説明

クリップおよび該クリップを備えたワイヤハーネス

【課題】テープ巻きとパッキン部材とを廃して安価で小型に形成されたクリップおよび該クリップを備えたワイヤハーネスを提供する。
【解決手段】クリップ2は、本体部7と、前記本体部7から立設して設けられ且つ少なくとも一方の面に粘着性を有する粘着材33bが設けられて該一方の面同士を貼合して電線51を保持する粘着シート3に開孔された取付孔35に挿通される挿通部18と、前記取付孔35に挿通された前記挿通部18に係合し且つパネル41に開孔された係合孔43に係合する係合部8と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ巻きとパッキン部材とを廃して安価で小型に形成されたクリップおよび該クリップを備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、種々の電子機器と電装品とが搭載されている。これらの電子機器と電装品とにバッテリなどの電源等からの電力や制御装置からの制御信号などを伝達する手段として、ワイヤハーネスが用いられている。
【0003】
ワイヤハーネスは、自動車等の車体を構成するパネルに所要の配索形態で配索されている。ワイヤハーネスは、複数本の電線と、前記複数本の電線を前記パネルに取り付けるクリップとを備えている。
【0004】
クリップは、前記パネルに開孔された係合孔に係合可能に形成された係合部を備えている(例えば、特許文献1など参照。)。特許文献1などに示されたクリップは、クリップ本体と、前記クリップ本体から立設された係合突起と、前記クリップ本体から前記係合突起の立設方向に向かって開口する浅皿状に形成された押え部と、前記押え部に設けられたパッキン部材と、前記電線に捲回されるワイヤハーネス用テープ等が巻かれるテープ巻き部と、を備えており、前記パッキン部材によって前記係合孔を封止して該係合孔からの液体の浸入を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−290974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1などに示された従来のクリップは、テープ巻きによって電線に固定されるため、電線とテープ巻き部とをテープ巻きするワイヤハーネス用テープ等の費用がかかるという問題があった。
【0007】
また、従来のクリップは、テープ巻きによって電線に固定するためのテープ巻き部が設けられているため、小型化できないという問題があった。
【0008】
また、従来のクリップは、係合孔からの液体の侵入を防ぐパッキン部材が設けられているため、パッキン部材に費用がかかるという問題があった。
【0009】
また、従来のクリップは、パッキン部材を取り付ける取付作業に時間と手間とがかかるという問題があった。また、パッキン部材の取付作業の費用がかかるという問題があった。
【0010】
本発明は、かかる問題を解決することを目的とするものである。即ち、本発明は、テープ巻きとパッキン部材とを廃して安価で小型に形成されたクリップおよび該クリップを備えたワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、本体部と、前記本体部から立設して設けられ且つ少なくとも一方の面に粘着性を有する粘着材が設けられて該一方の面同士を貼合して電線を保持する粘着シートに開孔された取付孔に挿通される挿通部と、前記取付孔に挿通された前記挿通部に係合し且つパネルに開孔された係合孔に係合する係合部と、を備えていることを特徴とするクリップである。
【0012】
請求項2に記載された発明は、前記本体部には、該本体部から延長して設けられ且つ前記粘着シートに係止される係止部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のクリップである。
【0013】
請求項3に記載された発明は、前記本体部には、前記挿通部に係合された係合部が前記パネルの前記係合孔に係合された際に、前記本体部から膨出して設けられ且つ前記粘着シートの前記取付孔の周縁部を前記パネルに押し当てる膨出部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクリップである。
【0014】
請求項4に記載された発明は、前記係合部が、前記取付孔に挿通された前記挿通部に係合した際に、前記粘着シートを前記本体部に押圧することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のクリップである。
