説明

クマリン系化合物およびそれを用いた有機電界発光素子

【課題】 発光輝度および発光効率が高い赤色蛍光発光が可能なクマリン系化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されるクマリン系化合物。


(式中、置換基−CNは−COOHであってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クマリン系化合物およびそれを用いた有機電界発光素子に係り、詳しくは、赤色蛍光発光が可能なクマリン系化合物から成る蛍光性色素およびそれを発光層に用いた有機電界発光素子(以下、有機EL素子という)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜のエレクトロルミネセンス(EL)現象を利用して、一対の対向する電極間に有機発光層を含有する有機EL層を挟み、その電極間に電圧を印加し有機EL層に電流を流して発光させる有機EL素子は、その実用化に向けた種々の検討が精力的に進められている。この有機EL素子は、FPD(フラットパネルディスプレイ)のような表示装置、非自発光素子で成る液晶表示装置の面光源バックライトあるいは照明灯のような照明装置に好適な自発光素子である。
【0003】
上記有機発光層に使用される発光層用材について種々の構造および発光色の色素が知られている。この発光層用材としては、蛍光性色素の単体が単独で使用される場合と、蛍光性色素がゲスト化合物とされ適切な有機のホスト化合物と共に使用される場合とがある。後者の場合には、そのホスト化合物と組み合わせるゲスト化合物(ドーパント)を変更することにより、発光の色調を適宜に変えることができる。また、ホスト化合物とゲスト化合物との組合せによっては、発光の輝度や寿命を大幅に向上できる可能性もある。
従来、クマリン系化合物から成る蛍光性色素については、物質の着色という色素本来の用途に加え、上記有機EL素子への適用を念頭に入れた種々の蛍光特性を有する色機能性色素が開発されてきている。その中で、例えばクマリン系化合物から成る色素を用い、ポリマー性結合剤ポリビニルカルバゾールとのブレンドを有機発光層とすることにより、種々の色の発光が得られるという報告がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平09−255947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、クマリン系化合物から成る蛍光性色素として種々の構造のものが開発されている。しかしながら、赤色系蛍光発光を高輝度、高効率に発光することを可能とするクマリン系化合物は少ない。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであって、発光輝度および発光効率などの色機能性が高いクマリン系化合物から成る赤色系の蛍光性色素を提供し、高輝度で高効率の有機電界発光素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかるクマリン系化合物は、一般式(1):
【化5】

(式中、R1およびR2は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。)で示されるクマリン系化合物となっている。
【0007】
あるいは、本発明にかかるクマリン系化合物は、一般式(2):
【化6】

(式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。)で示されるクマリン系化合物となっている。
【0008】
上記発明により、赤色蛍光発光が可能なクマリン系化合物からなる色機能性色素が実現し、上記色素は、有機電界発光素子の有機発光層に適用できるようになる。そして、有機発光層の蛍光発光の波長域の調節が容易になる。その他に、各種樹脂、塗料、インクなどの着色、繊維の染色、その他レーザ、蛍光標識試薬、蛍光コレクタ、蛍光センサ、シンチレータ、光ファイバ用増幅器など、色機能性のある赤色系の蛍光性色素として工業的な種々の用途に使用できる。
【0009】
そして、本発明にかかる有機電界発光素子は、対向する一対の電極間に少なくとも有機発光層を有し、該有機発光層が一般式(1)あるいは一般式(2):
【化7】

