説明

クライオポンプおよびその再生方法

【課題】再生工程でクライオポンプ内に残留する水を固化させずに液体状態から気化させて排気することにより、再生時間を短縮することを企図したクライオポンプおよびその再生方法を提供する。
【解決手段】クライオポンプは、ポンプ容器14と、真空排気時に低温に冷却されるクライオパネル16,18と、冷却機17とを備え、水を含む各種気体をクライオパネルに凝縮して真空排気を行う。クライオポンプの再生方法では、クライオパネルの温度を上昇させクライオパネルの排気面に凝縮した気体分子を気化させる温度上昇化工程S12、ポンプ容器内の排気を実行する排気工程S17、ポンプ容器の内部圧力が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定する判定工程S18、排気を停止しかつ圧力上昇試験を行う圧力上昇試験工程S20と、ポンプ容器の内部圧力に基づき水の残留を観測する観測工程S21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクライオポンプおよびその再生方法に関し、特に、再生に要する時間を短縮するのに好適なクライオポンプおよびその再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ容器内に低温に保持された部材(クライオパネル)を設けかつこの部材表面(排気面)で水を含む気体を凝縮または吸着により真空排気するクライオポンプが知られている。このクライオポンプでは、ポンプ内に凝縮された気体をポンプ容器外に排出してクライオポンプの排気能力を回復させるための再生工程が必要である。クライオポンプの再生工程で要する時間(再生時間)を短縮するための従来技術として例えば特許文献1〜3を挙げることができる。
【0003】
特許文献1に記載されるクライオポンプでは、ポンプ容器内に窒素ガス等の不活性ガス(パージガス)を導入しクライオパネルを強制的に昇温させながら真空ポンプによってポンプ容器内を排気し、クライオポンプ容器内の圧力を、クライオパネルに凝縮された気体のうち最も低い飽和蒸気圧を有する気体の飽和蒸気圧力よりも低い圧力に保持する、という再生方法に係る技術が開示されている。
【0004】
特許文献2に記載されるクライオポンプでは、窒素ガス等の不活性ガスをポンプ容器内に導入・導出を行うクライオポンプの再生において、ポンプ容器内の水分の変化を検出する工程を設けている。これによって、不活性ガスの導出の際にポンプ容器内に水分が残存している場合には、導出される不活性ガス中に水分が検出される。従って水分の検出量の変化に基づいてポンプ容器内の乾燥を知ることができる。
【0005】
特許文献3に記載されるクライオポンプでは、そのクライオパネルの温度が水分子が気化する温度以上になったことを条件に、ポンプ容器内へのパージガスの導入工程から真空ポンプによるポンプ容器内の排出工程に移行させるようにしている。このために、クライオパネルの温度を検出する温度センサを設けている。温度センサによって検出された温度情報は再生処理コントローラに送られる。該再生処理コントローラは当該温度情報を受けて上記の再生方法を実行する。この再生方法をより詳しく述べると、クライオパネルの温度が水が気化する温度以上になったことを条件にパージガス導入工程を真空ポンプによる排出工程に移行させ、この排出工程は所定圧力に到るまで行われ、基準圧力から当該所定圧力までの減圧に要する時間が設定時間よりも長いときには再生不十分であるとして判定して、再びパージガスを導入する指令が出される。上記のように特許文献3のクライオポンプによれば、クライオパネルの温度をモニタしてパージガス中に水蒸気が大量に混入された状態にしてポンプ容器内の排気を繰り返すことにより、再生時間を短縮を図っている。
【特許文献1】特開平6−346848号公報
【特許文献2】特開平6−33872号公報
【特許文献3】特開平9−14133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される再生技術によれば、排気面に凝縮された気体を、長時間パージガスの導入だけを行って蒸発を促すよりも、真空ポンプで排気を行って強制的に蒸発させるため効率的である。しかしながら、気化熱により水の温度が低下して氷になってしまうと、その蒸発の効率が著しく低下するという問題があった。
【0007】
