説明

クリプトスポリジウムのための培養方法

クリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入することを含む、クリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリプトスポリジウムのための増殖系、そして特に、無宿主細胞の系及び方法に関する。本発明はまたクリプトスポリジウムを検出するための方法、無宿主細胞培地、及び、クリプトスポリジウムのワクチン及び治療薬の調製におけるその使用を含む、方法及び系を用いて調製したクリプトスポリジウムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内の原生動物はヒト及び動物において種々の臨床上及び経済上に重大な疾患を引き起こす。既知の病原性腸内原生動物の例は、ジアルジア、トリコモナス、ヒストモナス、スピロニクレウス、エンタメーバ、コクシジア、サロシスティス及びクリプトスポリジウムを含む。
【0003】
クリプトスポリジウムはヒト及び種々の哺乳類宿主、家畜及び家禽の腸上皮細胞を侵襲するアピコンプレクス門の原生動物である寄生生物である。ヒトにおいては、寄生生物は腸上皮の微絨毛縁に感染し、免疫応答性の個体では急性で自己限定性の下痢、そして、免疫無防備状態の患者では慢性の生命を脅かす疾患を引き起こす。C.パルバムは広範な哺乳類宿主特異性を示し、直接のヒトによる接触を介して、及び人獣共通伝染を介してヒトに感染し、そしてウシにおける下痢の主要原因となっている。
【0004】
クリプトスポリジウムの少なくとも2種がウシに感染する。C.パルバムは小型のオーシスト(5.0×4.5μm)を特徴とし、主に幼若ウシの腸に感染して牧牛産業における多大な経済的損失及びヒト集団における水媒介の下痢疾患の流行をもたらす。C.アンデルソニはウシの第4胃(反芻動物の胃の第4の区分)に感染するより大型のオーシスト(9.7×5.6μm)を特徴とする最近再命名された種である。今日まで、クリプトスポリジウム症に対する有効な治療法は得られていない。
【0005】
クリプトスポリジウムのオーシストは糞口経路により伝染し、地域の汚染された給水及び公共のスイミングプールを介して伝染する場合がある。
【0006】
適当な宿主による摂取の後、クリプトスポリジウムのオーシストは宿主の胆汁酸塩及び膵酵素の存在下で脱嚢する。得られたスポロゾイトは腸上皮細胞に感染し、栄養型に分化する。栄養型は無性生殖的に増殖し、約6〜8のメロゾイトを含有するI型シゾントを生成する。これらのメロゾイトはシゾントの破壊により別の細胞を侵襲する場合がある。メロゾイトはI型シゾントを形成し続けるか、又は、II型シゾントを形成し、これは更に雄性のミクロガモント又は雌性のマクロガモントに分化する。雄性のミクロガモントは雌性マクロガモントを受精させるミクロガメートを放出し、オーシストをもたらす。厚壁のオーシストは宿主の消化管を通過するが、薄壁のオーシストは宿主を再感染すると考えられる。
【0007】
オーシスト及びスポロゾイトは感染動物(例えばウシ)から大量に得ることができる。しかしながら、感染動物の取り扱い及び維持はヒトへの感染の危険性をもたらす。更にまた、感染動物から寄生生物を得ることは、試験の標準化及び実験の再現性に関する問題を呈する。
【0008】
インビトロでクリプトスポリジウムを増殖させる能力は、ニワトリ胚の漿尿膜(CAM)の内胚葉細胞において最初に達成された。その後、種々の細胞系統における寄生生物の培養の多くの報告があり、クリプトスポリジウム生活環段階の発達に関しては、成功度はさまざまである。クリプトスポリジウムのインビトロ培養の進歩は近年達成されたが、連続培養及び効率的な生活環の完了(オーシスト生産)はインビトロで近年達成されたのみであり、3種のクリプトスポリジウム(C.パルバム、C.ホミニス及びC.アンダーソニ)の種について生活環の長期間の維持が現在可能である。
【0009】
クリプトスポリジウム細胞培養系はクリプトスポリジウム研究の多くの態様に寄与している。しかしながら、現在の培養方法は宿主細胞を必要とし、このため、比較的複雑である。更にまた、宿主細胞の過剰生育及び加齢がインビトロのクリプトスポリジウムの生活環の永続化を妨害する場合がある。本発明は従来技術に存在する問題点1つ以上を克服するか少なくとも軽減することを目標としている。
【発明の開示】
【0010】
本発明はクリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法を提供する。
【0011】
本発明の方法はクリプトスポリジウムをその完全な生活環に渡って培養するために使用することができる。即ち、本発明はまた、クリプトスポリジウムがその生活環を完了することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法を提供する。
【0012】
本発明は宿主細胞を用いることなく大量のクリプトスポリジウムを好都合に生産することを可能とする。即ち、本発明はまた、(i)無宿主細胞培地中に接種物を入れる工程と、(ii)クリプトスポリジウムを培養してクリプトスポリジウムのバイオマス(生物量)を増大させる工程とを含むクリプトスポリジウムの初期接種物からクリプトスポリジウムのバイオマスを製造するための無宿主細胞方法を提供する。
【0013】
オーシストはクリプトスポリジウムの培養のための特に有用な出発原料である。即ち、本発明はまた、
a.クリプトスポリジウムのオーシストを単離する工程と、
b.単離されたオーシストを脱嚢する工程と、
c.無宿主細胞培地中に脱嚢したオーシストを再懸濁する工程と、
d.安定な条件下で工程(c)で調製した培養物をインキュベートする工程と、
e.培地からオーシストを収集する工程と
を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法を提供する。
【0014】
本発明において使用する培地もまた本発明の態様を示すものである。即ち、本発明はまた、クリプトスポリジウムを維持できるか、又は、クリプトスポリジウムをその生活環に渡って進行させることができる無宿主細胞培地であって、培地が無機塩、アミノ酸、ビタミン及び別の成分の緩衝平衡複合体を含む培地を提供する。
【0015】
本発明の培養方法は他の用途にも適合し易くしたクリプトスポリジウムの製造を可能とする。即ち、本発明はまた、少なくとも1つのクリプトスポリジウム抗原を含む免疫原性調製物の調製方法であって、(i)クリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程と、(ii)第2生活環段階においてクリプトスポリジウムを単離する工程と、(iii)工程(ii)から単離したクリプトスポリジウムを用いて治療用調製物を調製する工程とを含む方法を提供する。
【0016】
本発明に従って培養したクリプトスポリジウムの治療有効量を含む治療用組成物は、被検対象におけるクリプトスポリジウム感染に関連する疾患を予防又は治療する方法としても、本明細書において記載される。
【0017】
