説明

クラツチの試験方法

【目的】 実際の使用状況に対応した試験を実施して、通常の使用時を前提とするクラッチの特性を得る。
【構成】 変速クラッチCを遮断する工程と、前記変速クラッチCの入力側を回転駆動する工程と、前記変速クラッチCを油圧式の断接アクチュエータ50にて接続して、出力側をフライホイール21と共に増速させる工程とを具備するため、変速クラッチCの入出力は実際の稼働時と同様に回転変化し、断接アクチュエータ50には車載時と同様の遠心油圧が発生し、クラッチ接続時の伝達トルク、或いはフェーシングの磨耗や剥離状態等を車載時と同様に再現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はクラッチの試験方法に関するもので、例えば、車輌用自動変速機に内装された変速クラッチ等を試験する方法に関するものであり、乾式または湿式クラッチの各種試験に使用できるものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種のクラッチの試験方法を用いた試験装置として、図21に示す車輌用自動変速機に用いられる変速クラッチの試験装置を挙げることができる。なお、この変速クラッチは、公知のように、遊星歯車機構と共に自動変速機に内装され、その接続及び遮断(以下、単に『断接』という)動作により遊星歯車機構の係合状態を切り換えて、変速機を変速させるものである。
【0003】図21はこの従来のクラッチの試験方法を用いた試験装置の概略構成を示す正面図である。
【0004】図に示すように、試験装置の基台201上の中央には軸受部材202が設置され、その軸受部材202の右側には変速クラッチCを収容した治具ヘッド203が固定されている。また、基台201上の左側には駆動モータ204が設置され、その駆動モータ204の出力軸204aはフライホイール205を介して入力シャフト206の一端が連結されている。入力シャフト206は前記軸受部材202に回転可能に支持され、その入力シャフト206の他端は、前記治具ヘッド203内で変速クラッチCの入力側であるクラッチドラム207に連結されている。基台201の右端には規制部材208が立設され、この規制部材208は出力シャフト209を介して変速クラッチCの出力側であるクラッチハブ210に連結され、そのクラッチハブ210の回転を規制している。
【0005】前記変速クラッチCのクラッチドラム207内にはクラッチピストン211が軸心方向に移動可能に配設され、クラッチドラム207内のクラッチピストン211にて区画された箇所を油圧室212としている。また、前記クラッチハブ210にはクラッチディスク213が支持され、このクラッチディスク213は前記クラッチピストン211と相対向している。なお、公知のように、クラッチディスク213は、リング状の芯金213bにフェーシング213aを貼着して構成され、このフェーシング213aにより摩擦力を発生するようになっている。
【0006】また、前記油圧室201aには図示しない油圧回路が接続され、その油圧回路から油圧室201a内に導入されるオートマチック・トランスミッション・フルード(以下、単に『ATF』という)の油圧により、クラッチピストン211が移動されてクラッチディスク213を圧着または解除し、その結果、変速クラッチCが断接操作されるようになっている。
【0007】次に、上記のように構成された従来のクラッチの試験装置の動作を説明する。
【0008】試験に際して、まず、油圧回路にて変速クラッチCを遮断し、駆動モータ204にてフライホイール205と共に変速クラッチCのクラッチドラム207を特定方向に、例えば、3000rpm を目標回転数として定速度制御する。次いで、油圧回路にて変速クラッチCの接続を開始すると、その入力側であるクラッチドラム207の回転数がスリップを伴って次第に減少し、最終的に0となってクラッチCが完全に接続される。以後、同様にクラッチCの接続と遮断を繰り返し、その繰返回数が、例えば、15000回に達すると、試験を終了する。
【0009】そして、試験中においては、変速クラッチCを接続する毎に、トルクメータにて伝達トルクの推移(クラッチ接続開始から遮断までの間に、その入力側と出力側との間で伝達されるトルクの推移)を検出し、その伝達トルクの推移が試験の進行に伴ってどのように変化するかのデータを採取している。また、試験終了後においては、クラッチCのフェーシング213aに生じた磨耗や剥離状態等を観察し、その観察結果や前記した伝達トルクのデータに基づいて、フェーシング213aの耐久性や材質の適正等を判定している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】従来のクラッチの試験方法を用いた試験装置は、上記のように回転を規制した変速クラッチCの出力側により回転中の入力側を強制的に停止させることで、クラッチCに負荷を加えるように構成されている。しかしながら、車両の自動変速機に実際に組み込んだときの変速クラッチCは、公知のように、出力側の回転が規制されてはおらず、クラッチ接続により、その出力側が入力側の回転数まで引き上げられる現象が生じている。このように、実際の車載時と試験時とでは、変速クラッチCの入出力の回転変化が異なり、その入力側に着目すれば、車載時にはほぼ3000rpm に維持されるのに対し、試験時では3000rpm から0まで低下することになる。したがって、入力側の油圧室212内に遠心力により発生する油圧(以下、単に『遠心油圧』という)も、車載時にクラッチ接続開始から終了までほぼ一定値に保たれるにも拘わらず、試験時では入力側の回転数低下に伴い次第に低下することになり、この遠心油圧の相違により、変速クラッチCの接続圧も車載時と試験時とでは異なってしまう。
【0011】故に、前記したように、試験中に採取される伝達トルクの推移や、試験後にフェーシング213aに生じた磨耗や剥離状態等も、実際の車載時とは相違してしまい、的確な判定を行なうことができないという課題を残していた。
【0012】そこで、本発明は実際の使用状況に対応した試験を実施でき、通常の使用時を前提とするクラッチの特性を得ることができるクラッチの試験方法の提供を課題とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明にかかるクラッチの試験方法は、クラッチを遮断する工程と、前記クラッチの一側を回転駆動する工程と、前記クラッチを油圧式の断接駆動手段にて接続して、他側を慣性体と共に増速させる工程とを設けたものである。
【0014】請求項2の発明にかかるクラッチの試験方法は、クラッチを遮断する工程と、前記クラッチの一側を回転駆動する工程と、前記クラッチの他側に制動を加える工程と、前記クラッチを油圧式の断接駆動手段にて接続して、他側を制動に抗して増速させる工程とを設けたものである。
【0015】
【作用】請求項1の発明においては、クラッチの一側が所定回転数に保持され、この状態で断接駆動手段にてクラッチが接続されると、その他側は慣性体と共に増速され、このようにクラッチの入出力が実際の稼働時と同様に回転変化するため、断接駆動手段には実際の稼働時と同様の遠心油圧が発生する。
