説明

クッション機能を備える紙又は板紙

【課題】不織布や気泡クッション材のような被包装物の型入り・傷入りを防止するための保護材料やクッション材料を使用せずとも、クッション性に優れ、被包装物の型入り・傷入りを防止できるクッション機能を備えた包装材料を提供する。
【解決手段】基紙と、該基紙の少なくとも片面に少なくとも熱発泡性粒子及びバインダを含有した塗工液を塗布して設けた塗工層とを少なくとも具備し、塗工層を乾燥させることにより熱発泡性粒子を発泡させてクッション層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたクッション性を有し、被包装物の型入り・傷入りを防止することができるクッション機能を備える紙又は板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、住宅等に使用される内装ドア、室内ドア等の建具、収納、階段や階段部材、床材、フローリング等の住宅向け建材等や、エアコン、テレビ、DVDレコーダー等のプラスチック材料が用いられる物品等(以下、「被包装物」という。)を輸送したり、保管する際に、段ボールケース等の包装容器に梱包されることが多い。
【0003】
しかしながら、被包装物が直接段ボールケースに梱包されると、被包装物の商品価値を低下させてしまう可能性がある。すなわち、被包装物を不織布等の保護材料で包装せずに、段ボールケースに直接梱包すると、段ボールケース(段ボールシート)の段目が被包装物に型として入ってしまったり、被包装物の表面に細かな傷が入ってしまい、被包装物の商品価値が低下することがあった。
【0004】
従って、被包装物に段ボールケースの段目が型として入ることを防止したり、被包装物の表面に細かな傷が入ることを防止するため、不織布等の保護材料で被包装物を包装した上で段ボールケースに梱包したり、段ボールケースに気泡クッション材等のクッション材料を入れたりすることが行われている。
【0005】
しかしながら、このように保護材料やクッション材料を入れると包装にかかるコストが高くなるばかりでなく、包装の手間もかかるという問題があった。
【0006】
そこで、例えば特許文献1に記載されるような包装用部材が提案されている。すなわち、矩形状を呈する2枚の樹脂フィルムを重ね合わせ、逆止弁構造を有するエアー吹き込み部材を介在させて外周縁部を熱シールすると共に、複数の区画用熱シール部を形成して複数の隣接した空気室を形成した包装用部材であって、樹脂フィルムの一方に紙シート材を一体的に貼着させ、紙シート材を貼着させた面を外側にし各空気室が被包装物の周囲に当接するようにして全体を包装し、包装した状態で包装用部材の自由端部を粘着テープで貼着固定してクッション機能を有する包装容器を兼用させる構成にした包装用部材が提案されている。
【0007】
このような包装用部材は、包装にかかる手間がかかるという問題を解決することはできるものの、包装材料と、保護材料やクッション材料との2つの部材が必要であったため、保護材料やクッション材料の分だけコストが高くなるという問題は解決されなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2006−69621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述したような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、不織布や気泡クッション材のような被包装物の型入り・傷入りを防止するための保護材料やクッション材料を使用せずとも、クッション性に優れ、被包装物の傷入り・型入りを防止できるクッション機能を備えた紙又は板紙、及びこの紙又は板紙を用いて形成された包装容器及びクッション材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、基紙と、該基紙の少なくとも片面に少なくとも熱発泡性粒子及びバインダを含有した塗工液を塗布して設けた塗工層とを少なくとも具備し、前記塗工層を乾燥させることにより前記熱発泡性粒子を発泡させてクッション層としたことを特徴とするクッション機能を備える紙又は板紙を提供することによって達成される。
【0011】
また、本発明の上記目的は、前記熱発泡性粒子は、前記塗工層中に固形分換算で5〜20質量%含有されていることを特徴とするクッション機能を備える紙又は板紙を提供することによって、効果的に達成される。
