説明

クメルマイシン/ノボビオシン調節遺伝子発現系

【課題】 キメラトランス活性化因子は、転写活性化ドメイン、リプレッサー蛋白質DNA結合ドメイン、および細菌DNAジャイレースBサブユニットを含む。標的遺伝子は、リプレッサー結合ドメインによって認識されるオペレーターDNA配列に作動的に連結する。抗生物質クメルマイシンを添加すると、クメルマイシンがスイッチとなってトランス活性化因子が二量体化し、次いでこの因子はオペレーターDNA配列に結合し、標的遺伝子の転写を活性化する。ノボビオシンを添加すると、トランス活性化因子のクメルマイシンにより誘導された二量体化が無効になることによって標的遺伝子の発現がスイッチオフされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子発現の調節に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物での遺伝子発現を遺伝子操作することには、特定の遺伝子およびその産生物の機能研究、ならびに創薬および遺伝子治療での応用への大きな可能性がある。遺伝子調節系は、基礎活性は低くても、その発現誘導に対する応答が高度かつ特異的であるのが理想である。さらに、所与の遺伝子の発現は用量応答的であるのが好ましく、そのような系であれば、スイッチの可逆的なオンまたはオフが即座に可能の筈である。これは、遺伝子治療にとって特に有益であり、遺伝子治療では特定の遺伝子発現のタイミングおよびレベルを薬理学的に制御しそれらを治療範囲内に収めることがある種の疾病にとっての必須事項である。
【0003】
近年、哺乳動物細胞用の誘導系が数種類開発されている。これらの系には変異体が存在し、例えばFK506/ラパマイシン、RU488/ミフェプリストン、エクジソン誘導系、およびテトラサイクリン(Tet)誘導系が挙げられる(非特許文献1〜4)。現在、in vivoでの遺伝子発現の調節には、Tet誘導系が最も一般的に使用される。このTet系では、in vivoでの発現が著しく改良されており、発現の基礎レベルは低減され、発現の誘導能は高められている(非特許文献5)。
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この系の1つの大きな欠点は、その発現誘導物質に対する有効なアンタゴニストが無いことであり、たとえば、強力な発現誘導物質ドキシサイクリンのin vivoでの半減期はかなり長くなる(約24時間)(非特許文献6)。迅速かつ効率的なオン/オフスイッチングが例えば遺伝子治療のためや特異遺伝子の発現を罹患中に正確に調節するために不可欠である場合には、この系の使用はこの薬物動態学的特性の理由により忌避される(非特許文献1)。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、転写活性化ドメイン、リプレッサー蛋白質DNA結合ドメイン、および細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)を含む生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質をコードする組換え核酸分子を提供する。生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質は、標的遺伝子の転写を活性化するように設計され、その標的遺伝子にはオペレーターDNA配列が作動的に連結しており、この配列がリプレッサー蛋白質のDNA結合ドメインによって認識される。生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質は基礎活性が低く、このことは生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質を有効にしない限り標的遺伝子の転写はほとんど起こらないことを意味する。
【0006】
有効量のクメルマイシンを加えた場合には、クメルマイシンによってGyr Bの二量体化がスイッチされ、トランス活性化因子がオペレーターDNA配列に結合可能となり、その結果標的遺伝子の転写が活性化する。有効量のノボビオシンが加えられた場合には、生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質は無能になる、すなわちクメルマイシンによって誘導された生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質の二量体化がノボビオシンにより無効にされ、その結果標的遺伝子の発現はスイッチングオフになる。
【0007】
この系は、安定な哺乳動物細胞株における遺伝子発現を緊密に調節するのに有効であり、したがって遺伝子発現の迅速なオン/オフスイッチングが必要な適用例、例えば遺伝子治療に有用である。
【0008】
したがって、本発明は、リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)、および転写活性化ドメインを含む生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードする核酸分子を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)、および転写活性化ドメインを含む生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードしかつ発現制御配列に作動的に連結した核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0010】
さらに、本発明は、リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)、および転写活性化ドメインを含む生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードしかつ発現制御配列に作動的に連結した核酸分子を含む発現ベクターを含有する宿主細胞を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)、および転写活性化ドメインを含む生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードする核酸分子を含む発現ベクターを医薬的に適切な担体中に含むキットを提供し、このキットにおいて発現ベクターは、疾病を予防しまたは治療するために、外用で、経口で、小胞内的に、経鼻で、気管支内に、または消化管中に投与し、あるいは器官内、体腔内、筋系内、皮下、または循環血内に注入される。
【0012】