【0016】請求項2の発明においては、クラッチの一側が所定回転数に保持されるとともに、クラッチの他側に所定量の制動が加えられ、この状態で断接駆動手段にてクラッチが接続されると、その他側は制動手段の制動に抗して増速され、このようにクラッチの入出力が実際の稼働時と同様に回転変化するため、断接駆動手段には実際の稼働時と同様の遠心油圧が発生する。
【0017】
【実施例】以下、本発明の実施例のクラッチの試験方法を説明する。
【0018】〈第一実施例〉図2は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の全体構成を示す正面図、図3は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の全体構成を示す平面図である。なお、この実施例の試験装置は、車輌用の自動変速機に内装された変速クラッチを試験するためのものである。公知のように、この変速クラッチは湿式クラッチであり、遊星歯車機構と共に自動変速機に内装されて、その断接動作により遊星歯車機構の係合状態を切り換えて、変速機を変速させるようになっている。また、この試験装置にて実施される試験内容としては、遮断状態の変速クラッチの入出力に回転差を与えて接続するダイナミック試験と、接続状態の変速クラッチの入出力間にトルクを加えて滑りを発生させるスタティック試験とに大別できる。そして、本実施例の試験装置の特徴的な箇所は、ダイナミック試験を実施する構成にあるため、この箇所を重点的に説明する。
【0019】《全体構成》図に示すように、前記変速クラッチCは治具ヘッドHに内装された状態で試験装置に設置され、試験装置は、その治具ヘッドHを中心として、左方の入力側機構部1と右方の出力側機構部2に分かれている。まず、入力側機構部1の概略的な構成を説明すると、試験装置の基台3上の左端には入力側ダイナミック用モータ4が設置され、その出力軸4aはカップリング5を介して入力側ギアボックス6の入力軸6aに接続されている。入力側ギアボックス6の出力軸6bはスタティック用モータ7が接続されるとともに、入力側トルクメータ8と入力側軸受9を介して前記治具ヘッドHの一側に接続されている。
【0020】また、出力側機構部2もほぼ同様の構成であり、基台3上の右端には出力側ダイナミック用モータ10が設置され、その出力軸10aはカップリング11を介して出力側ギアボックス12の入力軸12aに接続されている。出力側ギアボックス12の出力軸12bはロック用モータ13が接続されるとともに、出力側トルクメータ14、出力側固定軸受15、トーションシャフト17及び出力側可動軸受18を介して前記治具ヘッドHの他側に接続されている。
【0021】なお、前記入力側ダイナミック用モータ4及び出力側ダイナミック用モータ10は、ダイナミック試験に用いられるものであり、前記スタティック用モータ7及びロック用モータ13はスタティック試験に用いられるものである。そこで、以下、このスタティック試験用のスタティック用モータ7及びロック用モータ13の説明は省略する。
【0022】《入力側機構部》以上が試験装置の全体構成であり、次に、前記入力側機構部1における入力側ギアボックス6の構成を詳述する。
【0023】〈入力側ギアボックス〉図4は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の入力側ギアボックスの内部構造を示す平断面図である。
【0024】図に示すように、前記入力側ギアボックス6内には、前記入力軸6aと出力軸6bが相互に平行に配設され、両軸6a,6bはそれぞれベアリング19,20にて回転可能に支持されている。そして、前記したように、入力軸6aの左端は入力側ダイナミック用モータ4に接続され、出力軸6bの右端はトルクメータ8(図2に示す)に接続されている。また、出力軸6bの左端はギアボックス6外に突出して、慣性体としてのフライホイール21が着脱可能に固定され、このフライホイール21は慣性重量の異なる別のフライホイールと交換できるようになっている。
【0025】前記入力軸6aには大径駆動歯車22と小径駆動歯車23が固着され、両歯車22,23が入力側ダイナミック用モータ4にて回転駆動されるようになっている。また、前記出力軸6bには小径被動歯車24と大径被動歯車25がベアリング26,27にて回転可能、かつ軸心方向に移動不能に支持され、小径被動歯車24は前記大径駆動歯車22と噛合し、大径被動歯車25は前記小径駆動歯車23と噛合している。そして、入力軸6aの回転に伴い、両被動歯車24,25は出力軸6b上でそれぞれ空転し、その小径被動歯車24の空転速度は入力軸6aの回転数より増速され、大径被動歯車25の空転速度は入力軸6aより減速されることになる。
【0026】前記出力軸6bの両被動歯車24,25間にはスプライン28が形成され、このスプライン28の箇所には噛合クラッチ29が相対回転不能、かつ軸心方向に移動可能に嵌め込まれている。噛合クラッチ29には、ピン30を中心として回動可能な操作レバー31の一端が連結され、この操作レバー31の他端は変速用シリンダ32のピストンロッド32aに連結されている。そして、変速用シリンダ32のピストンロッド32aの出没動作に応じて操作レバー31が回動すると、噛合クラッチ29が出力軸6b上を移動して、両被動歯車24,25のいずれにも係合しない中立位置、左方に移動して小径被動歯車24と係合する増速位置、及び右方に移動して大径被動歯車25と係合する減速位置の3位置間を切換動作する。
【0027】したがって、前記出力軸6bは、中立位置においては入力側ダイナミック用モータ4からの動力が遮断され、また、増速位置においては入力側ダイナミック用モータ4の回転数より増速回転されて、トルクは逆に減少し、減速位置においては入力側ダイナミック用モータ4の回転数より減速回転されて、トルクは逆に増大することになる。なお、実際の試験では、出力軸6bの回転数を変更することより、そのトルクを加減して試験内容に適合させるのを目的として切換操作を行なっている。また、操作レバー31の近接位置には一対のギア位置検出センサ33が配置され、両検出センサ33は、噛合クラッチ29が増速位置または減速位置にあるときに、操作レバー31にてオン操作されるようになっている。
【0028】〈入力側トルクメータ、入力側軸受〉次いで、前記入力側機構部1における入力側トルクメータ8及び入力側軸受9の構成を詳述する。
【0029】図5は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の入力側トルクメータ及び入力側軸受を示す正面図、図6は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の治具ヘッドの支持構造を示す正面図である。
