説明

ギヤスピンドル及びそれに用いられるオイルシール

【課題】十分な強度と大きいトルク伝達能力を確保することができると共に高回転運転に伴うオイルシールのシール性確保と破損防止が図れ、小径化に最適なギヤスピンドルを提供する。
【解決手段】スピンドル外筒10(厳密には大径筒部10a)の内周面に外筒ギヤ部(内歯)11を、またスピンドル内筒13の外周面に内筒ギヤ部(外歯)14をそれぞれ一体形成すると共に、前記各ギヤ部の潤滑用油脂20を密封するオイルシール27は、スピンドル外筒10(厳密には大径筒部10a)の内周面とスピンドル内筒13の外周面との周間隙に介装される断面チャネル状のシール本体29と、該シール本体を当該シール本体が前述した周間隙内での軸方向の膨張が可能にスピンドル内筒13の外周面に緊縛・固定するバンドあるいはバネ等からなるシール取付部材30と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小径化に最適なギヤスピンドル及びそれに用いられるオイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、圧延機においては、上,下のワークロールを上,下の駆動軸によって、傾斜角θ(θ=0度乃至3度)で上下方向に傾斜したギヤスピンドル(ギヤタイプ自在継手の一種)を介して回転させ、圧延材を圧延している。
【0003】
この種のギヤスピンドルとして、従来、例えば図6に示すようなものがある(特許文献1参照)。
【0004】
これによれば、図中100がスピンドル内筒で、101がスピンドル外筒であり、スピンドル内筒100の軸心はスピンドル外筒101の軸心に対し傾斜角θで傾斜している。図中102はハブであり、その外周にはギヤ部(外歯)102aが設けられ、このギヤ部102aを貫通して連通孔102bが穿設されている。そして、このハブ102はスピンドル内筒100の端部にスプライン103によって軸方向に摺動可能に嵌装されている。
【0005】
スピンドル外筒101の圧延機側端部はワークロール104の小判型部104aに着脱自在に嵌装され、駆動装置側端部にはリング状のYシール105がシールケース106を介して径方向に移動自在に装着されている。そして、スピンドル外筒101の内周に設けられたギヤ部101aはハブ102のギヤ部102aと軸方向に摺動自在に噛み合っている。このギヤ部101a,102aの噛合い部を境に給油側油室107とシール側油室108が形成され、給油側油室107にスピンドル外筒101の内周に開口した給油孔109から潤滑油110が注入されるようになっている。尚、図中111はブーツ型シール、112は内筒ピボット(スラストピン)、113は圧縮コイルばね、114はストッパである。
【0006】
従って、駆動軸の回転トルクは傾斜角θで傾斜したスピンドル内筒100からスプライン103を介してハブ102に伝達され、ここからギヤ部101a,102aを介してスピンドル外筒101に等速で伝達されてワークロール104が回転駆動される。この際、ギヤ部101a,102aはその全周に亘って潤滑油110で潤滑され、摩耗・発熱が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−21453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、最近のニーズに対応するため、硬質材からなる特殊鋼(ステンレス鋼等)を高い生産性と高い製品品質で圧延するのに、従来に比べ非常に小径のワークロールが用いられるようになった(例えばMinφ300mm→Minφ230mm)。
【0009】
そのために、ワークロールを駆動するギヤスピンドルの外径も例えばφ225mmと小径にする必要が生じた。しかしながら、ギヤスピンドルにおいては、小径化した分、歯・シャフトその他を含めたスピンドル全体の強度アップを図ることはもちろんのこと、十分なトルク伝達能力を確保することや小径ロールで高生産量を確保するための高回転運転に伴うオイルシールのシール性確保と破損防止を図らなければならないという新たな課題が生じているのが現況である。
【0010】