【0015】
請求項5に記載された発明は、前記粘着シートの粘着材が、自己粘着性を有する自己粘着材とされることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のクリップである。
【0016】
請求項6に記載された発明は、電線と、少なくとも一方の面に前記粘着材が設けられているとともに該一方の面同士を貼合して前記電線を保持した粘着シートと、前記電線を保持した前記粘着シートに取り付けられたクリップと、を備え、前記クリップが、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のクリップであることを特徴とするワイヤハーネスである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載された発明によれば、クリップは、取付孔に挿通された挿通部に係合し且つパネルに開孔された係合孔に係合する係合部を設けたため、本体部と前記係合部との間に粘着シートを保持できる。このため、電線が保持された粘着シートをクリップで保持してパネルに固定することができる。よって、電線とクリップとに捲回されるワイヤハーネス用テープ等を廃止して、費用を削減することができる。
【0018】
また、クリップは、本体部と係合部との間に粘着シートを保持できるため、ワイヤハーネス用テープ等が捲回されるテープ巻き部を廃止できる。このため、テープ巻き部を削除して、クリップを小型化することができる。
【0019】
また、クリップは、本体部と係合部との間に粘着シートを保持できるため、粘着シートにクリップを保持した状態で、前記粘着シートの粘着材が設けられた一方の面同士を貼合して電線を保持することができる。よって、作業性を向上することができる。
【0020】
請求項2に記載された発明によれば、クリップは、粘着シートを係止部で係止するため、パネルと係止部との間で前記粘着シートを確実に係止して保持することができる。
【0021】
請求項3に記載された発明によれば、クリップは、粘着シートの取付孔の周縁部をパネルに押し当てる膨出部を設けたため、膨出部によって粘着シートがパネルに押圧されて、前記パネルの係合孔の周縁部に前記粘着シートを密着することができる。このため、前記係合孔から液体が浸入することを確実に防止できる。よって、パッキン部材を廃止して、クリップの費用を抑えることができる。
【0022】
また、クリップは、パッキン部材を廃止するため、パッキン部材を取り付ける取付作業が不要となり、その取付作業にかかっていた時間と手間とを削減することができる。また、パッキン部材の取付作業にかかっていた費用を削減して、クリップの費用を抑えることができる。
【0023】
また、クリップは、本体部に設けた膨出部で粘着シートの取付孔の周縁部をパネルに押し当てるため、浅皿状に形成されてパネルを押さえる押え部を廃止することができる。このため、クリップの構成を簡略化することができ、クリップの費用を抑えることができる。
【0024】
請求項4に記載された発明によれば、クリップは、本体部と係合部との間に粘着シートを押圧しながら狭持できるため、粘着シートに保持されるクリップの保持力を向上することができる。
【0025】
また、クリップは、本体部と係合部との間に粘着シートを押圧しながら狭持できるため、前記粘着シートと本体部とを密着させて隙間を小さくできる。このため、パネルの取付孔からの液体の浸入を防止して、防水性を向上することができる。
【0026】
また、クリップは、本体部と係合部との間に粘着シートを押圧しながら狭持できるため、粘着シートにクリップを保持することができる。このため、粘着シートにクリップを保持した状態で、前記粘着シートの粘着材が設けられた一方の面同士を貼合して電線を保持することができる。よって、作業性を向上することができる。
【0027】
請求項5に記載された発明によれば、クリップは、自己粘着性を有する自己粘着材を有する粘着シートとしたため、前記粘着シートの自己粘着材の面同士を貼合するまでは、前記クリップおよび電線が前記粘着シートに強固に粘着されない。このため、前記クリップおよび前記電線の配置などの調整を容易に行うことができる。よって、作業性をさらに向上することができる。
【0028】