本発明は更に、(i)無宿主細胞培地を用いた培養に試料を付す工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法を提供する。
【0018】
本発明は更に、
(a)宿主細胞非存在下において維持培地又は2相性培地から選択される培地中にクリプトスポリジウムの生活環におけるある段階を導入する工程と、
(b)クリプトスポリジウムを培養する工程と
を含むクリプトスポリジウムを培養するための方法を提供する。
【0019】
本発明はまた
(a)クリプトスポリジウムのオーシストを単離する工程と、
(b)単離されたオーシストを脱嚢する工程と、
(c)脱嚢されたオーシストを回収する工程と、
(d)維持培地中に回収されたオーシストを再懸濁する工程と、
(e)工程(d)で調製された培養物をインキュベートする工程と、
(f)オーシストを回収する工程と
を含む培養方法を提供する。
【0020】
本発明は更に
(a)クリプトスポリジウムのオーシストを単離する工程と、
(b)単離されたオーシストを脱嚢する工程と、
(c)脱嚢されたオーシストを回収する工程と、
(d)2相性の培地中に回収されたオーシストを再懸濁する工程と、
(e)工程(d)で調製された培養物をインキュベートする工程と、
(f)オーシストを回収する工程と
を含む培養方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
クリプトスポリジウム培養方法
本発明は、クリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法を提供する。
【0022】
本発明は、宿主細胞非存在下においてクリプトスポリジウムを培地中で培養することができるという驚くべき発見に基づいている。クリプトスポリジウムの無宿主細胞培養方法は、種々の宿主細胞系の存在を必要とする既存の系よりも複雑度が低い。更にまた、無宿主細胞方法はインビトロのクリプトスポリジウム生活環の永続化を妨害する宿主細胞の過剰生育及び加齢の問題を回避する。無宿主細胞クリプトスポリジウム培養方法はまたワクチンの開発及び薬剤のスクリーニングにおいて使用するのに特に適しており、スケールアップも容易である。無宿主細胞培地の寄生生物の収集もまた宿主細胞系培地からのクリプトスポリジウムの収集と相対比較して単純化されている。
【0023】
上記の通りクリプトスポリジウムの培養及び培養方法に言及したが、「培養」とは本明細書においては、先の生活環に進行することなく無宿主細胞培地中で生存状態においてクリプトスポリジウムが維持されている方法も包含するものとする。この点に関し、クリプトスポリジウムを宿主細胞含有培地中に培養し、そして次に無宿主細胞培地中に移し、そして将来の使用時まで生存状態で維持することが可能である。
【0024】
第1及び第2の生活環段階は、脱嚢したオーシストを含むオーシスト、スポロゾイト、栄養型、メロントI、メロゾイト(1型)、メロントII(早期)、メロントII(後期)、メロゾイト(II型)、マクロガモント(大配偶子母細胞)、ミクロガメート(小配偶子)及び接合体からなる群より選択してよい。好ましくは第1生活環段階がオーシスト又はスポロゾイトであり、そして第2生活環段階がオーシスト、スポロゾイト又は栄養型である。
【0025】
本発明の方法は、ある生活環段階からオーシスト段階までクリプトスポリジウムを培養するために使用でき、これは次の生活環の開始を効果的に表す。即ち本発明は、クリプトスポリジウムがその生活環を完了することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法を提供する。
【0026】
クリプトスポリジウムがその生活環を完了することを可能にする培養方法を用いて種々の使用及び用途、例えばレシピエント動物を感染させることによる抗体の生成、及び、ワクチンのような免疫原性調製物の調製のためのクリプトスポリジウムのバイオマスを調製することができる。即ち、本発明は、(i)無宿主細胞培地中に接種物を入れる工程と、(ii)クリプトスポリジウムを培養してクリプトスポリジウムのバイオマスを増大させる工程とを含む、クリプトスポリジウムの初期接種物からクリプトスポリジウムのバイオマスを調製するための無宿主細胞方法を提供する。
【0027】
上記した方法を用いてクリプトスポリジウムの生存性培養物を維持し、一般的にクリプトスポリジウムのバイオマスを増大させるために使用することができ、及び/又は、特定の生活環段階を大量に得るために使用することができる。例えばオーシストが必要な場合は、オーシストを含む接種物を無宿主細胞培地中で培養することにより、より多くのオーシストを生成することができる。
【0028】
本発明の無宿主細胞培地は、クリプトスポリジウムを維持できるか、又は、クリプトスポリジウムをその生活環に渡って進行させることができるいずれかの無細胞培地であることができる。このような培地は市販されており、そして、必要に応じて1つ以上の成分を補給することができる。当業者は、本明細書に記載した情報に基づいて、そして、当分野で知られた通常の手法を用いて、種々の無宿主細胞培地を処方できる。
【0029】
無宿主細胞培地は、無機塩、アミノ酸、及びビタミンの緩衝平衡複合体(complex)を含んでよい。付加的な成分は緩衝物質(例えば重炭酸ナトリウム、HEPES)、アミノ酸補給物(例えばL−グルタミン)、炭水化物源(例えばグルコース)、ビタミン(B、B5、B複合体)、抗生物質(例えばペニシリン及びストレプトマイシン)、胆汁(例えばウシ胆汁)及び血清(例えばウシ胎児血清)からなる群より選択され得る。
【0030】
培地のpHは、クリプトスポリジウムの生育を支援する限り、変動してもよい。好ましくは、pHは中性pHかその近傍であり、例えば6.5〜7.5である。1つの特定の形態においては、培地のpHは約7.4である。
【0031】
無宿主細胞培地は2相性であってよく、従って、凝固血清のような粘稠又は半固体となるように処理されている血清を更に含んでよい。無宿主細胞培地が2相性である場合は、相は好ましくは明らかに分離されているが、当業者の知るとおり相間の分離は完全に厳密でなくともよい。
【0032】
2相性培地中の第2の相を形成するために使用される血清は変動してよい。好ましくは血清は胎児動物、より好ましくは胎児の哺乳類、更に好ましくはウシや子ウシなどのウシ胎児に由来するものである。
【0033】
上記した通り、本発明の方法では第1生活環段階としてオーシストを使用することが好ましい。オーシストが第1生活環段階にあれば、本発明のクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法は
(a)クリプトスポリジウムのオーシストを単離する工程と、
(b)単離されたオーシストを脱嚢する工程と、
(c)無宿主細胞培地中に脱嚢したオーシストを再懸濁する工程と、
(d)安定な条件下で工程(c)で調製した培養物をインキュベートする工程と、
(e)培地からオーシストを収集する工程と
を含んでもよい。
【0034】