ところが、特許文献1に開示されたような構造のギヤスピンドルにあっては、Yシール105やブーツ型シール111等の組付け性の観点から、スピンドル内筒部がスピンドル内筒100とギヤ部102a付きのハブ102とに分割形成されて互いにスプライン103により係合されているため、トルク伝達が二段階となってその伝達能力が低いことから高トルク伝達が期待できないと共に、部品点数増加により構造が煩雑化する一方、強度上からもギヤスピンドルの小径化には自ずと限界があるという問題点があった。
【0011】
また、ギヤスピンドルが傾斜しているため、高速回転下ではYシール105(Oリングでも同様であるが)の許容追随速度を越えることからスピンドル内筒部との間でYシール105の許容追随量を越える隙間が出来或いは損傷して潤滑油が漏れ出るという不具合があった。そのため、バックアップとしてブーツ型シール111が設けられているが、このブーツ型シール111は軸方向にはスピンドル外筒部の外側に配置され且つ内リング部用シール取付部材が潤滑油脂の無い側に配置されているため、ギヤスピンドルの回転中に潤滑油の遠心力で膨張し、ボルト等のシール取付品や隣接部品に接触して破損するという不具合があった。
【0012】
尚、通常のギヤスピンドルでは、オイルシールとして蛇腹が用いられるのが一般的であるが、この蛇腹においても軸方向にはスピンドル外筒部の外側に配置されているため、ギヤスピンドルの回転中に潤滑油の遠心力で大きく膨張し、ギヤ部の潤滑油が減り潤滑条件が悪化すると共に、ボルト等のシール取付品や上下相対するギヤスピンドルのオイルシールに接触して損傷するという不具合があった。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑み提案されたもので、その目的は、十分な強度と大きいトルク伝達能力を確保することができると共に高回転運転に伴うオイルシールのシール性確保と破損防止が図れ、小径化に最適なギヤスピンドル及びそれに用いられるオイルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための本発明に係るギヤスピンドルは、
外筒部の内周面に刻設されたギヤ部に内筒部の外周面に刻設されたギヤ部を噛み合わせると共に外筒部の軸心と内筒部の軸心が傾斜角θで傾斜して回転するギヤスピンドルにおいて、
前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面に各々のギヤ部を一体形成すると共に、
前記各ギヤ部の潤滑用油脂を密封するオイルシールは、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との周間隙に介装されるシール本体と、該シール本体を当該シール本体が前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との周間隙内での膨張が可能に前記内筒部の外周面に緊縛するシール取付部材と、からなることを特徴とする。
【0015】
また、
前記シール取付部材を含めてシール隣接部品をシール本体の膨張時に当該シール本体に干渉しない位置に配置したことを特徴とする。
【0016】
また、
前記外筒部の軸方向移動量B(mm)、前記ギヤ部における内筒部の外径D(mm)、最大の傾斜角θ(deg)、ギヤスピンドル部品加工誤差・部品組立誤差・回転に伴う振動変位を考慮した定数をA(mm)とした時、外筒部の軸方向移動量B(mm)は下記式の範囲であることを特徴とする。
B<(D/2)×sinθ+A
【0017】
また、
前記内筒部におけるオイルシール取付部の外径はその軸方向両側に位置するギヤ部における内筒部の外径と駆動軸側の内筒部の外径より小さく、前記オイルシールの取付けの際には、シール本体が直径方向に拡縮変形して取付け可能になっていることを特徴とする。即ち、前記内筒部の一端に位置するギヤ部外径は、ギヤ部強度の都合上オイルシール取付部の外径より大きくなければならず、また、前記内筒部の他端に位置し駆動軸に結合される部分の外径は、軸結合強度の都合上オイルシール取付部の外径より大きくなければならず、この内筒部各部の外径の大小関係を許容すべくオイルシールのシール本体が直径方向に拡縮変形するのである。
