説明

クラミジア・ニューモニア検出用抗体

【課題】Chlamydia pneumoniaeに属する微生物を特異的、かつ高感度に迅速に検出する方法、その検出に用いる検出用抗体、検出用試薬キット、及び検出に用いる検出用抗体の製造方法を提供する。
【解決手段】Chlamydia pneumoniaeに属する微生物のリボソーム蛋白質に対する抗体であって、該微生物に特異的に反応する抗体。該抗体を用いて検体中の該微生物を検出する方法、及びこの抗体を含む検出用試薬キット。該抗体の製造方法。リボソーム蛋白質としては、Ribosomal Protein L7/L12蛋白質があり、肺炎の原因微生物の感染検出に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な肺炎の原因微生物であるクラミジア・ニューモニア(Chlamydia pneumoniae)に属する微生物の検出に有用な抗体、該微生物の検出方法、該微生物の検出用試薬キット、及び該微生物検出用抗体の製造方法に関する。
【0002】
本発明は、医療上、特にChlamydia pneumoniaeによって惹起される非定型肺炎の診断に重要である。
【0003】
本発明は、検体、例えば、のど綿棒、組織サンプル、および体液から採取された検体中に含まれる微生物Chlamydia pneumoniaeを検出するのに有用である。
【背景技術】
【0004】
微生物感染症の診断は、通常感染部位などでの原因菌の検出か、血清、体液中の原因菌に対する抗体の検出により確定される。特に、この診断は原因菌の検出が患者への迅速な治療を可能にする意味で重要である。
【0005】
感染症原因菌の検出は、一般に、原因菌の分離培養を経て、その生理学的、生化学的あるいは構造的な特性に基づきこれを同定する培養同定法、原因菌の遺伝子をPolymerase chain reaction (PCR)法または特異的核酸ハイブリダイゼーションにより増幅させて、これを検出する遺伝子的診断法および抗体と原因菌の抗原マーカーとの特異的反応を利用して原因菌を検出する免疫学的方法に分類される。
【0006】
しかしながら、培養同定法または遺伝子的診断法を用いる場合には、結果を得るのに長時間を要する。従って、原因菌を短時間にしかも高感度で検出することができ、迅速かつ適切な患者の治療につながる免疫学的方法による診断が汎用されている。
【0007】
従来、免疫学的方法による感染症原因菌の検出には、菌種によって様々なマーカー抗原と抗体の組み合わせが使われている。
Chlamydia pneumoniaeは世界的に肺炎の一般的な原因菌である。小さな、非運動性のグラム陰性菌であり、選択的にヒトの体内に侵入し、病気を引き起す。病原巣となる動物は知られていない。血清陽性率は30〜40代の成人で40〜50%である(Hyman, Roblin et al. 1995)。この微生物は喉頭炎、気管支炎および軽度の肺炎を発症せしめる。
【0008】
この菌は、非常に微小の偏性寄生生物であり、宿主細胞の細胞質中で成長する。組織培養液中でのChlamydia pneumoniaeの成長は非常に緩慢であり(Godzik, O'Brien et al.1995)、培養液中に菌を同定するまでに少なくとも3〜5日間を要する(Essig, Zucs et al. 1997)。従って、迅速に病原菌として検出する診断法としては、グラム染色法と培養法などを適用することができない。従って、クラミジアの迅速診断法としては、抗体を用いた免疫学的手法がしばしば用いられる。
【0009】
クラミジア(Chlamydia)属の場合、属特異的抗原であるリポ多糖(LPS)の抗原決定基としての存在が知られており(Verkooyen, Van Lent et al.1998)、様々な診断用キットにおいて特にChlamydia trachomatisの検出用試薬抗体に利用されている。
更に、Peterson ら (Peterson, Cheng et al. 1993 ; Peterson, de la Maza et al. 1998)およびBatteiger ら(Batteiger, Newhallet al. 1986)はChlamydia属の主要外膜蛋白質(MOMP)に対するモノクローナル抗体を報告している。
【0010】
これらの抗体がChlamydia pheunoniaeChlamydia trachomatisを区別することに役立つことが明らかになったが、その後、これらの抗体はChlamydia pheunoniae種内の複数の抗原性の違いを明らかにすることに重要な役割をはたした。このような抗原はChlamydia pheunoniae種内の血清型分類には役立つかもしれないがChlamydia pheunoniae種の全ての菌株の検出を必要とする通常の診断には役に立つものではない。普遍的な機能を持つ共通な抗原、しかも大部分な構造は微生物種間で保存されているにもかかわらず、それを区別して検出するのに利用できる抗原はいままで知られていなかった。
【0011】
本発明は全ての微生物に同一機能の分子として普遍的に存在し、しかも抗体を取得するための蛋白質抗原として有用な蛋白質に関するものである。通常、このような分子は小規模の構造変化しか伴わないものである。このような同一機能の普遍的な分子に対する大規模な構造変化は生物の生存に対して重大な悪影響を及ぼす可能性のあるものである。
【0012】
クラミジア病原体を検出する商業的に利用可能なモノクローナル抗体の数はごく僅かであり、十分というには程遠い。最近までTWAR株のみが肺炎の原因菌であると信じられてきた(Thom and Grayston 1991 ; United States Patent No.5,008,186)。最近になって、いくつかのクラミジア病原体の血清型が報告された。LPSまたはMOMPは菌株によって異なり、また1つの血清型に対する抗体では全てをカバーできない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許No.5,008,186、Grayston, et al. 1991、急性呼吸器疾患を引き起す特異なChlamydiaの検出
【特許文献1】米国特許No.5,281,518、Campbell, et al.1994、急性呼吸器疾患を引き起す特異なChlamydiaの検出
【特許文献3】米国特許No.5,350,673、Campbell, et al. 1994、急性呼吸器疾患を引き起す特異なChlamydiaの検出
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Batteiger, B. E., Newhall, W. J. th. et al. (1986),「マウスモノクローナル抗体を使用するChlamydia trachomatisの主なる外皮薄膜タンパク質の抗原分析法」Infect Immun 53(3), 646-50
