説明

クラック検査装置

【課題】導電体層を有しない太陽電池セルについてもクラック検査を実行可能とする。
【解決手段】太陽電池セル11の下面側に配設されてこの下面に電波を照射する送信アンテナ2と、太陽電池セル11の上面側に配設された受信アンテナ4と、受信アンテナ4によって受信された電波の電力を検出する電力検出部6と、電力検出部6で検出された電波の電力に基づいて太陽電池セル11の上面における電波の検出有無を判別し、その判別結果に基づいて太陽電池セル11についてのクラック12の有無を検査する処理部7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルに発生しているクラックの有無を検査するクラック検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のクラック検査装置として、下記特許文献1において開示されたクラック検査装置が知られている。このクラック検査装置は、少なくとも半導体層と導電体層とが積層された太陽電池素子に対向配置され、太陽電池素子に交流磁界を作用させて渦電流を誘起すると共に、誘起された渦電流を検出して渦電流信号として出力するプローブコイルと、プローブコイルから出力された渦電流信号を互いに位相が90°異なる2つの信号成分に分離する信号処理部と、信号処理部で分離された何れかの信号成分の振幅変化に基づいて、太陽電池素子に生じたクラックを検出する検出部とを備えている。
【0003】
このクラック検査装置によれば、太陽電池素子の導電体層においてクラックが生じている部位では、クラックが生じていない部位と比べて誘起される渦電流の流路が変化するため、検出した渦電流信号の振幅や位相も変化することになり、これにより導電体層に生じたクラック、ひいては半導体層に生じたクラックを精度良く検出することが可能である。また、太陽電池素子への渦電流の誘起や渦電流信号の検出は、太陽電池素子に対向配置したプローブコイルを用いて実施できるため、非接触でクラックの検出が可能であると共に、太陽電池素子を加熱したり応力を付与する必要がないため、高速にクラックを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−319303号公報(第3−4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のクラック検査装置には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、上記の公報に記載されているように、金属材料で構成された被検査対象に生じた傷を検出する手法として、渦電流を利用する検査渦流探傷法が公知であるが、半導体の導電率は金属の導電率の10−6〜10−8倍の値であるため、一般的には極めて微弱な渦電流しか発生しない。このため、従来では、半導体材料としてのシリコンで構成された太陽電池セルに渦流探傷法が適用されることはなかったが、このクラック検査装置では、半導体層と導電体層とが積層されて構成された太陽電池セルの場合には、半導体層にクラックが生じているときには、半導体層に積層された導電体層の対応する部位にもほぼ確実にクラックが生じていることに着目して、導電体層に生じたクラックを導電体層に渦電流を誘起することによって検出することで、半導体層に生じたクラックを間接的に検出している。
【0006】
しかしながら、このクラック検査装置には、半導体材料としてのシリコンのみで構成された太陽電池セルなどのように導電体層を有しない太陽電池セルについては、クラック検査が行えないという解決すべき課題が相変わらず存在している。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、導電体層を有しない太陽電池セルについてもクラック検査を実行し得るクラック検査装置、およびクラック検査方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載のクラック検査装置は、太陽電池セルの一方の面側に配設されて当該一方の面に電波を照射する送信アンテナと、前記太陽電池セルの他方の面側に配設された受信アンテナと、当該受信アンテナによって受信された前記電波の電力を検出する電力検出部と、当該電力検出部で検出された前記電波の前記電力に基づいて前記太陽電池セルの前記他方の面側における前記電波の検出有無を判別し、当該判別結果に基づいて当該太陽電池セルについてのクラックの有無を検査する処理部とを備えている。
