説明

ギヤ強制力計測方法、及び、ギヤ強制力計測装置

【課題】或る特定のギヤについて、トランスミッションに実装した状態を再現し、前記特定のギヤの挙動、特に、ギヤ強制力を解析することにより、トランスミッションの騒音対策に対する新規なアプローチを提案する。
【解決手段】トランスミッション1について、ギヤ強制力の解析対象となる特定のギヤ2と、前記特定のギヤ2に噛合する被噛合ギヤ3からなるギヤ仕組4を、テストボックス5内にて再現し、前記特定のギヤ2はリング状の分力計6・6を介して前記テストボックス5にて支持されることとし、前記分力計6・6にて前記特定のギヤ2に生じるギヤ強制力を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のトランスミッション等に内装されるギヤにかかる荷重やモーメントといったギヤ強制力を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のトランスミッション等にて発生する騒音の解析には、例えば、図6に示すごとくの構成により行うものがあり、この例では、トランスミッション51に入力軸52と出力軸53・53を結合し、入力軸52にはエンジン相当の回転をトランスミッション内に与え、出力軸53・53には車輪相当の負荷を与えた状況とし、前記入力軸52又は出力軸53・53のいずれか一方の回転数を回転検出器54にて検出するとともに、トランスミッション51の近傍にマイク55を設置して音圧を検出し、前記回転数と音圧を電子制御装置56にてFFT処理(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換処理)して解析を行うものが知られている。
【0003】
一方、図7に示すごとく、上述のトランスミッションの騒音には、ギヤ強制力、ギヤトレーン伝達感度、トランスミッションケースの伝達感度、といったことが関連するものと考えられている。尚、ギヤ強制力とは、静止状態におけるギヤの噛み合いにて発生する荷重と、回転状態において噛合が開始・開放される際に発生する荷重にて評価される値である。
【0004】
このため、図6に示されるような、トランスミッションケース全体から発生される音圧を取り込むような形態では、振動発生源や、振動伝達経路の特定が困難である、つまり、ギヤ強制力、ギヤトレーン・ケース伝達感度のうちのどの要因が影響しているのかを特定することができないものである。
【0005】
このことから、従来のトランスミッションの騒音評価においては、トランスミッションのユニット単位で合否の判定を行うしかなく、不合格の場合の要因を解析できないものであった。
例えば、トランスミッションケースからの騒音の悪化の主要因がギヤ強制力であるのかを判別することができず、効果的な騒音対策(振動対策)を打つことができないのである。
【0006】
他方、互いに噛合するギヤの噛み合い音をマイクロフォンにて直接的に取り込むことで騒音の解析を試みる技術も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
ところが、特許文献1に開示されるような解析方法の場合では、トランスミッションへの実装状態を再現せずに解析を試みるため、解析対象となるギヤをトランスミッションに実装した状態での挙動については判断できないものである。
【特許文献1】特開2004−212127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、上記の問題に鑑み、或る特定のギヤについて、トランスミッションに実装した状態を再現し、前記特定のギヤの挙動、特に、ギヤ強制力を解析することにより、トランスミッションの騒音対策に対する新規なアプローチを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、トランスミッション内に実装される複数のギヤのうち、ギヤ強制力の解析対象となる特定のギヤと、前記特定のギヤに噛合する被噛合ギヤからなるギヤ仕組を、テストボックス内に構成し、前記特定のギヤはリング状の分力計を介して前記テストボックスにて支持されることとし、前記分力計にて前記特定のギヤに生じるギヤ強制力を計測する、ギヤ強制力計測方法とするものである。
