説明

クリップ

【課題】アンカーが取付け孔に対して斜めに挿入されたままで取付けられることを防止し、クリップの取付け状態および保持荷重を安定させる。
【解決手段】パネルの取付け孔にアンカー20を挿入することでパネルに取付けられるクリップであって、アンカー20が、自体の支持剛性を保持するための支柱22と、取付け孔にアンカーが挿入されることで、取付け孔の内周面との干渉により支柱22に対して撓みながら取付け孔を通過し、該取付け孔の縁周辺に係合することができる係止爪26と、支柱22の先端に成形され、取付け孔の平面形状に合わせた形状で、かつ、パネルの面に対してアンカー20の軸線がほぼ直角の状態でのみ取付け孔を通過することができる規制ブロック24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車において例えばワイヤハーネスを所定の配線状態に保持するために使用されるクリップに関し、詳しくはボデー等のパネルに開けられた取付け孔にアンカーを挿入することで該パネルに取付けられるクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のクリップにおけるアンカーの構造は多岐にわたっているものの、基本的には支柱と、支柱の先端部から両側へ張り出した一対の係止爪とを備えた構造になっている。また、特許文献1に開示されているクリップのアンカーは、支柱の先端部に受圧ブロックが設けられている。この受圧ブロックの外側面は、アンカーがパネルの取付け孔に挿入されるときの案内曲面になっている。つまり、アンカーが取付け孔に挿入され始めると、最初に受圧ブロックの案内曲面が取付け孔の縁に接触してアンカーを取付け孔に導入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52−1364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クリップにおけるアンカーの形状は、パネルの取付け孔に対してアンカーを斜め方向からでも導入できるように、一般的には先端部を広く面取りし、あるいは特許文献1のように受圧ブロックの外側面に広い案内曲面を設定している。これでは、取付け孔に対するアンカーの導入性はよいが、アンカーが取付け孔に斜めに挿入されたままでクリップが取付けられる場合があり、クリップの取付け状態および保持荷重が不安定になる。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、アンカーが取付け孔に対して斜めに挿入されたままで取付けられることを防止し、クリップの取付け状態および保持荷重を安定させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
所定のパネルに貫通して開けられた取付け孔にアンカーを挿入することにより、パネルに取付けられるクリップであって、アンカーが、自体の支持剛性を保持するための支柱と、この支柱の外側に配置され、パネルの取付け孔にアンカーが挿入されることで、取付け孔の内周面との干渉により支柱に対して内方へ撓みながら取付け孔を通過し、該取付け孔の縁周辺に係合することができる係止爪と、支柱の先端に成形され、取付け孔の平面形状に合わせた形状で、かつ、パネルの面に対してアンカーの軸線がほぼ直角の状態でのみ取付け孔を通過することができる規制ブロックとを備えている。
【0007】
より好ましくは、係止爪の一端部が規制ブロックの内端面に結合された弾性変形可能な結合部になっているとともに、係止爪の他端部が自由端になっており、係止爪が支柱に対し、結合部をヒンジとして撓むように構成され、支柱は、係止爪の結合部と対向する箇所において外方へ張り出した受止め片を備え、係止爪が結合部をヒンジとして内方へ撓んだときに、受止め片によって結合部を受止めてその変形量を規制することである。
【0008】
さらに好ましくは、係止爪の結合部が規制ブロックの外周面より内側に位置しているとともに、係止爪が結合部から自由端に向けて外方へ張り出すように傾斜した外側面を有し、この外側面は、パネルの取付け孔に対するアンカーの挿入角度に関係なく、規制ブロックがパネルの取付け孔に進入し終えるまでパネルに干渉しない傾斜に設定されていることである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、アンカーにおける支柱の先端に成形されて規制ブロックの機能により、アンカーをパネルの取付け孔に挿入する際に、アンカーを取付け孔に導くことができるとともに、アンカーの軸線の傾き角度を規制し、該アンカーをパネルの面とほぼ直角の状態で取付け孔に挿入することができる。この結果、パネルの取付け孔に対してアンカーが斜めに挿入されたままでパネルに取付けられることが防止され、クリップの取付け状態および保持荷重が安定する。
