説明

ギヤ油添加剤

ギヤ油および膜形成剤を含むギヤ油配合物が開示されている。膜形成剤は、ポリマーエステルを含み、これは少なくとも1種の多官能性アルコール、ダイマー脂肪酸、場合による5〜18個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸および、ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる1種もしくは2種以上の成分、の反応生成物であり、結果として生じるポリマーエステルは、100℃で、400〜5000mm/sの範囲の動的粘度および5000〜20000の範囲の重量平均分子量を有している。自動車用ギヤ油配合物として用いられる場合には、API GL-4ギヤ油の仕様が少なくとも満足される。平、はすば、傘、ウォームおよびハイポイド歯車の潤滑に好適な、手動変速装置、トランスファケースおよび差動装置でのギヤ油配合物の使用および工業用歯車におけるギヤ油配合物の使用が開示されている。また、潤滑の方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ油および膜形成剤を含むギヤ油配合物に関する。自動車用ギヤ油配合物として用いられる場合には、API GL-4ギヤ油の仕様が少なくとも満足される。手動変速装置、トランスファケースおよび作動歯車でのギヤ油配合物の使用、ならびに平歯車、はすば歯車、傘歯車、ウォーム歯車およびハイポイド歯車の潤滑に好適な工業用ギヤでのギヤ油配合物の使用、が開示されている。また、潤滑の方法も開示されている。
【背景技術】
【0002】
ギヤ油への経済的な、そして環境上の要求は、そのような組成物は、それらの性能限界へと常に駆り立てられていることを意味している。従って、基流体(base fluid)および添加剤パッケージの組み合わせの選択は、極めて重大である。
【0003】
自動車用ギヤ油では、そのような動向の1つは、オイル交換間隔の延長に向かっており、従って、酸化へのより大きな抵抗力を有するギヤ油配合物を開発することが必要である。酸化剤技術が酸化への抵抗の幾らかを担うことができるが、しかしながら基流体および他の添加剤の選択と設計もまた、酸化安定度に利益を与えることができることが認識されている。また、オイル交換間隔の延長は、ギヤ油が、早過ぎる流体損失を防ぐために低揮発性を有しなければならないことを意味している。
【0004】
また、自動車用潤滑油は、その適正な粘度を維持し、かつせん断低下(shear-down)に耐えなければならない。ギヤ油、特に長寿命のギヤ油および手動変速装置潤滑油は、強大なせん断力を経験する。
【0005】
これらの特性要求は、既に合成基流体、特にはポリアルファオレフィン(PAO)基流体の増大した使用をもたらしてきている。これらの基流体は、鉱物油が配合された基流体と比較して、付加された磨耗保護、より良好な熱的そして酸化安定性および、ずっと低減された揮発性を与えることが示されている。例としては、PAO2、PAO4、PAO6およびPAO8のそれら自体(典型的には、100℃で、それぞれ2、4、6および8mms−1の動的粘度を有している)、またはそれらを混合物、ならびに少量のより高いPAO、例えばPAO40およびPAO100を備えたそれら、が挙げられる。
【0006】
より高い分子量のPAO、例えばPAO40、PAO100、PAO1000、PAO3000およびこれらのPAOの組み合わせは、上記のPAO基流体と組み合わせて潤滑剤として使用され、それらはギヤの可動部分上に薄膜のコーティングを形成する。しかしながら、これらのより高い分子量のPAOは、製造するのに費用が掛かり、そして現在は、これらの材料の商業的供給源は制限されている。
【0007】
多くのギヤでは、自動車用と工業用の両方で、心配の種はギヤ歯のマイクロピッチングである。マイクロピッチングは、周期的接触応力よって引き起こされるヘルツ接触およびアスペリティスケール(asperity scale)上の塑性流動、において発生する表面疲労である。それは弾性流体潤滑(EHL)油膜の下で発生し、その膜厚は、複合材表面粗さと同じ水準であり、そして荷重は表面凹凸(asperities)と潤滑油によって支えられる。荷重の有意な割合が凹凸によって支えられる場合には、対向する表面上の凹凸間の衝突が、局部的な荷重に応じた弾性もしくは塑性変形を生じさせる。マイクロピッチングは、ギヤ歯の精度への損傷であり、場合によっては主たるギア破損の形態であり得ると認識されている。このことは、風車ギヤ(windmill gear)ボックスの問題点として特に認められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らによって行なわれた研究によって、自動車用と工業用の両方のギヤ油配合物中で膜形成剤として用いるのに好適であるポリマーエステル(また、複合エステルとしても知られている)を確認するに至った。本発明の膜形成剤は、既知のPAO添加剤と比べて、低速において良好な膜厚の被度を与え、優れた潤滑性を有しており、そして向上したせん断安定性を有していることが見出された。更に、本発明の膜形成剤は、既知のPAO添加剤の幾つかと比べて、ギヤ油の粘度指数に向上した誇り(boast)を与える。また、この膜形成剤は、ギヤ油配合物に有益な酸化安定性を与える。このギヤ油配合物は、既知のPAO添加剤と比べて、向上した低温特性を有している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ギヤ油配合物は、ギヤ油ならびに、下記(a)〜(d)の反応生成物であるポリマーエステルを含む膜形成剤を含んでおり
