説明

クリソタイル変性物の製造方法

【課題】 天然及び使用済みクリソタイルを反応分解して無害化し、更には再利用できる無害化したクリソタイル変性物の製造方法を提供。
【解決手段】 本発明のクリソタイル変性物の製造方法は、反応器に天然または使用済みのクリソタイル、低級アルコール、水及びアルカリを投入して該低級アルコールが超臨界流体にある状態下で反応させた後に、該反応物を該臨界状態から大気圧下に解放しつつ再形成することを特徴とし、またそれによって得られる無害化させたクリソタイル変性物の製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリソタイル変性物の製造方法に関するものであり、より詳細には、アスベストとして使用される天然又は使用済みクリソタイルを無害化し、更には再利用可能にできるようにするクリソタイル変性物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にアスベストは、その繊維状形状から、絡まることによる強靭性があり、軟らかく、耐熱、耐磨耗性に優れているため、ボイラーパイプの被覆、自動車ブレーキ、建材等機船性の面から応用範囲は広い。また、アスベストは、天然に産する鉱物繊維のことで、労働、大気環境に関する定義では、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライトおよびアクチノライトの6種をいう。
アスベストは、現在使用禁止され、回収、廃棄作業が全国で行われている。アスベストは健康被害を及ぼすことが分かっている。吸入性アスベスト粉塵は一般に、径が3μm未満で、アスペクト比が3以上のものである。また、対象となるアスベストとしては、これらのなかで最も広範囲に使用されているクリソタイルである。このような健康被害をなくすための努力はいろいろなされてきた。
【0003】
その一つとして、クリソタイル又はクリソタイル含有蛇紋岩を酸分解して得た、繊維形状を保持するシリカ質フィラー等が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。このようにして得られる蛇紋岩及び石綿を分解して得られるシリカは、酸分解によりクリソタイルが非晶質化して繊維状に形成される方法である。しかしながら、元の構造(クリソタイルの構造)を保持し、中空繊維構造を有している。このため、作業上、繊維形状のものから微粉状のクリソタイルが飛散する虞があり、クリソタイルによる本質的な健康被害を十分に除いたことにはならない。
【0004】
また、クリソタイルの無害化をする方法として、石綿を含む被処理物質に、Si、Caおよび/またはAlを含む物質を、下記条件を満たすように添加し混合し、得られた混合物を400℃〜1200℃で加熱処理する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。その添加条件は前記被処理物質におけるMgとSiのモル比をMg/Si≦0.5に、かつCaとSiのモル比を0.5≦Ca/Si≦2.0に調整するものであり、このときモル比においてCa/Si≧1.3であればAl質量%≧((Ca/Si)×0.357−0.464)×100となるように前記Alを含む物質を添加するものである。この方法は、成分変更するものとして一定の評価がなされ、アスベスト製品に対する処理として有効と見られている。
【特許文献1】特開2004−075531号公報
【特許文献2】特開2003−094006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの先行技術とは根本的に異なり、天然及び使用済みクリソタイルを反応分解して無害化し、更には再利用できる無害化したクリソタイル変性物の製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
本発明は以下のような着想に基づいてなされたものである。クリソタイルは、化学組成式がMgSi10(OH)で表され、図1に示すように、酸素と珪素が格子を組んだ八面体層と、テトラパックの形をした四面体層という層状構造の配列が異なる二つの層が積み重なっている。そして、天然のものでは、四面体層を内側にしてカールし、バームクーヘンのような断面形状のクリソタイル・チューブを作る。しかもその大きさは0.02〜0.03μm程度という径である。本発明者はこのような構造では外力が加わることで容易に微粉になりやすいものと考えられるので、一度、このような結晶構造を壊し、別な構造にする方法がないだろうかと考えたものである。その方法として、アルカリを含む低級アルコール中で、且つ該低級アルコールの超臨界状態で天然又は使用済みクリソタイルを反応させ、これをかかる状態から大気圧下に一気に解放して再形成、特に、一定のノズル径から繊維状に噴出させてパネルなどに吹き付けすることにより、微細粒子の発生の殆どない無害化できるものができることを見出し、本発明に至ったものである。
