説明

クラッチ装置

【課題】製造コストを低減することができる皿ばねの製造方法により得られる皿ばねを用いたクラッチ装置を提供する。
【解決手段】クラッチ装置は、クラッチドラムを内部に有する2つのクラッチ機構を備えている。各クラッチ機構のクラッチドラムの内部における従動プレートとピストンとの間に、リング状の親皿ばねおよび子皿ばねのそれぞれが設けられている。親皿ばね1の凸面側内周縁部には、荷重負荷時に最初に相手部材と接触可能な平坦部が形成され、その平坦部により弾性変形における平坦時発生荷重が所望値に調整されている。このような親皿ばねおよび子皿ばねのブランク1A,2A(図6)は、プレス加工によって同一の板厚を有する板材から得る。このとき、ブランク1Aには、その曲げ成形後の形状を考慮に入れて、内周縁部に平坦部12Aを形成する。
【選択図】図7

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに外径の異なる複数の皿ばねを備えた多板式クラッチ装置に係り、特に皿ばねの製造歩留の向上によりクラッチ装置の低価格化を図るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機械のクラッチ装置は、湿式多板式クラッチ機構を備えている。湿式多板式クラッチ機構は、略有底円筒状をなすクラッチドラムを備え、クラッチドラムには、軸線方向に移動可能に設けられた底面側の従動プレートとピストンとの間に、リング状の皿ばねが設けられている(たとえば特許文献1)。皿ばねは、その内周縁部がピストンによって支持されるとともに、その外周縁部が底面側の従動プレートによって支持されるように配置されている。皿ばねは、皿形状から略平坦になるように弾性変形することによって、クラッチ機構のクラッチ締結時に生じるショックを吸収する。
【0003】
このような皿ばねの特性では、弾性変形において皿ばねが略平坦になるとき、すなわち皿ばねの変位量が、高さHと板厚Tとの差で規定されるストローク長ST(図10参照)に達したときの発生荷重(以下、平坦時発生荷重)が、クラッチ機構の設計値として必要である。平坦時発生荷重は、皿ばねの外径、内径、板厚T、およびストローク長STに依存するが、それらのうち皿ばねの外径、内径、およびストローク長STは、クラッチ機構の設計値として予め決定されている。これにより、平坦時発生荷重は、板厚Tにより調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−32918号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、CVT(Continuously Variable Transmission)車やAT(Automatic Transmission)車のクラッチ装置には、互いの軸線が一致するとともに、大きさの異なる複数のクラッチ機構を備えている装置があり、各クラッチ機構には、そのクラッチドラムに対応した外径を有する皿ばねが配置されている。この場合、皿ばねのそれぞれの平坦時発生荷重は同一ではないのが通常であるから、皿ばねのそれぞれは板厚の異なる材料から製造されている。
【0006】
しかしながら、板材から皿ばねのブランクを打ち抜いた後の材料はスクラップにする以外にないため、上記のような皿ばねの製造ではスクラップになる部分が非常に多い。このため、皿ばねの材料歩留が悪く、製造コストが割高となっていた。
【0007】
したがって、本発明は、製造コストを低減することができる皿ばねの製造方法により得られる皿ばねを用いることにより低価格化を図ることができるクラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
皿ばねの第1製造方法は、プレス加工によって板材からリング状の複数のブランクを打ち抜き、複数のブランクのそれぞれを、リング状の皿形状の本体を有する皿ばねに成形する製造方法であって、プレス加工では外径の小さなブランクを外径の大きなブランクの内側領域から打ち抜き、皿ばねの少なくとも一つの本体の凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に、その一方の周縁部と他方の周縁部との間の地点からその一方の周縁部のエッジに向かって延在する平坦部あるいはテーパ部を形成し、平坦部あるいはテーパ部の形成により、皿ばねの平坦時発生荷重を調整することを特徴としている。
【0009】
ここで、凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に平坦部あるいはテーパ部が形成された皿ばねでは、無荷重時に少なくともその一方の周縁部と他方の周縁部との間の地点で接触可能であるから、平坦部およびテーパ部が形成されていない従来の皿ばねと比較して、凹面側外周縁部の接地径と凸面側内周縁部の接地径との差(すなわち接地点間距離)が小さくなる。これにより、平坦部あるいはテーパ部が形成された皿ばねでは、その高さと接地点間距離との比が減少するから、皿ばねが略平坦になるとき(すなわち皿ばねの変位量が高さと板厚との差で規定されるストローク長に達したとき)の発生荷重(以下、平坦時発生荷重)が大きくなる。したがって、皿ばねの第1製造方法のように同一の板材から外径の大きな皿ばねおよび外径の小さな皿ばねを得る場合、その板材の板厚を、必要な平坦時発生荷重が小さな皿ばねの板厚に一致させるとともに、必要な平坦時発生荷重が大きな皿ばねに平坦部あるいはテーパ部を形成する。