【0010】
また、請求項2においては、前記テストボックス内のギヤ仕組におけるギヤの配置は、前記トランスミッションにおけるギヤの配置と同一とされるものである。
【0011】
また、請求項3においては、前記分力計では、前記特定のギヤに複数方向に生じる荷重、及び/又は、モーメントが計測されることとするものである。
【0012】
また、請求項4においては、
ギヤ強制力の解析対象となる特定のギヤを固定するためのシャフトと、
前記シャフトを回転自在に軸支する軸受を内輪で支えるリング状の分力計と、
前記特定のギヤと噛合してギヤ仕組を構成する被噛合ギヤと、
前記被噛合ギヤを固定するためのシャフトと、
前記特定のギヤ、前記分力計、前記被噛合ギヤ、前記各シャフトを内装するテストボックスと、を具備する、ギヤ強制力計測装置とするものである。
【0013】
また、請求項5においては、
前記分力計では、前記特定のギヤに複数方向に生じる荷重、及び/又は、モーメントが計測されることとするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、特定のギヤのみを解析対象としてギヤ強制力を評価することができる。
【0016】
また、請求項2においては、解析対象となる或る特定のギヤについて、トランスミッションに実装した状態が再現され、実装状態におけるギヤ強制力を評価することができる。
【0017】
また、請求項3においては、このギヤ強制力を複数方向の各成分において独立に評価できる。
【0018】
また、請求項4においては、特定のギヤのみを解析対象としてギヤ強制力を評価することができる。
【0019】
また、請求項5においては、このギヤ強制力を複数方向の各成分において独立に評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本実施例は、図1及び図2に示すごとく、トランスミッション1について、ギヤ強制力の解析対象となる特定のギヤ2と、前記特定のギヤ2に噛合する被噛合ギヤ3からなるギヤ仕組4を、テストボックス5内にて再現し、前記特定のギヤ2はリング状の分力計6・6を介して前記テストボックス5にて支持されることとし、前記分力計6・6にて前記特定のギヤ2に生じるギヤ強制力を計測することとするものである。
【0021】
以上のようにしてギヤ強制力を計測することにより、特定のギヤ2のみを解析対象としてギヤ強制力を評価することができる。そして、これにより、振動・騒音評価につき、他の要因、例えば、トランスミッションケースの構造や、その内部での振動伝達経路等といった振動・騒音に関連する要因を排除して、特定のギヤ2のギヤ強制力に着目したアプローチを行うことが可能となる。
【0022】
以下詳述すると、図1に示すごとく、トランスミッション1のケース10内には、ギヤ仕組、シャフト類、ブレーキ仕組、差動装置、等といった複数の機械構造が複雑に配置されるものであり、このような複数の機械構造がある中で、本実施例においては、ギヤ強制力の解析対象となるギヤ2を特定して、このギヤ2についての挙動の解析を試みるものである。
【0023】
また、図1に示すごとく、解析対象となる特定のギヤ2には被噛合ギヤ3が直接的に噛合しており、このような直接噛合する被噛合ギヤ3と、前記特定のギヤ2からなるギヤ仕組4が選択され、図2に示すごとく、このギヤ仕組4がテストボックス5内にて再現される。
このように、解析対象となる或る特定のギヤ2について、トランスミッションに実装した状態を再現するものである。
【0024】
また、図2に示すごとく、前記テストボックス5には、前記ギヤ仕組4を支持するためだけに必要な機械要素のみが設置されるものであり、例えば、前記特定のギヤ2、及び、被噛合ギヤ3のシャフト12・13、及び、それらを支持する軸受14・14・・・が、ギヤ仕組4を支持するためにテストボックス5に設置される。
【0025】
また、図2に示すごとく、前記シャフト12・13の配置は、トランスミッションに実装された場合のギヤ2・3の配置を再現すべく設定される。これにより、前記テストボックス5内におけるギヤ仕組4におけるギヤの配置は、前記トランスミッションにおけるギヤの配置と同一とされるものである。
【0026】