【化8】

(式中、R1、R2、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。)のクマリン系化合物を含んで成る、という構成になっている。
【0010】
上記発明において、前記有機発光層は、一般式(1)あるいは一般式(2)で示されるクマリン系化合物の単体により構成されている。
【0011】
あるいは、上記発明において、前記有機発光層は、一般式(1)あるいは一般式(2)で示されるクマリン系化合物をドーパントとして構成されている。
【0012】
上記発明により、有機電界発光素子の赤色系発光における発光輝度および発光効率が大きく向上する。そして、その発光波長のピーク位置のシフト調節が極めて容易になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、発光輝度および発光効率が高いクマリン系化合物から成る赤色系の蛍光性色素およびこの色素を用いた有機電界発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の好適な実施形態について説明する。この実施形態では、一般式(1)および一般式(2)で示される赤色系蛍光発光が可能な蛍光性色素のクマリン系化合物、ならびにその蛍光性色素を用いた有機EL素子について、その実施例を含めて順に説明される。以下では、一般式(1)で示されるクマリン系化合物をクマリン系化合物Iとし、一般式(2)で示されるクマリン系化合物をクマリン系化合物IIとする。
【0015】
(クマリン系化合物I)
前記一般式(1)で示されるクマリン系化合物Iにおいて、R1およびR2は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。
【0016】
ここで、具体的なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが好ましい。また、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シリル基、シロキシ基を構成するアルキル鎖部分は、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖アルキルが好ましい。
アリールアミノ基、アリールオキシ基などを構成するアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基などが好ましい。例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t−ブチルオキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、t−ブチルチオ基等のアルキルチオ基などが挙げられる。
アリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、トリメチルシリル基、トリメトキシシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等の低級アルキル基又はアリール基で置換されたシリル基;トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基、t−ブチルジフェニルシリルオキシ基等の低級アルキル基又はアリール基で置換されたシロキシ基などが挙げられる。
アリールアミノ基としてはジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基などが挙げられる。アリールオキシ基としてはフェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基などの炭素数1〜8の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基が挙げられる。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基、トリル基などが挙げられる。
そして、隣接する二つの基で環が形成される場合の例としては、例えば、隣接環に縮合してベンゼン環、ジオキソラン環、ジュロリジン環が形成される場合がある。
【0017】
(クマリン系化合物Iの製法)
具体的には、後述の実施例1において説明するが、クマリン骨格の部位の4位にシアノ基を導入することにより、赤色系の蛍光発光が可能なクマリン系化合物Iを容易に得ることができる。例えば一般式(3)で示されるクマリン系化合物を不活性溶媒で溶解し、シアン化合物と反応させ、酸化剤で処理することにより製造することができる。
【0018】
【化9】