【0009】
また、請求項2記載のクラック検査装置は、請求項1記載のクラック検査装置において、前記受信アンテナは微小ループアンテナで構成され、前記処理部は、前記受信アンテナで前記他方の面を走査しつつ前記電力検出部によって検出された前記太陽電池セルの各部位での前記電波の前記電力に基づいて当該各部位における前記電波の検出有無を判別し、当該判別結果に基づいて当該太陽電池セルの当該各部位での前記クラックの有無を検査する。
【0010】
また、請求項3記載のクラック検査装置は、請求項1または2記載のクラック検査装置において、前記送信アンテナは、広帯域の電波を照射可能な広帯域アンテナで構成され、前記電力検出部は、前記送信アンテナから照射された前記広帯域の電波の周波数毎の前記電力を検出し、前記処理部は、前記電力検出部によって検出された前記周波数毎の前記電力に基づいて当該各周波数の電波の検出有無を判別し、当該判別結果に基づいて前記クラックの有無を検査する。
【0011】
また、請求項4記載のクラック検査装置は、請求項1から3のいずれかに記載のクラック検査装置において、良品の前記太陽電池セルについての前記電波の検出有無についての判別結果を示す電波検出基準データを記憶する記憶部を備え、前記処理部は、前記電力検出部によって検出された前記電力に基づいて判別した前記電波の検出有無についての前記判別結果と前記記憶部に記憶されている前記電波検出基準データとを比較して、当該比較結果に基づいて前記クラックの有無を検査する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のクラック検査装置では、太陽電池セルの一方の面に送信アンテナから電波が照射されている状態において、電力検出部が太陽電池セルの他方の面側に配設された受信アンテナが受信する電波の電力を検出し、処理部が、この電波の電力に基づいて太陽電池セルの他方の面側において電波の検出の有無を判別し、この判別結果に基づいて太陽電池セルについてのクラックの有無を検査する。
【0013】
したがって、このクラック検査装置によれば、渦電流を利用しない構成のため、渦電流を発生させる導電体層を有する太陽電池セルのみならず、このような導電体層を有せずに半導体材料としてのシリコンのみで構成された太陽電池セルについても、クラックの有無を確実に検査することができる。
【0014】
請求項2記載のクラック検査装置では、微小ループアンテナで受信アンテナを構成し、処理部は、受信アンテナで太陽電池セルの他方の面を走査しつつ電力検出部によって検出された太陽電池セルの各部位での電波の電力に基づいてこの各部位における電波の検出有無を判別し、この判別結果に基づいて太陽電池セルの各部位でのクラックの有無を検査する。したがって、このクラック検査装置によれば、太陽電池セルのいずれの部位にクラックが存在しているかについても検査することができる。
【0015】
請求項3記載のクラック検査装置では、送信アンテナが広帯域の電波を照射し、電力検出部が受信した電波の周波数毎の電力を検出し、処理部が、電力検出部によって検出された電波の周波数毎の電力に基づいて各周波数の電波が検出されたか否かを判別する。したがって、このクラック検査装置によれば、クラックの長さに応じて、ある周波数の電波はこのクラックから漏れ出し、ある周波数の電波は漏れ出さないという現象が太陽電池セルにおいて発生するものの、様々な長さのクラックについて、その存在の有無を検査することができる。
【0016】
請求項4記載のクラック検査装置では、良品の太陽電池セルについての電波の検出有無についての判別結果を示す電波検出基準データが記憶された記憶部を備え、処理部は、電力検出部によって検出された電力に基づく電波の検出有無についての判別結果と電波検出基準データとを比較して、この比較結果に基づいてクラックの有無を検査する。したがって、このクラック検査装置によれば、クラックの存在に起因した電波の漏れ出しのみを確実に検出することができるため、クラックの検査精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】クラック検査装置1の構成図である。
【図2】受信アンテナ4による太陽電池セル11に対する走査経路、および電波の検出の有無を検査される太陽電池セル11における各部位との関係を示す太陽電池セル11の平面図である。