【0018】
また、
前記オイルシール取付部の外径は内筒ギヤ部の付根直径と異なることを特徴とする。即ち、オイルシール取付部の外径は内筒ギヤ部の付根直径と無関係な値なのである。
【0019】
上記の課題を解決するための本発明に係るオイルシールは、
前述したギヤスピンドルに用いられるオイルシールであって、外筒部の内周面に接触し剛性の高い外リング部と、内筒部の外周面に接触し剛性が外リング部より低い内リング部と、この外リング部と内リング部を連結する可撓性に富む中間リング部より成るシール本体と、前記内リング部を前記内筒部に取り付けるためのシール取付部材と、からなることを特徴とする。
【0020】
また、
前記シール取付部材は、固体のバンドあるいは高い剛性のバネであることを特徴とする。
【0021】
また、
前記シール取付部材は、潤滑用油脂の有る側に配置したことを特徴とする。
【0022】
また、
前記外リング部に剛性確保のための補強環を設けたことを特徴とする。
【0023】
また、
前記補強環が外リング部の幅方向に複数に分割されていることを特徴とする。
【0024】
また、
前記外リング部の幅方向端部の少なくともいずれか一方が楔形に形成され、この楔形に対応した楔形の保持部材で保持されることを特徴とする。
【0025】
また、
前記中間リング部は一個の大きな円弧を有したU型をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るギヤスピンドルによれば、例えば内筒部において軸部とギヤ部がスプライン構造などで分割されることなく、外筒部の内周面と内筒部の外周面に各々のギヤ部を一体形成したので、十分な強度と大きいトルク伝達能力を確保することができる。また、オイルシールのシール本体を外筒部の内周面と内筒部の外周面との周間隙にコンパクトに介装し、かつシール取付部材でシール本体を前述した周間隙内での膨張が可能に取り付けるようにしたので、高回転運転に伴うオイルシールのシール性確保と破損防止が図れる。これらの結果、ギヤスピンドルの小径化に最適となる。
【0027】
本発明に係るオイルシールによれば、剛性の高い外リング部とシール取付部材で取り付けられる内リング部とで高い取付強度を保持して高回転運転に伴うシール性を確保することができると共に可撓性に富む中間リング部で組付けのための容易性が図れる。また、シール取付部材を潤滑用油脂の有る側に配したこととシール本体を外筒部の内周面と内筒部の外周面との周間隙内で隣接部品と干渉せず膨張が可能に取り付けるようにしたので、オイルシールとシール取付部材やシール隣接部品との干渉を回避して破損防止が図れる。これらの結果、小径化されたギヤスピンドルに用いて最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1を示すギヤスピンドルの要部断面図である。
【図2】本発明の実施例2を示すギヤスピンドルの要部断面図である。
【図3】本発明の実施例3を示すオイルシール部の断面図である。
【図4】本発明の実施例4を示すオイルシール部の断面図である。
【図5】本発明の実施例5を示すギヤスピンドルの要部断面図である。
【図6】従来例のギヤスピンドルの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るギヤスピンドル及びそれに用いられるオイルシールを実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は本発明の実施例1を示すギヤスピンドルの要部断面図である。
【0031】
図示のように、スピンドル外筒10の一(右)半部には大径筒部(外筒部の一部を構成する)10aが形成されると共に、他(左)半部には大径筒部10aと中央部隔壁で隔離された嵌合孔10cが形成される。
【0032】
前記大径筒部10aの軸方向中間部には外筒ギヤ部(内歯)11が一体形成されると共に、前記嵌合孔10cには図示しない圧延機におけるワークロールの支軸が着脱(抜差し)自在でかつ回転不能に嵌合し得るようになっている。前記外筒中央部隔壁の孔10bには外筒ピボット12の基端部が嵌合されている。
【0033】