請求項6に記載された発明によれば、ワイヤハーネスは、前述のクリップを設けたため、粘着シートとクリップとの保持力を向上できるとともに該粘着シートとクリップとの防水性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかるワイヤハーネスの構成を説明する斜視図である。
【図2】図1に示すワイヤハーネスのII−II矢視断面図である。
【図3】図1に示すワイヤハーネスのIII−III矢視断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態にかかるワイヤハーネスのクリップの斜視図である。
【図5】図4に示すクリップを分解した状態を示す斜視図である。
【図6】粘着シートの構成を説明する斜視図である。
【図7】本発明の第二の実施形態にかかるワイヤハーネスのクリップの斜視図である。
【図8】図7に示すクリップのVII−VII矢視断面図である。
【図9】本発明の第三の実施形態にかかるワイヤハーネスのクリップの断面図である。
【図10】本発明の第三の実施形態にかかるワイヤハーネスのクリップが取り付けられる粘着シートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
【0031】
(第一の実施形態)
本発明の一実施形態にかかるワイヤハーネス1は、図1に示すように、複数本の電線51からなる電線束4と、前記電線束4を保持する粘着シート3と、パネルの41の係合孔43(図2に示す)に係合可能に形成されたクリップ2と、を備えている。
【0032】
電線束4は、粘着シート3の長手方向Xに沿って配線された複数本(図示例では、10本)の電線51で構成されている。電線束4は、前記複数本の電線51が、前記粘着シート3の短手方向Yの略同一平面上に並んで形成されている。なお、電線束4は、図示例の形状の他に、複数本の電線51を円形状や楕円形状などに配して形成しても良い。
【0033】
電線51は、図2に示すように、導電性の芯線53と、絶縁性の被覆部55とを備えている。芯線53は、複数本の導線が撚られて形成されている。導線は、銅や銅合金などの導電性の金属から構成されている。被覆部55は、ポリ塩化ビニル樹脂、あるいは、ノンハロゲン樹脂組成物としてのポリエチレン樹脂などの絶縁性の合成樹脂などから構成されている。被覆部55は、前記芯線53の外表面に設けられて該芯線53を被覆している。このため、電線51の外表面は、前記被覆部55の外表面となっている。なお、芯線53は、一本の導線から構成されても良い。
【0034】
粘着シート3は、図6に示すように、一枚の長方形状のシート状に形成されたシート部材33からなる。粘着シート3は、保持する電線51の長手方向が長尺に形成されている。
【0035】
シート部材33は、図2に示すように、複数本(図示例では、10本)の電線51の周囲に設けられている。シート部材33は、折り曲げられた折曲部37と、両端側同士が貼り合わされた貼合部39と、が形成されており、長手方向Xの両端側からで前記電線51が導出されている。シート部材33は、電線51を保持した状態で折り曲げられる程度の厚さDに形成されている。シート部材33は、基材33aと、前記基材33aの一方の面に設けられた粘着材33bと、前記基材33aと前記粘着材33bとに挟まれて設けられた図示しない発泡材と、を備えている。
【0036】
シート部材33には、図6に示すように、複数(図示例では、3つ)の一対の取付孔35が設けられている。なお、シート部材33は、図示した一枚のシート部材33を折り曲げて電線51を保持する他に、二枚のシート部材33の間に電線51を配して保持しても良い。
【0037】
なお、本発明でいう、粘着シートとは、少なくとも一方の面に両面テープや接着剤、接着剤などの粘着性を有する部材が設けられて、前記一方の面同士を貼合して電線を保持することができるものをいう。このため、ある程度の厚みと弾性とを有する一般的な粘着シートであれば、用いることができる。従って、本実施形態で示した粘着シート3は、一例としての構成を示したものである。
【0038】
貼合部39は、前記シート部材33の粘着材33b同士が貼り合わされた状態で外部から圧力が加えられて固着して形成されている。折曲部37は、前記シート部材33が折り曲げられるとともに前記粘着材33b同士が貼り合わされて固着されて形成されている。
【0039】
