説明

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【課題】雌部材にどの向きで雄部材を挿入しても円滑に係合可能で、この係合の解除を雄部材の一方向への回動操作により円滑になし得るようにする。
【解決手段】雌部材Fの受け入れ穴5内には雄部材Mの軸部2の先端20の第一カム部C1に対する第一摺接部Cf1と、雄部材Mの軸部2の中間の係合突部21に対する係合凹部32と、受け入れ穴5の穴口50にあって雄部材Mの係合突部21に形成された第二カム部C2に対する第二摺接部Cf2とが形成されている。受け入れ穴5への軸部2の挿入時に、第一カム部C1と第一摺接部Cf1の摺接と第二カム部C2と第二摺接部Cf2との摺接により係合凹部32に係合突部21を係合可能とする雄部材Mの往動回動が促される。この係合状態から雄部材Mを復動回動させたときに第二カム部C2と係合凹部32の内壁との摺接により係合凹部32から係合突部21を抜け出させる向きの弾性変形が促される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、雄部材とこれを受け入れる雌部材とから構成され、両者の組み合わせ係合状態において雌部材の取り付けられる一方側取付対象に他方側取付対象を連結させるように用いられるクリップの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
グロメット本体と固定ピンからなるグロメット(留め具)において、グロメット本体への固定ピンの挿入時に固定ピンの先端に形成された係止爪がグロメット本体内に形成された固定用突起の直上に位置されない場合に、固定ピンの係止爪に摺接してこの位置までの固定ピンの回転を促す面取り部(カム部)をグロメット本体の入り口に形成させたものがある。(特許文献1参照)
【0003】
かかるグロメットにあっては、どの向きで固定ピンをグロメット本体に挿入しても両者を円滑に係合可能とするものであるが、両者の分離にあたってはかかる係合を解く大きさの力でグロメット本体内から固定ピンを引き抜くほかないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平4−29124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、この種の留め具(クリップ)において、雌部材にどの向きで雄部材を挿入しても両者を円滑に係合できるようにしながら、その係合の解除も挿入された雄部材の一方向への回動操作により円滑になし得るようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、クリップを、頭部と軸部とを備えた雄部材と、
基部と一方側取付対象に形成された取り付け穴への嵌め込み部とを有すると共に、前記基部に穴口を持って前記嵌め込み部内に続く前記雄部材の軸部の受け入れ穴を備えた雌部材とからなり、
前記受け入れ穴に前記軸部を所定位置まで挿入した組み合わせ係合状態において雄部材の頭部と雌部材の基部との間で他方側取付対象を保持するように構成されたクリップであって、
前記雌部材の受け入れ穴内には、前記雄部材の軸部の先端に形成された第一カム部に対する第一摺接部と、
この第一摺接部の側方にあって前記雄部材の軸部の中間に形成された係合突部に対する係合凹部と、
前記受け入れ穴の穴口にあって前記雄部材の係合突部に形成された第二カム部に対する第二摺接部とが形成されており、
前記受け入れ穴への軸部の挿入時に、前記第一カム部と第一摺接部の摺接とこれに続く前記第二カム部と第二摺接部との摺接により前記係合凹部に係合突部を係合可能とする前記雄部材の往動回動が促されるようになっていると共に、
前記係合凹部と係合突部とが係合された状態から前記雄部材を復動回動させたときに前記第二カム部と係合凹部の内壁との摺接により前記係合凹部から係合突部を抜け出させる向きの弾性変形が促されるようになっているものとした。
【0007】