(a)少なくとも1種の多官能性アルコール、
(b)ダイマー脂肪酸、
(c)場合による5〜18個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、および
(d)該ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる1種もしくは2種以上の成分、
結果として生じる該ポリマーエステルが100℃で400〜5000mm/sの動的粘度および5000〜20000の範囲の重量平均分子量を有している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ギヤ油>
ギヤ油は、自動車用または工業用ギヤ油のいずれであってもよい。自動車用ギヤ油としては、手動変速装置、トランスファケースおよび作動歯車における使用に好適なものが挙げられ、それらはすべて典型的にはハイポイド歯車を用いている。トランスファケースとは、四輪駆動で見られる四輪駆動方式、および全ての駆動方式の構成要素を意味している。トランスファケースは変速装置と、そしてまたドライブシャフトによって前および後車軸に連結されている。また、トランスファケースは、文献中では変速ギヤケース、変速ギヤボックス、変速ボックスまたはジョッキーボックス(jockey box)とも称されている。工業用ギヤ油としては、平歯車、はすば歯車、傘歯車、ハイポイド歯車およびウォーム歯車への使用に好適なものが挙げられる。特には、通常ははすば歯車を有する風車ギヤボックスでの使用のために好適なものが挙げられる。
【0011】
自動車用ギヤ油は、通常はSAE50〜SAE250の範囲、そしてより好ましくはSAE70W〜SAE140の範囲の粘度を有している。また、好適な自動車用基油としては、横断品種、例えば75W−140、80W−90、85W−140、85W−90などが挙げられる。自動車用ギヤ油は、アメリカ石油協会(API)によってGL等級を用いて分類されている。API分類は、全てのトランスミッションオイルを以下のような6つの分類に再分している。
【0012】
・API GL−1:軽負荷条件用オイル
これらは、添加剤なしの基油からなっている。これらはしばしば、少量の抗酸化添加剤、腐食防止剤、降下剤および消泡用添加剤を含んでいる。API GL−1は、はすば傘歯車、ウォームギヤおよび、トラックと農業用機械の同調機器なしの手動変速装置のために設計されている。
【0013】
・API GL−2:中負荷条件用オイル
これらは、耐磨耗性添加剤を含んでおり、そしてウォームギヤ用に設計されている。トラクターおよび農業用機械変速装置の適正な潤滑用に推奨されている。
【0014】
・API GL−3:中負荷条件用オイル
2.7%以下の耐摩耗性展化剤を含んでいる。トラック変速装置の傘歯車および他の歯車の潤滑用に設計されている。ハイポイド歯車用には推奨されない。
【0015】
・API GL−4:種々の条件−軽〜重負荷用オイル
これらは、4.0%以下の有効な抗スカフィング添加剤を含んでいる。傘歯車および軸の小さなずれを有するハイポイド歯車用、トラックのギヤボックス用、および車軸ユニット用に設計されている。USトラック、トラクターおよびバスの非同調型ギヤボックス用、および全ての車両の主要なもしくは他のギヤ用に推奨される。これらのオイルは、同調型ギヤボックス用として、特に欧州では基本的なものである。
【0016】
・API GL−5:苛酷な負荷条件用オイル
これらは6.5%以下の有効な抗スカフィング添加剤を含んでいる。この分類のオイルの一般的な用途は、軸の有意なずれを有するハイポイドギヤ用である。これらは、機械式伝導装置(ギヤボックス以外の)の全ての他のユニットへの普遍的なオイルとして推奨される。この分類のオイルは、車両製造業者の特別な認証を有しており、同調型の手動ギヤボックスのみに用いることができる。API GL−5オイルは、それらがMIL−L−2105DもしくはZP TE−ML−05の仕様の要件に合致するのであれば、差動制限装置に用いることができる。この場合には、分類の名称は別のものであり、例えばAPI GL−5+またはAPI GL−5 LSとなる。
【0017】
・API GL−6:非常に苛酷な条件用オイル(高速の滑動および大きな衝撃荷重)
