説明

クラスタ型装置

【課題】保守作業における、狭隘な見通しのきかない空間の下での不安定且つ不自然な姿勢での手探り状態の作業に起因する作業効率および作業安全性の低下を防止し、作業時間を短縮するとともに保守作業の信頼性を向上するクラスタ型装置を提供する。
【解決手段】プロセス室5を架台11上のレール21、キャスタ22から成る移動手段上に載架し、保守時にはゲート弁2とプロセス室5の結合を解除しプロセス室5を搬送室3から右方に退避させ、保守に必要な保守用扉8の開き角度を確保し作業者を保守用扉8の開口部に障害物無く対面させる。保守後はゲート弁2に固定された位置決めピン23をプロセス室5の前面へ再挿入し、搬送室3とプロセス室5の位置関係を移動前の状態に復元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体、ハードディスク、ハードディスクヘッドなどの電子部品の表面処理または電子部品用薄膜製造などに使用されるクラスタ型真空処理装置および真空を利用しない一般のクラスタ型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、架台上に架設された搬送室を中心にクラスタ型に配設された複数のプロセス室(真空プロセスチャンバ)を備え、電子部品用薄膜製造または薄膜表面処理などに使用されるクラスタ型装置が多用されている(たとえば特許文献1、特許文献2参照)。クラスタ型装置においては、中央部の搬送室を介して被成膜部品または被成膜部品などを積載した移動カート(以下、両者を含めワークと記載する)のプロセス室間移動が行われる。プロセス室にはたとえば加熱室、単数または複数のスパッタリング室などが目的に応じて使用されるが、加熱やスパッタリングはすべてプロセスの1例であるので、以下プロセス室の各々は単にプロセス室と記載する。搬送室および各プロセス室は前記のように架台上に架設されており、架台内部にはたとえば当該プロセス室専用の真空排気系などが収納されている。
【0003】
以下、クラスタ型真空成膜装置を例として、図3によって従来のクラスタ型装置の構成と作動の1例を説明する。1はワーク(図示せず)を搬入・搬出するためのロード・アンロード室である。装置の中央にはワークの予備排気および受け渡しのための搬送室3が配設され、周囲にはプロセス室4、5、6、7が配設されている。搬送室3とロード・アンロード室1および前記各プロセス室4〜7は、搬送室3側面に配設された複数個のゲート弁2を介して固着されている。各プロセス室4〜7の側面には、プロセス室内部壁の汚染除去や消耗部品または汚染部品の交換などの保守作業を実施するための保守用扉8および、各プロセス室4〜7の作動および作動状況の監視に必要な部品、たとえば真空計電源やワーク駆動装置電源などを収納するための計器箱9が取り付けられている。
【0004】
ロード・アンロード室1の所定の位置に搬入されたワークは最初にロード・アンロード室1で粗引き排気された後ゲート弁2を介して搬送室3の所定の位置に移動し、搬送室3が所定の真空状態まで排気された後にたとえばプロセス室4に移送され必要な処理を受ける。次いでワークは再び搬送室3を経由してたとえばプロセス室5に移動し、次段の処理を受ける。このような過程を経て複数の処理が完了した後、ワークは搬送室3を介してロード・アンロード室1に移送され大気圧に戻されて外方に取り出される。なお上記各プロセス室の真空排気系(図示せず)は各プロセス室の処理内容に応じて、適切な真空ポンプ、真空バルブおよび配管系から構成され、前記のように通常各プロセス室毎にプロセス室の下部架台内に配設されている。ワークは各プロセス室における処理に先立ちプロセス内容に応じて真空排気されるが、排気の詳細については本発明の内容と直接の関連はないので記載を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−509646号公報
【特許文献2】特開平07−153693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のクラスタ型装置の構造は以上のとおりであるが、この構造では各プロセス室の保守作業効率および作業安全性が低下し、また保守可能な内容も限定され保守作業の信頼性が低下する。すなわち、各プロセス室はいずれも図3に示されるように搬送室3直近に配設されており相互に密接しているので、保守に当たっては狭隘な空間で体を捻って行う不安定且つ不自然な姿勢での作業が必要であり、また保守用扉8の開き角度が限定されているので、作業者は狭い開口からの見通しのきかない手探り状態の作業を行う必要があった。
【0007】
したがって作業効率および作業安全性は低下(怪我の発生など)し作業時間が増大し、また目視不能箇所や分解不能箇所が多く発生するためそれらの箇所に対する汚染除去や保守完了確認なども限定され、保守作業の信頼性が低下していた。本発明はこのような問題点を解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提供するクラスタ型装置は上記課題を解決するために、プロセス室を搬送室に対して退避可能に往復移動できる移動手段を設け、またプロセス室に複数の開閉扉を設け、作業性を改善する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば保守用扉の開き角度が大きくなり、作業者がプロセス室開閉扉の開口部に障害物無く対面することが可能になり不安定かつ不自然な姿勢での手探り状態の作業が解消され、この結果作業効率および作業安全性が改善され作業時間が短縮される。また保守内容およびその確認精度も改善され、保守作業の信頼性が増大する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例である。(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示す平面図である。
