説明

クランベリー抽出物及びその製造方法

【課題】プロアントシアニジンA型を豊富に含み、かつ、多量の脂溶性成分を含まないことにより、渋みや収斂味といった不快な味を有さない、食品に応用が可能なクランベリー抽出物を提供する。
【解決手段】クランベリー果皮、あるいは、クランベリーポメス1重量部に対し、水を3〜5重量部加えて加熱後、80〜90℃の範囲で、2〜5時間抽出を行う。
【効果】プロアントシアニジンA型とともに単糖を多く含有することにより良好な風味を有し、かつ、多量の脂溶性成分を含まないことにより、渋みや収斂味といった不快な味を有さないクランベリー抽出物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロアントシアニジンA型を豊富に含み、かつ、多量の脂溶性成分を含まないことにより、渋みや収斂味といった不快な味を有さない、食品に応用が可能なクランベリー抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロアントシアニジンは各種植物体中に存在する縮合型タンニン、あるいは非加水分解性タンニン、すなわちフラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−ジオールを構成単位として縮合、重合により結合した化合物群である。プロアントシアニジンは、結合様式の違いから数種類に分類されており、例えば、2つ以上のフラバン−3−オール構造が4β位→8位および2β位→O→7位または4β位→6位および2β位→O→7位を介して結合する部位が少なくとも1箇所に存在する場合はA型、2つ以上のフラバン−3−オール構造が4β位→8位または4β位→6位を介して結合している場合はB型に分類されることが知られている。プロアントシアニジンB型は、様々な機能性・生理活性を有することが認められており、例えば、育毛(例えば、特許文献1参照)、抗ウィルス効果(例えば、特許文献2参照)、動脈硬化や糖尿病に代表されるメタボリックシンドロームの予防(例えば、特許文献3参照)等の効果が知られている。一方で、プロアントシアニジンA型は、ヒアルロニダーゼの活性阻害、抗アレルギーあるいは抗炎症作用(例えば、特許文献4参照)や、尿路感染症を引き起こす細菌の付着防止効果(例えば、非特許文献1参照)を有することが示唆されているものの、詳細な検証は行われていない。その背景には、プロアントシアニジンB型は、様々な野菜あるいは果実などの食品に幅広く含まれているのに対し、プロアントシアニジンA型は、クランベリー、プラム、アボガト、ピーナッツ、およびシナモン等、ごく限られた植物にしか含まれておらず(例えば、非特許文献2参照)、さらには、プロアントシアニジンA型を効率よく抽出する方法が確立されていないという理由が挙げられる。
【0003】
プロアントシアニジンを植物原料から抽出する場合、一般的には、水やエタノール等の有機溶媒を用いて抽出し乾燥濃縮させる方法(例えば、特許文献5、6、7参照)等が知られている。これらの方法により、プロアントシアニジンB型を果実果皮等から効率よく抽出することができるものの、プロアントシアニジンA型の抽出効率は悪いという欠点がある。その欠点を補うために、抽出後に得られる溶液を合成吸着剤や逆相の吸着剤により吸着処理を行う方法(例えば、特許文献4、8〜11参照)等が知られている。しかしながら、これらの方法では、吸着樹脂から目的とするプロアントシアニジン類を溶出させる際、多量のエタノールやアセトンを使用しなければならず、プロアントシアニジンと共に、ケルセチン配糖体等に代表されるフラバノール類やクロロフィル類等、多量の脂溶性成分が抽出されてしまい、プロアントシアニジンA型の持つ渋みや収斂味と相乗して、不快な味になり、食品に供するに耐えられないといった欠点が生じてしまう。この不快な味を付与する成分を、プロアントシアニジン抽出後に取り除くためには、多量の有機溶媒と煩雑な工程を経なければならないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Natural Products,63(9),1225−1228(2000).
【非特許文献2】Journal of Agricultural and Food Chemistry,51(25),7513−7521(2003).