雌部材の受け入れ穴に雄部材の軸部を、係合突部が係合凹部に入り込まない向き、つまり、係合突部が係合凹部の直上に位置しない向きで挿入しようとしたときは、第一摺接部が第一カム部に当接してこの向きでの受け入れ穴への軸部の進入が阻止されるが、第一カム部の案内によって前記係合突部が係合凹部に入り込む位置に向けて雄部材を往動回動させることができる。そして、前記第一摺接部と第一カム部によって雄部材が往動回動され受け入れ穴の穴口に係合突部の第二カム部が位置される位置まで受け入れ穴内に軸部が進入されると、第二カム部に第二摺接部が接し、この第二カム部の案内によって前記係合突部が係合凹部に係合可能となる位置までさらに雄部材を往動回動させることができる。それと共に、このように雄部材と雌部材とを係合・組み合わせた状態を、前記第二カム部と係合凹部の入り口部分との摺接により、雄部材の復動回動操作によって、円滑に解除させることができる。前記第二カム部及び係合凹部と係合突部とが係合された状態においてこの第二カム部に向き合う係合凹部の内壁の双方又はいずれか一方は、雄部材の軸部の軸線を巡る向きにおいて、この軸線に次第に近づく傾きをもった傾斜面によって構成しておくことが好ましい形態の一つとされる。
【0008】
前記雌部材の受け入れ穴内に、係合凹部と係合突部とが係合された状態から雄部材を復動回動させたときに軸部の先端に摺接して前記受け入れ穴からこの軸部を抜け出させる向きに移動させる第三カム部を形成させておくこともある。このようにしておけば、前記のように雄部材と雌部材とを係合・組み合わせた状態を、雄部材の復動回動操作によって、より円滑に解除することができる。
【0009】
前記雄部材の軸部の軸線を巡る向きにおいて係合突部の側方に凹所を形成させ、雄部材の所定の往動回動位置においてこの凹所に第一摺接部が入り込むようにしておくと共に、係合凹部と係合突部とが係合された状態において前記凹所内の一方の段差部に第一摺接部が当接して雄部材の往動回動が阻止されるようにしておくこともある。このようにしておけば、雄部材と雌部材とを係合・組み合わせた状態からは、これを解除する復動方向にのみ雄部材の回動操作を許容させることができる。
【0010】
前記受け入れ穴をめくら穴状に構成すると共に、係合凹部を雌部材の基部に形成させておくこともある。このようにしておけば、雌部材の内部を通じて一方側取付対象の一方側と他方側とは連通されることはなく、クリップを介して水密性ないしは気密性高く一方側取付対象と他方側取付対象とを連結させることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかるクリップにあっては、これを構成する雌部材にどの向きで雄部材を挿入しても両者を円滑に係合させることができると共に、その係合の解除も挿入された雄部材の復動回動操作により円滑になすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は実施の形態にかかるクリップを構成する雄部材と雌部材とを分離して示した斜視図である。
【図2】図2は前記雄部材の軸部を雌部材内に挿入させ始めた状態を示した側面図である。
【図3】図3は図2の状態の断面図である。
【図4】図4は図2の状態から前記雄部材の軸部が往動回動されてこの軸部が図2の状態よりも雌部材内にさらに入り込んだ状態を示した側面図である。
【図5】図5は前記雄部材と雌部材との係合状態を示した側面図である。
【図6】図6は図5の状態の断面図である。
【図7】図7は前記雌部材の側面図である。
【図8】図8は図7と90度異なる向きから前記雌部材を見て示した側面図である。
【図9】図9は図8におけるA−A線断面図である。
【図10】図10は図8におけるB−B線断面図である。
【図11】図11は前記雌部材の平面図である。
【図12】図12は前記雌部材の底面図である。
【図13】図13は前記雄部材の側面図である。
【図14】図14は図13と90度異なる向きから前記雄部材を見て示した側面図である。
【図15】図15は前記雄部材の平面図である。
【図16】図16は前記雄部材の底面図である。
【図17】図17は図15におけるC−C線断面図である。
【図18】図18は図15におけるD−D線断面図である。