前記大径筒部10a内には、図示しない駆動軸(装置)に回転駆動されるスピンドル内筒(内筒部)13の一(左)端部が挿入され、その軸端に一体形成された内筒ギヤ部(外歯)14が前記外筒ギヤ部11に軸方向に摺動自在に噛み合っている。そして、スピンドル内筒13の軸心はスピンドル外筒10の軸心に対し傾斜角θで傾斜している。
【0034】
また、スピンドル内筒13の筒孔13aには、前記外筒ピボット12の先端部が遊嵌されると共に、この外筒ピボット12に球面接触する内筒ピボット15が圧縮コイルばね16により外筒ピボット12側に付勢されて収装されている。即ち、スピンドル外筒10がワークロール側に常に付勢されて両者の嵌合状態が保持されるようになっているのである。尚、図中17は内筒ピボット15の抜け出しを防止するストッパである。
【0035】
前記外筒ギヤ部11と内筒ギヤ部14の噛合い部を境にスピンドル外筒10の大径筒部10a内には給油側油室18とシール側油室19が画成され、給油側油室18にスピンドル外筒10の図示してない筒孔を通して潤滑用油脂20が注入されるようになっている。
【0036】
また、前記大径筒部10aの開口端部には、当該大径筒部10aの端面に複数本のボルト21で結合される鍔付き筒状のカップリングカバー(外筒部の一部を構成する)22を介して半割りのストッパリング23が装着される。このストッパリング23は、ロール組替時におけるスピンドル外筒10の軸方向移動量B(mm)を規制するものである。尚、図中24はOリング等のシール部材である。
【0037】
そして、前記スピンドル外筒10の軸方向移動量B(mm)は、前記内筒ギヤ部14におけるスピンドル内筒13の外径D(mm)、最大の傾斜角θ(deg)、ギヤスピンドル部品加工誤差・部品組立誤差・回転に伴う振動変位を考慮した定数をA(mm)とした時、下記式の範囲に設定される。
B<(D/2)×sinθ+A 例えばA=5
【0038】
さらに、前記カップリングカバー22(の端面)にインロー継手を介して鍔付き筒状のシールケース(外筒部の一部を構成する)25が連接され、このシールケース25の内周面とスピンドル内筒13の外周面(図中オイルシール取付部の外径D0(mm)(D0<D)参照)との周間隙に、シールプレート26を介して、前記給油側油室18とシール側油室19の潤滑用油脂20を密封するゴム等の弾性部材からなるオイルシール27が介装される。シールケース25とシールプレート26は複数本のボルト28でカップリングカバー22の端面に共締めされる。尚、シールプレート26は一体品でも半割品でも良い。
【0039】
前記オイルシール27は、前述した周間隙に介装されるシール本体29と、該シール本体29を当該シール本体29が前述した周間隙内での膨張が可能にスピンドル内筒13の外周面に緊縛するシール取付部材30とからなる。図示例では、オイルシール27は、シールケース25の内周面に接触し剛性の高い外リング部29aと、スピンドル内筒13の外周面に接触し剛性が外リング部29aより低い内リング部29bと、この外リング部29aと内リング部29bを連結する可撓性に富む中間リング部29cより成る断面チャネル状のシール本体29と、前記内リング部29bをスピンドル内筒13に取り付けるための、高い剛性のバネからなるシール取付部材30と、からなる。ところで、上述したように構成された外リング部29aは、潤滑用油脂20の回転内圧により、シールケース25の内周面に押し付けられるので、潤滑用油脂20の漏れを防止する目的の外リング部29aは簡便なもので機能を満足でき、スペースの少ない小径スピンドルに適する。
【0040】
前記シール取付部材30は潤滑用油脂20のある側に配置されると共に、シールプレート26の内周板部(シール隣接部品)と中間リング部29cとの間には所定の間隙が設定されている。即ち、ギヤスピンドルの回転中に潤滑用油脂20の遠心力によりシール本体29の中間リング部29cが潤滑用油脂20のある側と反対側の軸方向に膨張してもシール取付部材30はもちろんシールプレート26の内周板部と干渉(接触)しないようになっているのである。更に、上述した構成の内リング部29bは潤滑用油脂20の回転内圧によりスピンドル内筒13の外周面に押し付けられるので、当該内リング部29bをスピンドル内筒13の外周面に固定し潤滑用油脂20の漏れを防止する目的のシール取付部材30はコンパクト且つ簡便なもので機能を満足でき、スペースの少ない小径スピンドルに適する。
