説明

クリップ及びそれを用いたテンター装置

【課題】両耳部がカールしたフィルムなどのウエブを確実に把持できるクリップ及びそれを用いたテンター装置を提供することを目的とする。
【解決手段】クリップ本体12の左右一対の支持腕部28,26の間に第1軸部30によって回動部14が取り付けられ、回動部14の下部に第2軸部38を介して取り付けられ、かつ、下把持部24とによってウエブWを把持する上把持部16と、第3軸部44と第4軸部46とによって取り付けられたリンク部18とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、布帛、紙などのウエブを把持するクリップ及びそれを用いたテンター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ウエブの両耳部を支持する複数のクリップと、クリップを連結するテンターチェーンと、テンターチェーンで連結されたクリップを走行させるテンターレールとを備え、テンターレール上をテンターチェーンが走行することによって、クリップに把持されたウエブを走行させるテンター装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−319648号公報
【特許文献2】特開2010−247393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなテンター装置において、フィルムを走行させる場合に、このウエブの両耳部が内側にカールする場合がある。このカールしたウエブを、従来のクリップ(例えば、特許文献2に記載のクリップ)で挟んだ場合には、このカールした部分をクリップで挟めないという問題点があった。
【0005】
その理由は、従来のクリップは、上把持部が、ウエブの耳部の外側から内側に回転して、下把持部とによって両耳部を把持する。しかし、この上把持部がウエブの外側から内側に回転するときに、カールした部分を巻き込み、ウエブを挟めない。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、両耳部がカールしたウエブを確実に把持できるクリップ及びそれを用いたテンター装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ウエブを把持するために、テンター装置に用いられるクリップであって、基台と、前記基台の前部に設けられた前記ウエブを把持するための下把持部と、前記基台の後部から立設された左右一対の支持脚部と、左右一対の前記支持脚部から前方にそれぞれ突出した左右一対の支持腕部と、左右一対の前記支持腕部の間に、第1軸部によって回動自在に取り付けられた回動部と、前記回動部から下方に突出した揺動部と、
前記揺動部に第2軸部を介して回動自在に取り付けられ、かつ、前記下把持部と共に前記ウエブを把持する上把持部と、左右一対の前記支持腕部における前記第1軸部の後方にそれぞれ設けられた第3軸部と、前記上把持部における前記第2軸部の後方に設けられた第4軸部と、前記第3軸部と前記第4軸部の間に取り付けられたリンク部と、を有することを特徴とするクリップである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、両耳部がカールしたウエブでも確実に把持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態のクリップの斜視図である。
【図2】把持状態のクリップの側面図である。
【図3】離間状態のクリップの側面図である。
【図4】クリップの正面図である。
【図5】クリップの平面図である。
【図6】クリップのリンク機構を示す図である。
【図7】テンター装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を示すクリップ10と、クリップ10を複数用いたテンター装置100について図1〜図7に基づいて説明する。
【0011】
(1)テンター装置100の構成
まず、テンター装置100の構成について図7に基づいて説明する。本実施形態のテンター装置100は、クリップテンター装置である。
【0012】
テンター装置100は、左右一対の無端状のテンターチェーン106が、それぞれ駆動ホイール102,104に掛け渡されている。各テンターチェーン106には、所定間隔毎にクリップ10が取り付けられている。クリップ10が取り付けられた左右一対のテンターチェーン106は、テンターレール108の上を走行する。
【0013】
テンターレール108は、ウエブを熱処理するための熱処理室110内部に配されている。
【0014】
テンター装置100は、左右一対のテンターチェーン106に取り付けられた複数のクリップ10によってウエブW(例えば、フィルム、布帛、紙などである)を幅方向に対し一定の張力で把持し、熱処理室110内部を一定の搬送速度で通過させて、ウエブWを熱処理する。
【0015】
(2)クリップ10の構造
次に、クリップ10の構造について図1〜図5に基づいて説明する。
【0016】
クリップ10は金属製であって、クリップ本体12、回動部14、上把持部16、左右一対のリンク部18,18、付勢部20とより構成されている。
【0017】
クリップ本体12は、板状の基台22、基台22の前部に沿って設けられた下把持部24、基台22の後端部から立設された左右一対の支持脚部26,26、左右一対の支持脚部26,26から前方にそれぞれ突設された左右一対の支持腕部28,28より構成されている。クリップ本体12は、図2及び図3に示すように、側部から見た場合に基台22、支持脚部26及び支持腕部28によってコの字状に構成されている。