【0010】
これついて、図4を参照して説明する。図4は、各種皿ばねのストローク長STと平坦時発生荷重Pの関係図であり、(A)は、外径の大きな親皿ばねの板厚が、外径の小さな子皿ばねの板厚より大きい場合の関係図、(B)は、外径の小さな子皿ばねの板厚が、外径の大きな親皿ばねの板厚より大きい場合の関係図である。なお、図4に示すストローク長ST ,STの大小関係および平坦時発生荷重P,Pの大小関係は任意に設定できることは言うまでもない。
【0011】
まず、図4(A)の場合について説明する。外径の大きな皿ばね(以下、親皿ばね)では、点Aで示されるストローク長STおよび平坦時発生荷重Pを必要とし、外径の小さな皿ばね(以下、子皿ばね)では、点Bで示されるストローク長STおよび平坦時発生荷重はPを必要とする場合を考える。点Aの特性を満足する親皿ばねとして、平坦部が形成されていない板厚がTの親皿ばねがある。点Bの特性を満足する皿ばねとして、平坦部が形成されていない板厚がT(<T)の子皿ばねがある。
【0012】
ここで、親皿ばねを子皿ばねと同一の板材から得るために、親皿ばねの板厚をTに設定すると、板厚が小さくなるため、点Cで示される平坦時発生荷重P(<P)を示す親皿ばねとなって、所望の平坦時発生荷重Pを有する親皿ばねを得ることができない。しかしながら、この場合、親皿ばねの凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に平坦部を形成して平坦部形成親皿ばねにすると、上記のように平坦部によって平坦時発生荷重を増加させることができる。これにより、平坦部形成親皿ばねでは、板厚の小さな子皿ばねと同じ板厚Tに設定しても、平坦部の形状や大きさなどを適宜設計することにより、所望の平坦時発生荷重Pを示す親皿ばねを得ることができる。
【0013】
次に、図4(B)の場合について説明する。図4(B)の場合では、点Aの特性を満足する親皿ばねの板厚が子皿ばねの板厚よりも小さく設定されている点(すなわち、T>T)が、図4(A)の場合と異なる。
【0014】
子皿ばねを親皿ばねと同一の板材から得るために、子皿ばねの板厚をTに設定すると、板厚が小さくなるため、点Dで示される平坦時発生荷重P(<P)を示す子皿ばねとなって、所望の平坦時発生荷重Pを有する子皿ばねを得ることができない。しかしながら、この場合、子皿ばねの凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に平坦部を形成して平坦部形成子皿ばねにすると、上記のように平坦部によって平坦時発生荷重を増加させることができる。これにより、平坦部形成子皿ばねでは、板厚の小さな親皿ばねと同じ板厚Tに設定しても、平坦部の形状や大きさなどを適宜設計することにより、所望の平坦時発生荷重Pを示す子皿ばねを得ることができる。
【0015】
このように皿ばねの第1製造方法では、上記のように形状や大きさなどを適宜設計した平坦部を皿ばねに形成して平坦時発生荷重を増加させることにより、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す複数の皿ばねを同一の板材から得ることができる。また、外径の小さなブランクを外径の大きなブランクの内側領域から打ち抜くので、原材料である板材を有効に使用することができる。また、外径の大きな皿ばねと外径の小さな皿ばねのブランクの打ち抜きを同時に行うことができる。以上のように、皿ばねの材料歩留を向上させることができ、かつ製造工程数を減少させることができるので、製造コストを低減することができる。
【0016】
なお、このように図4を用いて皿ばねの荷重調整のために平坦部を形成する例について説明したが、平坦部の代わりに、テーパ部を形成してもよい。この場合、荷重負荷時に先テーパ部の先端部が最初に相手部材に接触可能とすることにより、平坦部と同様な作用・効果を得ることができる。
【0017】
皿ばねの第2製造方法は、プレス加工によって板材からリング状の複数のブランクを打ち抜き、複数のブランクのそれぞれを、リング状の皿形状の本体を有する皿ばねに成形する製造方法であって、プレス加工では外径の小さなブランクを外径の大きなブランクの内側領域から打ち抜き、皿ばねの少なくとも一つの本体の内周面および外周面の少なくとも一方に、切削を施すことにより被切削部を形成し、被切削部により、皿ばねの平坦時発生荷重を調整することを特徴としている。
【0018】
ここで、内周部および外周部の少なくとも一方に切削が施された皿ばねでは、その周面部を切削しているから、周面部に切削が施されていない従来の皿ばねと比較して、平坦時発生荷重が小さくなる。したがって、皿ばねの第2製造方法のように同一の板材から外径の大きな皿ばねおよび外径の小さな皿ばねを得る場合、その板材の板厚を、必要な平坦時発生荷重が大きな皿ばねの板厚に一致させるとともに、必要な平坦時発生荷重が小さな皿ばねに切削を施して被切削部を形成する。
【0019】
これついて、図5を参照して説明する。図5は、各種皿ばねのストローク長STと平坦時発生荷重Pの関係図であり、(A)は、外径の大きな親皿ばねの板厚が、外径の小さな子皿ばねの板厚より大きい場合の関係図、(B)は、外径の小さな子皿ばねの板厚が、外径の大きな親皿ばねの板厚より大きい場合の関係図である。なお、図5に示すストローク長ST ,STの大小関係および平坦時発生荷重P,Pの大小関係は任意に設定できることは言うまでもない。
