説明

クラッチ装置

【課題】一体型のプレッシャプレートのメリットを活かしつつプレッシャプレートの反りを抑制できるクラッチ装置を提供すること。
【解決手段】回転可能に配されたフライホイール11に対して同軸かつ回転可能に配されるとともに、フライホイール11に対して摩擦係合可能なクラッチディスク30と、クラッチディスク30をフライホイール11に向けて押付可能に配されるとともに、クラッチディスク30に対して摩擦係合可能なプレッシャプレート17と、を備え、プレッシャプレート17は、クラッチディスク30との摩擦面に対する反対側の背面において、プレッシャレート17の摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させて、プレッシャプレート17の反りを発生させる応力を緩和する応力緩和部を有し、応力緩和部は、プレッシャプレートの背面に形成された溝部17cである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチディスクをプレッシャプレートで押付ける機構を有するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、エンジン始動時や変速時などにおいてエンジンの回転動力を変速機に伝達しないようにするために、エンジンと変速機との間の動力伝達系路上にクラッチ装置が設けられている。クラッチ装置は、クラッチレバー、クラッチペダル等の操作機構のマニュアル操作(手動操作、踏込操作等)により、油圧機構、リンク機構等のレリーズ機構を介してクラッチ操作力が伝達されて、エンジンと変速機とが断続可能になっている。クラッチ装置は、一般的に、変速機に回転動力を伝達するクラッチディスクを、エンジンの回転動力が伝達されるフライホイールに対して、プレッシャプレートで押付ける機構を有する。プレッシャプレートは、レリーズ機構によって操作可能なダイヤフラムスプリングによってクラッチディスク側に付勢されている。クラッチディスクがフライホイールとプレッシャプレートとの間に挟み込まれて摩擦係合することで、エンジンの回転動力が変速機に伝達される。
【0003】
クラッチ装置では、エンジンからの回転動力を変速機に向けて伝達するときに、プレッシャプレートとクラッチディスクとの摩擦面で摩擦によって発熱し、プレッシャプレートの背面(ダイヤフラムスプリング側の面)と摩擦面との温度差が生じ、プレッシャプレートの背面と摩擦面に熱膨張による伸び量に差が生じ、プレッシャプレートが変形する。プレッシャプレートの変形量が大きくなると、トルク伝達容量が低下し、クラッチの滑り、温度上昇などの不具合を引き起こす可能性がある。
【0004】
つまり、プレッシャプレート117が変形すると、プレッシャプレート117の外周部分がクラッチディスク30から離れる方向に反りが発生し、プレッシャプレート117に対するダイヤフラムスプリング15の押付位置が開放側に変位し、プレッシャプレート117に対するダイヤフラムスプリング15の押付荷重が減少し、伝達トルクが小さくなる(図10、図11参照)。また、プレッシャプレート117の反りにより、プレッシャプレート117とクラッチディスク30との摩擦面の有効径(トルク伝達作用半径)が減少(反りの発生によりプレッシャプレート117の外周部分がクラッチディスク30から離れて摩擦面が内周寄りに変化)し、伝達トルクが小さくなる。さらに、プレッシャプレート117の反りにより、プレッシャプレート117とクラッチディスク30との摩擦面の面積が小さくなり、摩擦面で滑りが生ずると急激に温度が上がりやすく、摩擦材31が劣化し、摩擦係数が低下し、伝達トルクが小さくなる。最終的には、エンジントルクを車輪に伝達できなくなり、坂道等登れない状態になるおそれがある。
【0005】
そこで、このようなプレッシャプレートの反りを抑制するために、特許文献1では、プレッシャプレートを複数の円環板状のプレート部材によって構成するとともに、それらのプレート部材に形成された径方向に長い長穴内にリベットを挿し込み、波形スプリングを介挿した状態でかしめた構成とした摩擦クラッチが提案されている。これにより、プレート部材の膨張・収縮に伴う径方向の相対移動を許容可能になり、プレッシャプレートの反りが抑制されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−79286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下の分析は、本願発明者により与えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献1のような組立型のプレッシャプレートでは、部品点数が多く、一体型のプレッシャプレートよりもコストがかかってしまう。また、特許文献1に記載のプレッシャプレートは複数のプレート部材に分かれているため、一体型のプレッシャプレートよりも強度が低く、放熱性(伝熱性)が低くなってしまう。さらに、特許文献1に記載のプレッシャプレートでは、プレート部材間が径方向に相対移動可能になっているため、プレート部材の偏芯によって、一体型のプレッシャプレートよりもクラッチディスクの摩擦材が劣化しやすくなる可能性がある。