さらに、本発明は、リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)、および転写活性化ドメインを含む生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードしかつ発現制御配列に作動的に連結した核酸分子を含む発現ベクターを宿主細胞中に導入するステップ、前記発現ベクターによってコードされた生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質を発現させるステップ、前記標的遺伝子の発現を増大させるために、前記細胞に有効量のクメルマイシンまたはその誘導体を導入するステップ、および前記標的遺伝子の発現を低減させるために、前記細胞に有効量のノボビオシンまたはその誘導体を導入するステップを含む、宿主細胞中での標的遺伝子の発現を調節する方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、治療用遺伝子産生物の発現を、当該治療用遺伝子産生物を必要とする患者に応じて調節する方法であって、リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)、および転写活性化ドメインを含む生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードしかつ発現制御配列に作動的に連結した核酸分子を含む発現ベクターを患者に導入するステップ、有効量のクメルマイシンまたはその誘導体で患者を治療するにあたり、前記クメルマイシンが前記生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質に結合し、それによって前記治療用遺伝子産生物をコードする遺伝子の発現が活性化される治療ステップ、および有効量のノボビオシンまたはその誘導体で患者を治療するにあたり、前記ノボビオシンが前記生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質に結合し、それによって転写が阻止され、前記治療用遺伝子産生物をコードする遺伝子の発現が不活性化される治療ステップ、を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
遺伝子発現の調節のための正確で効率的なオン/オフ交換の要件を充足するために、本発明者らは発現誘導物質および対向誘導物質としてクマリン抗生物質の使用を調査してきた。クメルマイシンは、ストレプトミセスの天然産生物であり、メチルピロールリンカーによって連結し、同様に置換された2個のクマリン環からなる(非特許文献7)。関連抗生物質ノボビオシンは、クメルマイシンのモノマーとみなすことができる。クメルマイシンとノボビオシンは、細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)のアミノ末端サブドメイン(24K)に結合し、細菌の増殖を阻害する(非特許文献8)。クメルマイシンは、Gyr Bに化学量論比1:2で結合するが、その単量体であるノボビオシンはGyr Bに1:1割合で結合し、したがってクメルマイシンはGyr Bの天然二量体化物質として作用するが、ノボビオシンがクメルマイシンに対するアンタゴニストとして作用するには二量体化したGyr Bは解離される(非特許文献9)。クメルマイシン誘導体がGyr Bに結合する場合にはこれを二量体化することができ、クメルマイシン誘導体がGyr Bに結合する場合にはその二量体化を阻止することができるのであれば、このこともこの系にとって好都合である。
【0015】
クメルマイシンを有効な発現誘導物質にするためには、リプレッサー蛋白質DNA結合ドメインを使用するのがよい。リプレッサー蛋白質は、その二量体化ドメインを削除された場合も、オペレーターDNAに結合する能力を保持していることが望ましい。λリプレッサー(λR)、すなわちバクテリオファージλのcI遺伝子産生物は適切なリプレッサー蛋白質の一つである。そのホモ二量体しかλオペレーター(λOP)DNAに結合することができないからである(非特許文献10)。λRは、N末端ドメイン(残基1〜92)およびC末端ドメイン(残基132〜236)から構成される(非特許文献11)。リプレッサーのN末端ドメイン自体もリプレッサーを二量体化する弱い活性を保持しているが、ホモ二量体化はC末端ドメインにより促進され、主としてこれによって2個のN末端ドメインがオペレーターDNAに結合する(非特許文献12)。そこで本発明者らは、クマリンによって調節されるキメラトランス活性化因子を構築するにあたり、λRのN末端ドメインをGyr Bに融合した後にそのC末端に転写活性化ドメインを融合した。適切な転写活性化ドメインには、転写因子NFκBp65、VP16、B42、およびGa14のドメインが挙げられる。ここでは、そのようなクメルマイシン/ノボビオシン調節遺伝子発現系の開発を説明し、基礎活性を減少させるためにλRに定方向変異を誘発すると共に、キメラλR−Gyr Bトランス活性化因子の二量体化を介してクマリン抗生物質により、in vivoでの遺伝子の発現が効果的かつ可逆的に調節されることを実証する。この新しい誘導可能な遺伝子発現系に従えば、機能ゲノム研究は促進され、またこの調節される遺伝子発現の有用性は、特に迅速かつ徹底的なオン/オフスイッチングを必要とする遺伝子治療ならびに他の適用例に拡大される筈である。
【0016】
近年、多数のシグナル伝達経路の特徴が、クメルマイシンにより誘導されるGyr B融合蛋白質の二量体化によって説明されている(非特許文献7、19)。こうした報告と同様に、クメルマイシン/ノボビオシンを使用してキメラλR−Gyr Bトランス活性化因子の二量体化をスイッチすることには、いくつかの有利な特性があり、in vivoでの遺伝子の発現においてある種の利点がもたらされる。第一に、クメルマイシンおよびノボビオシンはGyr Bへの結合親和性が高い(Kd 3−5×10−8M)(非特許文献20)ので、極めて低濃度であってもこれらクマリンの潜在活性によりGyr Bの二量体化は誘導および抗誘導される。実際、本発明者らは、クメルマイシンが0.5nM程度の低い濃度であっても、λR−Gyr Bトランス活性化因子の二量体化を介してかなりの遺伝子発現を誘導することができることを見出した。第二に、原核生物の酵素に対するこれらのクマリン抗生物質の特異性は十分に確立されており、これ程高い親和性を持った内在性結合標的は哺乳動物細胞中には存在しないことが知られている。これが、クメルマイシンを哺乳動物細胞での遺伝子発現を調節する誘導物質として非常に好都合なものにしている。第三に、クメルマイシンおよびノボビオシンは、in vivoで優れた薬物動態特性を示し、報告されている血清半減期はクメルマイシンでは5.5時間であり(非特許文献21)、ノボビオシンは6時間である(非特許文献22)。さらに、ノボビオシンは抗生物質としての使用が臨床的に認可されている。クメルマイシンに関しては、抗菌活性を効果的に発揮する濃度での詳細な動物試験によって、明白な毒性がないことも判明している。現在の系で、本発明者らは、クメルマイシンが0.5nM〜50nMの濃度というin vivo薬物投与ではかなり広い用量範囲で遺伝子の発現を効果的に誘導できることを実証している。この用量範囲でクメルマイシンが発現を誘導する濃度は、in vivoで細胞毒性を引き起こす用量の20μMよりはるかに低い。しかし、クメルマイシン用量が高くなる(>0.5μM)に伴い、この系での遺伝子発現の誘導は減少する(図4A)。これは、クメルマイシン濃度が高くなるとその過剰な薬物がGyr B二量体を解離するためである。
【0017】