【図3】従来のクラスタ型装置の構成の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明が提供するクラスタ型装置はつぎのような特徴を有している。第1の特徴は架台上に架設された搬送室を中心としてクラスタ型に配設された複数のプロセス室を備えたクラスタ型装置において、プロセス室を搬送室に対して退避可能に往復移動できる移動手段を設けた点である。第2の特徴はプロセス室に複数の開閉扉を設けた点であり、これらの特徴を備えた形態が最良の形態である。
【実施例1】
【0012】
以下図示例にしたがって説明する。図1において図3と同一符号の部品の構造および作動は図3と同じである。図1(A)は実施例の平面図、図1(B)は側面図である。以下、プロセス室5を例として説明する。図1(B)において搬送室3は架台10上に載架されている。またプロセス室5は架台11上に設けたレール21、キャスタ22から成る移動手段に載架されている。プロセス室5は図の点線で示すように常時はゲート弁2を介して搬送室3にフランジ部螺設などの方法で固定されているが、保守など必要の場合は固定を解除し、レール21上を右方に退避させる。
【0013】
この際ゲート弁2に固着された位置決めピン23はプロセス室5の前面から引き抜かれる。右方の退避位置においては図1(A)に示されるように保守用扉8を保守に必要な開度に自由に開くことが可能であるので、プロセス室5内を外方から直接見通せる箇所の割合は従来の装置より格段に大きくなり、装置の性能維持に十分な保守作業を迅速に行うことが可能になる。保守後はフランジ部の再螺設などによりゲート弁2を介して搬送室3とプロセス室5を元の位置に戻し固着する。この時、ゲート弁2に固定された複数の位置決めピン23がプロセス室5の前面へ再挿入されるので、搬送室3とプロセス室5の位置関係はプロセス室5の移動前の状態に復元する。
【実施例2】
【0014】
図2は第2の実施例を示す平面図である。図2において図3と同一符号の部品の構造および作動は図3と同じである。プロセス室5Aの背面には保守用扉24が設けられており、実施例1に比較してプロセス室5A内を外部から直接見通せる割合はさらに増加し、保守作業の作業性はさらに改善される。
【0015】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、さらに種々の変形実施例を挙げることができる。たとえば図1の実施例では搬送室3は架台10により、プロセス室5は架台11により支持されているが、搬送室3とプロセス室5が一体化された架台で支持されていても良い。また図1の移動手段であるレール21、キャスタ22および、プロセス室5の位置決め手段である位置決めピン23などは1例であり、たとえばリニアベアリングやクロスローラなどを使用した移動手段(スライド手段)や、ゲート弁2およびプロセス室5の結合フランジの外周の位置合わせジグによる位置決め手段など、他の要素部品を使用した手段を使用しても良い。位置決めピン23の数量も任意である。
【0016】
また実施例1および2はプロセス室5または5Aを例として説明しているが、本発明が任意の単数または複数のプロセス室に対しても適用できることは自明である。また本発明が真空を利用しない一般のクラスタ型装置に対しても適用できることも自明である。本発明はこれらをすべて包含する。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は半導体、ハードディスク、ハードディスクヘッドなどの電子部品の表面処理または電子部品用薄膜製造などに使用されるクラスタ型真空処理装置および、真空を利用しない一般のクラスタ型装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 ロード・アンロード室
2 ゲート弁
3 搬送室
4 プロセス室
5 プロセス室
5A プロセス室
6 プロセス室
7 プロセス室
8 保守用扉
9 計器箱
10 架台
11 架台
21 レール
22 キャスタ
23 位置決めピン
24 保守用扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台上に架設された搬送室を中心としてクラスタ型に配設された複数のプロセス室を備えたクラスタ型装置において、プロセス室を搬送室に対して退避可能に往復移動できる移動手段を設けたことを特徴とするクラスタ型装置。
【請求項2】
プロセス室に複数の開閉扉を設けたことを特徴とする請求項1記載のクラスタ型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−267416(P2009−267416A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107446(P2009−107446)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3124289号
【原出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】