また、前記特定のギヤ2が固定されるシャフト12については、回転力を入力するための入力軸15と接続され、前記被噛合ギヤ3が固定されるシャフト13については、回転力を出力するための出力軸16と接続される。前記入力軸15には、駆動モータ等の駆動装置45(図4参照)から回転動力が入力され、前記出力軸16には、吸収モータ等の負荷装置45(図4参照)が接続され、これにより、前記ギヤ仕組4に対して一定の負荷を与えつつ、前記ギヤ仕組4を回転駆動することを可能としている。
【0027】
また、前記特定のギヤ2を支持するシャフト12については、軸受14・14、及び、リング状の分力計6・6を介してテストボックス5に支持されるものとしている。
この分力計6・6は、図3に示すごとく、同軸上に配置される外輪21、内輪22の二つの輪と、これら二つの輪21・22の間に所定の間隔を設けつつ、複数箇所において二つの輪21・22を連結させる歪ゲージ23・23・・・を有する構成とするものであり、前記内輪22で受けた荷重が前記歪ゲージ23・23・・・にて受け止められ、この歪ゲージ23・23・・・の歪具合から荷重の大きさが検出される構成としている。
【0028】
本実施例においては、前記歪ゲージ23・23・・・の配置は、y軸を中心とする回転方向力Myの他、半径方向力Fx・Fzと、軸方向力Fyをそれぞれ分離して計測できるように設計されるものとしている。つまり、ギヤ強制力の各方向の成分を分離して計測できるように設計されるものである。この構成により、例えば、斜歯歯車のように、軸方向に引き合う・離れ合う方向に比較的大きな荷重が発生するものについても、効果的に評価することができるようになる。
【0029】
また、図2に示すごとく、本実施例では、分力計6・6につき、前記内輪22の内周面にて、前記軸受14の外周面が支持されることとなり、また、前記外輪21が前記テストボックス5にて支持されることとなっている。
尚、本実施例では、図3に示すごとく、分力計6・6による荷重の検出成分について、y軸についての回転方向力Myのみを含む合計4方向を検出するものとしたが、x軸・z軸についての回転方向力をも検出可能とする6方向の分力計に構成することとしてもよい。
【0030】
また、図2に示すごとく、前記テストボックス5は、剛性の高い構造を実現することとて、前記分力計6・6の外輪21を、ギヤ仕組4の駆動の際に生じる振動によって振動することなく、安定して確実に支持できるようにしている。そして、これにより、前記分力計6・6の内輪22にて受け止める荷重(ギヤ強制力)を正確に計測することが可能となっている。
【0031】
また、図4は、前記分力計6にて測定されるギヤ強制力の解析に関連する装置の構成について示すブロック図であり、前記テストボックス5に設置される分力計6の出力は、増幅器41に入力される。ここで、分力計6からは、荷重成分(Fx・Fy・Fz)、及び、モーメント成分(My)がそれぞれ独立して出力されることとしており、この各成分がそれぞれ増幅器41によって増幅される。
【0032】
また、図4に示すごとく、前記増幅器41によって増幅された荷重やモーメントの結果は、周波数処理装置42に入力される。また、この周波数処理装置42には、前記負荷装置45における回転数、即ち、図2に示すところの被噛合ギヤ3の回転数を検出する回転数センサ46から信号が入力される。
【0033】
そして、前記周波数処理装置42では、信号処理装置42の処理結果と、回転数センサ46にて検出される回転数に基づいて、FFT処理(高速フーリエ変換処理)が行われるようになっている。このFFT処理により、前記特定のギヤ2と被噛合ギヤ3の噛合いに起因するギヤ強制力の荷重成分、及び、モーメント成分を取得できる。また、このFFT処理の結果は、パソコン等の演算装置43へと出力され、FFT処理の結果を様様な解析用のデータとして利用できることとしている。
【0034】
以上のようにして、解析対象となる特定のギヤ2についてのギヤ強制力の荷重成分、及び、モーメント成分を取得することができる。
そして、取得したこの解析結果を、特定のギヤ2の設計等(例えば、歯の形状)の変更の指針や、ギヤ仕組4全体の設計変更の指針として用いるなどして、低騒音化を図ることができる。
【0035】
