説明

クッション構造及び乗物用シート

【課題】人着座状態で痛みの発生がなく、安定した呼吸を促しやすいクッション構造を提供する。
【解決手段】三次元立体編物101,102が、複数枚重ねられた積層体100として構成され、最上層と最下層との間で少なくとも1層の中間層を有しない少層構造部103が、幅方向略中央部において、所定幅でかつ前後に所定長さで設けられている。クッション構造10の幅方向略中央部は人が着座した際に、仙骨付近が位置する部位である。人が呼吸する際には骨盤が動くが、幅方向略中央部が少層構造部となっていることにより、仙骨の当たりが和らげられ、安定した呼吸を促すことができる。これに対し、幅方向略中央部を挟んだ両側は、少層構造部103よりも1層以上多く積層された中層構造部104となっているため、仙骨の両側の座骨結節が上下振動に伴って底付くことを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、列車などの乗物用シートに用いられるクッション構造及び該クッション構造を備えた乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、トーションバー等により弾性的に支持されたベースクッション上に、三次元立体編物やウレタン罪などを配置したクッション構造を種々提案している。例えば、特許文献1では、三次元立体編物のみを用いた部分やウレタン材と積層した部分などを設けたり、あるいは、ウレタン材を複数に分割するなどして複数のバネ要素を設定し、各バネ要素の動的バネ定数を異ならせた乗物用シートを提案している。これにより、入力される振動の特性(周波数や振幅等)に応じて、主として作用するバネ要素を異ならせ、その結果、低周波大振幅の振動から高周波小振幅の振動まで、特性の異なる種々の振動を効率的に吸収できる効果をもたらしている。
【0003】
また、特許文献2では、クッションパン上にクッション構造を積層してトーションバーにより弾性的に支持した座部用クッション材が開示されている。ここで開示されているクッション構造は、2枚の三次元立体編物間にウレタン材やファイバークッションをサンドイッチして積層した構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/077699号公報
【特許文献2】特開2009−493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示されたクッション構造は、三次元立体編物を用いているため、薄型・軽量でありながら、上記した振動吸収性(主として上下方向の振動吸収性)に優れているなどの特徴を備えている。しかしながら、乗物用シートの振動吸収性、衝撃吸収性は常に改善されることが求められており、従来よりもさらに振動吸収性等の点で優れたクッション構造の開発が期待されている。特に、近年急速に普及している電気自動車やハイブリッド車は、レシプロエンジン車等と異なり、バッテリーの質量によりバネ上質量が増大する。そのため、質量効果により上下方向振動が少なくなるが、逆に、バネ上質量の増加によって、前後方向の慣性力の影響が出やすくなり、前後方向の振動やピッチングが大きくなる。これらの慣性力や加速度による体に与える影響を小さくするために、シートと人との間の相対変位、相対速度、相対加速度、相対ジャークを小さくすることが望まれる。また、乗物用シートに着座している人にとって、快適な座り心地を得るクッション構造としては、着座状態で圧迫による痛みの軽減、より安定した姿勢の確保、並びに、体動を許容して呼吸運動を容易にできるものであることが望まれる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、着座状態で痛みの発生がなく、安定した呼吸を促しやすいクッション構造を提供することを課題とする。それに加え、本発明は、従来よりも振動エネルギーや衝撃エネルギーの吸収性能の優れた乗物用シートであって、特に、電気自動車やハイブリッド車用として適するクッション構造を提供することを課題とする。また、本発明は、これらのクッション構造を備えた乗物用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のクッション構造は、三次元立体編物を有する乗物シート用のクッション構造であって、前記三次元立体編物が、複数枚重ねられた積層体として構成され、最上層と最下層との間で少なくとも1層の中間層を有しない少層構造部が、幅方向略中央部において、所定幅でかつ前後に所定長さで設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記積層体の両側部は、前記少層構造部と比較して前記三次元立体編物が2層以上多く積層された多層構造部となっており、前記少層構造部と多層構造部との間は少層構造部よりも多く多層構造部よりも少ない層数の中層構造部となっていることが好ましい。具体的には、前記少層構造部は前記最上層と最下層の2層からなることが好ましく、前記少層構造部が前記最上層と最下層の2層からなり、前記中層構造部が前記最上層と最下層を含む3層からなり、前記多層構造部が前記最上層と最下層を含む4層からなることがより好ましい。
