説明

クリップテンタ及び光学フィルムの製造方法

【課題】光学フィルムの遅相軸の角度のばらつきを抑える。
【解決手段】クリップテンタ15は、クリップ22とレール23a、23s、23bとガイド機構を有する。レール23a、23s、23bはフィルム12の搬送路の両側に連なって配される。レール23sは、レール23aからレール23bまで湾曲に延設される。ガイド機構はガイドレール43a、43s、43bを有する。ガイドレール43a、43s、43bは、レール23a、23s、23bに沿って設けられる。レール23sには、クリップ22の向きがレール23aの延設方向からレール23bの延設方向へ変更できる程度に、ガイド機構40の遊びが設けられる。レール23aにおけるガイド機構40の遊びは、レール23sにおけるガイド機構40の遊びよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリップテンタ及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である位相差フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの製造方法として、溶融押出方法や溶液製膜方法が知られている。そして、これらの方法により得られた帯状のフィルムから、用途に応じた光学特性を有する光学フィルムを得るクリップテンタが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このクリップテンタは、フィルムの搬送路の両側に設けられ、搬送方向上流側から下流側に向かうに従って間隔が拡がるように設けられた対のレールと、対のレールに沿って連設されたクリップと、クリップがレールに沿って移動するようにクリップをガイドするガイド機構(例えば、カムフォロア等)とを有する。そして、フィルムの両端部を把持した状態のままのクリップをレールに沿って移動させることにより、フィルムの幅を拡げる延伸工程を行うことができる。このようなクリップテンタを用いて、延伸工程におけるフィルムの温度や拡幅率などを適宜調節することにより、フィルムの光学特性を所望のものに調節し、最終的には、所望の光学特性を有する光学フィルムを得ることができる。
【0005】
ところが、フィルムに延伸工程を施すと、ボーイング現象により、遅相軸の角度がばらついてしまう。ここで、ボーイングとは、延伸工程前のフィルムにおいて幅方向に引かれた線分が、延伸工程後のフィルムにおいてフィルムの長手方向に対して凹状または凸状に変形する挙動を指す。そこで、ボーイング現象の発生を防止する手段として、(1)フィルム中央部よりフィルム端部の温度を高くする、(2)フィルム中央部よりフイルム端部の残留溶媒量を大きくする、(3)テンタ式乾燥機内に温度の異なるゾーンを設けるといった手法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−90943号公報
【特許文献2】特開2002−296422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の方策を講じても、光学フィルムの遅相軸の角度のばらつきの抑制という点には限界があった。特に、フィルムのうちクリップに把持された部分近傍における遅相軸の角度のばらつきについては、ほとんど効果がなかった。
【0008】
発明者の鋭意検討の結果、当該遅相軸の角度のばらつきは、クリップとガイド機構との構造に起因することを見出した。本発明はこのような課題を解決するものであり、遅相軸の角度が略均一の光学フィルムを製造するクリップテンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のクリップテンタは、熱可塑性フィルムの搬送路の両側に配されたレールと、前記レールに沿って連設され、前記熱可塑性フィルムのうち前記搬送路の幅方向両端部を把持する把持状態及び前記両端部を開放する開放状態の間で遷移自在なクリップと、前記レールに沿った前記クリップの移動を一定量の遊びでガイドするガイド機構と、前記レールのうち前記クリップが前記把持状態になる把持開始位置及び前記クリップが前記開放状態になる把持解除位置の間に設けられ、前記搬送方向と平行となるように延設された等幅レール部と、前記レールのうち前記等幅レール部と前記把持解除位置との間に設けられ、前記搬送方向下流側に向かうに従って前記搬送路の幅方向外側に向かって延設され、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高温となった前記熱可塑性フィルムの延伸が行われる拡幅レール部と、前記レールに設けられ、前記等幅レール部及び前記拡幅レール部を接続し弓形に形成された接続レール部とを有し、前記等幅レール部における前記ガイド機構の遊びは、前記接続レール部における前記ガイド機構の遊びよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
前記拡幅レール部における前記ガイド機構の遊びは、前記接続レール部における前記ガイド機構の遊びよりも小さいことが好ましい。
【0011】
前記対となる拡幅レール部の両方が、前記搬送方向上流側から下流側に向かうに従って、前記搬送路の幅方向外側に向かって延設されたことが好ましい。また、前記搬送路の両側に配されたレールのうち一方の前記レールに設けられた前記拡幅レール部は前記搬送方向に向かって延設され、他方の前記レールに設けられた前記拡幅レール部は、前記搬送方向下流側に向かうに従って前記搬送路の幅方向外側に向かって延設されても良い。
【0012】
前記ガイド機構は、前記レールよりも前記搬送路の幅方向外側にて前記レールに沿って設けられたガイドレールと、前記レール及びガイドレールの間に配され前記レール上を転動するカムフォロアとを備えていてもよい。また、前記ガイド機構は、前記レールのうち前記搬送路の幅方向外側に設けられた外側転動面を転動する外側カムフォロアと、前記レールのうち前記搬送路の幅方向内側に設けられた内側ガイド面に正対する内側カムフォロアとを備えていてもよい。