【0020】
まず、図5(A)の場合について説明する。外径の大きな皿ばね(以下、親皿ばね)では、点Aで示されるストローク長STおよび平坦時発生荷重Pを必要とし、外径の小さな皿ばね(以下、子皿ばね)では、点Bで示されるストローク長STおよび平坦時発生荷重はPを必要とする場合を考える。点Aの特性を満足する親皿ばねとして、板厚がTの親皿ばねがある。点Bの特性を満足する皿ばねとして、被切削部が形成されていない板厚がT(<T)の子皿ばねがある。
【0021】
ここで、子皿ばねを親皿ばねと同一の板材から得るために、子皿ばねの板厚をTに設定すると、板厚が大きくなるため、点Eで示される平坦時発生荷重P(>P)を示す子皿ばねとなって、所望の平坦時発生荷重Pを有する子皿ばねを得ることができない。しかしながら、この場合、子皿ばねの外周部および内周部の少なくとも一方に被切削部を形成して被切削部形成子皿ばねにすると、上記のように被切削部によって平坦時発生荷重を低減することができる。これにより、被切削部形成子皿ばねでは、板厚の大きな親皿ばねと同じ板厚Tに設定しても、被切削部の形状や大きさなどを適宜設計することにより、所望の平坦時発生荷重Pを示す子皿ばねを得ることができる。
【0022】
次に、図5(B)の場合について説明する。図5(B)の場合では、点Aの特性を満足する親皿ばねの板厚が子皿ばねの板厚よりも小さく設定されている点(すなわち、T>T)が、図5(A)の場合と異なる。
【0023】
親皿ばねを子皿ばねと同一の板材から得るために、親皿ばねの板厚をTに設定すると、板厚が大きくなるため、点F示される平坦時発生荷重P(>P)を示す親皿ばねとなって、所望の平坦時発生荷重Pを有する親皿ばねを得ることができない。しかしながら、この場合、親皿ばねの外周部および内周部の少なくとも一方に被切削部を形成して被切削部形成親皿ばねにすると、上記のように被切削部によって平坦時発生荷重を低減することができる。これにより、被切削部形成親皿ばねでは、板厚の大きな子皿ばねと同じ板厚Tに設定しても、被切削部の形状や大きさを適宜設計することにより、所望の平坦時発生荷重Pを示す親皿ばねを得ることができる。
【0024】
このように皿ばねの第2製造方法では、平坦部の代わりに、形状や大きさなどを適宜設計した被切削部を皿ばねに形成して平坦時発生荷重を低減させる以外は、皿ばねの第1製造方法と同様であり、皿ばねの第1製造方法と同様な効果を得ることができる。
【0025】
平坦部あるいはテーパ部を形成する第1製造方法による皿ばねでは、被切削部を形成する第2製造方法による皿ばねと比較して、平坦時発生荷重の調整幅が大きい。したがって、第1製造方法は、平坦時発生荷重調整において第2製造方法より有効である。一方、第2製造方法では、複数のブランクを一括してそれらに平坦部あるいはテーパ部を形成することができない第1製造方法と比較して、たとえば旋盤を用いて複数のブランクを重ねて切削を施すことができる。また、第1製造方法では、平坦部あるいはテーパ部の形成に内外径が影響されずに皿ばねを製造することが可能であり、第2製造方法では、被切削部の形成に高さが影響されずに皿ばねを製造することが可能である。
【0026】
本発明の第1クラッチ装置は、筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能に設けられた第2部材と第3部材との間に、リング状の皿形状の本体を有する皿ばねを備えるとともに、互いの軸線が一致する複数のクラッチ機構を備えた装置であって、複数のクラッチ機構の皿ばねは、同一の板厚を有するとともに、互いに異なる外径を有し、皿ばねの少なくとも一つの本体の凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に、その一方の周縁部と他方の周縁部との間の地点からその一方の周縁部のエッジに向かって延在する平坦部あるいはテーパ部が形成され、平坦部あるいはテーパ部の形成により、クラッチ機構に対応した皿ばねの発生荷重が設定されていることを特徴としている。
【0027】
本発明の第1クラッチ装置では、互いに同一の板厚を有する皿ばねの少なくとも一つの凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に、平坦部あるいはテーパ部が形成されているので、それらの形状や大きさを適宜設計することにより、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す複数の皿ばねを同一の板材から得ることができる。これにより、皿ばねの材料歩留を向上させることができるので、皿ばねを低価格にすることができる。したがって、装置を低価格にすることができる。
【0028】
本発明の第2クラッチ装置は、筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能に設けられた第2部材と第3部材との間に、リング状の皿形状の本体を有する皿ばねを備えるとともに、互いの軸線が一致する複数のクラッチ機構を備えた装置であって、複数のクラッチ機構の皿ばねは、同一の板厚を有するとともに、互いに異なる外径を有し、皿ばねの少なくとも一つの本体の内周面および外周面の少なくとも一方に、被切削部が形成され、被切削部の形成により、クラッチ機構に対応した皿ばねの発生荷重が設定されていることを特徴としている。
【0029】