【0009】
また、前記クッション構造は、さらに、前記三次元立体編物が2枚用いられてなり、第1の三次元立体編物は、幅方向略中央部の所定幅及び所定長さの範囲を除いて、各側端縁から内方に折り返され、第2の三次元立体編物は、前記第1の三次元立体編物の折り返し幅よりも短い幅で、各側端縁から内方に折り返され、前記第1の三次元立体編物の折り返し部分と前記第2の三次元立体編物の折り返し部分との重なり範囲が前記多層構造部を構成し、前記第1の三次元立体編物の折り返し部分と前記第2の三次元立体編物の折り返し部分が存在しない範囲との重なり部分が前記中層構造部を構成し、前記第1の三次元立体編物の折り返し部分が存在しない範囲と前記第2の三次元立体編物の折り返し部分が存在しない範囲との重なり部分が前記少層構造部を構成していることが好ましい。
【0010】
前記第2の三次元立体編物が下側に配置され、前記第1の三次元立体編物が前記第2の三次元立体編物の上側に配置されてなり、前記第1の三次元立体編物の折り返し部分は下側に折り返されて形成され、前記第2の三次元立体編物の折り返し部分は上側に折り返されて形成されていることがより好ましい。
【0011】
また、前記中層構造部における前記少層構造部に隣接する部位が、最上層から最下層までの3層が一括して拘束されており、前記多層構造部において重なり合った中間の2層のみが拘束されていることが好ましく、前記中層構造部における前記少層構造部に隣接する部位が、最上層から最下層までの3層が一括して縫製により拘束されており、前記多層構造部において重なり合った中間の2層のみが縫製により拘束されていることがより好ましい。
【0012】
前記第1の三次元立体編物及び第2の三次元立体編物は、それぞれ厚さ6mm〜8mmの範囲であることが好ましい。
【0013】
前記第2の三次元立体編物の下側に、さらに、所定の面剛性を付与するための面剛性付与クッション部材が配置されていることが好ましい。前記面剛性付与クッション部材が、ビーズ発泡体又はポリプロピレン樹脂の板状体からなるものを用いることが好ましい。
【0014】
また、前記クッション構造又は面剛性付与クッション部材が、フローティングデバイスとして用いられる構成とすることが好ましい。この場合、前記面剛性付与クッション部材の少なくとも一面は、防水加工が施されている構成とすることが好ましい。前記クッション構造は、その外周面において、防水加工が施されている構成とすることが好ましい。
【0015】
前記三次元立体編物及び面剛性付与クッション部材は、被覆材により被覆されている構成とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の乗物用シートは、クッションフレームの前縁フレームと後縁フレームとの間に掛け渡されるベースクッション材を備えた乗物用シートであって、前記クッション構造が、前記ベースクッション上に配置されていることを特徴とする。前記前縁フレームと後縁フレームのうちの少なくとも前縁フレームは、トーションバーにより前後方向に回動可能に弾性的に支持されている構成とすることが好ましい。
【0017】
前記クッション構造と前記ベースクッションとが、両者の対向面の一方に取り付けられる一方の面ファスナと、両者の対向面の他方に取り付けられる他方の面ファスナとにより連結されている構成とすることが好ましい。前記一方の面ファスナは、両側縁部が固着されずに取り付けられ、前記他方の面ファスナは、断面略U字状に突出するように取り付けられていることがより好ましい。この場合、前記ベースクッションの表面に前記一方の面ファスナが取り付けられ、前記クッション構造の裏面に前記他方の面ファスナが取り付けられるようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のクッション構造は、三次元立体編物が、複数枚重ねられた積層体として構成され、最上層と最下層との間で少なくとも1層の中間層を有しない少層構造部が、幅方向略中央部において、所定幅でかつ前後に所定長さで設けられている。クッション構造の幅方向略中央部は人が着座した際に、仙骨付近が位置する部位である。人が呼吸する際には骨盤が動くが、幅方向略中央部が少層構造部となっていることにより、仙骨の当たりが和らげられ、安定した呼吸を促すことができる。これに対し、幅方向略中央部を挟んだ両側は、少層構造部よりも1層以上多く積層された中層構造部となっているため、仙骨の両側の座骨結節が上下振動に伴って底付くことを防止できる。また、中層構造部のさらに外側を多層構造部とすることにより、両側部の剛性が高くなり、臀部を安定して支持することができる。