【図3】受信アンテナ4の正面図である。
【図4】電波検出基準データDfrに含まれている周波数f1(=3.25GHz)の電波についての太陽電池セル11の各部位での検出の有無を示す検査結果である。
【図5】クラック12の存在している太陽電池セル11について得られた電波検出データDfに含まれている周波数f1の電波についての太陽電池セル11の各部位での検出の有無を示す検査結果である。
【図6】図4に示す電波検出基準データDfrと図5に示す電波検出データDfとの差分を示す説明図である。
【図7】電波検出基準データDfrに含まれている周波数f2(=7.75GHz)の電波についての太陽電池セル11の各部位での検出の有無を示す検査結果である。
【図8】クラック12の存在している太陽電池セル11について得られた電波検出データDfに含まれている周波数f2の電波についての太陽電池セル11の各部位での検出の有無を示す検査結果である。
【図9】図7に示す電波検出基準データDfrと図8に示す電波検出データDfとの差分を示す説明図である。
【図10】クラック検査装置1Aの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、クラック検査装置の実施の形態について説明する。
【0019】
最初に、クラック検査装置1の構成について図面を参照して説明する。
【0020】
クラック検査装置1は、図1に示すように、送信アンテナ2、送信部3、受信アンテナ4、移動機構5、電力検出部6、処理部7、記憶部8および出力部9を備え、検査対象体である太陽電池セル11についてクラック12の有無を検査可能に構成されている。なお、太陽電池セル11は、一例として外形が平面視方形に形成されて、例えば、平面に形成された例えば誘電体で形成されたステージ(不図示)の上面(例えば、上面に形成した凹部内)に載置されるなどして、フラットな状態で、X軸およびY軸に平行な一の平面(X−Y平面)内に予め規定された検査位置に配設される。また、太陽電池セル11には、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型など様々な構造の太陽電池セルが含まれる。
【0021】
送信アンテナ2は、自己補対アンテナやホーンアンテナなどの広帯域アンテナ(本例では一例として自己補対アンテナ)で構成されている。また、送信アンテナ2は、太陽電池セル11の一方の面側(図1では一例として下面側)であって、一例として、図1に示すように、太陽電池セル11を平面視した状態においてその中央部分に配設されている。また、送信アンテナ2は、送信部3から出力される高周波信号S1を入力して、広帯域の電波を太陽電池セル11の一方の面に照射する。
【0022】
送信部3は、一例として信号発生器で構成されて、処理部7からトリガ信号S2を入力したときに、高周波信号S1を送信アンテナ2に出力する。本例では、送信部3は、高周波信号S1として広帯域の信号であるインパルス信号を出力する。この構成により、送信アンテナ2は、高周波信号S1を入力して、広帯域の電波を照射する。なお、送信部3は、インパルス信号を出力する構成に代えて、高周波信号S1(一例としてマイクロ波)の周波数をスイープさせて出力する構成を採用することもでき、この構成によっても、送信アンテナ2から広帯域の電波を照射させることができる。
【0023】
受信アンテナ4は、太陽電池セル11の他方の面側(図1では上面側)に配設されている。本例では、一例として、受信アンテナ4は、図3に示すように、セミリジッドケーブル4aおよび導体部4bを備えた微小ループアンテナで構成されている。具体的には、受信アンテナ4では、直線状のセミリジッドケーブル4aにおける先端側(同図中の下端側)が半円(円弧)状に形成されると共に、この半円状の部位における先端から内部導体4cを突出させている。導体部4bは、導電性部材(一例として、セミリジッドケーブルの外部導体)を用いて、一例として、セミリジッドケーブル4aにおける上記した半円状の部位と同じ直径の半円(円弧)状に形成されている。また、この導体部4bは、その一端(同図中の上端)Aがセミリジッドケーブル4aにおける直線状の部位と半円状の部位との境界部(半円状の部位の基部)Cに電気的に接続される(一例として半田付けされる)と共に、その他端(同図中の下端)Bがセミリジッドケーブル4aにおける半円状の部位の先端から突出している内部導体4cの先端と電気的に接続されている(一例として半田付けされている)。この構成により、セミリジッドケーブル4aにおける半円状の部位、この部位の先端から突出する内部導体4c、および導体部4bが、全体として1ターンのループ状に形成されている。また、受信アンテナ4のループ状部分の直径は、一例として5mm程度(ループ状部分の一周長は約15mm)に構成されている。