【0013】
本発明の光学フィルムの製造方法は、上記のクリップテンタを用いて、前記熱可塑性フィルムの光学特性が所望の範囲となるように、前記熱可塑性フィルムを延伸する延伸工程を行うことを特徴とする。
【0014】
熱可塑性樹脂及び溶剤を含むドープを支持体へ流出し、前記ドープからなる流延膜を支持体に形成する工程と、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って前記熱可塑性フィルムとする工程と、上記の前記延伸工程とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記搬送方向と平行となるように延設された等幅レール部と前記搬送方向下流側に向かうに従って前記搬送路の幅方向外側に向かって延設された拡幅レール部とを接続する接続レール部は、弓形に形成される。このような接続レール部におけるガイド機構の遊び量は、クリップが、前記搬送方向と平行の向きから前記搬送路の幅方向外側に向くことができる程度の大きさに設けられている必要がある。本発明では、クリップによる熱可塑性フィルムの把持が行われる等幅レール部におけるガイド機構の遊び量が、接続レール部におけるガイド機構の遊び量よりも小さいため、把持開始時点におけるクリップの向きが目標とする向きからずれることを防ぐことができる。等幅レール部におけるガイド機構の遊び量をこのように設定することで、熱可塑性フィルムの延伸時において、クリップの捻りを抑えることが可能となり、結果として、遅相軸の角度のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フィルム延伸設備の概要を示す説明図である。
【図2】第1のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図3】レールに沿って移動自在に取り付けられたクリップの概要を示す斜視図である。
【図4】クリップが取り付けられたレール及び第1のガイド機構の概要を示す断面図である。
【図5】クリップの概要を示す斜視図である。
【図6】把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図7】離隔位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図8】第1接続レール部及び第1接続ガイドレール部、並びにその近傍の概要を示す平面図である。
【図9】上流側等幅レール部及び等幅ガイドレール部、並びにその近傍の概要を示す平面図である。
【図10】拡幅レール部及び拡幅ガイドレール部、並びにその近傍の概要を示す平面図である。
【図11】フィルムを把持した状態のクリップが捩れる様子を示す説明図である。
【図12】クリップが取り付けられたレール及び第2のガイド機構の概要を示す断面図である。
【図13】第2のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図14】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、フィルム延伸設備10は、帯状のフィルム12を長手方向へ送り出すフィルム供給部14と、フィルム供給部14から送り出されたフィルム12について延伸工程を行うクリップテンタ15と、クリップテンタ15から送り出されたフィルム12を巻き芯16aに巻き取る巻取室16とを有する。
【0018】
(クリップテンタ)
図2に示すように、クリップテンタ15はケーシング20を有する。ケーシング20には入口20i及び出口20oが設けられる。ケーシング20内には、フィルム12をZ1方向へ搬送する搬送路20rが、入口20iから出口20oにかけて形成される。図1に示すように、ケーシング20内において、搬送路20rの上方及び下方には、温度調節風をフィルム12にあてる温調ヘッド21が設けられる。
【0019】
図2に戻って、ケーシング20に内蔵されるテンタ本体は、クリップ22とレール23とを備える。レール23は、フィルム12の搬送路20rの幅方向(以下、Z2方向と称する)の両側に並べられる。クリップ22は、後述するガイド機構により、レール23に沿って移動自在に取り付けられる。レール23の延設方向におけるクリップ22の大きさは、例えば、50mm以上150mm以下である。ガイド機構は、隣り合うクリップ22同士を連結する。レール23には、Z1方向上流側から下流側に向かって順次、第1クリップオープナ27及び第2クリップオープナ28がそれぞれ設けられる。
【0020】
(レール)
図3及び4に示すように、レール23は、垂直方向(以下、Z3方向と称する)において離れて並べられた上レール部23xと下レール部23yとからなる。上レール部23xと下レール部23yとは互いに平行に配される。
【0021】
(クリップ)
図4及び5に示すように、クリップ22は、台座31と、アーム32と、フラッパ33とからなる。台座31の上面には、フィルム12のうち、Z2方向の両縁部(以下、耳部と称する)12e(図2参照)を支持する支持面31aが形成される。アーム32は、台座31の上面から突出するように設けられる。フラッパ33は、アーム32に取り付けられる。
【0022】
フラッパ33の一端には、フィルム12の耳部12eと接触可能な押圧面33aが設けられる。押圧面33aは、例えば、矩形状に形成され、Z1方向に延設される。フラッパ33の他端には、第1〜2クリップオープナ27〜28(図2参照)と係合可能な係合頭部33bが設けられる。フラッパ33のうち押圧面33aと係合頭部33bとの間には貫通孔が設けられる。フラッパ33の貫通孔には、アーム32に設けられた回動軸35が挿通される。こうして、押圧面33a及び係合頭部33bは、回動軸35を中心に揺動自在となる。これにより、フラッパ33は、押圧面33aと支持面31aとにより耳部12eを把持する把持位置(図6参照)と、押圧面33aが支持面31aから離隔した離隔位置(図7参照)との間で移動自在となる。なお、フラッパ33は、把持位置となるように付勢されることが好ましい。