【0030】図に示すように、前記入力側ギアボックス6の出力軸6bには鍔状のクラッチ爪34を備えた伝達シャフト35が連結され、この伝達シャフト35の右端にはフランジ35aが一体形成されている。フランジ35aには前記入力側トルクメータ8の入力フランジ8aがボルト36で連結され、この入力側トルクメータ8は基台3に立設された支持座37上に固定されている。また、入力側トルクメータ8の出力フランジ8bは、入力側シャフト38の左端に設けられた入力フランジ38aにボルト39で連結され、この入力側シャフト38は前記入力側軸受9に多数のベアリング41で回転可能に支持されている。入力側軸受9は支持座40上に設置され、この支持座40は、基台3上に着脱可能に固定された補助基台73上に設けられている。
【0031】前記入力側軸受9の右側には、治具ヘッドHの左側部カバー42がボルト42aにて固定され、この左側部カバー42は入力側軸受9と連続する筒状をなし、その右端が鍔状に形成されている。また、前記入力側シャフト38の右端には出力フランジ38bが一体形成され、その出力フランジ38bには、アタッチメント部材43がインロー嵌合して、図示しないボルトで固定されている。このアタッチメント部材43の中央にはスプライン孔43aが形成され、このスプライン孔43a内には、スプラインが形成されたインプットシャフト44の先端が相対回転不能に嵌挿されている。前記左側部カバー42の右側面にはオイルポンプカバー45が固定され、そのオイルポンプカバー45の中央に形成された回動孔45a内には前記インプットシャフト44の基端が回転可能に保持されている。また、インプットシャフト44の基端には右方に開口するクラッチドラム46が固着され、そのクラッチドラム46内にはリング状のクラッチピストン47が軸心方向に移動可能に配設されている。クラッチピストン47は戻りばね48にて常に左方に付勢され、このクラッチピストン47によりクラッチドラム46内には油圧室49が形成されている。
【0032】このインプットシャフト44、クラッチドラム46及びクラッチピストン47は、前記した変速クラッチCの入力側を構成するものであり、実際のクラッチCの部品が使用されている。そして、入力側ギアボックス6が増速位置または減速位置にあるときに、入力側ダイナミック用モータ4が回転すると、その回転力はギアボックス6の出力軸6a、伝達シャフト35、入力側トルクメータ8及び入力側シャフト38を介してインプットシャフト44に伝達され、その結果、車載時と同様に、インプットシャフト44と共にクラッチドラム46、クラッチピストン47等の部材が回転駆動される。
【0033】なお、本実施例では、前記クラッチドラム46及びクラッチピストン47により断接駆動手段としての油圧式の断接アクチュエータ50が構成され、後述するように、この断接アクチュエータ50の動作により変速クラッチCが断接操作される。そして、前記したようにクラッチドラム46及びクラッチピストン47が実際のクラッチCの部品であることから、この断接アクチュエータ50は本来、変速クラッチCに備えられた既存の機構であることになる。
【0034】《出力側機構部》以上が入力側機構部1の全体構成であり、次に、前記出力側機構部2の構成を詳述する。前記したように、この出力側機構部2の構成は、入力側機構部1の構成とほぼ同一であり、特に、出力側機構部2の出力側ダイナミック用モータ10、出力側ギアボックス12、出力側トルクメータ14は、入力側機構部1の入力側ダイナミック用モータ4、入力側ギアボックス6、入力側トルクメータ8と完全に同一構成である。したがって、この同一箇所の説明は省略し、相違点である出力側固定軸受15、トーションシャフト17及び出力側可動軸受18の構成を順次説明する。
【0035】〈出力側固定軸受、トーションシャフト〉まず、出力側機構部2における出力側固定軸受15、トーションシャフト17の構成を詳述する。
【0036】図7は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置のトーションシャフトの取付構造を示す正面図、図8は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置のトーションシャフトの取付構造を示す平面図である。
【0037】図2、図7、図8に示すように、出力側固定軸受15は基台3に立設された支持座68上に設置され、その出力側固定軸受15に回転可能に支持された出力側固定シャフト69の右端は、前記出力側トルクメータ14に連結されている。出力側固定シャフト69の左端は出力フランジ70が設けられ、この出力フランジ70にボルト71で連結されたジョイント部材72内には、前記トーションシャフト17の右端が挿入・固定されている。
【0038】図6乃至図8に示すように、前記補助基台73上にはスライドベース74が配設され、このスライドベース74は図示しないガイドレールに案内されて左右方向に移動し得るようになっている。スライドベース74には左方に開口する一対のガイド溝75が形成され、両ガイド溝75内において、補助基台73からは一対のガイドピン76がそれぞれ立設され、各ガイドピン76はガイド溝75内より上方に突出して鍔部76aが形成されている。このガイドピン76の鍔部76aとスライドベース74の上面との間には、エアの供給により上下方向に伸縮可能なエアクランプ77と圧縮ばね78が介装され、スライドベース74は圧縮ばね78の付勢力により常に補助基台73に圧着されている。そして、エアクランプ77の伸長時には、圧縮ばね78の付勢力が高められてスライドベース74は補助基台73上で移動不能に固定され、また、エアクランプ77の縮小時には、圧縮ばね78の付勢力が低められてスライドベース74は補助基台73上で移動可能となる。
【0039】前記スライドベース74上には支持座79が立設され、その支持座79上には前記出力側可動軸受18が設置されている。出力側可動軸受18には出力側可動シャフト80がベアリング81で回転可能に支持され、その出力側可動シャフト80の右端には入力フランジ82が設けられている。入力フランジ82にはボルト83にて筒状のジョイント部材84が連結され、そのジョイント部材84内には前記トーションシャフト17の左端が挿入されて、キー85にて軸心方向に移動可能に、かつ相対回転不能に連結されている。
【0040】図7に示すように、前記補助基台73上の右端には軸受ブラケット86が立設され、その軸受ブラケット86の左側面には軸受プレート87がボルト88で固定されている。軸受プレート87に内蔵されたベアリング89には、送りねじ90の右端が回転可能、かつ軸心方向に移動不能に支持され、その送りねじ90の右端は、軸受ブラケット86に形成された貫通孔86aを経て右方に突出し、ハンドル91が装着されている。また、前記出力側可動軸受18を支持する支持座79には、一対のリブ92,93が左右に配置され、その右側のリブ92に設けられた螺合部材94内には、前記送りねじ90の左端が螺入している。なお、95は送りねじ90の左端との干渉を避けるために左側のリブ93に形成された逃げ孔である。