【0024】
この構成により、受信アンテナ4の共振周波数が送信アンテナ2から照射される電波の周波数帯域(10GHz以下の周波数帯域)に対して十分に高い周波数(約20GHz)に規定されるため、本例の受信アンテナ4は、送信アンテナ2から照射される電波に対する感度がほぼ一定となる特性を有している。
【0025】
移動機構5は、例えば、受信アンテナ4をX軸方向に沿って移動させるX軸移動部、およびX軸移動部をY軸方向に沿って移動させるY軸移動部(いずれも図示せず)を備えて構成されている。この構成により、移動機構5は、図1に示すように、ループ状部分を太陽電池セル11側に位置させ、かつこのループ状部分を太陽電池セル11から若干離間させた状態で、処理部7から出力される制御信号S3に基づいて、太陽電池セル11における任意の部位の上方に受信アンテナ4を移動可能となっている。具体的には、移動機構5は、処理部7によって制御されて、図2において一点鎖線で示す経路に沿ってつづら折れ状に、太陽電池セル11の上方で受信アンテナ4を移動させる。なお、同図に示すつづら折れの間隔は、発明の理解を容易にするため、実際よりも粗い間隔で記載されている。
【0026】
電力検出部6は、一例としてスペクトラムアナライザを用いて構成されて、同軸ケーブル10を介して受信アンテナ4に接続されている。また、電力検出部6は、処理部7から出力されるトリガ信号S4に同期して、受信アンテナ4が受信する電波の周波数毎の電力(以下、「周波数特性」ともいう)を検出すると共に、検出したこの周波数特性を示すデータ(以下、「特性データ」ともいう)D1を処理部7に出力する。本例では、電力検出部6は、図2に示すように、移動機構5によって受信アンテナ4がスタート位置Psからエンド位置Peまで移動される間に、トリガ信号S4に同期して周波数特性を検出することにより、同図中において破線で示す各部位(一点鎖線で示される受信アンテナ4の移動経路に沿って等間隔で規定された太陽電池セル11の各部位(模式的に円形で表す部位))Qでの周波数特性を検出(走査)して、特性データD1を出力する。
【0027】
処理部7は、CPU(図示せず)を備えて構成されて、送信部3、移動機構5および電力検出部6に対する制御を実行する。また、処理部7は、電力検出部6から入力した太陽電池セル11の各部位Qでの特性データD1に基づいて、この部位Q毎に、予め規定された周波数の電波が検出されたか否かを判別する判別処理を実行する。本例では、送信アンテナ2から照射される電波の周波数帯域は、10GHz以下の周波数帯域であるため、処理部7は、この判別処理において、この周波数帯域に含まれる検査周波数帯域(一例として、1GHz〜10GHz)内の各検査周波数(例えば、最低周波数である1GHzから最高周波数である10GHzまでの、一定の周波数間隔(一例として0.25GHz間隔)で規定された36種類の各周波数)の電波が検出されたか否かを判別する。
【0028】
具体的には、処理部7は、太陽電池セル11の部位Q毎に、特性データD1から得られる各検査周波数での電波の電力と、この各周波数について予め決められた電力(しきい値)とを比較して、算出された電力がしきい値以上となる周波数の電波が検出された部位Qについては、この周波数の電波がこの部位Qにおいて検出されたと判別し、算出された電力がしきい値未満となる周波数の電波が検出された部位Qについては、この周波数の電波はこの部位Qにおいて検出されないと判別する。処理部7は、このようにして判別した太陽電池セル11の各部位Qでの各周波数の電波についての検出の有無を、周波数毎に、各部位Qに対応付けて電波検出データDfとして記憶部8に記憶させる。
【0029】