【0019】
前記一般式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。このRおよびRの具体例は、上述したクマリン系化合物IにおけるRおよびRの場合で説明したのと同様になる。
【0020】
上記不活性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、キシレン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブあるいは酢酸エチルなどが挙げられる。これらのうち、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が好適である。
【0021】
上記シアン化合物としては、具体的にはシアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化銅、シアン化水素が挙げられる。これらのうち、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムが好適である。これらシアン化合物の使用量は、一般式(3)で示されるクマリン系化合物に対して1当量〜5当量の範囲が好ましい。
【0022】
上記酸化剤としては、塩素、臭素、ヨウ素等の酸化剤が好ましい。ここで、酸化剤の使用量は、一般式(3)で示されるクマリン系化合物に対して1当量〜5当量の範囲が好ましい。その他に、酸化剤としては、四酢酸鉛、アルカリ−ペルオキソ二硫酸塩等の過酸化物が挙げられる。
【0023】
上記シアン化合物との反応および酸化剤による処理の後では、反応した溶液を水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液で処理する。この処理において、固体が析出する場合には、ろ過を行い乾燥させる。また、析出のない場合は有機溶媒により抽出する。このようにして得られた生成物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶あるいは昇華精製等の一般的手段により精製する。このようにして、一般式(1)で示されるクマリン系化合物Iが得られる。
【0024】
このクマリン系化合物Iは、赤色蛍光発光が可能な色素として、有機EL素子の有機発光層に適用することができる。また、このクマリン系化合物Iは、その他に、各種樹脂、塗料、インクなどの着色、繊維の染色、その他レーザ、蛍光標識試薬、蛍光コレクタ、蛍光センサ、シンチレータ、光ファイバ用増幅器など、機能性赤色系蛍光性色素として工業的な種々の用途にも期待される。
【0025】
(クマリン系化合物II)
前記一般式(2)で示されるクマリン系化合物 IIにおいて、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。
【0026】
この場合において、RおよびRの具体例は、上述したクマリン系化合物IにおけるRおよびRの場合で説明したのと同様になる。
【0027】
(クマリン系化合物IIの製法)
具体的には、後述の実施例2において説明するが、クマリン骨格の部位の4位にカルボキシル基を導入することにより、赤色系の色機能性色素であるクマリン系化合物IIを得ることができる。この場合、クマリン系化合物IIは、塩基性溶液あるいは酸性溶液を用いて上記クマリン系化合物Iのシアノ基を加水分解することにより極めて容易に作製される。
ここで、上記加水分解では、塩基性溶液としては、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムを使用すると好適である。また、酸性溶液であれば、塩酸あるいは濃硫酸を使用することが好ましい。いずれの場合でも、その使用量としては、一般式(1)のクマリン系化合物Iに対して1当量〜500当量の範囲が好ましい。
上記加水分解の後は、氷水で処理を行い、固体が析出する場合には、ろ過を行い乾燥させる。また、析出のない場合は有機溶媒により抽出する。このようにして得られた生成物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィー、再結晶あるいは昇華精製等の一般的手段により精製する。このようにして、一般式(2)で示されるクマリン系化合物IIが得られる。
【0028】
上記クマリン系化合物IIでは、その蛍光の波長域が上記クマリン系化合物Iの場合よりも短波長側にシフトするようになる。このクマリン系化合物IIは、クマリン系化合物Iの蛍光の波長域を調節することを容易にし、有機EL素子の有機発光層として使用することができる。また、このクマリン系化合物IIは、クマリン系化合物Iの場合と全く同様な上述した工業的な種々の用途にも期待できる。
【0029】
上記クマリン系化合物IおよびIIの有機EL素子の有機発光層への適用においては、有機EL素子の発光層用材としての用途の他にも、有機EL素子における発光の色度を所望のレベルに調節する色度調節用材としても使用できる。ここで、上記クマリン系化合物IおよびIIは、安定な薄膜を形成し、しかも耐熱性が大きいことから、有機発光層の単体又は他の発光性化合物と組み合わせることによって、赤色域の可視光を発光するための有機EL素子の蛍光性色素として極めて有利に用いられる。
【0030】
(有機EL素子)
次に、上記クマリン系化合物を有機発光層に適用した、典型的な有機EL素子について説明する。
【0031】
図1に示すように、例えば透明ガラスのような基板1上において、通常の有機EL素子は、陽極電極2と、正孔輸送層3、有機発光層4、電子輸送層5および電子注入層6の積層した有機EL層7と、陰極電極8と、により構成される。
【0032】