【0019】
また、重なり合った三次元立体編物の層同士を、中層構造部における少層構造部に隣接する部位においては最上層から最下層までの3層を一括して縫製などにより拘束し、多層構造部において重なり合った中間の2層のみを縫製などにより拘束する構成とすることが好ましい。このように拘束することで、三次元立体編物の最下層の部分が前後左右に動きやすくなり、また復元力も生じる。これにより、簡易的なバネ・ダッシュポット系が構成され、呼吸に伴う骨盤の動きを妨げず、スムーズな呼吸運動の助けになる。また、前後方向の振動やピッチングを効率よく吸収できる。従って、バネ上質量の増加によって、前後方向の振動やピッチングが大きくなる電気自動車やハイブリッド車用として特に適する。また、面剛性付与クッション材としてビーズ発泡体を用いると、緊急時における避難用グッズであるフローティングデバイスとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は、本発明の一の実施形態に係る乗物用シートである自動車用シートを示した斜視図であり、図1(b)は該自動車用シートに用いたクッション構造の平面図であり、図1(c)は図1(b)の側面図である。
【図2】図2(a)は、図1(a)のA−A線断面図であり、図2(b)は、図1(a)のB−B線断面図である。
【図3】図3は、図1(a)に示した自動車用シートにおいて、クッション構造を取り外した状態を示した斜視図である。
【図4】図4は、クッション構造の分解斜視図である。
【図5】図5(a)は、クッション構造に使用される三次元立体編物の積層体を示した平面図(図4のC矢視図)であり、図5(b)は、図5(a)のD−D線断面図である。
【図6】図6は、三次元立体編物の燃焼試験の試験結果を示したグラフである。
【図7】図7(a),(b)は、クッション構造とベースクッションとを面ファスナを用いて接合する際の取り付け方を説明するための図である。ベルトアンカー部材を設けた状態の図1の乗物用シートの側面図である。
【図8】図8は、本発明の他の実施形態に係る乗物用シートである航空機用シートを示した斜視図である。
【図9】図9(a)は、荷重−変位特性を測定した比較例に係るクッション構造を概念的に示した図であり、図9(b)は、本発明の実施形態に係るクッション構造を概念的に示した図である。
【図10】図10は、直径98mmの加圧板を用いて測定した荷重−変位特性の測定結果を示した図である。
【図11】図11は、直径200mmの加圧板を用いて測定した荷重−変位特性の測定結果を示した図である。
【図12】図12(a)〜(d)は比較例に係るクッション構造の体圧分布を示した図であり、図12(e)は本発明の実施形態に係るクッション構造の体圧分布を示した図であり、図12(f)は座骨結節部に生じる最高圧力値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1(a)は、本発明の一の実施形態に係る乗物用シートである自動車用シート1を示した斜視図である。この自動車用シート1のシートクッション部には、図1〜図3に示したように、シートクッション部を構成するクッションフレーム20及びこのクッションフレーム20に支持されたベースクッション30が設けられ、ベースクッション30上にクッション構造10が配置されている。
【0022】
クッションフレーム20は、図2(a)及び図3に示したように、前縁フレーム21、後縁フレーム22及び2つのサイドフレーム23,24を有して構成される。前縁フレーム21は、シートクッション部の幅方向に掛け渡されたトーションバー21aの両端付近に設けられたアーム21bの先端間に掛け渡され、トーションバー21aにより弾性的に支持されている。
【0023】
トーションバー21aにより弾性的に支持された前縁フレーム21と後縁フレーム22との間に、ベースクッション30が張られている。ベースクッション30には、二次元のネット材や布帛、あるいは、三次元立体編物等を用いることができる。
【0024】
クッション構造10は、図2及び図4に示したように、三次元立体編物の積層体100と、面剛性付与クッション部材110と、前記積層体100及び面剛性付与クッション部材110とを一緒に被覆する被覆材120とを含んで構成されている。