また、処理部7は、判別処理で求めた電波検出データDfと、予め記憶部8に記憶されている電波検出基準データDfrとを比較し、この比較結果に基づいて太陽電池セル11についてのクラック12の有無を検査する検査処理を実行する。この場合、電波検出基準データDfrは、良品の太陽電池セル11に対して判別処理を実行して求められた電波検出データDfである。この検査処理では、処理部7は、各周波数毎に、太陽電池セル11の各部位Qについての電波検出データDfと電波検出基準データDfrとを比較し、電波検出基準データDfrでは電波が検出されていないとの判別結果であった部位Qにおいて、電波検出データDfでは電波が検出されたとの判別結果となっているという比較結果のときには、この部位Q内にクラックが存在していると判別する。処理部7は、このようにして判別した各部位Qでのクラックの有無を、各周波数毎に、各部位Qに対応付けて検査結果データDcとして記憶部8に記憶させる。
【0030】
記憶部8は、ROMやRAMなどの半導体メモリで構成されて、処理部7のワークメモリとして機能して、電力検出部6から取得した特性データD1、判別処理で求めた電波検出データDf、および検査処理で求めた検査結果データDcが記憶されると共に、処理部7のための動作プログラム、および判別処理の際に処理部7が使用する電波検出基準データDfr(検査対象とする太陽電池セル11についての電波検出基準データDfr)が予め記憶されている。
【0031】
次いで、クラック検査装置1の動作について説明する。一例として、太陽電池セル11(外形は、100mm×100mmの正方形)には、図1,2に示すように、長さの異なる2つのクラック12(クラック12a(長さは約43mm),クラック12b(長さは約80mm))が存在しているものとする。また、太陽電池セル11は、応力や熱などが加わらない状態で、検査位置に予め配設されているものとする。また、記憶部8には、この太陽電池セル11についての電波検出基準データDfrが予め記憶されているものとする。この電波検出基準データDfrには、36種類の検査周波数の電波についての太陽電池セル11の各部位Qでの検出の有無を示す検査結果が含まれている。また、一例として、検査周波数が3.25GHzの電波についての太陽電池セル11の各部位Qでの検出の有無を示す検査結果(図4参照)、および検査周波数が7.75GHzの電波についての太陽電池セル11の各部位Qでの検出の有無を示す検査結果(図7参照)を含む0.25GHz毎の各検査周波数の電波についての太陽電池セル11の各部位Qでの検出の有無を示す検査結果(図示せず)が含まれているものとして、以下説明する。
【0032】
なお、図4,7に示される各検査結果において斜線を付した各領域E1,E2,F1は、これらの領域E1,E2,F1に含まれる各部位Qにおいて、対応する検査周波数の電波が検出されたことを示している。クラックの発生していない良品の太陽電池セル11において、その周縁で電波が検出される部位Qが存在している理由としては、送信アンテナ2から照射された電波の、この周縁から他方の面側(受信アンテナ4が配置されている面側)への回り込みによるものと考えられる。また、良品の太陽電池セル11についての電波検出基準データDfrは、送信アンテナ2や送信部6の特性(指向性や照射される電波の電力)、および太陽電池セル11の特性(形状や大きさなど)に応じて変化するが、送信アンテナ2が特定されると共に照射電力が一定に維持され、かつ太陽電池セル11が特定された状態では一定となる。
【0033】
まず、処理部7は、移動機構5に対して制御信号S3を出力することにより、図2において一点鎖線で示す移動経路に沿った受信アンテナ4の一定速度での移動(走査)を太陽電池セル11の一方の面側(図1中の上面側)で開始させる。また、処理部7は、受信アンテナ4の移動の開始に合わせて、送信部3および電力検出部6への一定時間間隔でのトリガ信号S2,S4の出力も開始する。これにより、図2に示すように、受信アンテナ4が、移動機構5によってスタート位置Psからエンド位置Peまで移動される間、同図中において破線で示される各部位Qに位置する状態のときに、送信部3が高周波信号(インパルス信号)S1を送信アンテナ2に出力して、送信アンテナ2が広帯域の電波を太陽電池セル11の一方の面側(図1中の下面側)全域に照射し、電力検出部6が受信アンテナ4で受信される電波の周波数特性を検出して、特性データD1を出力する。また、処理部7は、電力検出部6から特性データD1が出力される都度、この特性データD1を取得して、太陽電池セル11における各部位Qに対応させて記憶部8に記憶させる。これにより、受信アンテナ4による太陽電池セル11の一方の面に対する電波検出の走査が完了する。
【0034】