【図19】図19は図14におけるE−E線端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図19に基づいて、この発明の典型的な実施の形態について、説明する。この実施の形態にかかるクリップは、雄部材Mとこれを受け入れる雌部材Fとから構成され、両者の組み合わせ係合状態において雌部材Fの取り付けられる一方側取付対象Pに他方側取付対象P’をクリップを介して連結させるように用いられるものである。
【0014】
雄部材Mは、頭部1と軸部2とを備えている。一方、雌部材Fは、基部3と一方側取付対象Pに形成された取り付け穴Paへの嵌め込み部4とを有すると共に、前記基部3に穴口50を持って前記嵌め込み部4内に続く前記雄部材Mの軸部2の受け入れ穴5を備えている。そして、前記受け入れ穴5に前記軸部2を所定位置まで挿入した、雄部材Mと雌部材Fとの組み合わせ係合状態において、かかる雄部材Mの頭部1と雌部材Fの基部3との間で他方側取付対象P’を保持するようになっている。図示の例では、一方側取付対象P及び他方側取付対象P’は共に、パネルとなっている。
【0015】
一方側取付対象Pには方形の取り付け穴Paが貫通状態に形成されている。雌部材Fの嵌め込み部4は、この取り付け穴Paへの嵌め込み方向に直交する向きの断面をこの取り付け穴Paの穴縁形状に略倣った形状とし、且つ、この取り付け穴Paに隙間少なく納まる太さとなっている。一方、雌部材Fの基部3は、かかる取り付け穴Paには入らない大きさを持っている。
【0016】
図示の例では、前記基部3は、円板状をなす座部30を有する。この座部30の一面側の中央には円筒状の突きだし部31が形成されている。嵌め込み部4はかかる座部30の他面側に一体に連接されている。嵌め込み部4は、円筒状をなす芯部40を有する。
【0017】
かかる突きだし部31の内側の空間は芯部40の内側の空間に連通しており、これらの空間によって前記受け入れ穴5が構成されている。突きだし部31の突き出し端において受け入れ穴5は外方に開放されている一方、芯部40の端末において受け入れ穴5は閉塞されており、受け入れ穴5は基部3に穴口50を持っためくら穴状を呈している。
【0018】
嵌め込み部4における前記芯部40を挟んだ両側にはそれぞれ、外郭部41が形成されている。外郭部41は、板一辺を座部30の他面に一体に連接させた中央板部41aを有している。一対の外郭部41、41の中央板部41aは平行をなしている。また、この一対の外郭部41、41の中央板部41aの外面間の距離は前記取り付け穴Paの向かい合う辺間の距離と略一致している。かかる中央板部41aの座部30からの突きだし寸法は芯部40の突きだし寸法よりもやや大きく、また、かかる中央板部41aの幅は芯部40の外径よりも大きくなっている。また、中央板部41aの左右にはそれぞれ中央板部41aとの間に嵌め込み部4の全長に亘って略直角のコーナー41cを形成して芯部40の外面に続く側板部41bが形成されている。そして、一対の外郭部41、41により構成される四つのコーナー41c…41cを仮想の直線で結んでなる四角形と前記取り付け穴Paの穴縁形状とが略一致するようになっている。
【0019】
芯部40と外郭部41の中央板部41aとの間には、嵌め込み部4の端末において外方に開放された空間42が形成されている。また、外郭部41の中央板部41aには、嵌め込み部4の根本から端末に向けて続く一対の縦割溝41d、41dと、嵌め込み部4の基部3と座部30との間においてこの一対の縦割溝41d、41dの溝端間に亘る横割溝41eとにより、嵌め込み部4の端末側をおおむね中心とした弾性変形を生じるように構成された弾性係合片43が形成されている。弾性係合片43の外側にはこの弾性係合片43の自由端43c側に向かうに連れてこの弾性係合片43cの厚さを漸増させる傾斜面43bによって隆起部43aが形成されている。一対の外郭部41、41の弾性係合片43における隆起部43aの頂部間の距離は、前記取り付け穴Paの向かい合う辺間の距離よりもやや大きくなっている。これにより、かかる取り付け穴Paに嵌め込み部4を挿入すると、この取り付け穴Paの穴縁部に前記隆起部43aの傾斜面43bが摺接して前記空間内に弾性係合片43が撓み込み、この挿入が許容される。弾性係合片43の自由端43cが取り付け穴Paの挿入先側の穴縁を越える位置まで前記挿入がなされると、弾性係合片43は撓み戻し、自由端43cはかかる穴縁部に係合される。これにより、一方側取付対象Pの取り付け穴Paに雌部材Fの嵌め込み部4を挿入するとワンタッチでこの一方側取付対象Pに雌部材Fが取り付けられるようになっている。図中符号6で示すのは、かかる取り付け状態において、基部3を構成する座部30の他面と一方側取付対象Pとの間をシールするように嵌め込み部4の根本を取り巻くように備えられる弾性シール材である。
