説明

クリーニング装置

【課題】速やかなクリーニングを実現できるクリーニング装置を提供する。
【解決手段】各々の空間部の最上部に試料70a、70b、70cが取り付けられたホルダ30a、30b、30cの各空間部にフィラメント90a、90b、90cが取り付けられ、試料70a、70b、70cを支持している部分には電圧印加用電極80a、80b、80cが設けられている。
そして、一台のフィラメント加熱用電源100からスイッチング回路110を介してフィラメントに電流が流せ、一台の電圧印加用電源120からスイッチング回路130を介して任意の電極に電圧が印加できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電子で試料をクリーニングするように成したクリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡や表面分析機器等の各種電子光学機器においては、観察すべき試料や分析するべき試料を加熱によってクリーニングしている。
【0003】
このような加熱の装置として、例えば、フィラメントからの熱電子を被クリーニング部材に衝突させてこの部材を加熱させることにより、該部材のクリーニングを行う方式の装置がある。
図1はこの様な熱電子による試料クリーニング装置を備えた走査トンネル顕
微鏡装置の一概略例を示す。
図中1は試料のクリーニング等を行う処理室で、その中央に、制御装置(図示せず)の指令に基づいて動作する駆動機構(図示せず)により回転可能なパーキング体2が設けられている。
該パーキング体には、試料ホルダ3a、3bをそれぞれ取り付けた試料ホルダ載置台4a、4b、探針ホルダ5を取り付けた探針ホルダ載置台6が装着されている。
【0004】
前記試料ホルダ載置台4a(4bも同一構造)は、図2に示すように、中央部に枡状の碍子から成る試料ホルダ3a(3bも同一構造)が取り付けられおり、該試料ホルダ3aの最上部には試料7aが取り付けられている(試料ホルダ3bの試料7b支持部分にも同様の電圧印加用電源8bが設けられている。)。
【0005】
尚、前記試料7aを支持している部分には電圧印加用電極8aが設けられている(試料ホルダ3bの試料支持部分にも同様の電圧印加用電極8bが設けられている。)。
【0006】
図1において、9は前記処理室1内の前記パーキング体2の近傍に配置されたフィラメントで、前記処理室1外に設けられたフィラメント加熱用電源10からスイッチング回路11を介して電流が供給されるようになっている。
前記スイッチング回路11は、前記電源10に繋がった端子Ta、前記フィラメント9に繋がった端子Tb及び前記端子Taに繋がり、制御装置(図示せず)からの指令により前記端子Tbへのスイッチングを行うスイッチSaからなる。
【0007】
12はスイッチング回路13を介して、前記試料ホルダ3a又は3bの電圧印加用電極8a又は8bに、正の電圧を印加するための電圧印加用電源である。
【0008】
前記スイッチグ回路13は、前記電源12に繋がった端子Tc、前記試料ホルダ3aの電極8aに繋がった端子Td、前記試料ホルダ3bの電極8bに繋がった端子Te及び前記端子Tcに繋がり、制御装置(図示せず)からの指令により前記端子Tdへのスイッチングを行うスイッチSbからなる。
【0009】
14は良く知られているのでここでは詳細な説明を省略するが、交換すべき試料ホルダや探針ホルダがセットされている交換室で、前記パーキング体2の移動により前記交換室の対向方向に来た試料ホルダ載置台又は探針ホルダ載置台に取り付けられた試料ホルダ又は探針ホルダを第1搬送機構15で交換室14に運び出したり、交換室14にセットされた新しい試料ホルダ又は探針ホルダをパーキング体2上の試料ホルダ載置台はたは探針ホルダ載置台に取り付けられたりする。
【0010】
16は第1ゲートバルブで、制御装置の指令により、前記パーキング体2に取り付けられた試料ホルダ載置台又は探針ホルダ載置台から試料ホルダ又は探針ホルダを運び出し、或いは、試料ホルダ載置台又は探針ホルダ載置台への取り付け時には開けられ、それ以外の時には閉じられるようになっている。
【0011】