上記基板1は、通常、アルミノ珪酸塩ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、バリウム珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラス等のガラス;アラミド、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリメチルアクリレート、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、弗素系樹脂、メラミン系樹脂等のプラスチック;アルミナ、シリコン、石英、炭化珪素等のセラミックなどの基板材料を板状、シート状又はフィルム状に形成して用いられる。また、必要に応じてこれらは適宜に積層されて用いられる。ここで、基板1としては、非透湿性の透光性材料が好ましい。
なお、有機EL素子からの発光の色度を調節する必要がある場合には、例えば、基板1の適所に光学フィルター膜、色度変換膜、誘電体反射膜などの色度調節手段が設けられる。
【0033】
陽極電極2は、通常、電気的に低抵抗率であって、正孔輸送層3に正孔を注入し易くするところの仕事関数の大きい金属材料から成り、しかも、全可視領域に亙って光透過率の大きい金属材料により構成される。ここで、インジウム錫酸化物(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物が好適である。これ等の陽極電極2は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などの方法により成膜される。
【0034】
正孔輸送層3には、例えば、4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(以下、α−NPDと略記する)が好適に使用される。その他に、例えば、アリールアミン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、スチルベン誘導体、テトラアリールエテン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールエテン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、N−ビニルカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポルフィリン誘導体などを使用することもできる。
【0035】
そして、有機発光層4としては、上述したクマリン系化合物I又はIIが有効に適用できる。上記クマリン系化合物は、一重項励起子、三重項励起子などの励起子を形成し易い。そして、蛍光などの発光のエネルギー準位が好適であるうえに、分子間の相互作用に起因する濃度消光がないことから、その単体として単独で発光層に適用しても、充分に実用に耐え得る有機EL素子を形成することができる。
【0036】
また、上記クマリン系化合物は、用途に応じたホスト化合物との併用も極めて容易になる。その場合、このクマリン系化合物と汎用のホスト化合物とを単層又は多層に分離して有機発光層4を形成する。そして、上記クマリン系化合物をドーパントとして用いる場合、ホスト化合物としては、有機EL素子に汎用されるキノリノール金属錯体、例えば、アントラセン、クリセン、コロネン、トリフェニレン、ナフタセン、ナフタレン、フェナントレン、ピセン、ピレン、フルオレン、ペリレン、ベンゾピレン等の縮合多環式芳香族炭化水素及びそれらの誘導体;クォーターフェニル、1,4−ジフェニルブタジエン、ターフェニル、スチルベン、テトラフェニルブタジエン、ビフェニル等の環集合式炭化水素及びそれらの誘導体;オキサジアゾール、カルバゾール、ピリダジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール等の複素環化合物及びそれらの誘導体;キナクリドン、ルブレン及びそれらの誘導体;スチリル系のポリメチン色素などが挙げられる。なお、上記したホスト化合物は単なる例示であって、ホスト化合物は決してこれらに限定されるものでない。
【0037】
電子輸送層5は、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(以下、Alq3と略記する)の成膜により好適に形成される。その他に、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルボジイミド、ジスチリルピラジン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、シラザン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、トリアゾール誘導体、複素環化合物のテトラカルボン酸誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレノン誘導体、有機発光層4におけると同様のキノリノール金属錯体、更には、アニリン、チオフェン、ピロールなどを反復単位とする電気伝導性オリゴマーあるいは電気伝導性ポリマーの1又は複数を成膜して形成される。
【0038】
電子注入層6は、仕事関数が例えば3eV以下になる、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これ等金属の合金、上記金属のハロゲン化合物、あるいは、これ等の金属と有機物の混合層のように、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を含有する材料により形成される。ここで、リチウム(Li)あるいは弗化リチウム(LiF)が好適に使用される。その他には、例えば、Mg等の金属、Li−Mg、Li−Al、Mg−Agのような合金、LiCl、MgF2、CaF2のような化合物、Cs混合のバソクプロインあるいはLi混合のAlq3のような材料が好ましい。