本発明の培養方法において使用するためのクリプトスポリジウムは当業者に知られた天然原料より得ることができる。クリプトスポリジウムに感染した如何なる生物もクリプトスポリジウム源となる。これらの生物は、天然に感染しているか、又は、更に培養するためにクリプトスポリジウムを生成させる方針で意図的に感染させられたマウス、ヒト、ウシ又はブタを含む。
【0035】
クリプトスポリジウムの如何なる種も本発明を用いて培養してよい。好ましくは、クリプトスポリジウムはクリプトスポリジウム・アンデルソニ(Cryptosporidium andersoni)、クリプトスポリジウム・パルバム(C. parvum)、クリプトスポリジウム・ムリス(C. muris)、クリプトスポリジウム・ホミニス(C. hominis)、クリプトスポリジウム・ライリ(C. wrairi)、クリプトスポリジウム・フェリス(C. felis)、クリプトスポリジウム・カニス(C. canis)、クリプトスポリジウム・バイレイ(C. baileyi)、クリプトスポリジウム・メレアグリディス(C. meleagridis)、クリプトスポリジウム・ガリ(C. galli)、クリプトスポリジウム・セルペンティス(C. serpentis)、クリプトスポリジウム・サウロフィラム(C. saurophilum)及びクリプトスポリジウム・モルナリ(C. molnari)からなる群より選択される。
【0036】
無宿主細胞培地
本発明の方法において使用される培地は、それ自体、本発明の態様である。即ち、本発明はクリプトスポリジウムを維持できるか、又は、クリプトスポリジウムをその生活環に渡って進行させることができる無細胞培地を提供し、培地は無機塩、アミノ酸、ビタミン及び緩衝物質(例えば重炭酸ナトリウム、HEPES)、アミノ酸補給物(例えばL−グルタミン)、炭水化物源(例えばグルコース)、ビタミン(B、B5、B複合物、C)、抗生物質(例えばペニシリン及びストレプトマイシン)、胆汁(例えばウシ胆汁)及び血清(例えばウシ胎児血清)からなる群より選択される他の構成成分の緩衝平衡複合体を含む。
【0037】
培地のpHはクリプトスポリジウムの生育を支援する限り、変動してもよい。好ましくは、pHは中性pHかその近傍であり、例えば6.5〜7.5である。1つの特定の形態においては、培地のpHは約7.4である。
【0038】
無宿主細胞培地は2相性であってよい。即ち本発明はクリプトスポリジウムを維持できるか、又は、クリプトスポリジウムをその生活環に渡って進行させることができる2相性の無細胞培地を提供し、培地は無機塩、アミノ酸、ビタミン及び緩衝物質(例えば重炭酸ナトリウム、HEPES)、アミノ酸補給物(例えばL−グルタミン)、炭水化物源(例えばグルコース)、ビタミン(B、B5、B複合物、C)、抗生物質(例えばペニシリン及びストレプトマイシン)、胆汁(例えばウシ胆汁)及び血清(例えばウシ胎児血清)からなる群より選択される他の構成成分の緩衝平衡複合体を含む。
【0039】
好ましくは、2相性の培地は、凝固血清のような粘稠又は半固体となるように処理されている血清を更に含んでよい。2相性培地中の第2の相を形成するために使用される血清は変動してよい。好ましくは、血清は胎児動物、より好ましくは胎児の哺乳類、更に好ましくはウシ又は子ウシなどのウシ胎児に由来するものである。
【0040】
2相性培地は、凝固血清から形成された第1の相を調製すること、及び、無機塩、アミノ酸、ビタミン及び緩衝物質(例えば重炭酸ナトリウム、HEPES)、アミノ酸補給物(例えばL−グルタミン)、炭水化物源(例えばグルコース)、ビタミン(B、B5、B複合物、C)、抗生物質(例えばペニシリン及びストレプトマイシン)、胆汁(例えばウシ胆汁)及び血清(例えばウシ胎児血清)からなる群より選択される他の構成成分の緩衝平衡複合体を含む第2の相を積層することにより調製してよい。
【0041】
上記した通り、本発明の方法を用いて培養したクリプトスポリジウムは、宿主細胞を利用する他の系で培養したクリプトスポリジウムと相対比較して多くの好都合な点を有している。以下に本発明の方法を用いて培養するクリプトスポリジウムに対する使用例を示す。
【0042】
治療用途
本発明の宿主細胞非存在下のクリプトスポリジウムの培養は、治療用途において更に使用しやすいクリプトスポリジウム材料の調製を可能にする。
【0043】
栄養型、メロゾイト及び他の細胞外ガモント様段階のようないずれかの所与の生活環段階にあるクリプトスポリジウムの比較的大量を、本明細書に記載した培養方法を用いて調製でき、そして次に治療薬及び免疫原性調製物、例えばワクチンの開発において更に使用するために精製単離することができる。
【0044】
即ち本発明はまた、少なくとも1つのクリプトスポリジウム抗原を含む免疫原性調製物の調製方法であって、前記方法は、(i)クリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程と、(ii)第2生活環段階においてクリプトスポリジウムを単離する工程と、(iii)工程(ii)から単離したクリプトスポリジウムを用いて治療用調製物を調製する工程とを含む方法を提供する。
【0045】
本発明においては、「治療薬」及び「治療」という用語は互換的に使用し、そして限定しないが、既存の健康の水準の維持を介した疾患の防止から状態の治療及び疾患の治癒に至る帰結の範囲を含む。用語は更に予防、症状緩解及び健康回復も非限定的に含む。
【0046】
本発明の以前は、治療用途のために研究できるような十分な量の個々のクリプトスポリジウムの生活環段階を得ることが極めて困難であった。好ましくは、第2生活環段階は細胞外生活環段階であり、そしてより好ましくは栄養型、メロゾイト又は他の細胞外ガモント様段階である。これらの細胞外の形態はクリプトスポリジウムの細胞内形態上には存在しない抗原をディスプレイする可能性が高いことから、保護的治療薬を製造するために特に有用である。クリプトスポリジウムの細胞外形態は動物においてIgA応答を呈する場合に特に有用であると考えられる。IgA応答は免疫性及び寄生生物の除去に関連している。
【0047】
即ち本発明は、本明細書に記載する方法により培養したクリプトスポリジウムの治療有効量及び生理学的に許容される担体を含む治療用組成物を提供する。
【0048】
治療用組成物中のクリプトスポリジウムは、生活環段階1つ以上の全細胞抽出液を含んでいてもよい。或いは、クリプトスポリジウムは、含まれる細胞が破壊されるように処理されているクリプトスポリジウムの調製物であってよい。本発明の別の更に進行した様式においては、治療用組成物は本発明に従って培養されたクローニングから単離精製されている少なくとも1つのクリプトスポリジウム抗原を含む。
【0049】
破壊の種々の方法を用いてよく、例えば、音波粉砕、浸透圧、凍結、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような界面活性剤への曝露及び加熱を挙げることができる。クリプトスポリジウムの破壊のほかに、治療用組成物中に使用する前にクリプトスポリジウム又はクリプトスポリジウムにより生産された抗原を不活性化することが望ましい場合がある。熱処理又はホルマリン不活性化のような従来の手法を使用してよい。
【0050】