Tet誘導系に比較して、λR−Gyr B系によって得られる一つの利点は、遺伝子発現を制御するオン−オフスイッチングが非常に迅速なことである。この系の2つの特異な性質が、この有益な機能に貢献している。第一に、先に述べたクメルマイシンおよびノボビオシンは、in vivoでの半減期が非常に短く(6時間)、それはTet誘導物質ドキシサイクリン(12〜24時間)の約1/3である(非特許文献23)。さらに重要なことには、このλR−Gyr B系では、クメルマイシンの単量体形であるノボビオシンはクメルマイシン誘導性遺伝子発現を遮断する抗誘導物質として使用できるので、この研究で実証したように(図5B)、ノボビオシンはクメルマイシンに対する有益なアンタゴニストとして薬物誘導性遺伝子発現を迅速に停止することができる。Gyr Bへのノボビオシンの結合親和性はクメルマイシンのそれと匹敵するが、クメルマイシンにより誘導される遺伝子発現を完全に遮断するために必要なノボビオシンの濃度はクメルマイシンの濃度の約1000倍である。これは、Raf−Gyr B二量体の解離についての先の報告に一致する(非特許文献24)。これに関する一つの説明によれば、クメルマイシンはナノモル濃度(1nM)であってもGyr B分子(約2nM)を二量体化するのでオペレーター部位に結合して活性化するのに十分であるが、ノボビオシンは細胞中に存在する全てのGyr B分子を飽和してそれらの二量体化を阻止し、二量体化したGyr B分子はクメルマイシンとの競合を介してそれらを解離しなければならない。細胞中に蓄積するGyr B分子の総濃度は、この誘導系で二量体化したGyr B分子をはるかに超える可能性がある。
【0018】
このλR−Gyr Bベースの系の誘導能は、他の調節された遺伝子発現系と同様に、トランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)の活性化効力および基礎発現の規模に依存しており、後者はクメルマイシン非存在下でのλR−Gyr B本来の二量体化能が主として関与する。既に報告されているように(非特許文献12)、野生型λRのN末端ドメインには、ヘリックス5−ヘリックス5の相互作用を介して本来の二量体化能が相当量保持されているので、この系での基礎発現レベルは高くなる。したがって、本発明者らがこのドメイン中の関連残基にランダムな変異を誘発してみたところ、多数の変異によって基礎レベルがかなり低減することが見出された。変異体25と特徴づけられた、多くの変異構築体の1つに存在するSer92をGlyへの単一変異によって、クメルマイシン非存在下の基礎発現レベルが著しく低減したように見えたが、野生型に匹敵する活性が維持されていた。したがって、アポトーシスBax遺伝子の誘導発現にとって安定な細胞系をリード発生することによって実証したように、このS92G変異体によりこのλR−Gyr Bベース遺伝子調節系は非常に望ましい特性を得る。293A細胞中でCMVの強力な最初期プロモーターを使用する方が、比較的に弱いSV40初期プロモーターに比較して背景が著しく高くなった(データ表示せず)ことは注目に値し、これはおそらくCMV指導によりトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)が高レベルに発現し、細胞中でキメラλR−Gyr Bトランス活性化因子の濃度依存的な自動二量体化が誘発されたためであろう。このような理由で、本発明者らは、キメラλR−Gyr Bトランス活性化因子の構成的な発現にSV40初期プロモーターを使用している。他の適当なプロモーターには、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、EF1、チミンキナーゼ(TK)遺伝子からのプロモーターが挙げられる。比較的弱いSV40初期プロモーターによって制御されるトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)の活性効力を増大するために、基礎SV40初期プロモーター配列とCMV由来TATAボックス配列の間に少なくとも1個の、好ましくは4個のλOP部位を挿入して正の調節フィードバック構築体を設計した。したがって、変異λR、例えばS92Gを含むクマリンにより調節されるこのλR−Gyr B発現系は、非常に高いレベルの誘導能を呈し、遺伝子発現の迅速で可逆的なオン−オフスイッチングを実現する。この系は、使用が報告されている他の調節系を相補することができ、その場合には開発中の特異的遺伝子の正確な発現調節および遺伝子治療に特に有益であることが証明される筈である。
【0019】
このクメリン(coumerin or coumarin)調節遺伝子発現系を作出するためには、キメラトランス活性化遺伝子を含む発現カセットを作出する。発現を調節すべき遺伝子、すなわち導入遺伝子とこの系を含ませる発現カセットは同一であっても、別々であってもよい。
【0020】
どんな発現ベクターまたは組込み発現ベクターも、このクメリン調節系用の発現カセットを作出するために使用してよい。このカセットは、他の任意の発現用ベクターに移動させることができ、この目的のために特に適当なウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、および単純ヘルペスI型ウイルスが挙げられる。
【0021】
この発現カセットは、in vivoでおよびin vitroで細胞に送達してよく、医薬上適当な担体によってヒトに送達してもよい。当業者は、投与部位や経路などの要因に応じて、様々なベクター、ならびに他の発現および送達成分の中から選択することができる。たとえば、リポソームや非リポソーム脂質試薬など、形質移入試薬と組み合せて、発現プラスミドベクターを直接組織に注入し、または静脈内投与によって導入してよい。しかし、発現カセットはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスI型ウイルスなど、ウイルスベクターを使用して送達するのが好ましい。
【0022】
発現カセットおよびベクターは、患者を治療処置するために、医薬上適切な担体と共にキットの形で利用してもよい。
【0023】
(図面の詳細な説明)
図1A。誘導物質クメルマイシンの存在下で構成的に産生したキメラトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)を二量体化しλOPに結合させて、導入遺伝子をオンにし、活性化ドメイン(AD)を遂行することによってキメラトランス活性化因子自体の発現を即座に増大させる。細胞にノボビオシンを添加すると二量体化トランス活性化因子の解離が生じて、導入遺伝子のスイッチがオフになり、トランス活性化因子の構成的発現がもたらされる。
図1B。それぞれ、クメリン調節導入遺伝子(Luc)およびトランス活性化因子λR−Gyr B−ADを別々に発現させるために、pLucおよびpGyr Bと名付けた2個のプラスミドを設計する。
図1C。クメリン調節導入遺伝子およびトランス活性化因子用の2個の発現カセットを1個のプラスミドpLUR(pCUR)の中に構築した。TATA:CMVミニプロモーター、AD:p65−NFkBの転写活性化ドメイン、λop:λリプレッサー結合部位。
図2A。2個のプラスミドpGFPおよびpGyr B(二重プラスミド、各0.5μg)、あるいはGFP遺伝子を含む1個のプラスミドpCUR(1.0μg)(単一プラスミド)のどちらかを293A細胞中に一時的に形質移入した。形質移入から3時間後にクメルマイシン(5nM)を加え、さらに40時間後に写真を撮った。
図2B。2個のプラスミドpLucおよびpGyr B(DP、各0.2μg)、あるいはLuc遺伝子を含む1個のプラスミドpCUR(0.4μg)(SP)のどちらかを、それぞれ、293A細胞に一時的に形質移入した。クメルマイシン(5nM)による誘導の40時間後、三通りでルシフェラーゼ活性を測定した。示した結果は、三通りの定量の平均および3個の実験の代表である。ウミシイタケのルシフェラーゼを構成的に産生するpRL−TKベクターを同時形質移入することによって形質移入効率を規準化した。
