は、底板部又は天板部と、該底板部又は天板部の全周に亘って一体形成された側板部と、前記底板部又は天板部に一体形成されたリブとを備え、上下の各ベース分割体の各コーナー部には、各コーナー部の形成角度をほぼ二分する方向に向けてリブが形成されていることを特徴としている。
【0010】
方形状等の多角形状のベースの振動時には、そのコーナー部の振幅が最も大きくなろうとするため、ベースの制振効果を高めるには、そのコーナー部の振幅増大を抑える必要がある。請求項2の発明によれば、厚さ方向に沿って二分割構造の上下の各ベース分割体のコーナー部に、該コーナー部の形成角度を二分する方向に向けてリブが形成されているために、振動発生時に大きな振幅となり易い上下の各ベース分割体のコーナー部の剛性が特に高くなって、リブの配置方向のみによって高い制振効果が奏される。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記供試体取付ブラケットは、剛性がほぼ同等の二つの部材を粘弾性樹脂を介して貼り合わせて構成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明によれば、供試体取付ブラケットの部分を制振構造にすることができて、供試体に最も近い供試体取付ブラケットの振動音によって、供試体のギアノイズの測定精度が低下するのを防止できる。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記防音カバーは、防振ゴムを介してベースの上面に支持されて、防音カバーの下端部は、ベースの側面を覆って内側に折り返されていることを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明によれば、防音カバーは、防振ゴムを介してベースの上面に支持されているため、ベースの振動が防音カバーに伝播されにくくなる。また、防音カバーの下端部は、ベースの側面を覆って内側に折り返されているため、ベースからの放射音が外部に漏れるのを効果的に防止又は抑制できる。このため、防音カバーの振動、或いはベースからの反射音により、供試体から発せられるギアノイズの測定精度が低下されるのを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ダイナモ等の振動発生源を搭載して据え付けるベースが厚さ方向に二分割されて、上下の各ベース分割体を粘弾性樹脂を介して貼り合わせた構成にして、上下の各ベース分割体のいずれか一方に、上方に向けて軍艦状に突出した機器据付部が一体形成されているために、ベースが制振構造となる。また、このため、ベースの振動自体が小さいので、ベースの露出部から漏れるノイズ(振動音)が小さくなると共に、防音カバーに伝達される振動も小さくなって、防音カバー自身からの振動音も小さくなる。よって、供試体から発せられるギアノイズ以外の有害なノイズの発生を抑制できて、供試体のギアノイズの測定精度が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、最良の実施形態を挙げて本発明について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図8に、供試体であるFF車のトランスミッションTのギアノイズを測定するための本発明に係るギアノイズ測定装置Aが示されている。図1は、供試体であるFF車のトランスミッションTを取付けた状態において、各防音カバーC1 ,C0 の部分を破断したギアノイズ測定装置Aの正面図であり、図2は、同じく平面図であり、図3は、ベースV1 に各試験機器を搭載した状態を拡散バッフル体B1 の側から見た斜視図であり、図4は、同じく背面側(第3ダイナモD3 の側)から見た斜視図であり、図5は、同じく底面の側から見た斜視図であり、図6は、同じく平面図であり、図7は、ベースV1 、ブラケット基板18、第1及び第3の各ダイナモD1,D3 、防音カバーC1 等を分離した状態の斜視図であり、図8(イ)は、図6のX−X線断面図であり、同(ロ),(ハ)は、別のベースV1', V1"における図6のX−X線断面図に相当する図である。なお、「従来技術」で説明した部分と同等又は同一の部分には同一符号を付し、重複説明を避けて、本発明の独自の部分についてのみ説明する。防音カバーC1 は、第2ダイナモD2 等を覆っている別の防音カバーC0 と対向する面が略三面体で構成されている。即ち、防音カバーC1 は、略直方体箱状であるが、その対向面10は、上傾斜面1と、左右の各側傾斜面2と、各側傾斜面2の稜線部に対応する部分に形成された開口3に配設される拡散バッフル体B1 の前面の曲面4との各部分で構成された非平面となっていて、別の防音カバーC0 の対向面62と非平行となっている。