【0012】
また、本発明の上記目的は、前記塗工液の塗工量は片面当たり固形分換算で16〜120g/mであることを特徴とするクッション機能を備える紙又は板紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【0013】
また、本発明の上記目的は、クッション性を0.40〜0.50としたことを特徴とするクッション機能を備える紙又は板紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【0014】
さらにまた、本発明の上記目的は、上記いずれかに記載のクッション機能を備える紙又は板紙を包装容器又はクッション材に用いることによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るクッション機能を備える紙又は板紙によれば、基紙と、該基紙の少なくとも片面に少なくとも熱発泡性粒子及びバインダを含有した塗工液を塗布して設けた塗工層とを少なくとも具備し、塗工層を乾燥させることにより熱発泡性粒子を発泡させてクッション層としたので、優れたクッション性を有し、被包装物の傷入り・型入りを防止することができる。従って、被包装物の傷入り・型入りを防止するための保護材料やクッション材料を用いる必要がなくなり、また工程の簡略化、コストの低減を図ることができる。
【0016】
また、熱発泡性粒子を塗工層中に固形分換算で5〜20質量%含有したので、クッション性を得ることができるとともに、基紙と塗工層との接着性も良好であり、熱発泡性粒子の離脱もなくなる。
【0017】
さらにまた、塗工液の塗工量を片面当たり固形分換算で16〜120g/mとしたので、クッション性、傷入り防止性、型入り防止性をより良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るクッション機能を備える紙又は板紙について、詳細に説明する。なお、本発明に係る紙又は板紙は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【0019】
本発明に係るクッション機能を備える紙又は板紙(以下、「本紙又は板紙」という)は、基紙の少なくとも片面に、少なくとも熱発泡性粒子及びバインダを含有する塗工液を塗布して塗工層を形成し、その後、塗工層を乾燥させて熱発泡性粒子を発泡させてクッション層とすることにより構成される。
【0020】
これにより、本紙又は板紙は優れたクッション性を有するようになる。すなわち、本紙又は板紙は段ボールケース等の包装容器、クッション材等に加工することを1つの目的としている。従って、本紙又は板紙を用いて形成された包装容器やクッション材等は、優れたクッション性を有するので、保護材料やクッション材料を用いることなく、被包装物の表面に傷が入ることを防止し(以下、「傷入り防止」という)、また段ボールシート等の段が型として被包装物の表面に入ることを防止(以下、「型入り防止」という)することができる。
【0021】
なお、本願明細書に記載する「クッション機能を備える紙又は板紙」とは、一般的な印刷用紙や段ボール原紙、板紙等にはないクッション機能、すなわち、二つの物の間(被包装物と被包装物との間)に起こる衝突や衝撃、あるいは本紙又は板紙と被包装物との間に起こる衝突や衝撃をやわらげる機能を有する紙又は板紙をいう。
【0022】
本紙又は板紙に用いられる基紙は特に限定されるものではなく、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、片艶紙、含浸紙、板紙等の種々のものの中から、使用用途に応じて適宜選択して使用することができる。
【0023】
しかしながら、本紙又は板紙が、例えば被包装物の輸送、保管、保護のために用いられる段ボールケース等の包装容器に加工され、梱包材として用いられる場合や、クッション材に加工される場合には、段ボール原紙、厚紙等の板紙を基紙として用いることが好ましい。
【0024】