ここで、「大気圧下に解放する」とは、低級アルコールの超臨界状態から一気に1気圧にすることが一般的であるが、ここでは本発明の目的を達成する限り、ノズルなどから成形可能な背圧を十分に受ける状態の低圧力下状態を含むものである。また、大気下に開放する際の温度は規定しないが、一般に室温である。尚、超臨界流体とは、臨界点以上の温度・圧力下においた物質の状態である。
即ち、本発明のクリソタイル変性物の製造方法は、以下の構成又は構造を特徴とするものである。
【0007】
(1).反応器に天然または使用済みのクリソタイル、低級アルコール、水及びアルカリを投入して該低級アルコールが超臨界流体にある状態下で反応させた後に、該反応物を該臨界流体から大気圧下に解放して成形することを特徴とするクリソタイル変性物の製造方法。
【0008】
(2).上記超臨界状態から反応物を解放する際に、クリソタイルを非積層構造に形成する上記(1)記載のクリソタイル変性物の製造方法。
(3).上記超臨界状態から反応物を解放する際に、最小径が3μm以上のノズルを通して成形するか、若しくは、ノズル径を限定されないノズルから被吹付面に吹き付けた後、被吹付面から剥離して網目状シートに成形する上記(1)又は(2)に記載のクリソタイル変性物の製造方法。
(4).上記低級アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアルコールである上記(1)〜(3)の何れかに記載のクリソタイル変性物の製造方法。
(5).上記(1)記載の製造方法により得られるクリソタイル変性物。
(6).最小径が3μm以上の範囲にある繊維状に成形された上記(5)記載のクリソタイル変性物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクリソタイルの処理方法によれば、天然のクリソタイルでは単繊維径の大きさが0.02〜0.03μmであり、その物理的性質と相侯って、空気中に浮遊し、毒性が高くて人間の健康を害していたが、本発明においては、クリソタイル変性物の成形物の形状を自由に変えられ、微粉化されにくい形状とすることができる。例えば、その成形形状が繊維であれば、少なくとも3μm以上にも10μm以上の径にすることも可能である。同様に断面が楕円形とか扁平状のものであれば、その平均口径を3μm以上にも10μm以上とすることも可能である。3μm以上とすることで微粉になりにくくすることができるとともに、仮に微粉になるとしても肺胞に達しないので人体に安全である。更に10μm以上であれば鼻孔で除去されるからより一層安全である。また、ノズルから噴出させた形状が繊維であり、その径が3μm以下の場合でも、パネルに噴きつけ、パネルから剥がすことで網目状繊維シートとすることができる。シートにすることで微粉化せず、人体に安全である。なお、反応生成物の超臨界時の低級アルコールへの溶解性が高いため、その後の塗布処理に好適である。
【0010】
更に、超臨界水による反応と比べて、臨界温度、臨界圧力を低くすることができ、処理プラント及び処理費用を軽減することができる。また、超臨界水を用いる場合にはケイ酸、水酸化マグネシウムとなり、固着による問題をもたらすが、本発明による製造方法ではそのような問題をもたらさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明のクリソタイル変性物の製造方法の実施形態のフローを示す概略図である。図2はクリソタイルの化学構造式を示す概略図である。図3は、メタノールの超臨界状態でのクリソタイルの分解概要を示す化学反応式の図である。
尚、本発明のクリソタイル変性物の製造方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0012】
本発明のクリソタイル変性物の製造方法は、反応器に天然または使用済みのクリソタイル、低級アルコール、水及びアルカリを投入して該低級アルコールが超臨界流体にある状態下で反応させた後に、該反応クリソタイル液を該臨界状態から大気圧下に解放しつつ、クリソタイルを変性物を形成するものである。
【0013】
反応器は、低級アルコールの臨界状態におくことができるものであれば、フロー式の反応系であっても、バッチ式の反応系でも良く、本実施形態では、図1に示すようにパイロットレベルでの高温高圧に耐えうる超臨界反応槽が使用される。クリソタイル変性物を直接大気下に解放することから、その設備として反応槽に直接ノズル機構を設けることが好ましい。
