説明

クリップ装置

【課題】鉄粉の飛散や騒音の問題がなく、高速で運転してもテンタークリップが安定して開閉するクリップ装置を提供する。
【解決手段】テンタークリップ(5)のクリップレバー(16)の頭部(20)を磁性材料から構成する。クリップクローザ(8)およびクリップオープナ(9)を、頭部(20)の回転軌道の外方に所定の隙間を空けて配置された複数個の磁石(21、22、…)から構成する。この複数個の磁石は、テンタークリップ(5)の走行方向に沿って互いに隣接する第1、2の列(46、47)に並べる。そして、第1の列(46)の磁石は下方にS極が、第2の列(47)の磁石は下方にN極が向くように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムを幅方向に延伸する延伸装置に設けられ、該フィルムの両端部を把持して幅方向に延伸するクリップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配向性のある樹脂で成形されたフィルムを軟化点と融点との中間の温度雰囲気で引き延ばすと、延伸方向の引っ張り強度の大きなフィルムが得られるが、このような強度の大きなフィルムを得るための装置は、延伸装置として従来周知である。延伸装置には、フィルムを長さ方向の1方向だけ延伸する1軸延伸装置や、長さ方向と幅方向の2方向に延伸できる2軸延伸装置が知られているが、2軸延伸装置のようにフィルムを幅方向に延伸する延伸装置にはクリップ装置が設けられている。クリップ装置は、図5の(ア)に示されているように、一対のレールによって案内されて広がりながらエンドレスに走行する2本のチェーンT、T’、これらのチェーンT、T’に所定の間隔に取り付けられている複数個のテンタークリップTC、TC、…、所定の温度雰囲気に保たれている炉Rの入り口の近傍に配置されている一対のクリップクローザC、C’、炉Rの出口近傍に配置されている一対のクリップオープナO、O’等から構成されている。
【0003】
フィルムの両耳部を把持してチェーンT、T’に牽引されて走行するテンタークリップTCも従来周知で、例えば特許文献1に開示され、図5の(イ)に示されているように、把持台b、この把持台bの両側部からアーチ状に立ち上がっているアームa、(a)、これらのアームa、(a)の先端部に軸支されているクリップレバーr等から構成されている。クリップレバーrは、スプリングsで時計回りに回動するように付勢されており、クリップレバーrの下方の把持部r’は、把持台bに圧接された状態になっているが、クリップレバーrをバネ力に抗して反時計回りに回動して回転角が所定の角度を超えると、クリップレバーrは反時計回りに回動するように付勢され、開いた状態が維持されるようになっている。クリップクローザC、C’も例えば特許文献2に示されているように従来周知で、一般に図5の(イ)に示されているように、延伸するフィルムFに垂直な鉛直軸J、この鉛直軸JにホルダHを介して水平に取り付けられている所定径の円盤状のウエアディスクD等から構成されている。
【0004】
したがって、テンタークリップTC、TC、…がチェーンT、T’に取り付けられて走行するとき、炉Rの入口近傍において、開いた状態のテンタークリップTC、TC、…に延伸するフィルムFが供給され、クリップレバーrの上方部r”がクリップクローザC、C’のウエアディスクDにより押されると、把持部r’が把持台bに圧接して、スプリングsによって圧接状態が維持される。すなわち、フィルムFはその両耳部が把持される。そして、テンタークリップTC、TC、…は、図5の(ア)に示されているように、炉R内を幅方向に少しずつ離間するように、すなわち広がりながら走行する。そうすると、フィルムFは幅方向に延伸される。炉Rの出口において、クリップオープナO、O’がクリップレバーrの上方部r”に作用すると、把持部r’はスプリングsに抗して開く。そうすると、把持部r’は把持台bから離間して、フィルムFは解放され、クリップレバーrはスプリングsによって開いた状態が維持される。所定の倍率に延伸されたフィルムFは、開放されて次の工程に送られる。
【0005】
このように、クリップレバーrがクリップクローザC、C’に接触して、フイルムは把持され、クリップオープナO、O’に接触して解放されるようになっているが、クリップレバーrとクリップクローザC、C’あるいはクリップオープナO、O’との接触は衝撃的である。この衝撃的な接触によりこれらの部品は摩耗し、また騒音が発生してしまう。さらには、摩耗によって発生した鉄粉が、製品のフィルムに付着すると、フィルムの品質に悪影響を及ぼす。そこで、磁石の磁力を利用して、クリップクローザC、C’またはクリップオープナO、O’と非接触にクリップレバーrを開閉することができる、色々なクリップ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平4ー38982号公報
