説明

クリアランス放射線測定方法及びクリアランス放射線測定システム

【課題】放射線のバックグランド値の変動が生じる場合において放射能の測定精度を向上できるクリアランス放射線測定方法を提供する。
【解決手段】クリアランス対象物である、低圧タービンのローターの分割体1から放出される放射線を放射線検出器11で測定し、併せて、分割体1と放射線検出器10の間の距離を距離センサ11で測定する。放射線検出器10から出力された放射線検出信号及び距離センサ11で測定された距離を入力した演算装置12は、以下の処理を実行する。入力した距離に基づいてBGデータベース15からバックグラウンド補正データを求める(S2)。この補正データを用いて入力した放射線検出信号の計数率を補正する(S3)。S4で求めた、計数率を放射能強度に換算する換算係数、及び補正された計数率に基づいて、放射能強度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリアランス放射線測定方法及びクリアランス放射線測定システムに係り、特に、原子力施設で発生する放射性廃棄物のクリアランス処理を行う際の判定を支援するのに好適なクリアランス放射線測定方法及びクリアランス放射線測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クリアランス制度とは、原子力施設の廃止措置に伴い発生する放射性廃棄物のうち、人体への影響が無視できるほど放射能レベルが極めて低いものを一般物品として再利用を図り、または処分するための制度である。我が国では原子炉等規制法が2005年に改正され、日本原子力発電株式会社東海発電所の廃止措置に伴い発生した放射性廃棄物のうち配管等の小型機器を対象とした一部についてクリアランス放射線測定方法が初めて適用された。
【0003】
クリアランス処理の例が、特開2007−248066号公報にて提案されている。
【0004】
クリアランス処理では、クリアランス処理の対象となる放射性廃棄物の放射線測定が行われる。この放射線測定は、放射線検出器(シンチレータ)を用いて行われる。放射線測定においては、放射性廃棄物から放出されるγ線の計数率(cps:count per second)が測定され、測定された計数率を基に放射能を評価するために、放射能換算係数(Bq/cps)を用いて放射能強度(Bq)が算出される。また、クリアランス処理における放射線測定においては、自然界の放射線レベルよりも十分に小さい放射能検出限界値の放射能が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−248066号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】クリアランスの判断方法(2005)−日本原子力学会標準、257頁、日本原子力学会(2005/08出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クリアランス処理の対象物(クリアランス対象物)として、原子力発電プラントの低圧タービンが存在する。クリアランス対象物である低圧タービンのクリアランス処理は、全てのタービン翼が取り外された、低圧タービンの、複数のディスクが形成されたローターが対象となる。
【0008】
このローターは、物量が大きく、軸方向に間隔を置いて配列された、タービン翼が取り外された複数のディスクを有する。各ディスクの外周面には、タービン翼のフォークが嵌め込まれる複数のディスク溝が形成されている。これらのディスク溝により、ローターは、凹凸が形成された複雑な表面形状を有している。複雑な表面形状を有するローターに対して、現在行われている配管等の小型機器を対象とした放射能測定方法を適用することができない。
【0009】
また、クリアランス対象物に対する現実的なクリアランスレベルの計測は、有意な放射線検出レベルの測定ではなく、バックグラウンドレベルでの放射能の測定を行うことになる。このバックグランドレベルでの放射能の測定は、通常、放射能検出限界値となる。この放射能検出限界値は、バックグランドの変動により大きな誤差の要因になってしまう。
【0010】
