説明

クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを精製または除去するアフィニティ担体とその精製方法、除去方法。

【課題】プラスミノゲンをはじめとするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去または精製するためのアフィニティ担体、及び、そのアフィニティ担体を用いたクリングル配列を有する蛋白質やペプチドの除去方法または精製方法を提供する。
【解決手段】pH9以下で活性化担体とリジンを接触させることによって得たリジンが固定化されたアフィニティ担体は効率良くクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去・精製可能である。また前記アフィニティ担体を用いたクリングル配列を有するタンパク質またはペプチドの精製方法ならびに除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの溶液からクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを特異的に精製・除去するためのアフィニティ担体、及び、そのアフィニティ担体を用いたクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法・除去方法に関する。また本発明は高度に精製されたクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの製造技術にも関する。
【背景技術】
【0002】
クリングル配列とは3対のS−S架橋で形成される独特の折りたたみ構造を有するアミノ酸配列であり、その構造がデンマークの菓子パンと似ていたことから名付けられた構造ドメインである。クリングル配列は、血液凝固や線溶に関わる蛋白質において頻繁に見出されているドメインであり、クリングル配列を有する蛋白質やその蛋白質断片は血液の凝固、血液の線溶のみならず、血管新生の促進、血管新生の阻害、細胞増殖の促進、細胞増殖の不活性化、アポトーシスなど生体内において様々な生理活性を発揮している。
【0003】
プラスミノゲンは791アミノ酸残基から構成される分子量約92kDaの一本鎖糖蛋白質であり、分子内にセリンプロテアーゼと5つのクリングル配列を有する。プラスミノゲンは組織プラスミノゲン活性化因子やウロキナーゼプラスミノゲン活性化因子により限定分解を受け、酵素活性を有する活性型のプラスミンへ変換される。プラスミンは血栓の主成分であるフィブリン線維を溶解する。このように、プラスミノゲンや活性型のプラスミンは血液の線溶系反応に関与するクリングル配列を有する生体内蛋白質である。
【0004】
組織プラスミノゲン活性化因子は血管内皮細胞で産生される527アミノ酸残基より成る分子量約70kDaの糖蛋白質であり、分子内にセリンプロテアーゼと2つのクリングル配列を有する。組織プラスミノゲン活性化因子はフィブリンに結合し、同じくフィブリンに結合しているプラスミノゲンを分解し、上記したように血液線溶を促進させる。また脳卒中や脳梗塞の治療薬としても用いられている。
【0005】
ウロキナーゼは腎細胞で生産され尿中または血液中に存在するプロテアーゼであり、分子内に一つのクリングル配列を有する蛋白質であり、上記したようにプラスミノゲンを限定分解し、活性型のプラスミンに変換することで線溶系カスケードを促進させる。
【0006】
プロトロンビンは分子量約72kDaの糖蛋白質であり、分子内にセリンプロテアーゼと2つのクリングル配列を有する。セリンプロテアーゼトロンビンの前駆体である。プロトロンビンはプロトロンビナーゼ複合体を形成した第Xa因子によって分解され、αトロンビンになる。αトロンビンは、フィブリノーゲンを重合させフィブリンにする、また、第XIII因子を活性化してフィブリンを強固に架橋結合させる、血小板を活性化する、第VIII因子・第V因子を活性化して凝固を促進させる等の酵素作用を表わす。一方、トロンボモジュリンに補足されて、 プロテインCを活性化して凝固を抑制する作用を持つ。
【0007】
第XII因子は596個のアミノ酸から成る分子量約80kDaの一本鎖糖蛋白質であり、分子内に1つのクリングル配列を有する。第XII因子は、ガラス、カオリン、基底膜、コラーゲン等の異物面(陰性荷電膜面)と接触すると、その立体構造を変え、 N基末端近くで異物面と結合し、カリクレイン等に限定分解され活性化を受け二本鎖の第XII因子となる。第XII因子はプレカリクレインを活性化されカリクレインに変換し、カリクレインは第XII因子を活性化するという相互活性化作用を持っている。第XII因子は異物面上で第XI因子を活性化し、内因系の凝固反応をスタートさせる。第XIIa因子には凝固反応だけでなく、細胞分裂促進作用、 線溶系の活性化、補体の活性化、カリクレインを介しての高分子キニノーゲンからのキニンの産生と、多くの生体反応に関与していることが 報告されている。