本発明の第2クラッチ装置では、平坦部の代わりに、互いに同一の板厚を有する皿ばねの少なくとも一つの内周部および外周部の少なくとも一方に被切削部が形成されている以外は、本発明の第1クラッチ装置と同様であり、本発明の第1クラッチ装置と同様な効果を得ることができる。
【0030】
ここで、本発明のクラッチ装置では、種々の構成を用いることができる。たとえば、外径の小さな皿ばねは、外径の大きな皿ばねのリング状の内側に収まる大きさを有することができる。この態様では、皿ばねの製造時のプレス加工において外径の小さなブランクを外径の大きなブランクの内側領域から打ち抜くので、製造工程数を減少させることができる。したがって、皿ばねをさらに低価格にすることができるので、装置をさらに低価格にすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の第1クラッチ装置に適用可能な皿ばねの第1製造方法によれば、形状や大きさなどを適宜設計した平坦部あるいはテーパ部を少なくとも1つの皿ばねに形成して平坦時発生荷重を増加させることにより、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す複数の皿ばねを同一の板材から得ることができる等の効果が得られる。本発明の第1クラッチ装置によれば、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す皿ばねを低価格にすることができるので、装置を低価格にすることができる等の効果が得られる。
【0032】
本発明の第2クラッチ装置に適用可能な皿ばねの第2製造方法によれば、形状や大きさなどを適宜設計した被切削部を少なくとも1つの皿ばねに形成して平坦時発生荷重を減少させることにより、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す複数の皿ばねを同一の板材から得ることができる等の効果が得られる。本発明の第2クラッチ装置によれば、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す皿ばねを低価格にすることができるので、装置を低価格にすることができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係るクラッチ装置に用いられる親皿ばねの構成を表し、(A)は平面図、(B)は(A)の1B−1B線の側断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置に用いられる子皿ばねの構成を表し、(A)は平面図、(B)は(A)の2B−2B線の側断面図である。
【図3】(A)は、本発明のクラッチ装置に用いられる皿ばねの構成の一例を表し、凸面側内周縁部に平坦部が形成されている皿ばねの断面図、(B)は、従来の皿ばねの構成を表す断面図である。
【図4】本発明のクラッチ装置に用いられる皿ばねの第1の製造方法による各種皿ばねのストローク長STと平坦時発生荷重Pの関係図であり、(A)は、外径の大きな親皿ばねの板厚が、外径の小さな子皿ばねの板厚より大きい場合、(B)は、外径の小さな子皿ばねの板厚が、外径の大きな親皿ばねの板厚より大きい場合の関係図である。
【図5】本発明のクラッチ装置に用いられる皿ばねの第2の製造方法による各種皿ばねのストローク長STと平坦時発生荷重Pの関係図であり、(A)は、外径の大きな親皿ばねの板厚が、外径の小さな子皿ばねの板厚より大きい場合、(B)は、外径の小さな子皿ばねの板厚が、外径の大きな親皿ばねの板厚より大きい場合の関係図である。
【図6】図1,2の親皿ばねおよび子皿ばねのブランクの構成を表す図であり、(A)は断面図、(B)は(A)の3B−3B線における側断面図である。
【図7】図1,2の親皿ばねおよび子皿ばねを適用した多板式クラッチ装置の構成を表す側断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置に用いられる子皿ばねの一部構成を表し、(A)は、被切削部が内周部に形成された子皿ばねの断面図、(B)は、被切削部が外周部に形成された子皿ばねの断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置に用いられる親皿ばねの変形例の一部構成を表し、(A)は、平坦部が凹面側外周縁部に形成された親皿ばねの断面図、(B)は、テーパ部が凸面側内周縁部に形成された親皿ばねの断面図である。
【図10】皿ばねの側部の構成を表し、ストローク長ST、板厚T、および高さHの関係を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(1)第1実施形態
(1−1)皿ばねの構成
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1,2は、本発明のクラッチ装置に用いられる第1実施形態に係る親皿ばね(外径の大きな皿ばね、平坦部形成親皿ばね)1,子皿ばね(外径の小さな皿ばね)2の構成を表す図である。図1の(A)は平面図、(B)は(A)の1B−1B線の側断面図、図2の(A)は平面図、(B)は(A)の2B−2B線の側断面図である。
【0035】
親皿ばね1は、リング状の皿形状をなす本体10を備え、本体10の中心部に円形状の孔11が形成されている。親皿ばね1の凸面側内周縁部には、荷重負荷時に最初に相手部材と接触可能な平坦部12が形成されている。子皿ばね2は、リング状の皿形状をなす本体20を備え、本体20の中心部に円形状の孔21が形成されている。親皿ばね1と子皿ばね2の板厚はともにTである。