【0009】
本発明の主な課題は、一体型のプレッシャプレートのメリットを活かしつつプレッシャプレートの反りを抑制できるクラッチ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一視点においては、クラッチ装置において、回転可能に配されたフライホイールに対して同軸かつ回転可能に配されるとともに、前記フライホイールに対して摩擦係合可能なクラッチディスクと、前記クラッチディスクを前記フライホイールに向けて押付可能に配されるとともに、前記クラッチディスクに対して摩擦係合可能なプレッシャプレートと、を備え、前記プレッシャプレートは、前記クラッチディスクとの摩擦面に対する反対側の背面において、前記プレッシャプレートの前記摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させて、前記プレッシャプレートの反りを発生させる応力を緩和する応力緩和部を有し、前記応力緩和部は、前記プレッシャプレートの前記背面に形成された溝部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プレッシャプレートの背面に応力緩和部となる溝部を形成することで、プレッシャプレートの背面がプレッシャプレートの摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させることができるので、プレッシャプレートの熱膨張時の反りを低減させることができる。また、プレッシャプレートの溝部の底面は摩擦面と近くなり、プレッシャプレートの背面の平均温度と摩擦面の温度との差が小さくなり、プレッシャプレートの熱膨張時の反りの低減が見込める。また、プレッシャプレートは一体型であるので、組立型のプレッシャプレートよりも、部品点数が多い、コストが増大、強度の低下、放熱性(伝熱性)の低下、クラッチディスクの摩擦材の劣化等のデメリットを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した図2のX−X´間に相当する断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。
【図3】本発明の実施例1に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図2のY−Y´間の拡大断面図、(B)図2のZ−Z´間の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施例2に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。
【図5】本発明の実施例2に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図4のY−Y´間の拡大断面図、(B)図4のZ−Z´間の拡大断面図である。
【図6】本発明の実施例3に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。
【図7】本発明の実施例3に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図6のY−Y´間の拡大断面図、(B)図6のZ−Z´間の拡大断面図である。
【図8】本発明の実施例4に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。
【図9】本発明の実施例4に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図8のY−Y´間の拡大断面図、(B)図8のZ−Z´間の拡大断面図である。
【図10】従来のクラッチ装置におけるプレッシャプレートの反りを説明するための模式図である。
【図11】ダイヤフラムスプリングによる押付荷重とレリーズベアリングのストロークとの関係を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るクラッチ装置では、回転可能に配されたフライホイール(図1の11)に対して同軸かつ回転可能に配されるとともに、前記フライホイールに対して摩擦係合可能なクラッチディスク(図1の30)と、前記クラッチディスクを前記フライホイールに向けて押付可能に配されるとともに、前記クラッチディスクに対して摩擦係合可能なプレッシャプレート(図1の17)と、を備え、前記プレッシャプレートは、前記クラッチディスクとの摩擦面に対する反対側の背面において、前記プレッシャプレートの前記摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させて、前記プレッシャプレートの反りを発生させる応力を緩和する応力緩和部を有し、前記応力緩和部は、前記プレッシャプレートの前記背面に形成された溝部(図1の17c、図4の17d、図6の17c、17d、図8の17c)である。