【0018】
下把持部24の上面は平らであって、この上面がウエブWを把持する下把持面である。
【0019】
左右一対の支持腕部28,28の間には、回動部14が、水平な第1軸部30を介して回動自在に取り付けられている。回動部14の下面中央部からは、揺動部32が下方に突出している。回動部14の上面中央部からは、操作レバー34が上方に突出している。回動部14の後面からは左右一対の軸受部36,36が突出している。回動部14、揺動部32、操作レバー34及び軸受部36,36は一体に成形されている。
【0020】
回動部14の揺動部32の下端には、第2軸部38が水平に取り付けられ、この第2軸部38を介して回動自在に上把持部16が取り付けられている。
【0021】
上把持部16は、下把持部24と当接してウエブWを把持するための上把持本体40と、この上把持本体40の上面から上方に突出した左右一対の二軸受部42,42から構成されている。二軸受部42の前部には、前記した第2軸部38が回動自在に取り付けられている。上把持本体40の下面が上把持面である。
【0022】
支持腕部28における、前記第1軸部30よりも後方の位置に、第3軸部44が水平に設けられている。上把持部16の二軸受部42における、第2軸部38よりも後方の位置に、第4軸部46が水平に設けられている。第3軸部44と第4軸部46との間には、板状のリンク部48が取り付けられている。
【0023】
左右一対の支持腕部28,28の間であって、回動部14よりも後方の位置には、付勢部20が取り付けられている。この付勢部20は、円筒状の筒体50と、筒体50の内部に挿入されているコイル状の圧縮バネ52とを有し、筒体50の前端部には第5軸部54が、回動部14の軸受部36,36によって回動自在に水平に取り付けられている。筒体50の後部には、後端部が開口した左右一対の切欠き56,56が設けられ、これら切欠き56に沿って移動自在に第6軸部58が水平に配されている。この第6軸部58の左右両端部は、左右一対の支持腕部28,28に取り付けられている。コイル状の圧縮バネ52は、筒体50内部において、第5軸部54と第6軸部58との間に配され、第5軸部54と第6軸部58とが離れるように付勢している。
【0024】
(3)クリップ10の動作状態
次に、クリップ10の動作状態について図2、図3及び図6に基づいて説明する。
【0025】
図2は上把持部16と下把持部24がウエブWを把持した状態を示し、図3は上把持部16と下把持部24がウエブWを開放した状態を示し、図6は、クリップ10が上把持部16と下把持部24とがウエブWを把持した状態の簡略化した状態を示している。
【0026】
なお、以下の説明で、第1軸部30の中心を第1支点S1、第2軸部38の中心を第2支点S2、第3軸部44の中心を第3支点S3、第4軸部46の中心を第4支点S4と記載する。また、図中の「PE」は上把持部16の後端部に位置する把持力点を示し、「PS」は上把持部16の前端部である係止点を示している。さらに、図3において、回動部14の回動に伴う上把持部16の把持力点PEの移動の軌跡も併せて記載している。
【0027】
支持腕部28、回動部14、上把持部16、リンク部48は、4節のリンクを構成しているので、操作レバー34が操作され回動部14が回動すると、リンク部48が、上把持部16を第2支点S2の回りに回動させる。上把持部16は、把持力点PEの軌跡が示すように、ほぼ垂直に下把持部24に対し把持又は離間する。なお、クリップ10の操作レバー34は、テンター装置100に設けられた不図示のレバー操作部によって操作される。
【0028】
図6に示すように、ウエブWの把持状態においては、第2支点S2は、第1支点S1と把持力点PEを結ぶ直線よりも僅かに前方に位置している。また、第4支点S4は、第3支点S3と係止点PSとを結ぶ直線より僅かに後方に位置している。この状態において、ウエブWに水平方向の張力Fが作用して、上把持部16を第4支点S4の当接面を水平方向の内側に引っ張り、上把持部16が回転して、回動部14を水平方向の外側に回動させるように作用したとする。支持腕部28、回動部14、上把持部16及びリンク部48は、前記したように4節のリンクを構成しているので、回動部14を水平方向の外側に回動するには、上把持部16を第2支点S2を中心に水平方向の外側に回動させる必要がある。しかし、第2支点S2が、第1支点S1と把持力点PEとを結ぶ直線よりも水平方向の前方に位置しているため、上把持部16を水平方向の外側に回動させるためには、一旦、角度θ1を大きくして、把持力点PEを第1支点S1から遠ざけることになる。すなわち、ウエブWの張力Fによって把持力点PEが下把持部24に押圧され、上把持部16の回動を防止しながら、上把持部16と下把持部24とのウエブWに対する摩擦力を増大させ、ウエブWより強く把持できる。
【0029】
また、把持力点PEが下把持部24から受ける反力は、回動部14の揺動部32を水平方向外側に回動させる力を生じさせる。しかし、第4支点S4が、第3支点S3と係止点PSとを結ぶ直線より後方に位置しているため、揺動部32を水平方向の外側に回動しようとすると、一旦、角度θ2を大きくして、係止点PSを下把持部24に押圧することになる。すなわち、係止点PSは、揺動部32の回動範囲の水平方向の前端を定めるストッパーとして機能する。これによって、クリップ10は、把持力点PEが下把持部24に対する十分な把持力を発揮する状態で、ウエブWを把持できる。