また、本紙又は板紙は、基紙の少なくとも片面に塗工液を塗布して塗工層(クッション層)が設けられる。このため、塗工液が塗布される基紙の面のベック平滑度が45秒以下、好ましくは30秒以下、より好ましくは20秒以下であることが好ましい。すなわち、基紙のベック平滑度が45秒を超えると、塗工層と基紙との接着性が低下する傾向にある。このため、塗工層を乾燥させる際の加熱により、塗工層中に含まれる熱発泡性粒子を発泡させてクッション層にした場合、クッション層が基紙から浮き上がって剥れてしまうという問題が生じやすい。
【0025】
上述したように、基紙の少なくとも片面に塗布される塗工液は、少なくとも熱発泡性粒子とバインダとが含有されている。すなわち、塗工液に熱発泡性粒子を含有すると、塗工層を乾燥・加熱することにより、熱発泡性粒子を膨張・発泡させて、塗工層をクッション層とし、本願の所望とするクッション性を得ることができる。また、バインダを含有することにより、本紙又は板紙の表面強度を向上させることができる。従って、本紙又は板紙が段ボールケース等の包装容器、クッション材等に加工されて被包装物の輸送、保管等に用いられた場合、輸送時、保管時等における擦れによる紙剥け、破れ等の発生を防止することができる。これにより、本紙又は板紙は、クッション性、傷入り防止性、及び型入り防止性に優れるものとなるので、被包装物への傷入りや型入りを防止することができる。
【0026】
以下に、本紙又は板紙に用いられる塗工液に含有される熱発泡性粒子及びバインダについて詳述する。
【0027】
熱発泡性粒子は塗工層中に固形分換算で5〜20質量%、好ましくは7〜17質量%含有される。熱発泡性粒子の含有率が5質量%未満であると、熱発泡性粒子が発泡した状態であっても、熱発泡性粒子の存在密度が低いため、本紙又は板紙が所望とするクッション性を得ることが難しくなる。一方、熱発泡性粒子の含有率が20質量%を超えると、クッション性には優れるものの、基紙と塗工層との接着性が低下する。また、熱発泡性粒子の離脱が生じやすくなり、離脱した熱発泡性粒子が被包装物へ付着する等の問題も生じやすくなる。
【0028】
なお、本紙又は板紙に含有される熱発泡性粒子の含有率を増加させたい場合には、塗工層1層当たりの熱発泡性粒子の含有率は5〜20質量%のままで、塗工層を2層以上設けることが好ましい。これにより本紙又は板紙のクッション性を得やすくなる。
【0029】
この熱発泡性粒子としては、熱可塑性合成樹脂で構成された微細粒子外殻内に低沸点溶剤を封入したものを用いることができる。この熱発泡性粒子は、平均粒径が5〜30μmで、90〜200℃での加熱により直径が4〜5倍、体積が50〜130倍に膨張する。
【0030】
外殻を構成する熱可塑性合成樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の共重合体等を挙げることができる。また、外殻内に封入される低沸点溶剤としては、例えば、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシラン等を挙げることができる。
【0031】
このような熱発泡性粒子としては、例えば、松本油脂製薬株式会社製造の「マツモトマイクロスフェアF−20シリーズ」、「同F−30シリーズ」、「同F−36シリーズ」、「同F−46シリーズ」や、日本フィライト株式会社販売の「エクスパンセルWU」、「エクスパンセルDU」等を使用することができるが、本紙又は板紙に使用される熱発泡性粒子はこれらに限定されるものではない。
【0032】
熱発泡性粒子は、外殻を構成する熱可塑性合成樹脂の軟化点以上に加熱され、同時に封入されている低沸点溶剤が気化し蒸気圧が上昇することにより、外殻が膨張して粒子が膨張する。なお、膨張時は、内圧と殻の張力・外圧が釣り合って膨張状態が保持される。熱発泡性粒子は、一般的にはこの状態まで膨張させ、軽量化剤、嵩高化剤、断熱剤等として利用されている。この膨張状態の熱発泡性粒子にさらに熱が加えられた場合には、膨張して薄くなった殻からガスが透過拡散し、内圧よりも殻の張力・外圧が大きくなってしまい、発泡した粒子が収縮してしまう。
【0033】
本紙又は板紙に使用される熱発泡性粒子は、乾燥工程でドライヤにより発泡させる。従って、一般的に紙乾燥工程の温度は120℃程度であることから、膨張開始温度が90〜130℃の低温膨張タイプの熱発泡性粒子を用いることが好ましい。特に、膨張開始温度が90℃未満の熱発泡性粒子であると、乾燥工程のドライヤにより発泡させた場合、上述したように一旦膨張した粒子が再び収縮してしまうため、所定のクッション性を得ることが難しくなる。
【0034】