治療用組成物はクリプトスポリジウムの株1つ以上及び/又はクリプトスポリジウムの抗原1つ以上を含んでよい。丸ごとの原生動物又は音波粉砕原生動物に加えて、このような抗原を使用してもよく、又は無細胞治療用組成物中で使用してよい。音波粉砕クリプトスポリジウム調製物、濃縮クリプトスポリジウム毒素及び他のクリプトスポリジウム含有調製物をこのような治療用組成物中に使用してよい。
【0051】
治療用組成物の製剤は適当な製薬用担体、例えばアジュバントを含んでよい。アジュバント、例えば明礬系のアジュバント、例えば水酸化アルミニウムの使用が好ましい。市販のアジュバントもまた治療用組成物中に使用してよく、又は、治療用組成物中で一般的に入手されるアジュバントと組み合わせてよい。例えば好ましい治療用組成物は水酸化アルミニウム及びQUILLA(Super Fos,Copenhagen,Denmark)を含む。治療用組成物の厳密なアジュバント製剤は、クリプトスポリジウムの特定の菌株、免疫化すべき種、及び免疫化の経路により変動する。治療用組成物の製剤は当業者に周知である。
【0052】
このような治療用組成物はクリプトスポリジウムの感染を受けやすい動物、例えばヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ及びトリの種を免疫化するために使用してよい。家畜及び野生の動物の両方、並びに、食糧生産動物を免疫化してよい。
【0053】
本発明は更に本明細書に記載した方法に従って培養されたクリプトスポリジウム又はそれより単離された抗原の治療有効量及び生理学的に許容される担体を投与することを含むクリプトスポリジウム感染に関わる疾患を予防又は治療する方法を提供する。この方法は例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ヒト、家畜(特に食糧生産動物)、トリの種及び野生動物において有用である。野生動物における使用は、ヒト又は家畜により使用される給水を含む環境の汚染を防止することができる。
【0054】
接種のいずれかの好都合な経路を用いて治療用組成物を送達してよく、そして経路は治療すべき動物及び他の要因に応じて変化してよい。非経口投与、例えば皮下、筋肉内又は静脈内投与が好ましい。イヌ及びネコの種に対しては皮下投与が最も好ましい。経口投与もまた使用してよく、例えば腸溶性コーティングを施した経口用剤型が挙げられる。
【0055】
投与のスケジュールは治療すべき動物に応じて変動してよい。動物には単回投与してよく、又は、ブースター用量を投与してよい。年次のブースターを用いて持続的保護を行ってよい。治療すべき動物の齢もまた投与の経路及びスケジュールに影響し得る。母動物からの抗体がもはや存在せず、動物が免疫学的にコンピテントである齢において投与するのが好ましい。これらの状態はイヌ又はネコの種では約6〜7週齢に起こる。更に又、乳汁中の抗体の受動的な移転を介した子孫の感染を防止するための母動物の免疫化も意図される。投与は兆候性又は無兆候性の動物、例えば慢性感染の動物又はヒトに対して行ってよく、そして、下痢のような感染症状を軽減することにより成長速度を高めるために使用してもよい。従って、治療用組成物の有効量の投与は飼料変換率を増大させる場合がある。
【0056】
本発明は更に本明細書に記載する通り培養し低温貯蔵したクリプトスポリジウムを提供する。低温貯蔵の方法は後述する実施例において説明する。低温貯蔵溶液は培地、FBS及び低温貯蔵剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)又はグリセロールを含んでよい。
【0057】
クリプトスポリジウムの検出
本発明の培養方法を用いてクリプトスポリジウムの試料をスクリーニングすることができる。即ち、本発明はまた、(i)本明細書に記載した培養方法に試料を付す工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む、試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法を提供する。
【0058】
本発明の検出方法は、検出がより容易に行える水準まで試料中のクリプトスポリジウムの量を増大させることに基づいており、従って、上記した培養方法のいずれかを試料中のクリプトスポリジウムの検出に適用することができる。効果的には、試料は培養方法の接種物となる。
【0059】
即ち、本発明はまた、(i)クリプトスポリジウムが第2生活環段階に進行することが可能な条件下で無宿主細胞培地に試料を導入する工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む、試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法を提供する。
【0060】
上記した培養方法に関し、培養方法はクリプトスポリジウムがその生活環を完了できるようにすることが好ましい。即ち、本発明はまた、(i)クリプトスポリジウムが生活環を完了することが可能な条件下で無宿主細胞培地に試料を導入する工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法を提供する。
【0061】
試料はいずれかの原料に由来するものであってよいが、好ましくはヒトにより使用されるべき水源から試料を得た試料のような水試料である。更に好ましくは、試料はダム、湖、河川又は雨水集水領域のような飲料水源から得る。
【0062】
クリプトスポリジウムはいずれかの使用可能な手段により検出できる。例えば、試料は、顕微鏡、又は、試料中にクリプトスポリジウムが存在すればそれを目視可能とする別の手段を介して観察してよい。或いは、検出は、PCR又は試料中のクリプトスポリジウムの存在を優先的に検出するように設計されたいずれか他の実験室手法により行ってよい。
【0063】
一部の試料においては、試料中のいずれかのクリプトスポリジウムを濃縮するように培養前に試料を前処理することが必要な場合がある。これを行う1つの方法は試料を遠心分離することである。即ち、本発明は培養の前に試料を前処理してそこに含まれるクリプトスポリジウムを濃縮する、試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法を提供する。本発明の検出方法の1つの特定の実施形態においては、試料を遠心分離又は当分野の他のいずれかの適当な方法により濃縮し、ペレットを脱嚢処理し、次に本発明の培養方法に曝露する。
【0064】
一般的記述
当業者の知る通り、本明細書に記載した本発明は特記したもの以外の変更及び改変が可能である。本発明はそのような変更及び改変を含む。本発明はまた本明細書で言及又は指定した全ての工程、特徴、組成物及び化合物を、個々に、又は、集合として、そして、全ての組み合わせ又はいずれかの2つ以上の工程又は特徴として含む。
【0065】
本発明は本明細書に記載した例示のみを目的とする特定の実施形態によりその範囲を限定されるものではない。機能的に等価な生成物、組成物及び方法は明らかに本明細書に記載した本発明の範囲内のものである。
【0066】