基材33aは、クラフト法によって製造されて高強度を有するクラフト紙から構成されている。なお、基材33aは、クラフト紙の他に、電線51の線径や本数などに応じて適宜変更可能であって、一例として、合成樹脂シート、合成樹フィルム、ゴムシート、不織布などから適宜選択される。
【0040】
粘着材33bは、前記発泡材に塗布されて形成されている。粘着材33bは、自己粘着性を有する自己粘着材とされている。自己粘着材としての粘着材33bは、天然ゴムラテックス、合成イソプレンラテックス、アクリル共重合ラテックス、アクリル変性ラテックス、酢酸ビニル共重合ラテックス、酢酸ビニル変性ラテックス、スチレン・ブタジエンゴム系ラテックスなどから適宜選択される。
【0041】
なお、本発明でいう、自己粘着性とは、自己以外の部材に当接した際には粘着性が殆ど得られないが、自己の粘着面同士が当接した際には良好な粘着性が発揮される性質をいう。このような自己粘着性は、一般に感圧性を有し、外部から圧力を加えると粘性流動し、前記圧力を解除すると固着する材料特性を有している。
【0042】
発泡材は、一例として、100倍発泡されたポリウレタンフォームから構成されている。なお、発泡材は、ポリウレタンフォームの他に、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ゴムスポンジなどの発泡体が使用され、最適な発泡倍率が適宜選択される。
【0043】
一対の取付孔35は、長手方向Xに沿って互いに間隔Lをあけて設けられている。取付孔35は、クリップ2の挿通部18の形状に沿って長円形状に形成されている。取付孔35は、長円形状の長軸側が前記シート部材33の短手方向Yに対して平行する方向、即ち、前記長軸側が前記シート部材33の長手方向Xに対して直交する角度Aとされている。なお、取付孔35は、長円形状の長軸側が前記シート部材33の長手方向Xに対して平行する方向、即ち、前記長軸側が前記シート部材33の短手方向Yに対して直交する角度とされても良い。
【0044】
なお、取付孔35は、前記クリップ2の取付位置に該クリップ2が取付可能に開孔されていればよいため、前記間隔Lと角度Aとは、自由に設定することができる。また、一対の取付孔35は、前記一対の挿通部18が挿通可能に開孔されていればよいため、長円形状の他に、楕円形状や円形など、止水性が低下しない形状であればどのような形状であっても良い。
【0045】
なお、一対の取付孔35は、前記シート部材33に電線51が円形状に保持される場合には、前記長軸側が前記長手方向Xに対して平行する方向に開孔しても良い。この場合には、後述するクリップ2の係止部12の延長方向が前記長手方向に対して平行する方向となるため、円形状に保持される電線51の外形に沿って前記シート部材33を曲げやすくなる。なお、取付孔35は、自動車などのパネル41の係合孔43に係合するクリップ2の取付角度に応じて、前記長手方向Xに対して傾斜する方向であっても良い。
【0046】
クリップ2は、図2ないし図5に示すように、本体部7と、パネル41の係合孔43に係合される係合部8と、を備えている。クリップ2は、ポリプロピレン樹脂などの可撓性を有する合成樹脂で構成されている。
【0047】
本体部7は、楕円形状の薄板状に形成された楕円状部10と、前記楕円状部10の長軸方向の両端のそれぞれから延長されて前記粘着シート3の取付孔35の周縁部に係止される一対の係止部12と、前記楕円状部10の短軸方向の両端側のそれぞれから立設されて前記取付孔35に挿通される一対の挿通部18と、を備えている。
【0048】
楕円状部10は、前記粘着シート3の取付孔35の孔径および前記パネル41の係合孔43の孔径よりも小径に形成されている。楕円状部10には、前記係合部8が前記パネル41の前記係合孔43に係合された際に該係合孔43の周縁部に前記粘着シート3の取付孔35の周縁部を押し当てる膨出部としてのリブ14が設けられている。
【0049】
リブ14は、前記本体部7から膨出されるとともに前記パネル41の前記係合孔43の周縁部に沿って楕円形状の環状に形成されている。リブ14は、前記係合部8が前記パネル41の係合孔43に係合された際に、該係合孔43の周縁部を押圧する膨出量で形成されている。
【0050】
一対の係止部12は、前記本体部7よりも幅狭の長方形状に形成されている。このため、後述する係合部8がパネル41の係合孔43に係合された際に、前記粘着シート3の取付孔35の周縁部に一対の係止部12が係止する。なお、一対の係止部12は、前記粘着シート3の取付孔35の周縁部に係止されればよいので、図示した長方形以外の形状であっても良い。