【0023】
(ガイド機構)
図3及び図4に示すように、ガイド機構40は、クリップ22をレール23に沿って移動自在にするものであり、ガイド台41と、カムフォロア42と、ガイドレール43とからなる。カムフォロア42は第1カムフォロア42a〜第3カムフォロア42cとからなり、ガイドレール43は、上ガイドレール部43xと下ガイドレール部43yとからなる。
【0024】
クリップ22の台座31と連結するガイド台41は、上レール部23xと下レール部23yとの間に配される。ガイド台41の下部には、Z2方向に延設された第1スタッド44aが設けられる。第1スタッド44aには、第1転動面23yaに接する第1カムフォロア42aが軸着される。
【0025】
上レール部23xのZ2方向外側には、第2転動面23xbが設けられる。上ガイドレール部43xは、第2転動面23xbと正対するように、上レール部23xに沿って設けられる。上ガイドレール部43x及び上レール部23xの間には、第2転動面23xbに接する第2カムフォロア42bが配される。第2カムフォロア42bは、ガイド台41の上部からZ3方向に延設された第2スタッド44bに軸着される。
【0026】
下レール部23yのZ2方向外側には、第3転動面23ybが設けられる。下ガイドレール部43yは、第3転動面23ybと正対するように、下レール部23yに沿って設けられる。下ガイドレール部43y及び下レール部23yの間には、第3転動面23ybに接する第3カムフォロア42cが配される。第3カムフォロア42cは、ガイド台41の下部からZ3方向に延設された第3スタッド44cに軸着される。
【0027】
カムフォロア42及びガイドレール43により、ガイド台41はレール23に沿って移動自在となる。こうして、ガイド機構40により、ガイド台41に取り付けられたクリップ22は、レール23に沿って移動自在となる。
【0028】
図2に示すように、対となるレール23には、それぞれ、第1クリップオープナ27から第2クリップオープナ28に向かって、上流側等幅レール部23aと、拡幅レール部23bと、縮幅レール部23cと、下流側等幅レール部23dとが設けられる。
【0029】
上流側等幅レール部23aはZ1方向に延設される。対となる上流側等幅レール部23aの間隔は一定の値である。拡幅レール部23bは、それぞれ、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って、Z2方向外側に向かって延設される。対となる拡幅レール部23bの間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って広くなる。縮幅レール部23cは、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って、Z2方向内側に向かって延設される。対となる縮幅レール部23cの間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って狭くなる。下流側等幅レール部23dはZ1方向に延設される。対となる下流側等幅レール部23dの間隔は一定の値である。また、上流側等幅レール部23aと拡幅レール部23bとを接続する第1接続レール部23sは、弓形に形成される。同様に、拡幅レール部23bと縮幅レール部23cとを接続する第2接続レール部23t、及び、縮幅レール部23cと下流側等幅レール部23dとを接続する第3接続レール部23uは、それぞれ弓形に形成される。第1接続レール部23s、第2接続レール部23tや第3接続レール部23uの曲率半径は、1500mm〜2500mm程度である。
【0030】
図8に示すように、ガイドレール43は、上流側等幅レール部23aと正対する等幅ガイドレール部43aと、拡幅レール部23bと正対する拡幅ガイドレール部43bと、第1接続レール部23sと正対する第1接続ガイドレール部43sとを有する。第1接続ガイドレール部43sには、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って、第1部48saと第2部48sbと第3部48scとが順次設けられる。等幅ガイドレール部43aと第2部48sbとを接続する第1部48saは、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って第1接続レール部23sから遠ざかるように形成される。第2部48sbは、第1接続レール部23sに沿うように形成される。第2部48sbと拡幅ガイドレール部43bとを接続する第3部48scは、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って第1接続レール部23sに近づくように形成される。上流側等幅レール部23aと等幅ガイドレール部43a部との間隔CL23aは、第1接続レール部23sと第2部48sbとの間隔CL23sよりも小さい。間隔CL23aは、間隔CL23sの0.7〜0.2倍であることが好ましく、間隔CL23sの0.5〜0.2倍であることがより好ましい。なお、第1部48saを省略し、第1接続ガイドレール部43sと第2部48sbとを離隔してもよい。同様に、第3部48scを省略し、第3部43scと拡幅ガイドレール部43bとを離隔してもよい。
【0031】