【0041】そして、ハンドル91にて送りねじ90が回転操作されると、その操作方向に応じてスライドベース74と共に出力側可動軸受18が左右に移動し、前記入力側軸受9との相対距離が変更される。したがって、試験装置に全長の異なる治具ヘッドHを設置する際には、その治具ヘッドHの全長に合わせて両軸受9,18間の相対距離を調整するだけで設置可能となる。また、この出力側可動軸受18の移動に伴い、トーションシャフト17の左端はジョイント部材84内から出没して、その位置変位を吸収する。
【0042】なお、前記トーションシャフト17は試験装置に対して着脱可能に構成され、剛性の異なる種々のトーションシャフト17を選択的に設置することで、クラッチ接続時に車載時と同様のジャダーを積極的に発生させるものであるが、発明の要旨とは直接関係がないため、詳細な説明は省略する。
【0043】〈出力側可動軸受〉更に、出力側機構部2における出力側可動軸受18の構成を詳述する。
【0044】図6に示すように、前記出力側可動軸受18の左側には、治具ヘッドHの右側部カバー96がボルト96aにて固定され、この右側部カバー96は出力側可動軸受18と連続する筒状をなし、その左端は鍔状に形成されている。右側部カバー96と前記左側部カバー42の鍔状の箇所には筒状カバー97が外嵌され、これらのカバー42,96,97により、内部に空間を有する治具ヘッドHが構成されている。治具ヘッドH内において、前記出力側可動シャフト80の左端には円盤状のアタッチメント部材98を介してクラッチハブ99が嵌合・固定され、このクラッチハブ99の左側は前記インプットシャフト44の基端に相対回転可能に嵌入している。また、このクラッチハブ99の外周は、多板構造のクラッチディスク100を介して前記クラッチドラム46の内周と係合している。
【0045】このクラッチハブ99は前記した変速クラッチCの出力側を構成するものであり、クラッチディスク100と共に実際のクラッチCの部品が使用されている。そして、出力側ギアボックス12が増速位置または減速位置にあるときに、出力側ダイナミック用モータ10が回転すると、その回転力はギアボックス12の出力軸12a、伝達シャフト35、出力側トルクメータ14及び出力側固定シャフト69、トーションシャフト17及び出力側可動シャフト80を介してクラッチハブ99に伝達され、その結果、車載時と同様に、このクラッチハブ99が回転駆動される。
【0046】また、この変速クラッチCの断接状態は、車載時と同様に前記油圧室49内の圧力に応じて切り換えられる。即ち、油圧室49内の圧力が高められると、クラッチピストン47が右方に移動してクラッチディスク100を圧着し、変速クラッチCが接続され、また、油圧室49内の圧力が低められると、クラッチピストン47が戻りばね48の付勢力で左方に移動してクラッチディスク100の圧着を解除し、変速クラッチCは遮断される。
【0047】《制御盤》次に、本実施例の試験装置に備えられた制御盤の構成を詳述する。
【0048】図9は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の制御盤を示す正面図である。
【0049】図に示すように、制御盤111には液晶表示板112が設置され、その液晶表示板112の下側には、試験に先立ってその試験条件の設定を開始するための設定開始スイッチ113、その設定時において、試験条件を順次指定するためのモード切換スイッチ114、前記液晶表示板112の表示に基づいて各試験条件の設定値を入力するためのテンキー115、試験を開始するための試験開始スイッチ116、及び試験の終了を表示する終了ランプ117が設けられている。
【0050】《油圧回路》更に、本実施例のクラッチの試験装置の油圧回路を説明する。
【0051】図1は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の油圧回路図である。
【0052】図に示すように、この油圧回路はクラッチ断接用油圧回路121と保温用油圧回路122とから構成されている。クラッチ断接用油圧回路121の油タンク123内にはATFが貯留されるとともに、ヒータ124が設けられ、その油タンク123にはモータ125で駆動される油圧ポンプ126が接続されている。油圧ポンプ126の吐出側には油温センサ127、逆止弁128、圧力調整弁129及び可変絞り弁130を介してサーボ式の4ポート2位置切換弁131が接続されている。切換弁131の吐出側の一方のクラッチ断接用接続口131aは、前記治具ヘッドH内に収容された変速クラッチCに接続され、また、他方のクラッチ断接用接続口131bは、この変速クラッチCの試験では用いられていない。
【0053】そして、試験時においては、前記ヒータ124にて油タンク123内のATFが加温され、そのATFが切換弁131の切換動作に応じてクラッチ断接用接続口131aから変速クラッチCの油圧室49に供給され、その結果、変速クラッチCは、前記したように断接動作を実行する。
【0054】また、保温用油圧回路122の油タンク133には、前記クラッチ断接用油圧回路121と同様にATFが貯留され、その油タンク133にはモータ134で駆動される油圧ポンプ135が接続されている。油圧ポンプ135の吐出側には逆止弁136、圧力調整弁137、可変絞り弁138及びヒータ139が接続され、このヒータ139の吐出側の保温用接続口139aは前記治具ヘッドH内に接続されている。また、この治具ヘッドH内には油温センサ140が配設されている。
【0055】そして、試験時においては、油タンク133のATFがヒータ139にて加温された後に治具ヘッドH内に導入され、そのATFにて内部の変速クラッチCが実際に車両に搭載されているときの温度に保持される。なお、このときのヒータ139は前記油温センサ140の検出に基づいて制御される。
【0056】《電気回路》次に、本実施例のクラッチの試験装置の電気的構成を説明する。
【0057】図10及び図11は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0058】図に示すように、前記制御盤111に内装された中央処理装置141(以下、単に『CPU』という)の入力側には、前記入力側機構部1及び出力側機構部2のギア位置検出センサ33(それぞれ1つのみ図示)が接続されるとともに、前記入力側ダイナミック用モータ4の回転数を検出する回転数センサ142が接続されている。また、CPU141の入力側には、前記制御盤111の設定開始スイッチ113、モード切換スイッチ114、テンキー115及び試験開始スイッチ116が接続されるとともに、前記クラッチ断接用油圧回路121と保温用油圧回路122の油温センサ127,140が接続されている。
【0059】一方、CPU141の出力側には、前記入力側機構部1の入力側ダイナミック用モータ4と前記変速用シリンダ32を制御する変速用シリンダ制御弁143とが駆動回路145,146を介して接続されるとともに、前記出力側機構部2の出力側ダイナミック用モータ10と変速用シリンダ制御弁143とが駆動回路147,148を介して接続されている。また、CPU141の出力側には、前記制御盤111の液晶表示板112と終了ランプ117が駆動回路149,150を介して接続されるとともに、前記クラッチ断接用油圧回路121のヒータ124、モータ125及び切換弁131と、保温用油圧回路122のモータ134及びヒータ139とが駆動回路151〜155を介して接続されている。