【0014】
本発明の前記クラッチ装置において、前記溝部は、前記プレッシャプレートの回転軸を中心とする周方向及び径方向のうち一方又は両方への広がりを許容するように形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明の前記クラッチ装置において、前記溝部は、前記プレッシャプレートの回転軸を中心とする周方向及び径方向のうち一方又は両方に延在するように形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の前記クラッチ装置において、前記プレッシャプレートは、前記溝部の一部に埋め込まれた補強部を有することが好ましい。
【0017】
本発明の前記クラッチ装置において、前記プレッシャプレートは、一体型であることが好ましい。
【0018】
なお、本出願において図面参照符号を付している場合は、それらは、専ら理解を助けるためのものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1に係るクラッチ装置について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置の構成を模式的に示した図2のX−X´間に相当する断面図である。図2は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。図3は、本発明の実施例1に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図2のY−Y´間の拡大断面図、(B)図2のZ−Z´間の拡大断面図である。
【0020】
クラッチ装置1は、エンジン(図示せず)のクランクシャフト10から変速機入力軸41への回転動力を断接可能に伝達する装置である(図1参照)。クラッチ装置1は、レリーズベアリング23を軸方向のエンジン側(図1の右側)へ移動させてクランクシャフト10から変速機入力軸41への回転動力を遮断状態にするレリーズ装置(例えば、レバー機構、油圧ピストン機構等)によって操作可能である。クラッチ装置1は、主な構成部として、フライホイール11と、ボルト12と、クラッチカバー13と、ボルト14と、ダイヤフラムスプリング15と、支点部材16と、プレッシャプレート17と、ストラップ18と、保持部材19と、リベット20と、筒状部材21と、スリーブ22と、レリーズベアリング23と、クラッチディスク30と、を有する。
【0021】
フライホイール11は、環状の慣性体である。フライホイール11は、内周部分にて複数のボルト12によってクランクシャフト10に取付固定されており、クランクシャフト10と一体に回転する。フライホイール11は、外周部分にて複数のボルト14によってクラッチカバー13が取付固定されており、クラッチカバー13と一体に回転する。
【0022】
クラッチカバー13は、クラッチディスク30の外周部分をカバーするように形成された環状の部材である(図1参照)。クラッチカバー13は、外周部分にてボルト14によってフライホイール11に取付固定されている。クラッチカバー13は、内周部分にてフライホイール11から離間しており、クラッチディスク30の外周部分、及びプレッシャプレート17をカバーしている。クラッチカバー13は、内周端部にて、ダイヤフラムスプリング15の中間部の両側を挟むように配された2つの支点部材16を支持している。クラッチカバー13は、ダイヤフラムスプリング15のレバー部分間における複数の空所にて2つの支点部材16をかしめて支持している。クラッチカバー13は、支点部材16を支点にダイヤフラムスプリング15を揺動可能に支持する。クラッチカバー13は、ストラップ18を介してプレッシャプレート17と弾性的に連結されており、プレッシャプレート17と一体に回転する。
【0023】
ダイヤフラムスプリング15は、環状の皿ばね部分から径方向内側に複数のレバー部分が延在した弾性部材である(図1参照)。ダイヤフラムスプリング15は、中間部分にて、クラッチカバー13に支持された2つの支点部材16の間に揺動可能に挟持されている。ダイヤフラムスプリング15は、外周部分のエンジン側(図1の右側)の面にて、プレッシャプレート17の複数の突起部17aと当接している。ダイヤフラムスプリング15は、突起部17aと離れないようにするため、外周部分の変速機側(図1の左側)の面から、リベット20によってプレッシャプレート17に固定された保持部材19によって保持されている。ダイヤフラムスプリング15は、内周部分の変速機側(図1の左側)の面にて、レリーズベアリング23の回転輪と当接している。ダイヤフラムスプリング15は、支点部材16を支点に傾くことで、ダイヤフラムスプリング15の外周部分がプレッシャプレート17をフライホイール11側に付勢するとともに、ダイヤフラムスプリング15の内周部分がレリーズベアリング23を変速機側(図1の左側)に付勢する。ダイヤフラムスプリング15は、プレッシャプレート17を付勢することで、クラッチディスク30の摩擦材31の部分をフライホイール11に圧接させる。ダイヤフラムスプリング15は、内周部分をレリーズベアリング23によってフライホイール11側に押付けることで、外周部分がフライホイール11から離れるように変位し、プレッシャプレート17のフライホイール11側への付勢を解除する。