一方、放射能測定を行うクリアランス対象物が、上記のローターのように、大型機器の場合には、このクリアランス対象物が放射線検出器に対して十分な大きさを有しているため、クリアランス対象物自体が、放射線遮へい体となり、放射線検出器の前方から飛来する自然界の放射線を遮へいしてしまう。このため、放射線検出器に入射される自然界の放射線の入射量が少なくなり、バックグラウンド計数率が低下する。また、上記のローターのようなクリアランス対象物は、凹凸が形成された複雑な表面形状を有している。例えば、放射線検出器を用いてローターのディスクの外周面に沿って放射線測定を行う場合、タービン翼のフォークを嵌め込むために複雑な形状をしているディスク溝が存在する位置とディスク溝が存在しない位置での放射線測定では、クリアランス対象物の一部であるディスクと放射線検出器の間の距離(測定距離)が変化する。
【0011】
発明者らは、クリアランス対象物の放射線遮へい作用、及びクリアランス対象物と放射線検出器の間の距離の変化によって、放射線測定時における放射線のバックグランド値が大きく変動することを新たに見出した。このため、発明者らは、低圧タービン等の大型機器に対する、クリアランス処理における放射能測定では、放射線のバックグランド値を正確に把握する必要があることを認識した。
【0012】
本発明の目的は、放射線のバックグランド値が変化する場合において放射能の測定精度を向上できるクリアランス放射線測定方法及びクリアランス放射線測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、表面に凹凸形状が存在するクリアランス対象物から放出される放射線を放射線検出器で測定し、この放射線測定時において、クリアランス対象物と放射線検出器の間の距離を距離測定装置で測定し、測定された距離に基づいてバックグラウンド計数率を求め、このバックグラウンド計数率を用いて、放射線を測定した放射線検出器から出力された放射線検出信号により得られた計数率を補正し、補正された計数率を用いて放射能強度を算出することにある。
【0014】
クリアランス対象物と放射線検出器の間の距離に対応したバックグラウンド計数率を求め、このバックグラウンド計数率に基づいて、放射線検出器から出力された放射線検出信号に基づいて得られた計数率を補正しているので、クリアランス対象物の放射線測定位置に応じてクリアランス対象物と放射線検出器の間の距離が変わる場合であっても、クリアランス対象物の放射能の測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クリアランス対象物の放射線測定において、放射線のバックグランド値が変化する場合において放射能の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な一実施例であるクリアランス放射線測定方法に用いられるクリアランス放射能測定システムの構成図である。
【図2】図1に示す放射線検出装置の詳細構成図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】図1に示す演算装置で実行される処理を示す説明図である。
【図5】放射線検出器と測定対象物の間の距離とバックグランド計数率の関係を示す特性図である。
【図6】放射線検出器の前方にクリアランス対象物が存在しない場合における自然界の放射線の放射線検出器への入射状態を示す説明図である。
【図7】放射線検出器の前方にクリアランス対象物が存在している場合における自然界の放射線の放射線検出器への入射状態を示す説明図である。
【図8】放射線検出器のクリアランス対象物からの距離が実質的に0である場合における自然界の放射線の放射線検出器への入射状態を示す説明図である。
【図9】放射線検出器がクリアランス対象物から離れている場合における自然界の放射線の放射線検出器への入射状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、クリアランス対象物の放射線測定において、放射線のバックグランド値の変動が生じる場合において放射能の測定精度を向上できる方策を種々検討した。その際に、クリアランス対象物が大型機器であって放射線検出器の前方から飛来する自然界の放射線の入射が遮られる場合において、放射線検出器とクリアランス対象物(特に、クリアランス対象物の放射線測定面)の間の距離が、放射線検出器で放射線を検出するときにおける放射線のバックグラウンドに及ぼす影響について検討した。放射線検出器とクリアランス対象物に相当する試験体の間の距離を変えて、試験体から放出される放射線を放射線検出器で検出し、放射線のバックグラウンドを求めた。この結果、発明者らは、図5に示す放射線検出器から測定対象物(試験体)までの距離とバックグラウンド計数率の関係を得ることができた。この測定対象物は、クリアランス対象物に相当する。図5に示す特性は、放射線検出器が測定対象物の表面から離れるに伴い、バッググランド計数率が増加することを顕著に示している。