【0025】
積層体100は、図2(b)及び図5に示したように、第1の三次元立体編物101と第2の三次元立体編物102とを用いて構成されている。第1の三次元立体編物101は、幅方向略中央部の所定幅及び所定長さの範囲を除いて、各側端縁から内方に折り返され、折り返し部分が下側となるように配置される。第2の三次元立体編物102は、第1の三次元立体編物101の折り返し幅よりも短い幅で、各側端縁から内方に折り返され、折り返し部分が上側となるように配置され、第1の三次元立体編物101の折り返し部分に第2の三次元立体編物102の折り返し部分が対面するように重ね合わされる。
【0026】
第2の三次元立体編物102の折り返し部分は第1の三次元立体編物101の折り返し部分よりも幅が狭いため、両者を重ね合わせた状態では、幅方向略中央部は、最上層と最下層の2層のみからなる少層構造部103となり、該少層構造部103に隣接した部分は第2の三次元立体編物102の折り返し部分を含まない3層からなる中層構造部104となり、中間構造部104のさらに外側に位置する側部はそれぞれの折り返し部分を含む4層の多層構造部105となる。
【0027】
少層構造部103は、上記のように形成されるため、図5(a)の破線で示したように、所定幅でクッション構造10の前後方向に所定の長さに亘って設けられている。図5の例では、該少層構造部103は、クッション構造10の幅方向中央部に、幅5mm、長さ420mmに亘って設けられている。少層構造部103をこのようにクッション構造10の幅方向中央部に設けると、人が着座した際には、仙骨がこの少層構造部103に当接する。少層構造部103は、最上層と最下層のみの2層であり、両者間の層が抜けている。その一方、仙骨を挟んで位置する座骨結節は3層の中間構造部104によって支持されるため、仙骨の当たり感が低減される。その結果、呼吸に伴う仙骨を中心とした骨盤の動きを止めるような堰がなく、円滑な呼吸運動を促すことができる。
【0028】
また、中層構造部104における少層構造部103に隣接する第1の拘束部位106では、最上層から最下層までの3層が一括して拘束されている。多層構造部105においては、両側部付近に位置する第2の拘束部位107で、重なり合った中間の2層のみが拘束されている。拘束手段は限定されるものではないが、容易に拘束できることから、縫製によることが好ましい。すなわち、第1の拘束部位106では、3層の三次元立体編物を最上層から最下層まで一括して縫い合わせ、第2の拘束部位107では、中間の2層の三次元立体編物同士を縫い合わせる。
【0029】
このように縫製することにより、第2の三次元立体編物102の最下層に位置する部位は、第1の拘束部位106よりも外側の部位がフリーの状態であるため、振動の入力に伴う前後左右への動きが許容され、それにより復元力が生じるため、振動吸収性が向上する。特に、前後方向の振動やピッチングに対する振動吸収性が向上する。
【0030】
ここで、三次元立体編物は、例えば、特開2002−331603号公報に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。一方のグランド編地は、例えば、単繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)によって形成され、他方のグランド編地は、例えば、短繊維を撚った糸から、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編み目構造に形成されている。もちろん、この編地組織は任意であり、細目組織やハニカム状以外の編地組織を採用することもできるし、両者とも細目組織を採用するなど、その組み合わせも任意である。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、2つのグランド編地間に編み込んだものである。
【0031】
このような三次元立体編物の中でも、本実施形態では、厚さ5〜10mmの範囲のものを用いることが好ましい。理由は以下の通りである。
【0032】
まず、厚さ5〜10mmの範囲の三次元立体編物を1枚の場合、2〜5枚積層した場合について同じ条件で燃焼試験を行った。そのときの積層枚数に対する燃焼長及び焼失量は図6に示したとおりであり、燃焼長は3枚以上で安定するが、逆に焼失量は4枚以上になると積層枚数に応じて増加する。このことから、三次元立体編物を3枚重ねた3層にすることが、燃焼特性の点からは好ましいことがわかった。そこで、本実施形態では、上記のように中層構造部104として3層の部分を、該中層構造部104が座骨結節下に位置するように設ける共に、平面積において、3層の中層構造部104の占める割合が、少層構造部103及び多層構造部105よりも多くなるように設定した。