【0020】
また、前記突きだし部31には、その直径方向両側に、後述の雄部材Mの係合突部に対する係合凹部32が形成されている。図示の例では、かかる係合凹部32は突きだし部31の側部を貫通する方形の穴によって構成されている。かかる係合凹部32は突きだし部31の突きだし方向に沿った一対の辺とこれに直交する一対の辺とを備えている。
【0021】
また、突きだし部31の突きだし端であって、係合凹部32の直上位置にはそれぞれ、外側に張り出すフランジ33が形成されている。フランジ33の外端には突きだし部31の外面との間に間隔を開けて座部30の一面から立ち上がる立ち上がり部34の上端が一体に連接されている。
【0022】
前記受け入れ穴5の穴口50は、突きだし部31の内面に倣った小径部51と、突きだし部31の外面を含む仮想の円(図示は省略する。)の円弧に沿った大径部52とを有している。大径部52は前記フランジ33の形成箇所において係合凹部32の直上に形成されている。かかる大径部52と小径部51との間には、後述の第二摺接部Cf2として機能するコーナー53が形成されている。
【0023】
一方、雄部材Mの軸部2は、図示の例では、その先端20で開放された円筒状を呈している。また、その先端20と前記頭部1との間の軸部2の中間に、前記係合凹部32に対する係合突部21を備えている。かかる係合突部21は軸部2の直径方向両側にそれぞれ形成されている。図示の例では、軸部2の軸線に沿って続く一対の縦割溝22、22と、この一対の縦割溝22、22における頭部1側に位置される溝端間に亘る横割溝23とにより、軸部2の中間に軸部2の先端20側をおおむね中心とした弾性変形を生じるように構成された弾性片24が形成されている。そして、この弾性片24の外側にこの弾性片24の自由端24a側に向かうに連れてこの弾性片24の厚さを漸増させる傾斜面21aを形成させることで係合突部21が形成されている。
【0024】
軸部2の先端20から弾性片24の自由端24aまでの距離は、めくら穴状を呈する受け入れ穴5の穴底54から係合凹部32におけるこの受け入れ穴5の穴口50側に位置される内壁までの距離と略一致している。また、一対の係合突部21、21の頂部間の距離は、受け入れ穴5における大径部52の沿う前記仮想の円の直径よりやや大きくなっている。これにより、雌部材Fの受け入れ穴5に雄部材Mの軸部2を、係合突部21が係合凹部32に入り込むようにした向きで挿入すると、受け入れ穴5における前記大径部52の穴縁部に係合突部21の前記傾斜面21aが摺接して軸部2の内部に前記弾性片24が撓み込み、この挿入が許容される。弾性片24の自由端24aが係合凹部32における受け入れ穴5の穴口50側に位置される内壁下に位置される位置まで前記挿入がなされると、弾性片24は撓み戻し、係合凹部32に係合突部21が入り込む。これにより、雌部材Fの受け入れ穴5に雄部材Mの軸部2を挿入するとワンタッチで雄部材Mと雌部材Fとを係合・組み合わせることができるようになっている。
【0025】
図示の例では、雄部材Mの頭部1は、他方側取付対象P’に設けた貫通穴P’aを通り抜けない長さをもった略長方形の板状を呈している。軸部2はこの頭部1の一面側においてその長さ方向中程の位置に、軸部2の先端20と反対の端部を一体に連接させている。頭部1の他面側であってその長さ方向中程の位置にはドライバの先端20が納まる凹所10が形成されている。
【0026】