【0051】
一対の挿通部18は、前記楕円状部10の長軸方向に沿って幅広に形成されて該楕円状部10の短軸方向に互いに間隔Lをあけて対向して設けられている。一対の挿通部18には、対向面側に設けられた係合爪28と、上端部に設けられた係止爪23と、を備えている。
【0052】
係合爪28は、前記一対の挿通部18の対向面から突出して形成されているとともに、前記係止爪23側に向かって徐々に突出量が減少して形成されている。係合爪28は、前記楕円状部10の長軸方向に沿って幅広に形成されている。
【0053】
係止爪23は、断面円弧状に形成されており、前記一対の挿通部18の上端部から突出して形成されているとともに、前記楕円状部10の短軸方向の外側に向かって徐々に突出量が減少して形成されている。係止爪23は、前記一対の挿通部18の上端部の前記長軸方向の中央に設けられている。
【0054】
係合部8は、前記一対の挿通部18に挿入されて係合される係合突起20と、前記係合突起20の基端部側に設けられて半球状に形成された半球状部22と、半球状部22から前記係合突起20側に向かって延長されて前記パネル41の係合孔43に係合する一対の係合片24と、を備えている。
【0055】
係合突起20は、前記楕円状部10の長軸方向に沿って幅広に形成されている。係合突起20は、先端部から基端部側が、前記楕円状部10の短軸方向に向かって次第に突出量が増加して形成されている。係合突起20は、先端部で前記粘着シート3を押圧するように、先端部が平面状に形成されている。係合突起20は、前記表面と前記先端部との間に前記粘着シート3を保持する隙間が形成される位置で、前記一対の挿通部18と係合するように形成されている。これにより、前記楕円状部10の表面と前記係合突起20の先端部との間で前記粘着シート3を押圧して保持することができる。
【0056】
半球状部22は、前記パネル41の係合孔43よりも小径に形成されている。半球状部22は、前記楕円状部10の長軸方向に沿って長軸とされる楕円状に形成されている。半球状部22には、前記挿通部18の上端部に係止される複数(図示例では、4つ)の係止爪21が設けられている。
【0057】
係止爪21は、前記半球状部22の短軸方向の両端側から突出して設けられている。係止爪21は、前記半球状部22の表面と、前記挿通部18の前記楕円状部10の短軸方向の外側の表面とに連続する円弧状に形成されている。係止爪21は、前記半球状部22の長軸方向に沿って複数(図示例では、2つ)設けられており、前記係合突起20が前記挿通部18に係合された際に、複数の係止爪21同士の間に前記挿通部18の係止爪23が配される。このため、本体部7の楕円状部10の長軸方向に係合部8が移動することを規制する。
【0058】
一対の係合片24は、自由端側に向かって互いに次第に離間して形成されている。係合片24は、揺動可能に形成されている。係合片24の自由端には、前記パネル41の係合孔43の内周面に係合する係合する突起部26が設けられている。このため、係合片24の自由端が係合孔43の周縁部に係合されるとともに前記突起部26が該係合孔43の内周面に係合されて、前記係合片24と前記係合孔43との係合力が向上する。
【0059】
次に、前述の如く構成されたワイヤハーネス1の製造方法について説明する。
まず、図6に示すように、長方形状に形成された粘着シート3の長手方向Xに沿って、前記粘着シート3の短手方向Yの一端寄りに互いに間隔Lをあけて一対の取付孔35を複数開孔する。このとき、前記取付孔35の長軸側が前記短手方向Yに対して平行するように開孔し、前記長軸側が前記長手方向Xに対して平行する角度Aとする。なお、粘着シート3は、電線51を保持する機能を発揮できれば良いため、図示した長方形状に限定されるものではない。
【0060】
次いで、前記粘着シート3の前記一対の取付孔35に、粘着材33b側からクリップ2の挿通部18を挿通させ、基材33a側に突出した前記挿通部18に係合部8を押し込んで該係合部8と該挿通部18とを係合させ、クリップ2を形成する。このとき、図2に示すように、楕円状部10の表面と、係合部8の先端部との間の粘着シート3が押圧されて圧縮変形して、該粘着シート3が前記表面と前記先端部とに保持される。なお、粘着シート3で圧縮変形されるのは、おもに発泡材であるため、該発泡材の材質や発泡倍率などによって圧縮量や反発力などを適宜変更しても良い。
【0061】