【特許文献2】特開昭59−48123号公報
【特許文献3】特開平04−58774号公報
【特許文献4】特許第3422040号公報
【特許文献5】特許第3936739号公報
【0007】
特許文献3には、クリップレバーの先端部とクリップクローザとクリップオープナのそれぞれに永久磁石が設けられ、磁石の斥力によってテンタークリップを開閉するクリップ装置が記載されている。クリップレバーは磁力によってクリップクローザやクリップオープナと反発するので、テンタークリップはこれらにより非接触に開閉されることになる。
【0008】
特許文献4には、永久磁石からなるクリップクローザとクリップオープナによって、磁石の引力によってテンタークリップを開閉するクリップ装置が記載されている。特許文献4に記載のクリップ装置によると、クリップクローザは複数個の扇形状を呈する永久磁石からなり、クリップレバーの回転半径よりもわずかに外方に設けられ、下流に向かってクリップレバーの回転角が少しずつ大きくなるように互いにずらして並べられている。従って、テンタークリップが下流に走行するにつれて、鉄製のクリップレバーの先端部がクリップクローザから磁力を受けて、クリップレバーは回転角が少しずつ大きくなるように回動する。すなわち、テンタークリップは非接触で開くことになる。同様にクリップオープナは、クリップレバーの回転半径よりもわずかに外方に、下流に向かってクリップレバーの回転角が少しずつ小さくなるように並べられているので、テンタークリップは非接触で閉じられる。
【0009】
特許文献5には、永久磁石からなるクリップクローザとクリップオープナによって、引力によってテンタークリップを開閉するクリップ装置が記載されている。特許文献5に記載のクリップ装置においては、クリップレバーの先端部は、断面形状がU字状を呈するように先端が切り欠かれているので、切欠によって小面積になっているクリップレバーの先端部には、磁力線が密に集中することになる。すなわち、クリップクローザとクリップオープナを構成している永久磁石から、強い引力を受けることになる。特許文献5に記載のクリップ装置も、特許文献4に記載のクリップ装置と同様に、磁石の引力によってテンタークリップが非接触で開閉される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3〜5に記載のいずれのクリップ装置においても、テンタークリップの開閉の際に、クリップレバーとクリップクローザまたはクリップオープナは、直接接触しないので、摩耗の問題や騒音の問題はない。従って、クリップレバークリップクローザ、クリップオープナ等から鉄粉が生じて、フィルムに付着することもない。しかしながら、これらのクリップ装置には解決すべき問題点も見受けられる。例えば、特許文献3に記載のクリップ装置においては、クリップレバーのそれぞれに永久磁石が設けられているので磁石の個数が多く、このような永久磁石には強い磁力を得るために高価な材料が使用されているので、クリップ装置が高価になってしまう。さらには、クリップレバーは高温に加熱された炉の中に入れられるので、永久磁石が高温に晒されて劣化して、磁力が減少するという問題もある。
【0011】
特許文献4または特許文献5に記載のクリップ装置にも問題が認められる。特許文献4または特許文献5には、クリップクローザまたはクリップオープナを構成している複数個の永久磁石の配置方法、すなわち極性を有する個々の永久磁石をどのように配置すべきかについては格別に記載されていない。すなわち、N極とS極をどのように配置すべきかについて記載されていない。例えば、強力な磁力を有する複数個の永久磁石を並べるとき、隣り合う2個の永久磁石を、一方の永久磁石のN極と他方の永久磁石のS極が隣接するように並べると、互いに反発しないので配置しやすい。しかしながら、永久磁石がこのように並べられているとすると、複数個の永久磁石によって形成される磁力線に密な部分と粗な部分が生じてしまう。そうすると、クリップレバーへの磁力の引力が不均一になってしまう。クリップ装置を比較的低速、例えば延伸するフィルムの速度が100m/分になるように運転する場合には問題は生じないが、500m/分等の高速で運転する場合には、磁力線の疎密の影響が大きくなってしまい、テンタークリップが安定して開閉されなくなってしまう。一方、単純に全ての永久磁石のN極が揃うように並べられているとすると、磁力線が互いに反発して拡散してしまい、クリップクローザとクリップレバーとの間に適切な磁力の引力が得られなくなってしまうことになる。このように、特許文献4、5のそれぞれに記載のクリップ装置においては、極性を有する個々の永久磁石の配置について格別に考慮されていないので、クリップ装置を高速に運転するときに、テンタークリップの開閉が安定しないという問題がある。