【0018】
ここで、放射線検出器(例えば、NaI検出器)による自然界に存在する放射線の検出について説明する。
【0019】
放射線検出器10の全面に放射線を測定するクリアランス対象物が存在しない場合には、図6に示すように、自然界に存在する放射線33が、放射線検出器10に入射され、放射線検出器10によって検出される。光電子増倍管31が放射線検出器10に接続される。放射線遮へい体32が放射線検出器10の周囲を取り囲んでいる。シンチレータである放射線検出器10内に放射線が入射したとき、放射線検出器10が光を発生し、この光が光電子増倍管31に入射されて電気に変換される。
【0020】
放射線検出器10に比べて非常に大きな大型機器であるクリアランス対象物(例えば、低圧タービンのローター)25の放射線を検出する場合には、図7に示すように、放射線検出器10の前面にクリアランス対象物30が配置される。この場合には、クリアランス対象物30自体が、自然界に存在する放射線33に対する放射線遮へい体となり、放射線検出器10の前方から飛来する自然界の放射線33を遮へいしてしまい、放射線検出器10への放射線33の入射を妨げる。
【0021】
図6の状態では、放射線検出器10で検出された、自然界に存在する放射線33によるバックグランド計数率が高くなる。これに対して、図7の状態では、放射線検出器10で検出された、自然界に存在する放射線33によるバックグランド計数率が低くなる。
【0022】
次に、放射線検出器10とクリアランス対象物30の間の距離によって、図5に示すように、バックグランド計数率が変化する理由について説明する。放射線遮へい体32で取り囲まれた放射線検出器10の前面が、図8に示すように、クリアランス対象物30の外面に接触しているとき、放射線検出器10の前方から飛来する、自然界に存在する放射線33はクリアランス対象物30によって遮へいされ、放射線検出器10の後方よりクリアランス対象物30に向って飛来する、自然界に存在する放射線33Aはクリアランス対象物30に接触している放射線遮へい体32によって遮へいされるので、自然界に存在する放射線の放射線検出器10への入射が妨げられる。この状態で、放射線検出器10によって検出される、自然界に存在する放射線は、非常に少なくなり、バックグランド計数率が非常に小さくなる。
【0023】
図9に示すように、放射線検出器10とクリアランス対象物30の間の間隔が広がって放射線検出器10とクリアランス対象物30の間の距離が大きくなると、放射線検出器10の前方からの放射線33はクリアランス対象物30で遮られるが、放射線検出器10の後方から飛来する放射線33Aは、クリアランス対象物30の外面で反射され、放射線検出器10に入射される。このように、放射線検出器10とクリアランス対象物30の間の距離が大きくなると、放射線検出器10の後方から飛来する放射線33Aが、放射線検出器10で検出されるので、バックグランド計数率が増大する。
【0024】
発明者らは、放射線検出器と測定対象物(クリアランス対象物)の間の距離とバックグラウンド計数率の関係を考慮した新たなクリアランス放射線測定方法を考え出した。このクリアランス放射線測定方法によれば、クリアランス処理でのクリアランス対象物に対する放射線測定において、放射線のバックグランド値の変動が生じる場合も放射能の測定精度が向上することが分かった。
【0025】
以上の検討結果を考慮した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0026】
本発明の好適な一実施例であるクリアランス放射線測定方法を、図1、図2及び図3を用いて説明する。
【0027】