一方側取付対象Pに雌部材Fを前記のように取り付けた状態から、他方側取付対象P’の貫通穴P’aに通されて突き出される雄部材Mの軸部2をかかる雌部材Fの受け入れ穴5に挿入し前記のように雄部材Mと雌部材Fとを係合させることで、雄部材Mの頭部1と雌部材Fの基部3、つまり、雄部材Mの頭部1と一方側取付対象Pとの間で他方側取付対象P’は保持される。(図5、図6)
【0027】
この実施の形態にあっては、前記受け入れ穴5はめくら穴状をなしていると共に、係合凹部32は雌部材Fの基部3に形成されていることから、雌部材Fの内部を通じて一方側取付対象Pの一方側と他方側とは連通されることはなく、クリップを介して水密性ないしは気密性高く一方側取付対象Pと他方側取付対象P’とを連結させることができるようになっている。
【0028】
また、この実施の形態にあっては、前記雌部材Fの受け入れ穴5内には、前記雄部材Mの軸部2の先端20に形成された第一カム部C1に対する第一摺接部Cf1と、前記受け入れ穴5の穴口50にあって前記雄部材Mの係合突部21に形成された第二カム部C2に対する第二摺接部Cf2とが形成されている。
【0029】
そして、前記受け入れ穴5への軸部2の挿入時に、前記第一カム部C1と第一摺接部Cf1の摺接とこれに続く前記第二カム部C2と第二摺接部Cf2との摺接により前記係合凹部32に係合突部21を係合可能とする前記雄部材Mの往動回動が促されるようになっている。
【0030】
図示の例では、第一摺接部Cf1は、受け入れ穴5の小径部51に形成されている。従って、かかる第一摺接部Cf1は、受け入れ穴5の穴軸を巡る向きにおいて、前記係合凹部32の側方に設けられている。図示の例では、第一摺接部Cf1は、係合凹部32の側方において、受け入れ穴5の直径方向両側にそれぞれ形成されている。図示の例では、この第一摺接部Cf1は、受け入れ穴5の穴底54から受け入れ穴5の穴口50よりもやや内側に位置される箇所までに亘って、この受け入れ穴5の穴軸に沿って延びるリブ状体55の前記穴口50側に位置される端部によって構成されている。
【0031】
二箇所の第一摺接部Cf1の一方は、一対の係合凹部32の中央と受け入れ穴5の穴軸を通る仮想の第一直線L1にかかる穴軸において直交する仮想の第二直線L2を挟んだ一方の係合凹部32側に位置され、二箇所の第一摺接部Cf1の他方はかかる第二直線L2を挟んだ他方の係合凹部32側に位置されている。(図11)
【0032】
一方、第一カム部C1は、雄部材Mの軸部2の先端20であって、前記一対の係合突部21、21の直下となる箇所にそれぞれ形成されている。図示の例では、雄部材Mの軸部2の先端20のかかる箇所はそれぞれ、前記弾性片24を左右に二分する軸部2の軸線に沿った仮想の直線L3上に頂部20aを持ちこの頂部20aの左右をそれぞれ傾斜させた山状を呈するように構成されている。(図13)そして、図示の例では、この傾斜箇所の一方が前記第一カム部C1として機能するようになっている。
【0033】
また、雄部材Mの軸部2における一対の第一カム部C1、C1の間に位置される箇所の外面、つまり、雄部材Mの軸部2の軸線を巡る向きにおいて係合突部21の側方となる箇所の外面には、軸部2の先端20において外方に開放されて頭部1側に続く幅広の溝状をなす凹所25が形成されている。
【0034】
雌部材Fの受け入れ穴5に形成された一対の第一摺接部Cf1、Cf1間の距離は、雄部材Mの軸部2の第一カム部C1の形成箇所での外径よりも小さくなっている。一方、雌部材Fの受け入れ穴5に形成された一対の第一摺接部Cf1、Cf1間の距離と、雄部材Mの軸部2の凹所25の形成箇所での外径(二箇所の凹所25、25の溝底間の距離)とは略等しくなっている。また、かかる凹所25の溝幅は第一摺接部Cf1の幅よりも広くなっている。
【0035】
これにより、この実施の形態にあっては、雌部材Fの受け入れ穴5に雄部材Mの軸部2を、係合突部21が係合凹部32に入り込まない向き、つまり、係合突部21が係合凹部32の直上に位置しない向きで挿入しようとしたときは、二箇所の第一摺接部Cf1、Cf1がそれぞれ対応する第一カム部C1に当接してこの向きでの受け入れ穴5への軸部2の進入が阻止されるが、前記のように傾斜した第一カム部C1の案内によって前記係合突部21が係合凹部32に入り込む位置に向けて雄部材Mを往動回動(この回動の向きを図2において矢印sで示す。)させることができる。それと共に、前記凹所25に第一摺接部Cf1が入り込む位置までかかる往動回動がなされると、雄部材Mの軸部2の受け入れ穴5への進入が許容される。