【0008】
アンジオスタチンは米国ハーバード大学のFolkman教授によって見出されたプラスミノゲンのN末端断片の蛋白質であり、分子内に複数のクリングル配列を有する。アンジオスタチンは血管新生阻害作用を有し、癌縮退効果や抗腫瘍転移効果があることが報告されている。
【0009】
肝細胞増殖因子は大阪大学中村敏一教授によって肝細胞の増殖因子として発見された蛋白質であり、4つのクリングル配列を有する分子量約60kDaの重鎖と分子量約35kDaの軽鎖がジスルフィド結合したヘテロダイマーである。肝細胞増殖因子は肝細胞のみならず肺、心・血管系、神経系など様々な細胞に対して、細胞増殖促進、細胞運動促進、抗アポトーシス、形態形成誘導、血管新生など組織・臓器の再生と保護を担う多才な生理活性を有することが報告されている。一方、肝硬変や慢性腎不全(腎硬化症)に代表される慢性線維性疾患においては、その発現低下状態をきたすことも報告されている。また肝細胞増殖因子の遺伝子治療により閉塞性動脈硬化症患者に対する治療効果も見出されている。
【0010】
NK4は肝細胞増殖因子が切断された肝細胞増殖因子の部分蛋白質であり、同様に4つのクリングル配列を有する。NK4は肝細胞増殖因子のアンタゴニストとして働き、癌の浸潤転移を抑制する一方で、VEGFやbFGFなどの血管新生因子の働きを抑制できることから、強力な血管新生阻害活性を持っていることが知られている。
【0011】
アポリポプロテイン(a)はLDLコレステロールの構成蛋白質であり、個人差はあるが分子内に12から51個の複数個のクリングル配列の繰り返し構造を持つ。急性心筋梗塞や急性炎症の際に、血中濃度の増加が報告されている。
【0012】
このようにプラスミノゲンをはじめクリングル配列を有する蛋白質やペプチドは生体内で種々の生理活性を発揮している。従ってクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去すること、または、精製することは、体内濃度低下による治療効果、夾雑成分が混在する溶液からの精製など医療上の観点から非常に有用である。前記目的を達成する材料や方法としてアミノ酸であるリジンを固定化したアフィニティ担体がある。これはクリングル配列にリジン結合性があることを利用したものである。ところがリジンは反応点であるアミノ基を二つ有しており、非特許文献1によると、αアミノ基で固定化した場合でないとクリングル配列に親和性が低いことから、リジンを選択的に固定化する必要がある。しかしながら、リジンを選択的に固定化するためには反応を厳密にコントロールしなければならず、容易なことではない。リジンを選択的に固定化するためには、εアミノ基が保護されたリジンを担体に固定化した後、脱保護する方法があるが、保護されたリジンが高価であること、工程が増えることなど、種々の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Journal of Biomedical Materials Research Part A, Vol.49, Issue.3, 409-414(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的はプラスミノゲンをはじめとするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去または精製するためのリジンが固定化されたアフィニティ担体において、保護基を用いることなく、簡便な工程によって、前記アフィニティ担体を提供すること、及び、そのアフィニティ担体を用いたクリングル配列を有する蛋白質やペプチドの除去方法または精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、元来容易に作製することが困難であった、プラスミノゲンをはじめとするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去または精製するためのアフィニティ担体の作成方法に関して鋭意検討を行った。その結果、pHが9以下の条件下で、活性化担体とリジンとを接触させて得た、リジンの固定化されたアフィニティ担体が効率良くクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去・精製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は第一にプラスミノゲンをはじめとするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去または精製するためのアフィニティ担体の作成方法に関する。第二に、アフィニティ担体を用いた、プラスミノゲンをはじめとするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドの除去方法、精製方法に関する。