図3。レポータープラスミドpLucを安定的に形質移入した細胞に、野生型λRあるいはその変異クローン25(S92G)、33(V91C/S92W)、54(V91L/S92E)、64(V91L/S92L)、76(V91C/S92F)、および77(V91T/S92T)のいずれかを含むプラスミドpGyr B(0.2μg)を一時的に形質移入した。ウミシイタケのルシフェラーゼを構成的に産生するpRL−TKベクターを同時形質移入することによって形質移入効率を規準化した。形質移入から3時間後、形質移入細胞をクメルマイシン(5nM)で40時間誘導し、溶解した細胞のルシフェラーゼ活性を測定した。示した結果は、三通りの定量の平均および3個の実験の代表である。
図4A。変異体S92Gを安定的に形質移入することによって得られたクローン5の細胞を様々な濃度のクメルマイシンで40時間誘導した。
図4B。同じ細胞を5nMのクメルマイシンによって示した通り様々な時間誘導した。結果は、三通り実施した2種の独立した実験を表す。
図5A。安定したクローンS92G−5の細胞を5nMのクメルマイシンと共に様々な濃度のノボビオシンによって40時間誘導し、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果は、三通り実施した2種の独立した実験を表す。
図5B。安定したクローンS92G−5の細胞を最初にクメルマイシンで11時間誘導し、次いでノボビオシンを加えて終濃度を2.5μMにした。異なる時点で、細胞を収集してルシフェラーゼ活性をアッセイした。示した結果は、三通りの定量の平均および3個の実験の代表である。
図6A。2個のプラスミドpGyr BおよびpBaxを安定的に形質移入して得られたクローンK562−Bax 65を使用した。細胞を36時間クメルマイシン(5nM)で誘導した。細胞のサイトゾル蛋白質画分(30μg)でマウス抗チトクロムCモノクローナル抗体によって(下枠)、または5×105個の細胞全体の細胞抽出物でマウスBaxに特異的反応性であるウサギポリクローナル抗マウスBax抗体によって(上枠)ウエスタンブロット分析を実施した。
図6B。アポトーシスK562−Bax細胞およびK562野生型細胞のフローサイトメトリー分析を36時間のクメルマイシン処理の有無下で実施した。
【実施例】
【0024】
手順および実施例
細胞培養、培地、および化学薬品
10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM培地でヒト胚腎293A細胞(ATCC)を5%CO中37℃で維持した。2.0mMのL−グルタミンおよび10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI1640培地でヒト慢性骨髄性白血病K562細胞(ATCC)を5%CO中37℃で維持した。安定293A細胞系を、それぞれ、200μg/mlもしくは150μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)、およびそれぞれ、1200μg/mlもしくは600μg/mlのG418(MultiCell)のどちらかで選択しまたは維持した。K562の安定細胞系を400μg/mlハイグロマイシンBで選択し維持した。
【0025】
クマリン応答性発現カセットpLuc、pGFP、およびpBaxの構築
XbaI部位を含むセンスプライマー、および制限部位AscIHpaIを含むアンチセンスプライマーを用いて、pUHD10−3ベクター(非特許文献13)から、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)の最初期遺伝子のミニプロモーター配列をPCRによって増幅した。増幅した配列をXbaI部位およびHpaI部位でpG5CAT(Clonetech)に挿入しpG5CMVを産生した。緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子をpEGFP−C1(Clonetech)からPCR増幅しpG5CMVに挿入してpG5CMV−GFPを得た。4個および12個のλオペレータードメインの複製(4×λOPおよび12×λOP)(14)は、2個の合成オリゴヌクレオチド:5'−TCGAGTTTACCTCTGGCGGTGATAG−3'(配列番号1)および5'−TCGACTATCAC CGCCAG AGGTAAAC−3'(配列番号2)をアニーリングし多重自己連結させることによって得た。4個および12個のλOPの複製に向けて多重自己連結産生物を選択し、XhoIおよびSalIで消化し、pG5CMV−GFP中の同じ部位にクローン化して4xλopGFPおよび12xλopGFP(pGFP)を産生した。ホタルルシフェラーゼ(Luc)コード配列(受入番号M15077)をLucベクター(Promega)からPCR増幅した。増幅した産生物をAscIおよびHpaIでp12xλopGFP中にクローン化しpLucを得た。同様に、マウスBaxコード配列(受入番号L22472)をPCR増幅し、AscIおよびHpaIでp12xλopGFP中にクローン化しpBaxを得た。
【0026】
キメラλR−Gyr Bトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)用発現カセットの構築
選択マーカーとしてネオマイシンまたはハイグロマイシンによりpcDNA3−λR−Gyr Bトランス活性化因子を構築するために、バクテリオファージλリプレッサー(λR)(非特許文献10)のN末端DNA結合ドメイン(残基1〜131個)をPCR増幅し、HindIII(クレノー末端平滑化)部位およびEcoRV部位でpcDNA3(Invitrogen)中にクローン化しpcDNA3λR131を産生した。アミノ末端24kサブドメイン細菌DNAジャイレースBサブユニット(Gyr B)(非特許文献8)を大腸菌DH5α株のゲノムDNAからPCR増幅してpGEMT−Gyr Bを産生した。pCMV−ADベクター(Stratagene)のプライマーの適当な制限部位によってp65NFкB活性化ドメイン(ADNFкB)をPCR増幅した。増幅した産生物をNcoIおよびXbaIでpGEMT−Gyr B中にクローン化しpGEMT−Gyr B−NFкBを産生し、これをさらにEcoRV部位およびXbaI部位でpcDNA3−λR131中にクローン化した。得られたプラスミドをpcDNA3−λR131−GryB−NFкBと名付けた。SV40プロモーターを目標としたクマリン応答性発現カセットを構築するために、ミニCMVプロモーター(非特許文献13)と共に4xλopを適当なプライマーにより4xλopGFPからPCRによって増幅した。SV40初期プロモーター(非特許文献15)を含むpMベクター(Clonetech)のNcoI部位およびSmaI部位中に増幅した断片をクローン化しpMSV40e−4xλop−CMVを産生した。λR131−GryB−NFкBカセットをpcDNA3−λR131−GryB−NFкBからPCR増幅し、pMSV40e−4xλop−CMV中にクローン化して、pMSV40e−4xλop−CMV−λR131−GryB−NFкBを産生しpGyr Bと名付けた。
【0027】
クマリンが調節する2個の遺伝子発現カセットを含むpCURの構築