【0012】
永久磁石に付着する鉄粉の問題も認められる。特許文献3〜5に記載のクリップ装置においては、クリップレバーはクリップクローザあるいはクリップオープナには接触しないので、これらから鉄粉が発生することはない。しかしながら、他の装置から発生する鉄粉が永久磁石に付着して、これらが落下してフィルムに付着し、フィルムの品質に影響を与える場合がある。従って、永久磁石に付着してしまった鉄粉を定期的に除去する清掃作業が必要であるが、特許文献3〜5に記載のクリップ装置においては永久磁石は露出していて分解できる構造になっていないので、付着した鉄粉を除去するのは困難である。
【0013】
本発明は、上記したような問題点を解決したクリップ装置を提供することを目的としており、具体的には、鉄粉の飛散や騒音の問題がなく、高温によって永久磁石が劣化することもなく、クリップ装置を高速で運転しても安定してテンタークリップを開閉でき、鉄粉の清掃も容易なクリップ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために、クリップ装置において、テンタークリップのクリップレバーは、その頭部を磁性材料から構成し、クリップクローザ、およびクリップオープナは、それぞれクリップレバーの前記頭部の回転軌道の外方に所定の隙間を空けて配置された複数個の磁石から構成する。そして、このような複数個の永久磁石は、テンタークリップの走行方向に沿って互いに隣接する第1、2の列に並べられ、第1の列の磁石はクリップレバーの頭部にS極が対向するように、第2の列の磁石はクリップレバーの頭部にN極が対向するようにそれぞれ配置される。さらに、各列の磁石は、走行方向の下流に向かって少しずつずらして配置する。
【0015】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、フィルムを把持するテンタークリップと、該テンタークリップを閉じるクリップクローザと、該テンタークリップを開くクリップオープナとを備え、前記テンタークリップによってフィルムの両端部を把持して該フィルムを幅方向に延伸するクリップ装置において、前記テンタークリップは、頭部が磁性材料から構成されているクリップレバーを備え、前記クリップレバーはベースから立ち上がったアームに回転可能に軸支され、第1の回転位置を採ると前記テンタークリップが閉じられて前記ベースと前記クリップレバーの把持部によってフィルムが把持され、第2の回転位置を採ると前記テンタークリップが開かれて前記フィルムが解放されるようになっており、前記クリップクローザ、および前記クリップオープナは、前記クリップレバーの前記頭部の回転軌道の外方に所定の隙間を空けて配置された複数個の磁石から構成され、前記複数個の磁石は、前記テンタークリップの走行方向に沿って互いに隣接する第1、2の列に並べられ、前記第1の列の磁石は前記クリップレバーの頭部にS極が対向するように、前記第2の列の磁石は前記クリップレバーの頭部にN極が対向するようにそれぞれ配置され、各列の磁石は、走行方向の下流に向かって少しずつずらされて、それによって前記テンタークリップが走行するとき、前記クリップレバーの頭部が磁力の引力を受けて、前記第1の回転位置から前記第2の回転位置に、あるいは前記第2の回転位置から前記第1の回転位置に回転して、前記テンタークリップが開閉するように構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のクリップ装置において、前記複数個の磁石は、それぞれ非磁性材料からなる所定のケースに入れられているように構成され、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のクリップ装置において、前記第1の列のそれぞれの磁石と、前記第2の列のそれぞれの磁石とは、互いに隣接する2個の磁石からペアが形成され、それぞれのペアは、非磁性材料からなる同一のケースに入れられるように構成される。