一方、膨張開始温度が130℃を超えると、乾燥・発泡工程における加熱温度、熱量不足による発泡不良という問題が発生する。また、適切な加熱温度、熱量とするためには、製造スピードを大幅に低下させる必要が生じ、生産効率が低下する結果となる。
【0035】
上述したように本紙又は板紙は包装容器、クッション材に加工されることを1つの目的としている。本紙又は板紙を包装容器や、クッション材に加工する際に罫線部(折り曲げ部)には強い折り曲げの力が加わる。従って、本紙又は板紙の塗工層には、このような強い力が加わっても塗工層(クッション層)が割れないこと、塗工層が基紙から浮き上がって剥れないことが要求される。このため、バインダを塗工層中に固形分換算で20〜65質量%含有させることが好ましい。
【0036】
バインダの含有率が20質量%未満であると、熱発泡性粒子との接着性が不十分となり、熱発泡性粒子の離脱が発生しやすく、基紙との接着性も不足する場合がある。一方、バインダの含有率が65質量%を超えると、熱発泡性粒子の接着性はほとんど向上せず、逆に増粘による塗工不良や、熱発泡性粒子の発泡を阻害し発泡不良を招きやすくなる。すなわち、熱発泡性粒子の膨張・発泡が阻害されてしまうと、本紙又は板紙にクッション性を付与することができず、この結果傷入り防止性・型入り防止性も低下してしまう。
【0037】
このようなバインダとしては、スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリル系エマルション、アクリル−スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、ウレタン系エマルション等の水分散系バインダ;デンプン、変性デンプン、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性バインダ等を、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
しかしながら、本紙又は板紙に用いられる塗工液には、上述したように熱発泡性粒子も含有されるため、バインダの種類、性状によっては、熱発泡性粒子との接着性、基紙との接着性、熱発泡性粒子の発泡抑制、加熱による乾燥・発泡工程での耐熱性等の点で問題を招き、本紙又は板紙の表面強度の低下や、品質トラブル等の問題を招くおそれがある。
【0039】
このため、上述したバインダの中でも、スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリル系エマルション、ウレタン系エマルションを用いることが好ましく、特にアクリル系エマルションを用いることが好適である。すなわち、スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリル系エマルション、ウレタン系エマルションは、熱発泡性粒子との接着性、及びこの塗工液を塗布することにより形成される塗工層と基紙との接着性が良好であり、熱発泡性粒子の膨張・発泡を阻害することがないとともに、被包装物に傷が入ることを防止することができる。
【0040】
さらにまた、バインダのガラス転移温度(Tg)が30〜70℃、好ましくは40〜60℃であると、熱発泡性粒子の膨張・発泡を阻害することがなく、良好に発泡させることができる。また熱発泡性粒子との接着性、及び塗工層と基紙との接着性に優れる。さらにまた、塗工層の乾燥後は、本紙又は板紙の表面強度を向上させることができる。
【0041】
バインダのガラス転移温度(Tg)が30℃未満であると、段ボールシートへの貼合時にコルゲータの熱板にバインダが取られるという問題が発生し易い。一方、バインダのガラス転移温度(Tg)が70℃を超えると、紙又は板紙の表面強度の向上効果には優れるものの、熱発泡性粒子の膨張・発泡を阻害してしまうため、本願の所望とするクッション性を得ることができない。
【0042】
なお、上述したように本紙又は板紙の塗工層には、このような強い力が加わっても塗工層(クッション層)が割れないこと、塗工層が基紙から浮き上がって剥れないことが要求される。このため、熱発泡性粒子及びバインダは、固形分比率で7〜50:93〜50の割合で塗工層中に含有されることが好ましい。
【0043】