【0060】更に、CPU141にはリードオンリメモリ160(以下、単に『ROM』という)及びランダムアクセスメモリ161(以下、単に『RAM』という)が接続され、ROM160にはこの試験装置に一連の試験動作を実行させるためのプログラムや前記液晶表示板112に表示動作を行なわせるためのプログラム等の各種プログラムが記憶され、CPU141はこれらのプログラムに従って動作するようになっている。また、RAM161はCPU141が実行する処理データを一時的に記憶するようになっている。
【0061】次に、上記のように構成された本実施例のクラッチの試験装置により変速クラッチCのダイナミック試験を実施する場合について説明する。
【0062】《メインルーチン》図12は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行するメインルーチンを示すフローチャートである。
【0063】まず、ダイナミック試験の概要を説明すると、治具ヘッドHの変速クラッチCは、入力側を回転駆動されるとともに、出力側を停止した状態で完全に接続される。そして、この一連の動作を所定サイクル繰り返した後に、試験が終了する。
【0064】ここで、試験のための諸条件を説明すると、試験中における前記クラッチ断接用油圧回路121のヒータ124の設定温度をTe1 とし、同じく、前記保温用油圧回路122のヒータ139の設定温度をTe2 とする。また、クラッチ接続前の入力側の回転数を駆動回転数Reとする。更に、クラッチCの接続を開始する接続開始時間をTm1 、接続後に制動を開始する制動開始時間をTm2 、最終的な1サイクルに要する所要時間をTm3 とし、試験中に繰り返されるサイクル数をNとする。
【0065】図12のメインルーチンは、図示しない電源スイッチの投入と同時に動作する。
【0066】今、設定開始スイッチ113及び試験開始スイッチ116が共に操作されていないとき、CPU141はステップS1で初期化し、全フラグ及び使用するメモリをクリアし、ステップS2で設定開始スイッチ113が操作されていないことからステップS3に移行し、このステップS3で試験開始スイッチ116が操作されていないことから、前記ステップS2に戻る。したがって、この場合には、設定完了フラグがクリア状態に保持されるとともに、試験や試験条件の設定処理は実施されないことになる。
【0067】また、前述した状態から試験開始スイッチ116が操作されると、ステップS3からステップS4に移行し、このステップS4で設定完了フラグがセットされていないことから、前記ステップS2に戻る。即ち、この時点では、未だ試験条件の設定が行なわれていないため、試験開始スイッチ116が操作されても、試験は実施されないことになる。
【0068】更に、前述した状態から設定開始スイッチ113が操作されると、ステップS2からステップS5に移行して試験条件を設定し、ステップS6で設定完了フラグをセットして前記ステップS2に戻る。そして、その後に試験開始スイッチ116が操作されると、ステップS3からステップS4に移行し、すでに設定完了フラグがセットされている、つまり試験条件が設定されていることから、ステップS7に移行して試験を実行する。そして、試験を終了した後、ステップS8で前記終了ランプ117を点灯させて試験終了を作業者に報知し、前記ステップS2に戻り、繰返しこのルーチンを実行する。
【0069】《設定処理》次に、前述したメインルーチンのステップS5で実行される試験条件の設定処理の詳細を説明する。
【0070】図13及び図14は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する設定処理ルーチンの詳細を示すフローチャート、図15は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置における液晶表示板の表示を示す説明図である。
【0071】試験条件の設定処理ルーチンがコールされると、CPU141はステップS11で、図9に示すように、液晶表示板112に「ヒータ設定温度Te1 を入力して下さい」とのメッセージを表示する。作業者はそのメッセージに応答して、ステップS12でテンキー115で設定温度Te1 を入力し、ステップS13でモード切換スイッチ114を押圧操作する。そして、CPU141はステップS14に移行し、図15に示すように、液晶表示板112に「ヒータ設定温度Te2を入力して下さい」とのメッセージを表示し、それに応答してステップS15で作業者にて設定温度Te2 が入力され、ステップS16でモード切換スイッチ114が押圧操作されると、ステップS17に移行する。次いで、ステップS17で液晶表示板112に「駆動回転数Reを入力して下さい」とのメッセージを表示し、それに応答してステップS18で作業者にて駆動回転数Reが入力され、ステップS19でモード切換スイッチ114が押圧操作されると、ステップS20に移行する。ここで、ヒータ設定温度Te1 ,Te2 として共に120℃が、駆動回転数Reとして3000rpm が入力されたものとする。
【0072】更に、ステップS20で液晶表示板112に「接続開始時間Tm1 を入力して下さい」とのメッセージを表示し、それに応答してステップS21で作業者にて接続開始時間Tm1 が入力され、ステップS22でモード切換スイッチ114が押圧操作されると、ステップS23に移行する。次いでステップS23で液晶表示板112に「制動開始時間Tm2 を入力して下さい」とのメッセージを表示し、それに応答してステップS24で作業者にて制動開始時間Tm2 が入力され、ステップS25でモード切換スイッチ114が押圧操作されると、ステップS26に移行する。そして、ステップS26で液晶表示板112に「所要時間Tm3を入力して下さい」とのメッセージを表示し、それに応答してステップS27で作業者にて所要時間Tm3 が入力され、ステップS28でモード切換スイッチ114が押圧操作されると、ステップS29に移行する。ここで、接続開始時間Tm1 として15sec が、制動開始時間Tm2 として20sec が、所要時間Tm3として80sec が入力されたものとする。
【0073】次いで、ステップS29で液晶表示板112に「サイクル数Nを入力して下さい」とのメッセージを表示し、それに応答してステップS30で作業者にてサイクル数Nが入力され、ステップS31でモード切換スイッチ114が押圧操作されると、前記ステップS11に戻る。ここで、サイクル数Nとして15000回が入力されたものとする。なお、以上の入力データは全て前記RAM161に格納される。
【0074】《試験実行処理》次に、前述したメインルーチンのステップS7で実行される試験の実行処理の詳細を説明する。