【非特許文献2】Cles, L. D. and W. E. Stamm (1990)「Chlamydia pneumoniaeの分離および継体培養のためのHL細胞の使用」J Clin Microbiol 28(5), 938-40
【非特許文献3】Essig, A., P. Zucs, et al. (1997)「慢性の肺炎患者のポリメラーゼ連鎖反応および細胞培養によるオルニトーシス(鳥類病;ハト病)の診断」、Clin Diagn Lab Immunol 4(2), 213-6
【非特許文献4】Godzik, K. L., E. R. O'Brien, et al. (1995)、「Chlamydia pneumoniae感染ヒト血管壁細胞の生体外感受性」J Clin Microbiol 33(9), 2411-4
【非特許文献5】Hyman, C. L., P. M. Roblin, et al. (1995)「主観的に健常な成人における無症状のChlamydia pneumoniae鼻咽頭保持率、ポリメラーゼ連鎖反応−酵素による免疫学的分析と培養による評価」Clin Infect Dis 20(5), 1174-8
【非特許文献6】Kuo, C. C. and J. T. Grayston (1990)「Chlamydia pneumoniaeの分離および増殖のための感応セルラインおよびHL細胞の使用」J Infect Dis 162(3), 755-8Peterson, E. M., X. Cheng, et al. (1993)「Chlamydia trachomatisの機能的要外皮薄膜蛋白質エピトープ」J Gen Microbiol 139(Pt11), 2621-6
【非特許文献7】Peterson, E. M., L. M. de la Maza, et al. (1998)「Chlamydia pneumoniaeのリポ多糖類による中和モノクローナル抗体の物性特定」Scand J Infect Dis 30(4), 381-6Thom,D.H.and J.T.Grayston(1991)「Chlamydia pneumoniae TWAR感染」Clin Chest Med 12(2), 245-56
【非特許文献8】Verkooyen, R. P., N. A. Van Lent, et al. (1998)「ミクロ免疫蛍光分析およびELISA法による慢性の閉塞性肺炎患者におけるChlamydia pneumoniae感染の診断」Am Heart J 135(1), 15-20
【非特許文献9】Yoshizawa, H., K. Dairiki, et al. (1992) Chlamydia pneumoniaeに対するHep-2細胞の感度とHL細胞の感度の比較。」 Kansenshogaku Zasshi 66(8), 1037-41
【非特許文献10】NCBIデータベース#NC♯000922. Kalman, S., Mitchell, W., Marathe, R., Lammel, C., Fan, J., Olinger, L., Grimwood, J., Davis, R. W., and Stephens, R. S.
【非特許文献11】NCBIデータベース#AE001593.1. Kalman, S., Mitchell, W., Marathe, R., Lammel, C., Fan, J., Olinger, L., Grimwood, J., Davis, R. W. and Stephens, R. S.
【非特許文献12】Harlow,E.,and D.Lane(1988)「抗体、実験室マニュアル」NewYork., Cold Spring Harbor Laboratory Press
【非特許文献13】Shambrook, J., E. F. Fritsch, and T. Maniatis., (1989)「モレキュラークローニング、実験室マニュアル、第2版」Cold Spring Harbor Laboratory Press
【発明の概要】
【0015】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、Chlamydia pneumoniaeに属する微生物を特異的、かつ高感度に迅速に検出する方法、その検出に用いる検出用抗体、検出用試薬キットを提供することを課題とする。さらに、本発明は、その検出に用いる検出用抗体の製造方法を提供することを課題とする。
【0016】
本発明者等は、全ての微生物において同一の機能が保存されている蛋白質を有用な抗原蛋白質として見出した。通常、このような蛋白質の構造変化はきわめて少ないと予想される。しかし驚くべきことに、該蛋白質に対する抗体は、微生物の種あるいは属特異的であり、該蛋白質に対する抗体は、微生物の種あるいは属特異的な識別に用いることが可能な多様性を持つとともに、対象となる微生物についてはその全ての血清型を検出しうるものであることが見出されたのである。
【0017】
本発明者らは全ての微生物細胞に同一機能の分子として存在し、しかもそのアミノ酸構造が微生物間である程度の相違点をもつ細胞内分子、特にリボソーム蛋白質の一種であるRibosomal Protein L7/L12蛋白質に着目した。Ribosomal Protein L7/L12蛋白質は分子量約13キロダルトンの蛋白質であり、蛋白質合成に必須のリボソーム蛋白質として存在することが知られている。特にChlamydia pneumoniaeを含むいくつかの微生物ではRibosomal Protein L7/L12蛋白質の全アミノ酸配列が解析されている。
【0018】
本発明者らはこの分子が微生物間で類似しているにもかかわらずその一部に各微生物固有の構造部分を持つことに着目し、このChlamydia pneumoniae のRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対する抗体を利用することで様々な微生物、細菌の種特異的でかつ全ての同一菌種内の血清型について検出が可能であることを見出した。
【0019】
本発明者等はChlamydia pneumoniaeの該蛋白質に特異的な抗体が得られること、および該抗体を用いることによりChlamydia pneumoniaeの特異的な検出が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明により、Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対して特異的なモノクローナル抗体が見出され、開発された。この抗体は新規であり、従来公知のいかなる抗体とも異なり、上記蛋白質と特異的に反応する性質を有する。
【0021】
