説明

クズ葉入り手延有色麺およびその製造方法

【課題】機能性および栄養成分が豊富なクズ葉を利用した、その色彩だけでなく素材自体の旨みや、食感の良さ、品質の安定性等をともに維持した手延有色麺およびその製造方法を提供することを目的とする
【解決手段】小麦粉と、小麦粉に対する重量比率が、0.3〜3%のクズ葉粉末、4〜6%の食塩および45〜50%の水を練合し生地製造工程、板切り圧延成形工程、食用油塗布または澱粉塗布工程を含む丸紐状生地成形工程、細径延伸工程、および乾燥工程からなることを特徴とするクズ葉入り手延有色麺の製造方法、ならびに該製造方法によって得られるクズ葉入り手延有色麺を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クズ(葛;Pueraria lobata)の葉の粉末を入り込んだクズ葉入り手延有色麺、特にクズ葉入り手延有色素麺、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クズ(葛)は、日本各地及び東〜東南アジアに広く分布する蔓性植物で、生育期には一日で1mも伸びると言われ、その旺盛な繁殖力から、近年は雑草として問題となっている。しかし、そのクズ葉には、各種のビタミン、ミネラル、タンパク質とともに葉緑素が豊富に含まれ、貧血等の改善に効果があると言われ、また種々の生理活性を有するサポニン類、フラボノール類およびイソフラボン類が含まれていること(非特許文献1)やクズ葉に抗酸化作用があること(非特許文献2)等が報告されている。さらにクズ葉抽出物のアンジオテンシン変換機能抑制作用やクズ葉を用いてイソフラボノイドに富む茶に関する特許出願などが公開されている(特許文献1、2)。
【0003】
手延素麺は、通常、小麦粉に食塩と水を混ぜてよく練り生地を形成し、生地同士のくっつきを防ぐために食用油などを表面に塗ってから、よりをかけながら引き延ばして乾燥、熟成させる方法で製造されている。一方、消費者の嗜好の多様化に伴い、さらなる製品価値の向上を目的として、素麺の視覚的華やかさを増す有色素麺や、風味を向上させたり、味に変化をつけるために、様々な添加物を入れたものが製造・販売されている。さらには、健康食品を指向して植物由来の機能性成分を混ぜ込んだ素麺も報告されている。例えば、緑茶粉末を含有する着色麺類(特許文献3)、杜仲葉入り麺(特許文献4等)、笹の葉養分入り手延べ麺(特許文献5)、海苔含有素麺(特許文献6)など多く開示されているが、クズ葉入り手延有色麺についての報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−100016号公報
【特許文献2】特開2005−143367号公報
【特許文献3】特開平10−229838号公報
【特許文献4】特開平1−29547号公報
【特許文献5】特開2000−60468号公報
【特許文献6】特開2007−330115号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】野原ら、ケミカル ファーマソイティカル ブルテイン(Chem.Pharm.Bull.)、36巻、1174−1179頁(1988)、1177頁等
【非特許文献2】杉山ら、日本食品保蔵科学会誌、30巻、243−246頁(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、手延麺製造において、小麦と食塩以外に添加物を混入させた場合、麺帯が一定の長さまで延びなかったり、添加物の量が少ないと色彩や風味等の特徴が出せなかったり、添加物の粒径によってはザラザラとした食感になるため、色彩と、良好な風味、食感を併せ持つ手延麺を製造するには、その添加物の性質にあった製造法を検討しなければならず解決すべき課題が多く存在した。
【0007】
そこで、本発明は、クズ葉の機能性や色彩だけでなく、素材自体の旨みや食感の良さ、品質の安定性等をともに維持した手延麺を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、クズ葉の色彩を保つためにはクズ葉粉末を用いること、ならびに小麦粉に対するクズ葉粉末量、クズ葉粉末の粒径、食塩水の濃度と量を規定することにより、クズ葉の緑色の色彩を保ちつつ、食感の良い手延麺が製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)クズ(Pueraria lobata)葉入り手延有色麺の製造方法であって、小麦粉と、小麦粉に対する重量比率が、0.3〜3%のクズ葉粉末、4〜6%の食塩および45〜50%の水を練合し生地製造工程、板切り圧延成形工程、食用油塗布を含む丸紐状生地成形工程、細径延伸工程、および乾燥工程からなることを特徴とするクズ葉入り手延有色麺の製造方法;
(2)小麦粉に対するクズ葉粉末の重量比率が0.5〜1.5%である(1)記載の製造方法;
(3)クズ葉粉末の平均粒径が150μm以下である(1)または(2)記載の製造方法;
(4)クズ葉粉末が9月〜11月に採取された緑色のクズ葉から製造されたものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法;