これらは、10%以下の高性能抗スカフィング添加剤を含んでいる。これらは、軸の有意なずれを備えたハイポイド歯車用に設計されている。分類API GL−6は、分類API GL−5が最も苛酷な要件に十分に合致すると考えられる場合には、もはや適用されることはない。
【0018】
最も近代的なギヤボックスは、GL−4オイルを必要とし、そして単独の差動歯車(固定されている)はGL−5オイルを必要とする。
【0019】
工業用ギヤ油仕様は、北アメリカではアメリカ歯車製造業者協会(AGMA)、または個々の製造者自身によって主に管理されている。アメリカの工業用ギヤ油の典型的な仕様が、下記の表1に示されている。
【0020】
【表1】

【0021】
欧州、ならびに世界の残りの大部分では、工業用ギヤ油の仕様は、典型的にはドイツ工業規格(DIN)によって書かれている。
本発明の組成物が用いられるギヤ油は、潤滑油が、ギヤ油の用途にける使用に好適な粘度を有している限り、天然もしくは合成油、またはそれらの混合物を基にすることができる。このような用途のためのギヤ油は、鉱物油基原料油、例えば慣用の、そして溶剤精製化パラフィンニュートラルおよびブライトストック、水素処理パラフィンニュートラルおよびブライトストック、ナフテン油、シリンダー油などがあり、直留および混合油が挙げられる。また、合成基原料油も本発明の実施において用いることができ、例えばPAO、アルキル化芳香族、ポリブテン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリグリコール、ポリフェニルエーテルなど、およびそれらの混合物がある。また、PAOおよびエステルが、鉱物油と混合されて半合成品を形成することが知られている。合成基原料油、特にPAOまたはPAOを主たる成分とする混合物を有する基原料油が好ましい。
【0022】
<少なくとも1種の多官能性アルコール>
この少なくとも1種の多官能性アルコールは、ポリオールである。ポリオールは、好ましくはR(OH)の式を有しており、nは2〜10の範囲の整数、そしてRは、分岐もしくは直鎖のいずれでもよく、より好ましくは分岐している、2〜15個の炭素原子の炭化水素鎖である。このポリオールは、好適には低分子量、好ましくは50〜650、より好ましくは60〜150、そして特には60〜100の範囲である。好適なポリオールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンのジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびそのダイマー、ペンタエリスリトールおよびそのダイマー、グリセロール、イノシトールおよびソルビトールが挙げられる。好ましくは、ポリオールはネオペンチルポリオールである。ネオペンチルポリオールの好ましい例としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトールがある。好ましくは、このネオペンチルポリオールは、少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも70質量%、更に好ましくは少なくとも90%のネオペンチルグリコールを含んでいる。
【0023】
<ダイマー脂肪酸>
用語ダイマー脂肪酸は、当技術分野でよく知られており、一価もしくは多価不飽和脂肪酸および/またはそのエステルの二量化生成物を指している。好ましいダイマー脂肪酸は、C10〜C30、より好ましくはC12〜C24、更にはC14〜C22、特にはC18アルキル鎖のダイマーである。好適なダイマー脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミトレイン酸、およびエライジン酸、特に好ましくはオレイン酸、の二量化生成品が挙げられる。天然油脂、例えばヒマワリ油、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、綿実油およびトール油の加水分解で得られる不飽和脂肪酸混合物の二量化生成品もまた用いることができる。これらのダイマー脂肪酸は、ASTM D1959−85と同等の試験法に従って測定して、典型的には少なくとも100のヨウ素価を有している。例えば、ニッケル、白金またはパラジウム触媒を用いることによって水素添加したダイマー脂肪酸もまた用いることができる。これらの水素添加ダイマー脂肪酸は、25未満、好ましくは20未満、より好ましくは15未満、特には10未満のヨウ素価を有している。
【0024】
水素添加ダイマー酸は、本発明における使用に特に好ましい。
【0025】