17は像観察室で、試料ホルダを載置させるステージ(図示せず)及び探針ホルダが装着され、X、Y、Z方向に微動する探針駆動体等が設けられており、前記ステージ(図示せず)に試料ホルダをセットし、探針駆動体(図示せず)に探針ホルダをセットし、試料ホルダに取り付けられた試料上を前記探針ホルダに取り付けられた探針で走査し、該走査により検出された走査トンネル電流に基づいて試料表面の凸凹に応じた像が得られるように構成されている。
18は第2ゲートバルブで、前記パーキング体2の移動により該バルブの対向位置に来た試料ホルダ載置台又は探針ホルダ載置台に取り付けたり試料ホルダ又は探針ホルダが、該バルブ及び前記像観察室17と前記パーキング体2との間に設けられている第3ゲートバルブ19を介して、第2搬送機構20によって、前記像観察室17に運んで前記ステージ(図示せず)又は探針駆動体(図示せず)にセットしたり、或いは、前記ステージ(図示せず)又は探針駆動体(図示せず)に取り付けられた試料ホルダ又は探針ホルダを取り外して前記パーキング体2上の試料ホルダ載置台又は探針ホルダ載置台に取り付けられたりできるように構成されている。尚、前記各バルブは制御装置(図示せず)の指令に基づいて開閉する。
このような構成の走査トンネル顕微鏡装置において、前記処理室1でクリーニングをする場合以下のようにして行われる。
先ず、制御装置(図示せず)の指令を受けた駆動機構(図示せず)により、パーキング体2が回転し、クリーングすべき試料が取り付けてある試料ホルダ、例えば、3aの試料ホルダが装着されている試料ホルダ載置台4aがフィラメント9の対向する位置に来る。
次に、制御装置(図示せず)の指令により、スイッチング回路10のスイッチSaは端子Tbにスイッチングし、スイッチング回路13のスイッチSbは端子Tdにスイッチングする。
すると、電圧印加電源12から、前記試料ホルダ3aの電極8aに正の電圧が印加され、同時に、フィラメント加熱用電源10から前記フィラメント9に電流が流れる。
すると、前記フィラメント9が加熱されて、該フィラメント9から熱電子が発生し、該熱電子は正に印加された前記試料ホルダ3aにセットされた試料7a方向に加速され、該試料を衝撃する。この衝撃により、前記試料表面が高温になって、結果として試料表面がクリーニングされる。
【0012】
【特許文献1】特許3400228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、この様なクリーニング装置において、前記パーキング体2の如き移動体に設けられた前記試料7aの如き被加熱部材とは独立して、該被加熱部材(試料7a)を加熱するためのフィラメント9の如き熱電子発生体が前記移動体(パーキング体2)の外に設けられているので、前記移動体(パーキング体2)を動かし、前記被加熱部材(試料7a)を前記熱電子発生体(フィラメント9)の近傍に持ってこなければならず、その為に、加熱までに著しい時間が掛かる。
【0014】
本発明は、この様な問題を解決する新規なクリーニング装置を提供すること
を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のクリーニング装置は、被加熱部材が取り付けられるホルダに、電流が流されることにより熱電子を発生して前記被過熱部材に当たるようにした熱電子発生体を設けたことを特徴とする。
また、本発明のクリーニング装置は、それぞれの被加熱部材が取り付けられるホルダが複数設けられ、該各ホルダに、電流が流されることにより熱電子を発生し、前記ホルダに取り付けられる被加熱部材に当たるようにした熱電子発生体が設けられ、一台の電流供給用電源からの電流を任意の被加熱部材に流せるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被加熱部材を取り付けたホルダ自身に、熱電子を直接あてることができる熱電子発生体を設けたので、被加熱部材の加熱が迅速にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図3は、本発明の熱電子によるクリーニング装置を備えた走査トンネル顕微鏡
装置の一概略図を示している。また、図4は図3に示すクリーニング装置の
一部詳細図である。
尚、図3および図4において、前記図1及び図2にて使用した記号と同一記号を付したものは同一構成要素を示す。