【0075】図16及び図17は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する試験実行処理ルーチンの詳細を示すフローチャート、図18は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する油温制御ルーチンの詳細を示すフローチャート、図19は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の試験時のタイムチャートである。
【0076】図16及び図17に示すように、前記ステップS7で試験実行処理ルーチンがコールされると、CPU34はステップS41でカウンタnをクリアし、ステップS42でクラッチ断接用油圧回路121の油温制御を実行し、ステップS43で保温用油圧回路122の油温制御を実行する。
【0077】前記ステップS42で油温制御ルーチンがコールされると、図18に示すように、ステップS61で実際のクラッチ断接用油圧回路121の油温センサ127にて検出されたATFの温度が、前記ステップS61で設定温度Te1 として設定された120℃以上であるか否かを判定し、120℃以上であるときにはステップS62でヒータ124をオフ状態に保ち、120℃未満であるときにはステップS63でヒータ124をオン状態に保つ。したがって、このルーチンのステップS61乃至ステップS63の処理によりヒータ124がオン・オフ制御されて、クラッチ断接用油圧回路121のATFの温度が設定温度Te1 である120℃程度に保持されることになる。また、詳細は説明しないが、前記ステップS43の油温制御ルーチンも同様の制御内容であり、保温用油圧回路122のATFの温度が設定温度Te2 である120℃程度に保持されることになる。
【0078】その結果、試験中の変速クラッチCは、保温用油圧回路122から治具ヘッドH内に供給されるATF、及びクラッチ断接時にクラッチ断接用油圧回路121から供給されるATFにより常時120℃程度、つまり実際の車載時と同様の温度に保温される。
【0079】その後、図16及び図17に示すように、ステップS44でカウンタnが前記ステップS30でサイクル数Nとして設定された15000に達したか否かを判定し、未だ達していないためステップS45に移行する。そして、このステップS45で前記クラッチ断接用油圧回路121の切換弁131を切換動作させ、油圧ポンプ126から変速クラッチCへのATFの供給を中止する。その結果、変速クラッチCの油圧室49内の圧力が低下し、断接アクチュエータ50のクラッチピストン47が戻りばね48の付勢力で左方に移動し、クラッチディスク100の圧着を解除する。よって、図19に示すように、変速クラッチCは遮断状態に保持される。
【0080】次いで、ステップS46で前記変速用シリンダ制御弁143にて変速用シリンダ32を切換動作させて、入力側ギアボックス6を増速位置に切り換え、ステップS47で前記ギア位置検出センサ33からの検出値に基づいて増速位置への切換が完了したと判定すると、ステップS48に移行する。更に、ステップS48で出力側ギアボックス12を中立位置に切り換え、ステップS49で切換完了と判定すると、ステップS50に移行する。そして、このステップS50で前記入力側ダイナミック用モータ4を特定方向に回転駆動すると、変速クラッチCの入力側が入力側機構部1のフライホイール21と共に回転を開始し、一方、出力側はクラッチ遮断により駆動力を伝達されないため、出力側機構部2のフライホイール21と共に停止状態を維持する(図19のポイントa)。
【0081】そして、ステップS51で前記入力側機構部1の回転数センサ142の検出値に基づいて、変速クラッチCの入力側の回転数が前記ステップS18で駆動回転数Reとして設定された3000rpm に達したか否かを判定する。なお、前記したように、入力側ダイナミック用モータ4の回転は入力側ギアボックス6にて増速されているため、CPU141は出力側ギアボックス6の増速比により回転数センサ142の検出値を補正して、実際の変速クラッチCの入力側の回転数を演算している。
【0082】前記ステップS51で変速クラッチCの入力側の回転数が3000rpm に到達したと判定すると(図19のポイントb)、ステップS52でこの3000rpmを目標回転数として入力側ダイナミック用モータ4の回転数を定速度制御する。つまり、この時点で、変速クラッチCの入力側と出力側との間には3000rpmの回転差が発生していることになる。そして、ステップS53で、入力側ダイナミック用モータ4の回転を開始してから、ステップS21で接続開始時間Tm1として設定された15sec が経過したと判定すると(図19のポイントc及びポイントd)、ステップS54で前記クラッチ断接用油圧回路121の切換弁131を切換動作させ、油圧ポンプ126からのATFを変速クラッチCに供給する。
【0083】その結果、油圧室49内の圧力が上昇し、断接アクチュエータ50のクラッチピストン47にてクラッチディスク100が圧着されて、図19に示すように、変速クラッチCは接続状態に切り換えられ、その入力側の駆動力により、停止状態の出力側が出力側機構2のフライホイール21と共に急激に増速される。なお、このとき変速クラッチCの入力側は、出力側の負荷により若干回転が低下する。そして、クラッチ接続完了時の入力側と出力側は、例えば2700rpm 程度の同一回転数となり(図19のポイントe)、その後、定速度制御された入力側ダイナミック用モータ4の駆動力により、入出力の回転数が次第に増加して3000rpm に保持される(図19のポイントf)。
【0084】このように、変速クラッチCの接続時には、駆動中の入力側により、フライホイール21と共に停止状態の出力側が増速され、その増速時のフライホイール21の慣性力が変速クラッチCに負荷として加えられることになる。そして、このときの変速クラッチCの入出力の回転数は、実際の車載時と同様であり、その入力側の回転数に着目すると、出力側の回転数を引き上げるときに僅かに低下するだけで、ほぼ一定の回転数を維持する。したがって、このクラッチ接続時に入力側の油圧室49に発生する遠心油圧も、車載時と同様にほぼ一定値に保たれることになる。
【0085】更に、CPU141はステップS55で、入力側ダイナミック用モータ4の回転を開始してから前記ステップS24で制動開始時間Tm2 として設定された20sec が経過したと判定すると(図19のポイントg)、ステップS56で入力側ダイナミック用モータ4のトルクを負側に転じて制動を実行する。したがって、変速クラッチCの入出力の回転数は急激に減少して最終的に0となり(図19のポイントh)、ステップS57で、入力側ダイナミック用モータ4の回転を開始してから所要時間Tm3 として設定された80sec が経過したと判定すると、ステップS58でカウンタnを「+1」インクリメントして、前記ステップS42に戻る。
【0086】以上の処理により1サイクルが終了し、変速クラッチCは、入力側を駆動するとともに出力側を停止させた状態で、フライホイール21の慣性力を消費しながら接続されたことになる。そして、接続時において、変速クラッチCの入力側から出力側に伝達されるトルクは、図19に示すように推移し、その伝達トルクは前記トルクメータ8,14にて検出されて、ディスプレイ表示やプリントアウト等の種々の形態で採取される。
