説明

クラッド溶接方法

【課題】比較的簡易な手法にて、溶接金属の希釈を抑制しつつ、融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を広範囲に亘って覆うことができるクラッド溶接方法を提供することにある。
【解決手段】先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビード20の他方の端部20bが重なる箇所にて、先行溶接ビード10と後行溶接ビード20が重ならない箇所と比べて溶接入熱を増加させて局部的に深溶け込み12となる深溶け込み部12aを作製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材の表面を溶接金属で覆うクラッド溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントにおける亜臨界圧ボイラ、超臨界圧ボイラならびに複合発電プラント廃熱回収ボイラの最高温部や超々臨界圧ボイラの準高温部に用いられる容器や配管の耐圧部材料の多くの部分は、炭素鋼や低合金鋼から構成されている。そして、炭素鋼や低合金鋼などの母材が水や水蒸気と接触する箇所について耐食性を上げるために、母材の表面に対し、ステンレス鋼やNi基合金などの溶接金属を肉盛溶接して、母材の表面を溶接金属で覆うようにしている。
【0003】
ここで、溶接時に母材を溶かすと、母材と溶接金属が混ざり当該溶接金属に添加されているCrやNi量が減少するため、このような希釈を極力抑制する必要がある。このような溶接金属の希釈を抑制する溶接方法として、溶接方向に対して直角な方向にウィービングしながら溶接を行うクラッド溶接方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このクラッド溶接方法について、従来技術に係るクラッド溶接方法を説明するための図である図6を参照して説明する。同図に示すように、プラズマトーチ101と母材102の間にプラズマアーク103を発生させることで、母材102に所定の大きさの溶融池104を生じさせている。この溶融池104へ溶接金属である溶接ワイヤ105を送給する一方、プラズマトーチ101を所定の周期でウィービングさせつつ溶接進行方向Iへ移動させることで、溶接ワイヤ105の一部が母材102に溶けてなる溶接ビード106が形成される。なお、図6中にて、符号IIがプラズマトーチ101の軌跡を示し、符号IIIが溶接ワイヤ105の送給方向を示す。
【0005】
上述したように、溶融池104へ溶接ワイヤ105を送給する一方、プラズマトーチ101をウィービングさせつつ溶接進行方向Iへ移動させることで、図7(a)に示すように、母材102に対して溶接金属107の溶け込みが少ない溶接ビード106が形成される。同図において、符号108が、溶接金属107が母材102に溶け込んでなる溶け込み領域を示す。
【0006】
ところで、母材102に対して広範囲に亘ってクラッド溶接を行う場合には、溶接ビードを複数形成すると共に、先行する先行溶接ビードの一方の端部に後行する後行溶接ビードの他方の端部を重ねて行う必要がある。ここで、図7(b)に示すように、先行溶接ビード106の一方の端部106aに後行溶接ビード116の他方の端部116bを重ねて溶接すると、後行溶接ビード116の他方の端部116bにて溶接金属117が母材102に対して十分に溶けず、融合不良が生じやすい。なお、図7(b)中にて、符号117が後行溶接ビード116における溶接金属を示し、符号118が後行溶接ビード116における溶接金属117が母材102に溶け込んでなる溶け込み領域を示す。そのため、図7(c)に示すように、先行溶接ビード106の一方の端部106aにおける溶接金属109をグラインダーで除去して、この除去した箇所109に後行溶接ビードの他方の端部を重ねて溶接することで、上述した融合不良の発生を防いでいた。
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/008142号パンフレット(第6頁第1行〜同頁第32行など参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したように、母材の表面を広範囲に亘って溶接金属で覆う場合には、溶接作業の他に、先行溶接ビードの一方の端部を除去する作業を行う必要が生じる上に、母材の表面を溶接金属で覆う広さに応じて除去する作業が増加するため、作業が煩雑になってしまうという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたもので、比較的簡易な手法にて、溶接金属の希釈を抑制しつつ、融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を広範囲に亘って覆うことができるクラッド溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決する第1の発明に係るクラッド溶接方法は、
溶接トーチと母材の間にアークを発生させて生じた溶融池へ溶接金属を送給する一方、当該溶接トーチをウィービングさせつつ溶接方向へ移動させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードの隣の領域に次の溶接ビードを順番に形成すると共に、先行する先行溶接ビードの一方の端部と後行する後行溶接ビードの他方の端部を重ねて形成するクラッド溶接方法であって、