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−307370号公報
【特許文献2】特開2005−314316号公報
【特許文献3】特開2006−182706号公報
【特許文献4】特許2975997号明細書
【特許文献5】特開平9−221484号公報
【特許文献6】再表2005/079825号公報
【特許文献7】再表2006/068212号公報
【特許文献8】再表2005/030200号公報
【特許文献9】再表2005/072762号公報
【特許文献10】特開2008−156265号公報
【特許文献11】特開2008−156265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、尿路感染を引き起こす細菌の付着抑制効果等を有するプロアントシアニジンA型を豊富に含み、かつ、多量の脂溶性成分を含まないことにより、渋みや収斂味といった不快な味を有さない、食品に応用が可能なクランベリー抽出物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討した結果、クランベリー果皮、あるいはポメスを約90℃の熱水で2〜4時間抽出を行うことにより、プロアントシアニジンB型1重量部に対し、プロアントシアニジンA型を0.6重量部以上、かつ、単糖を10%(w/w)以上含有し、良好な風味を呈することを知り、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、
1)プロアントシアニジンを4%(w/w)以上含有し、かつ、当該プロアントシアニジン中に含まれるプロアントシアニジンB型1重量部に対し、プロアントシアニジンA型が0.6重量部以上であるクランベリー抽出物。
2)単糖を10%(w/w)以上含有する前記1)に記載のクランベリー抽出物。
3)クランベリー果皮、あるいはクランベリーポメス1重量部に対し、水を3〜5重量部加えて加熱後、80〜90℃の範囲で、2〜5時間抽出することを特徴とする前記1)あるいは2)に記載のクランベリー抽出物の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、単糖を豊富に含有することで風味が良好になり、かつ、脂溶性成分を含有しないことで渋みが低減され、飲食品に応用が可能なクランベリー抽出物を提供することができる。
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(プロアントシアニジン)
プロアントシアニジンは各種植物体中に存在する縮合型タンニン、あるいは非加水分解性タンニン、すなわちフラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−ジオールを構成単位として縮合、重合により結合した化合物群である。なお、本発明のプロアントシアニジンには、構成単位の3量体、4量体さらに10〜30量体以上からなる高分子のプロアントシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン等のプロアントシアニジン、およびそれらの立体異性体等も含まれる。また、このプロアントシアニジンは、結合様式の違いから数種類に分類されている。その1つは、2つ以上のフラバン−3−オール構造が4β位→8位または4β位→6位を介して結合しているプロアントシアニジンB型、もう1つはフラバン−3−オール構造が4β位→8位および2β位→O→7位または4β位→6位および2β位→O→7位の結合が少なくとも1箇所に存在するプロアントシアニジンA型である。クランベリーには、プロアントシアニジンA型、およびプロアントシアニジンB型双方のタイプが存在する。
【0012】
本発明におけるプロアントシアニジンA型は、フラバン−3−オールあるいはフラバン−3,4−ジオールを構成単位として、これらが縮合もしくは重合する形式が4β位→8位、および2β位→O→7位、あるいは4β位→6位、および2β位→O→7位の結合が少なくとも1箇所に存在する化合物群であって、下記構造式(1)(2)で示される物質である。
構造式(1):
【0013】
【化1】

構造式(2):
【0014】
【化2】

[式中、R1は水素原子又は水酸基であり、R、R、Rは水素原子又はガロイル基である。]
【0015】
本発明で述べるプロアントシアニジンA型とは、エピカテキンが4β位→8位および2β位→O→7位で重合した2量体(epicatechin−(4β−8,2β−O7)−epicatechin)を指す(構造式(3))。
構造式(3):
【0016】
【化3】

【0017】
また、本発明で述べるプロアントシアニジンB型とは、エピカテキンが4β位→8位で重合した2量体(epicatechin−(4β−8)−epicatechin)を指す(構造式(4))。