【0033】
このように三次元立体編物を3層にすることを前提とした場合でも、臀部のサイドの支持性を高めるためには、クッション構造10の側部は厚みがある方が望ましい。そこで、多層構造部105においては三次元立体編物を4層にしているが、仮に厚さ10mmのものを用いた場合、全体の厚さは40mmになり、それよりも厚い場合には重量アップにつながる。
【0034】
また、上記のように、第1の拘束部位106においては、最上層から最下層までの3層の三次元立体編物を一括して縫い合わせるが、一般の縫製機で針が貫通可能な上限厚さを考慮する必要があり、それを大きく超える場合には、特別な縫製機や針を準備する必要で製造コストが増す。
【0035】
三次元立体編物を3層にすることを基準として、その他の上記諸条件を勘案すると、上記した厚さ範囲の三次元立体編物を用いることが好ましいことになる。
【0036】
積層体100の下側には、クッション構造10の面剛性を高め、底付きを防止するため、本実施形態のように、面剛性付与クッション材110を配設することが好ましい。面剛性付与クッション部材110としては、ビーズ発泡体又はポリプロピレン樹脂の板状体を用いることができる。但し、後述するフローティングデバイスとして用いることができることから、ビーズ発泡体を用いることが好ましい。ビーズ発泡体としては厚さ2〜25mmのもの、ポリプロピレン樹脂の板状体としては厚さ0.5〜1.5mmのものを用いることが好ましい。ビーズ発泡体は、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンのいずれか少なくとも一つを含む樹脂のビーズ法による発泡成形体が用いられる。発泡倍率は任意であり限定されるものではない。なお、面剛性付与クッション材110の上面の両側部付近には、一方の面ファスナ110aが固定され、三次元立体編物からなる積層体100の裏面の両側部付近には他方の面ファスナ(図示せず)が固定されており、面ファスナ110a同士を結合させることにより、積層体100は面剛性付与クッション材110上に安定して保持される。
【0037】
積層体100と面剛性付与クッション材110とは、不燃性の不織布130により被覆され、さらに、表皮を構成する被覆材120によって被覆される。不燃性の不織布130を配設するか否かは任意である。被覆材120としては、二次元のネット材や布帛、あるいは、三次元立体編物等を用いることができる。
【0038】
積層体100及び面剛性付与クッション材110が不織布130及び被覆材120によって被覆されてなる本実施形態のクッション構造10は、前縁フレーム21と後縁フレーム22との間に張られたベースクッション30上に設けられて使用される。具体的には、ベースクッション30の表面とクッション構造10の裏面とに一対の面ファスナを設け、該面ファスナにより両者を接合する構成とすることができる。
【0039】
このとき、面ファスナは図7に示したように取り付けることが好ましい。すなわち、図7(a)に示したように、まず、ベースクッション30の表面に取り付ける所定幅の一方の面ファスナ201のうち、その幅方向中央付近201aのみを該ベースクッション30に縫製等により接合にする。これにより、一方の面ファスナ201は、両側縁部201b,201cが固着されずに浮き上がった状態となる。これに対し、他方の面ファスナ202を、断面略U字状(ループ状)にして、その基端部をクッション構造10の裏面に位置する被覆材120に縫製等により接合する。これにより、他方の面ファスナ202は、被覆材120から略U字状に突出した形態となる。
【0040】
上記した一方の面ファスナ201と他方の面ファスナ202の組を、例えば、クッション構造10とベースクッション30の幅方向の両側部付近に設ける。そして、図7(b)に示したように、断面略U字状の他方の面ファスナ202を、一方の面ファスナ201の幅方向略中央部に位置させ、該一方の面ファスナ201の両側縁部201b,201cを他方の面ファスナ202の両側面に接合させる。
【0041】