また特許文献2によれば、クライオポンプの再生時にポンプ容器内の水分の変化を検出する工程を有し、その水分検出部は、ガス導出管におけるガス導出バルブの排出側に設けられている。水分検出部は、導出されるガスの中に含まれる水分(例えば特許文献2の図2に示されるような導入窒素の湿度レベル)を検出し、その水分変化からポンプ内が完全に乾燥したか否かを検知する。しかしながら、特許文献2の構成では、ポンプ容器内に残留する水が液体の状態か否かを検出することはできない。さらに特許文献2のクライオポンプの再生方法では、すべての水蒸気の排出を検知するまでは、排気装置によってポンプ容器内を減圧することを行わないため、その分、再生時間を短縮することができない。
【0008】
さらに特許文献3に記載されるクライオポンプによれば、クライオパネルの温度をモニタしてパージガス中に水蒸気が大量に混入された状態にしてポンプ容器内の排気を繰り返すことによって再生時間の短縮を図っているが、次の問題が提起される。
【0009】
ポンプ容器内に再びパージガスを導入するか否かの判定は、真空ポンプ動作中で、かつ摂氏零度での水の蒸気圧よりも低圧力で行われる。加えて、再びパージガスを導入して所定圧力になった後、再び排気する際には、水が液体で存在するかどうかについてはまったく考慮していない。このため、クライオポンプがその排気面に多量の水を蓄積している場合には、再生を行ったとき、水が固化して氷としてクライオポンプ内に残留することがあり、その結果、そのままの状態で排気を継続しても圧力を下げるのに非常に長い時間を要するという問題が生じた。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、再生工程でポンプ容器内に残留する水を固化させずに液体状態で、ポンプ容器内を排気することにより、再生時間を短縮することを企図したクライオポンプおよびその再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るクライオポンプおよびその再生方法は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0012】
第1の本発明に係るクライオポンプの再生方法(請求項1に対応)は、ポンプ容器と、このポンプ容器内に配置されるクライオパネル(排気面等)と、クライオパネルを冷却する冷凍機とを備え、水を含む各種ガスの気体分子をクライオパネルに凝縮して対象装置の真空排気を行うクライオポンプに適用される方法である。この再生方法は、クライオパネルの温度を上昇させ、クライオパネルに凝縮された気体分子を気化してポンプ容器内に放出する温度上昇化工程と、クライオパネルの温度条件に基づき粗引き排気を実行する排気工程と、ポンプ容器の内部圧力が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定する判定工程と、判定工程で前記設定圧力に達したと判定されたとき、排気を停止し、圧力上昇試験(ビルドアップテスト)を行う圧力上昇試験工程と、圧力上昇試験工程の間にポンプ容器の内部圧力に基づき水の残留を観測する観測工程とを備える。
【0013】
上記のクライオポンプの再生方法では、ポンプ容器の内部圧力が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定する判定工程、および判定工程で内部圧力が摂氏零度での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したと判定されたとき、排気を停止しかつ圧力上昇試験を行う圧力上昇試験工程を設けるようにしたため、ポンプ容器内に水が残留しても、液体のままの水で観測を行うことにより、水の残留を正確にかつ迅速に知ることが可能となる。
【0014】
第2の本発明に係るクライオポンプの再生方法(請求項2に対応)は、上記の方法において、好ましくは、上記の圧力上昇試験工程は、ポンプ容器内に存在する水が液体状態で実行されることで特徴づけられる。
【0015】
第3の本発明に係るクライオポンプの再生方法(請求項3に対応)は、上記の方法において、好ましくは、上記の温度上昇化工程は、ポンプ容器内へのパージガスの導入、ヒータの加熱、減圧化での放置のうちのいずれかの1つの方法、またはこれらの方法の組み合わせで実行される。
【0016】