使用済みクリソタイルは、アスベスト製品の回収物等であり、天然又は使用済みクリソタイルは適宜裁断処理して反応器に投入される。
クリソタイルは、蛇紋石族であり、鉱物学的にはフィロケイ酸塩鉱物に属し、その構造は図2に示すようなものである。この化学組成からわかるように、ケイ素の比率が少なくマグネシウムが多いことから軟らかさが発現する。
クリソタイルは、酸素と珪素が格子を組んだ八面体層と、テトラパックの形をした四面体層という層状構造の配列が異なる二つの層が積み重なっている。しかも、四面体層を内側にしてカールするために、バウムクーヘンのような断面のクリソタイル・チューブを形成する。クリソタイルは単繊維化し易く、その繊維径の大きさが0.02〜0.03μmである。このため、非常に微細な結晶になりやすい性質がある。このことが空気中に浮遊するようなものとなる。
【0014】
反応器(超臨界反応槽)には図1に示すように、処理原料である天然又は使用済みクリソタイルと、低級アルコールと、水と、触媒としてのアルカリとが投入される。これらの量は、クリソタイルの平均化学組成から算出されたMg原子に対するモル当量で現すことができる。
水はMgモル当量当たり、1〜200倍モル当量、好ましくは10〜100倍モル当量、特に好ましくは30〜50倍モル当量である。また、低級アルコールは、100〜3000倍モル当量、好ましくは1000〜2000倍モル当量、特に好ましくは1200〜1500倍モル当量である。アルカリは水量と上記Mg量とに応じて適宜投入される。
低級アルコールとしては、炭素数が1〜6の範囲にあるアルコール、好ましくは1〜4の範囲にあるアルコールであり、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどを挙げることができ、特に、メタノールが好ましい。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の一般的なアルカリ触媒を挙げることができる。
【0015】
反応器内における反応温度及び圧力は、低級アルコールが超臨界流体の状態下にあることである。超臨界流体とは、臨界点以上の温度・圧力下においた物質の状態のことである。従って、具体的には、メタノールにあっては、温度239.4℃以上、圧力8.09MPa(79.8atm)以上であり、エタノールにあっては、温度240.7℃以上、圧力6.14MPa(60.6atm)以上である。従って、低級アルコールにあっては、温度が241℃以上、圧力8.1MPa以上が好ましい。より好ましくは、温度が250℃〜370℃の範囲であり、圧力は10〜30MPaの範囲、更に好ましくは21〜25MPaの範囲である。上記温度が370℃を超えると水も超臨界流体となり、反応設備も大掛かりとなる。また、圧力が30MPaを超えると上記反応温度と相まって設備的にコスト面で問題が生じてくる。また、圧力と温度によっても違うが、水は亜臨界水あるいはドライスチーム状態となる。ここで亜臨界水は、水の臨界圧力(22.06MPa)以上で臨界温度370以下の状態の水を指し、一般に、250〜350℃,22MPa以上の水を指す。亜臨界水のイオン積は常温常圧の水と比較して約30倍と高い状態になることで反応が促進される。反応時間は、フロー系、バッチ系に限らず、クリソタイルが溶解してその結晶構造が分解すれば良く適宜設定でき、クリソタイルが少なくとも溶解してから1分間以上置くことが良い。
【0016】
本発明ではクリソタイル変性物を低級アルコールの臨界状態から大気圧下に解放しつつ再形成するものである。上述したように、「大気圧下に解放する」とは、低級アルコール超臨界状態から一気に1気圧にすることが一般的であるが、ここでは本発明の目的を達成する限り、ノズルなどから成形可能な背圧を十分に受ける状態の低圧力化状態を含むものである。また、大気圧下の温度は規定しないが、一般に室温であるが、実際には水が液化する温度100℃以下の雰囲気であれば可能である。
【0017】
本実施形態では、図1に示すように反応器はノズル機構を有し、直接、閉鎖系塗装処理槽或いはブースにノズルを配置して上記大気圧下の上述した温度で再成形することができる。例えば一定のノズル径より被塗装面に吹き付ければ、塗装面においてはクリソタイル反応液がクリソタイル変性物を析出した状態で吹き付けられる。吹き付けられたクリソタイル変性物は繊維状で被塗装面に色々な角度で堆積され、網目状に形成される。その際、メトキシケイ素およびメトキシマグネシウム部位は、速やかに分解縮合反応を起こし、オリゴマ状の各所で近くのオリゴマと架橋し共有結合状態となる。また、被塗装面が例えばポリテトラフルオロエチレンのような非接着性樹脂板とか金属板のような非接着性板に吹き付ければ、吹き付け後、非接着性板から簡単に剥がすことができ、単独成形板とか薄膜体を得ることができる。