熱発泡性粒子の比率が7質量%未満であると熱発泡性粒子を十分に発泡させたとしても本願の所望とするクッション性を得ることができない。一方、熱発泡性粒子の比率が50質量%を超えると、熱発泡性粒子とバインダとの接着性が低下し、熱発泡性粒子の離脱を生じるおそれがある。
【0044】
なお、本紙又は板紙の基紙の少なくとも片面に塗工される塗工液は、上述したように少なくとも熱発泡性粒子とバインダとが含有されていれば、その他、必要に応じて、顔料、消泡剤、分散剤、粘性調整剤等の公知の種々のものが含有されていても良い。
【0045】
以上のように構成される本紙又は板紙に使用される塗工液は40〜70質量%、好ましくは45〜65質量%の塗被組成物(固形分)を含んでいる。
【0046】
上述したように少なくとも熱発泡性粒子とバインダとを含む塗工液は、固形分換算で基紙の片面当たりに16〜120g/m、好ましくは40〜100g/m、より好ましくは52〜100g/m塗布される。塗工液の塗工量が16g/m未満であると、クッション性、傷入り防止性が低い。一方、塗工量が120g/mを超えると、クッション性、被包装物の傷入り防止効果には優れるものの、基紙とクッション層との接着不良、大幅な生産性の低下、コストアップを招くこととなる。
【0047】
なお、塗工液を基紙の少なくとも片面に塗布する方法としては、バーコータ、ロッドコータ、エアナイフ等の公知の塗工手段を用いることができる。また、グラビア印刷機、フレキソ印刷機等の公知の印刷手段により印刷し、基紙の少なくとも片面に塗工層を設けることもできる。
【0048】
しかしながら、一般的な印刷用塗被紙の塗工量と比べて、本紙又は板紙の基紙の少なくとも片面に塗布される塗工液の塗工量は非常に多く、抄紙機で塗布することは難しい。このため、本願発明では、特に印刷機で多層塗工することが好ましい。印刷機では、複数の印刷ユニットを使用して多層塗工することができ、特に4〜12ユニットの印刷ユニットを持つフレキソ印刷機で、基紙の表面に塗工液を塗布することが効果的である。
【0049】
なお、塗工液をフレキソ印刷機で塗布する場合には、ザーンカップNo.4(25℃)で測定した値で8〜30秒、好ましくは15〜20秒となるように塗工液の粘度を調整する。塗工液の粘度が8秒未満であると、塗工液をアニロックスロールで保持することが難しくなり、塗工ムラが発生したり、本願の所望とする塗工量を塗布することができないという問題が発生しやすくなる。一方、塗工液の粘度が30秒を超えるとアニロックスロールへ均等に塗工液を供給することが難しく、塗工ムラが発生しやすくなる。
【0050】
上述したように形成された本紙又は板紙の塗工層を含む坪量は、被包装物の内容や、本紙又は板紙が加工される段ボールケース等の包装容器、クッション材の大きさ、形状、重さ等の使用方法によっても変化するが、180〜500g/mの範囲内にあることが好ましく、180〜400g/mの範囲にあることがより好ましい。本紙又は板紙の坪量が180g/m未満であると、本紙又は板紙が段ボールケース等の包装容器、クッション材に加工された際、包装容器、クッション材としての強度、剛性が劣る。また、基紙の少なくとも片面に塗工層を設け、クッション層を形成しても、基紙が薄いため、本願の所望とするクッション性、傷入り防止効果、段入り防止効果を得にくくなる。一方、本紙又は板紙の坪量を500g/mより大きくしても、過剰品質となると共に、製造コストが高くなるだけである。
【0051】
また、本紙又は板紙が、ガラス製品やプラスチック製品等の表面に傷が入りやすく、損傷しやすい小物製品を包装する際に用いられる包装容器やクッション材に加工される場合には、基紙としてクラフト紙や薄用紙を用いることが好ましい。なお、このような用途の場合には、塗工層を含む本紙又は板紙の坪量は100g/m以下のものであることが好ましい。このような坪量の基紙の少なくとも片面に塗工層を設け、クッション層を形成しても、本願の所望とするクッション性、傷入り防止効果、段入り防止効果を得ることができる。
【0052】
基紙の表面に塗工液を塗布して塗工層を形成した後、乾燥工程で加熱して乾燥させ、同時に塗工層中の熱発泡性粒子を発泡させて塗工層をクッション層とする。
【0053】
乾燥工程における乾燥温度は100〜120℃が好ましい。100〜120℃の熱風であると、塗工層中の水分を蒸発させて乾燥するとともに、この乾燥工程において、塗工層をクッション層とすることができる。乾燥温度が100℃未満であると塗工層中の熱発泡性粒子の発泡が不足し所望のクッション性を得ることが難しくなる。一方、乾燥温度が120℃を超えると乾燥時間にもよるが、過熱により熱発泡性粒子が最大膨張率を過ぎ、収縮するおそれがある。