【0087】一方、CPU141は前記ステップS42及びステップS43で油温制御を実行し、ステップS44でカウンタnが未だ1であり、サイクル数Nとして設定された15000に達していないため、再びステップS45以降の処理を繰り返す。そして、この一連のサイクルを15000回繰り返し、ステップS44でカウンタnがサイクル数Nに達すると、試験が終了したとして、図12に示すステップS8で終了ランプ117を点灯させてステップS2に戻る。
【0088】なお、前記した試験では、ヒータ設定温度Te1 ,Te2として120℃が、駆動回転数Reとして3000rpm がそれぞれ設定され、接続開始時間Tm1 として15sec が、制動開始時間Tm2 として20sec が、所要時間Tm3 として80sec が、サイクル数Nとして15000回がそれぞれ設定されたが、これらの各設定値は変速クラッチCの仕様に応じて任意に設定可能である。
【0089】また、前記駆動回転数Reは正負いずれの設定も可能であり、通常の試験では、変速クラッチCの入力側の回転方向が実際のエンジンの駆動方向と一致するように、駆動回転数Reの極性を設定するが、その極性を逆転させて、クラッチCの入力側を車載時とは逆方向に回転駆動することもできる。そして、このように入力側を逆方向に回転させたときでも、その入力側の油圧室49に車載時と同様の遠心油圧を発生させることができる。
【0090】このように上記第一実施例のクラッチの試験装置にて実施される試験方法は、変速クラッチCを遮断する工程と、変速クラッチCの入力側を駆動回転数Reで回転駆動する工程と、前記変速クラッチCを、その入力側に設けられた油圧式の断接アクチュエータ50にて接続して、前記変速クラッチCの他側を出力側機構部2のフライホイール21と共に増速させる工程とを具備している。
【0091】したがって、クラッチ接続時においては、その出力側の回転数が入力側によって引き上げられるだけで、入力側自体は車載時と同じくほぼ一定の回転数を維持する。その結果、入力側の断接アクチュエータ50の油圧室49に発生する遠心油圧も、車載時と同様にほぼ一定値に保たれることになり、試験時に、車載時と同様の接続圧で変速クラッチCを接続することができる。
【0092】故に、クラッチ接続時の伝達トルク、或いは試験後にクラッチディスク100のフェーシングに生じる磨耗や剥離状態等を、車載時と同様に再現することができ、それらのデータに基づいてフェーシングの耐久性や材質の適正等を的確に判定することができる。
【0093】なお、前記したように、試験時には変速クラッチCの入力側のみならず、出力側の回転数も実際の車載時と同様に変化するため、その出力側に断接アクチュエータ50が設けられた変速クラッチCを試験する場合でも、車載時と同様の遠心油圧を発生させて、的確な判定を行なうことができる。
【0094】〈第二実施例〉図20は本発明の第二実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の油圧回路図である。
【0095】なお、このクラッチの試験装置は、前記第一実施例の試験装置とほとんど同一構成であり、相違点は出力側機構部2にある。そこで、特に、図20に基づいてこの相違点を重点的に説明する。
【0096】試験装置の出力側機構部2にはブレーキ171が設けられ、このブレーキ171のロータ172は、前記出力側トルクメータ14、出力側固定軸受15、トーションシャフト17及び出力側可動軸受18を介して変速クラッチCの出力側に連結されている。また、このロータ172にはキャリパ173が設けられ、図示しない制動用油圧回路からキャリパ173に作動油が導入されると、ロータ172を介して変速クラッチCの出力側に制動力が加えられるようになっている。
【0097】以上のように構成された試験装置にて変速クラッチCの試験を実施する場合には、その出力側に前記ブレーキ171にて所定量の制動力が継続して加えられる。そして、変速クラッチCは、第一実施例と同様に、入力側が駆動回転数Reで回転し、出力側が停止した状態で接続され、その結果、変速クラッチCの出力側は前記したブレーキ171による制動に抗して急激に増速されて、その制動力が接続時のクラッチCに加えられる。つまり、この第二実施例では、第一実施例のフライホイール21の慣性力に代えて、ブレーキ171の制動力を利用してクラッチCに負荷を加えている。
【0098】このように上記第二実施例のクラッチの試験装置にて実施される試験方法は、変速クラッチCを遮断する工程と、変速クラッチCの入力側を駆動回転数Reで回転駆動する工程と、前記変速クラッチCの出力側に所定量の制動を加える工程と、前記変速クラッチCを、その入力側に設けられた油圧式の断接アクチュエータ50にて接続して、前記変速クラッチCの出力側を制動に抗して増速させる工程とを具備している。
【0099】したがって、クラッチ接続時においては、変速クラッチCの入力側が車載時と同じくほぼ一定の回転数を維持するため、その入力側の断接アクチュエータ50の油圧室49に車載時と同様の遠心油圧を発生させることができる。故に、クラッチ接続時の伝達トルク、或いは試験後にクラッチディスク100のフェーシングに生じる磨耗や剥離状態等を、車載時と同様に再現することができ、それらのデータに基づいてフェーシングの耐久性や材質の適正等を的確に判定することができる。
【0100】ところで、上記実施例は、車輌用自動変速機の湿式の変速クラッチCを試験する試験方法として具体化したが、本発明を実施する場合には、これに限定されるものではなく、クラッチの試験を行なう試験方法であれば、クラッチの種別は限定されない。したがって、例えば、手動変速機の乾式クラッチ、或いは工業用のクラッチ等の試験を行なう試験方法に具体化することも可能である。
【0101】また、上記実施例は、変速クラッチCを接続する工程で、そのクラッチCに備えられた既存の油圧式の断接アクチュエータ50を利用したが、本発明を実施する場合には、これに限定されるものではなく、遠心力の影響を受ける油圧式の駆動源で変速クラッチCを接続しさえすればよい。したがって、例えば、前記断接アクチュエータ50を利用せず、治具ヘッドH内に油圧式の断接アクチュエータを設けて、そのアクチュエータにて変速クラッチCを接続してもよい。
【0102】
【発明の効果】以上のように、請求項1の発明のクラッチの試験方法は、クラッチを遮断する工程と、前記クラッチの一側を回転駆動する工程と、前記クラッチを油圧式の断接駆動手段にて接続して、他側を慣性体と共に増速させる工程とを具備するため、クラッチの一側が所定回転数に保持され、この状態で断接駆動手段にてクラッチが接続されると、その他側は慣性体と共に増速され、このようにクラッチの入出力が実際の稼働時と同様に回転変化するため、断接駆動手段には実際の稼働時と同様の遠心油圧が発生し、クラッチ接続時の伝達トルク、或いはフェーシングの磨耗や剥離状態等を車載時と同様に再現することができ、クラッチのフェーシングの耐久性や材質の適正等を的確に判定することができる。