前記先行溶接ビードの一方の端部と前記後行溶接ビードの他方の端部が重なる箇所にて、前記先行溶接ビードと前記後行溶接ビードが重ならない箇所と比べて溶接入熱を増加させて局部的に深溶け込みとなる深溶け込み部を作製する
ことを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する第2の発明に係るクラッド溶接方法は、
第1の発明に係るクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させることにより行われる
ことを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する第3の発明に係るクラッド溶接方法は、
第1の発明に係るクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて溶接電流を増加させることにより行われる
ことを特徴とする。
【0013】
上述した課題を解決する第4の発明に係るクラッド溶接方法は、
第1の発明に係るクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて前記溶接金属の送給量を減らすことにより行われる
ことを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決する第5の発明に係るクラッド溶接方法は、
第1の発明に係るクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させ、且つ、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて溶接電流を増加させることにより行われる
ことを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決する第6の発明に係るクラッド溶接方法は、
第1の発明に係るクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させ、且つ、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて、溶接電流を増加させる一方、前記溶接金属の送給量を減らすことにより行われる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るクラッド溶接方法によれば、先行溶接ビードの一方の端部と後行溶接ビードの他方の端部が重なる箇所にて、前記先行溶接ビードと前記後行溶接ビードが重ならない箇所と比べて溶接入熱を増加させて局部的に深溶け込みとなる深溶け込み部を作製することで、比較的簡易な手法にて、溶接金属の希釈を抑制しつつ、先行溶接ビードと後行溶接ビードを重ねた場合の融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を広範囲に亘って覆うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るクラッド溶接方法の実施の形態を図1〜4に基づいて説明する。
図1は、クラッド溶接方法を説明するための図であり、図1(a)に先行溶接ビードを形成した状態を示し、図1(b)に先行溶接ビードの一方の端部に後行溶接ビードの他方の端部を重ねて形成した状態を示す。図2は第一番目の実施形態に係るクラッド溶接方法を説明するための図であり、図2(a)に第一番目の実施形態に係るクラッド溶接方法の場合を示し、図2(b)に従来技術に係るクラッド溶接方法の場合を示す。図3は第二番目の実施形態に係るクラッド溶接方法を説明するための図であり、図4は第三番目の実施形態に係るクラッド溶接方法を説明するための図である。図2(a)、図2(b)、図3、および図4にて、符号Xが溶接トーチのウィービング方向を示す。
【0018】
本実施形態に係るクラッド溶接方法では、溶接トーチと母材の間にアークを発生させて生じた溶融池へ溶接金属を送給する一方、当該溶接トーチをウィービングさせつつ溶接方向へ移動させて溶接ビードを形成している。また、形成された溶接ビードの隣の領域に次の溶接ビードを順番に形成している。すなわち、形成された溶接ビードの隣の領域へ前記溶接トーチを移動し、当該溶接トーチと前記母材の間にアークを発生させて生じた溶融池へ溶接金属を送給する一方、当該溶接トーチをウィービングさせつつ溶接方向へ移動させて次の溶接ビードを形成している。このように溶接ビードの形成を繰返し行うことで、母材の表面が広範囲に亘って溶接金属で覆われる。そして、先行する先行溶接ビード(Nビード目の溶接ビード)の一方の端部と後行する後行溶接ビード((N+1)ビード目の溶接ビード)の他方の端部を重ねて形成している。ここで、先行溶接ビードの一方の端部と後行溶接ビードの他方の端部が重なる箇所には、先行溶接ビードと後行溶接ビードが重ならない箇所と比べて溶接入熱を増加させて局部的に深溶け込みとなる深溶け込み部が作製されている。
【0019】
具体的には、図1(a)に示すように、母材1の表面1aにNビード目の溶接ビード10(以下、先行溶接ビードと称す)が形成される。このとき、先行溶接ビード10の一方の端部10aの近傍、具体的には、先行溶接ビード10の一方の端部10aにおける、次ビードである(N+1)ビード目の溶接ビード20(以下、後行溶接ビードと称す)の他方の端部20bと重なる箇所にて母材1への溶接入熱を増加させて溶け込み領域12に局部的に深溶け込みとなる深溶け込み部12aを作製する。溶け込み領域12は、溶接金属11が母材1に溶け込んだ領域である。なお、先行溶接ビード10における一方の端部10a以外の領域、例えば、他方の端部10bでは、従来のクラッド溶接方法と同様の溶け込み深さとなっている。