【0017】
本発明は具体的には以下の発明を包含する。
(1)クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを精製または除去するためのアフィニティ担体であって、該担体の作製において活性化担体とリジンを接触させる際の溶液中pHが9以下であることを特徴とするリジンが固定化されたアフィニティ担体。
(2)リジンが共有結合で固定化された前記(1)記載のアフィニティ担体。
(3)活性化担体にN−ヒドロキシスクシンイミドが導入されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のアフィニティ担体。
(4)N−ヒドロキシスクシンイミドがリンカーを介して導入されていることを特徴とする前記(3)記載のアフィニティ担体。
(5)アフィニティ担体がポリビニルアルコールからなることを特徴とする(1)から(4)いずれかに記載の担体。
(6)ポリビニルアルコールが架橋されていることを特徴とする前記(5)記載の担体。
(7)アフィニティ担体が多孔質の水不溶性担体であることを特徴とする前記(1)から(6)のいずれかに記載の担体。
(8)多孔質の水不溶性担体が粒子状であることを特徴とする前記(7)記載の担体。
(9)クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドが、プラスミノゲン、プラスミン、アンジオスタチン、アポリポプロテイン(a)、組織プラスミノゲン活性化因子、ウロキナーゼ、肝細胞増殖因子、NK4、プロトロンビン、第XII因子またはこれらの部分ペプチドから選択される少なくとも一種以上の蛋白質またはペプチドであることを特徴とする前記(1)から(8)のいずれかに記載の担体。
(10)クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドがプラスミノゲン、アンジオスタチンまたは、その部分ペプチドであることを特徴とする前記(9)記載の担体。
(11)クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドがプラスミノゲンであることを特徴とする(10)記載の担体。
(12)前記(1)から(11)のいずれかに記載のアフィニティ担体を、夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液と接触させることを特徴とする、該担体を用いたクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法、及びクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの除去方法。
(13)前記(1)から(11)のいずれかに記載のアフィニティ担体を夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液と接触しクリングル配列を有する蛋白質を選択的に吸着させた後、吸着したクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを該担体から解離、回収することを特徴とするクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法。
(14)選択的に吸着したクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを、溶出液を用いて解離、回収することを特徴とする前記(13)記載の精製方法。
(15)溶出液がアミノカプロン酸を含む溶液、リジンを含む溶液、アルギニン酸を含む溶液、トラネキサム酸を含む溶液、p−アミノベンズアミジンを含む溶液から選ばれる少なくとも一種類以上の溶出液を用いた前記(14)記載の精製方法。
(16)夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチドが、血液や血漿などの体液、動物組織抽出物、培養液、及びそれらを前処理した溶液であることを特徴とする前記(12)から(15)のいずれかに記載のクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法または除去方法。
(17)前記(13)から(16)のいずれかに記載の方法で精製されたクリングル配列を有する蛋白質またはペプチド。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、pH9以下で活性化担体とリジンを接触させることによって保護基を用いることなく、簡便な工程によって、リジンが固定化されたアフィニティ担体が提供される。本発明により得られたたリジン固定化アフィニティ担体は、効率良くクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去・精製することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0020】
