説明

クリーム状チーズ及びその製造法

【課題】 チーズを用い、再製プロセスチーズの有効利用を図りながら、製菓、製パン、調理用として使用しやすく(クリーム状)、チーズ本来の良好な風味を有する(人工フレーバーではない)クリーム状チーズを提供すること。
【解決手段】 プロセスチーズまたはプロセスチーズとナチュラルチーズの混合物に水を加え、さらに溶融塩を加えるか又は加えないで、脂肪が30%以下でタンパク質の水中濃度が20%以下、粘度200dPa・s以下の水溶液を調製し、クリームセパレーター等の遠心を利用した分離機を用いて製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ由来の天然の旨味やコクを有するクリーム状チーズおよびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チーズ等は、調理用に主な原料として又コクや旨味を付与する隠し味として使用されている。しかしながらチーズそのものは固形物であり、それを他の原料とともに均一に混合するには手間や装置的な工夫が必要でありチーズ利用業者の苦慮するところであったため、ペースト状、粉末状のチーズやチーズフレーバー、EMC(enzyme modified cheese)等が開発されてきた。例えば、EMCを添加したマーガリン等が開発され利用されてきたのは以上の事情による。
【0003】
また、プロセスチーズ類(ここでのプロセスチーズ類とは、ナチュラルチーズを原料として一度加熱溶融し乳化したプロセスチーズ、プロセスチーズフード、プロセスチーズスプレッド等の製品を指す)の製造においては、製造ライン中に残存するチーズや、成形不良、包装不良、内容量不足等の不良製品チーズ等のロスが発生する。かかるロスを新たなプロセスチーズ類の製造に再利用することが行われている。(この再製利用チーズは、プレクックドチーズ(Pre-Cooked Cheese)、リワーキングチーズ(Reworking Cheese)、または、再製プロセスチーズと称されており、本発明では、再製プロセスチーズという名称を用いる。)しかしながら、再製プロセスチーズをプロセスチーズ製造の原料の一部として混合して加熱溶融した場合、溶融物が著しい粘度上昇を起こす場合が多く、ポンプによる配管輸送、充填、成形等プロセスチーズ類の製造工程で様々な支障が生じる。このため、再製プロセスチーズは、積極的に利用されることが少なく、仮に使用されたとしても添加量は限定されていた。一方、再製プロセスチーズをプロセスチーズ類の原料として配合し、溶融塩及び乳化剤を添加して乳化処理し、問題となる増粘を防止しながらチーズ様食品を製造する技術が開示されている(特許文献1)がこれは、あくまで、プロセスチーズ類製造に限定した再製プロセスチーズの添加量向上を示したものであり、再製プロセスチーズそのものを加工再製利用したものではない。さらに再製プロセスチーズを多量に添加したプロセスチーズ類の製造において、少なくとも120℃の温度で加熱溶融処理を行うことで、粘度上昇が抑制され、最終製品の食感が低下することもなく、硬度も上昇させない方法も開示されている(特許文献2)が、これも、プロセスチーズ類の製造に再製プロセスチーズ添加量向上の方法を示したものであり、再製プロセスチーズの利用方法がプロセスチーズ類のみの利用に限定されていた。
【0004】
このように、再製プロセスチーズの有効利用は、プロセスチーズ類製造業者の最も苦慮するところであり、再溶融で処理できないものについては、乾燥して粉末状の製品にしたりしているが、一部は廃棄せざるを得ないのが現状である。
【特許文献1】特開平9−154486号公報
【特許文献2】国際公開番号WO01/080657
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、チーズ類を用い、再製プロセスチーズの有効利用を図りながら、製菓、製パン、調理用として使用しやすく、チーズ本来の良好な風味を有するクリーム状チーズを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、チーズ類に水を加え溶融して調製した溶融液を、遠心分離することによりクリーム状チーズを製造する方法を見い出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、
[1]チーズ類に水を加え溶融して調製した溶融液を、遠心分離することを特徴とするクリーム状チーズ類の製造法、
[2]溶融液の粘度が200dPa・s以下であることを特徴とする前記[1]記載のクリーム状チーズ類の製造法、
[3]溶融液が、脂肪が1〜30%でチーズ由来の水中タンパク質濃度が1〜20%であることを特徴とする前記[1]または[2]記載のクリーム状チーズ類の製造法、
[4]チーズ類に溶融塩を添加することを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のクリーム状チーズ類の製造法、