【0020】
ここで、深溶け込み部12aを作製する手法としては、図示しない溶接トーチが先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させる手法や、前記溶接トーチが先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、当該溶接トーチが先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて溶接電流を増加させる手法や、前記溶接トーチが先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、当該溶接トーチが先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて溶接金属の送給量を減らす手法、これらを組み合わせた手法などが挙げられる。
【0021】
続いて、図1(b)に示すように、先行溶接ビード10の一方の端部10a側に後行溶接ビード20が形成される。このとき、後行溶接ビード20の他方の端部20bが先行溶接ビード10の一方の端部10aに重ね合わせられる。これにより、後行溶接ビード20の他方の端部20bにおける溶け込み領域22の深さを、先行溶接ビード10の溶け込み領域12における深溶け込み部12aで確保することができ、溶融不良の発生を抑制できる。
【0022】
経験上、溶け込み部12の深さが1mm程度であれば、先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビード20の他方の端部20bが重なりあう箇所にて、融合不良を発生させてしまう可能性がある。他方、深溶け込み部12aの深さが極端に深くなると、溶接金属11内のCrまたはNiが母材1側に溶け込んで部分的に希釈して、部分的に耐食性を確保できなくなる可能性がある。
【0023】
したがって、本実施形態に係るクラッド溶接方法によれば、先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビード20の他方の端部20bが重なる箇所にて、先行溶接ビード10と後行溶接ビード20が重ならない箇所と比べて溶接入熱を増加させて局部的に深溶け込み部12aを作製することにより、後行溶接ビード20の他方の端部20bにおける溶け込み領域22の深さを、先行溶接ビード10の深溶け込み部12aで確保することができる。これにより、溶接金属の希釈を抑制しつつ、先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビード20の他方の端部20bを重ねた箇所における融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材1の表面を覆うことができる。さらに、従来のように、グラインダーなどによる先行溶接ビードの一方の端部を除去する作業を行わずに、先行溶接ビードを形成した後に後行溶接ビードを形成でき、作業を比較的簡易に実施できる。
【0024】
[第一番目の実施の形態]
本発明の第一番目の実施の形態では、溶接トーチが先行溶接ビードの一方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させた場合について説明する。
【0025】
本実施の形態では、図2(a)に示すように、ワイヤ送給速度を、先行溶接ビード10の形成を開始する時から当該先行溶接ビード10の形成を終了する時まで所定の速度V1に維持している。これにより、母材1に生じた溶融池からの減熱量が一定に維持される。また、溶接電流も、先行溶接ビード10の形成を開始する時から当該先行溶接ビード10の形成を終了する時までに所定値A1に維持している。これにより、母材1に対して一定量の熱が供給される。
【0026】
そして、溶接トーチ101を所定の振幅の幅Wにてウィービングさせ、溶接トーチ101が溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、溶接トーチ101のウィービングを一時的に、すなわちt1秒停止させている。ここでは、先行溶接ビード10の形成を終了するまでに、溶接トーチ101のウィービングを5回停止させている。このように溶接トーチ101のウィービングを制御することにより、溶接トーチ101と母材1の間にアーク103を発生させて生じた溶融池における一方の端部側では、この一方の端部以外の箇所と比べて溶接入熱が増加する。その結果、この箇所(先行溶接ビード10の一方の端部10a近傍)にて溶け込み領域12内に深溶け込み部12aが作製される。なお、これに対して従来技術では、図2(b)に示すように、先行溶接ビード106の形成を開始する時から当該先行溶接ビード106の形成を終了する時まで、ワイヤ送給速度を所定の速度V1に維持すると共に、溶接電流を所定値A1に維持し、溶接トーチ101を所定の振幅の幅Wにてウィービングさせることにより、母材102に対して一定量の熱が供給される。そのため、溶接ビード106における一方の端部106aおよび他方の端部106bにて、溶け込み領域108が浅くなっている。