本発明におけるクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドとは、具体的にはプラスミノゲン、プラスミン、アンジオスタチン、アポリポプロテイン(a)、組織プラスミノゲン活性化因子、ウロキナーゼ、肝細胞増殖因子、NK4、プロトロンビン、第XII因子などの蛋白質、および上記蛋白質の部分ペプチドであり、クリングル配列を有するものであれば構わない。
【0021】
本発明における水不溶性担体とは、常温常圧で固体であり、水不溶性であることを意味する。本発明における水不溶性担体は、球状、粒状、糸状、中空状、平膜状等、形状は特に問わず、その大きさも特に限定されない。水不溶性担体は比表面積が大きいほど除去性能や精製効率が優れることから、球状または粒状が特に好ましく用いられる。球状または粒状の担体は適当な大きさの細孔を多数孔有する、すなわち、多孔構造を有する担体であることが好ましい。多孔構造を有する担体とは、基礎高分子母体が微小球の凝集により1個の球状粒子を形成する際に微小球の集塊によって形成される空間(マクロポアー)を有する担体のばあいは当然であるが、基礎高分子母体を構成する1個の微小球内の核と核との集塊の間に形成される細孔を有する担体の場合、あるいは三次元構造(高分子網目)を有する共重合体が親和性のある有機溶媒で膨潤された状態の時に存在する細孔(ミクロポアー)を有する担体の場合も含まれる。
【0022】
また担体の単位体積あたりの除去性能や精製効率から考えて、多孔構造を有する水不溶性担体は、表面多孔性よりも全多孔性が好ましく、また空孔容積および比表面積は、吸着性が損なわれない程度に大きいことが好ましい。
【0023】
球状や粒状の担体の平均粒径は、一般的には0.5μmから10mmのものが用いられるが、粒径が小さくなるほど比表面積が大きくなり、アフィニティ担体としての性能に優れるが、担体の物理的機械的強度が弱くなることから、10μmから3mmのものが好ましい。
【0024】
本発明における水不溶性担体としては、一般的なアフィニティ担体に求められる特性と医療材料として求められる特性、つまり、有機溶媒に対する耐性、pHや熱に対する耐性、物理的機械的強度、非特異吸着、血球成分との相互作用、血栓形成、血液凝固等の面から、デキストラン、アガロース、セルロース等の糖を含む天然高分子担体やポリビニルアルコール、ポリグリシジルメタクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート等の合成高分子系担体が好ましい。また、これらの組み合わせによってえられる有機−有機、有機−無機などの複合担体等も好ましい。さらに、これらは担体架橋されているものであっても良い。架橋剤はトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、グリセリンジメタクリレート(GDMA)などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。そして、本担体は非特異的吸着が少なく親水性が高いこと、活性基を導入するための官能基が必要なことから水酸基を有していることが望ましい。ポリグリシジルメタクリレートはそのままでは水酸基を持っていないため親水性は低いが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリによる処理や、希硫酸、過塩素酸、ベンゼンスルホン酸、またはトルエンスルホン酸などのエポキシに反応しない酸による処理を施すと、エポキシ基は開環し、ジオールに変換、親水化されるため、アフィニティ担体に適切な材料になる。このように本発明における水不溶性担体としては種々の材料が考えられるが、ポリビニルアルコールを材料とした担体が除去性能や精製効率の点より好ましい。
【0025】
本発明に記載した水不溶性担体の重合法としては、懸濁重合や均一液滴化などが考えられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0026】