ダイマー脂肪酸に加えて、二量化は、通常は様々な量のオリゴマー脂肪酸(「トリマー」と称される)をもたらし、そして単量体脂肪酸の残渣(「モノマー」と称される)、またはそれらのエステルが存在する。モノマーおよびとリマーの量は、例えば蒸留によって減少させることができる。本発明で用いられる特に好ましいダイマー脂肪酸は、50質量%超、より好ましくは70質量%超、更には85質量%超、そして特には90質量%超のダイマー含量を有している。トリマー含量は、好ましくは50質量%未満、より好ましくは1〜20質量%、更には2〜10質量%、そして特には3〜6質量%の範囲である。モノマー含量は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは0.1〜3質量%、更には0.3〜2質量%、そして特には0.5〜1質量%の範囲である。
【0026】
ポリマーエステルは、いくらかの極性を有することが望ましい一方で、極性が高過ぎると、望ましくない効果、例えば封止材の膨潤および/または高過ぎる表面親和性をもたらし、それが、ギヤ油配合物中に共に存在している無機の耐摩耗性添加剤と相反する相互作用を引き起こす可能性があることが認識されている。非極性指数、NPIは、極性を評価するための1つの方法であり、下記のように定義される。
【0027】
【数1】

【0028】
膜形成剤のNPIは、1000〜4000の範囲、好ましくは1500〜3000の範囲である。
【0029】
<場合による脂肪族ジカルボン酸>
脂肪族ジカルボン酸を、ポリマーエステルの極性を最適化するために用いることができる。好適な脂肪族ジカルボン酸の例としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカ二酸、テトラデカ二酸、ペンタデカ二酸、ヘキサデカ二酸およびそれらの混合物が挙げられる。この脂肪族ジカルボン酸は、好ましくは7〜16個の炭素原子、より好ましくは8〜14個の炭素原子を有している。この脂肪族ジカルボン酸は、好ましくは直鎖である。アゼライン酸、セバシン酸およびドデカ二酸は特に好ましい。アゼライン酸はとりわけ好ましい。
【0030】
<ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる1種もしくは2種以上の成分>
このような成分の例としては、5〜24個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸または5〜24個の炭素原子を有する脂肪族単官能アルコールが挙げられる。一酸またはモノアルコールは、多官能性アルコールとダイマー脂肪酸との間の反応後に未反応のままで残っているOHもしくはCOOH基のいずれかと反応する。脂肪族モノカルボン酸の例としては、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸およびリグノセリン酸およびそれらの混合物の、飽和で直鎖の酸が挙げられる。また、例としては、前記の飽和で、直鎖の酸の不飽和および/または分岐した変異体も挙げられる。脂肪族モノカルボン酸は、好ましくは7〜20個の炭素原子、より好ましくは8〜18個の炭素原子を有している。脂肪族モノカルボン酸は、分岐していても、または直鎖でもよく、そして好ましくは飽和している。特に好ましい一塩基酸は、オクタン酸とデカン酸の混合物、およびイソステアリン酸である。
【0031】
脂肪族単官能性アルコールの例としては、ペンタノール、ヘキサノール、ペプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ペンタデカノール、オクタデカノール、およびそれらの混合物が挙げられる。また、開示した飽和、直鎖の酸の不飽和および/または分岐した変異体も挙げられる。脂肪族単官能性アルコールは、好ましくは7〜16個の炭素原子、より好ましくは8〜14個の炭素原子を有している。脂肪族単官能性アルコールは、分岐していても、または直鎖でもよく、そして好ましくは飽和している。2−エチルへキサノールが特に好ましい。
【0032】
このような成分の更なる例としては、酸捕捉剤、例えばグリシジルエステルがある。
【0033】
1種もしくは2種以上の更なる成分を、a)とb)および所望よるc)と同時に、またはa)とb)および所望によるc)の反応が完結した後に、反応混合物に加えることができる。
【0034】
好ましくは、酸価は、1mgKOH/g未満、より好ましくは0.5mgKOH/g未満、そして特には0.2mgKOH/g未満に低下される。
【0035】
結果として得られるポリマーエステルは、100℃で、400〜5000、好ましくは500〜3000、より好ましくは500〜2500、特には500〜2200mm/sの動的粘度を有している。
【0036】