キメラλR−Gyr Bトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)の発現カセットおよびクマリン応答性遺伝子の発現カセットを含む1個のプラスミドを構築するために、SV40e−4xλop−λR131断片をAatII平滑末端およびEcoRVで消化した後、pMSV40e4xλop−λR131−GryB−NFкBから単離し、NruI部位およびEcoRV部位でpcDNA3−λR131−GryB−NFкB中にクローン化し、pcDNA3−SV40e−4xλop−λR131−GryB−NFкBを産生した。次に、SmaI消化によって12xλopLuc断片をpLucから単離し、NdeI平滑末端でpcDNA3−SV40e−4xλop−λR131−GryB−NFкB中にクローン化し、pcDNA3−12xλopLuc−SV40e−4xλop−λR131−GryB−NFкBを産生し、これをpCURと名付けた。
【0028】
λリプレッサー131DNA結合ドメインの変異誘発
QuikChange(登録商標)Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)のメーカーが推奨するように、λ131DNA結合ドメインの残基84、91、および92でアミノ酸置換を実施した。手短に言えば、残基84、91、および92を包含する2本の42bpの相補性特異的プライマーを84、91、および92残基のそれぞれにVNN(V=A、C、GおよびN=A、C、G、T)コドンを含めて合成した。標準的サーマルサイクリング反応は、Pfu Turbo(Stratagene)を使用し鋳型DNA、pcDNA3−λR131−Gyr B−ADNFкBを用いて実施した。PCR産生物をDpnIで完全に消化し、XL2-Blue(Stratagene)に形質転換した。単一コロニーを単離し、配列決定してアミノ酸置換を確定した。第一に、pGFPを一時的に同時形質移入することによって変異クローンをスクリーニングして、誘導能および背景蛍光強度を評価した。293A細胞にpLucを一時的にまたは安定して同時形質移入することによって適切な候補をさらに評価し、その誘導能および基礎発現レベルを完全に特徴付けた。
【0029】
細胞系の安定した産生およびルシフェラーゼアッセイ
形質移入の前日に、指数関数的に増殖する293A細胞を60mm皿に8×10個播種し、SuperFect Kit(Qiagen)を使用し、5μgのXmnI直線化pLucおよび0.2μgのpcDNA3.1ハイグロマイシンを同時形質移入した。あるいは、細胞にPvuI直線化pCURを形質移入した。形質移入から2日後、細胞を100mm皿に交換し、適当な抗生物質で2週間選択した。さらにアッセイするために単一クローンを選択した。Luc活性をアッセイするために、1×10個の細胞を24穴プレート(Corning Inc. Costar)に播種し、直ちに5nMのクメルマイシンで誘導した。誘導40時間後、細胞を100μlの溶解緩衝液(Promega)で20分間溶解した。Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)を使用し、20μlの全細胞ライセートを使用してLuc活性を定量した。同時形質移入したpRL−TKから構成的に発現させたウミシイタケのルシフェラーゼの活性により推定した形質移入効率によって、レポーターホタルルシフェラーゼ活性を測定し規準化した。Bax遺伝子の誘導性発現には、野生型K562細胞に電気穿孔法を使用し、直線化pBaxおよびpGyr Bの5μgのDNAを形質移入した。細胞系をハイグロマイシンで選択し、抗Bax抗体を使用しウエスタンブロットによって可視化して誘導性状態および非誘導性状態の正のクローンをスクリーニングした。
【0030】
サイトゾル抽出物の調製および免疫ブロット
pBaxおよびpGyr Bを安定的に形質移入したK562(10)野生型およびK562細胞(10)を35mm皿に播種し5nMのクメルマイシンで誘導した。免疫ブロットには、誘導から36時間後、細胞を2×添加液で100℃、5分間溶解した。サイトゾル抽出物には、細胞(10)を播種し、誘導から36時間後、細胞を冷PBS(MultiCell)で2度洗浄し、続いて200×gで5分間遠心分離した。220mMのマンニトール、68mMのショ糖、50mMのパイプ−KOH、pH7.4、50mMのKCL、5mMのEGTA、2mMのMgCl2、1mMのEDTA、1mMのジチオスレイトール、およびプロテアーゼ阻害剤を含む300μlの抽出緩衝液に細胞ペレットを再懸濁した。氷上で30分間インキュベーション後、ガラス製ダウンスおよびBペスルを使用し細胞を80ストローク均質化した。均質化細胞を14,000×gで15分間遠心し上清を除去し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うまで−80℃で貯蔵した。サイトゾル蛋白質抽出物(30μg)を5分間煮沸し、15%SDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動させた。蛋白質をニトロセルロース膜(Hybond ECL)に移し、10%脱脂乳/TBST(10mMのTris−HCl、pH8.0、150mMのNaCl、0.05% Tween 20)中、室温で1時間ブロックした。既に報告されているように(非特許文献16)、マウスBaxに特異的に反応するように思われる、ウサギポリクローナル抗マウスBax抗体(Santa Cruz Biotechnology)、またはマウス抗チトクロムCモノクローナル抗体(BD pharMingen Technical)のどちらかで膜を検査した。2次抗体を西洋わさびペルオキシダーゼに複合化させた。
【0031】
フローサイトメトリー
35mm皿中の細胞(10)を5nMのクメルマイシンで36時間処理し、次いでアポトーシスを検出するためにAnnexin-V-Flous染色キット(Roche, Mannheim)を使用し染色した。励起源として488nmで15mWのアルゴンイオンレーザーを備えたCoulter EPICS(登録商標)XL−MCLフローサイトメーター(Beckman-Coulter, Hieleah, Fl)を使用し10,000個の細胞の分析を実施した。488nmのダイクロイック・ロング・パス・フィルタを用いて前方散乱および側方散乱パラメーターを使用し全細胞集団を選択した。550nmのダイクロイック・ロング・パス・フィルタおよび525nmの帯域フィルタセットを使用しFITC緑色蛍光発光を検出した。645nmのダイクロイック・ロング・パス・フィルタおよび620nmの帯域フィルタセットを使用し、ヨウ化プロピジウム(propidium iodide)染色した細胞から赤色蛍光を検出した。
【0032】
(実施例1)
キメラλR−Gyr Bトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)および標的導入遺伝子を発現させるための構築体