図8に示すように、クリップ22は、搬送路20rのZ2方向両側において並べられる。図4及び図8に示すように、チェーン51は、2つの貫通孔を有する。チェーン51に設けられた一の貫通孔には、一のガイド機構40に設けられた第2スタッド44bが挿入される。チェーン51に設けられた二の貫通孔には、一のガイド機構40に隣り合う二のガイド機構40に設けられた第2スタッド44bが挿入される。チェーン51は、2つの第2スタッド44bにそれぞれ軸着される。チェーン51により、一のクリップ22をレール23に取り付けるガイド機構40と、一のクリップ22に隣り合う二のクリップ22をレール23に取り付ける二のガイド機構40とを連結する。図2では、一部のクリップ23のみを示しているが、本発明において、チェーン51は、複数のクリップ22を環状に連結する。
【0032】
レール23のZ1方向上流側及び下流側には、チェーン51と噛み合うスプロケット52が設けられる。スプロケット52には、モータ53が接続される。モータ53により、スプロケット52が回転すると、スプロケット52と噛み合うチェーン51は、レール23に沿って移動する。これにより、チェーン51により連結されたクリップ22はレール23に沿って移動する。
【0033】
図1に戻って、クリップテンタ15と巻取室16と間には耳切装置58が設けられる。耳切装置58は、クリップテンタ15から送出されたフィルム12の耳部12e(図2参照)を切り離す。この切り離された耳部12eは、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。耳部12eが切り離された製品部12cは、フィルム12として、クリップテンタ15から送り出される。
【0034】
次の本発明の作用について説明する。図1に示すように、フィルム供給部14は、フィルム12をクリップテンタ15へ供給する。図2に示すように、搬送路20rのZ2方向両側では、クリップ22が、上流側等幅レール部23a、第1接続部23x、拡幅レール部23b、第2接続部23y、縮幅レール部23c、第3接続部23z及び下流側等幅レール部23dを循環する。
【0035】
係合頭部33bと第1クリップオープナ27との接触が開始する位置Paでは、フラッパ33は把持位置(図6参照)から離隔位置(図7参照)へと変位する。クリップテンタ15に導入されたフィルム12の耳部12eは、台座31の支持面31aによって支持される。図2に示すように、係合頭部33bと第1クリップオープナ27との接触が解除される位置Pbでは、フラッパ33が離隔位置(図7参照)から把持位置(図6参照)となる。こうして、位置Pbでは、押圧面33aと支持面33aとによるフィルム12の耳部12eの把持が開始される。
【0036】
図2に戻って、クリップ22は、フラッパ33が把持位置のまま、上流側等幅レール部23a、第1接続部23x、拡幅レール部23b、第2接続部23y、縮幅レール部23c、第3接続部23z、及び下流側等幅レール部23dを通過する。そして、係合頭部33bと第2クリップオープナ28との接触が開始する位置Pcでは、フラッパ33は把持位置(図6参照)から離隔位置(図7参照)へと変位する。こうして、位置Pcでは、フィルム12の耳部12eの把持が解除される。
【0037】
こうして、位置Pbにてクリップ22により把持されたフィルム12は、位置Pcまで搬送される。そして、位置Pbから位置Pcまで搬送される間、フィルム12に対して、予熱工程、延伸工程、緩和工程及び冷却工程が順次行われる。
【0038】
(予熱工程)
図2に戻って、上流側等幅レール部23aでは、レール23の間隔が一定であるため、上流側等幅レール部23aの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12の幅はW1のままである。この上流側等幅レール部23aの間の搬送路20rでは、予熱工程が行われる。温調ヘッド21は、上流側等幅レール部23aの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12全体に温度調節風をあてて、フィルム12の温度がポリマーのガラス転移温度Tg度近傍となるまで加熱する。なお、上流側等幅レール部23aの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12の温度は、ポリマーのガラス転移温度Tgよりも10℃〜3℃低いことが好ましい。
【0039】
予熱工程は、残留溶剤量が0重量%以上60重量%以下のフィルム12に対して行うことが好ましい。ここで、残留溶剤量とは、フィルム12に残留する溶剤量を乾量基準で示したものである。この残留溶剤量は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100から算出することができる。
【0040】
(延伸工程)
拡幅レール部23bの間の搬送路20rでは、フィルム12を幅方向に延伸する延伸工程が行われる。温調ヘッド21は、拡幅レール部23bの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12全体に温度調節風をあてて、フィルム12の温度Tfがポリマーのガラス転移温度Tgを上回るまで加熱する。拡幅レール部23bでは、レール23の間隔がZ1方向の下流側に向かうに従って拡がるため、上流側等幅レール部23aの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W1からW2へと次第に拡がる。そして、延伸工程における条件を適宜選択することにより、フィルム12の光学特性を所望の範囲に調節することや、幅方向や長手方向における遅相軸の角度のばらつきを抑えることができる。
【0041】
延伸工程における条件としては、例えば、延伸率ER(=W2/W1)やフィルム12の温度Tf等が挙げられる。また、フィルム12の光学特性としては、例えば、面内レターデーションRe、厚み方向レターデーションRth等が挙げられる。なお、延伸率ERは、例えば、100%より大きく200%以下である。また、拡幅レール部23bにおけるフィルム12の温度Tfは、フィルム12をなすポリマーのガラス転移温度Tgよりも高く、(Tg+80)以下であることが好ましい。延伸工程は、残留溶剤量が0重量%以上40重量%以下のフィルム12に対して行うことが好ましい。