【0036】
ここで、親皿ばね1の平坦部12は、図3(A)に示すように、内周縁部と外周縁部との間の地点から内周縁部のエッジまで延在し、その径方向の長さはbである。このように平坦部12が形成された図3(A)の親皿ばね1では、荷重負荷時に最初に平坦部12の全面が相手部材と接触可能であるから、平坦部が形成されていない図3(B)の従来の皿ばね101と比較して、相手部材との接触により規定される凹面側外周縁部の接地径dと、相手部材との接触により規定される凸面側内周縁部の接地径dとの差a(=d−d)が小さくなる。これにより、図3(A)に示す親皿ばね1では、図3(B)に示す従来の親皿ばねと比較して、平坦時発生荷重が大きい。なお、図3(A)に示す親皿ばね1と図3(B)に示す従来の親皿ばね101とは、同一の板厚、外径、および、内径を有している。
【0037】
これにより第1実施形態では、親皿ばね1のストローク長および平坦時発生荷重は、図3(A)の点Aに示すように、STおよびPであって、板厚がTより大きなTの親皿ばねのものと同じである。子皿ばね2のストローク長および平坦時発生荷重は、図3(A)の点Bに示すように、STおよびPである。
【0038】
親皿ばね1の内径は、子皿ばね2の外径よりも大きく設定され、子皿ばね2は、親皿ばね1の内側に収まる大きさを有する。親皿ばね1および子皿ばね2の高さはH,Hである。
【0039】
(1−2)皿ばねの製造方法
次に、親皿ばね1および子皿ばね2の製造方法について、おもに図6を参照して説明する。図6は、親皿ばね1および子皿ばね2のブランク1A,2Aの構成を表す図であり、(A)は断面図、(B)は(A)の3B−3B線における側断面図である。まず、プレス加工によって、板厚Tの板材からリング状の大径ブランク1Aを打ち抜き、ブランク1Aの内側領域からリング状の小径ブランク2Aを打ち抜く。このとき、大径ブランク1Aには、下記の曲げ成形後の形状を考慮に入れて、内周縁部に平坦部12Aを形成する。
【0040】
次いで、常温で2つのブランク1A,2Aに曲げ成形を行う。そして、皿形状の2つのブランク1A,2Aに熱処理(焼入れ・焼戻し)を行うことにより、皿形状のブランク1Aから親皿ばね1が得られ、皿形状のブランク2Aから子皿ばね2が得られる。ブランク1Aへの曲げ成形は、平坦部12Aが凸面側に位置するように行う。なお、2つのブランク1A,2Aへの曲げ成形および熱処理を同時に行ってもよい。また、平坦部12の形成は、曲げ成形時に鍛造プレスやプレスクウェンチを用いて行ってもよい。さらに、平坦部12の形成は、(ブランク成形後、曲げ成形後および熱処理後のいずれかの段階において)切削や研削などによって行ってもよい。
【0041】
(1−3)クラッチ機構の構成
上記の皿ばね1,2は、図7に示すようなクラッチ装置30に適用することができる。図7は、クラッチ装置30の構成を表す側断面図である。クラッチ装置30は、たとえば自動車のCVT車に使用され、湿式多板式リバース用クラッチ機構100と湿式多板式フォワード用クラッチ機構200を備えている。フォワード用クラッチ機構200は、リバース用クラッチ機構100の内側における略円筒状の空洞部に収容され、リバース用クラッチ機構100と同一の回転軸線を有している。
【0042】
リバース用クラッチ機構100は、略有底円筒状をなすクラッチドラム101を備え、その内周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝が円周方向に等間隔に形成されている。クラッチドラム101の内部には、それと回転軸線位置が一致する筒状のクラッチハブ102が設けられ、その外周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝が円周方向に等間隔に形成されている。
【0043】
クラッチドラム101とクラッチハブ102との間には、クラッチドラム101のスプライン溝に嵌合する従動プレート103と、クラッチハブ102のスプライン溝に嵌合する駆動プレート104とが設けられている。それらプレート103,104は、軸線方向に移動可能に所定の間隔をおいて交互に配置されている。クラッチドラム101の底面側(図7の左側)には、軸線方向に移動可能にピストン105が配置されている。クラッチドラム101とピストン105との間には、作動油が供給される油圧室(図示略)が形成されている。ピストン105の開口側表面には、そこに負荷される圧力によって伸縮するリターンスプリング(図示略)の一端部が固定されている。リターンスプリングは、ピストン105をクラッチドラム101の底面側へ付勢している。
【0044】
クラッチドラム101の底面側の従動プレート103とピストン105との間には、上記親皿ばね1が配置されている。この場合、親皿ばね1は、本体10の内周縁部がピストン105によって支持されるとともに、本体10の外周縁部が従動プレート103によって支持されるように配置されている。これにより、親皿ばね1は、軸線方向に移動可能となっている。クラッチドラム101の開口側には、従動プレート103および駆動プレート104を支持するためのリテーニングプレート109が配置されている。リテーニングプレート109の開口側表面には、それの外部への離脱防止のためのスナップリング110が配置されている。
【0045】