第4の本発明に係るクライオポンプの再生方法(請求項4に対応)は、上記の方法において、好ましくは、上記の観測工程で、ポンプ容器の内部圧力に係る情報はポンプ容器に付設された真空計で検出されることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るクライオポンプ(請求項5に対応)は、ポンプ容器と、このポンプ容器内に配置されかつ真空排気時に低温に冷却されるクライオパネルと、クライオパネルを冷却する冷凍機と、ポンプ容器の内部圧力を検出する真空計と、装置全体の動作を制御する制御手段とを備え、水を含む各種気体分子をクライオパネルに凝縮して対象装置の真空排気を行うように構成される。さらに上記制御手段は、クライオパネルの温度を上昇させ、クライオパネルに凝縮された気体分子を気化してポンプ容器内に放出し、さらにクライオパネルの温度条件に基づき排気を実行する再生処理の段階で、真空計の検出情報に基づきポンプ容器の内部圧力が摂氏零度での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定する判定手段と、前記設定圧力に達したと判定されたとき、排気を停止しかつ圧力上昇試験を行う試験実行手段と、圧力上昇試験の間にポンプ容器の内部圧力に基づき水の残留を観測する観測手段とを備える。
これにより、制御手段は、観測手段の観測で水の残留が確認されるときクライオパネルの温度上昇と排気と判定手段による判定と圧力上昇試験と観測手段による観測を繰り返し、観測手段の観測で水の残留が確認されないとき再生処理を終了する。
【0018】
上記のクライオポンプでは、ポンプ容器内に残留する水が液体状態であるか否かを検知し、かつ真空ポンプによる排気をポンプ容器の内部圧力が摂氏零度での水の蒸気圧以上の圧力で行うように構成されている。クライオポンプを再生する場合において、ポンプ容器内にパージガスを導入した後、真空ポンプにより排気を行うとき、ポンプ容器内の圧力が摂氏零度での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したときに、すなわち水が固化して氷になる前に真空ポンプによる排気を止め、さらにポンプ容器内の圧力上昇状態の時間的変化を測定し、その測定結果に基づいてポンプ容器内の液体状態での水の有無を判定する。ポンプ容器内に液体状態の水が残留していると判定されると、再び乾燥用パージガスの導入等によって昇温し水の気化が促進される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば次の効果を奏する。第1に本発明によれば、クライオポンプの再生処理動作でポンプ容器内の圧力が摂氏零度での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したときに排気を停止し、圧力上昇試験(時間に対する圧力の上昇の測定)を行うようにしたため、ポンプ容器内に氷の存在しない状態で当該ポンプ容器内の水蒸気圧を測定でき、ポンプ容器内の液体の水の残留の有無を正確に観測し確認することができる。
【0020】
第2に本発明によれば、再生処理の際にクライオポンプのポンプ容器内の水を常に気体ないしは液体の状態にできるため、ポンプ容器内の水を常に気体または液体の状態で排気することができる。残留する水が液体であり、水の蒸発量を大きくとることができるので、短時間で水を気化させることができ、クライオポンプの再生時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1〜図3を参照して本発明の実施形態に係るクライオポンプおよびその再生方法を説明する。図1はクライオポンプユニットの全体の概略的な装置構成を示し、図2は再生動作のフローチャートを示し、図3は再生動作におけるクライオポンプのポンプ容器内の圧力変化を示している。
【0023】
図1において、符号10で示されたブロックは、真空排気を行う対象の真空処理装置を示す。この真空処理装置10の下側にクライオポンプユニット11が付設されている。真空処理装置10の下部に設けられた図示しない排気口に、メインバルブ12を介して、クライオポンプ13のポンプ容器14が接続されている。クライオポンプユニット11に基づく真空処理装置10の真空排気動作の全体はコントローラ30によって制御されている。
【0024】
図1では、縦断面図によってポンプ容器14の内部構造を示している。ポンプ容器14は、全体が円筒形状であって中間部に段差14−1を有する容器である。ポンプ容器14の上側部分の側壁14aの部分は径の大きな円筒形状部分である。ポンプ容器14の上部に形成されたガス取込み用の開口部にはバッフル15が配置されている。
【0025】
またポンプ容器14の内部には、側壁14aおよび中間段差部14−1の各々に沿って配置されるシールド容器状の第1クライオパネル16を備える。第1クライオパネル16は、冷凍機1段ステージ17aに取り付けられている。なお、第1クライオパネル16の図1中の上部の開口部に、前述したバッフル15が取り付けられている。
【0026】