【0024】
支点部材16は、ダイヤフラムスプリング15の揺動の支点となる環状の部材である(図1参照)。支点部材16は、ダイヤフラムスプリング15の中間部分の両側に2つ配され、ダイヤフラムスプリング15のレバー部分間の複数の空所にてクラッチカバー13によってかしめられて支持されている。
【0025】
プレッシャプレート17は、クラッチディスク30の摩擦摺動部分をフライホイール11に押付ける環状の一体型のプレートである(図1〜図3参照)。プレッシャプレート17は、エンジン側(図1の右側)の面がクラッチディスク30の摩擦材31と摩擦摺動する摩擦面となっている。プレッシャプレート17は、変速機側(図1の左側)の面(背面;摩擦面に対する反対面)において変速機側(図1の左側)に突出した複数の突起部17aを有する。突起部17aは、ダイヤフラムスプリング15の作用点に当接させる部分であり、ダイヤフラムスプリング15の付勢力を受ける。プレッシャプレート17は、外周端部に複数の座部17bを有する。座部17bは、リベット20によってストラップ18及び保持部材19をプレッシャプレート17に連結するための部分である。プレッシャプレート17は、ストラップ18を介してクラッチカバー13と弾性的に連結されており、クラッチカバー13と一体に回転する。
【0026】
プレッシャプレート17は、変速機側(図1の左側)の面(背面;摩擦面に対する反対面)において、所定の深さの溝部17cが形成されている(図1〜図3参照)。溝部17cは、プレッシャプレート17の摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させて、プレッシャプレート17の反り(図10の点線で示したプレッシャプレート117のような反り)を発生させる応力を緩和(低減)する応力緩和部である。溝部17cは、プレッシャプレート17の回転軸に対する径方向に延在するように(放射状に)複数本形成されている。プレッシャプレート17の背面に溝部17cを形成することにより、プレッシャプレート17の背面(ダイヤフラムスプリング15側の面)と摩擦面(摩擦材31側の面)との温度差が生じてプレッシャプレート17の背面と摩擦面に熱膨張による伸び量に差が生じても、溝部17cによってプレッシャプレート17の背面と摩擦面に熱膨張による伸び量の差を吸収して(プレッシャプレート17の溝部17cで周方向の伸びを許容して)、プレッシャプレート17の変形を抑えることができ、トルク伝達容量の低下を抑え、クラッチの滑り、温度上昇などの不具合の発生を回避することができる。なお、溝部17cの変形例については、他の実施例で説明する。
【0027】
筒状部材21は、変速機入力軸41の外周に配された筒状の部材である。筒状部材21は、変速機ハウジング(図示せず)に支持されている。筒状部材21は、内周面にて、変速機入力軸41と離間している。筒状部材21は、外周面にて、スリーブ22が軸方向にスライド可能に配されている。スリーブ22は、筒状の部材であり、レリーズベアリング23の固定輪が固定されている。スリーブ22は、レリーズ機構(油圧機構、リンク機構等)の操作力を受けて軸方向にスライド可能である。レリーズベアリング23は、回転するダイヤフラムスプリング15の内周部分を押付けてクラッチ装置を断状態にするためのボールベアリングである。レリーズベアリング23は、ダイヤフラムスプリング15と当接する回転輪が複数のボールを介して固定輪に支持された構成となっている。レリーズベアリング23は、スリーブ22と一体にスライド可能である。
【0028】
クラッチディスク30は、フライホイール11とプレッシャプレート17との間に配された円形でディスク状の組立体である。クラッチディスク30は、外周部分にてライニングプレート32の両面に摩擦材31がリベット33によって取付固定された摩擦摺動部分を有し、当該摩擦摺動部分にてフライホイール11とプレッシャプレート17との間に挟み込まれている。クラッチディスク30は、ライニングプレート32の内周部分にてリベット33によってサイドプレート34、35に取付固定されており、サイドプレート34、35間にハブ部材36が配されており、サイドプレート34、35とハブ部材36との間の捩れ(トルク変動)を弾性部材37の弾性力により緩衝(吸収)する機能を有する。クラッチディスク30は、サイドプレート34とハブ部材36の間にスラスト部材38が配されており、サイドプレート35とハブ部材36の間にスラスト部材39及び皿ばね40が配されており、サイドプレート34、35とハブ部材36との捩れ(トルク変動)を、スラスト部材38、39とハブ部材36との間の摩擦力により緩衝(吸収)する機能を有する。クラッチディスク30は、ハブ部材36の内周にて変速機入力軸41に対して回転不能かつ軸方向移動可能にスプライン係合している。なお、変速機入力軸41は、ベアリング(図示せず)を介して回動可能に変速機ハウジング(図示せず)に支持されており、クラッチディスク30からの回転動力を変速機(図示せず)に伝達する。