本実施例のクリアランス放射線測定方法では、クリアランス放射線測定システムが用いられる。このクリアランス放射線測定システムを、図1及び図2を用いて説明する。クリアランス放射線測定システム4は、回転テーブル5、放射線検出装置6、演算装置12、制御装置13及び記憶装置14を備えている。記憶装置14はバックグラウンドデータベース(以下、BGデータベースという)15及び換算係数データベース16を有する。BGデータベース15は、図5に示す特性、すなわち、放射線検出器10から測定対象物であるクリアランス対象物(例えば、ローターの分割体1)までの距離とバックグラウンド計数率の関係を示す特性を格納している。換算係数データベース16は、計数率(cps)を放射能強度(Bq)に換算する係数を格納している。
【0028】
放射線検出装置6は、図2に示すように、支持台7、支柱であるガイド部材8、放射線検出器10、距離センサ11、移動体25、横行アーム26及び支持部材27を有する。ガイド部材8が支持台7の上面に設置される。移動体25が、ガイド部材8の軸方向(Z方向)に移動可能に、ガイド部材8に取り付けられる。横行アーム26が、水平方向でガイド部材8と直交する方向(X方向)に移動可能に、移動体25に設けられる。放射線検出器(例えば、NaI放射線検出器)10及び距離センサ11が取り付けられた平板状の支持部材27が、水平方向で横行アーム26と直交する方向(Y方向)に移動可能に、横行アーム26に取り付けられる。放射線検出器10及び距離センサ(例えば、レーザー発信器)11が、支持部材27の上面に、水平方向に間隔を置いて並列に配置されている(図3参照)。距離センサ11を放射線検出器10の上に配置してもよい。
【0029】
図1及び図2には図示されていないが、前述した光電子増倍管31が放射線検出器10に接続される。光電子増倍管31は支持部材27に設けられる。放射線検出器10及び光電子倍増管31は、図示されていないが、前述した放射線遮へい体32で取り囲まれている。光電子増倍管31が配線21によって演算装置12に接続される。距離センサ11が配線22によって演算装置12及び制御装置13にそれぞれ接続される。演算装置12は記憶装置14に接続されている。入力装置(例えば、キーボード)17が演算装置12及び制御装置13に接続される。表示装置18及びプリンタ19が演算装置12に接続される。
【0030】
クリアランス放射線測定システム4を用いた本実施例のクリアランス放射線測定方法を説明する。
【0031】
全てのタービン翼が取り外された、低圧タービンのローターが、その軸心と直交する方向に切断されて、複数個に分割される。ローターの分割された1つの分割体1の軸方向の長さは、例えば、1mである。この分割体1が、これの軸心が回転テーブル5の上面と垂直なるように、回転テーブル5の上に置かれる。分割体1は、移動しないように、複数のサポートにより回転テーブル5に固定される。分割体1には、複数のディスク3が、分割体1の軸方向において、相互間に間隔を置いて形成されている。これらのディスク3の周辺部には、複数のタービン翼(図示せず)が嵌め込まれていた複数のディスク溝(図示せず)が形成されている。
【0032】
オペレータが、放射線検出器設定指令を入力装置17に入力する。この放射線検出器設定指令は放射線検出器10の設定位置(X,Y及びZ方向での各位置)の情報を含んでいる。制御装置13は、入力装置17に入力された放射線検出器設定指令を入力し、放射線検出装置6に位置制御信号を出力する。放射線検出装置6の移動体25、横行アーム26及び支持部材27が、位置制御信号に基づいて、Z方向、X方向及びY方向にそれぞれ移動され、放射線検出器10が放射線測定開始位置に位置決めされる。
【0033】
この放射線測定開始位置が、例えば、隣り合うディスク3の間に形成された溝2の底面付近であるとする。移動体25がガイド部材8に沿って上昇し、放射線検出器10が該当する溝2に対向する位置に到達したとき、移動体25の上昇が停止される(図2参照)。移動体25をガイド部材8に沿って移動するとき、放射線検出器10の先端は、ディスク3と衝突しないように、溝2の外に位置している。移動体25の上昇が停止された後、横行アーム26が分割体1に向って移動され、放射線検出器10及び距離センサ12が該当する溝2内に挿入され、放射線検出器10の先端が、分割体1の半径方向において、溝2の底面からある距離だけ離れた位置に到達したとき、横行アーム26の移動が停止される。移動部材27がY方向に移動され、放射線検出器10と距離センサ12の間の間隔の中間点が分割体1の軸心に向かい合う位置に到達したとき、移動部材27のZ方向への移動が停止される。このような移動体25、横行アーム26及び支持部材27の移動によって、放射線検出器10の先端が制御装置13で指示された設定位置に位置決めされる。