人が使用する際にクッション構造10に接すると、クッション構造10を上方に引き上げる方向の力が働く。従って、一方の面ファスナ201をベースクッション30に平坦に取り付け、同様に他方の面ファスナ202をクッション構造120の裏面に平坦に取り付けた場合、クッション構造10を上方向に引き上げる力が働いた場合に、面ファスナ201,202同士が剥がれやすい。これに対し、一方の面ファスナ201及び他方の面ファスナ202を図7に示したように取り付けた場合には、断面略U字状に突出している他方の面ファスナ202の両側面に、一方の面ファスナ201の両側縁部201b,201cが接合するため、クッション構造10をベースクッション30から離間させる方向の力が働いた際には、その力は接合状態の一対の面ファスナ201,202同士を面に沿ってずらす剪断方向への力として作用するため、剥がれにくくなる。その一方、クッション構造10を面ファスナ201,202を用いて固定しているため、クッション構造10の取り替えも容易に行うことができる。
【0042】
また、上記した面ファスナ201,202を用いた場合、他方の面ファスナ202が断面略U字状に突出し、一方の面ファスナ201が該他方の面ファスナ202の側面に接合しているため、左右方向及び上下方向への多少の動きを許容する。この点も、硬い物に座ったような感じを減殺するのに役立ち、また、臀部の動きへの追従性が高まると共に、復元性も高まるため、座面の臀部へのフィット感が向上する。
【0043】
一方の面ファスナの中央付近のみを固定し、他方の面ファスナを略U字状に突出させて接合する構成は、クッション構造10とベースクッション30との間の接合に限られるものではない。すなわち、図9(c)に示したように、積層体100の第1の三次元立体編物101に一方の面ファスナ101aを、中央付近のみを固定して取り付け、被覆材120に他方の面ファスナ101bを略U字状(ループ状)に取り付けて、両者を接合する構成とすることもできる。また、面剛性付与クッション材110に取り付ける一方の面ファスナ110を、中央付近のみを固定して取り付け、積層体100の第2の三次元立体編物102に他方の面ファスナ110bを略U字状(ループ状)に取り付けて両者を接合する構成とすることもできる。
【0044】
ここで、図9(a)に示したように、厚さ10mmのビーズ発泡体からなる面剛性付与クッション材110上に、厚さ7mmの三次元立体編物を1〜4枚積層した場合(比較例)と、図9(b)に示したように、厚さ10mmのビーズ発泡体からなる面剛性付与クッション材110上に、厚さ7mmの三次元立体編物を2枚用いて製作した本実施形態の積層体100を積層した場合について、直径98mm、直径200mmの加圧板を用いて50mm/minで加圧した場合の荷重−変位特性を測定した。結果を図10及び図11に示す。
【0045】
図10及び図11において、「一枚」、「二枚」、「三枚」、「四枚」は、それぞれ、図9(a)に示した面剛性付与クッション材110に三次元立体編物を1〜4枚積層した場合の測定結果を示し、「本製品」は、図9(b)に示した上記実施形態に係る構造の測定結果を示す。なお、図10には、人の臀部筋肉を同様の条件で加圧した際の荷重−変位特性も合わせて示した。
【0046】
図10から明らかなように、積層枚数が多くなるほどバネ定数が低くなる傾向を示しているが、「本製品」の場合には、直径98mmの加圧板では、人の臀部の筋肉の特性に近い傾向を示しており、臀部への反力が小さく、違和感が少ないことがわかる。また、図11の直径200mmの加圧板で加圧した場合において、体重60〜80kgの人が着座した状態における尻下荷重に相当する400N〜600Nにおけるバネ定数を求めたところ、「一枚」:515N/mm、「二枚」:267N/mm、「三枚」:184N/mm、「四枚」:138N/mm、「本製品」:129N/mmであった。この結果、本製品は、上記のように平面積において、3層の中層構造部104の占める割合が、少層構造部103及び多層構造部105よりも多くなるように設定されているにも拘わらず、図9(a)に示した単純に4枚積層した場合のバネ定数よりも低いバネ定数であった。これは、中層構造部104における少層構造部103に隣接する第1の拘束部位106、多層構造部105における両側部付近に位置する第2の拘束部位107において、それぞれ拘束することにより、周縁部の剛性が上がり、三次元立体編物を構成するパイルが引っ張られて該三次元立体編物の基布に張力が発生して復元力が高くなることによる。
【0047】
図12は、図9(a)のクッション構造(三次元立体編物の積層枚数:1〜4枚)と、図9(b)の本実施形態に係るクッション構造(本製品)について、体圧分布を測定したものである。図12(a)〜(e)は体圧分布の測定結果であり、図12(f)は、最高圧力値を示したグラフである。
【0048】
