説明

ギヤノイズ等の検査装置

【課題】 リバースギヤのギヤノイズや振動を検査するにあたり、余分な部品等を装着しないで且つより実機に近い状態を再現して検査できるようにする。
【解決手段】 回転シャフト5を回転駆動するための駆動用モータ2と、回転シャフト5に負荷をかけることのできるブレーキ機構3の周りを防音壁4で覆い、回転シャフト5の先端部を防音壁4の外部に露出させて嵌着部5kとし、この嵌着部5kに被検査体であるリバースギヤ20を装着可能にする。また、嵌着部5kの周囲の防音壁4に、リバースギヤ20のキャリア26を固定するためのギヤホルダ11を固着することで、リバースギヤ20を視認しながらリバース状態におけるギヤノイズや振動を検査できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の変速機におけるリバースギヤ等のギヤアッセンブリから生じるギヤノイズや振動を検査する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車の変速機のリバースギヤのノイズ等の検査を行う際は、変速機を組み立てた状態で変速機全体を作動させて行うのが普通であるが、このような検査方法では、どの部位からノイズが発生しているのかの判定が難しいばかりでなく、大きくて重量のある変速機を検査機にセットするのに多大な労力と時間を要するという問題があった。そこで、これらの問題を解決すべく本出願人は、実機に近い状態のトランスファのギヤノイズ等を検査する装置として、駆動歯車に回転駆動力を入力することのできる第1動力入力機構と、従動歯車に回転駆動力を入力することのできる第2動力入力機構との交差部に検査対象物がセットされる室を備えた装置本体を配設し、この装置本体の室内に検査対象物を保持する保持手段を設けるとともに、保持手段の近傍にギヤノイズを検出するギヤノイズ検出手段や、振動を検出する振動検出手段を設けるような技術(例えば、特許文献1参照。)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−8443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記技術においてもギヤを保持するケースも含んで装置が大掛かりなものとなり、また、いまだどの部位に不具合があるのかを特定するには時間がかかるという不具合があった。また、上記装置では被検査体周囲を室で囲ってしまうため、ギヤの回転状態等を目視で確認することができず、不具合箇所の特定が難しいという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、リバースギヤ等のギヤアッセンブリの周りの余分な部品等を装着しないで且つリバースギヤ等のギヤアッセンブリが実際に作動するときの状態が発現できるようにすることで、より実機に近い状態を再現し、そのときのノイズや振動の検査ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、ギヤアッセンブリのギヤの噛合状態を特定の状態にセットしてギヤノイズや振動の発生を検査するようにしたギヤノイズ等の検査装置において、前記ギヤアッセンブリが嵌着可能な回転シャフトを駆動するための駆動源や、前記回転シャフトの回転に負荷をかけることのできるブレーキ機構からなる駆動手段の周囲を防音壁で覆って該駆動手段から発生する音を遮断するようにし、前記回転シャフトに対して前記ギヤアッセンブリを嵌着する嵌着部を、前記防音壁の外部に露出させるとともに、この外部に露出した回転シャフトの周囲に、ギヤアッセンブリのギヤの噛合状態を特定の状態にセットするための状態設定部材を設け、ギヤアッセンブリを防音壁の外部に出した状態で検査できるようにした。
【0007】
そして、被検査体としてのギヤアッセンブリを回転シャフトに嵌着し、この際、ギヤアッセンブリの特定部位を状態設定部材に係合させることで、ギヤアッセンブリのギヤの噛合状態を特定の状態にセットし、駆動源によって回転シャフトを回転駆動すると同時に、ブレーキ機構によって回転シャフトの回転に負荷をかけることによりギヤアッセンブリの実際の運用状態を再現させ、このときのギヤノイズ等を検査するが、ギヤアッセンブリを防音壁の外部に露出させることにより、ギヤの噛合状態等を目視で確認することができ、不具合部位等を迅速に且つ的確に特定できる。
【0008】
この際、ギヤアッセンブリを、車両用変速機のリバースギヤとし、また、前記状態設定部材を、リバースギヤをリバース状態にするためのものとすれば好適である。
【0009】
また、前記状態設定部材の外周部に、前記ギヤアッセンブリの振動を検出するためのセンサを設け、またその近傍に、ギヤアッセンブリから生じるギヤノイズを集音するためのマイクを設けるようにすれば、ギヤアッセンブリから生じるノイズや振動の不具合をより正確に検知することができる。
【発明の効果】
【0010】
ギヤアッセンブリを防音壁の外部で回転シャフトに嵌着させ、この際、状態設定部材によってギヤの噛合状態を特定の状態にセットすることにより、ギヤアッセンブリのギヤの噛合状態等を目視で確認しながら実際の運用状態に近い状態で検査できるようになり、不具合等が発生した場合に不具合部位を迅速且つ的確に特定できる。