【0042】
(緩和工程)
縮幅レール部23cの間の搬送路20rでは緩和工程が行われる。温調ヘッド21は、縮幅レール部23cの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12全体に温度調節風をあてて、フィルム12の温度Tfがポリマーのガラス転移温度Tgが下回るまで冷却する。拡幅レール部23bでは、レール23の間隔がZ1方向の下流側に向かうに従って狭まるため、縮幅レール部23cの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W2からW3へと次第に狭まる。そして、緩和工程における条件を適宜選択することにより、フィルム12の挙動を調節することができる。この結果、フィルム12の光学特性を所望の範囲に調節することや、幅方向や長手方向における遅相軸の角度のばらつきを抑えることができる。特に、フィルム12に延伸工程のみを行う場合には、フィルム12の幅方向端部では、長手方向における遅相軸の角度のばらつきが問題となるが、延伸工程の後に緩和工程を行うことにより、長手方向における遅相軸の角度のばらつきを抑えることができる。
【0043】
緩和工程における条件としては、例えば、緩和率RR(=W3/W2)やフィルム12の温度Tf等が挙げられる。また、フィルム12の光学特性としては、例えば、面内レターデーションRe、厚み方向レターデーションRthが挙げられる。なお、緩和率RRは、例えば、90%より大きく100%未満である。また、縮幅レール部23cにおけるフィルム12の温度Tfは、(Tg−10)以上(Tg+60)以下であることが好ましい。緩和工程は、残留溶剤量が0重量%以上30重量%以下のフィルム12に対して行うことが好ましい。
【0044】
(冷却工程)
下流側等幅レール部23dの間の搬送路20rでは冷却工程が行われる。温調ヘッド21は、下流側等幅レール部23dの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12全体に温度調節風をあてて、フィルム12の温度Tfが所定の範囲(例えば、40℃以上150℃以下)内となるまで冷却する。下流側等幅レール部23dでは、レール23の間隔が一定であるため、下流側等幅レール部23dの間の搬送路20rを搬送されるフィルム12の幅はW3のままである。冷却工程は、残留溶剤量が0重量%以上20重量%以下のフィルム12に対して行うことが好ましい。
【0045】
図8に示すように、レール23とガイドレール43との間隔CLとし、カムフォロア42bの直径Dとすると、ガイド機構40の遊び量ASは、(CL−D)と表される。そして、上流側等幅レール部23aにおけるガイド機構40の遊び量AS23aは、上流側等幅レール部23aと等幅ガイドレール43aとの間隔CL23aから、カムフォロア42bの直径Dを減じたものであり、第1接続レール部23sにおけるガイド機構40の遊び量AS23sは、第1接続レール部23sと第2部43xbとの間隔CL23sから、カムフォロア42bの直径Dを減じたものである。なお、直径Dをカムフォロア42cの直径としてもよい。
【0046】
第1接続レール部23sにおけるガイド機構40の遊び量AS23sは、上流側等幅レール部23aに沿って移動したクリップ22が、拡幅レール部23bに沿って移動するように、クリップ22の向きを変えることができる程度の大きさとされる。なお、第2接続レール部23tにおけるガイド機構の遊び量や第3接続レール部23uにおけるガイド機構40の遊び量は、第1接続レール部23sにおけるガイド機構40の遊び量AS23sと略等しい。
【0047】
ここで、上流側等幅レール部23aにおけるガイド機構40の遊び量AS23aが、第1接続レール部23sにおけるガイド機構の遊び量AS23sと等しいと、上流側等幅レール部23aに沿って移動するクリップ22の向き(押圧面33aの延設方向d33a)が、上流側等幅レール部23aの延設方向(Z1方向)と平行とならずに、交差してしまう(図9参照)。そして、クリップ22の向きがZ1方向と交差した状態のまま、クリップ22が位置Paを通過すると、向きがZ1方向と交差した状態のままクリップ22は耳部12eを把持することとなる。
【0048】
その後、向きがZ1方向と交差した状態のまま耳部12eを把持したクリップ22が拡幅レール部23bへ移動すると(図10参照)、フィルム12の延伸が行われるものの、延伸に起因するフィルム12の抗力により、クリップ22の向きが拡幅レール部23bの延設方向d23bと平行となるように、クリップ22が捻れる(図11参照)。フィルム12のうち捻れが起こったクリップ22により把持された部分では、フィルム12の幅方向への引っ張り力が一様に付与されない。ポリマーのガラス転移温度Tgよりも高温のフィルム12において、このような引っ張り力のばらつきが生じると、フィルムの幅方向や長手方向において、遅相軸の角度がばらついてしまう。
【0049】
本発明では、上流側等幅レール部23aにおけるガイド機構40の遊び量AS23aが、第1接続レール部23sにおけるガイド機構40の遊び量AS23sよりも小さいため、クリップ22の向きが上流側等幅レール部23aの延設方向と平行となる状態で、耳部12eの把持を行うことができる。従って、本発明によれば、クリップ22の捻れに起因した、遅相軸の角度のばらつきを抑えつつ、フィルム12の延伸を行うことができる。
【0050】
なお、図8に示すように、拡幅レール部23bにおけるガイド機構40の遊び量AS23bは、第1接続レール部23sにおけるガイド機構40の遊び量AS23sよりも小さいことが好ましい。ここで、拡幅レール部23bにおけるガイド機構の遊び量AS23bは、拡幅レール部23bと拡幅ガイドレール43bとの間隔CL23bから、カムフォロア42bの直径Dを減じたものである。これにより、クリップ22の向きが拡幅レール部23bの延設方向と平行となる状態で、フィルム12に対し延伸工程を行うことができるため、延伸工程におけるクリップ22の捻りを抑えることができる。また、拡幅レール部23bにおけるガイド機構40の遊び量AS23bと上流側等幅レール部23aにおけるガイド機構40の遊び量AS23aとは等しいことが好ましい。