クマリン調節遺伝子発現系を構築するために、細菌ファージλリプレッサー(λR)のN末端ドメイン(コドン1〜131個を)をGyr Bドメイン(細菌DNAジャイレースのコドン2〜220)に融合した。転写活性化ドメインp65NFkBをさらにGyr BドメインのC末端に融合してキメラトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)を作製した。52個までの基礎SV40初期プロモーター配列(非特許文献15)およびCMVプロモーター(非特許文献13)のTATAボックスからなるハイブリッドプロモーターによってキメラトランス活性化因子の発現を制御する。さらに、λオペレーター(λOP)の4個の結合部位をSV40とTATAボックス配列間に挿入した。導入遺伝子の発現を調節するために、λオペレーター(λOP)部位(非特許文献14)の12個の複製をCMVミニ−プロモーター(非特許文献13)の直接上流に置いて下流の遺伝子の発現を制御した。この調節系では、ハイブリッドSV40−CMVプロモーターは、細胞でキメラトランス活性化因子の中程度の発現を構成的に指示する。クメルマイシンを添加するとトランス活性化因子の二量体化が誘導され、λRがλOP部位へ結合し、それによって正の調節フィードバック方式でトランス活性化因子の産生が増大し、標的導入遺伝子の発現が活性化される。クメルマイシンによって誘導されたトランス活性化因子二量体は、ノボビオシンを添加することによって解離し、それによって直ちに導入遺伝子の発現をオフにすることができる(図1A)。キメラトランス活性化因子の発現カセット、ならびにレポーター遺伝子(LucまたはGFP)を含むクメルマイシン/ノボビオシン応答性導入遺伝子の発現カセットは、同時形質移入するために、または安定した細胞系を2段階で確立するために、2個の別々のプラスミドpLucおよびpGyr B中に構築し(図1BのB)、あるいは好都合な誘導系統を1段階で確立するために1個のプラスミド(pCUR)中に構築する(図1BのC)。
【0033】
(実施例2)
キメラλR−Gyr Bトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)のクメルマイシン依存性機能特徴付け
キメラトランス活性化因子λR−Gyr B−NFkBが、遺伝子発現の誘導に関してクメルマイシン応答性であるかどうかを検査するために、本発明者らは2プラスミド誘導性および1プラスミド誘導性発現系の導入遺伝子発現カセット中に、ルシフェラーゼ(Luc)および緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードする2個のレポーター遺伝子をクローン化した。構築体は、一時的にHEK293A細胞中に形質移入した。形質移入細胞をクメルマイシンの添加によって40時間誘導した。図2Aに示す通り、GFP発現は293A細胞中両方の系で著しく誘導された。同様の結果が、レポータールシフェラーゼで観察された(図2B)。両カセットのルシフェラーゼ活性の誘導能は発光量比約50で匹敵する。この調節系のこの中程度の誘導能は、クメルマイシンの非存在下で、低くはあるけれど明白なGFPの発現によって示されるように、比較的高いその基礎活性によって少なくとも部分的に説明がつく(図2A)。
【0034】
(実施例3)
λリプレッサーDNA結合ドメインを変異させて内因性二量体化を排除
このλR−Gyr Bベース調節系の誘導効率を改善するために、基礎発現レベルを最小限に抑える努力を行った。主としてλRのC末端ドメイン残基132〜236が、リプレッサーのホモ二量体化を媒介しているが、N末端ドメインのへリックス5中の残基Ile−84、Val−91、Ser−92なども、λRがオペレーター(非特許文献12)へ結合するための二量体化に関与していることが知られている。293A細胞中で観察されたトランス活性化因子λR−Gyr B−NFkBの基礎活性は、ヘリックス5−ヘリックス5の相互作用に起因するように思われる。この誘導系の基礎活性を低減するために、本発明者らは、λRのヘリックス5−ヘリックス5の相互作用に潜在的に関与するIle−84、Val−91、およびSer−92の各残基ついてPCRに基づくランダム変異誘発を実施した。λR−Gyr B−NFkBトランス活性化因子中に位置するpGyr Bで100を超える潜在的変異構築体を発生させ、クマリン応答性ルシフェラーゼレポーター遺伝子(pLuc)を一時的に形質移入し、293A細胞中に入れてその基礎発現レベルおよび誘導能を評価した。クメルマイシンに応答して、これらの変異体の活性には劇的な変動が観察された。一般に、同定されたこれらの3個の部位の変異体では、親物質と比較すると低い誘導活性が示された。しかし、ほとんどの変異体の基礎発現レベルは野生型よりも著しく低かった。その誘導能を比較後、7種の変異構築体、すなわち、クローン25(S92G)、33(V91CおよびS92W)、54(V91LおよびS92E)、64(V91LおよびS92L)、76(V91CおよびS92F)、ならびに77(V91TおよびS92T)(表Iを参照)を選択してさらにその誘導能を研究した。そのために、クマリン応答性ルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定的に形質移入した293A細胞中にこれらの構築体を一時的に形質移入した。クメルマイシンで処理した形質移入細胞でルシフェレアーゼ活性を測定した。図3に示す通り、ほぼ全てのこれらの変異体は、クメルマイシンに応答して活性に多少の減少を示したが、野生型よりもその基礎発現レベルが減少したために、これらの変異体のほとんどで誘導の規模は著しく増大した。最も特筆すべき変異体S92G(#25)は、野生型に匹敵する誘導活性を示し、基礎発現レベルは非常に低く発光量比は1,460であった。同様の結果がHeLa細胞でも観察された(データ表示せず)。この変異体をさらに特徴付けるため、293A細胞で誘導系統を1段階で確立する目的で、S92G変異キメラトランス活性化因子をプラスミドpCURに組み込んだ。安定したクローンを選択し、そのクメルマイシン応答性を分析した。試験した50個全ての安定したクローンは、様々な誘導活性でクメルマイシンに応答した。基礎発現レベルが非常に低いために、単離したクメルマイシン応答性クローンの約30%で誘導の規模が3桁を超えることがルシフェラーゼ活性アッセイによって判明した。特に重要なものは、クローン23および44であり、これらはクメルマイシン処理後、発光量比が10,000を超えた(表II)。
【表1】

【0035】
λリプレッサーの3個の残基、Ile84、Val91、およびSer92をランダムに変異させた。列挙した7個のアミノ酸置換変異構築体は、高誘導能を示し、選択して特徴付けを行った。
【0036】
【表2】

【0037】
Luc遺伝子を含むpCURを細胞に安定的に形質移入した。試験した50個のネオマイシン耐性クローンの全てがクメルマイシン応答性であった。高誘導クローンを10個選択して、クメルマイシン(5nM)の非存在および存在下、その誘導能をルシフェラーゼ活性アッセイによって特徴付けた。値は、3種の別個の細胞培養から3個の別個のルシフェラーゼ定量の平均である。
【0038】
(実施例4)
安定な細胞系でのクメルマイシン応答、および誘導した発現のノボビオシンによる即時スイッチオフ
この誘導系の動力学的特性を安定な細胞系でさらに検査した。発現の用量応答性を研究するために、中程度の誘導能を示す安定な細胞クローンS92G−5において、様々な濃度のクメルマイシンで40時間処理した細胞のルシフェラーゼ活性をアッセイした。図4Aに示す通り、ルシフェラーゼの発現をクメルマイシンによって用量依存的に誘導した。0.5nM(約0.5ng/ml)程度の低い濃度の抗生物質でルシフェラーゼの発現が明らかに誘導されたことが観察された。最高の誘導は、濃度2.5〜5nMのクメルマイシンで実現した。クメルマイシンの誘導能は50nMの濃度で減少し、したがってこの薬物での誘導には(10倍を超える)相当広い用量範囲を利用することができる。誘導5時間後には、かなりのルシフェラーゼ活性が検出され(データ表示せず)、最高誘導能は誘導24時間後に観察された(図4B)。
【0039】