そして、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載のクリップ装置において、前記クリップレバーの頭部は、飽和磁束密度が1.0T以上の磁性材料から構成され、前記複数個の磁石と前記クリップレバーの前記頭部の回転軌道の隙間は、3〜5mm空けられるように構成される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によると、クリップ装置において、テンタークリップのクリップレバーは、その頭部を磁性材料から構成され、クリップクローザおよびクリップオープナは、それぞれクリップレバーの前記頭部の回転軌道の外方に所定の隙間を空けて配置された複数個の磁石から構成されているので、テンタークリップの開閉は、クリップクローザやクリップオープナと非接触的に行われ、鉄粉の飛散や騒音の問題がない。また、永久磁石はクリップクローザやクリップオープナにしか設けられていないので、高温によって永久磁石が劣化することもない。そして、このような複数個の永久磁石は、テンタークリップの走行方向に沿って互いに隣接する第1、2の列に並べられ、第1の列の磁石はクリップレバーの頭部にS極が対向するように、第2の列の磁石はクリップレバーの頭部にN極が対向するようにそれぞれ配置されているので、第1の列と第2の列の間に密に磁力線が分布する。すなわち、磁力線は第2の列のN極から第1の列のS極に向かい、テンタークリップの走行方向を横切るように分布する。このような磁力線は均一に分布するので、クリップレバーの頭部には安定した引力が作用する。従って、クリップ装置を高速で運転しても安定してテンタークリップを開閉することができる。また、本発明によると、永久磁石は非磁性材料からなる所定のケースに入れられているので、ケースの表面に鉄粉が付着しても、永久磁石をケースから取り出すだけで容易に鉄粉を除去することができ、クリップ装置の清掃が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るクリップ装置を模式的に示す図であり、その(ア)はクリップ装置を備えた延伸装置を示す上面図、その(イ)はテンタークリップを示す側面図、その(ウ)はクリップクローザあるいはクリップオープナの一部を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態に係る磁気回路ユニットと、磁気回路ユニットを固定している固定盤を示す側面断面図である。
【図3】本実施の形態に係るクリップ装置の作用を説明するための図であり、その(ア)〜(ウ)は、クリップクローザあるいはクリップオープナによって開閉するテンタークリップのそれぞれの状態を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るクリップ装置において、装置に必要な条件を示すグラフであり、その(ア)はクリップ走行速度に対して必要となるクリップクローザまたはクリップオープナの必要な長さを、その(イ)は永久磁石とクリップレバーの頭部との間隔と、それらの間に発生する引力の関係を、それぞれ示すグラフである。
【図5】従来技術を示す図で、その(ア)は従来技術に係るクリップ装置を備えた延伸装置を示す上面図、その(イ)は従来技術に係るテンタークリップとクリップクローザを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係るクリップ装置1も、図1の(ア)に示されているように、概略、一対の循環するレール2、2にガイドされて走行するチェーン3、3、これらのチェーン3、3に連続的に取り付けられている複数個のテンタークリップ5、5、…、炉6の入り口の近傍に配置され、テンタークリップ5、5、…を閉じる一対のクリップクローザ8、8、炉Rの出口近傍に配置されテンタークリップ5、5を開く一対のクリップオープナ9、9等から構成されている。一対のレール2、2は、炉6内においてその間隔が下流に向かって広がっており、炉6内は所定の温度雰囲気に保たれているので、テンタークリップ5、5、…によって両耳部を把持されたフィルム10が下流に送られるとき、幅方向に延伸されることになる。
【0019】
本実施の形態に係るテンタークリップ5は、図1の(イ)に示されているように、従来周知のテンタークリップと類似した構成を有している。すなわち、テンタークリップ5は、チェーン3のリンク11の上面に固定されているベース13と、クリップレバー16とから構成され、クリップレバー16は、ベース13から立ち上がり、そして片持ち梁状に水平に延びているアーム14(14)に、所定の軸受部15によって、回動自在に軸受されている。クリップレバー16は、軸受部15において所定の角度で屈折しており、図1の(イ)において、軸受部15より下方の部分は短く、上方の部分は長く形成されている。そして、短い方の端部はフィルム10を把持する把持部18になっており、クリップレバー16が、図1の(イ)において実線で示されている第1の回転位置を採ると、フィルム10がベース13と把持部18とで挟まれて把持され、一点鎖線で示されている第2の回転位置を採ると、フィルム10が解放されるようになっている。図1の(イ)には示されていないが、クリップレバー16は所定のバネによって付勢されており、クリップレバー16が第1の回転位置にあるときにはこの回転位置で維持され、バネの弾性力に抗してクリップレバー16を回転して所定の回転角を超えると、第2の回転位置の方向に付勢されて、第2の回転位置で維持されるようになっている。