次いで、処理部7は、記憶部8に記憶されている太陽電池セル11の各部位Qについての特性データD1に基づいて、判別処理を実行する。この判別処理では、処理部7は、検査周波数毎に、太陽電池セル11の各部位Qにおいて、この検査周波数の電波が検出されたか否かの判別を実行する。また、処理部7は、判別した太陽電池セル11の各部位Qでの各検査周波数の電波についての検出の有無を、検査周波数毎に、各部位Qに対応付けて電波検出データDfとして記憶部8に記憶させる。
【0035】
具体的に、3.25GHzの検査周波数(以下、検査周波数f1ともいう)を例に挙げて説明すると、図5に示すように、良品の太陽電池セル11において検査周波数f1の電波が検出された領域E1,E2に加えて、クラック12b全体を含む領域(斜線を付した領域)E3に含まれる各部位Q(図示は省略している)において、この検査周波数f1の電波が検出されている。その一方で、クラック12bよりも長さの短い(約1/2の長さの)クラック12aに関しては、この検査周波数f1の電波は検出されていない。なお、図5に示すように、クラック12aは、その一部が領域E3に含まれているものの、上記したように、この領域E3はクラック12bから漏れ出た電波が検出された部位Qを含む領域であると考えられるため、クラック12aからの検査周波数f1の電波の漏れ出しは極めて少ない。この理由としては、クラック12aの長さが、検査周波数f1の電波の1/2波長(長さ:46.1mm)よりも短いためであると考えられる。
【0036】
また、他の例として、7.75GHzの検査周波数(以下、検査周波数f2ともいう)では、図8に示すように、良品の太陽電池セル11において検査周波数f2の電波が検出された領域F1に加えて、クラック12aのほぼ全体を含む領域(斜線を付した領域)F2と、クラック12bにおける中央部分から太陽電池セル11の中央寄りに位置する端部手前までを含む領域(斜線を付した領域)F3とにおいて、この検査周波数f2の電波が検出されている。検査周波数f1のときとは異なり、この検査周波数f2ではクラック12aを含む部位Qにおいて電波が検出されるが、この理由としては、クラック12aの長さが、検査周波数f2の電波の1/2波長(長さ:19.3mm)よりも長いためであると考えられる。
【0037】
続いて、処理部7は、判別処理で求めた電波検出データDfと、予め記憶部8に記憶されている電波検出基準データDfrとを比較することにより、太陽電池セル11についてのクラック12の有無を検査する検査処理を実行する。具体的には、処理部7は、上記したように、検査周波数毎に、太陽電池セル11の各部位Qについて、電波検出基準データDfr(良品の太陽電池セル11)では電波が検出されていないとの判別結果であったものが、電波検出データDfでは電波が検出されたとの判別結果となっているときには、この部位Q内に、太陽電池セル11の他方の面に照射された電波を一方の面に漏れ出させるクラックが存在していると判別する。処理部7は、このようにして判別した各部位Qでのクラックの有無を、検査周波数毎に、各部位Qに対応付けて検査結果データDcとして記憶部8に記憶させる。
【0038】
具体的に、3.25GHzの検査周波数f1を例に挙げて説明すると、この検査周波数f1についての検査結果データDcは、図4に示す電波検出基準データDfrに含まれている領域E1,E2を、図5に示す電波検出データDfから省くことと等価である。この結果、3.25GHzの検査周波数f1の電波についての電波検出データDfは、図6に示すように、領域E3のみが存在するデータとなる。
【0039】
また、7.75GHzの検査周波数f2については、この検査周波数f2についての検査結果データDcは、図7に示す電波検出基準データDfrに含まれている領域F1を、図8に示す電波検出データDfから省くことと等価である。この結果、7.75GHzの検査周波数f2の電波についての電波検出データDfは、図9に示すように、領域F2,F3のみが存在するデータとなる。
【0040】
最後に、処理部7は、いずれかの検査周波数において、太陽電池セル11のいずれかの部位Qにクラックが存在していることを検出したときには、クラックが存在していると検出された検査周波数についての検査結果データDcを出力部9に表示させる。一方、いずれの検査周波数においても、クラックが存在していないことを検出したときには、その旨を出力部9に表示させる。これにより、この検査処理が完了する。このようにして、処理部7による検査処理の結果が出力部9に表示されるため、出力部9に表示される検査結果に基づいて、太陽電池セル11にクラック12が存在しているか否かを容易に検査することができる。また、図6,9に示すようにして、クラック12が存在していると判別された各部位Qと、存在していないと判別された部位Qとを異なる態様で画像として出力部9に表示することにより、太陽電池セル11のいずれの部位Qにクラック12が存在しているかについても容易に検査することができる。