配列表において配列番号1及び2はChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12遺伝子のDNA配列(NCBI database accession ♯NC♯000922)及び対応するアミノ酸配列(NCBI database accession ♯AE001593.1, NCBI data base)である。なお、配列表に記載されたアミノ酸配列の左端および右端はそれぞれアミノ基末端(以下、N末端)およびカルボキシル基末端(以下、C末端)であり、また塩基配列の左端および右端はそれぞれ5'末端および3'末端である。クロスマッチテストのアミノ酸配列はアミノ酸1文字略字によって記している。また、クロスマッチテストにおける「+」の表記は、異なるアミノ酸であるが、疎水性などの性質が類縁のアミノ酸であること、「 」のブランクは性質も含めて全く異なるアミノ酸であることを示す。また、本発明で述べられる遺伝子操作の一連の分子生物学的な実験は通常の実験書の記載方法によって行うことができる。前記の通常の実験書としては、例えばMolecular Cloning, A laboratory manual, Cold Spring Harber Laboratory Press, Sambrook, J.ら(1989)を挙げることができる。

【0022】
【表1】

本発明において″微生物″とは、Chlamydia pneumoniaeを意味し、特に、呼吸器における病原性を有しChlamydia感染症の原因菌として診断の意義の高い微生物をいう。
【0023】
本発明において、″微生物と特異的に反応する抗体″とは、微生物の種あるいは属に特異的に反応する抗体をさすが、微生物感染症の診断においては微生物の種に特異的に反応する抗体が特に有用となる。
【0024】
本発明において抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を指し、Ribosomal Protein L7/L12蛋白質の全長あるいはその部分ペプチドを用いて作成することができる。抗体を作成するためのペプチドの長さは特に限定されないがRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対する抗体の場合、この蛋白質を特徴づけられる長さがあれば良く、好ましくは5アミノ酸以上、特に好ましくは8アミノ酸以上のペプチドを用いれば良い。
【0025】
このペプチドあるいは全長蛋白質をそのまま、またはKLH(keyhole-limpet hemocyanin)やBSA(bovine serum albumin)といったキャリア蛋白質と架橋した後必要に応じてアジュバントとともに動物へ接種せしめ、その血清を回収することでRibosomal Protein L7/L12蛋白質を認識する抗体(ポリクローナル抗体)を含む抗血清を得ることができる。また抗血清より抗体を精製して使用することもできる。接種する動物としてはヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等であり、特にポリクローナル抗体作製にはヒツジ、ウサギなどが好ましい。また、ハイブリドーマ細胞を作製する公知の方法によりモノクローナル抗体を得ることも可能であるが、この場合はマウスが好ましい。
【0026】
また該蛋白質の全長または5残基以上、望ましくは8残基以上のアミノ酸配列をグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)などとフュージョン蛋白質としたものを精製して、または未精製のまま、抗原として用いることもできる。成書(Antibodies a laboratory manual, E. Harlow et al., Cold Spring Harbor Laboratory)に示された各種の方法ならびに遺伝子クローニング法などにより分離されたイムノグロブリン遺伝子を用いて培養した細胞に発現させた遺伝子組み換え抗体によっても作製することができる。
【0027】
本発明のマーカー抗原として用いることができるRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対する抗体は、以下の方法あるいはその他の類似の方法によって取得することができるがこれらの方法に限定されるものではない。
a)Ribosomal Protein L7/L12蛋白質の遺伝子配列およびアミノ酸配列が既知の微生物については、他の微生物における該蛋白質のアミノ酸配列との類似性の少ない領域についてペプチド断片を合成し、それを免疫原としてポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体を作製することにより目的の抗体を取得することができる。
【0028】
また、既知の該遺伝子の両端部位におけるDNA配列をプローブとしたPCR手法による遺伝子増幅、相同部分配列を鋳型プローブとしたハイブリダイゼーション法など通常の遺伝子操作手法を用いることにより該遺伝子の全長配列を取得することができる。
【0029】
その後他の蛋白質遺伝子とのフュージョン遺伝子などを構築し、大腸菌等を宿主として公知の遺伝子導入手法により宿主内に該当フュージョン遺伝子を挿入し大量に発現させた後にフュージョン蛋白質として用いた蛋白質に対する抗体アフィニティカラム法などにより発現蛋白質を精製することにより目的とする蛋白質抗原を取得することができる。この場合Ribosomal Protein L7/L12の全長蛋白質が抗原となるため微生物間で保存されているアミノ酸部分に対する抗体を取得しても本発明の目的に合致しない。従って、本法によって取得した抗原に対しては公知の手法によりモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得し、該当する微生物とのみ反応する抗体を産生するクローンを選択することにより目的の抗体を取得することができる。
b)Ribosomal Protein L7/L12蛋白質のアミノ酸配列が未知の微生物については1つにはRibosomal Protein L7/L12蛋白質のアミノ酸配列が菌種間で50〜60%相同であることにより、そのアミノ酸配列の相同部分の配列を基にしてPCR法による特定配列部分の遺伝子増幅や相同部分配列を鋳型プローブとしたハイブリダイゼーション法など通常の遺伝子操作手法を用いることにより該蛋白質遺伝子を容易に取得することができる。
【0030】
その後他の蛋白質遺伝子とのフュージョン遺伝子などを構築し、大腸菌等を宿主として公知の遺伝子導入手法により宿主内に該当フュージョン遺伝子を挿入し大量に発現させた後にフュージョン蛋白質として用いた蛋白質に対する抗体アフィニティカラム法などにより発現蛋白質を精製することにより目的とする蛋白質抗原を取得することができる。この場合Ribosomal Protein L7/L12の全長蛋白質が抗原となるため微生物間で保存されているアミノ酸部分に対する抗体を取得しても本発明の目的に合致しない。従って、本法によって取得した抗原に対しては公知の手法によりモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得し、該当する微生物とのみ反応する抗体を産生するクローンを選択することにより目的の抗体を取得することができる。