【0020】
図1の(イ)において、クリップレバー16の上方の端部すなわちクリップレバー16の頭部20は、飽和磁束密度が1.0T(テスラ)以上の磁性材料から、所定の大きさに形成されている。従って、後で説明するクリップクローザやクリップオープナを構成している磁石の磁力によって強い引力を受けることになる。頭部20を形成する磁性材料としては、球状黒鉛鋳鉄、FCD450(飽和磁束密度1.58T)、低炭素鋼、S25C(飽和磁束密度1.7T)、フェライト系不銹鋼であるSUS430(飽和磁束密度1.7T)等を適用することができる。
【0021】
クリップクローザ8とクリップオープナ9は、いずれも、所定の配列に並べられた複数個の磁石から構成されている。図1の(ウ)には、8個の永久磁石21、22、…と、これらの磁石21、22、…が取り付けられている固定盤26とが示されている。クリップクローザ8とクリップオープナ9は、それぞれ、3個以上のこのような固定盤26から構成されており、それによって複数個の永久磁石が連続して配置され、クリップレバー16を引力によって回転してテンタークリップ5を開閉するようになっている。
【0022】
固定盤26は所定の厚さの鋼板から形成され、端部近傍にはボルト挿入孔が明けられたクレビス28、28が形成されている。このクレビス28、28には、ボルト31、31により、外部に設けられている2本の所定の固定棹30、30が連結されている。固定盤26は、矢印32で示されているようにクレビス28、28を中心に所定の角度に回転することができ、所定の調整された角度で、ボルト31、31とナットによって固定されている。このような固定盤26には、鋼板を貫通する軸方向に所定長さの溝33、33、…が4本明けられている。これらの溝33、33、…のそれぞれには、ボルト36、36、…が挿通され、これらのボルト36、36、…に2個の永久磁石21、22からなる磁気回路ユニット35、35、…がそれぞれ取り付けられている。ボルト36、36、…が挿通されている溝33、33、…は、軸方向に所定長さに形成されているので、磁気回路ユニット35、35、…を、矢印38方向にスライドさせて任意の位置に固定することができる。
【0023】
磁気回路ユニット35について、図2によって詳しく説明する。磁気回路ユニット35は、長方形の板状を呈するヨーク40と、所定のスペーサ42を挟んでヨーク40に固定されている第1、2の永久磁石21、22と、これらが格納されているケース41とから構成されている。第1、2の永久磁石21、22は、サマリュウムコバルト磁石、ネオジム磁石等の強力な磁力を有する、いわゆる希土類磁石から構成されており、第1、2の永久磁石21、22は極性が反対向きになるように配置されている。すなわち、第1の永久磁石21はN極が、第2の永久磁石はS極がそれぞれヨーク40に固定されている。ヨーク40は、SS400、またはSUS430からなる磁性材料から構成されているので、磁気回路ユニット35には、磁力線44、44で示されているように、第1の永久磁石21と第2の永久磁石22とヨーク40を循環すると共に、磁力線が密に集中した磁気回路が形成されることになる。ケース41は、SUSU304、またはアルミニウム等の非磁性材料から構成され、肉厚は1mm程度になっているので、実質的に磁力線44、44はケース41には影響されない。第1、2の永久磁石21、22は、このようなケース41に格納されているので、周囲に浮遊している鉄粉が強力な磁力によって吸い寄せられてケース41の表面に付着したとしても、第1、2の永久磁石21、22をケース41から取り出すだけで、鉄粉をケース41から分離することができる。すなわち、鉄粉を容易に除去できるようになっている。
【0024】
このような磁気回路ユニット35、35、…の、固定盤26への固定方法を説明する。各磁気回路ユニット35、35、…は、それぞれクリップレバー16の頭部20の回転軌道の外方に、頭部20と所定の隙間tを空けて対向するように固定盤26に固定されている。この隙間tは2〜4mmになるように、所定のシムが磁気回路ユニット35、35、…と固定盤26の間に挿入されて調整されている。すなわち、ケース41を除いて考えると、第1、2の永久磁石21、22と頭部20の隙間は3〜5mmに維持されている。そして、4個の磁気回路ユニット35、35は、図1の(ウ)に示されているように、隣り合う永久磁石の極性が揃うように配置されて固定盤26に取り付けられている。すなわち、第1の永久磁石21、21、…が隣接して並び、かつ第2の永久磁石22、22、…が隣接して並ぶように配置されている。