【0034】
その後、制御装置13が回転テーブル5の回転装置(図示せず)に対して回転制御信号を出力する。この回転装置が起動され、回転テーブル5が所定の回転速度で回転する。放射線検出器10は、分割体1の、溝2の底面から放出される放射線を検出する。このとき、距離センサ12が、クリアランス対象物である分割体(ローター)1と放射線検出器10の間の距離、すなわち、溝2の底面(分割体1の放射線測定面)と放射線検出器3の間の距離を検出する。具体的には、距離センサ12から送信されたレーザーで分割体1から反射されたレーザーを距離センサ12が受信し、レーザーを送信してから反射されたレーザーを受信するまでの時間に基づいて、分割体1と放射線検出器10の間の距離が距離センサ12で求められる。回転テーブル5の回転に伴って、放射線検出器10が挿入された溝2の底面の全周に亘って放射線測定が行われる。回転テーブル5が1回転したとき、制御装置13の制御により回転装置が停止され、回転テーブル5が停止する。溝2の底面の周方向における放射線の測定を行っているとき、溝2の底面と放射線検出器10の間の距離は、溝2の底面の周方向において、実質的に一定であり、変化しない。このため、溝2の底面の放射線測定を行っている間、後述のステップS2で求められるバックグラウンド補正データは、同じになる。
【0035】
演算装置12で実行される放射線検出信号の処理を、図4を用いて説明する。放射線検出器10は、放射線を検出することによって光を発生する。光電子増倍管31はこの光を電気信号である放射線検出信号に変えて出力する。この放射線検出信号は、配線21を通って演算装置12に入力される(ステップS1)。距離センサ12によって検出された分割体1と放射線検出器10の間の距離、具体的には、分割体1の放射線測定面と放射線検出器10の間の距離が、配線22によって、演算装置12及び制御装置13にそれぞれ入力される。距離センサ12から入力した距離に基づいて、バックグラウンド補正データを求める(ステップS2)。BGデータベース15に格納されている図5に示す分割体1と放射線検出器10の間の距離とバックグラウンド計数率の関係を示す特性に基づいて、距離センサ12から入力した距離に対応するバックグラウンド計数率を求める。このバックグラウンド計数率がバックグラウンド補正データである。
【0036】
クリアランス対象物の計数率を算出する(ステップS3)。入力した放射線検出信号の計数率を、ステップS2で求めたバックグラウンド補正データ(バックグラウンド計数率)で補正し、補正された計数率を算出する。この補正された計数率の算出は、入力した放射線検出信号の計数率からバックグラウンド補正データを差し引くことによって行われる。演算装置12としては、例えば、マルチチャンネルアナライザー(MCA:多重波高分析器)を用いる。マルチチャンネルアナライザーは、入射した放射線検出信号をカウントし、計数率を求める。
【0037】
換算係数データを求める(ステップS4)。距離センサ12から入力した距離に対応した、計数率(cps)を放射能強度(Bq)に換算する係数を、換算係数データベース16から求める。この計数率(cps)を放射能強度(Bq)に換算する係数が、換算係数データである。クリアランス対象物の放射能強度を算出する(ステップS5)。ステップS3の処理で得られた補正された計数率(cps)を、ステップS4で得られた換算係数データを用いて放射能強度(Bq)に変換する。このようにして、クリアランス対象物である分割体(低圧タービンのローターの一部)1の溝2の底面の一部での放射能強度が求められる。得られた放射能強度が、表示装置18に表示され、必要に応じて、プリンタ19で印字される。
【0038】