本発明におけるリジンが固定化されたアフィニティ担体とは、好ましくはリジンが共有結合で結合された担体である。リジンはL体、D体、DL体、これらの混合物であってもよい。リジンを固定化するための方法としては、担体に活性基を導入し、活性基に対してリジンを反応させる方法が一般的である。よく用いられる活性基としては、エポキシ基、ハロゲン化シアン、ハロゲン化トリアジン、ブロモアセチルブロミド、アルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミド等で挙げられる。本発明において活性基の種類は限定されないが、容易にその活性基を導入できること、温和な条件下でリガンドまたはリンカーを固定化できること、活性が高いこと、固定化されたリガンドまたはリンカーが安定であり溶出しにくいこと、目的に応じて活性基導入量を調整できること、から活性基はN−ヒドロキシスクシンイミドが好ましい。N−ヒドロキシスクシンイミドはアミノ基やヒドロキシル基と容易に反応し、副反応は少なく、定量的にアミド結合、エステル結合を形成する。N−ヒドロキシスクシンイミドは水溶液中で分解させると、毒性が低くなることも利点である。
【0027】
N−ヒドロキシスクシンイミドを担体に導入する方法としては、カルボン酸を担体に導入した後、それを適当な縮合剤とN−ヒドロキシスクシンイミドとを混合することによりカルボン酸をN−ヒドロキシスクシンイミド活性化する方法が考えられる。縮合剤の種類は限定しないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル―3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなど様々な縮合剤が使用可能である。100%水溶液中では反応は進行しにくいため、溶媒としては有機溶媒、中でも非プロトン性の有機溶媒がより好ましい。
【0028】
カルボン酸を導入する方法としてカルボン酸を有する分子を担体に固定化する方法やポリメチルメタクリレート(pMMA)を加水分解する方法が挙げられる。カルボン酸を有する分子を固定化するには、例えばエピクロロヒドリンやビスエポキシドを用いてエポキシ基を導入した活性化担体に分子内にアミノ基とカルボン酸を有する分子を、アミノ基を介して固定化することにより、カルボン酸を導入できる。アミノ基とカルボン酸を有する分子とはアミノ酸など様々な分子が考えられるが、分子内にアミノ基を2つ以上、カルボン酸を2つ以上有する分子は、N−ヒドロキシスクシンイミドを導入する反応時に担体同士のクロスリンクが生じる可能性があることから、望ましくない。担体表面から遠ざけるリンカーとしての役割もあることから、直鎖状の分子、例えばアミノカプロン酸が好ましい。またポリメチルメタクリレートは側鎖にカルボン酸エステルを有する重合体であるため、アルカリでカルボン酸メチルエステル加水分解すると担体側にはカルボン酸が提示された形となり、担体にカルボン酸を導入可能である。本発明においてカルボン酸を導入する方法は限定されず、どのような方法においてカルボン酸が導入された担体であっても、本発明に記載したエポキシ導入量は、N−ヒドロキシスクシンイミドを導入することは可能である。
【0029】
本発明において活性基量は限定されないが、水に膨潤した担体1mLあたり1〜10,000μmol活性基量がアフィニティ担体の使用上好ましい。目的外の物質による非特異吸着の点から、水に膨潤した担体1mLあたり10〜5,000μmol活性基量が、より好ましい。活性基量は用途に応じ、活性基導入反応の諸条件(活性基導入剤の添加量・アルカリ量・反応温度・反応時間など)を最適化し、適宜調節することができる。
【0030】
本発明に記載したN−ヒドロキシスクシンイミド導入量は、次の方法によって求められる。N−ヒドロキシスクシンイミドを導入した担体をある一定量、例えば6mL測り取り、グラスフィルター上、減圧下で15分、水分除去する。適量を測り取り、そこにアンモニア水溶液を加え、上清の吸光度よりN−ヒドロキシスクシンイミドの量を求めることができる。
【0031】
N−ヒドロキシスクシンイミドを導入した担体へのリジンの固定化条件は、例えば、水溶液中、pH9以下の条件下で反応させることが好ましい。pHが9より高いとリジンのεアミノ基を介して固定化される割合が高くなること、また、N−ヒドロキシスクシンイミドの失活速度が速くなることから、クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの除去性能や精製効率が大きく低下する。pHが9以下であれば、リジンのαアミノ基を介して固定化される割合が高くなること、また、N−ヒドロキシスクシンイミドの失活速度が遅くなり、クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの除去性能や精製効率が高くなることから、pHが9以下の条件下で、N−ヒドロキシスクシンイミドが導入された活性化担体とリジンを接触させることが好ましい。pHは炭酸、ホウ酸、リン酸などの緩衝液を用いてpH調整を行うとよい。反応温度は適宜選べばよいが、通常は0℃〜80℃程度であり、反応時間は1分以上から48時間が好ましい。
【0032】