【0041】
また、前記スピンドル内筒13におけるオイルシール取付部の外径D0(mm)は、その軸方向両側に位置する内筒ギヤ部14におけるスピンドル内筒13の外径D(mm)と駆動軸側のスピンドル内筒13の外径D1(mm)より小さく設定され、前記オイルシール27の取付けの際には、シール本体29(厳密には中間リング部29c及び内リング部29b)が直径方向に拡縮変形して取付け可能になっている。
【0042】
尚、内リング部29bは拡縮変形出来るように剛性を低くしており、此れだけでは内リング部29bとスピンドル内筒13間のシール性を確保出来ないため、シール本体29とは別体の高い剛性を持つシール取付部材30にて内リング部29bがスピンドル内筒13の外周面に固定されシール性を確保している。
【0043】
また、外リング部29aには、シールケース25との間の高いシール性が求められるので、剛性が高いことが必要であり、また、内リング部29bは、スピンドル内筒13との間の高いシール性とともにスピンドル内筒13の両端部を越えて取り付けるための直径方向拡縮性が求められる。更に、中間リング部29cは、内圧に打ち勝つための強度とスピンドル内筒13の傾斜に追随する可撓性とスピンドル内筒13の両端部を越えて取り付けるための直径方向拡縮性が求められる。以上より、オイルシールの各部には各々個別に求められる個別の特徴があるので、各々はこれらを考慮して個別に設計されなければならない。
【0044】
ここで、オイルシール27の組付手順を簡単に説明すると、先ずスピンドル内筒13にシールプレート26、シールケース25を順に挿入し、次いでオイルシール27を直径方向の拡縮変形により内筒ギヤ部14を越えてスピンドル内筒13に装着し、シール取付部材30で緊縛・固定する。次にカップリングカバー22をスピンドル内筒13に挿入した後、スピンドル外筒10にスピンドル内筒13を挿入する。次に半割りのストッパリング23を組み込んだ後、カップリングカバー22をスピンドル外筒10に取り付ける。次にシールケース25をオイルシール27を越えてカップリングカバー22に取り付けた後、シールプレート26をシールケース25に取り付けるのである。
【0045】
このように構成されるため、駆動軸の回転トルクは傾斜角θで傾斜したスピンドル内筒13から内筒ギヤ部14とこれに噛み合う外筒ギヤ部11を介してスピンドル外筒10に等速で伝達されてワークロールが回転駆動される。この際、内筒ギヤ部14と外筒ギヤ部11の噛合い部はその全周に亘って潤滑用油脂20で潤滑され、摩耗・発熱が低減される。
【0046】
そして、本実施例では、スピンドル外筒10(厳密には大径筒部10a)の内周面に外筒ギヤ部11を、またスピンドル内筒13の外周面に内筒ギヤ部14をそれぞれ一体形成したので、十分な強度と大きいトルク伝達能力を確保することができる。
【0047】
また、オイルシール27のシール本体29をシールケース25の内周面とスピンドル内筒13の外周面との周間隙にコンパクトに介装し、かつシール取付部材30でシール本体29を前述した周間隙内での膨張が可能に取り付けるようにしたので、高回転運転に伴うオイルシール27のシール性確保と破損防止が図れる。
【0048】
即ち、剛性の高いシール取付部材30でシール本体29の内リング部29bをスピンドル内筒13に緊縛・固定するようにしたので、スピンドル内筒13が傾斜角θで傾斜する高回転運転下においても十分にシール性を確保することができるのである。
【0049】
また、シール取付部材30は潤滑用油脂20のある側に配置されると共に、シールプレート26の内周板部と中間リング部29cとの間には所定の間隙が設定され、高回転運転下における潤滑用油脂20の遠心力によりシール本体29の中間リング部29cが前述した軸方向に膨張しても、シール取付部材30やシールプレート26の内周板部と干渉(接触)することが無いので、シール本体29が破損することが未然に回避される。
【0050】