このようなギヤアッセンブリを、車両用変速機のリバースギヤとし、また、前記状態設定部材を、リバースギヤをリバース状態にするためのものとすれば好適であり、また、状態設定部材の周囲に、ギヤアッセンブリの振動を検出するためのセンサや、ギヤアッセンブリから生じるギヤノイズを集音するためのマイクを設ければ、ノイズや振動の不具合をより正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るギヤノイズ等の検査装置の構成概要を示す構成概要図である。
【図2】同検査装置を正面方向から見た外観図である。
【図3】同検査装置のギヤホルダ(状態設定部材)の説明図で、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図4】車両用変速機のリバースギヤの説明図である。
【図5】リバースギヤの作動原理を示す説明図であり、(a)は前進作動時、(b)は後進作動時の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
本発明に係るギヤノイズ等の検査装置は、ギヤアッセンブリとして、例えば自動車の変速機に用いられるリバースギヤを検査する装置として構成され、リバースギヤから発生するノイズ等を検査できるようにされている。この際、検査装置にリバースギヤ周りの余分な部品等を装着しないで且つギヤをリバース状態に入れたときの状態を忠実に再現することで、より実機に近い状態で検査できるようにされている。
【0013】
そこで、本発明のギヤノイズ等の検査装置を説明する前に、図4、図5に基づいて自動車の変速機のリバースギヤ20について説明する。
【0014】
図4に示すように、リバースギヤ20は、インプットシャフト21に連結されるサンギヤ22と、このサンギヤ22の周囲三箇所に等間隔に配置されてサンギヤ22に噛合するピニオンギヤ23と、ピニオンギヤ23の外側を取り囲むように配置され且つ各ピニオンギヤ23に噛合するリングギヤ24と、このリングギヤ24に連結されるアウトプットシャフト25を備えており、前記リングギヤ24の外周部の外側からサンギヤ22の前面側にかけてこれらの外側を覆うようにキャリア26が配設されるとともに、前記三箇所のピニオンギヤ23のピニオン軸23jは、キャリア26の裏側に固定されている。また、このキャリア26の外周部には凹凸部が形成されている。
【0015】
そして、サンギヤ22とリングギヤ24との間には、両者を結合したり、結合を解いたりするためのフォワードクラッチ27が設けられ、また、キャリア26の外側には、キャリア26を固定したり固定を解除したりすることのできるリバースクラッチ28が設けられている。
【0016】
このようなリバースギヤ20において、前進時は、フォワードクラッチ27によりサンギヤ22とリングギヤ24が結合されるため、インプットシャフト21から入力される回転はサンギヤ22を介してリングギヤ24に伝達され、図5(a)に示すように、サンギヤ22、キャリア26、リングギヤ24が一体となって回転し、リングギヤ24に繋がるアウトプットシャフト25は、インプットシャフト21と同じ方向に回転する。
【0017】
また、後退時は、フォワードクラッチ27が解除された状態でリバースクラッチ28が作動してキャリア26が固定され、このため、ピニオンギヤ23のピニオン軸23jも固定される。このため、インプットシャフト21から入力される回転は、図5(b)に示すように、ピニオンギヤ23をピニオン軸23j周りに自転させ、このピニオンギヤ23の回転がリングギヤ24に伝達されてリングギヤ24を逆回転させる。このため、リングギヤ23に繋がるアウトプットシャフト25も逆回転する。
【0018】
本発明に係る検査装置1は、以上のようなリバースギヤ20のキャリア26を固定することでリバース状態にセットし、そのリバース状態でリバースギヤ20から発生するギヤノイズ等を検査するようにしたものであり、以下、図1乃至図3に基づいて本装置の構成を説明する。
【0019】
図1に示すように、本検査装置1は、回転駆動源としての回転駆動用モータ2と、走行負荷の代わりとなるブレーキ機構3からなる駆動手段を備えており、この駆動手段の周囲は、防音壁4で囲まれて構成されている。
【0020】
そして、前記駆動用モータ2のモータ軸には、回転シャフト5が連結され、この回転シャフト5の先端は、防音壁4の外部に向けて延出するとともに、外部に露出した回転シャフト5の部分がリバースギヤ20を嵌着せしめることのできる嵌着部5kとされ、この嵌着部5kには、リバースギヤ20の構成ギヤであるサンギヤ22のセレーション部に嵌合可能なセレーション部s(図2)が形成されている。
【0021】
また、リバースギヤ20のサンギヤ22を嵌着部5kのセレーション部sに嵌合させると、リングギヤ24の一部が、回転シャフト5に対して回転自在に支持される出力シャフト6に結合され、リングギヤ24の回転を出力シャフト6に伝達できるようにされている。
【0022】
また、この出力シャフト6の隣には、回転シャフト5や出力シャフト6の軸方向と平行な被動軸7が回転自在に設けられており、この被動軸7と出力シャフト6との間には、出力シャフト6の回転を被動軸7に伝達するためのベルトとプーリーからなる巻掛け伝動機構8が設けられている。