【0010】
また、アンカーの係止爪が結合部をヒンジとして内方へ撓んだときに、支柱の受止め片によって結合部の変形量を規制することにより、アンカーがパネルの取付け孔に挿入されて取付け孔の縁周辺に係止爪が係合している状態での該係止爪のせん断面が減少するのを防止することができる。この結果、パネルに取付けられたクリップの保持荷重がより安定したものとなる。
【0011】
さらに、係止爪の結合部が規制ブロックの外周面より内側に位置し、規制ブロックがパネルの取付け孔に進入し終えるまでは、係止爪の外側面がパネルに干渉するのを避けるようになっていることで、規制ブロックの進入が妨げられない。
すなわち、係止爪は、支柱の外側に配置されているとともに、規制ブロックに直接結合されているが、規制ブロックをパネルの取付け孔に進入させるときの妨げにならない。このため、アンカーが取付け孔に対して斜め方向から挿入された場合、その結果としてアンカーはパネルの面とほぼ直角な軸線となるように挿入角度を変えながら取付け孔の中に進入することとなるが、それに伴う規制ブロックの作動軌跡上には何らの障害物も存在しないことになり、規制ブロックはスムースに取付け孔の中に進入する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1のクリップを表した斜視図。
【図2】実施の形態1のクリップを表した正面図。
【図3】実施の形態1のクリップを表した側面図。
【図4】実施の形態1のクリップを表した平面図。
【図5】実施の形態1のクリップを表した縦断面図。
【図6】実施の形態1のクリップを取付け孔に挿入するときの状態を表した説明図。
【図7】実施の形態1において取付け孔に挿入されたクリップのアンカーを表した平断面図。
【図8】実施の形態1において取付け孔に挿入されたクリップのアンカーを表した断面図。
【図9】本発明と比較するための参考例としての実施の形態を図8の一部と対応させて表した断面図。
【図10】実施の形態2のクリップを表した斜視図。
【図11】実施の形態2のクリップを表した側面図。
【図12】実施の形態2のクリップを表した平面図。
【図13】実施の形態3のクリップを表した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
実施の形態1
まず、図1〜図8で示されているクリップ10を説明すると、クリップ10は樹脂材による一体成形品であって、その構造はベース12、スタビライザー14およびアンカー20に大別される。この実施の形態におけるクリップ10では、ベース12がワイヤハーネス等を結合するためのテープ巻き部になっているが、ベース12の形状はこれに限定されない。
スタビライザー14は、ベース12の上面において上向きに開いた皿形状をしており、ベース12に対して弾性によって撓むことができる。アンカー20は、例えば図6〜図8で示すパネル30の取付け孔32に挿入される部分であって、スタビライザー14の中心部から上方へ突出している。
【0014】
アンカー20は、ベース12と一体の支柱22を備えている。この支柱22は板状であって、その矩形の断面形状における長辺が取付け孔32の長径とほぼ同じか僅かに小さい寸法に設定されている(図7)。支柱22は、アンカー20に必要な剛性を有するとともに、支柱22の基部はその両側に設けられた補強リブ28によってベース12に結合されている。また、支柱22の先端には、規制ブロック24が一体に成形されている。
【0015】
規制ブロック24は、全体の輪郭が取付け孔32の平面形状(長円形状)に合わせた形状に設定されているとともに、支柱22の両側において庇状に張り出した庇状部分24bを有する。規制ブロック24の外周面24aは、所定の傾斜角度をもつテーパー面になっている。この規制ブロック24は、アンカー20の軸線と取付け孔32の軸線とが一致した状態、つまりアンカー20がパネル30の面とほぼ直角の状態においてのみ、取付け孔32を通過できる寸法に設定されている。
支柱22は、規制ブロック24の庇状部分24bの内側において外方へ張り出した一対の受止め片23を備えている(図3、図5など)。これらの受止め片23は、つぎに説明する両係止爪26の結合部26aとそれぞれ対向している。
【0016】
アンカー20は、支柱22の両外側に配置された一対の係止爪26を備えている。これらの係止爪26は、パネル30における取付け孔32の短径と対応した配置になっている(図7)。そして、両係止爪26の一端部(上端部)は、規制ブロック24における庇状部分24bの内端面24cに結合された結合部26aとなっており、他端部(下端部)が自由端になっている。両係止爪26の結合部26aは、庇状部分24bの内端面24cから自由端の側に延びるストレート部分であり、規制ブロック24の外周面24aの内側に位置している。
【0017】
