説明

クラフトパルプの蒸解方法

【課題】クラフトパルプの蒸解性及び収率を向上させる方法を提供することである。
【解決手段】白液と緑液を混合した蒸解液を使用することを特徴とするクラフトパルプの蒸解方法。白液と緑液を混合した蒸解液中には、硫黄に対するホウ素のモル比が0.05以上になるようにホウ素化合物、好ましくはメタホウ酸ナトリウム、を添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトパルプの蒸解方法に関するものであり、詳しくは、白液と緑液を混合した蒸解液を使用することを特徴とするクラフトパルプの蒸解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材チップ及びその他繊維原料を水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする蒸解薬液によって高温で蒸解することをクラフト蒸解と言い、クラフト蒸解によって得られるパルプをクラフトパルプと言う。
【0003】
クラフト蒸解においては、木材チップ中のリグニンを分解除去(脱リグニン)することによって、セルロースを主成分とするクラフトパルプを得る。脱リグニンの効率は「蒸解性」として表現される。また、元の木材チップ量に対して得られた蒸解パルプ量の割合は「蒸解収率(収率)」として表現される。
【0004】
蒸解性及び収率はクラフトパルプのコストに大きな影響を及ぼす。従って、クラフトパルプの蒸解性や収率を向上させるための多くの方法が提案されてきた。
【0005】
蒸解性を向上させる方法として、連続蒸解釜の蒸解ゾーンに緑液を添加する方法(特許文献1参照)や、蒸解前の木材チップに緑液を含浸させる方法(特許文献2参照)等があるが、白液と緑液を混合した蒸解液を用いた例はこれまで見られなかった。
【0006】
収率を向上させる方法としては、蒸解液中におけるアルカリ金属:ホウ素のモル比が2:1から10:1の蒸解液を使用する方法(特許文献3参照)等があるが、蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比に着目した例はこれまで見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−203583号公報
【特許文献2】特開2010−255171号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/155730号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、クラフトパルプの蒸解性及び収率を向上させる方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、クラフトパルプを蒸解する方法について鋭意検討を重ねた結果、白液と緑液を混合した蒸解液を使用することによって、クラフトパルプの蒸解性及び収率を向上できることを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明のクラフトパルプの蒸解方法によれば、白液と緑液を混合した蒸解液を使用することによって、蒸解性及び収率を従来よりも高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るカッパー価と収率の関係
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の具体例を示すが、本発明は以下の具体例に限定されない。
【0013】
本発明は、白液と緑液を混合した蒸解液を使用することを特徴とするクラフトパルプの蒸解方法である。
【0014】
本発明において白液と緑液を混合した蒸解液を使用した理由は、硫化ナトリウムを多く含有する緑液を白液と混合することによって、選択的な脱リグニンが促進されて蒸解性が向上し、さらには選択的な脱リグニンが促進された結果、炭水化物への損傷が抑制されて収率が向上するからである。
【0015】
本発明において蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比を0.05以上とした理由は、蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比を0.05以上にすることによってピーリング反応が抑制されて収率が向上するからである。
【0016】
本発明において用いられる蒸解釜に特に制限はなく、バッチ式蒸解釜を用いても良いし、連続蒸解釜を用いても良い。蒸解条件についても特に制限はなく、蒸解後のパルプのカッパー価が針葉樹パルプの場合15〜45、広葉樹パルプの場合10〜25に収まるように蒸解温度、蒸解時間、液比、アルカリ添加率等の条件を適宜調整して構わない。
【0017】
本発明において用いられる白液中のアルカリ組成に特に制限はないが、選択的な脱リグニンを達成するために、炭酸ナトリウムに関しては10〜30g/L(NaOとして)、硫化ナトリウムに関しては25〜45g/L(NaOとして)、水酸化ナトリウムに関しては65〜85g/L(NaOとして)であることが好ましい。
【0018】
本発明において用いられる緑液中のアルカリ組成に特に制限はないが、選択的な脱リグニンを達成するために、炭酸ナトリウムに関しては70〜90g/L(NaOとして)、硫化ナトリウムに関しては25〜45g/L(NaOとして)、水酸化ナトリウムに関しては5〜25g/L(NaOとして)であることが好ましい。
【0019】
本発明において用いられる白液と緑液の混合比率に特に制限はないが、白液と緑液を合わせた蒸解薬液中の有効アルカリのうち、10質量%以上が緑液由来となるように適宜混合比率を調整することが好ましい。
【0020】
本発明において用いられる蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比は0.05以上であるが、好ましくは0.15〜0.55、より好ましくは0.20〜0.35の範囲にあることが好ましい。
【0021】
本発明において用いられるホウ素化合物の添加場所に特に制限はないが、良好な溶解を達成するためクラフト回収系における稀黒液に添加することが好ましい。
【0022】
本発明において用いられる蒸解液中におけるホウ素の存在形態に特に制限はないが、溶解状態を保つためメタホウ酸ナトリウムの形態であることが好ましい。
【0023】
本発明において用いられるホウ素化合物に特に制限はないが、蒸解液中においてメタホウ酸ナトリウムとなり得るホウ砂、メタホウ酸ナトリウムが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこの実施例により何ら限定されない。
【0025】
(実施例1)
クラフト回収の実機工程において、白液及び緑液中における硫黄に対するホウ素のモル比が0.29となるように稀黒液に五水塩ホウ砂を添加した。これら実機白液及び実機緑液を採取し、蒸解液中における有効アルカリのうち、22質量%が緑液由来となるように、実機白液と実機緑液を混合することによって蒸解液を調製した。アカマツ:スギ=7:3の混合チップをHF1400、液比5、保持温度173℃の条件でラボ用蒸解釜を用いて蒸解した。有効アルカリ添加率は、チップ絶乾質量に対して、19.5質量%、21.0質量%及び23.0質量%の3点に振った。蒸解後におけるパルプのカッパー価及び収率を測定した。
【0026】
(実施例2)
実施例1で使用した実機の白液及び緑液と同じアルカリ組成になるように、白液及び緑液をラボで調製した。これらラボ調製白液及びラボ調製緑液を実施例1と同じ割合で混合し蒸解液を調製した。この蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比は0.00であった。その他は実施例1と同様にして蒸解後におけるパルプのカッパー価及び収率を測定した。
【0027】
(比較例1)
実施例2において使用したラボ調製白液のみを蒸解液として用いた。この蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比は0.00であった。有効アルカリ添加率を、チップ絶乾質量に対して、21.0質量%、23.0質量%及び24.5質量%の3点に振った以外は実施例1と同様にしてカッパー価及び収率を測定した。
【0028】
(比較例2)
実施例1において使用した実機白液のみを蒸解液として使用し、蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比を0.29とした以外は比較例1と同様にしてカッパー価及び収率を測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
上記表1における実施例1〜2と比較例1〜2から明らかなように、白液と緑液を混合した蒸解液を使用した方が蒸解性は良好であった。また、図1における実施例1〜2と比較例1〜2から明らかなように、白液と緑液を混合した蒸解液を使用した方が同一カッパー価における収率は高い値を示した。
【0031】
比較例1〜2と比較して、実施例1〜2のように白液と緑液を混合した蒸解液を使用することによって、蒸解性及び収率を従来よりも高めることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白液と緑液を混合した蒸解液を使用することを特徴とするクラフトパルプの蒸解方法。
【請求項2】
上記蒸解液中における硫黄に対するホウ素のモル比が0.05以上であることを特徴とする請求項1記載のクラフトパルプの蒸解方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−19058(P2013−19058A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150515(P2011−150515)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】