また、前述した計算式で位置決めされたストッパリング23により、ロール組替時におけるスピンドル外筒10の軸方向移動量B(mm)が必要最小限に規制され、シール側油室19の内圧上昇による中間リング部29cの異常膨張が防止されるので、シール本体29の破損防止がより一層助長されると共に、シール側油室19の内圧上昇の抑制によりシール本体29における中間リング部29cの肉厚を薄くすることができる。
【0051】
即ち、中間リング部29cの肉厚を薄くして、当該中間リング部29cにより高い可撓性を付与することができるので、シール本体29の直径方向の拡縮変形によりスピンドル内筒13の内筒ギヤ部14を容易に乗り越えることができ、組付け性がより一層向上されるのである。
【0052】
これらの結果、ギヤスピンドルの小径化が図れ、硬質材からなる特殊鋼(ステンレス鋼等)を高い生産性と高い製品品質で圧延することができる。
【実施例2】
【0053】
図2は本発明の実施例2を示すギヤスピンドルの要部断面図である。
【0054】
本実施例は、前記実施例1におけるオイルシール27において、シール本体29Aの中間リング部29cを一個の大きな円弧を有したU型とし、極力薄く、長くする一方、外リング部29aに補強環31を埋設した例であり、その他の構成は、スピンドル内筒13の外周面にシール取付部材30の位置決め用の環状溝13bを形成すると共にシール取付部材30として固体のバンドを用いる点以外は、実施例1と同様なので図1と同一部材、部位には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0055】
これによれば、実施例1と同様の作用・効果に加えて、中間リング部29cを一個の大きな円弧を有したU型としたことにより、シール発生応力が緩和される。因みに、複数の小さな円弧のシールの場合、シール発生応力が増大し寿命が低下する。また、中間リング部29cを極力薄く、長くしたことにより、オイルシール27の可撓性を高めて組付け性の向上が図れる。一方、外リング部29aに補強環31を埋設したことにより、外リング部29aの剛性低下(中間リング部29cを一個の大きな円弧を有したU型としたことにより取付けスペースの制約から外リング部29aが薄くせざる得ないことによる)を回避してオイルシール27のシール性向上が図れるという利点が得られる。
【実施例3】
【0056】
図3は本発明の実施例3を示すオイルシール部の断面図である。
【0057】
本実施例は、前記実施例2におけるオイルシール27において、外リング部29aに複数(図示例では二つ)の補強環31a,31bを幅方向(ギヤスピンドルの軸方向)に分割して埋設した例であり、その他の構成は実施例2と同様なので図2と同一部材、部位には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0058】
これによれば、実施例2と同様の作用・効果に加えて、補強環31a,31bを埋設したことによる外リング部29aの剛性確保と、外リング部29aの中間リング部29cの付け根部に補強環を設けないで済むことによる当該部の応力緩和(可撓性増大)が可能となり、オイルシール27における外リング部29aでのシール性確保が図れるという利点が得られる。即ち、外リング部29aにおける中間リング部29cの付け根部の応力が高いとオイルシール27の強度が低下する可能性があるが、本実施例ではそれが未然に回避されるのである。
【実施例4】
【0059】
図4は本発明の実施例4を示すオイルシール部の断面図である。
【0060】
本実施例は、前記実施例2におけるオイルシール27において、外リング部29aに補強環31(図2参照)を埋設する代わりに、外リング部29aの幅方向(ギヤスピンドルの軸方向)端部の少なくともいずれか一方(図示例では両方)を楔形に形成し、この楔形に対応した楔形リテーナ(楔形の保持部材)32と楔状部(楔形の保持部材)26aを有するシールプレート26とで挟持するようにした例であり、その他の構成は実施例2と同様なので図2と同一部材、部位には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0061】