【0039】
なお、有機EL層7を構成している上記正孔輸送層3、有機発光層4、電子輸送層5および電子注入層6は、同じ真空蒸着装置内において、例えばα−NPD入りの抵抗加熱ボート、クマリン系化合物I又はII入りの抵抗加熱ボート、Alq3入りの抵抗加熱ボート、金属Li等の蒸着源をそれぞれ順番に加熱して形成される。
【0040】
陰極電極8は、通常、電子注入層6において用いられる材料よりも仕事関数の大きい(例えば、4eV以下)、金属材料、合金若しくは金属酸化物又は電気伝導性化合物を単独又は組み合わせて成膜することによって形成される。なお、陰極電極8として、電子注入層6との組み合わせにおいて、陽極電極2に有用なITO等の光透過性の高い金属酸化物を使用することができる。この場合には、陽極電極2として、光透過性の高い金属酸化物の他に光透過性の低い金属材料を使用することができる。
【0041】
更に、本実施形態の有機EL素子としては、マルチフォトンエミッション(MPE;Multi-Photo-Emission)型の有機EL素子の有機発光層に、上記クマリン系化合物を適用した構造のものも挙げることができる。このMPE型有機EL素子は、高輝度を得るために、例えば上記有機EL層7を中間導電層(あるいは電荷発生層)を介して積層させる構造になっている。ここで、中間導電層は、五酸化バナジウム(V)、インジウム亜鉛酸化物(InZnO)、あるいは、これ等の酸化物と有機物の混合層により形成される。
あるいは、上記有機EL素子に限らず、有機発光層4は、電子輸送層5と有機発光層4が一体となった電子輸送性発光層となっていてもよい。更には、上記有機EL素子において、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層等が更に積層された構造であってもよい。
【0042】
このように、本実施形態の有機EL素子は、基板上に、陽極、有機発光層及び陰極、さらには、必要に応じて、正孔注入/輸送層、電子注入/輸送層及び/又は電子/正孔の阻止層を隣接する層と互いに密着させながら一体に形成することによって得られる。
【0043】
上記有機EL素子の動作は、周知のとおり、本質的に、電子及び正孔を互いに対向する陰極電極8および陽極電極1からそれぞれ注入する過程と、電子及び正孔が有機化合物等の固体から成る有機EL層7中を移動する過程と、電子及び正孔が有機発光層4において結合し、一重項励起子又は三重項励起子を生成する過程と、その励起子が、有機発光層4中のクマリン系化合物を励起状態にし、その励起状態が基底状態へ戻るときに放出される蛍光を発光する過程とからなる。
【0044】
上記有機EL素子では、発光輝度および発光効率が高い赤色発光ピークを有する赤色系発光が実現できる。また、そのピーク位置の調節が極めて容易にできるようになる。
【0045】
以下、この発明の実施形態につき、実施例を挙げてその具体例について更に説明する。本発明は、その趣旨を超えない限り以下の実施例に制約されるものではない。
【実施例1】
【0046】
〈クマリン系化合物I〉
反応容器において、式(4)で示されるクマリン系化合物を0.16g、10mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、シアン化ナトリウムを0.04g加え、室温にて1時間攪拌した。そして、臭素を溶解させていたDMF溶液を1ml加え、0℃まで冷却して1時間攪拌した。その後、反応を止めるために100mlの飽和重曹水に注いだ。そして、析出した固体をろ過し、ろ過紙上に残った固体から酢酸エチルにより必要な化合物を抽出した。更に、溶媒を除去しカラムクロマトグラフィー(使用:シリカゲル、展開液:ジクロロメタン)で精製し、紫色の固体0.12gを得た。更に、再結晶を行い、式(5)で示される紫色の固体であるクマリン系化合物Iを0.07g(収率40.4%)得た。
【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
このクマリン系化合物Iの特性評価では、式(5)で示されるクマリン系化合物Iをアセトンに溶解し、そのフォトルミネセンス(PL)の蛍光スペクトルについて調べた。その結果は図2に示している。図中の化合物1が式(5)で示されるクマリン系化合物Iに相当し、図中の化合物3が式(4)で示されるクマリン系化合物に相当する。図2の化合物1の実線に示すように、クマリン系化合物IのPLの蛍光ピークの波長は590nmであった。なお、式(4)で示されるクマリン系化合物の場合のPL蛍光スペクトルは、図2の破線で示すようにそのピーク波長は509nmであった。
また、クマリン系化合物Iの光吸収スペクトルは、図4に示した後述のクマリン系化合物IIの場合と同様であり、波長460nm付近の可視領域に吸収極大(吸収ピーク)を有する。
【実施例2】
【0050】
〈クマリン系化合物II〉
反応容器内において、上記再結晶を行い得られた紫色の固体である、前記式(5)に示したクマリン系化合物Iを0.05g、テトラヒドロフラン(THF)5mlに溶解し、濃硫酸5mlを加えて、攪拌しながら1時間加熱還流した。その後、攪拌しながら室温まで放冷し、冷却水10mlをゆっくりと加えた。その後、ジクロロメタンを加えて抽出を行った。抽出したジクロロメタンを減圧濃縮した後、得られた粗生成物を再結晶(使用:エチルアルコール)で精製し、式(6)で示される赤色の固体であるクマリン系化合物IIを0.014g(収率26.7%)得た。
【0051】
【化12】