【0030】
このように、ウエブWは、その張力Fによって揺動部32を水平方向の外側に回動させることはできない。しかし、操作レバー34は、回動部14を回動させる方向に直接力を作用させるので、第1支点S1、第2支点S2及び把持力点PEが直線上に並ぶように、角度θ2を一旦大きくして、上把持部16及び下把持部24から離間させることができる。
【0031】
また、上把持部16と下把持部24が把持状態にあるときには、筒体50が図2に示すように、第4軸部46が第5軸部54よりも下方に位置しているため、圧縮バネ52の付勢力によって、その把持状態を維持できる。
【0032】
一方、上把持部16と下把持部24の離間状態にあるときは、図3に示すように、筒体50の第4軸部46が第5軸部54よりも上方に位置しているため、圧縮バネ52の付勢力によって、その離間状態を維持できる。
【0033】
上記したようにクリップ10の上把持部16が、ウエブWを把持する場合には、把持力点PEがほぼ垂直に下方に移動してウエブWを把持する。そのため、ウエブWの両耳部が図3のように内側にカールしていても、このカールした部分に、上把持部16が接触すること無く、確実にウエブWを把持できる。
【0034】
(4)効果
以上により、本実施形態のクリップであると、両耳部がカールしたウエブWであっても確実に把持し、また離間できる。したがって、従来のクリップのようにウエブWを挟めないということがない。
【0035】
(5)変更例
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
10・・・クリップ、12・・・クリップ本体、14・・・回動部、16・・・上把持部、18・・・リンク部、20・・・付勢部、22・・・基台、24・・・下把持部、26・・・支持脚部、28・・・支持腕部、30・・・第1軸部、32・・・揺動部、34・・・操作レバー、36・・・軸受け部、38・・・第2軸部、40・・・上把持本体、42・・・軸受け部、44・・・第3軸部、46・・・第4軸部、50・・・筒体、52・・・圧縮バネ、100・・・テンター装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブを把持するために、テンター装置に用いられるクリップであって、
基台と、
前記基台の前部に設けられた前記ウエブを把持するための下把持部と、
前記基台の後部から立設された左右一対の支持脚部と、
左右一対の前記支持脚部から前方にそれぞれ突出した左右一対の支持腕部と、
左右一対の前記支持腕部の間に、第1軸部によって回動自在に取り付けられた回動部と、
前記回動部から下方に突出した揺動部と、
前記揺動部に第2軸部を介して回動自在に取り付けられ、かつ、前記下把持部と共に前記ウエブを把持する上把持部と、
左右一対の前記支持腕部における前記第1軸部の後方にそれぞれ設けられた第3軸部と、
前記上把持部における前記第2軸部の後方に設けられた第4軸部と、
前記第3軸部と前記第4軸部の間に取り付けられたリンク部と、
を有することを特徴とするクリップ。
【請求項2】
前記上把持部と前記下把持部との把持状態で、前記第2軸部の中心が、前記上把持部の把持面の後端の把持力点と前記第1軸部の中心とを結ぶ直線よりも前方に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記上把持部と前記下把持部との把持状態で、前記第4軸部の中心が、前記上把持部の把持面の後端の係止点と前記第3軸部の中心とを結ぶ直線よりも後方に位置する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記上把持部は、前記下把持部の前記把持面と当接する上把持本体と、前記上把持本体の上部から突出した左右一対の二軸受け部とを有し、
前記左右一対の二軸受け部に前記第2軸部と前記第3軸部とがそれぞれ取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項5】
前記上把持部と前記下把持部とを把持状態に付勢する付勢部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項6】
前記回動部を回動させるための操作レバーが、前記回動部から上方に突出している、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項7】
前記上把持部の把持面と前記下把持部の把持面とが共に、平らな面である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項8】
ウエブの搬送路の両側にそれぞれ配された一対の無端状のテンターチェーンと、
前記一対のテンターチェーンに所定間隔毎にそれぞれ取り付けられた請求項1に記載のクリップと、
を有することを特徴とするテンター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−39744(P2013−39744A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178377(P2011−178377)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(390002015)ヒラノ技研工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】