【0041】
このように、このクラック検査装置1では、太陽電池セル11の一方の面に送信アンテナ2から電波が照射されている状態において、電力検出部6が太陽電池セル11の他方の面側に配設された受信アンテナ4が受信する電波についての特性データD1を検出し、処理部7が、この特性データD1に基づいて太陽電池セル11の他方の面側において電波が検出されたか否か(電波の検出の有無)を判別することにより、太陽電池セル11についてのクラック12の有無を検査する。
【0042】
したがって、このクラック検査装置1によれば、渦電流を利用しない構成のため、渦電流を発生させる導電体層を有する太陽電池セルのみならず、このような導電体層を有せずに半導体材料としてのシリコンのみで構成された太陽電池セル11についても、クラック12の有無を確実に検査することができる。
【0043】
また、このクラック検査装置1では、微小ループアンテナで受信アンテナ4を構成し、処理部7は、受信アンテナ4で太陽電池セル11の他方の面を走査しつつ電力検出部6によって検出された太陽電池セル11の各部位Qでの電波の電力に基づいてこの各部位Qにおいて電波が検出されたか否か(電波の検出の有無)を判別することにより、太陽電池セル11の各部位Qでのクラック12の有無を検査する。したがって、このクラック検査装置1によれば、太陽電池セル11のいずれの部位Qにクラック12が存在しているかについても検査することができる。
【0044】
また、このクラック検査装置1では、送信アンテナ2が広帯域の電波を照射し、電力検出部6が受信した電波の検査周波数毎の電力を検出し、処理部7が、電力検出部6によって検出された電波の検査周波数毎の電力に基づいて各検査周波数の電波が検出されたか否か(電波の検出の有無)を判別する。この場合、上記したように、太陽電池セル11では、クラック12の長さに応じて、ある検査周波数の電波はこのクラック12から漏れ出し、ある検査周波数の電波は漏れ出さないという現象が発生する。
【0045】
本例では、3.25GHzの検査周波数f1の電波については、図5に示すように、長いクラック12bについては、このクラック12b全体を覆う領域に含まれる各部位Qで検出されているが、短いクラック12aについては殆ど検出される部位Qが存在していない。その一方で、7.75GHzの検査周波数f2の電波については、図8に示すように、短いクラック12aについては、このクラック12aのほぼ全体を覆う領域に含まれる各部位Qで検出されているが、長いクラック12bについてはその全体に亘っては検出されておらず、一部の部位Qでのみ検出されている。このことから、長さの短いクラック12からは波長の短い(周波数の高い)電波が漏れ出し易く、逆に長さの長いクラック12からは波長の長い(周波数の低い)電波が漏れ出し易いという傾向があると考えられる。
【0046】
しかしながら、このクラック検査装置1によれば、太陽電池セル11に送信アンテナ2から広帯域の電波を照射して検査する構成のため、様々な長さのクラック12について、その存在の有無を検査することができる。
【0047】
また、このクラック検査装置1では、良品の太陽電池セル11についての各検査周波数の電波の検出有無についての判別結果を示す電波検出基準データDfrが記憶された記憶部8を備え、処理部7は、電力検出部6によって検出された各検査周波数の電力に基づく各検査周波数の電波の検出有無についての判別結果(電波検出データDf)と電波検出基準データDfrとを比較して、その比較結果に基づいてクラック12の有無を検査する。したがって、このクラック検査装置1によれば、クラック12の存在に起因した電波の漏れ出しのみを確実に検出することができるため、クラック12の検査精度を向上させることができる。
【0048】