両係止爪26の結合部26aは、他の部分と比較して薄肉になっていて容易に弾性変形することができる。これにより、支柱22に対して両係止爪26がそれぞれの結合部26aをヒンジとして撓むことができる。
両係止爪26の外側形状については、それぞれの結合部26aから自由端に向けて外方へ張り出すように傾斜した外側面26cを有している(図3、図5、図6)。この外側面26cの最も外方へ張り出した部分から自由端までの部分は内方へ傾斜しており、この傾斜部分に多段の係止部26bが形成されている。また、両係止爪26の外側面26cについては、後述のようにパネル30の取付け孔32にアンカー20を挿入する際、規制ブロック24が取付け孔32に進入し終えるまでパネル30と干渉しない傾斜に設定されている。
【0018】
この実施の形態におけるクリップ10は、ワイヤハーネス等の長さに合わせて複数個用意され、個々のベース12をワイヤハーネス等の複数箇所にテープ巻きによって結合される。そして、各クリップ10のアンカー20をパネル30の対応する取付け孔32にそれぞれ挿入することで、ワイヤハーネス等がパネル30に対して配線される。
【0019】
クリップ10のアンカー20を取付け孔32に挿入する作業にあたっては、この取付け孔32に対してアンカー20が斜め方向からアプローチされることも少なくない。このような場合、図6の実線で示すようにアンカー20の軸線が取付け孔32の軸線に対して傾いた状態のまま、規制ブロック24が取付け孔32に入り込むこととなる。つまり、図6の実線で示す状態のアンカー20は、規制ブロック24の左側部分が既に取付け孔32に進入し終えているため、図面左側に位置する係止爪26の外側面26cが取付け孔32の縁に干渉している。一方、規制ブロック24の右側部分は未だ取付け孔32に進入していないため、図面右側に位置する係止爪26の外側面26cは取付け孔32の縁から離れている。
【0020】
前述のように、アンカー20の軸線が傾いたままでは規制ブロック24が取付け孔32を通過できないことから、該アンカー20は図6の矢印Xで示す方向へ回転しながら取付け孔32の中に進入しようとする。これにより、未だ取付け孔32に進入していない規制ブロック24の右側部分は、図6に示す軌跡Yを描きながら取付け孔32の中に進入し始める。そして、規制ブロック24の右側部分が取付け孔32に進入し終えた時点では、図面右側に位置する係止爪26の外側面26cも取付け孔32の縁に干渉する。
このように、両係止爪26の外側面26cは、パネル30の取付け孔32に対するアンカー20の挿入角度に関係なく、規制ブロック24が取付け孔32に進入し終えるまでパネルに干渉せず、この規制ブロック24の進入を妨げない。したがって、規制ブロック24が前述のように軌跡Yを描きながら取付け孔32に進入する場合でも、この軌跡Y上には何ら障害物が存在せず、規制ブロック24は取付け孔32の中にスムースに進入することとなる。
【0021】
既に説明したように、規制ブロック24の輪郭形状は取付け孔32の平面形状に合わせている。このため、規制ブロック24が取付け孔32に進入することにより、図6の仮想線で示すようにアンカー20の軸線が取付け孔32の軸線に一致した状態、つまりアンカー20がパネル30の面とほぼ直角になるように保持される。この状態において規制ブロック24が取付け孔32を通過でき、それによってアンカー20が取付け孔32に対して真っ直ぐに挿入される。
【0022】
取付け孔32に対するアンカー20の挿入に伴い、両係止爪26が個々の結合部26aの弾性変形によって内方へ撓みながら取付け孔32を通過し、パネル30の裏面側において係止部26bの一つが取付け孔32の縁にそれぞれ係止する(図8)。これにより、クリップ10がパネル30に取付けられ、その状態に保持される。なお、前述のように両係止爪26の結合部26aは薄肉になっていて容易に弾性変形することから、取付け孔32に対するクリップ10の挿入荷重が軽減される。
【0023】
クリップ10のアンカー20が取付け孔32に真っ直ぐに挿入され始めると、その初期段階でのアンカー20は、取付け孔32の内周面に対して支柱22の両端面および両係止爪26の計4点で支えられたセット状態となる(図7)。このため、アンカー20の軸線が真っ直ぐに保たれ、その後のクリップ10の挿入操作が容易になる。
また、既に説明したように両係止爪26の外側形状が、外側面26cの最も外方へ張り出した部分から自由端にかけて内方へ傾斜しているため、パネル30の表面側(アンカー20を挿入する側)に取付け孔32のバリがあっても、アンカー20を取付け孔32にスムースに挿入することができる。
【0024】
図8で示すように、クリップ10がパネル30に取付けられ状態においては、両係止爪26がそれぞれの結合部26aをヒンジとして内方へ撓んでおり、弾性変形した個々の結合部26aが支柱22の両受止め片23によって受止められている。これにより、個々の結合部26aの変形量が規制され、係止爪26において図8の寸法Aで示す部分のせん断面を一定に保つことができる。