【0027】
続いて、上述した先行溶接ビード10の一方の端部10aに次の溶接ビードである後行溶接ビードの他方の端部を重ねて当該後行溶接ビードが形成される。
【0028】
したがって、本実施形態に係るクラッド溶接方法によれば、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、当該溶接トーチ101のウィービングを一時的に停止させることにより、溶接入熱を増加させている。その結果、先行溶接ビード10の一方の端部10a近傍に深溶け込み部12aが形成され、当該深溶け込み部12aに後行溶接ビードの他方の端部を重ねることで、後行溶接ビードの他方の端部における溶け込み領域の深さを、先行溶接ビード10の深溶け込み部12aで確保することができる。これにより、溶接金属の希釈を抑制しつつ、先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビードの他方の端部を重ねた箇所における融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を覆うことができる。さらに、従来のように、グラインダーなどによる先行溶接ビードの一方の端部を除去する作業を行わずに、先行溶接ビードを形成した後に後行溶接ビードを形成でき、作業を比較的簡易に実施できる。
【0029】
[第二番目の実施の形態]
本発明の第二番目の実施の形態では、溶接トーチが先行溶接ビードの一方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させ、かつ、このときに溶接電流を一時的に増加させた場合について説明する。
【0030】
本実施の形態では、図3に示すように、ワイヤ送給速度を、先行溶接ビード10の形成を開始する時から当該先行溶接ビード10の形成を終了する時まで所定の速度V1に維持している。これにより、母材1に生じた溶融池からの減熱量が一定に維持される。
【0031】
そして、溶接トーチ101を所定の振幅の幅Wにてウィービングさせ、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、溶接トーチ101のウィービングを一時的に、すなわちt1秒停止させている。さらに、溶接トーチ101のウィービングをt1秒停止させているときに、溶接電流を、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて大きい第二の所定値A2(>所定値A1)に維持している。これにより、溶接トーチ101と母材1の間にアーク103を発生させて生じた溶融池における一方の端部側では、この一方の端部以外の箇所と比べて溶接入熱が増加する。その結果、この箇所(先行溶接ビード10の一方の端部10a近傍)にて溶け込み領域12内に深溶け込み部12aが作製される。
【0032】
続いて、上述した先行溶接ビード10の一方の端部10aに次の溶接ビードである後行溶接ビードの他方の端部を重ねて当該後行溶接ビードが形成される。
【0033】
したがって、本実施形態に係るクラッド溶接方法によれば、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、当該溶接トーチ101のウィービングを一時的に停止させ、且つ、溶接トーチ101のウィービングを停止しているときに、当該溶接トーチ101が当該先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて溶接電流を増加させることにより、溶接入熱を増加させている。その結果、先行溶接ビード10の一方の端部10a近傍に深溶け込み部12aが形成され、当該深溶け込み部12aに後行溶接ビードの他方の端部を重ねることで、後行溶接ビードの他方の端部における溶け込み領域の深さを、先行溶接ビード10の深溶け込み部12aで確保することができる。これにより、溶接金属の希釈を抑制しつつ、先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビードの他方の端部を重ねた箇所における融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を覆うことができる。さらに、従来のように、グラインダーなどによる先行溶接ビードの一方の端部を除去する作業を行わずに、先行溶接ビードを形成した後に後行溶接ビードを形成でき、作業を比較的簡易に実施できる。
【0034】
[第三番目の実施の形態]
本発明の第三番目の実施の形態では、溶接トーチが先行溶接ビードの一方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させ、かつ、このときに溶接電流を一時的に増加させる一方、ワイヤ送給速度を一時的に低減した場合について説明する。
【0035】
本実施の形態では、図4に示すように、溶接トーチ101を所定の振幅の幅Wにてウィービングさせ、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、溶接トーチ101のウィービングを一時的に、すなわちt1秒停止させている。
【0036】