【0023】
そして、前記ブレーキ機構3は、この被動軸7の回転に負荷をかけることができるようにされ、また、この被動軸7には、トルクメータ10を取り付けている。
【0024】
また、防音壁4から外部に露出する回転シャフト5の周囲には、図2、図3に示すような状態設定部材としてのギヤホルダ11が回転シャフト5を取り囲むように防音壁4に固着され、リバースギヤ20のサンギヤ22を回転シャフト5の嵌着部5kに嵌合させると、このギヤホルダ11の内周部に設けた凹凸部が、キャリア26の外周部の凹凸部に噛合することにより、キャリア26の回転を阻止した状態になるようにしている。
【0025】
すなわち、このギヤホルダ11は、実機のリバースクラッチ28が作動したのと同じ状態を作り出すことができるようにされている。
【0026】
なお、回転シャフト5の嵌着部5kの先端部分には、リバースギヤ20が装着された後、不図示のナット部材を螺合させてリバースギヤ20が抜け出さないようにするためのネジ部n(図2)が形成されている。
【0027】
また、ギヤホルダ11の外周部には、図1に示すような振動検出センサ12を設けるとともに、ギヤホルダ11の近傍には、異音を検知する集音マイク13を設けている。
【0028】
なお、図1に示すように、回転駆動用モータ2には、回転力等を制御するためのコントローラ14を接続している。
【0029】
以上のような検査装置において、検査すべきリバースギヤ20を回転シャフト5の嵌着部5kに取り付け、回転駆動用モータ2を作動させると、出力シャフト6はリバース方向に回転する。そしてこの回転が、被動軸7に伝達されると、ブレーキ機構3によって回転に負荷がかかり、実走行に近い状態でリバースギヤ20の異音と振動を検査することができる。この際、不具合が発生するとリバースギヤ20を目視で確認できるため、不具合箇所の特定等が容易であり、また、駆動手段が防音壁で囲まれているため、正確にリバースギヤ20に起因する異音を検査することができる。
【0030】
また、実機の一部を治具化することにより、被検査体が軽量となって取り扱いが容易になり、装置への取付け・取外しが簡単で迅速に検査することができる。また、実機に近い状態を再現して検査できるため、実機のトラブルを減少させることができる。
【0031】
なお本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一であり、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、防音壁4は、回転駆動用モータ2側とブレーキ機構3側と別々の防音壁で囲むようにしてもよく、また、被検査体としてのギヤアッセンブルはリバースギヤ20に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
ギヤアッセンブリを実機に近い状態で目視しながら検査できるため、特に、自動車の変速機のリバースギヤのギヤノイズ等の検査に好適である。
【符号の説明】
【0033】
1…検査装置、2…回転駆動用モータ、3…ブレーキ機構、4…防音壁、5…回転シャフト、5k…嵌着部、11…ギヤホルダ(状態設定部材)、12…振動検出センサ、13…集音マイク、20…リバースギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤアッセンブリのギヤの噛合状態を特定の状態にセットしてギヤノイズや振動の発生を検査するようにしたギヤノイズ等の検査装置であって、前記ギヤアッセンブリが嵌着可能な回転シャフトを駆動するための駆動源や、前記回転シャフトの回転に負荷をかけることのできるブレーキ機構からなる駆動手段を設け、この駆動手段の周囲を防音壁で覆って該駆動手段から発生する音を遮断するようにし、前記回転シャフトに対して前記ギヤアッセンブリを嵌着する嵌着部を、前記防音壁の外部に露出させるとともに、この外部に露出した回転シャフトの周囲に、ギヤアッセンブリのギヤの噛合状態を特定の状態にセットするための状態設定部材を設け、ギヤアッセンブリを防音壁の外部に出した状態で検査できるようにしたことを特徴とするギヤノイズ等の検査装置。
【請求項2】
前記ギヤアッセンブリは、車両用変速機のリバースギヤであることを特徴とする請求項1に記載のギヤノイズ等の検査装置。
【請求項3】
前記状態設定部材は、前記リバースギヤをリバース状態にするためのものであることを特徴とする請求項2に記載のギヤノイズ等の検査装置。
【請求項4】
前記状態設定部材の外周部には、前記ギヤアッセンブリの振動を検出するためのセンサが設けられ、またその近傍には、ギヤアッセンブリから生じるギヤノイズを集音するためのマイクが設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のギヤノイズ等の検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−93209(P2012−93209A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240446(P2010−240446)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】