【0051】
なお、第1接続レール部23sにおけるガイド機構40の遊び量AS23sは、クリップ22が、第1接続レール部23sにおいて、その向きを上流側等幅レール部23aの延設方向(Z1方向)から傾くことのできる最大量が角度φ23sとなるように決定される。ここで、φ23sは、上流側等幅レール部23aの延設方向(Z1方向)と拡幅レール部23bの延設方向d23bとがなす角の角度である。この角度φ23sは、第2スタッド44bのピッチをP44bとするとき、atan(AS23s/P44b)と表される。例えば、第2スタッド44bのピッチP44が52mmであり、φ23sが0.11°である場合には、ガイド機構40の遊び量AS23sは、0.11mmとなる。この場合には、例えば、上流側等幅レール部23aにおけるガイド機構40の遊び量AS23aを0.05mmとすることで、上流側等幅レール部23aにおけるクリップ22の向きの最大傾き量φ23a(図9参照)を抑えることができる。同様に、拡幅レール部23bにおけるガイド機構40の遊び量AS23bを0.05mmとすることで、拡幅レール部23bにおけるクリップ22の向きの最大傾き量φ23b(図10参照)を抑えることができる。
【0052】
上記実施形態では、遊び量AS23aを、上流側等幅レール部23a全体におけるガイド機構40の遊び量としたが、上流側等幅レール部23aのうち位置Pbの直前から直後までの間におけるガイド機構40の遊び量としてもよい。
【0053】
上記実施形態では、1つのガイド台41に1つのクリップ22を連結したが、本発明はこれに限られず、1つのガイド台41に複数のクリップ22を連結してもよい。
【0054】
上記実施形態では、1つのクリップ22に1つの押圧面33aをZ1方向へ延設したが、本発明はこれに限られず、1つのクリップ22に複数の押圧面33aをZ1方向へ並べても良い。
【0055】
上記実施形態では、緩和工程において、Z1方向上流側から下流側に向かうに従い、フィルム12の幅を狭くしたが、本発明はこれに限られず、Z1方向上流側から下流側にかけて一定としてもよい。
【0056】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、その説明は省略し、異なるもののみ説明する。
【0057】
上記実施形態では、ガイド機構40を用いたが、本発明はこれに限られず、ガイド機構40に代えて、図12に示すガイド機構80を用いても良い。ガイド機構80は、クリップ22をレール23に沿って移動自在にするものであり、ガイド台41とカムフォロア82とからなる。カムフォロア82は、第1カムフォロア42aと第2カムフォロア42bと第4カムフォロア42dとからなる。
【0058】
上レール部23xのZ2方向内側にはガイド面23xcが設けられる。第4カムフォロア42dは、上レール部23xよりもZ2方向内側にて、ガイド面23xcと正対するように配される。そして、第4カムフォロア42dは、ガイド台41の上部からZ3方向に延設された第4スタッド44dに軸着される。
【0059】
そして、レール23の幅をWrとし、第2カムフォロア42bと第4カムフォロア42dとの間隔をCL42とするとき、ガイド機構80の遊び量BSは、(CL42−Wr)と表される。そして、上流側等幅レール部23aにおける遊び量BSは、第1接続レール部23sにおける遊び量BSよりも小さい。また、拡幅レール部23bにおける遊び量BSは、第1接続レール部23sにおける遊び量BSよりも小さいことが好ましい。ガイド機構80の遊び量BSは、レール23のZ2方向の厚みを変更することにより調節することができる。すなわち、上流側等幅レール部23aにおけるレール23の厚みは、第1接続レール部23sにおけるレール23の厚みよりも薄い。また、拡幅レール部23bにおけるレール23の厚みは、第1接続レール部23sにおけるレール23の厚みよりも薄いことが好ましい。
【0060】
上記実施形態では、搬送路20rの両側に設けられたレール23のそれぞれにおいて、Z1方向上流側から下流側に向かうに従ってZ2方向外側へ延びるように拡幅レール部23bを設けたが、本発明はこれに限られず、図13に示すように、搬送路20rの両側に設けられたレール23のうちいずれか一方において、拡幅レール部23bをZ1方向に延設してもよい。なお、搬送路20rの両側に設けられたレール23のそれぞれにおいて、Z1方向上流側から下流側に向かうに従ってZ2方向内側へ延びるように縮幅レール部23cを設けたが、搬送路20rの両側に設けられたレール23のうちいずれか一方において、縮幅レール部23cをZ1方向に延設してもよい。
【0061】
本発明のクリップテンタ15は、溶液製膜方法において適用できる。図14に示すように、溶液製膜方法が行われる溶液製膜設備110は、流延室112とピンテンタ113とクリップテンタ15と乾燥室115と冷却室116と巻取室16とを有する。流延室112には、流延ダイ121、流延ドラム122、減圧チャンバ123及び剥取ローラ124が設けられる。
【0062】
流延ドラム122は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム122は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸を中心に回転する。流延ドラム122の回転により、流延ドラム122の周面は所定の速度で走行する。
【0063】