クメルマイシンのモノマーであるノボビオシンが、ルシフェラーゼのクメルマイシン誘導発現をスイッチオフできるかどうかを研究するために、293A細胞で様々な濃度のノボビオシンを5nMのクメルマイシンと共に40時間インキュベートした。ルシフェラーゼ活性のアッセイによって、ルシフェラーゼのクメルマイシン誘導性発現は、用量依存的に効果的に阻害されることが判明した。しかし、5μMのノボビオシンの濃度で、98%を超えるクメルマイシン誘導性ルシフェラーゼ発現が抑制された(図5A)。細胞増殖速度および細胞に形質移入したCMV−GFP構築体(データ表示せず)の一時的発現から判断する限り、10μMの濃度のクメルマイシンおよび25μMの濃度のノボビオシンが、いかなる検出可能な細胞毒性も及ぼさないことは注目すべきである。この誘導系に対するノボビオシンのスイッチオフ能をさらに実証するために、クローンS92G−5細胞を5nMのクメルマイシンで11時間誘導し、その後、ノボビオシンを2.5μMの濃度になるように培養に加えた。対照培地ではルシフェラーゼ活性は24時間を超えて継続的に増加したが、2.5μMの濃度のノボビオシンは、投与後4時間未満でルシフェラーゼのクメルマイシン誘導性発現をほぼ完全にスイッチオフしたことがルシフェラーゼアッセイによって示された(図4B)。これらの結果から、ノボビオシンが、この誘導系で導入遺伝子の発現を迅速有効に停止するクメルマイシンの適当なアンタゴニストであることが明瞭に実証された。
【0040】
(実施例5)
変異キメラトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)による、k562細胞でのアポトーシス遺伝子BAXの緊密に調節された発現
高レベルのBax(Bcl2関連X蛋白質)の発現によって、様々なヒト癌細胞でアポトーシスが誘発されることが報告されてきた(非特許文献17)。悪性造血細胞、例えばk562では、Baxが過剰発現すると形質移入細胞はチトクロムCの放出を経由してアポトーシスに至る(非特許文献18)。キメラトランス活性化因子(生物学的活性キメラ型トランス活性化蛋白質)が調節する遺伝子発現の緊密性を評価するために、前述の2プラスミド誘導系の導入遺伝子発現カセット中にアポトーシスBax遺伝子をクローン化した。プラスミドpGyr B中の野生型およびS92G変異体トランス活性化因子をpBaxプラスミドと共にK562細胞中に同時形質移入した。両プラスミドを収容する安定なクローンを単離し誘導後に特徴づけをした。ウエスタンブロット分析によって、Baxの高度誘導性発現を備えたクローンは、野生型トランス活性化因子形質移入細胞ではほとんど同定されないことが判明した。単離したクローンの大部分が、Baxの更なる誘導性発現も示さず、または誘導性発現も示しても貧弱だったからである(データ表示せず)。しかし、Baxの誘導性発現が高いクローンは、トランス活性化因子変異体S92Gを形質移入した細胞から容易に単離された。図6Aに示す通り、1つの代表的なクローンS93G−Bax 65から、36時間クメルマイシンで処理した細胞でBaxの発現が著しく誘導された。同時に、36時間のクメルマイシン処理に応答して、ミトコンドリアから相当量のチトクロムcが放出された。蛍光標示式細胞分取器(FACS)分析によって、薬物は親細胞では細胞死をさらに誘導しないが(図6B、上枠)クメルマイシンでS93G−Bax65細胞を処理すると、アポトーシス細胞画分は6.7%から45.5%に増加する(図6B、下枠)ことが一貫して裏付けられ、これはTet系で観察された結果に匹敵する結果である(非特許文献18)。変異S92Gトランス活性化因子を有するこの系は、クメルマイシンによって緊密に調節されて、哺乳動物細胞中でアポトーシス誘導性遺伝子を発現することをこれらの結果は実証している。
【0041】
略語:GFP:緑色蛍光蛋白質、Gyr B:細菌DNAジャイレースBサブユニット、CMV:ヒトサイトメガロウイルス、λR:λリプレッサー、λOP:λオペレーター、FACS:蛍光標示式細胞分取器
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1A】クマリン調節系の模式図である。
【図1B】Bは発現ベクターの可能な一実施形態を例示するマップである。Cは発現ベクターの可能な第2の実施形態を例示するマップである。
【図2A】二重プラスミド発現ベクターおよび単一プラスミド発現ベクターが293A細胞でGFP遺伝子を活性化する能力を試験した結果である。
【図2B】二重プラスミド発現ベクターおよび単一プラスミド発現ベクターが293A細胞でルシフェラーゼ遺伝子を活性化する能力を試験した結果である。
【図3】変異λリプレッサーを含むトランス活性化因子の基礎活性およびクメルマイシンにより誘導された活性を試験したアッセイの結果である。
【図4A】様々な濃度のクメルマイシンでルシフェラーゼ遺伝子の活性化を試験したアッセイの結果である。
【図4B】72時間にわたりクメルマイシンによるルシフェラーゼ遺伝子の活性化を試験したアッセイの結果である。
【図5A】様々な濃度のノボビオシンでルシフェラーゼ遺伝子の活性化を試験したアッセイの結果である。
【図5B】50時間にわたりクメルマイシン単独の存在下およびクメルマイシンとノボビオシンの存在下でルシフェラーゼ遺伝子の活性化を試験したアッセイの結果である。
【図6A】クメルマイシン処理の有無による、k562細胞の細胞溶解液およびサイトゾル蛋白質画分のウエスタンブロット分析を示す図である。
【図6B】クメルマイシン処理の有無によるk562細胞のフローサイトメトリー分析を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)リプレッサー蛋白質の二量体化不能な機能性DNA結合ドメイン、
b)細菌DNAジャイレース(gyrase)Bサブユニット(Gyr B)、および
c)転写活性化ドメイン、
を含む、生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質をコードする核酸分子。
【請求項2】
前記転写活性化ドメインが、NFκBp65、VP16、B42、およびGa14からなる群から選択される、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記転写活性化ドメインが、NFκBの転写活性化ドメインである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記リプレッサー蛋白質が、バクテリオファージλリプレッサーである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記バクテリオファージλリプレッサーのDNA結合ドメインが、1〜131個のアミノ酸を含む、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記細菌DNAジャイレースBサブユニットが、2〜220個のアミノ酸を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項7】
前記トランス活性化(因子)蛋白質の基礎活性を低減するために、Gyr Bの少なくとも1個のアミノ酸を変異した、請求項1〜6のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項8】
Gyr Bの前記変異が、V91CおよびS92W、V91LおよびS92E、V91LおよびS92L、およびS92Gからなる群から選択される、請求項7に記載の核酸分子。
【請求項9】
Gyr Bの前記変異がS92Gである、請求項7に記載の核酸分子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の核酸分子によってコードされた生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の核酸分子において発現制御配列に作動的に連結した核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項12】