回転テーブル5が1回転して停止された後、制御装置13が、移動装置25をガイド部材8に沿って所定幅だけ上昇させ、この状態で回転装置を起動する。回転テーブル5が回転され、溝2の底面で分割体1の軸方向の異なる位置で放射線検出装置10による放射線測定が行われる。回転テーブル5が1回転したとき、再び回転テーブル5の回転が停止される。移動体25の移動及び回転テーブル5の回転を繰り返し、放射線検出器10が挿入された溝2において、溝2の軸方向の幅全体で周方向における放射線測定が終了する。溝2の軸方向の幅全体で周方向における放射線測定において放射線検出器10から出力された各放射線検出信号に対して、上記したように、演算装置12内でステップS1〜S5の各処理が実行される。
【0039】
ステップS3では、具体的に、以下の処理が実行される。
【0040】
ステップS3において、ステップS2で求めたバックグラウンド補正データであるバックグラウンド計数率nを(1)式に代入して、バックグラウンド計数率の変動を考慮した検出限界計数率nDB(cps)が算出される。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、tはクリアランス対象物の放射線測定時間(s)、tはバックグラウンド測定時間(s)、及びrはバッググランド計数率の変動に起因する相対誤差である。
【0043】
(1)式は、クリアランスの判断方法(2005)−日本原子力学会標準、257頁、日本原子力学会(2005/08出版)に記載されている。
【0044】
入力した放射線検出信号の計数率からバックグラウンド補正データを差し引いて得られた計算値が、検出限界計数率nDB以上であるとき、ステップS5の放射能強度の算出は、この計算値と換算係数データを用いて行われる。また、入力した放射線検出信号の計数率からバックグラウンド補正データを差し引いて得られた計算値が、検出限界計数率nDB未満であるとき、ステップS5の放射能強度の算出は、この検出限界計数率nDBと換算係数データを用いて行われる。
【0045】
ある溝2の底面に対する放射線測定が終了した後、例えば、ディスク3の外周面に沿った放射線測定が行われるとする。ディスク3の外周面には、前述したように、複数のディスク溝が形成されている。オペレータが入力装置17に入力した放射線検出器設定指令に基づいて、制御装置13が放射線検出装置6に位置制御信号を出力する。この位置信号に基づいて、横行アーム26が分割体1から遠ざかる方向に移動し、放射線検出器10が、溝2内から引抜かれる。その後、移動体25が下降し、放射線検出器10の先端が、今まで放射線検出器10が挿入されていた溝2の下側に隣接しているディスク3の外周面に対向する位置で、移動体25の下降が停止される。
【0046】
その後、制御装置13が出力した回転制御信号に基づいて回転装置が起動され、回転テーブル5が所定の回転速度で回転する。放射線検出器10が、ディスク3の外周面の放射線を測定する。回転テーブル5の回転に伴って、ディスク3の外周面の放射線測定が、ディスク3の周方向に順次行われる。このときにも、距離センサ11によって、分割体1と放射線検出器10の間の距離、すなわち、ディスク3の外周面(放射線測定面)と放射線検出器10の間の距離が測定される。距離センサ11で測定されたその距離、及び放射線検出器10から出力された放射線検出信号が、演算装置12に入力される。
【0047】
測定された距離及び放射線検出信号を入力した演算装置12は、前述したステップS1〜S5の処理を行う。ディスク3の外周面の放射線測定で得られた放射線検出信号の処理のうち、バックグラウンド補正データを求めるステップS2では、放射線の測定位置によって異なるバックグラウンド補正データが求められる。これは、ディスク3の、ディスク溝が形成されている部分(以下、ディスク溝形成部という)での放射線測定と、ディスク3の、ディスク溝が形成されていない部分(以下、ディスク溝非形成部という)での放射線測定では、放射線検出器10とディスク3(ディスク3の放射線測定面)の間の距離が異なるからである。ディスク溝形成部及びディスク溝非形成部のそれぞれの放射線測定において、放射線検出器10の先端が、ディスク3の半径方向において同じ位置に存在する。
【0048】
距離センサ11で測定された、ディスク溝非形成部での放射線検出器10とディスク3の間の距離をL、ディスク溝形成部での放射線検出器10とディスク3の間の距離をLとする。距離Lは距離Lよりも長くなっている。演算装置12では、ステップS2において、距離Lに対してバックグラウンド補正データであるバックグラウンド計数率nB1が、距離Lに対してバックグラウンド補正データであるバックグラウンド計数率nB2が、BGデータベース15からそれぞれ求められる。また、ステップS4では、距離Lに対応した換算係数データCD1が、距離Lに対応した換算係数データCD2が、換算係数データベース16からそれぞれ求められる。