【0054】
さらにまた、本紙又は板紙は、塗工層に含有される熱発泡性粒子を、塗工液を乾燥する際の加熱(1次加熱)と、例えば本紙又は板紙を段ボールシートに貼合加工する際のコルゲータの熱板による加熱(2次加熱)の2段階の加熱で発泡させることが好ましい。すなわち、塗工層(塗工液)の乾燥工程において熱発泡性粒子を最大膨張率以下まで膨張させ、その後、本紙又は板紙を例えば段ボールシートに貼合加工する際のコルゲータの熱板の熱を利用して、段ボールシート貼合後に熱発泡性粒子を完全に発泡させることが好ましい。塗工、乾燥時に熱発泡性粒子を完全に発泡させると、後のコルゲータの熱板の熱により、熱発泡性粒子が最大膨張率を過ぎ、逆に収縮してしまうおそれがあるからである。
【0055】
また、塗工、乾燥後は本紙又は板紙を巻き取るため、特に巻取りの紙管際、すなわち巻き始めの部分は、巻き終わりの部分よりも相当大きな圧力を受ける。従って、巻取りの紙管際は、圧力により、せっかく得たクッション層が潰されてしまい、クッション性が低下するおそれがある。
【0056】
上記により得た本紙又は板紙をコルゲータで貼合し段ボールシートとする。
【0057】
なお、コルゲータの熱板の温度は150〜180℃とし、紙表面の温度が80〜130℃になるように調整することが好ましい。これにより、過熱量による熱発泡性粒子の収縮を防止でき、適切に熱発泡性粒子を膨張させ、所望のクッション性を得ることができる。
【0058】
上述したようにして得られる本紙又は板紙は、下記の測定方法により測定したクッション性が0.40〜0.50、好ましくは0.41〜0.45である。
【0059】
クッション性の測定方法は以下の通りである。
(1)被衝突物体として、表面が平坦で頑丈な試験台を用い、試験サンプルのクッション層が表面になるように固定する。
(2)試験サンプルの表面に衝突物体として鉄球(パチンコ玉)を用い、30cmの高さから試験サンプルに対して垂直に落下させる。
(3)鉄球落下時の跳ね返りをビデオ撮影し、落下方向にセットした物差しにより跳ね返りの高さをmm単位で測定した。
(4)鉄球の落下の高さ、跳ね返りの高さの測定値を用い、下記の(式1)により反発係数を算出した。
(式1)
e=√(h/ho) (e:反発係数、ho:落下の高さ、h:跳ね返りの高さ)
(0≦e≦1)
(5)すなわち、この反発係数をクッション性の指標とし、反発係数が大きいほどクッション性が高いと判断した。
【0060】
本紙又は板紙は、このような測定方法で測定したクッション性が0.40〜0.50であるので、優れたクッション性、型入り防止効果、傷入り防止効果を有する。従って、本紙又は板紙が、段ボールケース等の包装容器、クッション材に加工されて用いられた場合、不織布や気泡クッション材のような保護材料やクッション材料を使用しなくとも、被包装物の型入りを防止し、傷入りを防止することができる。
【実施例】
【0061】
本発明に係るクッション機能を備える紙又は板紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示す薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0062】
本発明に係る24種類のクッション機能を備える紙又は板紙(これを「実施例1」ないし「実施例24」とする)と、これらの実施例1ないし実施例24と比較検討するために、2種類の紙又は板紙(これを「比較例1」及び「比較例2」とする)を、表1に示すような構成で作製した。また、参考例として市販の板紙(これを「比較例3」とする)、市販の不織布(これを「比較例4」とする)を評価した。
【0063】
【表1】

(実施例1)
<基紙>
基紙として、坪量が220g/mである市販の段ボール用原紙(大王製紙株式会社製の商品名「ジャストKライナー」)を用いた。なお、この段ボール用原紙の表面のベック平滑度は18秒であった。
<塗工液の調整>
熱発泡性粒子として、マツモト油脂製薬株式会社製の「マツモトマイクロスフェアF−46」を塗工層に対して固形分換算で10質量%、またバインダとして、御国色素株式会社製のアクリル系エマルション「バインダCF」を塗工層に対して固形分換算で45質量%含有するように塗工液を作成し、調整した。なお、調整後の塗工液のザーンカップNo.4(25℃)で測定した粘度は18秒であった。また、表1中の塗工液のバインダの種類の欄の「ア」とは、アクリル系エマルションを示す。