【0018】
また、図3ないし図7に示されるように、ベースV1 の平面形状は、防音カバーC1 の対向面10が略三面体の立体形状に形成されていることに対応していて、一対の長辺11と一つの短辺12の他に、防音カバーC1 の対向面10の各側傾斜面2に対応する一対の傾斜辺13と、前記短辺12と平行であって、防音カバーC1 の開口3に対応する平行短辺14とを備えている。また、ベースV1 は、耐振性を高めるべく、厚さ方向に沿って二分割されて、上下の各ベース分割体V11,V12を粘弾性樹脂Rを介して積層させた構造である〔図8(イ)参照〕。即ち、上ベース分割体V11は、防音カバーC1 の平面形状に対応した底板部31と、該底板部31における前記平行短辺14を除く部分の全周縁に一体形成された側板部32と、下ベース分割体V12の機器据付部38を嵌合させるために、前記平行短辺14の部分のみが開口した枠リブ状の被嵌合リブ33とを備えている。上ベース分割体V11の4つの各コーナー部と、両長辺11の中間部との計6箇所には、防音カバーC1 を設置するためのカバー設置部34が形成され、4つの各コーナー部には、コーナー部の角度をほぼ二分する方向に向けた放射リブ36がカバー設置部34と被嵌合リブ33との間に一体形成されている。被嵌合リブ33で囲まれた空間部は、下ベース分割体V12の機器据付部38を嵌合挿入させるための被嵌合空間35となっている。
【0019】
一方、下ベース分割体V12は、前記上ベース分割体V11を上下反転させて、天板部37の上面に、第1及び第3の各ダイナモD1,D3 等の各測定機器を据え付けるための機器据付部38が上方に突出して設けられている。下ベース分割体V12の機器据付部38は、上ベース分割体V11の被嵌合空間35に粘弾性樹脂Rを介して嵌合挿入される。即ち、図8(イ)に示されるように、上ベース分割体V11の被嵌合リブ33と下ベース分割体V12の機器据付部38の側面との間の僅少の空間部に粘弾性樹脂Rが充填される。この構造により、上下の各ベース分割体V11,V12が相互に全方向に位置決めされてずれなくなる。また、下ベース分割体V12は、上ベース分割体V11の被嵌合リブ33に対応する枠状リブ39と、側板部41と、放射リブ42と、設置面部43とを備えている〔図5及び図8(イ)参照〕。枠状リブ39は、機器据付部38を下方から補強するのに最適位置である機器据付部38の周縁部の直下に配置されている。設置面部43は、上ベース分割体V11のカバー設置部34に対応した位置に設けられていて、側板部41の下端面における各設置面部43の間は、ベースV1 の設置状態において、防音カバーC1 の下端の折曲げ片5を内側に折り曲げ可能な空間が形成されている。下ベース分割体V12の設置面部43は、防振ゴム44を介して共通ベースVcに設置される〔図9(イ)参照〕。
【0020】
このように、ベースV1 を構成する上下の各ベース分割体V11,V12は、各リブ33,36,39,42と周縁の側板部32,41とにより、底板部31又は天板部37を補強して、必要強度を確保することによりベースV1 の軽量化を図っている。また、ベースV1 は、上ベース分割体V11の底板部31と下ベース分割体V12の天板部37との間、及び上ベース分割体V11の被嵌合リブ33と下ベース分割体V12の機器据付部38の側面との間に、それぞれ粘弾性樹脂Rを介在させて、上ベース分割体V11の被嵌合リブ33に下ベース分割体V12の機器据付部38が嵌合挿入された状態で、上下に重ね合わせた構成、及び上下の各ベース分割体V11,V12に設けられた各リブの配置、特に各コーナー部に放射リブ36,42の配置により、ベースV1 を制振構造にしている。即ち、ベースV1 を構成する上下の各ベース分割体V11,V12は、同程度の剛性を有していて、粘弾性樹脂Rを介して背中合わせで重ねられた状態で貼り付けられているために、上下の各ベース分割体V11,V12の一方の振動は、他方によって制振させられる制振構造となっている。このため、下ベース分割体V12の機器据付部38に据え付けられた第1及び第3の各ダイナモD1,D3 の回転による振動は効果的に制振され、ベースV1 自体から発生する振動が小さくなって、後述のアダプタ22に取付けられた供試体(トランスミッションT)に大きな振動が伝達されなくなる。