本明細書において引用した全ての出版物(例えば特許、特許出願、雑誌記事、実験マニュアル、書籍又は他の文書)の全体の開示は、参照することにより本明細書に組み込まれる。参考文献の何れも従来技術又は当業者のよく知るものとして受け入れたわけではない。
【0067】
本明細書においては、「誘導した」又は「から得た」という用語は、特定の実体が特定の原料から得られることを示しており、必ずしもその原料から直接でなくともよい。
【0068】
明細書全体を通じて、特段の記載が無い限り、「含む」、「含有する」、「包含する」という表現は、指定した実体又は実体の群を含むことを意図しており、何れの他の実体又は実体の群を排除するものではない。
【0069】
本明細書において使用した選択された用語の他の定義は本発明の詳細な説明内に記載されており、全体に対して適用される。特段の記載が無い限り、本明細書に記載した全ての他の専門技術用語は当業者が理解しているものと同様の意味を有する。
【0070】
ここで本発明を以下の実施例を参照しながら説明する。実施例の説明は上記の一般性を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0071】
無宿主細胞培地
無宿主細胞培地A
インビトロのクリプトスポリジウム培養のための維持培地はpH7.4に調節した0.03gのL−グルタミン、0.3gの重炭酸ナトリウム、0.02gのウシ胆汁、0.1gのグルコース、25μgの葉酸、100μgの4−アミノ安息香酸、50μgのパントテン酸カルシウム、875μgのアスコルビン酸、1%のFCS、15mMのHEPES緩衝液、10,000UのペニシリンG及び0.01gのストレプトマイシンを添加した100mlのRPMI−1640(Sigma,St Louis,MI)から形成した。
【0072】
無宿主細胞培地B
インビトロのクリプトスポリジウム発生のための2相性培地は70〜80℃の水浴中で45分間25cm2の培養フラスコ中5〜10mlのウシ新生仔血清を凝固させることにより生成した。次に凝固した基剤を上記維持培地80ml上に積層した。
【実施例2】
【0073】
オーシストの脱嚢及び培地調製
クリプトスポリジウム・パルバム(ウシ遺伝子型)(SwissウシC26)の試料をInstitute of Parasitology,Zurichから入手した。次にMeloni,B.P.and R.C.A.Thompson(1996)J Parasitol 82:757−762が以前に記載した通り、マウスを経由して寄生生物を継代し、そして精製した。実験に使用したオーシストは、使用前は5℃でPBS及び抗生物質中に保存した。
【0074】
クリプトスポリジウム・パルバムオーシストは0.5%トリプシンを含有する酸性の水(pH2.5〜3)から構成される新しく調製した濾過滅菌(0.22μmフィルター)した脱嚢培地中で脱嚢し、5分おきに混合しながら20分間37℃の水浴中でインキュベートした。その後、脱嚢懸濁液を室温で4分間2,000×gで遠心分離した。回収したオーシストは維持培地中に再懸濁した。
【実施例3】
【0075】
オーシストのインキュベーション及び発生の観察
材料/方法
維持培地(1相培養物)又は2相培地を含有するフラスコ(25cm2)を20mlの維持培地に再懸濁した100万個の脱嚢したオーシストを接種した。次に培養物を5%CO2インキュベーター中37℃でインキュベートした。
【0076】
インキュベーションの1、3、4、8、9,17、20及び48日後、フラスコから小量(10ml)ずつ取り出し、遠心分離し、クリプトスポリジウムの段階についてペレットを観察した。ペレットから湿潤マウントを調製し、クリプトスポリジウム・パルバムの画像をキャプチャーするためにNomarski位相差顕微鏡(OlympusBX50)及びOptimas画像分析器(MS−DOS操作システム)を用いて観察した。写真は400倍及び1000倍の倍率で撮影した。
【0077】
結果
24時間後に1相及び2相のクリプトスポリジウム・パルバムの培養物を観察したところ、大部分のオーシストが脱嚢しており(図1d)、そして多数のスポロゾイトが存在していた。多くのスポロゾイトは環状から2×1.3μmの大きさの紡錘型の運動性の栄養型に変態していた(図1a,b,c)。
【0078】
栄養型は融合して2個以上の栄養型の凝集物、そして場合により10〜20栄養型を含有する大型の凝集物となっているように観察された(図1a,b及びc)。
【0079】
48〜72時間には凝集物内の栄養型は発達して最初に融合した栄養型の数に応じて種々の大きさのメロント(メトント1)となっていた(図2)。メロントの発生は融合した栄養型の複数の有糸分裂の結果として起こった。
【0080】
前回の試験と合致して、2種の異なるメロントが観察された(I型メロント及びII型メロント)(図2及び図3)。
【0081】
I型メロントはクリプトスポリジウムの培養方法の開始後48時間もの早期にブドウ様の凝集物として出現した(図2)。これらのメロントから放出されたメロゾイトは活動的な運動性を有しており、形状は環状から楕円であり、小型であった(1.2×1μm)。I型メロントから放出されたメロゾイトは大型化し、集合してII型メロントを形成した。
【0082】
ロゼット様のパターンを有していたII型メロントがまず培養3日後に検出された(図3)。
【0083】
II型メロントから放出されたメロゾイトは3.5×2μmの大きさの末端を向いた概ね紡錘型(図3b、d)であるか1.6×1.5μmの大きさの多形状に環化(図3c)しているかのいずれかであった。培養7〜8日後、多数の活動的に運動しているメロゾイトがメロントを放出し続けていた(図4)。
【0084】
9日〜46日には、全ての発生段階(スポロゾイト、栄養型、メロゾイト、I型及びII型のメロント及び胞子形成オーシスト)が反復して培地中に観察された。
【0085】
前回の試験と同様、II型メロントから放出されたメロゾイトはマクロガモント及びミクロガモントに変態することによりクリプトスポリジウムの生活環の有性段階にまで発生していた(図5)。
【0086】
培養6日の後(2相性培地)、II型メロントから放出された一部のメロゾイトは大型化しており、ミクロガモントまで発生していた(図5a〜c)。ミクロガモントは5.6×5μmの大きさであり、環状であり、低倍率では極めて暗く出現していた(図5a)。
【0087】
ミクロガモント段階の表面から発生しているミクロガメートの発芽は培養6日後に顕著となった(図5a)。より高倍率においては、ミクロガメートは多数の発生中のミクロガメートをその表面に有することにより他の段階から容易に差別化することができる。培養6日後に生じるミクロガモント様の段階(図5b、c)はクリプトスポリジウム・バイレイのミクロガモントと同様である。2つの段階の同様性は環状の形及び発生中のミクロガメートの存在であり、これはドットとして出現し、度々残渣からの出芽として観察された(図5b)。ミクロガメートは開口部を通ってミクロガモントを放置するように観察され、表面に縫合部に似た態様を観察した。遊離のミクロガメートもまた本試験の間7日後に観察され、この場合もクリプトスポリジウム・バイレイと同様に出現し、核が原形質の大部分を占めていた(図5d)。これらのミクロガメートの集団は自由に移動しているものが検出され(図5d)、そして、2.2×1.6μmの大きさの完全に発生したミクロガメートが培養7日後に検出された。