構造式(4):
【0018】
【化4】

【0019】
(クランベリー果皮・クランベリーポメス)
クランベリーとは、ヨーロッパ、北アメリカ両大陸を原産とする小果樹であり、本発明では、その原種、および栽培品種が使用できる。栽培品種としては、アメリカのウィンスコンシン州の原産でツツジ科スノキ属マクロカルポン種(Vaccinium macrocarpon)、あるいはオキソコカス種(Vaccinium oxycoccus)の樹高約20cm程度の果樹で、品種名はクラウリー(Crowley)、スティーブンス(Stevens)、ベンレアー(Benlear)、ピルグリム(Pilgrim)、アーリーブラック(Early black)、バークマン(Bergman)などがあげられる。
【0020】
本発明であるクランベリー抽出物は、クランベリー果皮、あるいはクランベリーポメスから熱水抽出することで得られる。クランベリー果皮は、クランベリー果実を覆う外側部分を指す。クランベリーポメスは、クランベリー濃縮果汁を絞りだした後の残渣であり、ポメスの大部分をクランベリー果皮が占めている。抽出効率を高めるため、あらかじめクランベリー果皮、あるいはクランベリーポメスを粉砕しておくことも可能である。クランベリー果皮、あるいは、クランベリーポメスから熱水抽出工程を経ることで、効率よくプロアントシアニジンA型を多く含む抽出物を得ることができるが、コスト面を考慮すると、安価で容易に手に入りやすいクランベリーポメスを用いることが好ましい。
【0021】
(熱水抽出)
本発明であるクランベリー抽出物は、前記のクランベリー果皮、あるいはクランベリーポメスを熱水で抽出することで得られる。抽出する条件は、クランベリーの産地や収穫時期の違いにより異なるが、以下の条件の範囲内で適宜選択できる。
【0022】
抽出する溶媒は、熱水である。熱水の温度は、80〜100℃の範囲が好ましく、90〜100℃の範囲がより好ましい。熱水の温度が80℃を下回る場合は、プロアントシアニジンの抽出率が悪くなってしまう。
【0023】
抽出時間は、2〜5時間の範囲で、3〜4時間がより好ましい。抽出時間が4時間までは、抽出時間の増加に比例してプロアントシアニジンの抽出率が増加するが、4時間を越えると徐々に抽出率の増加が緩くなり、5時間を越えて抽出を行っても意味がない。
【0024】
溶媒の量は、クランベリー果皮、あるいはクランベリーポメス1重量部に対し、3〜5重量部の範囲が好ましい。3重量部を下回る場合は、プロアントシアニジンの抽出率が悪く、5重量部を越える場合は、プロアントシアニジンの抽出率は高いものの、単糖の抽出量が減少し、渋みや収斂味が高くなってしまうため、食品に供するのに適さなくなる。
【0025】
上記の条件で得られた熱水抽出後の溶液を、布、ステンレスフィルター、濾紙、セライトなどで濾過してクランベリーポメス不純物を取り除くことで、本発明であるクランベリー抽出物を得ることができる。また、濾過後のクランベリー抽出物を濃縮したり、あるいは、スプレードライ処理、フリーズドライ処理等の処理を施し、粉末化してもよい。粉末化することで、食品への添加が容易となり、かつ添加量を把握しやすくなるため、利便性に優れる。粉末化する場合、濾過した熱水抽出液を濃縮し、当該抽出液に含まれる固形分に対し、20〜100%(w/w)の賦形剤を添加し、殺菌後にスプレードライ処理する方法が、容易で、かつ経済的であるため好ましい。
【0026】
(クランベリー抽出物)
上記工程により、プロアントシアニジンB型1重量部に対しプロアントシアニジンA型を0.6重量部以上含有し、かつ、単糖を10%(w/w)以上含有するクランベリー抽出物を得ることができる。当該クランベリー抽出物は、従来のプロアントシアニジンA型を多く含む抽出物に比べて、風味が優れたものであるため、食品や飲料の原料としての使用が容易である。また、プロアントシアニジンA型を、一定濃度以上含有するため、ヒアルロニダーゼの活性阻害、抗アレルギーあるいは抗炎症作用や尿路感染症を引き起こす細菌の付着防止効果を有する健康食品、あるいは、医薬品への応用が期待できる。
【0027】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
(抽出時間の検討)
抽出時間の検討を行った。アメリカ産クランベリーの搾汁残渣であるクランベリーポメス1重量部(50g;水分36g)に対して水3重量部(150ml)加え、90℃に加熱し、1〜6時間還流冷却下で熱水抽出を行った。熱水抽出後に得られる抽出溶液は、セライト(スタンダードスーパーセル;和光純薬社製)を用いて濾過後、容量が50ml未満になるまで減圧濃縮を行い、抽出溶液の濃縮溶液を得た。次いで、当該濃縮溶液に、容量が50mlとなるよう水を加え、濃縮溶液中に含まれる固形分を求めた。
