説明

クメンの酸化方法

【課題】 気泡塔反応器を用いた、クメンを酸素含有ガスにより酸化しクメンハイドロパーオキサイドを得る方法であって、高効率にクメンハイドロパーオキサイドを得ることができる方法を提供する。
【解決手段】 気泡塔反応器を用いて、クメンを酸素含有ガスにより酸化しクメンハイドロパーオキサイドを得る方法であって、該反応器に供給される該酸素含有ガスの反応器内での空塔速度が0.02m/sec以上0.1m/sec以下で供給することを特徴とするクメンの酸化方法。好ましくは、生成したクメンハイドロパーオキサイドを含む反応液をプロピレンと反応させてプロピレンオキサイドとクミルアルコールにし、該クミルアルコールを水素化分解反応によりクメンに変換し、再び気泡塔反応器にリサイクルする工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、気泡塔反応器を用いてクメンを酸素含有ガスにより酸化し、クメンハイドロパーオキサイドを得る方法であって、高効率にクメンハイドロパーオキサイドを得る酸化反応方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】気泡塔反応器を用いて、クメンを酸素含有ガスにより酸化する方法は公知である。反応器を設計する際に、反応器の塔径や高さは、同じ体積であっても自由に決めることのできるパラメータであるが、同じ体積の反応器容積であっても、反応器の設計によっては、反応速度や反応収率が大きく変化するという問題があった。
【0003】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、気泡塔反応器を用いて、クメンを酸素含有ガスにより酸化しクメンハイドロパーオキサイドを得る方法であって、該反応器に供給される該酸素含有ガスの反応器内での空塔速度が0.02m/sec以上0.1m/sec以下で供給することを特徴とするクメンの酸化方法に係るものである。
【0004】
【発明の実施の形態】本発明においては、気泡塔反応器内にあるクメンを含む液中に、酸素含有ガスを吹き込んで酸化反応が行われ、ガス中の酸素とクメンが反応し、クメンハイドロパーオキサイドが生成する。本発明においては、塔内に供給されるガス中の酸素が液に溶解し反応が進行するが、塔内のガスの空塔速度が0.02m/secより小さいと、酸素の液中への溶解速度が遅くなり、クメンハイドロパーオキサイド生成速度が酸素の液中への溶解律速となり、みかけの酸化速度が低下する。また、酸化速度の低下に伴い、好ましくない副反応が生じ、クメンハイドロパーオキサイド収率も低下する事が懸念される。(ここでいう、クメンハイドロパーオキサイド収率は、反応したクメンのモル数に対して、クメンハイドロパーオキサイドへ変換したモル数の割合を百分率で表示したものをいう。)主な副生物としては、アセトフェノン、クミルアルコール、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。
【0005】また、塔内のガスの空塔速度が0.1m/secより大きくなると、反応容積に対する気泡率が大きくなり、液の滞留時間が小さくなり反応速度が減少する。また、気泡塔塔頂の液面付近での発泡が大きくなり、条件によっては運転不能となる。
【0006】本反応条件においては、特に制限はないが、水/アルカリ性エマルジョン中での乳化酸化法が、クメンハイドロパーオキサイドの収率を向上させる観点から好ましい。乳化酸化法の場合、アルカリ性試薬としては、NaOH、KOHのようなアルカリ金属化合物や、アルカリ土類金属化合物又はNa2CO3、NaHCO3のようなアルカリ金属炭酸塩又はアンモニア及びNH4CO3、アルカリ金属炭酸アンモニウム塩等が用いられる。
【0007】また、反応液中のクメンハイドロパーオキサイド濃度は50重量%以下であり、クメンハイドロパーオキサイド濃度が50重量%を超えると、クメンハイドロパーオキサイドの収率が悪化する。
【0008】通常の反応温度は50〜200℃であり、反応圧力は大気圧から5MPaの間である。
【0009】本発明の気泡塔の内部構造は、ダウンカマーや多孔板を有してもよい。ここで、ダウンカマーとは、気泡塔の頂部付近から底部付近に液を下降して循環させる液の通路構造を指す。そして、通常、気泡塔内の液に容器の底部付近から酸素含有ガスを吹き込むことができる構造が用いられる。酸素含有ガスを気泡塔内に供給する方法は特に制限はないが、スパージャー等により均一に分散させるのが好ましい。
【0010】本発明の気泡塔の反応様式は、連続式、バッチ式どちらでもよく、複数の気泡塔を用いてもよい。複数の気泡塔を用いる場合、各気泡塔の反応温度を、塔内のクメンハイドロパーオキサイド濃度に応じて変えることは、クメンハイドロパーオキサイドの収率を高くする上で有効である。
【0011】本発明で生成したクメンハイドロパーオキサイドは、プロピレンと反応させてプロピレンオキサイドを製造することに用いることができる。プロピレンオキサイドと共に副生するクミルアルコールは水素化分解されてクメンに変換され、気泡塔にリサイクルして使用される。この場合、クメン酸化反応による副生物である2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、アセトフェノン、ジクミルパーオキサイドは、クメンロス成分となるため、これらの副生物の生成を抑えることが重要となる。酸素が気泡塔内の溶液に十分溶解しない状態になると、生成したクメンハイドロパーオキサイドの分解反応により、上記の不純物の副生量が増加し、プロピレンオキサイド生成量に対するクメンロスが大きくなり好ましくない。
【0012】
【実施例】実施例1容積0.02m3の気泡塔に、5重量%のクメンハイドロパーオキサイドを含むクメン溶液を14.4kg充填し、空気を1.7Nm3/hr、窒素を3.2Nm3/hrで反応器内に流通させ反応を行った。このときのゲージ圧力は0.2MPa、温度は105℃で行った。この時のガスの空塔速度は、0.034m/secであった。このときの、反応器内のクメンハイドロパーオキサイドの濃度変化を表1に示す。
【0013】比較例1空気を0.8Nm3/hr、窒素を2.0Nm3/hrで反応器内に流通させ反応を行ったこと以外は、実施例1と同じ条件で行った。この時のガスの空塔速度は、0.019m/secであった。このときの、反応器内のクメンハイドロパーオキサイドの濃度変化を表1に示す。
【0014】
【表1】各時間におけるクメンハイドロパーオキサイド濃度変化

【0015】表1から明らかなように、ガス空塔速度の低下により、クメンハイドロパーオキサイド生成速度が低下しているのがわかる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明により、気泡塔反応器を用いた、クメンを酸素含有ガスにより酸化しクメンハイドロパーオキサイドを得る方法であって、高効率にクメンハイドロパーオキサイドを得ることができる方法を提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 気泡塔反応器を用いて、クメンを酸素含有ガスにより酸化しクメンハイドロパーオキサイドを得る方法であって、該反応器に供給される該酸素含有ガスの反応器内での空塔速度が0.02m/sec以上0.1m/sec以下で供給することを特徴とするクメンの酸化方法。
【請求項2】 請求項1で生成したクメンハイドロパーオキサイドを含む反応液をプロピレンと反応させてプロピレンオキサイドとクミルアルコールにし、該クミルアルコールを水素化分解反応によりクメンに変換し、再び気泡塔反応器にリサイクルする工程を含む請求項1記載のクメンの酸化方法。

【公開番号】特開2003−231674(P2003−231674A)
【公開日】平成15年8月19日(2003.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−30733(P2002−30733)
【出願日】平成14年2月7日(2002.2.7)
【出願人】(000002093)住友化学工業株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】