そうすると、第1の永久磁石21、21、…からなる、頭部20にS極が対向する第1の列46の磁石と、第2の永久磁石22、22、…からなる、頭部20にN極が対向する第2の列47の磁石が、テンタークリップ5の走行方向に沿って配置されることになる。このように配置されているので、第1の列46と第2の列47の間に磁力線の乱れの少ない均一な磁気回路が形成されて、クリップレバー16の頭部20が強力に引き寄せられることになる。なお、クリップレバー16の頭部20にはこのように強い引力が作用するので、第1、2の永久磁石21、22と頭部20の隙間が一定に維持されるように、テンタークリップ5、5、…が固定されているチェーン3には、6.0〜10.0kNのクリップ張力、すなわちテンションが与えられている。
【0025】
クリップクローザ8は、少なくとも3個以上の固定盤26の集合体からなり、これらの固定盤26、26、…はテンタークリップ5の走行方向に沿って少しずつずらされるようにして配置されている。すなわち、最上流の固定盤26は、図3の(ア)に示されているように、磁気回路ユニット35がクリップレバー16の軸受部15の鉛直上方に位置するように配置され、隣接する下流側の固定盤26は、図3の(イ)に示されているように、磁気回路ユニット35が軸受部15の鉛直上方から15°傾けられるように配置され、最下流の固定盤26は、図3の(ウ)に示されているように、磁気回路ユニット35が軸受部15の鉛直上方から30°傾けられるように配置されている。このように配置されているので、第1、2の列46、47の磁石は、走行方向の下流に向かって少しずつずらされることになる。同様に、クリップオープナ9も、3個以上のこのような固定盤26からなり、固定盤26、26、…はテンタークリップ5の走行方向に沿って少しずつずらされるようにして配置されているが、最上流の固定盤26は図3の(ウ)に示されているように、その下流の固定盤26は図3の(イ)に示されているように、最下流の固定盤26は図3の(ア)に示されているようにそれぞれ配置されている。
【0026】
本実施の形態に係るクリップ装置1の作用を説明する。図1の(ア)に示されているように、チェーン3がレール2にガイドされて走行すると、テンタークリップ5、5、…が矢印で示されている方向に走行する。テンタークリップ5、5、…は、開いた状態でクリップクローザ8に到達するが、クリップクローザ8を構成している最上流の固定盤26、その下流の固定盤26、最下流の固定盤26を経由すると、図3の(ア)、(イ)、(ウ)で示されるように、クリップレバー16の頭部20は、磁気回路ユニット35からの引力を受けて回転する。そうすると、フィルム10の端部すなわち耳部はベース13とクリップレバー16の把持部18に挟まれる。すなわち、テンタークリップ5によって把持される。このとき、他方の耳部も他のテンタークリップ5によって把持される。図1の(ア)に示されているようにフィルム10は、テンタークリップ5、5、…に両耳部を把持されて搬送され、炉6内を通過するときに幅方向に延伸される。テンタークリップ5、5、…がクリップオープナ9に到達して、クリップオープナ9を構成している最上流の固定盤26、その下流の固定盤26、最下流の固定盤26を経由すると、図3の(ウ)、(イ)、(ア)で示されるように、クリップレバー16の頭部20は、磁気回路ユニット35からの引力を受けて回転する。そうすると、フィルム10の耳部は解放される。延伸されたフィルム10は、図示されていない巻取機等に引き取られる。
【実施例1】
【0027】
本実施の形態に係るクリップ装置1を備えた延伸装置において、フィルムの延伸の実験を行った。
○ 実験に使用されたフィルムについて
材料 : ポリプロピレン
厚さ : 100μm
幅 : 2m
○ クリップクローザ8について (クリップオープナ9も同様の条件)
第1、2の永久磁石21、22の、テンタークリップの走行方向の幅 : 40mm
固定盤26の個数 : 3個 (磁気回路ユニット35の個数は3×4=12個)
このときの、クリップクローザ8/クリップオープナ9のテンタークリップ走行方向の長さは、40mm×12個=480mmである。
上の条件で、延伸の実験を実施したところ、延伸装置の出口で測定されるフィルムの速度を、450m/minの高速で運転しても、テンタークリップ5、5、…は安定して開閉されることが確認できた。
【実施例2】
【0028】
クリップクローザ8とクリップオープナ9の条件を変更して同様の実験を行った。
○ クリップクローザ8について (クリップオープナ9も同様の条件)
第1、2の永久磁石21、22の、テンタークリップの走行方向の幅 : 40mm
固定盤26の個数 : 4個 (磁気回路ユニット35の個数は4×4=16個)
このときの、クリップクローザ8/クリップオープナ9のテンタークリップ走行方向の長さは、40mm×16個=640mmである。