これに対し、図9の参考例で示すように係止爪26の結合部26aが支柱22の外面に当たるまで変形して倒れ込んだ場合には、図9の寸法Bで示す部分のせん断面が図8の寸法Aで示す部分のせん断面と比較して減少している。
【0025】
このように、パネル30に取付けられたクリップ10における係止爪26のせん断面が一定に保たれることから、図8で示す抜取り方向の力Fに対するクリップ10の保持荷重が安定する。したがって、両係止爪26の結合部26aを薄肉にしてクリップ10の挿入荷重を軽減できる反面、抜取り方向の力Fに対するクリップ10の保持荷重は充分に確保される。
【0026】
実施の形態2
図10〜図12で示すクリップ10は、アンカー20における規制ブロック24の平面形状の四隅が切除された格好の輪郭になっている。すなわち、実施の形態2の規制ブロック24においては、支柱22の両側に張り出した庇状部分24bが両係止爪26と対応する箇所にのみ残されており、それぞれの内端面24cに両係止爪26の結合部26aが結合されている(図11)。ただし、この庇状部分24bの範囲は任意であり、例えば両係止爪26の結合部26aの幅よりも大きい範囲とすることも可能である。
なお、実施の形態2の規制ブロック24についても、アンカー20がパネル30の面とほぼ直角の状態においてのみ、取付け孔32を通過できるように設定されていることに変わりはない。
【0027】
実施の形態3
図13で示すクリップ10は、アンカー20を構成する一対の係止爪26が互いにずれて配置されている。この構成においても、前述のようにクリップ10をパネル30に取付けた状態に保持するといったアンカー20の機能は何ら変わらない。
【0028】
以上は本発明を実施するための最良の形態1〜3を図面に関連して説明したが、これらの実施の形態は本発明の趣旨から逸脱しない範囲で容易に変更または変形できるものである。
例えばクリップ10は、その形式や使用目的によってアンカー20にさほど大きな保持力を必要としない場合がある。その場合の一手段として、支柱22の片側だけに係止爪26を設け、反対側は支柱22を直接的あるいは間接的に取付け孔32の縁に押し当てる構成を採用することがある。つまり、アンカー20は必ずしも一対の係止爪26を必要とするものではなく、一つの係止爪26だけで構成されることもある。
【符号の説明】
【0029】
10 クリップ
20 アンカー
22 支柱
24 規制ブロック
26 係止爪
30 パネル
32 取付け孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパネルに貫通して開けられた取付け孔にアンカーを挿入することにより、パネルに取付けられるクリップであって、
アンカーが、自体の支持剛性を保持するための支柱と、この支柱の外側に配置され、パネルの取付け孔にアンカーが挿入されることで、取付け孔の内周面との干渉により支柱に対して内方へ撓みながら取付け孔を通過し、該取付け孔の縁周辺に係合することができる係止爪と、支柱の先端に成形され、取付け孔の平面形状に合わせた形状で、かつ、パネルの面に対してアンカーの軸線がほぼ直角の状態でのみ取付け孔を通過することができる規制ブロックとを備えているクリップ。
【請求項2】
請求項1に記載されたクリップであって、
係止爪は、その一端部が規制ブロックの内端面に結合された弾性変形可能な結合部になっているとともに、他端部が自由端になっており、係止爪が支柱に対し、結合部をヒンジとして撓むように構成され、支柱は、係止爪の結合部と対向する箇所において外方へ張り出した受止め片を備え、係止爪が結合部をヒンジとして内方へ撓んだときに、受止め片によって結合部を受止めてその変形量を規制するように設定されているクリップ。
【請求項3】
請求項2に記載されたクリップであって、
係止爪は、その結合部が規制ブロックの外周面より内側に位置しているとともに、この結合部から自由端に向けて外方へ張り出すように傾斜した外側面を有し、この外側面は、パネルの取付け孔に対するアンカーの挿入角度に関係なく、規制ブロックがパネルの取付け孔に進入し終えるまでパネルに干渉しない傾斜に設定されているクリップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−64492(P2013−64492A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87370(P2012−87370)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【出願人】(308011351)大和化成工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】