【0021】
また、下ベース分割体V12の機器据付部38の前端面には、ブラケット基板18が垂直となって一体に取付けられ、ブラケット基板18は、その背面側において左右一対の傾斜支柱19(図4参照)で支持されている。ブラケット基板18の前面には、第1ダイナモD1 の軸DS1 と同心のアダプタ用円筒体21が固着されていて、該アダプタ用円筒体21の前端面には、供試体であるトランスミッションTを取付けるためのアダプタ22が取付けられている。第1ダイナモD1 の軸DS1 の端部を支持する中間軸受53の一部は、前記アダプタ用円筒体21の内部に挿入されている。また、ブラケット基板18の前面における第3ダイナモD3 の軸DS3 の延長線上には、供試体であるトランスミッションTの第2出力軸TS2 を挿通させるための軸挿通用ダクト23がブラケット基板18を貫通して一体に取付けられている。トランスミッションTの第2出力軸TS2 が挿通される軸挿通用ダクト23内には、防音カバーC1 の内部で発生した音が外部に漏れるのを防止するために、公知の防音手段が設けられている。公知の防音手段としては、例えば軸挿通用ダクトの内周面に多数枚の防音リングを所定間隔をおいて設ける構成が挙げられる。
【0022】
ブラケット基板18の前面には、その前面の平面部を解消するために拡散バッフル体B1 が接着剤としても作用する粘弾性樹脂を介して貼り付けられる。拡散バッフル体B1 は、その前面が曲面4で構成されることが重要であって、その材質は問われないが、ブラケット基板18に制振性を付与する観点からは、該ブラケット基板18と同程度の剛性を有することが望ましい。拡散バッフル体B1 は、金属板をわん曲させて形成されており、前記アダプタ用円筒体21及び軸挿通用ダクト23を挿通させるための各挿通孔21a,23aが所定位置にそれぞれ形成されている。拡散バッフル体B1 は、前記アダプタ用円筒体21及び軸挿通用ダクト23が斜め方向に配置される部分の幅が最も広くなっていて、当該部分から上方及び下方に向けて幅は徐々に狭くなっている。
【0023】
図3及び図6に示されるように、上ベース分割体V11に垂直に取付けられたブラケット基板18の前面に拡散バッフル体B1 の折曲げ部20を接着剤としても作用する粘弾性樹脂Rを介して貼り付けると、前記ブラケット基板18の前面、両側端面、及び上端面の全ては拡散バッフル体B1 で覆われて、アダプタ用円筒体21は、拡散バッフル体B1 の表面から長さ(L)〔図1参照〕だけ突出する。アダプタ用円筒体21の拡散バッフル体B1 から突出する長さ(L)は、長い程、防音カバーC1 の対向面10からの供試体の距離が長くなって、後述する反射音の影響を少なくすることができる。また、図3,図4及び図9に示されるように、ベースV1 を防音カバーC1 で覆って、その下端周縁部に一体に形成された複数の折曲げ片5を下ベース分割体V12の側板部41の内側に折り曲げると、上下の各ベース分割体V11,V12の各側板部32,41は、防音カバーC1 の下端部の袴部29で覆われることにより、第1及び第3の各ダイナモD1,D3 の振動音が外部に漏れ出なくなる(又は漏れ出る割合が少なくなる)。なお、ブラケット基板18と拡散バッフル体B1 とは、粘弾性樹脂Rに替えて防振ゴムを介して振動絶縁して重ね合わせることも可能である。
【0024】
防音カバーC1 の対向面10の開口3は、その前面に配置されるブラケット基板18により全体が覆われる。拡散バッフル体B1 は、防音カバーC1 の左右一対の側傾斜面2の稜線部を覆うように配置されて、その上端は防音カバーC1 の上傾斜面1に接続するために、拡散バッフル体B1 の上端部には、水平面部が形成され、この水平面部は、供試体であるトランスミッションTをアダプタ22に取付ける際の部品類、工具類を仮置きするための小物置部24として機能する。防音カバーC1 は、外板部6の内側に断熱材7が貼り付けられた構成であって、前記断熱材7の下端面がベースV1 (上ベース分割体V11)の上面である各カバー設置部34に防振ゴム45を介して当接する。なお、ベースV1 に据え付けられたダイナモD1,D3 等の各機器を防音カバーC1 で覆うと、防音カバーC1 の各側傾斜面2とブラケット基板18との間に隙間が形成されるので、前記隙間は、横断面形状が楔状の目地板8(図2及び図3参照)により塞がれている。