なお、上記の構成に限定されない。例えば、送信アンテナ2を自己補対アンテナで構成し、受信アンテナ4を微小ループアンテナで構成した例について上記したが、図10に示すクラック検査装置1Aのように、送信アンテナ2および受信アンテナ4の双方についてホーンアンテナを使用する構成を採用することもできる。なお、このクラック検査装置1Aは、送信アンテナ2および受信アンテナ4を除く他の構成要素についてはクラック検査装置1と同一であるため、同図に示す構成要素以外の構成要素については図示は省略している。
【0049】
このクラック検査装置1Aでは、送信アンテナ2および受信アンテナ4を構成する各ホーンアンテナは、図10に示すように、隙間Gを空けて対向配置される。また、太陽電池セル11は、この隙間Gに配設されると共に、移動機構5により、同一平面内で移動される。つまり、移動機構5により、太陽電池セル11と、ホーンアンテナで構成された送信アンテナ2および受信アンテナ4とが相対的に移動させられる。このクラック検査装置1Aによれば、上記したクラック検査装置1と同様の効果を奏しつつ、太陽電池セル11について、ホーンアンテナの開口部に対応した広範囲な部位Qを一回の電波の送受信で検査することができるため、検査時間を短縮することができる。
【0050】
また、上記したクラック検査装置1では、送信アンテナ2を広帯域アンテナとしての自己補対アンテナで構成し、受信アンテナ4を微小ループアンテナで構成した例について上記したが、送信アンテナ2を微小ループアンテナで構成し、受信アンテナ4を自己補対アンテナなどの広帯域アンテナで構成することもできる。この構成によれば、微小ループアンテナの方が、広帯域アンテナよりもアンテナ利得が低いため、送信アンテナ2としての微小ループアンテナから太陽電池セル11以外の方向に照射される電磁波の強度を抑圧することができ、その結果、クラック検査装置から外部に漏れる電磁波を大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 クラック検査装置
2 送信アンテナ
4 受信アンテナ
6 電力検出部
7 処理部
8 記憶部
11 太陽電池セル
12 クラック
Dfr 電波検出基準データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池セルの一方の面側に配設されて当該一方の面に電波を照射する送信アンテナと、
前記太陽電池セルの他方の面側に配設された受信アンテナと、
当該受信アンテナによって受信された前記電波の電力を検出する電力検出部と、
当該電力検出部で検出された前記電波の前記電力に基づいて前記太陽電池セルの前記他方の面側における前記電波の検出有無を判別し、当該判別結果に基づいて当該太陽電池セルについてのクラックの有無を検査する処理部とを備えているクラック検査装置。
【請求項2】
前記受信アンテナは微小ループアンテナで構成され、
前記処理部は、前記受信アンテナで前記他方の面を走査しつつ前記電力検出部によって検出された前記太陽電池セルの各部位での前記電波の前記電力に基づいて当該各部位における前記電波の検出有無を判別し、当該判別結果に基づいて当該太陽電池セルの当該各部位での前記クラックの有無を検査する請求項1記載のクラック検査装置。
【請求項3】
前記送信アンテナは、広帯域の電波を照射可能な広帯域アンテナで構成され、
前記電力検出部は、前記送信アンテナから照射された前記広帯域の電波の周波数毎の前記電力を検出し、
前記処理部は、前記電力検出部によって検出された前記周波数毎の前記電力に基づいて当該各周波数の電波の検出有無を判別し、当該判別結果に基づいて前記クラックの有無を検査する請求項1または2記載のクラック検査装置。
【請求項4】
良品の前記太陽電池セルについての前記電波の検出有無についての判別結果を示す電波検出基準データを記憶する記憶部を備え、
前記処理部は、前記電力検出部によって検出された前記電力に基づいて判別した前記電波の検出有無についての前記判別結果と前記記憶部に記憶されている前記電波検出基準データとを比較して、当該比較結果に基づいて前記クラックの有無を検査する請求項1から3のいずれかに記載のクラック検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−54750(P2011−54750A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202151(P2009−202151)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】