またポンプ容器14の中心軸部の周囲には第2クライオパネル18が設けられている。第2クライオパネル18は冷凍機2段ステージ17bに取り付けられている。冷凍機1段ステージ17aと冷凍機2段ステージ17bは、それぞれ、クライオポンプ13の下方に設けられた冷凍機17の極低温のステージ部分である。
【0027】
クライオポンプ13の下側部分に設けられた冷凍機17は、円筒形状の低温膨張室17−1をポンプ容器14内の中心軸に位置させて取り付けられている。図1において、低温膨張室17−1の上端に上記の冷凍機1段ステージ17aが設けられ、下端に上記の冷凍機2段ステージ17bが設けられる。冷凍機17には、外部の圧縮ユニット19によって圧縮されたヘリウムガスが供給される(矢印19a)。冷凍機17に供給された圧縮ヘリウムガスは低温膨張室17−1内で膨張した後に圧縮ユニット19に回収される(矢印19b)。その後、ヘリウムガスは圧縮ユニット19で再び圧縮されて冷凍機17に供給される。以上のヘリウムガスの循環動作の繰返しに基づき、冷凍機17の低温膨張室17−1内でヘリウムガスの膨張を繰り返し行うことにより、冷凍機1段ステージ17aと冷凍機2段ステージ17bのそれぞれは所定温度に冷却される。
【0028】
冷凍機17に基づくクライオポンプ13における第1クライオパネル16および第2クライオパネル18の冷却動作(圧縮ユニット19の動作を含む)はコントローラ30によって制御される。
【0029】
クライオポンプ13のポンプ容器14には真空計20が付設される。この真空計20によってポンプ容器14の内部の圧力状態を検出する。真空計20で検出されたポンプ容器14内の圧力情報はコントローラ30に供給される。
【0030】
またクライオポンプ13のポンプ容器14にはパージガス供給機構21が付設される。パージガス供給機構21では、図示しないパージガス供給部からパージガスバルブ22を介してポンプ容器14の内部に乾燥用のパージガスが導入される。パージガスバルブ22が開状態のときにパージガスが導入される。パージガスは、例えば窒素ガス等の不活性ガスである。またパージガスバルブ22の開閉動作はコントローラ30によって制御される。
【0031】
さらにクライオポンプ13のポンプ容器14には、内部のガスを抜くためのリリーフ弁23と、内部のガスを真空排気するためのバルブ24を介した真空ポンプ25とが設けられている。リリーフ弁23は、ポンプ容器14の内部圧力が大気圧より高くなったとき開放する差圧弁である。また真空ポンプ25を作動させた状態でバルブ24を開くと、ポンプ容器14内が真空排気される。真空ポンプ25の動作およびバルブ24の開閉動作はコントローラ30によって制御される。
【0032】
またクライオポンプ13のポンプ容器14の内部には熱電対等による温度センサ26が付設される。この温度センサ26は、ポンプ容器14内の特に第1クライオパネル16や第2クライオパネル18の温度情報(摂氏温度)を検出する。温度センサ26で検出された温度情報はコントローラ30に供給される。
【0033】
さらにポンプ容器14の外側周囲にはヒータ27が備えられる。ヒータ27はポンプ容器14を強制的に加熱するための手段である。ヒータ27には交流電源28から加熱用交流電力が供給される。交流電源28からヒータ27への給電動作は必要なタイミングで実行される。交流電源28の給電動作はコントローラ30によって制御される。
【0034】
なお、第2クライオパネル18の内側の低温膨張室17−1の周囲には活性炭による吸着剤29が設けられている。
【0035】
次に、上記構成を有するクライオポンプユニット11の動作を説明する。最初に真空排気のための冷凍動作について説明する。
【0036】
真空処理装置10の内部を真空排気するためクライオポンプ13に冷凍動作を行わせる。真空処理装置10内の真空排気を行うときには、メインバルブ12を開いた状態で、冷凍機17に対して圧縮ヘリウムガスを繰り返して供給し、低温膨張室17−1でヘリウムガスの膨張を繰り返し、冷凍機1段ステージ17aと冷凍機2段ステージ17bのそれぞれを所定の低温状態に冷却される。冷凍機1段ステージ17aは70〜90K程度に冷却され、冷凍機1段ステージ17bは10〜20K程度の極低温に冷却される。このため、冷凍機1段ステージ17aに取り付けられた第1クライオパネル16およびバッフル15は70〜90Kに冷却され、他方、冷凍機2段ステージ17bに取り付けられた第2クライオパネル18は10〜20Kの極低温に冷却されることになる。
【0037】