前記発現制御配列が、構成的プロモーターを含む、請求項10に記載の発現ベクター。
【請求項13】
前記プロモーターが、SV40、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、EF1、およびチミンキナーゼ(TK)の遺伝子に由来するプロモーターからなる群から選択される、請求項11に記載の発現ベクター。
【請求項14】
前記プロモーターがSV40である、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記SV40プロモーターが、さらにCMVプロモーターTATAボックスを含む、請求項13に記載の発現ベクター。
【請求項16】
前記発現制御配列が、前記リプレッサー蛋白質のDNA結合ドメインによって認識される少なくとも1個のオペレーター配列を含む、請求項10に記載の発現ベクター。
【請求項17】
前記少なくとも1個のオペレーター配列が、バクテリオファージλオペレーター配列である、請求項15に記載の発現ベクター。
【請求項18】
さらに、標的遺伝子を含む、請求項10〜16のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項19】
前記標的遺伝子が、治療作用を有する蛋白質をコードする、請求項17に記載の発現ベクター。
【請求項20】
前記標的遺伝子が、リプレッサー蛋白質のDNA結合ドメインによって認識される少なくとも1個のオペレーター配列に作動的に連結している、請求項17または18に記載の発現ベクター。
【請求項21】
前記少なくとも1個のオペレーター配列が、バクテリオファージλオペレーター配列である、請求項19に記載の発現ベクター。
【請求項22】
前記ベクターがプラスミドベクターである、請求項10〜20のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項23】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項10〜20のいずれかに記載の発現ベクター。
【請求項24】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、および単純ヘルペスI型ウイルスベクターからなる群から選択される、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項25】
請求項10〜23のいずれか一項に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項26】
請求項10〜16のいずれか一項に記載の第1の発現ベクターを含み、さらに標的遺伝子を含む第2の発現ベクターをも含む宿主細胞。
【請求項27】
前記標的遺伝子が、治療作用を有する蛋白質をコードする、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項28】
前記標的遺伝子が、リプレッサー蛋白質のDNA結合ドメインによって認識される、少なくとも1個のオペレーター配列に作動的に連結している、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項29】
前記少なくとも1個のオペレーター配列が、バクテリオファージλオペレーター配列である、請求項27に記載の宿主細胞。
【請求項30】
前記宿主細胞が、内皮細胞、リンパ球、マクロファージ、造血細胞、線維芽細胞、筋細胞、肝臓細胞、腎細胞、消化管上皮細胞、呼吸器系上皮細胞、下部尿路上皮細胞、生殖器上皮細胞、皮膚上皮細胞、グリア細胞、神経系細胞、腫瘍細胞、および白血病細胞からなる群から選択される、請求項24〜28のいずれかに記載の宿主細胞。
【請求項31】
治療用薬剤を調製するための請求項29に記載の細胞の使用であって、疾病を予防しまたは治療するために、少なくとも1個の細胞を外用で、小胞内的に、経鼻で、気管支内に、経口で、または消化管中に投与し、あるいは器官内、体腔内、筋系内、皮下、または循環血内に注入することを含む使用。
【請求項32】
請求項10〜23のいずれか一項に記載の発現ベクターおよび医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項33】
宿主細胞中で標的遺伝子の発現を調節する方法であって、前記方法が、
a)前記宿主細胞中に請求項10〜23のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入するステップ、
b)前記発現ベクターによってコードされた前記生物学的活性キメラ型トランス活性化(因子)蛋白質を発現させるステップ、
c)前記標的遺伝子の発現を増大させるために、前記細胞に有効量のクメルマイシン(coumermycin)またはその誘導体を導入するステップ、および
d)前記標的遺伝子の発現を低減させるために、前記細胞に有効量のノボビオシンnovobiocin)またはその誘導体を導入するステップを含む方法。
【請求項34】
疾病を予防しまたは治療するために、外用で、経口で、小胞内的に、経鼻で、気管支内に、または消化管中に投与する、あるいは器官内、体腔内、筋系内、皮下、または循環血内に注入する、請求項10〜23のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項35】
請求項10〜23のいずれか一項に記載の発現ベクターおよび医薬上適切な担体を含むキットであって、疾病を予防しまたは治療するために、前記発現ベクターを外用で、経口で、小胞内的に、経鼻で、気管支内に、または消化管中に投与し、あるいは器官内、体腔内、筋系内、皮下、または循環血内に注入するキット。
【請求項36】
治療用遺伝子産生物の発現を、当該治療用遺伝子産生物を必要とする患者に応じて調節する方法であって、
(a)患者に請求項10〜23のいずれか一項に記載の発現ベクターを導入するステップ、
(b)有効量のクメルマイシンまたはその誘導体で患者を治療するステップであって、前記クメルマイシンが前記トランス活性化因子に結合し、それによって前記治療遺伝子産生物をコードする遺伝子の発現が活性化するステップ、および
(c)有効量のノボビオシンまたはその誘導体で患者を治療するステップであって、前記ノボビオシンが前記トランス活性化因子に結合し、それによって転写が阻止され、前記治療用遺伝子産生物をコードする遺伝子の発現が不活性化するステップ、を含む方法。


【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2006−526991(P2006−526991A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515586(P2006−515586)
【出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000854
【国際公開番号】WO2004/108933
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505454236)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (1)
【Fターム(参考)】