フォワード用クラッチ機構200は、略有底円筒状をなすクラッチドラム201を備えている。クラッチドラム201は、リバース用クラッチ機構100のクラッチハブ102の内側の略円筒状の空洞に収容されている。クラッチドラム201の内周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝が円周方向に等間隔に形成されている。クラッチドラム201の内部には、それと回転軸線位置が一致する筒状のクラッチハブ202が設けられ、その外周面には、軸線方向に延在する複数のスプライン溝が円周方向に等間隔に形成されている。
【0046】
クラッチドラム201とクラッチハブ202との間には、クラッチドラム201のスプライン溝に嵌合する従動プレート203と、クラッチハブ202のスプライン溝に嵌合する駆動プレート204とが設けられている。それらプレート203,204は、軸線方向に移動可能に所定の間隔をおいて交互に配置されている。クラッチドラム201の底面側には、軸線方向に移動可能にピストン205が配置されている。クラッチドラム201とピストン205との間には、作動油が供給される油圧室206が形成されている。ピストン205の開口側表面には、そこに負荷される圧力によって伸縮するリターンスプリング207の一端部が固定されている。リターンスプリング207の他端部は、クラッチドラム201に設けられたスプリングリテーナ208に固定されている。リターンスプリング207は、ピストン205をクラッチドラム201の底面側へ付勢している。
【0047】
クラッチドラム201の底面側の従動プレート203とピストン205との間には、上記子皿ばね2が配置されている。この場合、子皿ばね2は、本体20の内周縁部が従動プレート203によって支持されるとともに、本体20の外周縁部がピストン205によって支持されるように配置されている。これにより、子皿ばね2は、軸線方向に移動可能となっている。クラッチドラム201の開口側には、従動プレート203および駆動プレート204を支持するためのリテーニングプレート209が配置されている。リテーニングプレート209の開口側表面には、それの外部への離脱防止のためのスナップリング210が配置されている。
【0048】
(1−4)クラッチ機構の動作
次に、皿ばね1,2が適用されたクラッチ機構100,200の動作について、おもに図7を参照して説明する。リバース用クラッチ機構100はCVT車の後退走行のときに使用され、フォワード用クラッチ機構200はCVT車の前進走行のときに使用される。なお、各クラッチ機構100,200は、各走行において同様な動作をするので、ここでは、リバース用クラッチ機構100の動作を説明し、フォワード用クラッチ機構200の動作の説明は省略する。
【0049】
油圧室に作動油を供給すると、油圧により駆動されたピストン105がリターンスプリングの付勢力に抗して軸線方向の開口側に移動し、親皿ばね1を介して、クラッチドラム101の底面側の従動プレート103を押圧する。すると、交互に配置されている従動プレート103および駆動プレート104とリテーニングプレート109は、軸線方向の開口側に移動する。このような移動によって、リテーニングプレート109がスナップリング110に押接されると、互いに対向する従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面が係合してクラッチ締結が行われる。これにより、クラッチドラム101とクラッチハブ102との間のトルク伝達が可能となる。このとき、親皿ばね1は、皿形状から略平坦になるように弾性変形することにより、クラッチ締結時に生じるショックを吸収する。このときの親皿ばね1の平坦時発生荷重は、図3(A)の点Aに示すようにPである。
【0050】
次に、油圧室から作動油の供給を排出すると、ピストン105がリターンスプリングの付勢力によって、クラッチドラム101の底面側に押し戻される。すると、従動プレート103および駆動プレート104の摩擦面の係合が解除されてクラッチ締結が解除されるとともに、親皿ばね1の形状が元の状態に戻る。
【0051】
以上のように第1実施形態のクラッチ装置に適用可能な皿ばねの製造方法では、上記のように形状や大きさなどを適宜設計した平坦部12を皿ばね1に形成して平坦時発生荷重を増加させることにより、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す複数の皿ばね1,2を同一の板材から得ることができる。また、外径の小さなブランク2Aを外径の大きなブランク1Aの内側領域から打ち抜くので、原材料である板材を有効に使用することができる。また、外径の大きな皿ばね1と外径の小さな皿ばね2のブランクの打ち抜きを同時に行うことができる。以上のように、皿ばね1,2の材料歩留を向上させることができ、かつ製造工程数を減少させることができるので、製造コストを低減することができる。
【0052】
第1実施形態のクラッチ装置30では、互いに同一の板厚を有する皿ばね1,2の少なくとも一つの凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に、平坦部12が形成されているので、それらの形状や大きさを適宜設計することにより、それぞれが所望の平坦時発生荷重を示す複数の皿ばね1,2を同一の板材から得ることができる。これにより、皿ばね1.2の材料歩留を向上させることができるので、皿ばね1,2を低価格にすることができる。したがって、装置30を低価格にすることができる。
【0053】