【0036】
また、図示の例では、雄部材Mの軸部2の係合突部21における、前記弾性片24を左右に二分する軸部2の軸線に沿った仮想の直線L3を挟んだ一方側の側部が、この仮想の直線L3に近づくに連れて高まる傾斜面21bとなっており、この係合突部21の傾斜面21bが前記第二カム部C2として機能するようになっている。図示の例では、二箇所の係合突部21のうち、図13における正面側に位置される係合突部21では前記仮想の直線を挟んだ右側に第二カム部C2が形成され、その背面側に位置される係合突部21では前記仮想の直線を挟んだ左側に第二カム部C2が形成されている。
【0037】
前記第一摺接部Cf1と第一カム部C1によって雄部材Mが往動回動され受け入れ穴5の穴口50に係合突部21の第二カム部C2が位置される位置まで受け入れ穴5内に軸部2が進入されると、二箇所の第二カム部C2にそれぞれ対応する第二摺接部Cf2が接し、前記のように傾斜したこの第二カム部C2の案内によって前記係合突部21が係合凹部32に入り込む位置までさらに雄部材Mを往動回動させることができる。
【0038】
また、この実施の形態にあっては、前記係合凹部32と係合突部21とが係合された状態から前記雄部材Mを復動回動させたときに前記第二カム部C2と係合凹部32の内壁との摺接により前記係合凹部32から係合突部21を抜け出させる向きの弾性変形が促されるようになっている。
【0039】
これにより、この実施の形態にかかるクリップにあっては、雄部材Mと雌部材Fとを係合・組み合わせた状態を、雄部材Mの復動回動操作によって、解除できるようになっている。
【0040】
図示の例では、第二カム部C2が、雄部材Mの軸部2の軸線を巡る向きにおいて、前記復動先に向かうに連れて、この軸線に次第に近づく傾きをもった前記傾斜面21bによって構成されており、前記のように雄部材Mを復動回動するとこの第二カム部C2が係合凹部32の内壁に接して軸部2の内側に弾性片24が撓み込まされて係合凹部32から係合突部21が抜け出されるようになっている。
【0041】
図示の例とは別に、第二カム部C2及び係合凹部32と係合突部21とが係合された状態においてこの第二カム部C2に向き合う係合凹部32の内壁の双方、あるいは、この内壁の側のみを、このような傾斜面によって構成させておいても同様の効果が得られる。
【0042】
また、この実施の形態にあっては、雌部材Fの受け入れ穴5内に、係合凹部32と係合突部21とが係合された状態から雄部材Mを復動回動させたときに軸部2の先端20に摺接して前記受け入れ穴5からこの軸部2を抜け出させる向きに移動させる第三カム部C3が形成されている。
【0043】
図示の例では、第三カム部C3は、雌部材Fの受け入れ穴5内に雄部材Mの軸部2を挿入しきった係合状態において、軸部2の一対の第一カム部C1、C1の間となる箇所に受け入れ穴5の穴底54側から入り込むようになっている。具体的には、かかる第三カム部C3は、前記第一摺接部Cf1を構成するリブ状体55の先端20と略同面をなしてこれに連なる内面56aと、受け入れ穴5の穴口50に向けられた上段差面56bと、リブ状体55との連接側と反対の側にある側方段差面56cとを備えて、受け入れ穴5の穴底54側の内壁に形成された膨出部56の、かかる側方段差面56cによって構成されている。かかる側方段差面56cは膨出部56の受け入れ穴5の穴軸を巡る向きの寸法を上段差面56bに向かうに連れて小さくさせる向きの傾斜を有している。これにより、前記係合状態から雄部材Mを前記復動回動させると、第一カム部C1が第三カム部C3に摺接して受け入れ穴5から軸部2を抜け出させる向きに雄部材Mが持ち上げられるようになっている。
【0044】
これにより、この実施の形態にあっては、雄部材Mと雌部材Fとを係合・組み合わせた状態を、雄部材Mの復動回動操作によって、より円滑に解除できるようになっている。
【0045】