【0049】
演算装置12は、ステップS3において、ディスク溝非形成部に対する放射線測定で放射線検出器11から出力された放射線検出信号に基づいて得られた放射線計数率nM1をバックグラウンド計数率nB1によって補正する。すなわち、(nM1−nB1)が算出される。(nM1−nB1)が、バックグラウンド計数率nB1を(1)式に代入して求められた検出限界計数率nDB1以上であるとき、ステップ5では、(nM1−nB1)を、換算係数データCD1を用いて変換された放射能強度Ra1が求められる。(nM1−nB1)が検出限界計数率nDB1未満であるとき、ステップ5では、検出限界計数率nDB1を、換算係数データCD1を用いて変換された放射能強度Ra2が求められる。
【0050】
演算装置12は、ステップS3において、ディスク溝形成部に対する放射線測定で放射線検出器11から出力された放射線検出信号に基づいて得られた放射線計数率nM2をバックグラウンド計数率nB2によって補正する。すなわち、(nM2−nB2)が算出される。(nM2−nB2)が、バックグラウンド計数率nB2を(1)式に代入して求められた検出限界計数率nDB2以上であるとき、ステップ5では、(nM2−nB2)を、換算係数データCD2を用いて変換された放射能強度Ra3が求められる。(nM2−nB2)が検出限界計数率nDB2未満であるとき、ステップ5では、検出限界計数率nDB2を、換算係数データCD2を用いて変換された放射能強度Ra4が求められる。
【0051】
演算装置12で求められた各放射能強度は、表示装置18に表示される。
【0052】
本実施例では、クリアランス処理におけるクリアランス対象物の放射線測定において、クリアランス対象物である、低圧タービンのローターの分割体1の、放射線検出器10による放射線検出時に、距離センサ11を用いて放射線検出器10と分割体1の間の距離を併せて測定している。さらに、距離センサ11で測定された、放射線検出器10と分割体1の間の距離に対応したそれぞれのバックグラウンド計数率を求め、このバックグラウンド計数率に基づいて、放射線検出器から出力された放射線検出信号に基づいて得られた計数率を補正しているので、放射線測定時に、放射線検出器10とローターの分割体1との相対的な放射線検出位置が移動した場合に、放射線検出器10と分割体1の間の距離が変化したときでも、分割体1の放射能強度を精度良く求めることができる。
【0053】
したがって、本実施例によれば、放射線測定において放射線検出器10とクリアランス対象物である放射線測定対象物(ローターの分割体1)の間の距離が変化してバックグラウンド計数率が変化する場合でも、放射能の測定精度を向上させることができる。
【0054】
さらに、本実施例は、放射線検出器10とローターの分割体(クリアランス対象物)1の間の距離に基づいて得られたバックグラウンド計数率に基づいて検出限界計数率nDBを求め、距離センサ11で測定された距離に対応したバックグラウンド計数率によって補正された、計測された計数率の補正値が、検出限界計数率nDB未満のとき、検出限界計数率nDBを用いて分割体1の放射能強度を求めている。
【0055】
距離センサ11で測定した距離に対応する換算計数(換算係数データベース16に格納)を用いて放射能強度を求めることによって、以下に述べる効果を得ることができる。放射線検出器10において放射能強度(Bq)が一定の放射線を測定する場合、放射線検出器10の分割体1からの距離が変化する、すなわち、放射線の測定位置が異なると、計数率が変化する。放射線検出器10の分割体1からの距離が短くなると、計数率は高くなり、その距離が長くなると計数率は低くなる。したがって、距離に対応する換算計数が一定では距離が短くなった場合、得られた計数値は高くなり、見かけ上放射能強度は大きな値になる。また距離が長くなったときには、計数値は低くなり、見かけ上放射能強度が小さくなる。よって、測定した距離に対応する換算係数を用いることによって、より正確な放射能強度が得られる。
【0056】