冷凍機17の冷凍作用に基づくクライオポンプ13での冷却動作で、ポンプ容器14の気体取込み用の開口部から内部に流入する気体のうち、凝縮温度が高い水蒸気は主にバッフル15および第1クライオパネル16によって凝縮される。この状態で、水は氷(固体)の状態にある。また水蒸気よりも凝縮温度が低い酸素、窒素、アルゴン等の気体は第2クライオパネル18に凝縮される。なお、さらに凝縮温度が低い水素やヘリウム等の気体は、第2クライオパネル18の内側に設けられた吸着剤29で吸着する。このようにして真空処理装置10内に存在する各種気体がクライオポンプ13のポンプ容器14内に凝縮または吸着により溜め込まれる。
【0038】
以上のごとくクライオポンプ13の冷凍のための作動によって第1および第2のクライオパネル16,18等にガス分子を凝縮・吸着させることにより、真空処理装置10内に存在する気体を排気し、所要の真空状態を作ることが可能となる。しかしながら、クライオポンプ13のポンプ容器14での凝縮量等が増してくると、真空処理装置10からの気体の排気速度が減少し、所要の圧力を得ることができなくなる。そこで、クライオポンプ13の再生処理が実行される。
【0039】
次にクライオポンプ13での再生処理の動作を説明する。図2を参照して再生処理の動作を説明する。再生処理動作のプロセスは、コントローラ30のメモリ31内に設けられた再生処理プログラム32を実行することによって行われる。
【0040】
先ずクライオポンプ13の真空排気動作を停止する(ステップS11)。具体的には、クライオポンプ13のポンプ容器14と真空処理装置10との間に設けたメインバルブ12を閉じると共に、ポンプ容器14内の第1クライオパネル16と第2クライオパネル18を冷却する冷凍機17の動作を停止する。
【0041】
次に乾燥用のパージガス供給機構21のパージガスバルブ22を開き、クライオポンプ13のポンプ容器14内にパージガスを導入する(ステップS12)。パージガスがポンプ容器14内に導入されると、ポンプ容器14内の真空断熱状態が破壊されると共に、乾燥用パージガスの熱より内部の第1および第2のクライオパネル16,18の温度を上昇させる(温度上昇化工程)。この場合において、必要に応じて、ヒータ27にも交流電源28から交流電力を供給して当該ヒータ27に熱を発生させる。ヒータ27によってポンプ容器14を外部から加熱することにより、ポンプ容器14内の第1および第2のクライオパネル16,18の温度上昇を加速させる。これにより、第1クライオポンプ16および第2クライオポンプ18に凝縮されていた気体分子は気化し、気体となる。なお第1および第2のクライオパネル16,18の温度上昇化では、パージガスの導入、ヒータによる加熱、または自然な状態での放置の任意の1つの方法、あるいはこれらの方法の任意の組み合わせを利用することができる。
【0042】
上記の状態において、ポンプ容器14の内部圧力が大気圧より高くなると、リリーフ弁23が開放する。このリリーフ弁23を介してポンプ容器14内からパージガスや気化で生じた各種気体が外部に放出される。
【0043】
次に、温度センサ26で検出した第1クライオポンプ16および第2クライオパネル18の温度(T)の情報をコントローラ30に取り込み、コントローラ30で温度(T)が設定温度(T1)よりも大きいか否かを判定する(ステップS15)。設定温度T1は「常温」である。判定ステップS15で、温度Tが設定温度T1よりも大きくない場合(NOの場合)にはステップS14,S15が繰り返され、パージガス等の放出が継続される。なおこの場合おいてパージガス供給機構21によるパージガスの導入は継続されている。他方、判定ステップS15で温度Tが設定温度T1よりも大きい場合(YESの場合)には、パージガス供給機構21のパージガスバルブ22を閉じ、ポンプ容器14内へのパージガスの導入が停止され(ステップS16)、ポンプ容器14の内部の圧力は、リリーフ弁が開いているので、ほぼ大気圧となる。次に、リリーフ弁を閉じる。その後に真空ポンプ25による排気が実行される(ステップS17)。
【0044】
真空ポンプ25による排気が実行されるとき、真空ポンプ25が駆動されかつバルブ24が開かれると共に、リリーフ弁23は閉じられる。クライオポンプ13のポンプ容器14の内部圧力(P)は初期状態ではほぼ大気圧の状態にあるので、真空ポンプ25による排気によってポンプ容器14の内部圧力は次第に低下する。ポンプ容器14における内部圧力低減の変化は、真空計20の検出信号に基づいてコントローラ30でモニタされる。
【0045】
本実施形態に係るクライオポンプ13の再生処理動作のプロセスでは、上記の排気を行う際に、クライオポンプ13のポンプ容器14の内部圧力(P)が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧(約610Pa)よりも大きな設定圧力に達したとき、排気を停止して圧力上昇試験を実行するようにしている。