次いで、複数本の電線51から構成された電線束4を粘着材33b側に配して、前記粘着シート3を折り曲げて、前記電線束4の周囲に前記粘着材33bを配する。このとき、粘着シート3の取付孔35にクリップ2が保持されているため、前述した折り曲げ作業などの作業性が良好となる。
【0062】
次いで、折り曲げられた粘着シート3の粘着材33b同士が当接する部分を押圧して該粘着材33b同士を固着させて折曲部37と貼合部39とを形成し、図1に示すように、電線束4の電線51の移動を規制して該電線51を保持したワイヤハーネス1を製造する。
【0063】
次に、前述の如く構成されたワイヤハーネス1をパネル41に取り付ける方法について説明する。
自動車のパネル41に開孔された係合孔43に前記クリップ2の前記係合部8を挿通させる。このとき、係合孔43に挿通された係合部8の係合片24のそれぞれの自由端が互いに接近する方向に弾性変形する。
【0064】
そして、前記係合片24のそれぞれの自由端が前記係合孔43の周縁部に到達すると、前記係合片24のそれぞれの自由端が互いに離間する方向に弾性回復力によって変位し、前記それぞれの自由端が前記周縁部に係合するとともに、前記自由端に設けられた突起部26が前記係合孔43の内周面に係合する。
【0065】
このとき、図2に示すように、リブ14が粘着シート3の係合孔43の周縁部に粘着シート3を押圧する。また、係合部8の係合突起20が本体部7の楕円状部10に粘着シート3を押圧して保持する。このため、粘着シート3とパネル41との密着力が向上するとともに、粘着シート3とクリップ2との密着力が向上する。よって、係合孔43からの液体の浸入を確実に防止できる。
【0066】
本実施形態によれば、クリップ2は、本体部7と、前記本体部7から立設して設けられ且つ少なくとも一方の面に粘着性を有する粘着材33bが設けられて該一方の面同士を貼合して電線51を保持する粘着シート3に開孔された取付孔35に挿通される挿通部18と、前記取付孔35に挿通された前記挿通部18に係合し且つパネル41に開孔された係合孔43に係合する係合部8と、を備えている。
【0067】
このため、クリップ2は、取付孔35に挿通された挿通部18に係合し且つパネル41に開孔された係合孔43に係合する係合部8を設けたため、本体部7と前記係合部8との間に粘着シート3を保持できる。このため、電線51が保持された粘着シート3をクリップ2で保持してパネル41に固定することができる。よって、電線51とクリップ2とに捲回されるワイヤハーネス用テープ等を廃止して、費用を削減することができる。
【0068】
また、クリップ2は、本体部7と係合部8との間に粘着シート3を保持できるため、ワイヤハーネス用テープ等が捲回されるテープ巻き部を廃止できる。このため、テープ巻き部を削除して、クリップ2を小型化することができる。
【0069】
また、クリップ2は、本体部7と係合部8との間に粘着シート3を保持できるため、粘着シート3にクリップ2を保持した状態で、前記粘着シート3の粘着材33bが設けられた一方の面同士を貼合して電線51を保持することができる。よって、作業性を向上することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、前記本体部7には、該本体部7から延長して設けられ且つ前記粘着シート3に係止される係止部12が設けられている。
【0071】
このため、クリップ2は、粘着シート3を係止部12で係止するため、パネル41と係止部12との間で前記粘着シートを確実に係止して保持することができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、前記本体部7には、前記挿通部18に係合された係合部8が前記パネル41の前記係合孔43に係合された際に、前記本体部7から膨出して設けられ且つ前記係合孔41の周縁部をパネルに押し当てる膨出部14が設けられている。
【0073】
このため、クリップは、膨出部14によって粘着シートがパネルに押し当てられて、前記係合孔43の周縁部に前記粘着シート3が密着する。このため、前記係合孔43から液体が浸入することを確実に防止できる。よって、パッキン部材を廃止して、クリップ2の費用を抑えることができる。
【0074】
また、クリップ2は、パッキン部材を廃止するため、パッキン部材を取り付ける取付作業が不要となり、その取付作業にかかっていた時間と手間とを削減することができる。また、パッキン部材の取付作業にかかっていた費用を削減して、クリップ2の費用を抑えることができる。