【0029】
固形分は以下の方法により算出した。濃縮液中に含まれる固形分の濃度が20mg/ml以下になるように適宜水にて希釈した後、当該希釈液5mlをビーカーに入れ、110℃下で3時間静置した。その後、室温にて1時間以上デシケーター内で乾燥し、乾燥後のビーカーの重量を求め、その重量から風袋の重量を差し引き濃縮液の固形分濃度を求めた。
【0030】
濃縮溶液に、前記の方法により求めた固形分量と等量のデンプン(スタビローズS−10;松谷化学社製)を賦形剤として添加し、凍結乾燥により粉末状のクランベリー抽出物を得た。次いで、クランベリー抽出物中に含まれる全プロアントシアニジン量(w/w)、プロアントシアニジン比(A/B)、単糖量(w/w)を求めた。
【0031】
全プロアントシアニジン量は塩酸−バニリン法(R.B.Broadhurst,etal,J.Ssi.Food Agric., Vol.29,788−794(1978))で求めた総フラバノール量から非重合体カテキン量を引いた値を用いた。
【0032】
プロアントシアニジン比は、HPLC(日本分光社製)に蛍光検出器(日立ハイテクノロジーズ社製)を装着して用いた。測定は、以下の条件で行った。
【0033】
溶離液A; 0.1%トリフルオロ酢酸を含む10%アセトニトリル溶液
溶離液B; 0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル溶液
溶離液の流量; 1.0ml/分
カラム; ODSカラム
カラムオーブン温度; 40℃
励起波長; 276nm
蛍光波長; 316nm
インジェクション量; 10μL
濃度勾配条件; 溶離液Bを0%から100%に分析開始から40分までリニアに上昇させた。以降50分まで溶離液Bを100%に保持した。
【0034】
単糖量の測定は、リン酸−フェニルヒドラジン法(井上久雄ら,17,7−17(2003))によりHPLCを用いて測定し、アラビノース、フルクトース、グルコース、ガラクトース、シュークロースの総和で示した。HPLCによる測定は、以下の条件にて行った。
【0035】
溶離液A; 0.5%リン酸を含む95%アセトニトリル
溶離液B; 0.5%リン酸を含む75%アセトニトリル
溶離液の流量; 1.0ml/分
カラムオーブン温度; 40℃
励起波長; 330nm
蛍光波長; 470nm
インジェクション量; 5μL
濃度勾配条件; 溶離液B0%を分析開始から20分まで保持した。20分後から40分まで溶離液Bを60%にリニアに上昇させた。溶離液B60%で40分から50分まで保持した。その後、溶離液Bを60%から100%に55分まででリニアに上昇させた。以降、65分まで溶離液Bを100%保持した。
【0036】
各抽出時間における全プロアントシアニジン量、プロアントシアニジン比、および単糖量を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すとおり、90℃で熱水抽出を行った場合、抽出時間が4時間以下において、抽出時間の増加とともに抽出されるプロアントシアニジン量は増加したが、4時間を越えると、抽出量に変化はみられなくなった。また、抽出時間が4時間を越えると、A2/B2比が0.6以下であることからも、プロアントシアニジンA型の抽出効率が低下することが確認された。単糖量については、抽出時間の変化による影響は観察されなかった。
【0039】
上記の結果より、最適な抽出時間は2〜5時間であり、最も好ましくは3〜4時間の範囲であることが分かる。
【実施例2】
【0040】
(抽出溶媒の量の検討)
抽出溶媒の量の検討を行った。実施例1の方法に従って、クランベリーポメス1重量部(50g;水分36g)に対して水を2〜8重量部(100〜400ml)の範囲で加えて、90℃に加熱し、2時間還流冷却下で熱水抽出を行った。その後、実施例1に記載の方法と同様に凍結乾燥を行い、クランベリー抽出物を得て、当該抽出物中に含まれる全プロアントシアニジン量(w/w)、プロアントシアニジン比(A/B)、単糖量(w/w)を求めた。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すとおり、クランベリーポメス1重量部に対し、抽出溶媒が3重量部を下回る場合、抽出後のプロアントシアニジン含量が少なく、抽出溶媒が5重量部を越える場合、抽出後の単糖含量が少なくなり、得られるクランベリー抽出物の渋みや収斂味が強く、食品に供するに適さない。
【0043】
上記の結果より、最適な溶媒の量は、クランベリー果皮、あるいは、クランベリーポメス1重量部に対し、3〜5重量部の範囲であることがわかる。
【実施例3】
【0044】
(抽出温度の検討)