低圧タービンのローターのように大型機器をクリアランス処理する場合に放射線計測を行うとき、前述したように、ローターの分割体1が自然界の放射線を遮へいする関係上、放射線検出器10で計測されるバックグラウンド計数率は、自然界で測定される放射線計数率と比べて非常に小さい値である。しかしながら、前述したように、計測された計数率の補正値が、検出限界計数率nDB未満のとき、検出限界計数率nDBを用いて分割体1の放射能強度を求めているので、クリアランス処理における放射線測定の検出限界値を低下させることができる。
【0057】
シンチレータである放射線検出器10の替りに半導体放射線検出器を用いてもよい。半導体放射線検出器を用いる場合には、光電子増倍管31が用いられない。
【0058】
本実施例のクリアランス放射能測定方法は、加圧水型原子力プラント等の他の原子力プラントに用いられる大型構造物のクリアランス処理における放射線測定にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、沸騰水型原子力プラント及び加圧水型原子力プラント等の原子力プラントで発生するクリアランス対象物の放射線測定に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…分割体(クリアランス対象物:ローター)、3…ディスク、4…クリアランス放射線測定システム、5…回転テーブル、6…放射線検出装置、7…支持台、8…ガイド部材、10…放射線検出器、11…距離センサ、12…演算装置、13…制御装置、14…記憶装置、15…バックグラウンドデータベース、16…換算係数データベース、18…表示装置、25…移動体、26…横行アーム、27…支持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸形状が存在するクリアランス対象物から放出される放射線を放射線検出器で測定し、この放射線測定時において、前記クリアランス対象物と前記放射線検出器の間の距離を距離測定装置で測定し、測定された前記距離に基づいてバックグラウンド計数率を求め、このバックグラウンド計数率を用いて、前記放射線を測定した前記放射線検出器から出力された放射線検出信号により得られた計数率を補正し、補正された前記計数率を用いて放射能強度を算出することを特徴とするクリアランス放射線測定方法。
【請求項2】
前記バックグラウンド計数率は、前記測定された距離、及び予め求めた前記距離と前記バックグラウンド計数率の相関関係に基づいて求められる請求項1に記載のクリアランス放射線測定方法。
【請求項3】
前記放射能強度の算出は、前記測定された距離に基づいて求められた、計数率を放射能強度に換算する換算係数、及び前記補正された計数率を用いて行われる請求項1または2に記載のクリアランス放射線測定方法。
【請求項4】
クリアランス対象物から放出される放射線を測定する放射線検出器と、前記クリアランス対象物と前記放射線検出器の間の距離を測定する距離測定装置と、測定された前記距離に基づいてバックグラウンド計数率を求め、このバックグラウンド計数率を用いて、前記放射線を測定した前記放射線検出器から出力された放射線検出信号により得られた計数率を補正し、補正された前記計数率を用いて放射能強度を算出する演算装置とを備えたことを特徴とするクリアランス放射線測定システム。
【請求項5】
前記距離と前記バックグラウンド計数率の相関関係を示す情報を記憶している記憶装置と、前記バックグラウンド計数率を、前記距離測定装置から入力される前記距離、及び前記距離と前記バックグラウンド計数率の相関関係を示す前記情報に基づいて求める前記演算装置とを備えた請求項4に記載のクリアランス放射線測定システム。
【請求項6】
計数率を放射能強度に換算する換算係数を記憶する前記記憶装置と、前記放射能強度の算出を、前記距離測定装置から入力される距離に基づいて求められる前記換算係数、及び前記補正された計数率を用いて行う前記演算装置とを備えた請求項5に記載のクリアランス放射線測定システム。
【請求項7】
前記放射線検出器を走査する走査装置と、前記クリアランス対象物が載せられる回転テーブルとを備えた請求項4ないし6のいずれか1項に記載のクリアランス放射線測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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