【0088】
特徴的な周辺の核を有するマクロガモントを示す段階が5日後に観察され、大きさは5×4μmであった(図5f及び5g)。数回の場合において、ミクロガメートはマクロガモントの表面に付着するように観察され、そしてその一部はマクロガモントの内部にも観察された(図5h)。場合によりマクロガモントと接合しているミクロガメートも観察された(図5i)。
【0089】
接合体に似た大きさ5×4μmの段階(図5j)もまた7〜8日後に観察され、大型の核を有する非胞子形成のオーシストの出現が認められた。
【0090】
胞子形成オーシストは培養7〜8日後に検出され、そして胞子形成オーシストの数の顕著な増大が培養21日後に観察された(図6)。胞子形成の種々の段階のオーシストの存在及びオーシストからのスポロゾイトの放出は良好な生殖及びインビトロのクリプトスポリジウム生活環の永続化の証拠である(図6)。
【0091】
1相及び2相性の培地中のクリプトスポリジウムの培養を比較すると、2つの相違点が判明した。
【0092】
第1に、より多数のメロント(I型及びII型)が2相性培地中には発生しているのが観察され、これは1相性培地中に観察されたメロントよりもより大型であり、そして多数の発生中メロゾイトを含有していた。
【0093】
第2に、ガモント様の細胞外段階の存在は1相性培地中には観察されたが、72時間培養後は2相性培地中に検出された(図7)。細胞外段階は前述と同様であった。その大きさは初期は小型(5.3×2.3μm)であり、時間と共に大型化した(16.6×7.6μm)(図7a〜c)。
【0094】
図8はクリプトスポリジウム・パルバムの生活環がどのようにして無宿主細胞培地中で進行するかを示しており、メロゴニー、ガメトゴニー、スポロゴニー並びにガモント様細胞外段階を含む発生期も示した。
【実施例4】
【0095】
培養誘導オーシストのマウスに対する感染性
材料/方法
Meloni,B.P.and R.C.A.Thompson(1996)J Parasitol 82:757−762の記載の通りマウスから精製したクリプトスポリジウム・パルバム(ウシ遺伝子型)の200万個のオーシストを感染させてある46日齢の培養物を原料として、寄生生物を含有する2本の25cm2の培養フラスコから維持培地の試料を採取した。培養期間中を通して試料における培地の交換は行わなかった。
【0096】
培地は8分間2,000gで遠心分離し、ペレットを2mlPBSに再構成し、その後7〜8日齢のARC/Swissマウスに胃内接種した(100μl/マウス)。感染後8日に、Meloni,B.P.and R.C.A.Thompson(1996)J Parasitol 82:757−762の記載の通りオーシスト精製のためにマウスを処理した。
【0097】
結果
46日齢培養物から採取したオーシストは7〜8日齢のARC/Swissマウスに対して感染性であった。約5×106オーシスト(11マウスから採取したものを合わせたもの)の収量が精製後に得られた。
【実施例5】
【0098】
培養物中に生産されたクリプトスポリジウムのオーシストの低温貯蔵
オーシストを遠心分離により収集した後に使用したPBS再懸濁培地から分離し、次に5〜15%DMSOを含む低温貯蔵溶液中に再懸濁し、10〜20%FBSを含む細胞培養用培地に添加する。再懸濁したオーシストを数分間氷上に置き、次に約−80℃で2〜3時間保持し、次に液体窒素中に保存する。
【0099】
代替法においては、再懸濁オーシストを直接液体窒素中に、又は、凍結工程を制御するように設計された細胞凍結装置中に入れる。
【実施例6】
【0100】
全音波粉砕ワクチンの調製
クリプトスポリジウムの全音波粉砕ワクチンは、細胞培養誘導寄生生物懸濁液を氷上に維持しながら、例えばVirsonic Cell Disrupterを用いて調製してもよい。3回の20秒バーストで通常は寄生生物破壊に十分である。未損傷の栄養型の存在は血球計を用いて確認してもよく、そして更に20秒のバーストを用いることにより未損傷の細胞があればそれを破壊する。
【0101】
音波粉砕の最終タンパク質濃度は、BIORAD Protein Assayにより測定し、滅菌PBSを添加することにより0.75mg/mlに調節する。次にこの溶液を水酸化アルミニウムアジュバントと1:4に混合して後の試験において動物を免疫化するためのワクチン調製物として使用する。
【実施例7】
【0102】
培養物中に生産されたクリプトスポリジウムのオーシストによる動物の免疫化
クリプトスポリジウムに対して動物を免疫化する方法は若干の変更を加えたOlson[米国特許第5,512,288号及び第6,153,191号]に記載のジアルジア(Giardia)に対して免疫化するために使用されたものから採用する。
【0103】
ウシ5匹の2群を各々、水酸化アルミニウムアジュバント0.5ml及び実施例6由来のクリプトスポリジウムワクチン調製物2.5ml(A群)又は約2.5mlのPBS(B群)の皮下注射により、免疫化(A群)又は擬似免疫化(B群)する。ELISAプレート上に精製したクリプトスポリジウム抗原を固定化するELISA試験を用いてクリプトスポリジウム抗原に対する抗体の存在について動物を調べる。免疫化ウシの血清中のクリプトスポリジウム抗体の存在は、ワクチン中のクリプトスポリジウム抗原に対する抗体を体液性免疫応答が生産していることを示す。
【実施例8】
【0104】
クリプトスポリジウムによる接種動物の攻撃
これらの抗体が後のクリプトスポリジウム攻撃に対して保護性を有するかどうかを調べるために実施例7の免疫化又は擬似免疫化動物をクリプトスポリジウム寄生生物で攻撃する。クリプトスポリジウム寄生生物は経口又は直接の腸内接種により導入する。
【0105】
典型的にはマウスを約106個のオーシストで攻撃し、ウシを約107〜約108個のオーシストに感染させる[例えばPerryman,L.E.et al(1999)Vaccine 17:2142−49;Bukhari,Z.et al(2000)Appl Envir Microbiol 66:2972−80;Sreter,T.et al(2000)Appl Envir Microbiol 66:735−738参照]。
【実施例9】
【0106】
感染の臨床証拠に関する動物のモニタリング
クリプトスポリジウム攻撃動物は疾患の有害臨床兆候、例えば軟便、下痢、体重減少、嗜眠及び成長不能に関してモニタリングする。
【0107】
糞中嚢胞計数を感染期間中毎日実施し、感染動物がクリプトスポリジウムのオーシストを排出しているかどうか調べる。血清試料は少なくとも毎週、及び、死後に採取し、ELISAにおいて使用することによりIgM及びIgG価を測定する。
【0108】
安楽死の後、腸試料(例えば十二指腸、空腸、回腸)を採取して栄養型計数、光学顕微鏡観察及び電子顕微鏡観察に付す。粘膜擦過物、血清試料、及び胆汁を採取し、さらなる免疫学的分析及び酵素研究のために、約−80℃で凍結保存した。
【0109】