また、この実施の形態にあっては、雄部材Mの所定の往動回動位置において前記軸の凹所25に第一摺接部Cf1が入り込むようになっていると共に、係合凹部32と係合突部21とが係合された状態において前記凹所25内の一方の段差部25aに第一摺接部Cf1が当接して雄部材Mの往動回動が阻止されるようになっている。(図5)これにより、この実施の形態にあっては、雄部材Mと雌部材Fとを係合・組み合わせた状態からは、これを解除する復動方向にのみ雄部材Mの回動操作が許容されるようになっている。
【0046】
この実施の形態にかかるクリップにおける弾性変形特性を備えるべき箇所へのこの特性の付与は、これを構成する雄部材M及び雌部材Fを、プラスチックの成形品とすることで容易に実現することができる。
【符号の説明】
【0047】
M 雄部材
F 雌部材
C1 第一カム部
C2 第二カム部
Cf1 第一摺接部
Cf2 第二摺接部
1 頭部
2 軸部
3 基部
4 嵌め込み部
5 受け入れ穴
50 穴口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と軸部とを備えた雄部材と、
基部と一方側取付対象に形成された取り付け穴への嵌め込み部とを有すると共に、前記基部に穴口を持って前記嵌め込み部内に続く前記雄部材の軸部の受け入れ穴を備えた雌部材とからなり、
前記受け入れ穴に前記軸部を所定位置まで挿入した組み合わせ係合状態において雄部材の頭部と雌部材の基部との間で他方側取付対象を保持するように構成されたクリップであって、
前記雌部材の受け入れ穴内には、前記雄部材の軸部の先端に形成された第一カム部に対する第一摺接部と、
この第一摺接部の側方にあって前記雄部材の軸部の中間に形成された係合突部に対する係合凹部と、
前記受け入れ穴の穴口にあって前記雄部材の係合突部に形成された第二カム部に対する第二摺接部とが形成されており、
前記受け入れ穴への軸部の挿入時に、前記第一カム部と第一摺接部の摺接とこれに続く前記第二カム部と第二摺接部との摺接により前記係合凹部に係合突部を係合可能とする前記雄部材の往動回動が促されるようになっていると共に、
前記係合凹部と係合突部とが係合された状態から前記雄部材を復動回動させたときに前記第二カム部と係合凹部の内壁との摺接により前記係合凹部から係合突部を抜け出させる向きの弾性変形が促されるようになっていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
雌部材の受け入れ穴内に、係合凹部と係合突部とが係合された状態から雄部材を復動回動させたときに軸部の先端に摺接して前記受け入れ穴からこの軸部を抜け出させる向きに移動させる第三カム部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
第二カム部及び係合凹部と係合突部とが係合された状態においてこの第二カム部に向き合う係合凹部の内壁の双方又はいずれか一方は、雄部材の軸部の軸線を巡る向きにおいて、この軸線に次第に近づく傾きをもった傾斜面によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクリップ。
【請求項4】
雄部材の軸部の軸線を巡る向きにおいて係合突部の側方には凹所が形成されており、雄部材の所定の往動回動位置においてこの凹所に第一摺接部が入り込むようになっていると共に、
係合凹部と係合突部とが係合された状態において前記凹所内の一方の段差部に第一摺接部が当接して雄部材の往動回動が阻止されるようになっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のクリップ。
【請求項5】
受け入れ穴はめくら穴状をなしていると共に、係合凹部は雌部材の基部に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−104457(P2013−104457A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247263(P2011−247263)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】