【0075】
また、クリップ2は、膨出部14によって粘着シート3の取付孔35の周縁部をパネル41に押し当てるため、浅皿状に形成されてパネル41を押さえる押え部を廃止することができる。このため、クリップ2の構成を簡略化することができ、クリップ2の費用を抑えることができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、クリップ2は、前記係合部8が、前記取付孔35に挿通された前記挿通部18に係合した際に、前記粘着シート3を前記本体部7に押圧するため、本体部7と係合部8との間に粘着シート3を押圧しながら狭持できる。このため、粘着シート3に保持されるクリップ2の保持力を向上することができる。
【0077】
また、クリップ2は、本体部7と係合部8との間に粘着シート3を押圧しながら狭持できるため、前記粘着シート3と本体部7とを密着させて隙間を小さくできる。このため、パネル41の取付孔43からの液体の浸入を防止して、防水性を向上することができる。
【0078】
また、クリップ2は、本体部7と係合部8との間に粘着シート3を押圧しながら狭持できるため、粘着シート3にクリップ2を保持することができる。このため、粘着シート3にクリップ2を保持した状態で、前記粘着シート3の粘着材33bが設けられた一方の面同士を貼合して電線51を保持することができる。よって、作業性を向上することができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、前記粘着シート3の粘着材33bが、粘着性を有する自己粘着材とされるため、前記粘着シートの自己粘着材の面同士を貼合するまでは、前記クリップおよび電線が前記粘着シートに強固に粘着されない。このため、前記クリップおよび前記電線の配置などの調整を容易に行うことができる。よって、作業性をさらに向上することができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、ワイヤハーネスは、前述のクリップを設けたため、粘着シートとクリップとの保持力を向上できるとともに該粘着シートとクリップとの防水性を向上することができる。
【0081】
(第二の実施形態)
次に、本発明に係るワイヤハーネス1のクリップ2の第二の実施形態について、図7および図8を参照して説明する。なお、前述した実施形態と同一部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
本実施形態にかかるワイヤハーネス1のクリップ2は、図7および図8に示すように、本体部7と、パネル41の係合孔43に係合される係合部8と、を備えている。
【0083】
本体部7は、薄板状の楕円状に形成された楕円状部10と、前記楕円状部10の長軸側の両端から延長されて長方形状に形成された係止部12と、前記楕円状部10の中央部から立設されて粘着シート3の取付孔35に挿通される挿通部17と、前記楕円状部10の周囲に沿って設けられてパネル41の係合孔43の周縁部を押圧するリブ14と、を備えている。
【0084】
挿通部17は、四角柱状に形成されている。挿通部17は、上端部に設けられ且つ前記係合部8に係合される一対の係止爪19を備えている。一対の係止爪19は、揺動可能に形成されている。
【0085】
係合部8は、係合部本体16と、前記係合部本体16の一端に設けられて半球状に形成された半球状部22と、前記半球状部22から前記係合部本体16に向かって延長された一対の係合片24と、を備えている。
【0086】
係合部本体16は、立方体形状に形成されている。係合部本体16には、前記本体部7の挿通部17が挿通され且つ前記半球状部22に連通する挿通孔27が設けられている。係合部本体16は、前記一対の係止爪19が前記半球状部22と係止した際に、前記楕円状部10の表面と、前記係合部本体16の他端との間に、粘着シート3を挟み込んで押圧できる隙間が形成される。
【0087】
半球状部22には、前記本体部7の挿通部17が挿通され且つ前記係合部本体16に連通する挿通孔27が設けられている。挿通孔27は、前記一対の係止爪19が弾性変形して挿通可能となる孔径に形成されている。挿通孔27は、前記半球状部22側で、前記本体部7の前記挿通部17の前記一対の係止爪19が弾性回復力で変位して、該一対の係止爪19が前記半球状部22と係止する。挿通孔27は、四角柱状に形成された前記挿通部17の外形に沿って四角状に開孔されている。このため、係合部8が前記挿通部17を中心軸として回転することが防止される。