(5)食用油塗布のかわりに澱粉を塗布することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法;
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法によって得られるクズ葉入り手延有色麺;
などを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、クズ葉粉末を含有し、健康に良いクズ葉由来の機能性成分を含有し、薄緑色〜緑色で、風味および食感に優れた手延有色麺を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係わるクズ葉入り手延有色麺の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明を詳細に説明する。本発明において、クズ(葛;Pueraria lobata)の葉は、6月から11月の緑色状態のものが利用されるが、好ましくは、機能性成分を多く含む9月から11月の緑色の葉が用いられ、葉柄部分が含まれていてもよい。
【0013】
本発明に用いられるクズ葉粉末は、採取した葉を水洗し、続いて乾燥したものを粉砕・微粉末化するか、または荒く粉砕し、水を加えてペースト状にした後乾燥し微粉砕したものである。クズ葉の乾燥方法としては、自然乾燥をはじめ、間接加熱乾燥(ドラムドライ)、送風(熱風または冷風)乾燥法、凍結乾燥法、噴射乾燥法、マイクロ波乾燥法ならびに遠赤外・近赤外乾燥法等が用いられる。特に、コストや効率を考慮するとドラムドライ乾燥法が好ましい。
【0014】
粉砕・微粉末化は、破砕機、ミキサー、ジェットミルをはじめとする任意の装置を用いた任意の方法ですることが出来る。粉砕・微粉末化された粉末は、例えば35〜400メッシュの篩などを用いて粒径を整えて用いるのが好ましい。用いられるクズ葉粉末の平均粒径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−2000A;島津製作所製)を用いて測定し、平均粒径は150μm以下が好ましく、特に1〜110μmが好ましい。
【0015】
図1は、本発明に係るクズ葉入り手延麺の製造方法のフロー図である。図1に基づいて、クズ葉入り手延麺の製造方法をフローに従って説明する。
【0016】
本発明において用いられる小麦粉としては、中力粉、準強力粉、またはこれらの混合物が用いられる。原料として小麦粉に対して、平均粒径150μm以下のクズ葉粉末0.3〜3.0重量%、食塩4〜6重量%および水45〜50重量%を用いる。クズ葉粉末の添加量は、得られる手延麺の色彩(薄緑色〜緑色)の選択により異なるが、0.5〜1.5重量%が色彩面および手延麺製造上の理由から特に好ましい。また、小麦粉への食塩と水の添加量は、小麦粉の主要タンパク質であるグルテニンとグリアジンなどの相互作用によるグルテンの形成に影響を与えるため、クズ葉粉末の添加量、製造時の温度、湿度等により、その添加量を前記範囲内で微妙に調整するのが好ましい。
【0017】
添加物として、クズ葉粉末に加えて、さらに食感のよいクズ澱粉、ならびに健康食を志向して機能性成分が多く含まれるクズ葉またはクズ茎抽出物等を、添加しても良い。その添加量は、例えば、小麦粉に対して0.3〜3.0重量%が好ましい。
【0018】
先ず練合生地製造工程では、クズ葉粉末と予め作製した食塩水とを十分に混合した後、小麦粉をあわせて、練り機にて約30分程度混捏して麺塊状生地を製造する。なお、本工程において、小麦粉とクズ葉粉末を混合し、次いで食塩水を加えて、練り機にて十分に混捏して麺塊状生地を製造しても良い。続いて、板切り圧延成形工程では、得られた麺塊を麺塊容器内に移し、延ばしローラーにより押し延ばして部厚めの板状麺塊にした後、所定幅で螺旋状に連続切断(板切り)し、次いで、圧延成形し帯状生地を製造する。
【0019】
続いて丸紐状生地成形工程では、得られた帯状生地を成形ローラーに掛けて丸紐状生地に成形し、この丸紐状生地に満遍なく食用油を塗布し、麺同士の付着や麺の乾燥防止をする(いわゆる「油返し」)。油返しに用いられる食用油としては、通常、綿実油、ゴマ油などの食用植物油が用いられる。この食用油塗布の代わりに満遍なく微粉末澱粉を振りかけてもよい。この麺同士の付着防止等に使用する微粉末澱粉として、馬鈴薯澱粉、クズ澱粉、トウモロコシ澱粉等の微粉末が使用される。
【0020】
そして、細径延伸工程では、得られた丸紐状生地を徐々に紐状(外径約1cm)に成形し「細目」、その後、通常の素麺の製造工程、即ち、順次「小撚り」、「掛けば」、「小引き」、「条分け・大引き」工程により、麺の熟成と引き伸ばしを繰り返しおこない、外径約1.1〜1.7mm位になるまで引き伸ばす。続いて乾燥工程を経て、麺線切断工程に付すと最終製品のクズ葉入り有色麺が得られる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することが出来ることは言うまでもない。
【0022】
実施例1(クズ葉乾燥粉末の製造)