ポリマーエステルは、5000〜20000の範囲の重量平均分子量を有している。5000未満の重量平均分子量は、膜形成剤が信頼性高く膜を形成する能力の点で、適切ではないと思われる。20000超の重量平均分子量を備えたポリマーエステルは、このような高い分子量は、望まれるせん断安定性を有しないと信じられるので、本発明の要求に合致するには不適切であると思われる。ポリマーエステルは、好ましくは、5000〜18000、より好ましくは5000〜17000、そして特には5000〜15000の範囲の重量平均分子量を有している。ポリマーエステルが高分子量(典型的には13000超)を有している場合には、ポリマーエステルがギヤ油中に完全に可溶となることを確実にするために、低分子量エステル、例えばジエステルまたはポリオールエステルを、ギヤ油配合物に加える必要がある可能性がある。このような共溶媒の好適な例としては、Croda Europe Ltd.から入手可能なPriolube(商標)3970がある。低分子量エステルの投与率は、ポリマーエステルが完全に可溶であると同時に、エステルの全体の極性が、上記に詳述したような望ましくない効果をもたらさないように選択される。
【0037】
ポリマーエステルは、好適には50未満、より好ましくは35未満、更に好ましくは25未満、更には15未満、そして特には10未満のヨウ素価を有している。ヨウ素価の分析は、ASTM D1959−85と同等の下記の試験法に従って実施された。
【0038】
好ましい膜形成剤としては、ポリオール、好ましくはネオペンチルポリオール、より好ましくはネオペンチルグリコールと、ダイマー酸、好ましくは水素添加ダイマー酸の反応生成物であり、そして次いでモノアルコール、好ましくは2−エチルヘキサノールで末端封止されたポリマーエステルが挙げられる。
【0039】
膜形成剤は、少なくとも1種の多官能性アルコールとダイマー脂肪酸との反応生成物であり、結果として得られるエステルが100℃で、20〜100mm/sの動的粘度を有する第2のエステルを、更に含むことができる。好ましくは、この第2のエステルのための多官能性アルコールとしては、ジオール、特にはエチレングリコールがある。この第2のエステルのためのダイマー脂肪酸は、水素添加されていなくても、または水素添加されていてもよい。好ましくは第2のエステルのためのダイマー脂肪酸は、水素添加されている。
【0040】
好ましくは、第2のエステルに対するポリマーエステルの比率は、5:1〜1:5、より好ましくは3:2〜2:3の範囲である。
【0041】
<ギヤ油配合物>
自動車用ギヤ油では、ギヤ油配合物は、アメリカ石油協会の分類のGL−4等級の要件を少なくとも満たしている。
【0042】
本発明のギヤ油配合物は、好ましくは、20時間に亘り、CEC L-40-A-93の修正版を用いて測定して、20%未満、より好ましくは10%未満、そして特には5%未満の、百分率での粘度損失を示す。本発明のギヤ油配合物は、好ましくは、100時間に亘り、CEC L-40-A-93の修正版を用いて測定して、25%未満、より好ましくは20%未満、そして特には15%未満の、百分率での粘度損失を示す。
【0043】
ギヤ油配合の膜厚が、ギヤ表面上の最も高い凹凸の水準よりも低下すると、それから磨耗が発生する。そのような貧弱な膜厚は、低速および/または高負荷の条件下で発生することが知られている。従って、低速における良好な膜厚の形成は、磨耗の防止において有利である。本発明の膜形成剤は、好ましくは0.04ms−1未満、より好ましくは0.025ms−1未満の速度で、5nmの膜厚を形成する。
【0044】
高振動数摩擦往復動試験(HFRR)は、磨耗評価のための選別手段であると認識されている。本ギヤ油配合物を用いた場合には、CEC F-06-A-96に従って、HFRRを用いて測定して、600μm未満、好ましくは550μm未満、より好ましくは500μm未満、そして特には450μm未満の磨耗傷が得られる。
【0045】
また、膜形成添加剤は、粘度指数向上剤として作用する。膜形成添加剤は、少なくとも40%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも65%、特には少なくとも70%のギヤ油配合物の粘度指数上昇を与える。
【0046】
本発明によるギヤ油配合物は、良好な低温特性を有している。そのような配合物の粘度は、−35℃で、120000センチポアズ(cP)未満、より好ましくは100000cP未満、特には90000cP未満である。
【0047】
表面効果のみ、例えば膜厚の増大、を得るために、膜形成剤は、好ましくは、0.3〜2質量%、好ましくは0.4〜1質量%の範囲、特には0.5質量%の水準で存在する。
【0048】
また全体的な効果、例えば酸化安定性、せん断安定性および粘度指数の上昇、を得るために、膜形成剤は、好ましくは、3〜50質量%、より好ましくは5〜35質量%、そして特には5〜25質量%の範囲で、ギヤ油配合物中に存在する。
【0049】
ギヤ油配合物は更に、酸化防止剤を、好ましくは0.2〜2質量%、より好ましくは0.4〜1質量%の範囲で含んでいてもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、アルキルジフェニルアミンおよび誘導体ならびにフェニルアルファナフチルアミンおよびその誘導体が挙げられる。特に好ましい酸化防止剤としては、Cibaから入手可能な、Irganox(商標)L57およびIrganox(商標)L06がある。酸化防止剤の存在を備えたギヤ油配合物は、CEC L-40-A-93の修正版を用いて測定して、100時間に亘って、20%未満、より好ましくは15%未満、そして特には10%未満の、百分率での粘度損失を示す。