【0046】
すなわち、次の段階で、ポンプ容器14の内部圧力(P)が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定するステップS18が設けられる。判定ステップS18でNOの場合にはステップS17,S18を繰り返し、排気を継続する。判定ステップS18でYESの場合、すなわちポンプ容器14の内部圧力(P)が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧の直前の値である場合には、排気の停止が実行され(ステップS19)、さらに圧力上昇試験が実行される(ステップS20)。その後、ポンプ容器14内に水が残留するか否かが判定される(ステップS21)
【0047】
クライオポンプ13のポンプ容器14の内部圧力が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧の直前の値であるとき、仮にポンプ容器14内に水が存在したとすると、当該水は、その温度が摂氏零度(0℃)以上であり、液体のままの状態にある。この場合、圧力上昇試験(ステップS20)は、ポンプ容器14内に存在する水が液体状態であるときに実行されることになる。
【0048】
圧力上昇試験は、通常、単に、クライオポンプ13のポンプ容器14の内部を自然な状態で放置することにより行われる。ポンプ容器14の内部圧力が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したときに排気を停止すれば、その後の圧力上昇試験では、クライオポンプ13のポンプ容器14やその他部分からの入熱に基づきポンプ容器内に液体で存在する水が蒸発し、ポンプ容器14の内部圧力が上昇してくるという現象が生じるはずである。これによって、ポンプ容器14内に液体としての水が残留しているか否かを確認することができる。このような状態は、コントローラ30によって真空計20で検出されたポンプ容器14内の圧力情報をモニタすることにより、観測し確認することができる。
【0049】
理化年表に基づくと、水の蒸気圧は、摂氏零度で610.66Paであり、摂氏1度で656.52Paである。従って、その差は45.86Paであるので、上記の構成によれば十分に観測できることが裏付けられる。
【0050】
なお、摂氏零度での水の蒸気圧よりも高い圧力という条件で排気を停止して圧力上昇試験を行うと、残留している水の温度が高いため、入熱源との温度差が小さくなり、観測しにくいという問題が起きる。他方、摂氏零度での水の蒸気圧以下のより低い圧力という条件で排気を停止して圧力上昇試験を行うと、残留している水が凝縮し氷になっているため、圧力上昇試験の入熱が摂氏零度で融解熱となり、内部圧力の上昇もなく、圧力上昇による水の残留の有無の判断が困難になるという問題が起きる。この意味で、ポンプ容器14の内部圧力が摂氏零度(0℃)での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したら、排気を停止して圧力上昇試験を行うことは、水の残留の有無を正確に確実に判断できる極めて有効な方法である。
【0051】
以上のごとき理由に基づき、判定ステップS21で、ポンプ容器14内に水が残留していると判定された場合(YESの場合)には、クライオポンプ13のポンプ容器14内から水を加熱・蒸発させて除去するプロセスが実行される。この実施形態では、ステップS12に戻り、前述したステップS12〜S16を実行するようにしている。なおポンプ容器14内から水を追加的に加熱・蒸発させて除去するプロセスはこれに限定されず、補足的な同様な除去プロセスを追加してもよい。
【0052】
ステップS15およびステップS16の後には再び排気が実行される(ステップS17)。その後も、上記と同様にステップS18〜S21が実行される。
【0053】
以上のステップS12〜S21が繰り返され、最終的に圧力上昇試験S20において条件をクリアした場合、すなわち判定ステップS21の判定でNOとなった場合、数Paから100Pa程度までの排気が実行される(ステップS22)。
【0054】
その後、リーク等の有無を判断する通常の圧力上昇試験、すなわちビルドアップテストを実行する(ステップS23)。ビルドアップテストがクリアされた場合には、冷凍機17等を作動させてクライオポンプ13を駆動し、第1および第2のクライオパネル16,18の温度を所要の温度まで低下させる(ステップS24)。これにより再生処理動作は終了する。
【0055】