このようにして得られるリジンが固定化されたアフィニティ担体は、非常に安定な共有結合により結合されており、熱的にも安定である。高圧蒸気滅菌が可能であり、滅菌後のリガンド溶出やそれに伴う求める性能低下も生じない。熱滅菌以外の方法に関して、エチレンオキサイドガスによる滅菌も可能である。以上より、医療用途としても大変優れた性能を有している。
【0033】
本発明におけるプラスミノゲンをはじめとするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドの除去方法、精製方法とは、目的外の夾雑成分が混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液から目的とするクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを除去すること、または、精製することを言う。例えば、クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドが病因関連物質であった場合、血液などの体液から除去することにより疾患を治療することが可能である。また、クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドが薬剤として用いられる場合、ヒト体液から精製し高純度の天然型蛋白質製剤として用いたり、菌による蛋白質産生培養液から精製し高純度の蛋白質製剤として用いたりする際の精製工程で用いることも可能である。
【0034】
クリングル配列を有する蛋白質やペプチドの除去方法に関しては、夾雑成分が混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液を、本発明におけるアフィニティ担体と接触させることにより実現できる。接触させる方法は本発明のアフィニティ担体をカラムに充填して使用しても良く、バッチ接触させる方法でも良く、接触方法は問わない。カラムに充填して接触させる方法とは、液の入口・出口を有し、かつ担体の容器外への流出防止具を備えた容器内に、前記担体を充填した装置を作製し、装置の入口から夾雑成分が混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液を流し、出口から溶液を採取することによりクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドが除去された溶液が得られる。バッチ接触とは前記カラムへ充填せず、容器中で前記アフィニティ担体と夾雑成分が混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液を混合した後、溶液成分のみを採取することによりクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドが除去された溶液が得られる。
【0035】
クリングル配列を有する蛋白質やペプチドの精製方法に関しても、除去方法と同様に本発明におけるアフィニティ担体と夾雑成分が混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液とを接触させることにより実現できる。接触方法は前記と同じであるが、接触後に入口側または出口側から適当な溶液を用いてアフィニティ担体を洗浄した後に、溶出液を用いてアフィニティ担体に結合したクリングル配列を有する蛋白質やペプチドを溶出することにより精製可能である。溶出液はアミノカプロン酸を含む溶液、リジンを含む溶液、アルギニン酸を含む溶液、トラネキサム酸を含む溶液、p−アミノベンズアミジンを含む溶液であり、前記を混合して用いても良い。さらに溶出液の濃度も限定されるものではなく、目的に応じて選定すればよい。これは除去方法または精製方法の一例であり、使用方法は限定されない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
酢酸ビニル45g、トリアリルイシシアヌレート13.95g、ヘプタン23.85g、酢酸エチル38.79g、ポリ酢酸ビニル(重合度400)4.32g、および、重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)2.25gよりなる均一混合液を、ポリビニルアルコール4g、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム0.9g、微粒子状の第三リン酸カルシウム62g、亜硝酸ナトリウム0.8gを溶解した水773mLを含む水相があらかじめ仕込まれた、平板状の撹拌翼と2枚の邪魔板を有する2Lセパラブルフラスコ中に添加し、65℃で5時間反応させた。
【0037】
次いでセパラブルフラスコの内容物に塩酸を加えてpHを2以下に調整し第三リン酸カルシウムを溶解させ、その後水で良く洗浄した。洗浄液のpHが中性付近になったことを確認した後、水をアセトンで置換し、重合物をアセトンで十分に洗浄した。次いでアセトンを水で置換した後、酢酸ビニル単位に対して過剰量となるよう下式の量の水酸化ナトリウム(NaOH)を水溶液として加えた。