【0050】
既知の機能性の、他の添加剤が、ギヤ油配合物中に、ギヤ油配合物の総質量の、0.01〜30%、より好ましくは0.01〜20%、更に好ましくは0.01〜10%の範囲の水準で、存在していてもよい。これらのものとしては、洗浄剤、極圧/抗磨耗添加剤、分散剤、腐食防止剤、防錆剤、摩擦調整剤、泡抑制剤、流動点降下剤、およびそれらの混合物を挙げることができる。極圧/抗磨耗添加剤としては、ZDDP、リン酸トリクレジル、リン酸アミンが挙げられる。腐食防止剤としては、サルコシン誘導体、例えば、Croda Europe Ltd.から入手可能なCrodasinic Oが挙げられる。泡抑制剤としては、シリコーンおよび有機ポリマーが挙げられる。流動点降下剤としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物との縮合生成物、ビニルカルボキシレートポリマー、フマル酸ジアルキル、脂肪酸のビニルエステルおよびアルキルビニルエーテルの三元重合体が挙げられる。無灰洗浄剤としては、カルボン酸分散剤、アミン分散剤、マンニヒ分散剤、およびポリマー分散剤が挙げられる。摩擦調整剤としては、アミド、アミンおよび多価アルコールの脂肪酸部分エステルが挙げられる。灰含有分散剤としては、酸性有機化合物の中性および塩基性アルカリ土類金属塩が挙げられる。添加剤は、単一の添加剤に2つ以上の機能性を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の更なる態様による、上記のギヤ油配合物の、機械、例えば手動変速装置、トランスファケースおよび/または差動装置における使用。
【0052】
本発明の更なる態様による、ギヤ油配合物の工業用ギヤにおける使用。
【0053】
本発明の更なる態様による、ギヤ油配合物の風車ギヤボックスにおける使用。
【0054】
更なる態様による、機械、例えば手動変速装置、トランスファケースおよび/または差動装置の潤滑方法。
【0055】
更なる態様による、工業用ギヤの潤滑方法。
【0056】
更なる態様による、ギヤ油配合物のせん断安定性、潤滑性および/または粘度指数の向上のための膜形成剤の使用。
【実施例】
【0057】
本発明は、ここに、以下の例を参照して、例示のためだけの目的で更に説明される。
【0058】
例1
せん断安定性試験を、CEC L-40-A-93に従って、より小さなポットを用いるように修正して実施した。試験条件は以下の通りである。
開始温度 60℃
1450回転/分
50kg荷重
20〜100時間の運転時間
20gの試料
表2は、PA06ギヤ油と、本発明のエステルを含むギヤ油配合物中膜形成剤の溶解剤としてのPriolube(商標)3970とを備えた75W-140ギヤ油配合物と、比較のエステルについての、20時間と100時間の両方の後の百分率での粘度損失を示している。
【0059】
【表2】

【0060】
本発明によるエステルAは、ネオペンチルグリコール(165kg)と、少なくとも95%のダイマーが存在するダイマー酸(833kg)およびC9ジカルボン酸(12.5kg)との反応生成物である。次いで、酸価を低下させるように5質量/質量%のCardura(商標)E10を加えた。このエステルは、100℃で、約1800mm/sの粘度を有していた。このエステルは、2624のNPIおよび33g/100gのヨウ素価を有していた。
【0061】
本発明によるエステルBは、ネオペンチルグリコール(167kg)と、少なくとも95%のダイマーが存在する水素添加ダイマー酸(833kg)との反応生成物である。次いで、酸価を低下させるように5質量/質量%のCardura(商標)E10を加えた。このエステルは、100℃で、約1600mm/sの粘度を有していた。このエステルは、4.3g/100gのヨウ素価を有していた。
【0062】
本発明によるエステルCは、モノエチレングリコール(>2モル)と、少なくとも65%のダイマーが存在するダイマー酸(1モル)との反応生成物である。このエステルは、100℃で、約60mm/sの粘度を有していた。
【0063】
本発明によるエステルDは、モノエチレングリコール(>2モル)と、少なくとも65%のダイマーが存在する水素添加ダイマー酸(1モル)との反応生成物である。このエステルは、100℃で、約60mm/sの粘度を有していた。
【0064】
表中の結果は、本発明による膜形成剤を含むギヤ油配合物は、20時間後により小さい粘度損失を有しており、そして従ってPAO1000もしくはPAO3000添加剤を有するギヤ油配合物よりも、よりせん断安定であることを明確に示している。従って、それらは、広範囲なせん断力が加えられることが知られているギヤ油配合物中での使用に、より好適である。更に、100時間後の結果は、本発明のギヤ油配合物は、低い粘度損失をなお維持していることを示している。