図12から、図9(a)のクッション構造の場合、三次元立体編物の積層枚数が多くなるほど、最高圧力値は低くなり体圧分散性がよくなることがわかるが、本製品のクッション構造は、3層の中層構造部104の占める割合が多いにも拘わらず、最高圧力値が、図9(a)のクッション構造における三次元立体編物を4枚積層した場合の約138g/cmよりも低い約122g/cmであり、体圧分散性が非常に高いことがわかった。また、通常のウレタン材を用いたシートの場合、ウレタンの厚さ180mm前後のものが用いられることが多いが、その場合の最高圧力値で約170〜180g/cm である。本実施形態のクッション構造に係る図9(b)に示したものは、最も厚い部分である多層構造部105で、三次元立体編物とビーズ発泡体とを合わせた厚みが38mmである。また、図12(e)から明らかなように、本製品は、剛性の高い周縁部における支持性が、図12(d)の場合よりも高くなっている。従って、本実施形態の構成によれば、薄く軽量な構造でありながら、高い体圧分散性を発揮することができる。
【0049】
荷重−変位特性及び体圧分散性、並びに、上記した燃焼実験を考慮すると、三次元立体編物を本実施形態のように所定の部位で拘束し、3層の中層構造部104の占める割合を多くすることが最も好ましいことがわかる。
【0050】
なお、上記実施形態では、本発明のクッション構造10を自動車用シート1に適用した場合について説明したが、乗物用シートであればよく、限定されるものではない。例えば、図8に示したような航空機用シート300に適用することも可能である。図8に示した航空機用シート300は、通路側座席310と窓側座席320の2つの座席を備えたフレームに、上記実施形態と同様にベースクッション30を配置し、そのそれぞれに本発明のクッション構造10を配設したものである。
【0051】
また、面剛性付与クッション材110としてビーズ発泡体を用いた場合、該ビーズ発泡体からなる面剛性付与クッション材110を被覆材120から取り出してフローティングデバイスとして用いたり、又は、ビーズ発泡体からなる面剛性付与クッション材110を含んだクッション構造10をフローティングデバイスとして用いることができる。すなわち、本発明のクッション構造10が搭載されている乗物が事故等により水没した際に、このクッション構造10をベースクッション30から取り外して、あるいは、被覆材120内から面剛性付与クッション材110を取り出して、少なくとも一時的なフローティングデバイスとして利用することができる。面剛性付与クッション材110であるビーズ発泡体の浮力を利用して人を浮かせるためには、該ビーズ発泡体は、所定の厚さ以上のものを用いたり、複数枚積層して用いたりすることが好ましい。例えば、比重0.03g/cmのビーズ発泡体の場合、乗物用シートの一人分の座席に相当する横450mm、縦490mm程度の大きさであれば、人の頭部を水面上に浮かせる浮力を得るために厚さ約20mm以上とすることができる。それよりも薄いものを用いた場合には、複数枚用いることにより同様の浮力を得ることが可能である。従って、小さなサイズで人を浮かせることができるため、脱出性にも優れている。また、ビーズ発泡体の少なくとも一面、好ましくは全面を防水加工することが望ましい。防水加工の手段は任意であり、例えば、ビーズ発泡体の少なくとも一面に接着剤により不織布等を貼着する手段が挙げられる。また、ビーズ発泡体(面剛性付与クッション材110)及び三次元立体編物の積層体100の外周面をまとめて防水性のフィルムで被覆するなどして防水加工を施した構成とすれば、クッション構造10全体をフローティングデバイスとして用いた場合において水の進入を防ぐ効果がより高くなる。
【符号の説明】
【0052】
1 自動車用シート
10 クッション構造
100 積層体
101 第1の三次元立体編物
102 第2の三次元立体編物
103 少層構造部
104 中層構造部
105 多層構造部
110 面剛性付与クッション材
120 被覆材
130 不織布
20 クッションフレーム
21 前縁フレーム
22 後縁フレーム
30 ベースクッション
201,202 面ファスナ
300 航空機用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元立体編物を有する乗物シート用のクッション構造であって、
前記三次元立体編物が、複数枚重ねられた積層体として構成され、
最上層と最下層との間で少なくとも1層の中間層を有しない少層構造部が、幅方向略中央部において、所定幅でかつ前後に所定長さで設けられていることを特徴とするクッション構造。
【請求項2】
前記積層体の両側部は、前記少層構造部と比較して前記三次元立体編物が2層以上多く積層された多層構造部となっており、前記少層構造部と多層構造部との間は少層構造部よりも多く多層構造部よりも少ない層数の中層構造部となっている請求項1記載のクッション構造。