【0064】
<クッション機能を備えた板紙の製造>
基紙である段ボール原紙の表面(片面)に、フレキソ印刷機で塗工液を固形分換算で55g/m塗工して塗工層を形成した後、110℃の熱風乾燥機にて15秒間熱発泡性粒子を1次加熱して膨張(発泡)させて塗工層をクッション層とし、坪量275g/mの板紙(実施例1)を得た。
【0065】
さらに、実施例1を得た後、段ボールシートへの貼合加工を想定し、150℃の熱風乾燥機に10秒間いれて2次加熱を行い、熱発泡性粒子を完全に発泡させた。なお、この時クッション層の温度は125℃であった。
【0066】
(実施例2〜6)
熱発泡性粒子の含有量、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得たクッション機能を備える板紙。
【0067】
(実施例7〜9)
熱発泡性粒子の含有量、バインダの含有量、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得たクッション機能を備える板紙。
【0068】
(実施例10〜16)
熱発泡性粒子の含有量、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、塗工液中の固形分量、塗工液の塗工量、及び坪量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得たクッション機能を備える板紙。
【0069】
(実施例17)
熱発泡性粒子の含有量、バインダの種類、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得たクッション機能を備える板紙。なお、表中のバインダの種類の欄の「SBR」とはスチレン−ブタジエン系ラテックスを表し、本実施例ではSBRとして日本ゼオン株式会社製の「Nipol LX」を用いた。
【0070】
(実施例18〜23)
熱発泡性粒子の含有量、バインダのガラス転移温度、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得たクッション機能を備える板紙。
【0071】
(実施例24)
熱発泡性粒子の含有量、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更し、また熱発泡性粒子を1次発泡のみで膨張・発泡させたこと以外は、実施例1と同様にして得たクッション機能を備える板紙。
【0072】
(比較例1)
熱発泡性粒子の含有量(すなわち熱発泡性粒子を含有しなかった)、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得た板紙。
【0073】
(比較例2)
熱発泡性粒子の含有量、バインダの含有量(すなわちバインダを含有しなかった)、熱発泡性粒子とバインダとの固形分比率、及び塗工液中の固形分量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得た板紙。
【0074】
(比較例3)
本実施例1〜24、比較例1〜2で用いた基紙、すなわち坪量が220g/mである市販の段ボール用原紙(大王製紙株式会社製の商品名「ジャストKライナー」)を比較例3とした。なお、比較例3では塗工層(クッション層)を設けていない。
【0075】
(比較例4)
坪量が50g/mである市販の不織布を比較例4とした。なお、比較例4では塗工層(クッション層)を設けていない。
【0076】
なお、表1中の「坪量(g/m)」とは、基紙に所定のクッション層を設けた後の紙又は板紙の坪量で、JIS−P8142に記載の「紙及び板紙―坪量測定方法」に準拠して測定した値である。
【0077】
これらの全実施例及び比較例について品質評価、すなわちクッション性、傷入り防止性、及び基紙と塗工層との接着性を評価する試験を行った結果は、表2に示すとおりであった。なお、これらの評価試験はJIS−P8111に準拠して温度23℃±1℃、湿度50±2%の環境条件の下で行った。
【0078】