【0029】
実施例1によれば、プレッシャプレート17の背面に溝部17cを形成することで、プレッシャプレート17の背面がプレッシャプレート17の摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させることができるので、プレッシャプレート17の熱膨張時の反りを低減させることができる。また、プレッシャプレート17の溝部17cの底面は摩擦面と近くなり、プレッシャプレート17の背面の平均温度と摩擦面の温度との差が小さくなり、プレッシャプレート17の反りの低減が見込める。また、プレッシャプレート17は一体型であるので、組立型のプレッシャプレートよりも、部品点数が少なく、コストが増大しないようにすることができる。また、プレッシャプレート17は一体型であるので、組立型のプレッシャプレートよりも、強度の低下が抑えられ、放熱性(伝熱性)の低下を抑えることができる。さらに、プレッシャプレート17は一体型であるので、組立型のプレッシャプレートのようなプレート部材間の相対移動がなく、クラッチディスク30の摩擦材31の劣化を抑えることができる。
【実施例2】
【0030】
本発明の実施例2に係るクラッチ装置について図面を用いて説明する。図4は、本発明の実施例2に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。図5は、本発明の実施例2に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図4のY−Y´間の拡大断面図、(B)図4のZ−Z´間の拡大断面図である。
【0031】
実施例2は、実施例1の変形例であり、プレッシャプレート17の背面に形成された溝部17dを、放射状に形成する代わりに、プレッシャプレート17の回転軸を中心とする周方向に延在するように(環状に)形成したものである。溝部17dは、プレッシャプレート17の摩擦面に対する伸びの追従性を向上させ、プレッシャプレート17の反り(図10の点線で示したプレッシャプレート117のような反り)を発生させる応力を緩和(低減)させるための応力緩和部である。溝部17dは、周方向に1本(複数本でも可)形成されている。プレッシャプレート17の背面に溝部17dを形成することにより、プレッシャプレート17の背面(図1のダイヤフラムスプリング15側の面に相当)と摩擦面(図1の摩擦材31側の面に相当)との温度差が生じてプレッシャプレート17の背面と摩擦面に熱膨張による伸び量に差が生じても、溝部17dによってプレッシャプレート17の背面と摩擦面に熱膨張による伸び量の差を吸収して(プレッシャプレート17の溝部17dで径方向の伸びを許容して)、プレッシャプレート17の変形を抑えることができ、トルク伝達容量の低下を抑え、クラッチの滑り、温度上昇などの不具合の発生を回避することができる。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0032】
実施例2によれば、実施例1と同様な効果を奏する。
【実施例3】
【0033】
本発明の実施例3に係るクラッチ装置について図面を用いて説明する。図6は、本発明の実施例3に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。図7は、本発明の実施例3に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図6のY−Y´間の拡大断面図、(B)図6のZ−Z´間の拡大断面図である。
【0034】
実施例3は、実施例1、2の変形例であり、プレッシャプレート17の背面に形成された放射状の溝部17cと、環状の溝部17dとを組み合わせたものである。プレッシャプレート17の背面に溝部17c、17dを形成することにより、プレッシャプレート17の背面(図1のダイヤフラムスプリング15側の面に相当)と摩擦面(図1の摩擦材31側の面に相当)との温度差が生じてプレッシャプレート17の背面と摩擦面に熱膨張による伸び量に差が生じても、溝部17dによってプレッシャプレート17の背面と摩擦面に熱膨張による伸び量の差を吸収して(プレッシャプレート17の溝部17cで周方向の伸びを許容し、かつ、プレッシャプレート17の溝部17dで径方向の伸びを許容して)、プレッシャプレート17の変形を抑えることができ、トルク伝達容量の低下を抑え、クラッチの滑り、温度上昇などの不具合の発生を回避することができる。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0035】