c)あるいはRibosomal Protein L7/L12蛋白質のアミノ酸配列が未知な場合の別な方法として、既知のRibosomal Protein L7/L12蛋白質のアミノ酸配列のうち微生物間で保存されている共通配列部分に相当する5〜30アミノ酸の合成ペプチドを作製し、そのペプチド配列に対し公知の方法でポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体を作製する。該抗体を用いたアフィニティカラムクロマトによって目的の微生物細胞破砕液を精製することにより高度に精製されたRibosomal Protein L7/L12蛋白質を取得することができる。
【0031】
蛋白質の精製度が不足している場合は公知の精製手法であるイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過などの手法により精製したのち作製した抗体によるウェスタンブロットなどの方法によりRibosomal Protein L7/L12蛋白質の溶出画分を同定し精製蛋白質を得ることができる。得られた精製Ribosomal Protein L7/L12蛋白質抗原を基にして公知の方法によりハイブリドーマを取得し、目的の微生物に特異的に反応するハイブリドーマを選択することにより目的の抗体を取得することができる。
【0032】
上記の方法a)、b)およびc)によって得られた、種々の微生物に特異的な本発明の抗体は、微生物に特異的な各種の診断試薬およびキットを利用する、種々の免疫学的分析法に用いることができる。例えば、この抗体は、公知の測定手法であるポリスチレンラテックス粒子上に該抗体を吸着させた凝集反応、マイクロタイタープレート中で行う公知技術であるELISA法、既存のイムノクロマト法、着色粒子もしくは発色能を有する粒子、または酵素もしくは蛍光体でラベルされた該抗体とともに捕捉(capture)抗体で被覆した磁気微粒子などを用いるサンドイッチアッセイなど既知の全ての免疫測定手法に利用できる。
【0033】
抗体を用いる微生物診断方法とは、ポリスチレンラテックス粒子上に該抗体を吸着させた凝集反応、マイクロタイタープレート中で行う公知技術であるELISA法、既存のイムノクロマト法、着色粒子もしくは発色能を有する粒子、または酵素もしくは蛍光体でラベルされた該抗体とともに捕捉抗体で被覆した磁気微粒子などを用いるサンドイッチアッセイなど既知の全ての免疫測定手法を利用する診断方法を意味する。
【0034】
また、特に抗体を用いる有用な微生物診断方法として特表平7−509565号公報に記載されているシリコン、窒化珪素などにより形成された光学薄膜上で抗体反応をおこない光干渉原理等により検出するいわゆるオプティカルイムノアッセイ(OIA, Optical Immunoassay)などが高感度な診断方法として有用である。
【0035】
また該検出方法において必要となる微生物からの細胞内マーカー抗原の抽出方法としては、TritonX-100, Tween-20をはじめとする種々の界面活性剤を用いた抽出試薬による処理法、適当なプロテアーゼなどの酵素を用いる酵素処理法、物理的方法による微生物細胞の破砕をはじめ既知の細胞構造の破砕手法が用いられる。界面活性剤等の組み合わせにより微生物ごとに試薬による最適な抽出条件を設定することが望ましい。
【0036】
また、本発明における、抗体を用いる微生物検出用試薬キットとは、当該検出方法を用いた検出用試薬キットに相当する。
【0037】
Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質のアミノ酸配列及びDNA配列を配列表配列番号:1及び2に示す。従って、この微生物の場合はRibosomal Protein L7/L12蛋白質のアミノ酸配列を、配列表に「クロスマッチ」と記した類似した微生物の同種の蛋白質と比較することが可能である。相同性の低いセグメントのペプチドを合成し、これに対するポリクローナルあるいはモノクローナル抗体を作成することは、微生物に対する特異性を有するものの選択を省略することを可能とする。
【0038】
特にポリクローナル抗体の場合、免疫した動物の抗血清をProtein Aカラム等で精製しIgG画分を取得したのち、さらに動物の免疫に用いた合成ペプチドによるアフィニティ精製を実施することが望ましい。
【0039】
更に、当該微生物のRibosomal Protein L7/L12蛋白質のDNA配列からN末端とC末端の配列に基づいてPCRプライマーが作成された。このPCRプライマーの相同性を利用して、ゲノムDNAを用いてPCR法によりDNA断片を増幅させ、これを抽出し、常法によりChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12遺伝子の断片を取得することができる。Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12遺伝子の全長はこれらの断片のDNA配列情報を分析することにより知ることができる。
【0040】
取得したChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12遺伝子は、例えばGSTなどとフュージョン蛋白質遺伝子を構成し、適当な発現用プラスミドを用いて発現ベクターを構築後、大腸菌等を形質転換して該蛋白質を大量発現させうる。形質転換した大腸菌を適当量培養し、菌体破砕液をGSTを用いたアフィニティカラムで精製することにより、Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質とGSTのフュージョン蛋白質が得られる。
【0041】
この蛋白質をそのまま、あるいはGST部分を切断後、抗原蛋白質として公知の手法により、複数のハイブリドーマクローンを確立し、Chlamydia pneumoniae菌体あるいは菌体破砕液またはChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質に特異的な反応を示す抗体を選択することにより目的の特異的モノクローナル抗体を取得することも可能である。
【0042】
本発明に基づき作製された抗体は、公知の測定手法であるポリスチレンラテックス粒子上に該抗体を吸着させた凝集反応、マイクロタイタープレート中で行う公知技術であるELISA法、既存のイムノクロマト法、着色粒子もしくは発色能を有する粒子、または酵素もしくは蛍光体でラベルされた該抗体とともに捕捉抗体で被覆した磁気微粒子などを用いるサンドイッチアッセイなど既知の全ての免疫測定手法に利用できる。