【0038】
NaOH(固形分重量)=粒子乾燥重量/86.09×40×1.5
なお水に対するNaOH濃度が4重量%になるように水量は調整した。これを撹拌下、反応温度40℃で6時間保持して鹸化を行った。その後、洗浄液のpHが中性付近になるまで水洗し、さらに80℃の温水で十分に洗浄を行った。次いで121℃、20分間のオートクレーブ処理を行い、清浄な架橋ポリマー担体を得た。
【0039】
この架橋ポリマー担体151gに、ジメチルスルホキシド(DMSO)233mL、30%NaOH19.4mL、エピクロロヒドリン156mLを加えて、40℃で5時間反応させた。DMSO0.6L、水3.0Lで洗浄することで、エポキシ活性化担体を得た。このエポキシ活性化担体のエポキシ量を測定したところ32μmol/mLであった。
【0040】
上で得たエポキシ活性化担体160mLに水94mL、2M炭酸ナトリウム水溶液40.0mL、2Mアミノカプロン酸水溶液25.6mLを加え、50℃で5時間反応させた。このスラリーを水3.2Lで洗浄することでアミノカプロン酸固定化担体を得た。滴定によりアミノカプロン酸固定化担体のアミノカプロン酸固定化量を測定したところ42μmol/mLであった。
【0041】
このアミノカプロン酸固定化担体98mLをDMSO245mLで洗浄し、洗浄した担体にDMSO94mL、NHS12.6g、EDC21.0gを加え、40℃で10時間反応させた。このスラリーをDMSO2.0Lで、IPA0.3Lで洗浄することでNHS活性化担体を得た。このNHS活性化担体のNHS量は19μmol/mLであった。
【0042】
上で得たNHS活性化担体4.0mLを氷冷1mM塩酸20mLで洗浄し、洗浄した担体に1mM塩酸3.6mL、IPA0.44mL、(0.4M炭酸水素ナトリウム+1M塩化ナトリウム)水溶液(pH7.5)4.0mL、2Mリジン水溶液0.1mL、水0.66mLを加え、5℃で3.5時間反応させた。このスラリーを水40mLで洗浄することでリジン固定化担体(担体A)を得た。固定化反応後の上清中のリジン濃度より、担体Aのリジン固定化量は17μmol/mLであった。
【0043】
上で得た担体Aの0.5mLを生理食塩水に置換した後、クエン酸で抗凝固した血漿を2.5mL添加し、室温で10分間攪拌した。次にアミノカプロン酸固定化担体が混入しないように攪拌の血漿2.5mLを採取した。処理前の血漿中のプラスミノゲン濃度、攪拌後の血漿中のプラスミノゲン濃度よりプラスミノゲンの除去率を算出したところ、攪拌前の76%が除去されていることが確認された。次に、リン酸緩衝液で担体を十分に洗浄した後、上清を出来るだけ除去し、0.01Mのアミノカプロン酸溶液を添加し、室温で6分間攪拌した。担体が混入しないように上清を回収した。
【0044】
回収液を電気泳動した所、目的とする分子量領域に単一バンドが検出され、その純度はほぼ100%であることが確認された。また、処理前の血漿中のプラスミノゲン濃度、回収液中のプラスミノゲン濃度からプラスミノゲンの回収率を算出したところ、精製されたプラスミノゲンの回収率は29%であった。
(実施例2)
実施例1と同様にしてNHS活性化担体を得た後、同様の方法でpH8.0でリジンを固定化し、リジン固定化担体(担体B)を得た。同様の方法でプラスミノゲンを精製した。担体Bのリジン固定化量は14μmol/mLであった。同様に、回収液を電気泳動した所、目的とする分子量領域に単一バンドが検出され、その純度はほぼ100%であることが確認された。またプラスミノゲンの除去率は75%、回収率は31%であった。
(実施例3)
実施例1と同様にしてNHS活性化担体を得た後、同様の方法でpH8.5でリジンを固定化し、リジン固定化担体(担体C)を得た。同様の方法でプラスミノゲンを精製した。担体Cのリジン固定化量は17μmol/mLであった。同様に、回収液を電気泳動した所、目的とする分子量領域に単一バンドが検出され、その純度はほぼ100%であることが確認された。またプラスミノゲンの除去率は73%、回収率は27%であった。
(比較例1)
実施例1と同様にしてNHS活性化担体を得た後、同様の方法でpH9.5でリジンを固定化し、リジン固定化担体(担体D)を得た。同様の方法でプラスミノゲンを精製した。担体Dのリジン固定化量は16μmol/mLであった。同様に、回収液を電気泳動した所、目的とする分子量領域に単一バンドが検出され、その純度はほぼ100%であることが確認されたが、プラスミノゲンの除去率は61%、回収率は9%であった。
【0045】