【0052】
この特性評価では、式(6)で示されるクマリン系化合物IIをアセトンに溶解し、そのPLの蛍光スペクトルと、光吸収スペクトルについて調べた。その結果は、それぞれ図3および図4に示している。図中の化合物2が式(6)で示されるクマリン系化合物IIに相当し、図中の化合物3が式(4)で示されるクマリン系化合物に相当する。図3の化合物2の実線に示すように、PLの蛍光ピークの波長は524nmであった。なお、式(4)で示されるクマリン系化合物の場合のPL蛍光スペクトルは、図3の破線で示すようにそのピーク波長は505nmであった。また、図4に示しているように、クマリン系化合物IIの光吸収スペクトルでは、波長460nm付近の可視領域に吸収ピークを有する。なお、式(4)で示されるクマリン系化合物の場合の吸収ピークは、450nm〜460nmである。
【実施例3】
【0053】
〈有機EL素子〉
石英ガラスから成る基板1上において、膜厚が160nmの陽極電極2をパターニングして形成し、その上に真空蒸着法により膜厚が60nmのα−NPDを有機物成膜用金属マスクを用いて成膜し正孔輸送層3とした。連続して、Alq3をホスト化合物とし、式(5)で示されるクマリン系化合物Iをドーパントにし、真空蒸着法により膜厚が40nmの有機発光層4を有機物成膜用金属マスクを用いて成膜し形成した。更に、同一の真空蒸着装置において、膜厚が40nmのAlq3を有機物成膜用金属マスクを用いて成膜し電子輸送層5とした。そして、上記真空蒸着装置内で膜厚が0.7nmのLiFを成膜し電子注入層6を形成した。最後に、スパッタリングで膜厚が150nmのアルミニウムを成膜し陰極電極8を形成した。
【0054】
上記有機EL素子の初期特性の測定では、印加電圧が10Vにおいて、エレクトロルミネセンスの発光は赤色でありピーク波長は629nm近傍であった。そして、発光輝度は150cd/mであり、発光効率は1.6cd/Aであった。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態にかかる有機EL素子を示す略断面図である。
【図2】本発明の実施例1で作製したクマリン系化合物Iのフォトルミネセンスによる蛍光スペクトル図である。
【図3】本発明の実施例2で作製したクマリン系化合物IIのフォトルミネセンスによる蛍光スペクトル図である。
【図4】本発明の実施例1及び2で作製した上記クマリン系化合物の光吸収スペクトル図である。
【符号の説明】
【0057】
1 基板
2 陽極電極
3 正孔輸送層
4 有機発光層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 有機EL層
8 陰極電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R1およびR2は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。)で示されるクマリン系化合物。
【請求項2】
一般式(2):
【化2】

(式中、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。)で示されるクマリン系化合物。
【請求項3】
対向する一対の電極間に少なくとも有機発光層を有し、該有機発光層が一般式(1)あるいは一般式(2):
【化3】

【化4】

(式中、R1、R2、RおよびRは、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アルキル基もしくはアリール基、あるいはフェニル基やチオフェン基などの共役芳香環基や複素環基を表し、隣接する二つの基が結合して環を形成し、共役縮合芳香環、複素環あるいは複合環を形成していてもよい。)のクマリン系化合物を含んで成ることを特徴とする有機電界発光素子。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−84480(P2007−84480A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274929(P2005−274929)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】