そして、溶接トーチ101のウィービングをt1秒停止させているときに、溶接電流を、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて大きい第二の所定値A2(>所定値A1)に維持している。さらに、溶接トーチ101のウィービングをt1秒停止させているときに、ワイヤ送給速度を、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて小さい第二の所定の速度V2(<第一の所定の速度V1)に維持している。これにより、溶接トーチ101と母材1の間にアーク103を発生させて生じた溶融池における一方の端部側では、この一方の端部以外の箇所と比べて溶接入熱が増加する。その結果、この箇所(先行溶接ビード10の一方の端部10a近傍)にて溶け込み領域12内に深溶け込み部12aが作製される。
【0037】
続いて、上述した先行溶接ビード10の一方の端部10aに次の溶接ビードである後行溶接ビードの他方の端部を重ねて当該後行溶接ビードが形成される。
【0038】
したがって、本実施形態に係るクラッド溶接方法によれば、溶接トーチ101が先行溶接ビード10の一方の端部10aに位置したときに、当該溶接トーチ101のウィービングを一時的に停止させ、且つ、当該溶接トーチ101が当該先行溶接ビード10の一方の端部10a以外の箇所に位置したときと比べて、溶接電流を増加させる一方、前記溶接金属の送給量を減らすことにより、溶接入熱を増加させている。その結果、先行溶接ビード10の一方の端部10a近傍に深溶け込み部12aが形成され、当該深溶け込み部12aに後行溶接ビードの他方の端部を重ねることで、後行溶接ビードの他方の端部における溶け込み領域の深さを、先行溶接ビード10の深溶け込み部12aで確保することができる。これにより、溶接金属の希釈を抑制しつつ、先行溶接ビード10の一方の端部10aと後行溶接ビードの他方の端部を重ねた箇所における融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を覆うことができる。さらに、従来のように、グラインダーなどによる先行溶接ビードの一方の端部を除去する作業を行わずに、先行溶接ビードを形成した後に後行溶接ビードを形成でき、作業を比較的簡易に実施できる。
【0039】
[他の実施の形態]
上記では、先行溶接ビード10にて深溶け込み部12aを作製する場合のクラッド溶接方法について説明したが、後行溶接ビードの他方の端部近傍に深溶け込み部を作製するクラッド溶接方法とすることも可能である。このようなクラッド溶接方法であっても、上述した各実施の形態に係るクラッド溶接方法と同様な作用効果を奏する。
【0040】
上記では、プラズマ溶接を行うときのクラッド溶接方法について説明したが、TIG溶接、MIG溶接などを行うときのクラッド溶接方法とすることも可能である。このようなクラッド溶接方法であっても、上述した各実施の形態に係るクラッド溶接方法と同様な作用効果を奏する。
【実施例】
【0041】
本発明に係るクラッド溶接方法の効果を確認するために行った確認試験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0042】
[試験方法]
本試験では、溶け込み領域の深溶け込み部における溶け込み深さと溶接条件(端部溶接電流、端部ワイヤ送給速度、端部停止時間)の関係について評価を行った。具体的には、低合金鋼からなる母材にNi基合金からなる溶接金属をクラッド溶接した場合における、溶接条件について評価を行った。溶接トーチが溶接ビードの一方の端部以外に位置するときには、溶接電流を225Aとし、ワイヤ送給速度を11m/分とした。試験例1の条件、試験例2の条件、比較試験例1の条件におけるウィービング回数は、溶接トーチを溶接方向に対して直角な方向に所定の振幅の幅にてウィービングする回数を示す。
【0043】
[試験例1の条件]
試験例1の条件では、下記の表1に示すように、ウィービング回数を16回/分とし、端部溶接電流を300Aとし、端部ワイヤ送給速度を6m/分とし、端部停止時間を1.2秒とした溶接条件にて、溶け込み領域の深溶け込み部の深さを計測した。
【0044】
[試験例2の条件]
試験例2の条件では、下記の表1に示すように、ウィービング回数を16回/分とし、端部溶接電流を350Aとし、端部ワイヤ送給速度を7m/分とし、端部停止時間を1.2秒とした溶接条件にて、溶け込み領域の深溶け込み部の深さを計測した。
【0045】
[比較試験例1の条件]
比較試験例1の条件では、下記の表1に示すように、ウィービング回数を16回/分とし、端部溶接電流値を250Aとし、端部ワイヤ送給速度を7m/分とし、端部停止時間を0秒とした溶接条件にて、溶け込み領域の深さを計測した。
【0046】
【表1】

【0047】
[評価]
試験例1では、図5(a)に示すように、深溶け込み部42aの深さd1が3.2mmであることが明らかとなった。試験例2では、図5(b)に示すように、深溶け込み部62aの深さd2が5.4mmであることが明らかとなった。比較試験例1では、図5(c)に示すように、溶け込み領域82の深さd3が1.6mmであることが明らかとなった。すなわち、端部溶接電流と端部停止時間を大きくすることで、溶け込み領域における深溶け込み部の深さが大きくなることを確認した。なお、図5にて、符号31,51,71が母材を示し、符号40、60,80が溶接ビードを示し、符号40a,60a,80aが溶接ビードの一方の端部を示し、符号40b,60b,80bが溶接ビードの他方の端部を示し、符号41,61,81が溶接金属を示し、符号42,62,82が溶け込み領域を示す。
【0048】