実施例3によれば、実施例1、2と同様な効果を奏する。
【実施例4】
【0036】
本発明の実施例4に係るクラッチ装置について図面を用いて説明する。図8は、本発明の実施例4に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した背面側から見た平面図である。図9は、本発明の実施例4に係るクラッチ装置におけるプレッシャプレートの構成を模式的に示した(A)図8のY−Y´間の拡大断面図、(B)図8のZ−Z´間の拡大断面図である。
【0037】
実施例4は、実施例1の変形例であり、プレッシャプレート17の背面に形成された溝部17cの一部を埋めた補強部17eを設けたものである。補強部17eは、プレッシャプレート17の強度を補強するためのものである。なお、図8では各溝部17cに補強部17eを形成しているが、溝部17cの一部に補強部17eを形成しないようにしてもよい。また、図8では1つの溝部17cに1つの補強部17eを形成しているが、1つの溝部17cに複数の補強部17eを形成してもよい。また、図8では補強部17eを溝部17cの内周部分に設けているが、補強部17eを溝部17cの中間部分や外周部分に設けてもよい。さらに、補強部17eは、実施例2や実施例3のプレッシャプレート(図4、図6の17)にも適用してもよい。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0038】
実施例4によれば、実施例1と同様な効果を奏するとともに、溝部17cの一部を埋めた補強部17eを設けることで、プレッシャプレート17の強度を確保することができる。
【0039】
なお、本発明の全開示(請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
1 クラッチ装置
10 クランクシャフト
11 フライホイール
12 ボルト
13 クラッチカバー
14 ボルト
15 ダイヤフラムスプリング
16 支点部材
17、117 プレッシャプレート
17a、117a 突起部
17b 座部
17c、17d 溝部
17e 補強部
18 ストラップ
19 保持部材
20 リベット
21 筒状部材
22 スリーブ
23 レリーズベアリング
30 クラッチディスク
31 摩擦材
32 ライニングプレート
33 リベット
34、35 サイドプレート
36 ハブ部材
37 弾性部材
38、39 スラスト部材
40 皿ばね
41 変速機入力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配されたフライホイールに対して同軸かつ回転可能に配されるとともに、前記フライホイールに対して摩擦係合可能なクラッチディスクと、
前記クラッチディスクを前記フライホイールに向けて押付可能に配されるとともに、前記クラッチディスクに対して摩擦係合可能なプレッシャプレートと、
を備え、
前記プレッシャプレートは、前記クラッチディスクとの摩擦面に対する反対側の背面において、前記プレッシャプレートの前記摩擦面の熱膨張時の伸びに追従させて、前記プレッシャプレートの反りを発生させる応力を緩和する応力緩和部を有し、
前記応力緩和部は、前記プレッシャプレートの前記背面に形成された溝部であることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記溝部は、前記プレッシャプレートの回転軸を中心とする周方向及び径方向のうち一方又は両方への広がりを許容するように形成されていることを特徴とする請求項1記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記溝部は、前記プレッシャプレートの回転軸を中心とする周方向及び径方向のうち一方又は両方に延在するように形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記プレッシャプレートは、前記溝部の一部に埋め込まれた補強部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記プレッシャプレートは、一体型であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載のクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96472(P2013−96472A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238625(P2011−238625)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】