免疫化しない対照動物と比較した場合の免疫化動物中のクリプトスポリジウム感染の低減した臨床的兆候は、ワクチンがクリプトスポリジウム感染に対抗して免疫化動物を保護するために有効であることの証拠である。
【実施例10】
【0110】
酵素結合免疫吸着試験(ELISA)
動物の腸粘膜のホモジネートを本質的にOlson[米国特許第6,153,191号]の記載の通り調製する。
【0111】
感染動物の腸粘膜由来の組織を10%w/vの2mM EDTA中でホモゲナイズし、次に−80℃で保存する。次に試料を解凍し、2mM EDTA及び1mM PMSFを含む溶液で約1:1希釈する。混合物を分散させ、18Gの針を5回通過させることにより破壊する。不溶性の破砕片は20分間約17,000gで遠心分離することによりペレット化する。
【0112】
可溶性タンパク質を含有する上澄みを即座にELISAに供するか、又は、−80℃で保存する。クリプトスポリジウム抗原を検出するポリクローナル又はモノクローナル抗体が試験において有用である。全試料を2連で試験する[Perryman,L.E.et al(1999)Vaccine 17:2142−49も参照できる]。免疫化動物の血清中のクリプトスポリジウムタンパク質に対する抗体が検出されることは、ワクチンに応答した体液性免疫応答の証拠である。
【0113】
本発明の種々の実施形態を実施する上記した様式の改変は開示した本明細書に関する上記教示に基づけば当業者には自明である。本発明の上記実施形態は例示に過ぎず、如何なる点においても限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】クリプトスポリジウム・パルバムのオーシストから放出されたスポロゾイトである。a.栄養型に変態したスポロゾイト、環状から楕円形の形状である。b&c.オーシストから放出された後にどのようにして栄養型が凝集するかを示す。d.24時間後に検出されたオーシストの大部分は空である。クリプトスポリジウム・パルバムのオーシストをRPMI−1640の1相性維持培地中で24時間培養。スケールバー=5μm。
【図2】クリプトスポリジウム・パルバムのオーシストから放出された栄養型の融合後に形成されたメロントI。これらのメロントの大きさは、集合した栄養型の数により決まる。RPMI−1640の2相性維持培地中のクリプトスポリジウム・パルバムのオーシストの72時間培養。スケールバー=5μm。
【図3】a.早期のメロントII。b.メロントIIが形成過程においてメロゾイトとのロゼットとして発生。c.メロゾイトを放出しているメロントII。d&e.メロントIIから放出された遊離のメロゾイト、一部は末端を向いた紡錘型であり、一部は環状である。RPMI−1640の1相性維持培地中のクリプトスポリジウム・パルバムのオーシストの8日齢培養物。スケールバー=5μm。
【図4】RPMI−1640の2相性維持培地中で8日培養後のメロゾイト。a.多数のメロゾイトが形成されているこの系の生産性が示されており、また2つの形態的に異なる型のメロゾイトがあり、一部は末端を向いた紡錘型であり、一部は環状である。スケールバー=5μm。
【図5】6〜7日間RPMI−1640の2相性維持培地中で生育させたクリプトスポリジウム・パルバム中で検出された有性段階。a.表面から最終的に発芽(b)するミクロガメートを有するマクロガモント。b.核が明確に示されているミクロガメートを発達している早期のミクロガモント。c.表面に付着したミクロガメートを有する後期のマクロガモント。d.マクロガミートはミクロガモントから放出された時点でなお集合している。e.遊離の完全に発達したミクロガメート、原形質の大部分が核で充填されている。f.周辺に核を有する完全に発達したマクロガモント。g.マクロ及びミクロガメートが相互に融合し(Mi&Ma)、ミクロガメートがなお表面に付着している生殖過程。h.マクロ及びマクロガモント(Ma&Mi)が対になる進行中の接合。i.大型の中央の核を有する遊離の接合体(非胞子形成のオーシスト)。スケールバー=5μm。
【図6】RPMI−1640の2相性維持培地中で46日間培養後のクリプトスポリジウム・パルバムの胞子形成オーシストであり、スポロゾイトを持続的に放出している。スケールバー=5μm。
【図7】RPMI−1640の2相性維持培地中で8日間の後に2相培養において検出された細胞外段階。スケールバー=5μm。
【図8】無宿主細胞培地中のクリプトスポリジウム・パルバムの生活環の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法。
【請求項2】
第1及び第2の生活環段階が、脱嚢したオーシストを含むオーシスト、スポロゾイト、栄養型、メロントI、メロゾイト(1型)、メロントII(早期)、メロントII(後期)、メロゾイト(II型)、マクロガモント(大配偶子母細胞)、ミクロガメート(小配偶子)及び接合体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1生活環段階がオーシスト又はスポロゾイトであり、そして第2生活環段階がオーシスト、スポロゾイト又は栄養型である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第2生活環段階がオーシストである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
クリプトスポリジウムがその生活環を完了することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法。
【請求項6】
(i)無宿主細胞培地中に接種物を入れる工程と、(ii)クリプトスポリジウムを培養してクリプトスポリジウムのバイオマスを増大させる工程とを含むクリプトスポリジウムの初期接種物からクリプトスポリジウムのバイオマスを製造するための無宿主細胞方法。
【請求項7】
無宿主細胞培地が、無機塩、アミノ酸及びビタミンの緩衝平衡複合体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
培地が、炭水化物源、抗生物質、胆汁及び血清からなる群より選択される付加的な成分を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
培地が中性pH又はその近傍のpHを有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
無宿主細胞培地が、粘稠又は半固体となるように処理されている血清の形態の第2の相を更に含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
血清を凝固させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第2の相を形成するために使用される血清が、ウシ胎児血清である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
a.クリプトスポリジウムのオーシストを単離する工程と、
b.単離されたオーシストを脱嚢する工程と、
c.無宿主細胞培地中に脱嚢したオーシストを再懸濁する工程と、