【0065】
例2
表3は、
例1と同様に本発明のポリマーエステルを含み、0.5質量%の、Cibaから入手可能なIrganox(商標)L57酸化防止剤を更に添加した、75W-140ギヤ油配合物についての、100時間後の百分率での粘度損失を示している。
【0066】
【表3】

【0067】
抗酸化剤の存在は、百分率での粘度損失を更に低減させることを理解することができる。
【0068】
例3
表4は、本発明のポリマーエステルおよび比較のエステルの、極低硫黄ジーゼル(ULSD)中の150ppm(質量/質量)溶液について測定した磨耗試験傷の大きさを示している。μmでの磨耗傷の大きさは、高振動数往復動リグ(HFRR)を用いて、EN590、CEC-O-A-96に従った試験条件下で測定した。
【0069】
【表4】

【0070】
結果は、本発明による膜形成剤を含むULSD配合物は、比較材料を含む配合物よりも、より小さい磨耗試験傷を有することを示している。
【0071】
例4
膜厚は、光干渉法の原理を用いて、PCS上で測定した。ギヤ油配合物中の荷重された球の上に位置したシリカコーティングされたガラスディスクを備えた超薄膜リグを、種々の速度について、機器に取り付ける。
温度40℃
荷重50N
速度4m/s〜0.004m/s
ギヤ油:粘度が100℃で約2.6mms-1のPAO 2
【0072】
表5は、本発明の膜形成剤を含むそれらのギヤ油配合物および比較物について、2つの特定の膜厚が形成された速度を示している。
【0073】
【表5】

【0074】
表6は、本発明による膜形成剤と比較物について、特定の低速、0.057ms−1で得られた膜厚を示している。
【0075】
【表6】

【0076】
表5および6中のデータは、ギヤ油配合物中での本発明の膜形成剤の使用は、膜厚のより迅速な形成をもたらすこと、すなわち、低速において良好な膜厚があり、それが磨耗の低減を援けることを示している。このような膜厚は、歯車における表面疲労を低減し、したがってマイクロピッチングを低減することを援けるとみなされる。
【0077】
例5
表7は、本発明と比較物による75W-140ギヤ油配合物についての粘度指数上昇を示している。Anton Paar Viscometer SVM 3000を用いて、動的粘度測定を実施した。エステルAでは、40℃での粘度は、測定するには高過ぎた。従って、粘度は、80℃と100℃で測定し、そして次いで40℃粘度とVlの両方をこれらの測定値からASTM D2270を用いて計算した。用いたギヤ油は、124のVlを備えたPAO2であった。
【0078】
【表7】

【0079】
表7中のデータは、本発明の膜形成剤によって与えられたVl上昇を示している。PAO1000自体が大きなVl上昇を与えることに注目しなければならない。しかしながら、これは、本発明によるような全ての他の特性を有してはいない。
【0080】
例6
表8は、ブルックフィールドコールドクランクシミュレーターを用いて測定した、−35℃における、本発明による75W-140ギヤ油配合物についての粘度を示している。
【0081】
【表8】

【0082】
表8中のデータは、本発明によるギヤ油配合物は、低温、−35℃において、低い粘度を有していることを示している。このことは冷間始動に重要である。
【0083】
例7
本発明による膜形成剤および比較物の酸化安定性を、ホットチューブ試験、IP 280/85の修正版を用いて測定した。試験の継続時間は168時間であり、その間、鋼製の試験片と140℃のギヤ油配合物を収容した第1のチューブを通して空気を吹き出し、次いで室温の水を収容した第2のチューブを続けた。試験片のgでの損失、水中の揮発性酸(mgKOH/g)およびギヤ油配合物中の正味の酸の増加を測定した。表9は、PAO 6ギヤ油中の本発明による膜形成剤についての酸化安定性を示している。
【0084】
【表9】

【0085】
見て分かるように、本発明による膜形成剤は、酸化安定性を与えている。PAO1000自体は、向上した酸化安定性を示す。しかしながら、本発明によって要求されるような他の特性は有してはいない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤ油ならびに、下記(a)〜(d)の反応生成物であるポリマーエステルを含む膜形成剤を含んでなり、
(a)少なくとも1種の多官能性アルコール、
(b)ダイマー脂肪酸、
(c)場合による5〜18個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、および
(d)該ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる1種もしくは2種以上の成分、
結果として生じる該ポリマーエステルが100℃で400〜5000mm/sの範囲の動的粘度および5000〜20000の範囲の重量平均分子量を有している、ギヤ油配合物。