流延ドラム122には温調装置125が接続する。温調装置125は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置125は、温度調節部及び流延ドラム122内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム122の周面の温度を所望の温度に保つことができる。
【0064】
流延ダイ121は、流延ドラム122の上方に設けられる。流延ダイ121は、先端にドープ127を流出するスリットを有する。流延ダイ121は、スリットが流延ドラム122に近接するように配される。流延ダイ121から流出したドープ127は、移動する流延ドラム122の周面上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜128を形成する。
【0065】
剥取ローラ124は、流延ダイ121よりもA方向の下流側に配される。剥取ローラ124は、周面上に形成された流延膜128を剥ぎ取って、湿潤フィルム130として、流延室112の下流側へ案内する。
【0066】
減圧チャンバ123は、流延ダイ121よりもA方向の上流側、かつ剥取ローラ124よりもA方向の下流側に設けられる。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ123は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して低くなるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0067】
流延室112の下流には、ピンテンタ113、クリップテンタ15、乾燥室115、冷却室116、及び巻取室16が順に設置されている。流延室112とピンテンタ113との間の渡り部133では、複数のローラ134を用いて、流延室112から送り出された帯状の湿潤フィルム130をピンテンタ113へ搬送する。ピンテンタ113は、湿潤フィルム130の耳部を貫通して保持する多数のピンプレートを有する。ピンプレートは軌道上を移動する。ピンプレートに保持された湿潤フィルム130に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム130は乾燥し、フィルム12となる。
【0068】
ピンテンタ113及びクリップテンタ15の下流にはそれぞれ耳切装置が設けられている。耳切装置136a、136bはフィルム12の耳部12eを切り離す。この切り離された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0069】
乾燥室115には、多数のローラ140が設けられており、これらにフィルム12が巻き掛けられて搬送される。乾燥室115内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室115の通過によりフィルム12の乾燥処理が行われる。乾燥室115には吸着回収装置141が接続される。吸着回収装置141は、フィルム12から蒸発した溶剤を吸着により回収する。
【0070】
冷却室116では、フィルム12の温度が略室温になるまで、フィルム12が冷却される。冷却室116と巻取室16との間には、Z1方向上流側から下流側に向かって、フィルム12に除電処理を施す除電バー144と、フィルム12の耳部に巻き取り用のナーリングを付与するナーリング付与ローラ145とが順に設置されている。
【0071】
本発明は、ドープを流す際に、2種類以上のドープを同時に流して、個々のドープからなる層を複数有する流延膜(以下、積層流延膜と称する)を形成する同時積層共流延、または、複数のドープを逐次流して、積層流延膜を形成する逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0072】
上記実施形態では、回転する流延ドラム122の周面に流延膜128を形成したが、本発明はこれに限られず、循環移動する流延バンド上に流延膜128を形成してもよい。
【0073】
上記実施形態では、流延膜128が搬送可能な状態となるまで、流延膜128を冷却したが、本発明はこれに限られず、流延膜128が搬送可能な状態となるまで、流延膜128から溶剤を蒸発しても良い。なお、この場合において、剥ぎ取り時の流延膜128の残留溶剤量は、30重量%以上120重量%以下であることが好ましい。また、ピンテンタ113は省略してよい。
【0074】
なお、乾燥室115を前乾燥室と後乾燥室とに分け、前乾燥室と後乾燥室との間に、第2のクリップテンタ15を設けても良い。
【0075】
なお、本発明のフィルム12は、溶液製膜方法により製造されたポリマーフィルムのみならず、溶融製膜方法により製造されたポリマーフィルムについて適用できる。
【0076】
本発明により得られるフィルム12は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0077】
フィルム12の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム12の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。また、フィルム12の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0078】
また、フィルム12の面内レターデーションReは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム12の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0079】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0080】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0081】
(ポリマー)