図3に示す装置が図1に示す装置に対して異なる構成は、主に試料ホルダの構造にある。即ち、図1に示す装置の試料ホルダ(3a、3b)には電圧印加用電極(8a、8b)のみ設けられ、熱電子を発生するフィラメント9はパーキング体2の外に設けられているが、図3に示す装置においては、試料ホルダ(30a、30b、30c)には電圧印加用電極(80a、80b、80c)だけではなく、熱電子を発生するフィラメント(90a、90b、90c)が設けられ、このような試料ホルダ(30a、30b、30c)を装着した試料ホルダ載置台(40a、40b、40c)が何処に位置しようが、速やかに試料(70a、70b、70c)が熱電子により加熱できるになっている。次にこの様な構成について詳細に説明する。
【0018】
図3において、パーキング体2には試料ホルダ30a、30bをそれぞれ取り付けた試料ホルダ載置台40a、40b、探針ホルダ5を取り付けた探針ホルダ載置台6が装着されている。
【0019】
尚、図3においては、像観察室17中のステージ(図示せず)にセットされた試料ホルダ載置台40cと、該試料ホルダ載置台に取り付けられた試料ホルダ30cも示している。
【0020】
試料ホルダ載置台40a(40b、40cも同一構造)は、図4に示すように、中央部に、枡状の碍子からなる試料ホルダ30a(30b、30cも同一構造)が取り付けられており、試料ホルダ30aの中央部の最上方部に試料70aが取り付けられている(試料ホルダ30bには試料70bが、試料ホルダ30cには試料70cが取り付けられている。)。
尚、試料70aを支持している部分には電圧印加用電極80aが設けられている(試料ホルダ30bの試料70b支持部分には電圧印加用電極80bと、試料ホルダ30cの試料70c支持部分にも電圧印加用電極80cが設けられている。)。
試料ホルダ30a内の空間部で試料70aの真下にはフィラメント90aが張架されており、外部に設けられたフィラメント加熱用電源100からの電流が流されるようになっている。
尚、51a、52a はフィラメント90aを固定している電極であり、試料ホルダ30b、30cも前記試料ホルダ30aと同様な構造を成している。
図3において、110はスイッチング回路で、前記フィラメント加熱用電源100に繋がった端子Tf、前記試料ホルダ30aの電極51aに繋がった端子Tg、前記試料ホルダ30bの電極51bに繋がった端子Th、前記試料ホルダ30cの電極51cに繋がった端子Ti、制御装置(図示せず)からの指令により前記端子Tg、Th、Tiの何れかへのスイッチングを行うスイッチSAからなる。
130はスイッチング回路で、前記電圧印加用電源120に繋がった端子Tj、前記試料ホルダ30aの電極80aに繋がった端子Tk、前記試料ホルダ30bの電極80bに繋がった端子Tl、前記試料ホルダ30cの電極80cに繋がった端子Tm、制御装置(図示せず)からの指令により前記端子Tk、Tl、Tmの何れかへのスイッチングを行うスイッチSBからなる。
このような構成の走査トンネル顕微鏡装置において、試料をクリーニング
する場合以下のようにして行われる。
先ず、制御装置(図示せず)のキーボード如きの入力装置から、クリーニングすべき試料に関する情報(例えば、試料ホルダ30cにセットされた試料70cに関する情報)が入力されると、該制御装置(図示せず)は、スイッチング回路130、110に指令を送り、スイッチSB端子は端子Tmにスイッチングし、スイッチSA端子は端子Tiにスイッチングされるようにする。
すると、電圧印加用電源120から前記試料ホルダ30cの電極80cに電圧が印加され、同時にフィラメント加熱用電源100から前記フィラメント90cに電流が流れる。
すると、前記フィラメント90cが加熱され、該フィラメント90cから熱電子が放出し、熱電子は正電圧が印加された試料ホルダ30cにセットされた試料70c方向に加速され、該試料70cに衝突する。この衝突により、試料70cは高温になって結果として試料表面がクリーニングされる。
また、別の試料、例えば、試料70bをクリーニングする場合には、入力装置(図示せず)から制御装置(図示せず)に試料ホルダ30bにセットされた試料70bに関する情報が入力され、該制御装置(図示せず)は、スイッチング回路130、110に指令を送り、スイッチSBは端子Tlにスイッチングし、スイッチSAは端子Thにスイッチングされるようにする。