表2中の「クッション性」とはクッション層によるクッション機能、すなわち被包装物と被包装物との間に起こる衝突や衝撃、あるいは板紙と被包装物との間に起こる衝突や衝撃をやわらげる機能について評価したものである。このクッション性の評価の指標として反発係数を用い、以下の手順で反発係数を算出して評価した。
(1)被衝突物体として、表面が平坦で頑丈な試験台を用い、試験サンプルのクッション層が表面になるように固定する。なお、試験台の天板は、ディーオン株式会社製の「セグラン」(45mm厚、比重1.6〜1.7、表面硬度 モース3〜4)を使用した。
(2)前記試験サンプルの表面に衝突物体としてパチンコ玉(直径11±0.01mm、重さ5.45±0.01g)を用い、30cmの高さから試験サンプルに対して垂直に落下させる。
(3)鉄球落下時の跳ね返りをビデオ撮影し、落下方向にセットした物差しにより跳ね返りの高さをmm単位で測定した。
(4)鉄球の落下の高さ及び跳ね返りの高さの測定値を用い、下記の計算式により反発係数を算出した。
e=√(h/ho) (e:反発係数、ho:落下の高さ、h:跳ね返りの高さ)
(0≦e≦1)
(5)すなわち、この反発係数をクッション性の指標とし、反発係数が大きいほどクッション性が高いと判断した。
【0079】
また、「傷入り防止性」とは、被包装物に対する傷入り防止性を評価したもので、JIS−P8136に記載の「板紙の耐摩耗強さ試験方法」に準拠して学振式耐摩擦試験機を用いて試験し評価したものである。その測定方法は下記のとおりである。
(1)試験機摩擦部には樹脂フィルム(0HPフィルム)をセットし、試験機しゅう動台に試験サンプルのクッション層が摩擦面になるようにセットした。
(2)試験機しゅう動台にセットされた試験サンプルには500gの荷重が加えられるようにし、200回摩擦させた時の樹脂フィルム面の傷入り度合いを目視で評価し、その評価基準は下記の4段階とした。
(評価基準)
◎:不織布よりも優れる。
○:不織布と同等である。
△:不織布よりも劣る。
×:改善効果がない、または少ない。
【0080】
さらにまた、「基紙と塗工層との接着性」とは、JIS−P8115に記載の「紙及び板紙―耐折強さ試験方法―MIT試験機法」を用い、往復折り曲げ回数(耐折回数)5回後の試験サンプルを目視評価し、その評価基準は下記の4段階とした。
(評価基準)
◎:基紙と塗工層はしっかりと接着している
○:塗工層がやや剥離気味であるが問題なし
△:塗工層が剥離気味で問題の生じるおそれがある
×:塗工層が完全に剥離

【0081】
【表2】

表2に示すように、本発明に係るクッション機能を備える本紙又は板紙、すなわち実施例1〜実施例24に係る紙又は板紙であると品質評価に優れる、すなわちクッション性、傷入り防止性、型入り防止性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、該基紙の少なくとも片面に少なくとも熱発泡性粒子及びバインダを含有した塗工液を塗布して設けた塗工層とを少なくとも具備し、前記塗工層を乾燥させることにより前記熱発泡性粒子を発泡させてクッション層としたことを特徴とするクッション機能を備える紙又は板紙。
【請求項2】
前記熱発泡性粒子は、前記塗工層中に固形分換算で5〜20質量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載のクッション機能を備える紙又は板紙。
【請求項3】
前記塗工液の塗工量は片面当たり固形分換算で16〜120g/mであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクッション機能を備える紙又は板紙。
【請求項4】
前記紙又は板紙のクッション性を0.40〜0.50としたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のクッション機能を備える紙又は板紙。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のクッション機能を備える紙又は板紙を用いた包装容器又はクッション材。

【公開番号】特開2008−266799(P2008−266799A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106918(P2007−106918)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】