【0018】
また、ノズルから放射しつつ巻き取れば、繊維状のものが得られる。その繊維を適宜の長さに切断し、結合剤とともに抄紙することでシート状のものが得られる。さらにノズルの形状を適宜変えることで、種々の形状の成形物が得られる。
例えば、ノズル断面を扁平にすることで、フィルム、板状成形物にすることができ、ノズル断面を角形にすることで角材が得られる。
この場合、ノズルの径は、最小径は3μm以上、中でも5μm以上、特に10μm以上であることが好ましい。ノズルの最小径が3μm以上であれば、人体への吸引が物理的に困難となり無害化に寄与する。ここで、ノズルの最小径とは、開口が真円形状であれば問題ないが、例えば、楕円形状、又は長方形状の場合は、その短径又は短辺の長さをいう。なお、ノズルの最大径は成形ができる限り、特に制限されるものではない。
【0019】
図1に示すように、閉鎖系塗装処理槽は低級アルコールの回収が成され、低級アルコールの回収塔及び貯蔵槽を介して、再び、反応器へ投入される。
【0020】
このように構成されるクリソタイル変性物の製造方法では、先ず、超臨界反槽に天然又は使用済みのクリソタイルが投入され、低級アルコール及び水、更に触媒としてのアルカリが投入されて、該低級アルコールの超臨界状態に置かれる。これにより、図3に示すような反応式により、クリソタイル中のケイ素及びマグネシウム原子にMeO(MeはCH又はその他のアルコールのアルキル部分)が攻撃し、繊維状クリソタイル表面でメトキシケイ素およびメトキシマグネシウムとなって解離する。
【0021】
またクリソタイル自体も上記反応によってオリゴマに全部又は大部分分解している。これらのオリゴマは超臨界流体中において溶解状態を形成するので、クリソタイルが低級アルコールの超臨界状態においてオリゴマの一部が分解しないとしても、そのものは超臨界流体中においてノズルを通じて大気圧下に噴射して一定の形状、例えば繊維状に成形することが可能な状態にある。このことから、一部がオリゴマでなくても超臨界状態では溶解状態にあるとすることができる。また、この状態では圧力と温度によっても違うが、水が亜臨界水あるいはドライスチーム状態となる。亜臨界水のイオン積は常温常圧の水と比較して約30倍と高い状態になるため、上記反応が一層促進される。
【0022】
超臨界流体中に溶解したクリソタイル又はクリソタイルオリゴマーは、その超臨界状態から大気圧下に開放することにより、急激な圧力の低下でアルコールに対する溶解性が低下する。その過程で任意の形状に成形することができる。例えば、上述した一定のノズル径より被塗装面に吹き付ければ、塗装面においては反応溶液からクリソタイルが析出した状態で吹き付けられる。吹き付けられた繊維は被塗装面で色々な角度で堆積されるため、網目状に形成される。
【0023】
その際、メトキシケイ素およびメトキシマグネシウム部位は、速やかに分解縮合反応を起こし、その析出時での積層構造も阻害されることが期待される。これは、後述する実施例で見られるように、従来のクリソタイルのように網目構造などに形成したパネル等から微粉末のクリソタイルの飛散が殆ど見られなかったことからもうかがえる。
また、成形されたクリソタイルの繊維状物の構造を電子顕微鏡で観察したところ、クリソタイルの中空糸の単繊維形状は天然のクリソタイルに比べて殆ど見られず、積層構造も見られなかった。
【0024】
また、網目状に堆積形成させる際、オリゴマ状の各所で近くのオリゴマと架橋し共有結合状態となる。このため、被塗装面が例えばポリテトラフルオロエチレンのような非接着性樹脂板とか金属板のような非接着性板に吹き付ければ、吹き付け後、非接着性板から簡単に剥がすことができ、強靱な単独成形板とか薄膜体を得ることができる。
ノズルから放射しつつ巻き取れば、繊維状のものが得られる。その繊維を適宜の長さに切断し、結合剤とともに抄紙することでシート状のものが得られる。さらにノズルの形状を適宜変えることで、種々の形状の成形物が得られる。
【0025】
更に、ノズルの最小径を上記範囲とした場合、クリソタイル繊維自身は人体への吸収が阻害され、確実に健康被害原因を排除し得る。従って、クリソタイルでは単繊維径の大きさが0.02〜0.03μmであり、自由に大きさを変えることが出来ず、その物理的性質と相侯って、空気中に浮遊して人間の健康を害していたが、本発明においてはノズルの形状を適宜変えることで人間の健康を害さない形状にすることができる。
【0026】