すると、電圧印加用電源120から前記試料ホルダ30bの電極80bに電圧が印加され、同時にフィラメント加熱用電源100から前記フィラメント90bに電流が流れる。
すると、前記フィラメント90bが加熱され、該フィラメント90bから熱電子が放出し、熱電子は正電圧が印加された試料ホルダ30bにセットされた試料70b方向に加速され、該試料70bに衝突する。この衝突により、試料70bは高温になって結果として試料表面がクリーニングされる。
尚、前記実施例の各電源100、120、各スイッチング回路110、130と各試料ホルダ載置台間の配線は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる変形で実施することができる。
また、試料ホルダ中央部の枡状の碍子側面に電極部を有する場合には、この電極部から生じる電界の影響で熱電子の軌道が変わるため、前記電界の影響を軽減させるためにフィラメントの対向部以外の部分を囲うように電界遮蔽板を設けることが好ましい。
また、前記例は、走査トンネル顕微鏡装置を例に挙げて説明したが、オージェ電子分光装置や電子顕微鏡装置においても応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の熱電子によるクリーニング装置を搭載した走査トンネル顕微鏡装置の一概略例を示している。
【図2】図1に示す装置の一部詳細図である。
【図3】本発明の熱電子によるクリーニング装置を搭載した走査トンネル顕微鏡装置の一概略例を示している。
【図4】図3に示す装置の一部詳細図である。
【符号の説明】
【0022】
1…処理室
2…パーキング体
3a、3b、30a、30b、30c…試料ホルダ
4a、4b、40a、40b、40c…試料ホルダ載置台
5…探針ホルダ
6…探針ホルダ載置台
7a、7b、70a、70b、70c…試料
8a、8b、80a、80b、80c…電圧印加用電極
9、90a、90b、90c…フィラメント
10、100…フィラメント加熱用電源
11、13、110、130…スイッチング回路
12、120…電圧印加用電源
14…交換室
15…第1搬送機構
16…第1ゲートバルブ
17…像観察室
18…第2ゲートバルブ
19…第3ゲートバルブ
20…第2搬送機構
51a、51b、51c…電極
52a、52b、52c…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱部材が取り付けられるホルダに、電流が流されることにより熱電子を発生して前記被加熱部材に当たるようにした熱電子発生体を設けたクリーニング装置。
【請求項2】
それぞれの被加熱部材が取り付けられるホルダが複数設けられ、該各ホルダに、電流が流されることにより熱電子を発生し、前記ホルダに取り付けられる被加熱部材に当たるようにした熱電子発生体が設けられ、一台の電流供給用電源からの電流を任意の被加熱部材に流せるようにしたクリーニング装置。
【請求項3】
前記電流供給用電源と前記熱電子発生体との間に、スイッチ切換え手段を設け、該手段のスイッチを切換えることにより、該熱電子発生体から熱電子を発生させるようにした請求項2に記載のクリーニング装置。
【請求項4】
前記熱電子発生体からの熱電子を前記被過熱部材方向に加速するための電界を発生させる電極を前記ホルダに設けた請求項1又は2に記載のクリーニング装置。
【請求項5】
一台の電圧供給用電源を設け、前記熱電子発生体からの熱電子を任意の被加熱部材に加速するようにした請求項4に記載のクリーニング装置。
【請求項6】
前記電圧供給用電源と前記熱電子発生体との間に、スイッチ切換え手段を設け、該手段のスイッチを切換えることにより、任意のホルダの電極に電圧を印加するようにした請求項5に記載のクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−130400(P2008−130400A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314979(P2006−314979)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】