これによれば、実施例2と同様の作用・効果に加えて、オイルシール27の組付け前は外リング部29aに補強環31(図2参照)が埋設されていないのでオイルシール27全体の剛性低下により十分な直径方向の拡縮変形が得られ、組付け性の向上が図れる一方、オイルシール27の組付け後は、楔形リテーナ32と楔状部26aを有するシールプレート26とで挟持されるので、十分なシール性が得られるという利点がある。
【実施例5】
【0062】
図5は本発明の実施例5を示すギヤスピンドルの要部断面図である。
【0063】
本実施例は、前記実施例1におけるオイルシール取付部の外径D0を内筒ギヤ部14の付根直径D2より大きく設定すると共に、オイルシール部の構造として実施例4における構造を若干変更して採用した例である。即ち、実施例4のオイルシール部における楔形リテーナ32(図4参照)を用いずに、幅方向両端部を楔形に形成した外リング部29aを楔状部(楔形の保持部材)25aを有するシールケース25と楔状部26aを有するシールプレート26とで挟持するようにしたのである。また、シール取付部材30として高い剛性のバネ又は固体のバンドを用いている。さらに、実施例1における圧縮コイルばね16(図1参照)を廃止すると共に、スピンドル内筒13に形成した複数本の連通孔13cにより、外筒10に設けられた図示していない筒孔から給油側油室18内に注入した潤滑用油脂20を積極的にシール側油室19に供給するようになっている。その他の構成は実施例1と同様なので図1と同一部材、部位には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0064】
内筒ギヤ部14(内筒ギヤ部14におけるスピンドル内筒13の外径D)の仕様が決った場合、内筒ギヤ部14の付根直径D2はギヤ部加工の都合上、ある値以上には出来ない制約があるが、本実施例によれば、実施例1及び4と同様の作用・効果に加えて、オイルシール取付部の外径D0を内筒ギヤ部14の付根直径D2と無関係に設定したことにより、内筒ギヤ部14におけるスピンドル内筒13の外径Dとオイルシール取付部の外径D0との径差を可能な限り小さく設定できるので、オイルシール27の組付け時における直径方向の必要拡縮変形を小さくでき、組付け性のより一層の向上が図れるという利点もある。
【0065】
尚、オイルシール取付部の外径D0を一定として、一般には、外リング部29aの内径D3と内リング部29bの外径D4との径差が大きいと、回転による潤滑用油脂20の内圧によりシール内圧強度が低下するが、スピンドル内筒13の傾斜によるシール変形強度は向上するので、本実施例のようにオイルシール取付部の外径D0を内筒ギヤ部14の付根直径D2とは無関係に、オイルシールの組込性や強度面の観点から設定することにより、オイルシール27においては内筒ギヤ部14の付根直径D2とは独立して使用条件に応じた最適寸法が設定できる。
【0066】
また、本発明は上記各実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲でオイルシールの形状変更等各種変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るギヤスピンドル及びそれに用いられるオイルシールは、圧延機のワークロール等の駆動装置に用いると好適である。
【符号の説明】
【0068】
10 スピンドル外筒
10a 大径筒部(外筒部)
10b 連通孔
10c 嵌合孔
11 外筒ギヤ部(内歯)
12 外筒ピボット
13 スピンドル内筒(内筒部)
13a 筒孔
13b 位置決め用の環状溝
13c 連通孔
14 内筒ギヤ部(外歯)
15 内筒ピボット
16 圧縮コイルばね
17 ストッパ
18 給油側油室
19 シール側油室
20 潤滑用油脂
21 ボルト
22 カップリングカバー(外筒部)
23 ストッパリング
24 シール部材
25 シールケース(外筒部)
25a 楔状部(楔形の保持部材)
26 シールプレート
26a 楔状部(楔形の保持部材)
27 オイルシール
28 ボルト
29,29A,29B,29C シール本体
29a 外リング部
29b 内リング部
29c 中間リング部