抽出温度の検討を行った。実施例1の方法に従って、アメリカ産クランベリーポメス1重量部(50g;水分36g)に対して水を3重量部(150ml)を加え、60℃、70℃、80℃、あるいは、90℃で加熱し、4時間還流冷却下で熱水抽出を行った。その後、実施例1に記載の方法と同様に凍結乾燥を行い、クランベリー抽出物を得て、当該抽出物中に含まれる全プロアントシアニジン量(w/w)、プロアントシアニジン比(A/B)、単糖量(w/w)を求めた。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示すとおり、抽出温度を低くすると、プロアントシアニジンの抽出効率が低くなることが確認された。一方、プロアントシアニジンの比、および単糖量は、温度変化による差は確認されなかった。
【0047】
上記の結果より、最適な抽出温度は80〜90℃の範囲であることが分かる。
【実施例4】
【0048】
(クランベリーの産地による違いの検討)
クランベリーの産地の違いにより、クランベリー抽出物に違いが生じるか、比較検討を行った。実施例1の方法に従って、チリ産クランベリーの搾汁残渣であるクランベリーポメス1重量部(50g;水分36g)に対して水を3重量部(150ml)を加え、60℃、70℃、80℃、あるいは、90℃で加熱し、4時間還流冷却下で熱水抽出を行った。その後、実施例1に記載の方法と同様に凍結乾燥を行い、クランベリー抽出物を得て、当該抽出物中に含まれる全プロアントシアニジン量(w/w)、プロアントシアニジン比(A/B)、単糖量(w/w)を求めた。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4に示すとおり、クランベリーの産地の違いによらず、抽出温度が80〜90℃の範囲において、プロアントシアニジンA型および単糖を豊富に含有するクランベリー抽出物を得られることが確認された。
【実施例5】
【0051】
(抽出溶媒の検討)
抽出溶媒の検討を行った。実施例1の方法に従って、アメリカ産クランベリーの搾汁残渣であるクランベリーポメス1重量部(50g;水分36g)に対して、水を3重量部(150ml)を加え、90℃で加熱し、3時間還流冷却下で熱水抽出を行い、実施例1に記載の方法と同様に凍結乾燥を行い、本発明であるクランベリー抽出物(本発明1)を得た。一方、30%、50%、あるいは、90%エタノールを溶媒として用い、前記の方法と同様に抽出することで、比較例(比較例1〜3)を得た。各抽出物中に含まれる全プロアントシアニジン量(w/w)、プロアントシアニジン比(A/B)、単糖量(w/w)は、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
表5に示すとおり、本発明であるクランベリー抽出物は、比較例に対してプロアントシアニジンの濃度、および、プロアントシアニジンA型の抽出効率は低くなるものの、単糖を豊富に含有することが確認された。
【0054】
次いで、各抽出物の官能評価試験を行った。官能評価試験は、3人のパネラーに対するブラインドテストにより実施し、風味、および全体的な味についての評価を行った。その結果を表6に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
表6に示すとおり、本発明であるクランベリー抽出物は、比較例に対し、渋みが弱く、酸味と甘みのバランスに優れた良好な風味を呈することが確認された。一方、比較例の抽出物は、渋みが非常に強く、食品に供するには不向きであることが確認された。これはエタノールを用いてクランベリーポメスを抽出すると、その溶媒の極性により、クランベリーに多く含まれるケルセチンなどのフラバノールが多く抽出され、熱水を用いて抽出した際に効率よく抽出される単糖の抽出が悪くなることにより風味が損なわたと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジンを4%(w/w)以上含有し、かつ、当該プロアントシアニジン中に含まれるプロアントシアニジンB型1重量部に対し、プロアントシアニジンA型が0.6重量部以上であるクランベリー抽出物。
【請求項2】
単糖を10%(w/w)以上含有する請求項1に記載のクランベリー抽出物。
【請求項3】
クランベリー果皮、あるいはクランベリーポメス1重量部に対し、水を3〜5重量部加えて加熱後、80〜90℃の範囲で、2〜5時間抽出することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のクランベリー抽出物の製造方法

【公開番号】特開2010−227002(P2010−227002A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77903(P2009−77903)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】