特に、皿ばね1,2の製造時のプレス加工において外径の小さなブランク2Aを外径の大きなブランク1Aの内側領域から打ち抜くので、製造工程数を減少させることができる。したがって、皿ばね1,2をさらに低価格にすることができるので、装置30をさらに低価格にすることができる。
【0054】
(2)第2実施形態
第2実施形態では、親皿ばねおよび子皿ばねの板厚として、第1実施形態のように小さな板厚Tを用いる代わりに大きな板厚Tを用い、かつそれに伴い、第1実施形態の平坦部を親皿ばねに形成する代わりに、被切削部を子皿ばねに形成することにより子皿ばねの平坦時発生荷重を低減する。図8は、本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置に用いられる子皿ばね3,4の一部構成を表し、(A)は、被切削部22が内周部に形成された子皿ばね3の断面図、(B)は、被切削部23が外周部に形成された子皿ばね4の断面図である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、第2実施形態と同様な作用を有する構成要素の説明は省略している。
【0055】
第2実施形態の親皿ばね(外径の大きな皿ばね)では、その断面形状が、第1実施形態の子皿ばね2と同様な形状である。第2実施形態の子皿ばね(外径の小さな皿ばね、被切削部形成子皿ばね)は、たとえば図8(A)に示すように被切削部22が形成された内周部が軸線方向に平行である子皿ばね3、あるいは、たとえば図8(B)に示すように被切削部23が形成された外周部が軸線方向に平行である子皿ばね4である。子皿ばね3,4では、被切削部22,23が形成された周部が軸線方向に平行であるから、径方向における相手部材との衝突時にその相手部材への損傷が防止される。
【0056】
ここで、被切削部22,23が形成された図8(A),(B)に示す子皿ばね3,4では、その周部の一部が切削されているから、被切削部が形成されていない従来の子皿ばねと比較して、平坦時発生荷重が小さい。
【0057】
これにより第2実施形態では、親皿ばねのストローク長および平坦時発生荷重は、図5(A)の点Aに示すように、STおよびPである。子皿ばね3,4のストローク長および平坦時発生荷重は、図5(A)の点Bに示すように、STおよびPであって、板厚がTより小さなTの親皿ばねのものと同じである。このような親皿ばねおよび子皿ばねは、第1実施形態と同様にクラッチ装置30に適用することができる。
【0058】
第2実施形態のクラッチ装置に適用可能な皿ばねの製造方法では、まず、プレス加工によって、板厚Tの板材からリング状の大径ブランクを打ち抜き、ブランクの内側領域からリング状の小径ブランクを打ち抜く。次いで、常温で2つのブランクに曲げ成形を行う。そして、皿形状の2つのブランクに熱処理(焼入れ・焼戻し)を行う。これにより、皿形状の大径ブランクから親皿ばねが得られる。続いて、皿形状の小径ブランクを重ねて旋盤により内周部あるいは外周部に切削を施すことにより、子皿ばね3あるいは子皿ばね4が得られる。なお、ブランクへの曲げ成形および熱処理を同時に行ってもよい。
【0059】
以上のように第2実施形態のクラッチ装置に適用可能な皿ばね3,4の製造方法では、平坦部12の代わりに、形状や大きさなどを適宜設計した被切削部22,23を皿ばねに形成して平坦時発生荷重を低減させる以外は、第1実施形態の皿ばね1,2の製造方法と同様であり、第1実施形態の皿ばね1,2の製造方法と同様な効果を得ることができる。また、第2実施形態のクラッチ装置30では、平坦部12の代わりに、互いに同一の板厚を有する皿ばねの少なくとも一つの内周部および外周部の少なくとも一方に被切削部22,23が形成されている以外は、本発明の第1クラッチ装置と同様であるから、本発明の第1クラッチ装置と同様な効果を得ることができる。
【0060】
第1実施形態のクラッチ装置に適用可能な皿ばねの製造方法と第2実施形態のクラッチ装置に適用可能な皿ばねの製造方法とを比較すると次のようになる。すなわち、平坦部12が形成された皿ばね1では、被切削部22,23を形成する皿ばね3,4と比較して、平坦時発生荷重の調整幅が大きい。したがって、第1実施形態の皿ばねの製造方法は、平坦時発生荷重調整において第2実施形態の皿ばねの製造方法より有効である。一方、第2実施形態の皿ばねの製造方法では、複数のブランクを一括してそれらに平坦部12Aを形成することができない第1実施形態の皿ばねの製造方法と比較して、たとえば旋盤を用いて複数のブランクを重ねて切削を施すことができる。また、第1実施形態の皿ばねの製造方法では、平坦部12の形成に内外径が影響されずに皿ばね1を製造することが可能であり、第2製造方法では、被切削部22,23の形成に高さが影響されずに皿ばね3,4を製造することが可能である。
【0061】
(3)変形例
以上のように上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、第1実施形態では、親皿ばね1の凸面側内周縁部に平坦部12を形成したが、その代わりに、図9(A)に示すように、親皿ばね5の凹面側外周縁部に平坦部13を形成してもよい。平坦部13は、凹面側において内周縁部と外周縁部との間の地点から外周縁部のエッジまで延在し、荷重負荷時に最初に平坦部13の全面が相手部材と接触可能である。また、親皿ばねに平坦部12,13の両方を形成することも可能である。
【0062】