30 シール取付部材
31,31a,31b 補強環
32 楔形リテーナ(楔形の保持部材)
A 定数
B スピンドル外筒10の軸方向移動量
D 内筒ギヤ部14におけるスピンドル内筒13の外径
0 オイルシール取付部の外径
1 駆動軸側のスピンドル内筒13の外径
2 内筒ギヤ部14の付根直径
3 外リング部29aの内径
4 内リング部29bの外径
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒部の内周面に刻設されたギヤ部に内筒部の外周面に刻設されたギヤ部を噛み合わせると共に外筒部の軸心と内筒部の軸心が傾斜角θで傾斜して回転するギヤスピンドルにおいて、
前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面に各々のギヤ部を一体形成すると共に、
前記各ギヤ部の潤滑用油脂を密封するオイルシールは、前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との周間隙に介装されるシール本体と、該シール本体を当該シール本体が前記外筒部の内周面と前記内筒部の外周面との周間隙内での膨張が可能に前記内筒部の外周面に緊縛するシール取付部材と、からなることを特徴とするギヤスピンドル。
【請求項2】
前記シール取付部材を含めてシール隣接部品をシール本体の膨張時に当該シール本体に干渉しない位置に配置したことを特徴とする請求項1に記載のギヤスピンドル。
【請求項3】
前記外筒部の軸方向移動量B(mm)、前記ギヤ部における内筒部の外径D(mm)、最大の傾斜角θ(deg)、ギヤスピンドル部品加工誤差・部品組立誤差・回転に伴う振動変位を考慮した定数をA(mm)とした時、外筒部の軸方向移動量B(mm)は下記式の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のギヤスピンドル。
B<(D/2)×sinθ+A
【請求項4】
前記内筒部におけるオイルシール取付部の外径はその軸方向両側に位置するギヤ部における内筒部の外径と駆動軸側の内筒部の外径より小さく、前記オイルシールの取付けの際には、シール本体が直径方向に拡縮変形して取付け可能になっていることを特徴とする請求項1に記載のギヤスピンドル。
【請求項5】
前記オイルシール取付部の外径は内筒ギヤ部の付根直径と異なることを特徴とする請求項4に記載のギヤスピンドル。
【請求項6】
前記請求項1乃至5の何れか1項に記載のギヤスピンドルに用いられるオイルシールであって、外筒部の内周面に接触し剛性の高い外リング部と、内筒部の外周面に接触し剛性が外リング部より低い内リング部と、この外リング部と内リング部を連結する可撓性に富む中間リング部より成るシール本体と、前記内リング部を前記内筒部に取り付けるためのシール取付部材と、からなることを特徴とするオイルシール。
【請求項7】
前記シール取付部材は、固体のバンドあるいは高い剛性のバネであることを特徴とする請求項6に記載のオイルシール。
【請求項8】
前記シール取付部材は、潤滑用油脂の有る側に配置したことを特徴とする請求項6に記載のオイルシール。
【請求項9】
前記外リング部に剛性確保のための補強環を設けたことを特徴とする請求項6に記載のオイルシール。
【請求項10】
前記補強環が外リング部の幅方向に複数に分割されていることを特徴とする請求項9に記載のオイルシール。
【請求項11】
前記外リング部の幅方向端部の少なくともいずれか一方が楔形に形成され、この楔形に対応した楔形の保持部材で保持されることを特徴とする請求項6に記載のオイルシール。
【請求項12】
前記中間リング部は一個の大きな円弧を有したU型をなすことを特徴とする請求項6に記載のオイルシール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−254462(P2012−254462A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127967(P2011−127967)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】