【0025】
なお、ベースV0 の上面に据え付けられる第2ダイナモD2 ,中間軸受54等の機器の構成、及び前記機器を覆う防音カバーC0 の構成は、いずれも「従来技術」で説明した通りである。
【0026】
このように、ベースV1 が制振構造になっていて、ベースV1 自身からの発生振動が小さくなると共に、ベースV1 から防音カバーC1 に伝達される振動も小さくなるのに加えて、ブラケット基板18の前面に拡散バッフル体B1 を貼り付けて構成した供試体取付ブラケットとして機能するアダプタ22の部分も制振構造になっており、更に、防音カバーC1 の下端部の袴部29によりベースV1 の側面が覆われて、防音カバーC1 の下端の折曲げ片5がベースV1 の下端面の内側に折り曲げられているために、ベースV1 に据え付けられた第1及び第3の各ダイナモD1,D3 等から発生した振動音が外部に漏れにくくなる。これによって、ベースV1 、或いは防音カバーC1 から発せられる振動音が小さくなって、供試体であるトランスミッションTから発せられるギアノイズ以外の有害なノイズの発生を効果的に防止、或いは抑制できて、供試体のギアノイズの測定精度が高められる。
【0027】
なお、本発明に関連する事項として、図1及び図2に示されるように、所定間隔をおいて対向配置された略直方体箱状をした2つの防音カバーC1,C0 のうち一方の防音カバーC1 の対向面10が略三面体で構成されて、2つの防音カバーC1,C0 の各対向面10,62が非平行となっているので、供試体から発せられた音が対向面10に一次反射する際に周囲に拡散され、上記した「定在波」の発生を抑制できる。この点においても、供試体のギアノイズの測定精度が高められている。
【0028】
また、図8(ロ)に示されるベースV1'は、上ベース分割体V11’の被嵌合リブ33’を、前記上ベース分割体V11の被嵌合リブ33の高さよりも高くして、下ベース分割体V12の機器据付部38の両側面を覆う総面積を大きくして、制振効果を高めたものである。図8(ハ)に示されるベースV1"は、上ベース分割体V11" に機器据付部38を一体に形成した構成である。なお、図8(ハ)において、V12" は下ベース分割体を示す。
【実施例2】
【0029】
図10は、FR(Front-Engine・Rear-Drive) 車のトランスミッション(図示せず)のギアノイズ測定装置に使用される第1ダイナモD1'を据え付けるためのベースV2 に第1ダイナモV1'が取付けられた状態の斜視図である。ベースV2 は、上下の各ベース分割体V21,V22から成る構成は、前記ベースV1 と同様であるが、FR車のトランスミッションの出力軸は1本であって、この出力軸にはベースV0 に据え付けられた第2ダイナモD2 から負荷が与えられるために、ベースV2 には、第1ダイナモD1'のみが据え付けられる。このため、ベースV2 は左右対称形状となっており、前記ギアノイズ測定装置AのベースV1 及び供試体取付ブラケット(アダプタ22の部分)に対応する部分には、同一符号に「’」を付して図示のみ行う。なお、図10においてB2 は、拡散バッフル体を示す。
【0030】
また、上記実施例1,2のベースV1,V2 は、いずれも厚さ方向に二分割して粘弾性樹脂を介して重ね合わせて制振構造にしたが、共通ベースVcの上にベースを載せて使用する場合には、共通ベースVcを振動の拘束板として用いることができるため、上下の各ベース分割体のいずれか一方を省略することもできる。
【0031】
なお、本発明のギアノイズ測定装置の測定対象ノイズは、トランスミッションのギアノイズに限られず、電気自動車のモータ、シャフト、ジョイント等の他の自動車部品のノイズの測定評価用としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】供試体であるFF車のトランスミッションTを取付けた状態において、各防音カバーC1 ,C0 の部分を破断したギアノイズ測定装置Aの正面図である。