よって、上述したように溶接ビードの一方の端部にて溶接入熱を増加させることで、局部的に深溶け込みとなる深溶け込み部が作製され、次の溶接ビードである後行溶接ビードの他方の端部を先行溶接ビードの一方の端部に重ねて形成することで、後行溶接ビードの他方の端部における溶け込み領域の深さを、先行溶接ビードの深溶け込み部で確保できる。これにより、溶接金属の希釈を抑制しつつ、先行溶接ビードの一方の端部と後行溶接ビードの他方の端部を重ねた箇所における融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を覆うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係るクラッド溶接方法は、発電プラントや化学プラントに利用される配管などに対して、比較的簡易な手法にて、溶接金属の希釈を抑制しつつ、融合不良の発生を防止して、当該溶接金属で母材の表面を広範囲に亘って覆うことができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るクラッド溶接方法の一実施形態を説明するための図であり、図1(a)に先行溶接ビードを形成した状態を示し、図1(b)に先行溶接ビードの一方の端部に後行溶接ビードの他方の端部を重ねて形成した状態を示す。
【図2】本発明に係るクラッド溶接方法の第一番目の実施の形態を説明するための図であり、図2(a)に第一番目の実施形態に係るクラッド溶接方法の場合を示し、図2(b)に従来技術に係るクラッド溶接方法の場合を示す。
【図3】本発明に係るクラッド溶接方法の第二番目の実施の形態を説明するための図である。
【図4】本発明に係るクラッド溶接方法の第三番目の実施の形態を説明するための図である。
【図5】本発明に係るクラッド溶接方法について評価した結果を示す図であり、図5(a)に試験条件1の場合を示し、図5(b)に試験条件2の場合を示し、図5(c)に比較試験条件1の場合を示す。
【図6】従来技術に係るクラッド溶接方法を説明するための図である。
【図7】従来技術に係るクラッド溶接方法を説明するための図であり、図7(a)に先行溶接ビードを作製した場合を示し、図7(b)に先行溶接ビードの一方の端部に後行溶接ビードの他方の端部を重ねて作製した場合を示し、図7(c)に先行溶接ビードの一方の端部を除去した場合を示す。
【符号の説明】
【0051】
1 母材
10 先行溶接ビード
11,21 溶接金属
12,22 溶け込み領域
12a 深溶け込み部
20 後行溶接ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチと母材の間にアークを発生させて生じた溶融池へ溶接金属を送給する一方、当該溶接トーチをウィービングさせつつ溶接方向へ移動させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードの隣の領域に次の溶接ビードを順番に形成すると共に、先行する先行溶接ビードの一方の端部と後行する後行溶接ビードの他方の端部を重ねて形成するクラッド溶接方法であって、
前記先行溶接ビードの一方の端部と前記後行溶接ビードの他方の端部が重なる箇所にて、前記先行溶接ビードと前記後行溶接ビードが重ならない箇所と比べて溶接入熱を増加させて局部的に深溶け込みとなる深溶け込み部を作製する
ことを特徴とするクラッド溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させることにより行われる
ことを特徴とするクラッド溶接方法。
【請求項3】
請求項1に記載されたクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて溶接電流を増加させることにより行われる
ことを特徴とするクラッド溶接方法。
【請求項4】
請求項1に記載されたクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて前記溶接金属の送給量を減らすことにより行われる
ことを特徴とするクラッド溶接方法。
【請求項5】
請求項1に記載されたクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させ、且つ、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて溶接電流を増加させることにより行われる
ことを特徴とするクラッド溶接方法。
【請求項6】
請求項1に記載されたクラッド溶接方法であって、
前記溶接入熱の増加が、前記溶接トーチが前記先行溶接ビードの一方の端部又は前記後行溶接ビードの他方の端部に位置したときに、当該溶接トーチのウィービングを一時的に停止させ、且つ、当該溶接トーチが当該先行溶接ビードの一方の端部以外の箇所又は当該後行溶接ビードの他方の端部以外の箇所に位置したときと比べて、溶接電流を増加させる一方、前記溶接金属の送給量を減らすことにより行われる
ことを特徴とするクラッド溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−131639(P2010−131639A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310406(P2008−310406)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】