さらに、たとえば、図9(B)に示すように、親皿ばね6の凸面側内周縁部にテーパ部14を形成してもよい。テーパ部14は、凸面側において内周縁部と外周縁部との間の地点から内周縁部のエッジまで凹面側に向かって傾斜角度cで傾斜し、荷重負荷時にテーパ部14の先端部が最初に相手部材に接触可能である。なお、このようなテーパ部14は、平坦部13の代わりに凹面側外周縁部に適用することができるのは言うまでもない。
【0063】
加えて、第1実施形態では、親皿ばね1に平坦部12を形成するようにしたが、子皿ばね2の凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に平坦部を形成してもよい。さらに、第2実施形態では、子皿ばねの内周部あるいは外周部に被切削部を形成するようにしたが、子皿ばねの内周部および外周部のいずれにも被切削部を形成することが可能である。さらに、第2実施形態では、子皿ばねに被切削部を形成するようにしたが、親皿ばねの内周部および外周部の少なくとも一方に被切削部を形成してもよい。
【0064】
また、親皿ばね1および子皿ばね2の外周部に、半径方向外側へ突出する歯を複数形成してもよい。親皿ばね1および子皿ばね2の歯は、クラッチ機構100,200におけるクラッチドラム101,102のスプライン溝に嵌合し、クラッチドラム101,102に対する親皿ばね1および子皿ばね2の相対回転を防止する機能を有する。
【0065】
さらに、上記実施形態では、クラッチ装置30は2つのクラッチ機構100,200を備えるようにしたが、これに限定されるものではなく、互いの軸線が一致する3以上のクラッチ機構を備えるようにしてもよい。この場合、各クラッチ機構に適用される皿ばねでは、上記実施形態と同様にして、平坦部、テーパ部、あるいは、被切削部を適宜形成し、同一の板厚を有する板材から得ることにより、各皿ばねを各クラッチ機構に対応した平坦時発生荷重に調整する。加えて、上記実施形態では、本発明を自動車のCVT車の多板式クラッチ装置に適用したが、これに限定されるものではない。たとえば、本発明を、自動車のAT車や、建設機械、自動二輪などの輸送機械の多板式クラッチ装置に適用することができる。
【0066】
また、上記実施形態では、同一の板材から得た親皿ばねおよび子皿ばねを同一のクラッチ装置30に適用したが、これに限定されるものではなく、親皿ばねおよび子皿ばねを別々に、互いに異なるクラッチ装置に適用してもよいのは言うまでもない。さらに、上記実施形態では、クラッチ機構100,200における親皿ばねおよび子皿ばねの発生荷重として、それらが略平坦になるときの平坦時発生荷重を用いるようにしたが、これに限定されるものではなく、それらが略平坦になる前の所望のストローク長STのときの発生荷重を用いることができるのは言うまでもないことである。
【符号の説明】
【0067】
1,5,6…親皿ばね(外径の大きな皿ばね)、2,3,4…子皿ばね(外径の小さな皿ばね)、12,13…平坦部、14…テーパ部、22,23…被切削部、30…クラッチ装置、100,200…クラッチ機構、101,201…クラッチドラム(第1部材)、103,203…従動プレート(第2部材)、105,205…ピストン(第3部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能に設けられた第2部材と第3部材との間に、リング状の皿形状の本体を有する皿ばねを備えるとともに、互いの軸線が一致する複数のクラッチ機構を備えたクラッチ装置において、
前記複数のクラッチ機構の皿ばねは、同一の板厚を有するとともに、互いに異なる外径を有し、前記皿ばねの少なくとも一つの前記本体の凸面側内周縁部および凹面側外周縁部の少なくとも一方に、その一方の周縁部と他方の周縁部との間の地点から前記一方の周縁部のエッジに向かって延在する平坦部あるいはテーパ部が形成され
前記平坦部あるいは前記テーパ部の形成により、前記クラッチ機構に対応した前記皿ばねの発生荷重が設定されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
筒状の第1部材の内部で軸線方向に移動可能に設けられた第2部材と第3部材との間に、リング状の皿形状の本体を有する皿ばねを備えるとともに、互いの軸線が一致する複数のクラッチ機構を備えたクラッチ装置において、
前記複数のクラッチ機構の皿ばねは、同一の板厚を有するとともに、互いに異なる外径を有し、前記皿ばねの少なくとも一つの前記本体の内周面および外周面の少なくとも一方に、被切削部が形成され
前記被切削部の形成により、前記クラッチ機構に対応した前記皿ばねの発生荷重が設定されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
外径の小さな皿ばねは、外径の大きな皿ばねの内側に収まる大きさを有することを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−79731(P2013−79731A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−21301(P2013−21301)
【出願日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【分割の表示】特願2007−97125(P2007−97125)の分割
【原出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】