上の条件で、延伸の実験を実施したところ、延伸装置の出口で測定されるフィルムの速度を、550m/minの高速で運転しても、テンタークリップ5、5、…は安定して開閉されることが確認できた。
【0029】
テンタークリップ5を安定して開閉するために、装置に要求される条件を実験によって得た。図4の(ア)のグラフには、テンタークリップ5の走行速度に対して、クリップクローザ8、またはクリップオープナ9の必要な長さ、すなわちテンタークリップ5の走行方向における長さが示されている。図4の(イ)のグラフには、クリップレバー16の頭部20と第1、2の永久磁石21、22の間隔と、それらの間に作用する引力の関係が示されている。3〜5mmの間隔になるように調整すると、最適な引力が得られる。
【0030】
本発明の実施の形態は色々な変形が可能である。例えば、第1の磁石21と第2の磁石22は、異なる向きに配置されていても同様に実施できる。すなわち、磁気回路ユニット35において、第1の磁石21はS極が、第2の磁石22はN極がそれぞれヨーク40に固定されるようにしてもよい。また、固定盤26の個数についても4個、または5個であっても同様に実施することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 クリップ装置 2 レール
3 チェーン 5 テンタークリップ
8 クリップクローザ 9 クリップオープナ
10 フィルム
16 クリップレバー 18 把持部
20 頭部
21 第1の永久磁石 22 第2の永久磁石
26 固定盤 35 磁気回路ユニット
46 第1の列 47 第2の列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを把持するテンタークリップと、該テンタークリップを閉じるクリップクローザと、該テンタークリップを開くクリップオープナとを備え、前記テンタークリップによってフィルムの両端部を把持して該フィルムを幅方向に延伸するクリップ装置において、
前記テンタークリップは、頭部が磁性材料から構成されているクリップレバーを備え、前記クリップレバーはベースから立ち上がったアームに回転可能に軸支され、第1の回転位置を採ると前記テンタークリップが閉じられて前記ベースと前記クリップレバーの把持部によってフィルムが把持され、第2の回転位置を採ると前記テンタークリップが開かれて前記フィルムが解放されるようになっており、
前記クリップクローザおよび前記クリップオープナは、前記クリップレバーの前記頭部の回転軌道の外方に所定の隙間を空けて配置された複数個の磁石から構成され、
前記複数個の磁石は、前記テンタークリップの走行方向に沿って互いに隣接する第1、2の列に並べられ、前記第1の列の磁石は前記クリップレバーの頭部にS極が対向するように、前記第2の列の磁石は前記クリップレバーの頭部にN極が対向するようにそれぞれ配置され、各列の磁石は、走行方向の下流に向かって少しずつずらされ、それによって前記テンタークリップが走行するとき、前記クリップレバーの頭部が磁力の引力を受けて、前記第1の回転位置から前記第2の回転位置に、あるいは前記第2の回転位置から前記第1の回転位置に回転して、前記テンタークリップが開閉するようになっていることを特徴とするクリップ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクリップ装置において、前記複数個の磁石は、それぞれ非磁性材料からなる所定のケースに入れられていることを特徴とするクリップ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のクリップ装置において、前記第1の列のそれぞれの磁石と、前記第2の列のそれぞれの磁石とは、互いに隣接する2個の磁石からペアが形成され、それぞれのペアは、非磁性材料からなる同一のケースに入れられていることを特徴とするクリップ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のクリップ装置において、前記クリップレバーの頭部は、飽和磁束密度が1.0T以上の磁性材料から構成され、
前記複数個の磁石と前記クリップレバーの前記頭部の回転軌道の隙間は、3〜5mm空けられていることを特徴とするクリップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−31528(P2011−31528A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180987(P2009−180987)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】