【図2】同じく平面図である。
【図3】ベースV1 に各試験機器を搭載した状態を拡散バッフル体B1 の側から見た斜視図である。
【図4】同じく背面側(第3ダイナモD3 の側)から見た斜視図である。
【図5】同じく底面の側から見た斜視図である。
【図6】同じく平面図である。
【図7】ベースV1 、ブラケット基板18、第1及び第3の各ダイナモD1,D3 、防音カバーC1 等を分離した状態の斜視図である。
【図8】(イ)は、図6のX−X線断面図であり、(ロ),(ハ)は、別のベースV1',V1"における図6のX−X線断面図に相当する図である。
【図9】(イ)及び(ロ)は、それぞれ図6のY1 −Y1 線及びY2 −Y2 線拡大断面図である。
【図10】FR車のトランスミッションのギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置を構成するベースV2 に第1ダイナモV1'が据え付けられた状態の斜視図である。
【図11】FF車のトランスミッションTのノイズを測定している状態の従来のギアノイズ測定装置A’の正面図である。
【図12】同じく平面図である。
【符号の説明】
【0033】
A:ギアノイズ測定装置
1 :防音カバー
1 〜D3 :ダイナモ(ノイズ発生体)
R:粘弾性樹脂
1,V2 :ベース
11,V21:上ベース分割体
12,V22:下ベース分割体
5:防音カバーの折曲げ片
18:ブラケット基板
21,21’:アダプタ用円筒体(供試体取付ブラケット)
22,22’:アダプタ(供試体取付ブラケット)
29:防音カバーの袴部
31:底板部
32,41:側板部
33:被嵌合リブ
36,42:放射リブ
37:天板部
38,38’:機器据付部
39:枠状リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースに搭載された模擬エンジン用、及び模擬負荷用の各ダイナモと、供試体を取付けるために前記ベースに対して略垂直に固定された供試体取付ブラケットと、該供試体取付ブラケットに取付けられる前記供試体のみを露出させて、前記各ダイナモ等の全てのノイズ発生体から発生されるギアノイズを防音すべく前記ノイズ発生体の全てを覆うために、所定間隔をおいて対向配置された一組の防音カバーとを備え、
前記模擬負荷用ダイナモにより供試体に負荷を発生させた状態で、前記模擬エンジン用ダイナモにより供試体を駆動させて生ずるギアノイズを測定するためのギアノイズ測定装置であって、
前記ベースを厚さ方向に沿って二分割して、上下の各ベース分割体を粘弾性樹脂を介して貼り合わせた構成にして、上下の各ベース分割体のいずれか一方に、上方に向けて軍艦状に突出した機器据付部が一体形成されていることを特徴とするギアノイズ測定装置。
【請求項2】
上下の各ベース分割体は、底板部又は天板部と、該底板部又は天板部の全周に亘って一体形成された側板部と、前記底板部又は天板部に一体形成されたリブとを備え、上下の各ベース分割体の各コーナー部には、各コーナー部の形成角度をほぼ二分する方向に向けてリブが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のギアノイズ測定装置。
【請求項3】
前記供試体取付ブラケットは、剛性がほぼ同等の二つの部材を粘弾性樹脂を介して貼り合わせて構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のギアノイズ測定装置。
【請求項4】
前記防音カバーは、防振ゴムを介してベースの上面に支持されて、防音カバーの下端部は、ベースの側面を覆って内側に折り返されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のギアノイズ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−225310(P2007−225310A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43860(P2006−43860)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000002059)神鋼電機株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】