【0043】
また、本発明に基づき作製された抗体は全ての免疫測定手法において当該抗原蛋白質を固相あるいは液相中で捕獲するいわゆる捕捉抗体として機能しうると同時にパーオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素を公知の方法により修飾していわゆる酵素標識抗体とすることにより、検出用抗体としても機能しうる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下の例は本発明を具体的に説明するためのものであって本発明について何らその範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0045】
Chlamydia pneumoniaeからのRibosomal Protein L7/L12遺伝子のクローニング
Chlamydia pneumoniae(ATCC VR-1310、ATCCから分譲、購入)をHL細胞のモノレイヤー上で培養した。Chlamydia pneumoniaeの詳細な培養方法はKuo らなど(Cles and Stamm 1990 ; Kuo and Grayston 1990 ; Yoshizawa, Dairiki et al. 1992)の記載に従った。CO2インキュベータ内にて37℃、5% CO2の条件下で微生物を5日間培養した。感染した細胞を遠心分離により集め、最終的に5×107個/ml前後の濃度となるようにTE緩衝液(和光純薬工業製)に懸濁した。この懸濁液約1.5mlを微量遠心チューブに移し取り10,000rpmで2分間遠心した。
【0046】
上澄み液を棄てた。沈殿部分を567μlのTE緩衝液に再懸濁した。さらに30μlの10%SDSと3μlの20mg/mlのProteinaseK溶液を加えて良く混合し、37℃で1時間インキュベートした。懸濁液を56℃で更に1時間インキュベートした。次に10%のセチルトリメチルアンモニウムブロマイド/0.7M NaCl溶液を80μl加え、よく混合したのち65℃で10分間インキュベートした。同一体積の24:1のクロロホルム−イソアミルアルコール混合液を700μl加えよく攪拌した。
【0047】
この溶液を微量遠心機で12,000rpm、5分間、4℃で遠心処理したのち、水層画分を新しい微量遠心管に移した。そこに0.6倍量のイソプロパノールを加えチューブをよく振ってDNAの沈殿を形成した。白いDNA沈殿をガラス棒ですくって1mlの70%エタノール(-20℃に冷却したもの)が入った別の微量遠心管に移した。その後チューブを10,000rpmで5分間遠心し、上清を静かに除去した。1mlの70%エタノールを追加し、混合物を更に5分間遠心した。
再び上澄みを除去したのち沈殿を100μlのTE緩衝液に溶解しDNA溶液を得た。このゲノムDNA溶液の濃度をMolecular Cloning, A laboratory manual, 1989, Eds. Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis, T., Cold Spring harbor Laboratory PressのE5, Spectrophotometric Determination of the Amount of DNA or RNAに従って定量した。
このゲノムDNAのうち10ngを用いてPCR(polymerase chain reaction)を行った。PCRはTaqポリメラーゼ(宝酒造社製、コードR001A)を用いた。酵素に添付の緩衝液5μl、酵素に添付のdNTP混合物4μlおよび各200pmolのオリゴヌクレオチド(配列表配列番号:3および4に示すもの)を酵素に加えた。全体の容量が50μlとなるように精製水を加えた。
【0048】
この混合物を、TaKaRa PCR Thermal Cycler 480を用いて、95℃1分、50℃2分、72℃3分を5サイクル行ったのち、95℃1分、60℃2分、72℃3分を25サイクル行った。このPCR生成物の一部を用いて、1.5%アガロースゲル中にて電気泳動を実施した。エチジウムブロマイド(日本ジーン社製)にて染色後、紫外線下で観察し、約400bpのDNAが増幅されていることを確認した。制限酵素BamHIおよびXhoIを用いて切断後、1.5%アガロースゲル中にて電気泳動とエチジウムブロマイドによる染色を行った。ゲルから約400bpのバンドを切り取った。このバンドをSuprec01(宝酒造株式会社製)で精製し、一般的なベクターであるpGEX-6P-1(Pharmacia社製)に挿入した。同ベクターは目的の遺伝子断片を適当な制限酵素サイトに組み込むことによりGST蛋白質とのフュージョン蛋白質を発現しうる目的分子の発現ベクターとして機能することができる。
【0049】
具体的にはベクターpGEX-6P-1と先のDNAとをそのモル比が1:3となるように混ぜ合わせて、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen社製)にてベクターにDNAを組み込んだ。DNAを組み込んだベクターpGEX-6P-1は大腸菌のワンショットコンピテントセルに遺伝子学的手法により導入し、ついで50μg/mlのアンピシリン(シグマ社)を含む半固体状の培養プレートであるLB L-ブロス寒天(宝酒造株式会社製)に接種した。プレートを37℃で12時間インキュベートし、成長したコロニーを無差別に選択し、同じ濃度のアンピシリンを含むL-ブロス培養液に接種した。37℃で8時間振とう培養・集菌後、Wizard Miniprepを用い、添付の説明書に従ってプラスミドを分離した。プラスミドは制限酵素BamHI/XhoIにて切断処理した。約370bpのDNAを切断することによってPCR生成物の挿入を確認した。挿入されたDNAの塩基配列を上記クローンを用いて決定した。
【0050】
挿入DNA断片の塩基配列の決定は、Applied Biosystems社製の蛍光シークエンサーを用いて実施した。
【0051】
シークエンスサンプルの調製はPRISM, Ready Reaction Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いて行った。先ず、9.5μlの反応液、4.0μlの0.8pmol/μlのT7プロモータープライマー(Gibco BRL)、および6.5μlの0.16μg/μlテンプレートDNAを0.5mlのマイクロチューブに加え、混合した。混合物を2層の100μl鉱油で覆ったのち、25サイクルPCR増幅処理を行った。ここで、1サイクルは、96℃での30秒間の処理、55℃での15秒間の処理、および60℃での4分間の処理からなる。生成物を4℃で5分間保持した。反応終了後、80μlの無菌精製水を加え、攪拌した。生成物を遠心分離し、水層をフェノールークロロホルム混合液で3回抽出した。10μlの3M酢酸ナトリウムpH5.2と300μlのエタノールを100μlの水層に加え、攪拌した。その後14,000rpm、室温で15分間遠心し、沈殿を回収した。沈殿を75%エタノールで洗浄後、真空下に2分間静置して乾燥させ、シークエンス用サンプルとした。シークエンスサンプルは、4μlの10mMのEDTAを含むホルムアミドに溶解して90℃で2分間変性した。このものは氷中で冷却してシークエンスに供した。