【0088】
本実施形態にかかるワイヤハーネス1のクリップ2は、係合部8に、本体部7の挿通部17が挿通して係合する挿通孔27を設けたため、構成をより簡略化することができる。
【0089】
(第三の実施形態)
次に、本発明に係るワイヤハーネス1のクリップ2の第三の実施形態について、図9および図10を参照して説明する。なお、前述した実施形態と同一部分には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0090】
本実施形態にかかるワイヤハーネス1のクリップ2は、図9に示すように、本体部7と、パネル41の係合孔43に係合される係合部8と、を備えており、上述した第一の実施形態で示したクリップ2と同一の構成とされている。
【0091】
クリップ2が取り付けられる粘着シート3は、図10に示すように、一枚の長方形状のシート状に形成されたシート部材33からなる。シート部材33には、複数(図示例では、3つ)の取付孔35Aが設けられている。
【0092】
取付孔35Aの各々が、一つの孔に前記クリップ2の前記一対の挿通部18を挿通する大きさに形成されている。取付孔35Aは、図示例では、四角形状に形成されているが、円形状や楕円形状であっても良い。
【0093】
本実施形態によれば、一つの孔で形成された取付孔35Aにクリップ2が取り付けられるため、取付孔35Aを粘着シート3に開孔する工数が削減される。また、一つの孔で形成された取付孔35Aにクリップ2が取り付けられるため、挿通部18のそれぞれの外形に沿って一対の取付孔35を開孔しなくて良い。よって、粘着シート3に取付孔35Aを開孔する作業の作業性を向上することができる。
【0094】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 ワイヤハーネス
2 クリップ
3 粘着シート
7 本体部
8 係合部
14 リブ(膨出部)
17,18 挿通部
33b 粘着材
35 取付孔
41 パネル
43 係合孔
51 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部から立設して設けられ且つ少なくとも一方の面に粘着性を有する粘着材が設けられて該一方の面同士を貼合して電線を保持する粘着シートに開孔された取付孔に挿通される挿通部と、
前記取付孔に挿通された前記挿通部に係合し且つパネルに開孔された係合孔に係合する係合部と、を備えていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
前記本体部には、該本体部から延長して設けられ且つ前記粘着シートに係止される係止部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記本体部には、前記挿通部に係合された係合部が前記パネルの前記係合孔に係合された際に、前記本体部から膨出して設けられ且つ前記粘着シートの前記取付孔の周縁部を前記パネルに押し当てる膨出部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記係合部が、前記取付孔に挿通された前記挿通部に係合した際に、前記粘着シートを前記本体部に押圧することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項5】
前記粘着シートの粘着材が、自己粘着性を有する自己粘着材とされることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項6】
電線と、
少なくとも一方の面に前記粘着材が設けられているとともに該一方の面同士を貼合して前記電線を保持した粘着シートと、
前記電線を保持した前記粘着シートに取り付けられたクリップと、を備え、
前記クリップが、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のクリップであることを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−21863(P2013−21863A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154734(P2011−154734)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】