上記の再生処理動作に基づくポンプ容器14の内部圧力の変化状態を図3に示す。図3のグラフにおいて、横軸は時間軸を意味し、縦軸は圧力を意味している。図3において繰り返し発生している波形W1は、前述した排気を繰り返す時のその後の圧力上昇試験の結果を示している。複数の波形W1の中でも最後の波形W1−1は圧力上昇がほとんどなくなった状態を示している。それに到る前の段階での複数の波形W1では圧力上昇が顕著に見られ、パージガスの導入等による水の気化および除去が行われている。波形W1−1に到って再生処理は終了することになる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、クライオポンプまたは水トラップ構造における再生方法に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るクライオポンプの代表的な実施形態の装置構成の全体を示す構成図である。
【図2】本実施形態に係るクライオポンプの再生処理動作を示すフローチャートである。
【図3】繰り返して実行される圧力上昇試験における圧力上昇状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 真空処理装置
11 クライオポンプユニット
13 クライオポンプ
14 ポンプ容器
16 第1クライオパネル
17 冷凍機
18 第2クライオパネル
19 圧縮ユニット
20 真空計
21 パージガス供給機構
22 パージガスバルブ
23 リリーフ弁
24 バルブ
25 真空ポンプ
26 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ容器と、前記ポンプ容器内に配置されるクライオパネルと、前記クライオパネルを冷却する冷凍機とを備え、水蒸気を含む気体分子を前記クライオパネルに凝縮することにより排気を行うクライオポンプにおいて、
前記クライオパネルの温度を上昇させ、前記クライオパネルに凝縮された前記気体分子を気化して前記ポンプ容器内に放出する温度上昇化工程と、
前記クライオパネルの温度条件に基づき排気を実行する排気工程と、
前記ポンプ容器内部の圧力が摂氏零度での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程で前記ポンプ容器内部の圧力が前記設定圧力に達したと判定されたとき、排気を停止し、圧力上昇試験を行う圧力上昇試験工程と、
前記圧力上昇試験工程の間に前記ポンプ容器の内部圧力に基づき水の残留を観測する観測工程と、
を備えることを特徴とするクライオポンプの再生方法。
【請求項2】
前記圧力上昇試験工程は、前記ポンプ容器内に存在する水が液体状態で実行されることを特徴とする請求項1記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項3】
前記温度上昇化工程は、前記ポンプ容器内へのパージガスの導入、ヒータの加熱、減圧化での放置のうちのいずれかの1つの方法、またはこれらの方法の組み合わせで実行されることを特徴とする請求項1記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項4】
前記観測工程で、前記ポンプ容器の内部圧力に係る情報は前記ポンプ容器に付設された真空計で検出されることを特徴とする請求項1記載のクライオポンプの再生方法。
【請求項5】
ポンプ容器と、前記ポンプ容器内に配置されるクライオパネルと、前記クライオパネルを冷却する冷凍機と、前記ポンプ容器の内部圧力を検出する真空計と、装置全体の動作を制御する制御手段とを備え、水を含む気体分子を前記クライオパネルに凝縮して対象装置の真空排気を行うクライオポンプにおいて、
前記制御手段は、
前記クライオパネルの温度を上昇させ、前記クライオパネルに凝縮された前記気体分子を気化して前記ポンプ容器内に放出し、さらに前記クライオパネルの温度条件に基づき排気を実行する再生処理の段階で、
前記真空計の検出情報に基づき前記ポンプ容器の内部圧力が摂氏零度での水の蒸気圧よりも大きな設定圧力に達したか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定で前記内部圧力が前記設定圧力に達したと判定されたとき、排気を停止しかつ圧力上昇試験を行う試験実行手段と、
前記圧力上昇試験の間に前記ポンプ容器の内部圧力に基づき水の残留を観測する観測手段とを備えることを特徴とするクライオポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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