無差別に選択した5個のクローンのうち2個はPCRに用いたプローブと配列上の相同性を有していた。また、Ribosomal Protein L7/L12蛋白質の遺伝子配列と一致したDNA配列が明白であった。その構造遺伝子部分の全塩基配列及び対応するアミノ酸配列は配列表配列番号:1及び2に示すような配列であった。この遺伝子断片は、明らかにChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質の遺伝子をコードするものである。
【実施例2】
【0052】
Chlamydia pneumoniaeからのRibosomal Protein L7/L12蛋白質の大腸菌での大量発現と精製
発現ベクターを組み込んだ大腸菌をLB培地中で50ml、37℃、一昼夜培養した。500mlの2倍濃度のYT培地を37℃で1時間加熱した。1晩培養した大腸菌液50mlを500mlの前述の培地に入れた。一時間後、550μlの100mM イソプロピルβ-D(-)-チオガラクトピラノシド(IPTG)を導入し、4時間培養した。生成物を回収し、250mlの遠心チューブに移し、7000rpmで10分間遠心した。上澄みを棄てて50mM Tris緩衝液 pH7.4、25% Sucroseを含むLysis緩衝液25mlずつに溶解した。さらに10% NP-40 1.25ml、1M MgCl2 125μlを加えてプラスチックチューブに移した。氷冷下、1分間の超音波処理を5回行った。その後、12,000rpmで15分間遠心し、上清を回収した。
【0053】
次に、PBSでコンディショニングしたグルタチオンアガロースカラムに前記の上澄み液を吸着させた。次に、20mM Tris緩衝液pH7.4、4.2mM MgCl2、1mM ジチオスレイトール(DTT)を含む洗浄液でカラムを2ベッドボリューム分洗浄した。5mMのグルタチオンを含む50mMTris緩衝液pH9.6中で溶離処理をした。溶出画分の蛋白質含有量をピグメント結合法(Bradford法 ; BioRad Co.)で決定し、主画分を取得した。
【0054】
得られた精製GSTフュージョンRibosomal Protein L7/L12蛋白質の純度は電気泳動法により確認したところ約75%であり免疫源として充分な純度を確保できた。
【実施例3】
【0055】
Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対するモノクローナル抗体の作製
まずマウスの免疫についてはChlamydia pneumoniaeのGSTフュージョンRibosomal Protein L7/L12蛋白質抗原100μgを200μlのPBSに溶解後フロイントのコンプリートアジュバントを200μl加え混合した。エマルジョン化したのち200μlを腹腔内に注射した。同じエマルジョン化抗原を2週間後、4週間後、および6週間後に腹腔内に注射した。2倍濃度のエマルジョン化抗原を10週間後および14週間後に腹腔内に注射した。最終の免疫化終了の3日後に脾臓を摘出し、細胞融合した。
【0056】
無菌的に取り出したマウスの脾細胞108個に対し骨髄腫細胞2×107個をガラスチューブに取り良く混合したのち1500rpmで5分間遠心し上澄みを棄て、その後細胞をよく混合した。
【0057】
細胞融合に使用した骨髄腫細胞は、NS-1系の細胞株を用い10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で培養し、細胞融合の2週間前から0.13mMのアザグアニン、0.5μg/mlのMC-210、10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で1週間培養後、さらに10%の牛胎児血清を含むRPMI1640培地で1週間培養したものを用いた。
【0058】
37℃に保持したRPMI1640培養液50mlを混合細胞試料に加え、1,500rpmで遠心分離した。上澄み液を除去後、37℃に保持した50%ポリエチレングリコール1mlを加え、1分間攪拌した。37℃に保持したRPMI1640培養液10mlを加え、混合液を殺菌したピペットで約5分間吸引・排出することにより激しく攪拌した。
【0059】
5分間1,000rpmで遠心分離し、上澄み液を除去したのち、細胞濃度が5×106/mlとなるように30ml HAT培養液を加えた。この混合物を均一になるまで攪拌し、0.1mlずつを96穴の培養プレートに注ぎ、37℃、7%の炭酸ガス雰囲気下で培養した。HAT培地を、第1日、第1週、および第2週にそれぞれ0.1mlずつ加え、ELISA法により所望の抗体を産生する細胞をスクリーニングした。
【0060】
0.05%のアジ化ソーダ含むPBS中に溶解したGSTフュージョンRibosomal Protein L7/L12蛋白質およびGST蛋白質をそれぞれ10μg/ml濃度で希釈した液を100μlずつ96穴プレートに別々に分注し4℃で1晩吸着させた。
【0061】
上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μl添加し室温で1時間反応しブロッキングした。上澄み液を除去後、生成物を洗浄液(0.02%Tween20,PBS)で洗浄した。これに融合細胞の培養液100mlを加え、室温にて2時間反応させた。上澄み液を除去し、沈殿を洗浄液で洗浄した。次いで、濃度50ng/mlのペルオキシダーゼでラベルしたgoat anti-mouse IgG抗体溶液100μlを加え、室温にて1時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した。TMB溶液(KPL社製) を100μlずつ加え、混合物を室温にて20分間反応させた。着色したところで1Nの硫酸100μlを加えて反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0062】
この結果、GSTフュージョンRibosomal Protein L7/L12蛋白質にのみ反応しGST蛋白質には反応しない陽性ウェルが見いだされRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対する抗体が含まれていることが判明した。
【0063】