【請求項3】
前記少層構造部は前記最上層と最下層の2層からなる請求項1又は2記載のクッション構造。
【請求項4】
前記少層構造部が前記最上層と最下層の2層からなり、前記中層構造部が前記最上層と最下層を含む3層からなり、前記多層構造部が前記最上層と最下層を含む4層からなる請求項1又は2記載のクッション構造。
【請求項5】
前記三次元立体編物が2枚用いられてなり、
第1の三次元立体編物は、幅方向略中央部の所定幅及び所定長さの範囲を除いて、各側端縁から内方に折り返され、
第2の三次元立体編物は、前記第1の三次元立体編物の折り返し幅よりも短い幅で、各側端縁から内方に折り返され、
前記第1の三次元立体編物の折り返し部分と前記第2の三次元立体編物の折り返し部分との重なり範囲が前記多層構造部を構成し、
前記第1の三次元立体編物の折り返し部分と前記第2の三次元立体編物の折り返し部分が存在しない範囲との重なり部分が前記中層構造部を構成し、
前記第1の三次元立体編物の折り返し部分が存在しない範囲と前記第2の三次元立体編物の折り返し部分が存在しない範囲との重なり部分が前記少層構造部を構成している請求項4記載のクッション構造。
【請求項6】
前記第2の三次元立体編物が下側に配置され、前記第1の三次元立体編物が前記第2の三次元立体編物の上側に配置されてなり、
前記第1の三次元立体編物の折り返し部分は下側に折り返されて形成され、前記第2の三次元立体編物の折り返し部分は上側に折り返されて形成されている請求項5記載のクッション構造。
【請求項7】
前記中層構造部における前記少層構造部に隣接する部位が、最上層から最下層までの3層が一括して拘束されており、前記多層構造部において重なり合った中間の2層のみが拘束されている請求項5又は6記載のクッション構造。
【請求項8】
前記中層構造部における前記少層構造部に隣接する部位が、最上層から最下層までの3層が一括して縫製により拘束されており、前記多層構造部において重なり合った中間の2層のみが縫製により拘束されている請求項7記載のクッション構造。
【請求項9】
前記第1の三次元立体編物及び第2の三次元立体編物は、それぞれ厚さ6mm〜8mmの範囲である請求項4〜8のいずれか1に記載のクッション構造。
【請求項10】
前記第2の三次元立体編物の下側に、さらに、所定の面剛性を付与するための面剛性付与クッション部材が配置されている請求項1〜9のいずれか1に記載のクッション構造。
【請求項11】
前記面剛性付与クッション部材が、ビーズ発泡体又はポリプロピレン樹脂の板状体からなる請求項10記載のクッション構造。
【請求項12】
前記クッション構造又は面剛性付与クッション部材が、フローティングデバイスとして用いられる請求項11記載のクッション構造。
【請求項13】
前記面剛性付与クッション部材の少なくとも一面は、防水加工が施されている請求項12記載のクッション構造。
【請求項14】
前記クッション構造は、その外周面において、防水加工が施されている請求項12記載のクッション構造。
【請求項15】
前記三次元立体編物及び面剛性付与クッション部材が、被覆材により被覆されている請求項1〜14のいずれか1に記載のクッション構造。
【請求項16】
クッションフレームの前縁フレームと後縁フレームとの間に掛け渡されるベースクッション材を備えた乗物用シートであって、
請求項1〜15のいずれか1に記載のクッション構造が、前記ベースクッション上に配置されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項17】
前記前縁フレームと後縁フレームのうちの少なくとも前縁フレームは、トーションバーにより前後方向に回動可能に弾性的に支持されている請求項14記載の乗物用シート。
【請求項18】
前記クッション構造と前記ベースクッションとが、両者の対向面の一方に取り付けられる一方の面ファスナと、両者の対向面の他方に取り付けられる他方の面ファスナとにより連結されている請求項16又は17記載の乗物用シート。
【請求項19】
前記一方の面ファスナは、両側縁部が固着されずに取り付けられ、前記他方の面ファスナは、断面略U字状に突出するように取り付けられている請求項18記載の乗物用シート。
【請求項20】
前記ベースクッションの表面に前記一方の面ファスナが取り付けられ、前記クッション構造の裏面に前記他方の面ファスナが取り付けられている請求項19記載の乗物用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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