例えば、図5に示すごとく、本実施例では(a)のように或る周波数についてのギヤ強制力を比較して、設計の良否を判定することができる。例えば、曲線L1を呈する設計と比較して曲線L2を呈する設計の方がギヤ強制力が小さいので、曲線L2を呈する設計を採用するといったことが可能となる。尚、本実施例の場合、このギヤ強制力を4方向の各成分において独立に評価でき、また、前記分力計6には共振点が存在するため、この共振点に対応する周波数において評価することによれば、ギヤ強制力の大小の差を確実に検出することができる。
他方、従来では、図5(b)にするように、ケース放射音について出荷規格線に対する評価をする場合では、放射音の発生源の特定・解析ができないものである。
【0036】
また、本実施例による構成では、図2に示すごとく、解析対象となる特定のギヤ2は、テストボックス5に対し、シャフト12、軸受14及び分力計6を介して支持される構成としていることから、振動発生源となり得るギヤ2からトランスミッションのケースに伝達される振動成分を、この伝達経路にある分力計6によって直接的に検出する、つまりは、ケースに伝達される前に検出し、解析することができるので、信頼性の高い解析を行うことができることになる。
【0037】
さらに、解析対象となる特定のギヤ2と直接噛合する被噛合ギヤ3のみからギヤ仕組4を構成し、このギヤ仕組4、及び、前記ギヤ仕組4を支持するためだけに必要な機械要素のみがテストボックス5内に設置されることとなっているため、前記特定のギヤ2のギヤ強制力に直接的に影響しない要素を排除した構成とすることができ、特定のギヤ2の挙動を精度よく、また、外乱の少ない状態で解析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】トランスミッション内の解析対象となる特定のギヤについて示す図。
【図2】解析対象となる特定のギヤをテストボックスに設置した例について示す図。
【図3】分力計の構造について示す図。
【図4】解析装置を構成する場合の装置構成の例について示す図。
【図5】(a)は本実施例によるギヤ強制力の評価の考え方について示す図、(b)は従来のケース評価音による評価の考え方について示す図。
【図6】従来のマイクによる解析方法について示す図。
【図7】ケース放射音発生までの伝達経路について説明する図。
【符号の説明】
【0039】
1 トランスミッション
2 解析対象となる特定のギヤ
3 被噛合ギヤ
4 ギヤ仕組
5 テストボックス
6 分力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッション内に実装される複数のギヤのうち、ギヤ強制力の解析対象となる特定のギヤと、前記特定のギヤに噛合する被噛合ギヤからなるギヤ仕組を、テストボックス内に構成し、前記特定のギヤはリング状の分力計を介して前記テストボックスにて支持されることとし、前記分力計にて前記特定のギヤに生じるギヤ強制力を計測する、ギヤ強制力計測方法。
【請求項2】
前記テストボックス内のギヤ仕組におけるギヤの配置は、前記トランスミッションにおけるギヤの配置と同一とされる、ことを特徴とする請求項1に記載のギヤ強制力計測方法。
【請求項3】
前記分力計では、前記特定のギヤに複数方向に生じる荷重、及び/又は、モーメントが計測される、ことを特徴とする請求項1、又は、請求項2に記載のギヤ強制力計測方法。
【請求項4】
ギヤ強制力の解析対象となる特定のギヤを固定するためのシャフトと、
前記シャフトを回転自在に軸支する軸受を支えるリング状の分力計と、
前記特定のギヤと噛合してギヤ仕組を構成する被噛合ギヤと、
前記被噛合ギヤを固定するためのシャフトと、
前記特定のギヤ、前記分力計、前記被噛合ギヤ、前記各シャフトを内装するテストボックスと、
を具備する、ギヤ強制力計測装置。
【請求項5】
前記分力計では、前記特定のギヤに複数方向に生じる荷重、及び/又は、モーメントが計測される、ことを特徴とする請求項4に記載のギヤ強制力計測装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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