ポリマーフィルムの原料となるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0082】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0083】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素原子数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0084】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0085】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0086】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0087】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0088】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素原子数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0089】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0090】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0091】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0092】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
10 フィルム延伸設備
12 フィルム
15 クリップテンタ
22 クリップ
23 レール
40、80 ガイド機構
42 カムフォロア
43 ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性フィルムの搬送路の両側に配されたレールと、
前記レールに沿って連設され、前記熱可塑性フィルムのうち前記搬送路の幅方向両端部を把持する把持状態及び前記両端部を開放する開放状態の間で遷移自在なクリップと、
前記レールに沿った前記クリップの移動を一定量の遊びでガイドするガイド機構と、
前記レールのうち前記クリップが前記把持状態になる把持開始位置及び前記クリップが前記開放状態になる把持解除位置の間に設けられ、前記搬送方向と平行となるように延設された等幅レール部と、
前記レールのうち前記等幅レール部と前記把持解除位置との間に設けられ、前記搬送方向下流側に向かうに従って前記搬送路の幅方向外側に向かって延設され、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高温となった前記熱可塑性フィルムの延伸が行われる拡幅レール部と、
前記レールに設けられ、前記等幅レール部及び前記拡幅レール部を接続し弓形に形成された接続レール部とを有し、
前記等幅レール部における前記ガイド機構の遊びは、前記接続レール部における前記ガイド機構の遊びよりも小さいことを特徴とするクリップテンタ。
【請求項2】
前記拡幅レール部における前記ガイド機構の遊びは、前記接続レール部における前記ガイド機構の遊びよりも小さいことを特徴とする請求項1記載のクリップテンタ。
【請求項3】
前記対となる拡幅レール部の両方が、前記搬送方向上流側から下流側に向かうに従って、前記搬送路の幅方向外側に向かって延設されたことを特徴とする請求項1または2記載のクリップテンタ。
【請求項4】
前記搬送路の両側に配されたレールのうち一方の前記レールに設けられた前記拡幅レール部は前記搬送方向に向かって延設され、
他方の前記レールに設けられた前記拡幅レール部は、前記搬送方向下流側に向かうに従って前記搬送路の幅方向外側に向かって延設されたことを特徴とする請求項1または2記載のクリップテンタ。
【請求項5】
前記ガイド機構は、
前記レールよりも前記搬送路の幅方向外側にて前記レールに沿って設けられたガイドレールと、
前記レール及びガイドレールの間に配され前記レール上を転動するカムフォロアとを備えることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のクリップテンタ。
【請求項6】
前記ガイド機構は、
前記レールのうち前記搬送路の幅方向外側に設けられた外側転動面を転動する外側カムフォロアと、
前記レールのうち前記搬送路の幅方向内側に設けられた内側ガイド面に正対する内側カムフォロアとを備えることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載のクリップテンタ。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1項記載のクリップテンタを用いて、前記熱可塑性フィルムの光学特性が所望の範囲となるように、前記熱可塑性フィルムを延伸する延伸工程を行うことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂及び溶剤を含むドープを支持体へ流出し、前記ドープからなる流延膜を支持体に形成する工程と、
前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取って前記熱可塑性フィルムとする工程と、
請求項7記載の前記延伸工程とを有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−143990(P2012−143990A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4993(P2011−4993)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】