そこで陽性ウェル中の細胞をそれぞれ回収し24穴プラスティックプレート中、HAT培地で培養した。
【0064】
培養した融合培地を細胞数が約20個/mlになるようにHT培地で希釈し50μlを、HT培地に懸濁した6週齢のマウス胸腺細胞106個と96穴培養プレート中で混合した。混合後、7%CO2条件下、37℃で2週間培養した。
【0065】
培養上澄み中の抗体活性を前述のELISA法にて同様に検定し、Ribosomal Protein L7/L12蛋白質との反応陽性の細胞を回収した。さらに、同様の希釈検定、クローニング操作を繰り返し、ハイブリドーマCPRB-1〜5の計5クローンを取得した。
【実施例4】
【0066】
Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質を検出するモノクローナル抗体の選択
前述のようにして取得した陽性ハイブリドーマ細胞を用いて定法にしたがってモノクローナル抗体を生産回収した。
【0067】
具体的には、RPMI1640培地(10%FCS入り)を用いて継代培養した細胞をあらかじめ2週間前に0.5mlのプリスタンを腹腔内に注射したBalb/Cマウスの腹腔内に5×106個(PBS中)注射した。 3週間後腹水を回収し、その遠心上澄みを取得した。
【0068】
得られた抗体を含む溶液をProtein Aカラム(5ml, Pharmacia製)に吸収させ、3倍量のPBSで洗浄した。次いで、クエン酸緩衝液pH3で溶出した。抗体画分を回収し、各ハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体を取得した。この5株のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体を用いてELISA法により評価した。
【0069】
モノクローナル抗体の評価にはサンドウィッチ分析法を用いた。作成されたモノクローナル抗体をペルオキシダーゼに結合せしめることにより検出用の抗体として用いた。
【0070】
酵素標識はホースラディッシュパーオキシダーゼ(SigmaグレードVI)を用い結合には試薬S-アセチルチオ酢酸N-ヒドロキシスクシンイミドを使用しAnalytical Bio-chemistry 132 (1983), 68-73に述べられている方法に従って行った。ELISA反応においては市販の抗Chlamydia pneumoniaeポリクローナル抗体(ウサギ)を10μg/ml濃度で希釈した液を100μlずつ96穴プレートに別々に分注し4℃で1晩吸着させた。
【0071】
上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μl添加し室温で1時間反応しブロッキングした。上澄み液を除去後、生成物を洗浄液(0.02%Tween20, PBS)で洗浄した。これに各微生物の培養液に濃度0.3%となる量のTriton X-100を加え常温で5分間抽出することにより得られた抗原溶液100μlを加え、室温で2時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した。次いで、濃度5μg/mlのペルオキシダーゼ標識抗Ribosomal Protein L7/L12蛋白質抗体溶液100μlを加え、室温にて1時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した。TMB溶液(KPL社製)を100μlずつ加え、混合物を室温にて20分間反応させた。着色したところで1Nの硫酸100μlを加えて反応を停止した。450nmの吸光度を測定した。
【0072】
酵素標識抗体としてハイブリドーマCPRB-1由来のモノクローナル抗体を用いた場合、試験したChlamydia pneumoniaeの全ての株を106個/mlの感度で検出すると同時に他のHaemophilus influenzae, Klebsiella pneumoniae, Mycoplasma pneumoniaeおよびNeisseria meningitides等の微生物について108個/mlの高濃度でも反応性を示さずRibosomal Protein L7/L12蛋白質に対するモノクローナル抗体を用いることでChlamydia pneumoniae特異的な反応性をもつ抗体を取得したことが明確に確認できた。この抗体はAMCP-1と名付けられた。表2はAMCP-1を用いた結果のみを示す。別の微生物と交差反応を示す他の抗体を使用した結果はここで言及しない。
【0073】
【表2】

【実施例5】
【0074】
Ribosomal Protein L7/L12蛋白質固定化アフィニティカラムを用いたChlamydia pneumoniae Ribosomal Protein L7/L12蛋白質と特異的に反応するポリクローナル抗体の取得
実施例1に記載の方法により取得したChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質またはTriton X-100処理した菌体の上清を抗原として使用した。100μgの抗原を含む生理食塩水約1.2mlをフロイントアジュバント1.5mlとともに乳化した。エマルジョンをSPF日本白色ウサギに皮下注射してウサギを免疫化した。2週間おきに5〜6回免疫し、抗体価を確認した。
【0075】
抗体価の確認はELISA法により実施した。0.05%のアジ化ソーダ含むPBS中に溶解したChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質を10μg/ml濃度に希釈した液を100μlずつ96穴プレートに分注し4℃で1晩吸着させた。上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μl添加し室温で1時間反応しブロッキングした。上澄み液を除去後、生成物を洗浄液(0.02% Tween20, PBS)で洗浄した。正常のウサギ血清および免疫化したウサギの抗血清を希釈して得られた溶液100μlを加え、室温にて2時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した。次いで、濃度50ng/mlのペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体溶液100μlを加え、室温にて1時間反応させた。上澄み液を除去し、生成物を再び洗浄液で洗浄した。OPD溶液(Sigma社製)を100μlずつ加え、混合物を室温にて20分間反応させた。着色したところで1Nの硫酸100μlを加えて反応を停止した。492nmの吸光度を測定した。
【0076】
抗体価上昇を確認後、大量採血を実施した。耳動脈から血液をガラス製遠心管に採取し、37℃で1時間放置後、4℃で一晩静置した。その後3000rpm5分間遠心し、上清を回収した。得られた抗血清は4℃で保存した。