【請求項2】
ギヤ油ならびに、(a)〜(c)および(e)の反応生成物であるポリマーエステルを含む膜形成剤を含んでなり
(a)少なくとも1種の多官能性アルコール、
(b)ダイマー脂肪酸、
(c)5〜18個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸、および
(e)該ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる1種もしくは2種以上の成分、
結果として生じる該ポリマーエステルが100℃で400〜5000mm/sの範囲の動的粘度および5000〜20000の範囲の重量平均分子量を有している、ギヤ油配合物。
【請求項3】
前記多官能性アルコールが、式R(OH)のポリオールであり、nは2〜10の範囲の整数、そしてRは、2〜15個の炭素原子の、分岐しているかまたは直鎖のいずれかの炭化水素鎖である、請求項1または2記載のギヤオイル配合物。
【請求項4】
前記ダイマー脂肪酸が、25未満のヨウ素価を備えた水素添加されたダイマー酸である、請求項1〜3のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項5】
前記膜形成剤が、1000〜4000、好ましくは1500〜3000の範囲の非極性指数を有している、請求項1〜4のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項6】
前記ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる前記1種もしくは2種以上の成分が、5〜24個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸または5〜24個の炭素原子を有する脂肪族単官能性アルコールのいずれかである、請求項1〜5のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項7】
前記ポリマーエステルの酸価を5mgKOH/g未満に低下させる前記1種もしくは2種以上の成分が、酸捕捉剤である、請求項1〜5のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項8】
前記ポリマーエステルの前記酸化が、1mgKOH/g未満、好ましくは0.5mgKOH/g未満、そしてより好ましくは0.2mgKOH/g未満に低下される、請求項1〜7のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項9】
前記結果として生じるポリマーエステルが、100℃で、500〜3000mm/s、好ましくは500〜2500mm/s、そしてより好ましくは500〜2200mm/sの範囲の動的粘度を有する、請求項1〜8のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項10】
前記結果として生じるポリマーエステルが、5000〜18000、好ましくは5000〜17000、そしてより好ましくは5000〜15000の範囲の重量平均分子量を有している、請求項1〜9のいずれか1項記載のギヤ油配合物。
【請求項11】
手動変速装置、トランスファケースおよび/または差動装置などの機械における、請求項1〜10のいずれか1項記載のギヤ油配合物の使用。
【請求項12】
工業用歯車における、請求項1〜10のいずれか1項記載のギヤ油配合物の使用。
【請求項13】
風車ギヤボックスにおける、請求項1〜10のいずれか1項記載のギヤ油配合物の使用。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項記載のギヤ油配合物を使用する、手動変速装置、トランスファケースおよび/または差動装置などの機械の潤滑方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項記載のギヤ油配合物を使用する、工業用歯車の潤滑方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか1項記載のギヤ油配合物のせん断安定性、潤滑性および/または粘度指数を増大させる、請求項1〜10のいずれか1項記載の膜形成剤の使用。

【公表番号】特表2012−511076(P2012−511076A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539089(P2011−539089)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002765
【国際公開番号】WO2010/063989
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(506352278)クローダ インターナショナル パブリック リミティド カンパニー (24)
【Fターム(参考)】