d.安定な条件下で工程(c)で調製した培養物をインキュベートする工程と、
e.培地からオーシストを収集する工程と
を含むクリプトスポリジウムを培養するための無宿主細胞方法。
【請求項14】
クリプトスポリジウムが、クリプトスポリジウム・アンデルソニ、クリプトスポリジウム・パルバム、クリプトスポリジウム・ムリス、クリプトスポリジウム・ホミニス、クリプトスポリジウム・ライリ、クリプトスポリジウム・フェリス、クリプトスポリジウム・カニス、クリプトスポリジウム・バイレイ、クリプトスポリジウム・メレアグリディス、クリプトスポリジウム・ガリ、クリプトスポリジウム・セルペンティス、クリプトスポリジウム・サウロフィラム及びクリプトスポリジウム・モルナリからなる群より選択される種に属する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
クリプトスポリジウムを維持できるか、又は、クリプトスポリジウムをその生活環に渡って進行させることができる無宿主細胞培地であって、無機塩、アミノ酸、ビタミン及び付加的な成分の緩衝平衡複合体を含む培地。
【請求項16】
クリプトスポリジウムを維持できるか、又は、クリプトスポリジウムをその生活環に渡って進行させることができる2相性の無宿主細胞培地であって、培地が無機塩、アミノ酸、ビタミン及び付加的な成分の緩衝平衡複合体を含む培地。
【請求項17】
付加的な成分が、アミノ酸補給物、炭水化物源、抗生物質、胆汁及び血清からなる群より選択される、請求項15又は16に記載の培地。
【請求項18】
ほぼ中性のpHを有する、請求項15〜17のいずれかに記載の培地。
【請求項19】
第2の相が、粘稠又は半固体となるように処理されている血清を含む、請求項16に記載の培地。
【請求項20】
血清がウシ胎児血清である、請求項19に記載の培地。
【請求項21】
少なくとも1つのクリプトスポリジウム抗原を含む免疫原性調製物の調製方法であって、(i)クリプトスポリジウムが第2の生活環段階に進行することを可能にする条件下で、無宿主細胞培地にクリプトスポリジウムを第1生活環段階において導入する工程と、(ii)第2生活環段階においてクリプトスポリジウムを単離する工程と、(iii)工程(ii)から単離したクリプトスポリジウムを用いて治療用調製物を調製する工程とを含む方法。
【請求項22】
第2生活環段階が、細胞外生活環段階である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
第2生活環段階が、栄養型、メロゾイト又は他の細胞外ガモント様段階である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の培養されたクリプトスポリジウムの治療有効量と、生理学的に許容される担体とを含む治療用組成物。
【請求項25】
クリプトスポリジウム生活環段階の1つ以上の全細胞抽出物を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
自体の細胞構造が破壊されるように処理されているクリプトスポリジウム生活環段階1つ以上を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
単離及び精製された少なくとも1つのクリプトスポリジウム抗原を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
音波粉砕、浸透圧、凍結、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような界面活性剤への曝露及び加熱からなる群より選択される手法により細胞破壊が行われている、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
クリプトスポリジウム細胞が不活性化されている、請求項24〜28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
請求項24〜29のいずれか一項に記載の組成物の治療有効量を被検対象に投与することを含む、被検対象におけるクリプトスポリジウム感染に関連する疾患を予防又は治療する方法。
【請求項31】
(i)本明細書に記載の培養方法に試料を付す工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法。
【請求項32】
(i)クリプトスポリジウムが更に生活環段階を進行することが可能な条件下で、無宿主細胞培地に試料を導入する工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法。
【請求項33】
(i)クリプトスポリジウムが生活環を完了することが可能な条件下で、無宿主細胞培地に試料を導入する工程と、(ii)クリプトスポリジウムを検出する工程とを含む、試料中のクリプトスポリジウムを検出するための方法。
【請求項34】
ヒト又は動物により使用される水源から試料を得る、請求項31〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
水源がダム、湖、河川又は雨水集水領域のような飲料水源である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
クリプトスポリジウムが目視による検査を介して検出される、請求項31〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
目視による検査が、顕微鏡、又は、試料中にクリプトスポリジウムが存在すればそれを目視可能とする別の手段を介したものである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
PCRを使用してクリプトスポリジウムを検出する、請求項31〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
試料中に任意のクリプトスポリジウムが存在すればそれを濃縮するように前処理する工程を更に含む、請求項31〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前処理が試料の遠心分離を含む、請求項39に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−527236(P2007−527236A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500010(P2007−500010)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000262
【国際公開番号】WO2005/083055
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(506291829)マードック・ユニヴァーシティ (1)
【出願人】(506291564)シドニー・ウォーター・コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】