【0077】
Chlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質を固定化したアフィニティカラムを調製した。HiTrap NHS活性化カラム(1ml, Pharmacia社製)を用いた。カラムを1mM HClで置換後直ちにRibosomal Protein L7/L12蛋白質のPBS溶液(1mg/ml)を加えた。カラムを30分間静置後、ブロッキング試薬を加え、PBSで平衡化した。
【0078】
このChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質固定化アフィニティカラムを使用して、Chlamydia pneumoniaeのTriton X-100処理した菌体の上清を抗原として得られた抗血清中のポリクローナル抗体の精製を行った。この抗血清をPBSで5倍に希釈し、0.45μmのフィルターを通した後、流速0.5ml/minでChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質固定化カラムに吸着させた。その後0.1Mグリシン緩衝液pH2.1でカラムから溶出し、直ちに1M Tris緩衝液pH9.0で中和した後、抗体価測定法と同様のELISA法により目的とする抗体の溶出画分を回収した。
【0079】
このようにして得られたポリクローナル抗体は特表平7−509565号公報に記載されているOIA法により評価した。
【0080】
精製した抗体はOIA法の捕捉抗体として使用した。また検出抗体としては実施例4に記載したAMCP-1モノクローナル抗体をパーオキシダーゼで酵素標識したものを使用した。酵素標識はホースラディッシュパーオキシダーゼ(SigmaグレードVI)を用い結合には試薬S-アセチルチオ酢酸N-ヒドロキシスクシンイミドを使用しAnalytical Bio-chemistry 132 (1983), 68-73に述べられている方法に従って行った。
【0081】
OIA反応においては0.05%アジ化ナトリウムを含むPBS中の精製ポリクローナル抗体を10μg/ml濃度に0.1M HEPES緩衝液pH8.0で希釈した液を50μlずつシリコンウエハー上に添加し室温で30分反応させた後、蒸留水で洗浄し、サッカロース及びアルカリ処理カゼインを含むコーティング溶液でコーティング後、使用した。
【0082】
上記操作で得られた各微生物の培養液に濃度0.5%となる量のTritonX-100を加え常温で5分間抽出することにより得られた抗原溶液15μlを上記シリコンウェハー上に添加し、室温で10分間反応させた。次いで、20μg/mlペルオキシダーゼ標識化モノクローナル抗体を15μl加え、10分間反応させた。蒸留水で洗浄後、TMB溶液(KPL社製)を15μlずつ加え、混合物を室温にて5分間反応させた。生成物を蒸留水で洗浄し、酵素反応により生成した青色を肉眼で観察した。
【0083】
この結果、表3に示すように、精製ポリクローナル抗体APCP-1を捕捉抗体として用いることにより、Chlamydia pneumoniaeを108個/mlの感度で検知できること、および他の微生物の反応性は検知できないことが明らかである。このようにしてChlamydia pneumoniaeのRibosomal Protein L7/L12蛋白質を固定化したアフィニティカラムにより、Chlamydia pneumoniaeに特異的に反応するポリクローナル抗体を取得したことを確認した。
【0084】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によると微生物の進化の過程で機能的に保持された細胞内分子に対する抗体を用いて特定の種の微生物を特異的に検出できるだけでなく、同一種内における全ての血清型の微生物を精度よく検出することができる。
【0086】
このような抗体として微生物のリボソーム蛋白質、Ribosomal Protein L7/L12蛋白質に対する抗体を用い、Chlamydia pneumoniaeの検出を精度良く行うことができる。
【0087】
また、このような抗体を構成要素とする微生物検出用試薬キットを用いることで、微生物の検出をより汎用的に精度良く行なうことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラミジア・ニューモニア(Chlamydia pneumoniae)に属する微生物のリボソーム蛋白質L7/L12に対する抗体であって、該微生物のリボソーム蛋白質L7/L12に特異的に反応し、該微生物をN.menigitides,N.lactamica,N.mucosa,N.sicca,M.pneumoniae,H.influenzae,B.catarrharis,N.gonorrhoeae,E.coli,及びK.pneumoniaeからなる群に属する他の微生物と識別できるモノクローナル抗体。
【請求項2】
他の微生物との識別が、ELISA法により106個/mlのクラミジア・ニューモニア細胞抽出液を検出し、108個/mlの他の微生物の細胞抽出液を検出しないことである、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗体の製造方法であって、以下の工程を有することを特徴とする、クラミジア・ニューモニア(Chlamydia pneumoniae)に属する細菌のリボソーム蛋白質L7/L12に対するモノクローナル抗体の作製方法。
(1)遺伝子操作手法によりあるいはクラミジア・ニューモニア(Chlamydia pneumoniae)に属する細菌からの単離精製により得られた当該細菌の全長リボソーム蛋白質L7/L12を免疫源として、当該細菌の全長リボソーム蛋白質L7/L12に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
(2)上記(1)で得られたハイブリドーマから、さらに、当該細菌の全長リボソーム蛋白質L7/L12に特異的に反応し、当該細菌を他の細菌と種あるいは属で識別できるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程
(3)上記(2)で得られたハイブリドーマから抗体を取得する工程

【公開番号】特開2012−17334(P2012−17334A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196225(P2011−196225)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【分割の表示】特願2001−557920(P2001−557920)の分割
【原出願日】平成13年1月31日(2001.1.31)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】