10月に採集されたクズ葉16kgを水洗後、カッターミキサー(愛工舎製作所製)で粉砕し、水5Lを加えてかき混ぜてペースト状にした。得られたペーストをドラムドライヤーにて乾燥後、カッターミキサーと微粉砕機にて微粉末化した。続いて48メッシュの篩にて粉末の粒径を揃えると、クズ葉乾燥粉末4kgが得られた。クズ葉乾燥粉末の粒径を、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−2000A;島津製作所製)を用いて測定すると、平均粒径103μmであった。また、クズ葉乾燥粉末中の栄養成分、ならびにイソフラボン類総和量およびフラボノール類総和量を測定方法と共に、表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2(1%クズ葉入り有色素麺の製造)
実施例1で得られたクズ葉乾燥粉末60gに、食塩300gと水2.82kgからなる食塩水を加えて良くかき混ぜた後、小麦粉6.0kgをあわせて、練り機にて約30分程度混捏して麺塊を得た。得られた麺塊を麺塊容器内に移し、延ばしローラーにより押し延ばして部厚めの板状麺塊にした後、所定幅で螺旋状に連続切断(板切り)し、続いて圧延成形し帯状生地を得た。帯状生地を成形ローラーに掛けてひねりながら約直径3cmの丸紐状生地に成形し、綿実油を塗布し、さらにひねりながら約直径1cmほどになるように延ばし、再度綿実油を塗布し約20分程度熟成した。続いて、撚り掛けを行いながら綾掛け装置の配麺管に通し、綾掛け装置の配麺管に通して2本の掛け杆に8の字状に綾掛けし、この2本の掛け杆にかけた麺を引き伸ばし、麺同士がお互いにくっつかないように箸などを用いて分けした後、さらに引き伸ばしながら干しはたに条掛けした。この状態で乾燥させると、薄緑色のクズ葉入り手延素麺が得られた。
【0025】
実施例3(0.5%クズ葉入り有色素麺の製造)
実施例1で得られたクズ葉乾燥粉末30g、食塩300g、水2.82kg、および小麦粉6.0kgを、実施例2と同様に処理すると、薄緑色のクズ葉入り手延素麺が得られた。
【0026】
実施例2および3にて得られたクズ葉入り手延素麺は、薄緑色で、麺の表面も滑らかであり、茹で上がったクズ葉入り手延素麺は、風味があり、腰もつよく、喉越しの優れた素麺であった。
【0027】
実施例4(綿実油の代わりに馬鈴薯澱粉を使用した製造例)
実施例1で得られたクズ葉乾燥粉末100gに、食塩0.5kgと水4.75kgからなる食塩水を加えて良くかき混ぜた後、小麦粉10.0kgをあわせて、練り機にて混捏して麺塊を得、続いて延ばしローラーにて板状麺塊にした後、所定幅で螺旋状に連続切断(板切り)し、続いて圧延成形し帯状生地を得た。得られた帯状生地を成形ローラーに掛けてひねりながら約直径3cmの丸紐状生地に成形し、さらにひねりながら約直径1cmほどになるように延ばした。この丸紐状生地成形工程において、実施例2における綿実油塗布の代わりに、馬鈴薯澱粉の微粉末をガーゼに入れて振り掛けるように塗布する以外、同様の操作をし、さらに以後の操作を実施例2と同様にすると、油抜き薄緑色のクズ葉入り手延素麺が得られた。
【0028】
実施例5(綿実油の代りにクズ澱粉を使用した製造例)
実施例4と同様にクズ葉乾燥粉末100g、食塩0.5kg、水4.75kg、小麦粉10.0kgを用いて、丸紐状生地成形工程において、馬鈴薯澱粉の代わりにクズ澱粉を用いる以外、同様の操作により、油抜き薄緑色のクズ葉入り手延素麺が得られた。
【0029】
実施例4および5で得られた油抜きクズ葉入り手延素麺は、薄緑色をし、茹で上がったクズ葉入り手延素麺は、風味があり、腰もつよく、喉越しの優れた素麺であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、抗酸化作用、アンジオテンシン変換酵素阻害作用(降圧作用)等様々な機能性が知られているクズ葉を含有する健康によく、薄緑色から緑色の色彩を有し、良好な風味と食感を有するクズ葉入り有色麺、特に素麺、およびその製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クズ(Pueraria lobata)葉入り手延有色麺の製造方法であって、小麦粉と、小麦粉に対する重量比率が、0.3〜3%のクズ葉粉末、4〜6%の食塩および45〜50%の水を練合し生地製造工程、板切り圧延成形工程、食用油塗布を含む丸紐状生地成形工程、細径延伸工程、および乾燥工程からなることを特徴とするクズ葉入り手延有色麺の製造方法。
【請求項2】
小麦粉に対するクズ葉粉末の重量比率が0.5〜1.5%である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
クズ葉粉末の平均粒径150μm以下である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
クズ葉粉末が9月〜11月に採取された緑色のクズ葉から製造されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の製造法。
【請求項5】
食用油塗布のかわりに澱粉を塗布することを特徴とする請求項1〜4記載のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法によって得られるクズ葉入り手延有色麺。


【図1】
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