実施例および比較例におけるプラスミノゲンの精製結果を表1に示す。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを精製または除去するためのアフィニティ担体であって、該担体の作製において活性化担体とリジンを接触させる際の溶液中のpHが9以下であることを特徴とするリジンが固定化されたアフィニティ担体。
【請求項2】
リジンが共有結合で固定化された請求項1記載のアフィニティ担体。
【請求項3】
活性化担体にN−ヒドロキシスクシンイミドが導入されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアフィニティ担体。
【請求項4】
N−ヒドロキシスクシンイミドがリンカーを介して導入されていることを特徴とする請求項3記載のアフィニティ担体。
【請求項5】
アフィニティ担体がポリビニルアルコールからなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の担体。
【請求項6】
ポリビニルアルコールが架橋されていることを特徴とする請求項5記載の担体。
【請求項7】
アフィニティ担体が多孔質の水不溶性担体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の担体。
【請求項8】
多孔質の水不溶性担体が粒子状であることを特徴とする請求項7記載の担体。
【請求項9】
クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドが、プラスミノゲン、プラスミン、アンジオスタチン、アポリポプロテイン(a)、組織プラスミノゲン活性化因子、ウロキナーゼ、肝細胞増殖因子、NK4、プロトロンビン、第XII因子またはこれらの部分ペプチドから選択される少なくとも一種以上の蛋白質またはペプチドであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の担体。
【請求項10】
クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドがプラスミノゲン、アンジオスタチンまたは、その部分ペプチドであることを特徴とする請求項9記載の担体。
【請求項11】
クリングル配列を有する蛋白質またはペプチドがプラスミノゲンであることを特徴とする請求項10記載の担体。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のアフィニティ担体を、夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液と接触させることを特徴とする、該担体を用いたクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法、及びクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの除去方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載のアフィニティ担体を夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチド溶液と接触しクリングル配列を有する蛋白質を選択的に吸着させた後、吸着したクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを該担体から解離、回収することを特徴とするクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法。
【請求項14】
選択的に吸着したクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドを、溶出液を用いて解離、回収することを特徴とする請求項13記載の精製方法。
【請求項15】
溶出液がアミノカプロン酸を含む溶液、リジンを含む溶液、アルギニン酸を含む溶液、トラネキサム酸を含む溶液、p−アミノベンズアミジンを含む溶液から選ばれる少なくとも一種類以上の溶出液を用いた請求項14記載の精製方法。
【請求項16】
夾雑成分の混在するクリングル配列を有する蛋白質溶液またはペプチドが、血液や血漿などの体液、動物組織抽出物、培養液、及びそれらを前処理した溶液であることを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載のクリングル配列を有する蛋白質またはペプチドの精製方法または除去方法。
【請求項17】
請求項13から請求項16記載の方法で精製されたクリングル配列を有する蛋白質またはペプチド。

【公開番号】特開2012−62259(P2012−62259A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206171(P2010−206171)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】