【0103】請求項2の発明のクラッチの試験方法は、クラッチを遮断する工程と、前記クラッチの一側を回転駆動する工程と、前記クラッチの他側に制動を加える工程と、前記クラッチを油圧式の断接駆動手段にて接続して、他側を制動に抗して増速させる工程とを具備するため、クラッチの一側が所定回転数に保持されるとともに、クラッチの他側に制動が加えられ、この状態で断接駆動手段にてクラッチが接続されると、その他側は制動に抗して増速され、このようにクラッチの入出力が実際の稼働時と同様に回転変化するため、断接駆動手段には実際の稼働時と同様の遠心油圧が発生し、クラッチ接続時の伝達トルク、或いはフェーシングの磨耗や剥離状態等を車載時と同様に再現することができ、クラッチのフェーシングの耐久性や材質の適正等を的確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の油圧回路図である。
【図2】図2は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の全体構成を示す正面図である。
【図3】図3は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の全体構成を示す平面図である。
【図4】図4は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の入力側ギアボックスの内部構造を示す平断面図である。
【図5】図5は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の入力側トルクメータ及び入力側軸受を示す正面図である。
【図6】図6は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の治具ヘッドの支持構造を示す正面図である。
【図7】図7は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置のトーションシャフトの取付構造を示す正面図である。
【図8】図8は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置のトーションシャフトの取付構造を示す平面図である。
【図9】図9は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の制御盤を示す正面図である。
【図10】図10は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図11】図11は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の他の電気的構成を示すブロック図である。
【図12】図12は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行するメインルーチンを示すフローチャートである。
【図13】図13は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する設定処理ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図14】図14は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する設定処理ルーチンの他の詳細を示すフローチャートである。
【図15】図15は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置における液晶表示板の表示を示す説明図である。
【図16】図16は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する試験実行処理ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図17】図17は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する試験実行処理ルーチンの他の詳細を示すフローチャートである。
【図18】図18は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置におけるCPUが実行する油温制御ルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図19】図19は本発明の第一実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の試験時のタイムチャートである。
【図20】図20は本発明の第二実施例であるクラッチの試験方法を用いた試験装置の油圧回路図である。
【図21】図21は従来のクラッチの試験方法を用いた試験装置の概略構成を示す正面図である。
【符号の説明】
21 フライホイール(慣性体)
50 断接アクチュエータ(断接駆動手段)
C 変速クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 クラッチを遮断する工程と、前記クラッチの一側を所定回転数で回転駆動する工程と、前記クラッチを油圧式の断接駆動手段にて接続して、前記クラッチの他側を慣性体と共に増速させる工程とを具備することを特徴とするクラッチの試験方法。
【請求項2】 クラッチを遮断する工程と、前記クラッチの一側を所定回転数で回転駆動する工程と、前記クラッチの他側に所定量の制動を加える工程と、前記クラッチを油圧式の断接駆動手段にて接続して、前記クラッチの他側を制動に抗して増速させる工程とを具備することを特徴とするクラッチの試験方法。

【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図18】
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【図10】
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【図13】
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【図11】
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【図14】
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【図16】
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【図20】
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【図21】
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【図17】
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【図19】
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