また、上述したように、超臨界水による反応と比べて、低級アルコールの臨界温度、臨界圧力程度に低くすることができ、処理プラント及び処理費用を軽減することができる。また、超臨界水のみを用いる場合にはケイ酸、水酸化マグネシウムが生成し易くなり、固着による問題をもたらすが、本発明による方法ではそのような問題をもたらさない。さらに、生成物の超臨界アルコール液体の溶解性が高いため、その後の塗布処理に好適である。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例を図1に従って説明する。
先ず、図1に示すように、クリソタイル1kgを、内容積が100リットルであり、側面に50μmφのノズル状排出口を有し、攪拌機に直結した攪拌羽根を装備した超臨界反応槽に投入した。
これにメタノール47kg、水1kg、NaOH10gを加え、攪拌しながら300℃まで加熱した。このときの圧力は23MPaであった。15分間この状態で撹拝を続けた。その後、反応槽側面のノズルを開放し、常圧、25℃の閉鎖系塗装処理槽内に噴きつけた。
【0028】
閉鎖系塗装処理槽内にはテフロン(登録商標)板が移動できるようになっており、ノズルからの噴射液が直角にかつ満遍なく当たるようになっている。テフロン(登録商標)板の大きさは500mm×500mm、厚さ10mmである。反応槽内の圧力が15MPaとなったところで、噴射を止めた。その後、30分間放置した後、テフロン(登録商標)板を取り出した。このとき閉鎖系塗装処理槽下部に、20kgのメタノールが貯蔵されていた。
【0029】
テフロン(登録商標)板の表面から、クリソタイル変性物でできた布状物を剥がした。布状物の平均厚みは3mmであった。布を形成する構造は、柔軟性のある繊維状あるいは扁平状のものが複雑に絡み合う網目状構造であり、ちょうど畳鰯のような形状であった。
これを破砕したところ、繊維あるいは扇平中央あたりで大きな塊として破壊され、網目部分での剥離破砕は見られず、クリソタイルの微粉状のものは生じなかった。構造物の蛍光X線元素分析を行ったところ、クリソタイルと同様の化学組成を有していた。また、得られた布の耐熱、断熱性能もアスベストと同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のクリソタイル変性物の製造方法によれば、健康を損ねるアスベストを無害なものにすることができ、また、製品として再利用もできる産業利用可能性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明のクリソタイル変性物の製造方法の実施形態のフローを示す概略図である。
【図2】図2はクリソタイルの化学構造式を示す概略図である。
【図3】図3は、メタノールの超臨界状態でのクリソタイルの分解概要を示す化学反応式の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器に天然または使用済みのクリソタイル、低級アルコール、水及びアルカリを投入して該低級アルコールが超臨界流体にある状態下で反応させた後に、該反応物を該臨界流体から大気圧下に解放して成形することを特徴とするクリソタイル変性物の製造方法。
【請求項2】
上記超臨界状態から反応物を解放する際に、クリソタイルを非積層構造に形成する請求項1記載のクリソタイル変性物の製造方法。
【請求項3】
上記超臨界状態から反応物を解放する際に、最小径が3μm以上のノズルを通して成形するか、若しくは、ノズル径を限定されないノズルから被吹付面に吹き付けた後、被吹付面から剥離して網目状シートに成形する請求項1又は2に記載のクリソタイル変性物の製造方法。
【請求項4】
上記低級アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアルコールである請求項1〜3の何れかに記載のクリソタイル変性物の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の製造方法により得られるクリソタイル変性物。
【請求項6】
最小径が3μm以上の範囲にある繊維状に成形された請求項5記載のクリソタイル変性物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−22890(P2010−22890A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183831(P2008−183831)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(504229815)株式会社CDMコンサルティング (12)
【Fターム(参考)】