[5]溶融塩がリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムから選ばれる一種又は二種以上である前記[4]に記載のクリーム状チーズ類の製造法、
[6]溶融塩の濃度が原料中のタンパク質含量の0.1〜24重量%であることを特徴とする前記[4]または[5]に記載のクリーム状チーズ類の製造法、
[7]前記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の方法で製造したクリーム状チーズ類、
に関する。
【0008】
本発明のチーズ類とは、プロセスチーズ類、ナチュラルチーズの単独、または混合物を指す。また、クリーム状チーズ類とは、脂肪分18%以上、好ましくは30%以上であり、O/Wの乳化系であるチーズ類を指す。
【0009】
チーズ類に水を加え、粘度が200dPa・s以下(測定条件:温度50℃、RION(株)ビスコテスターVT−04)となるように溶融液を調製する。その際に溶融塩を添加しても構わない。溶融の際の脂肪濃度は1〜30%であることが好ましく、7〜28%であることがより好ましい。チーズ由来のタンパク質の水中濃度が1〜20%であることが好ましく、1〜10%であることがより好ましい。
【0010】
本発明において使用する溶融塩としては、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムが挙げられ、一種又は二種以上の組み合わせで使用可能である。溶融塩の含量は、プロセスチーズ類由来の溶融塩量を含めて、原料中のタンパク質含量の0.1〜24重量%とするのが好ましくは、10〜16%とするのが更に好ましい。溶融塩を添加せず溶解もしくは、タンパク質に対する溶融塩の含量が少なすぎると水溶液化が不十分で水層分離を起こす。また、溶融塩の含量が多すぎると、得られる製品は塩味が強く風味が損なわれる。尚、プロセスチーズ中のタンパク質含量は、通常10〜35重量%である。
【0011】
本発明において、原料の加熱溶融は、原料を攪拌しながら通常、60〜130℃、好ましくは70℃〜120℃まで加熱することにより行う。本発明において、原料を加熱溶解する装置としては、ケトル型チーズ乳化釜、横型クッカー、高速剪断乳化釜、および連続式熱交換機(ショックステリライザー、コンビネーター等)、攪拌パスのいずれも使用可能である。また、溶融装置とホモゲナイザー、インラインミキサー、コロイドミルなどの乳化機を組み合わせることも可能である。
【0012】
本発明において、溶解液の分離は遠心分離機、クリームセパレーター、デカンター等の軽液分離装置を用いて、水溶液中の脂肪分離を行うことで良好なクリーム状チーズ類を軽液として得ることができる。遠心分離機を用いる場合は、2,000〜7,000Gで行うことが好ましく、4,000〜6,000Gで行うことがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクリーム状チーズは、チーズ風味を有するクリーム状の製品であるため、製菓、製パン、調理食品などの分野に新規商品としての需要が見込まれる。また原料チーズにプロセスチーズ工場で発生するロスとしてのチーズ(製造ライン残存チーズ、成形不良品、包装不良品等)を使用すれば、今まで廃棄していたチーズの有効利用にもなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施例により説明する。
(試験例)
プロセスチーズ類の水溶化とクリーム状チーズ分離
プロセスチーズ250g(原料(水を含む。以下同じ)中の脂肪:64g、タンパク質含量:51g、タンパク含量の10%の溶融塩を含む)に溶融塩と水を添加後、ケトル型チーズ乳化釜で88℃まで加熱溶融を行い、水分含量が87重量%、脂肪が7%、タンパク質の水中濃度が5%の水溶液に調整し、その水溶液を40℃(粘度30dPa・s)まで冷却した後、遠心分離機((株)トミー精工:RS−18IV)で遠心分離速度4000Gで1分間の分離を実施し、上層のクリーム部分を採取した後、脂肪含量の測定と官能評価を行った。結果を表1に示す。溶融塩を添加したものの方が、溶融塩を添加しないものより脂肪含量が高く、また、官能評価から溶融塩の添加量としてタンパク質含量の0.1〜24重量%とするのが好ましく、10〜16%とするのが更に好ましいことが判明した。
【0015】
【表1】

【実施例1】
【0016】
プロセスチーズ25kg、並びに水を添加しケトル型乳化機にいれ、100rpmで85℃まで加熱溶融を行い水分87重量%、脂肪が7%、タンパク質の水中濃度が5%の水溶液を得た。この水溶液を50℃(粘度10dPa・s)に冷却し、クリームセパレーター(ファーイーストウエストファリアセパレーター(株):SA1−01−175)で脂肪含量20%、タンパク質含量3%のチーズ風味のクリーム状チーズが得られた。
【実施例2】
【0017】
プロセスチーズ25kg、溶融塩としてクエン酸ナトリウム0.3kg並びに水を100Lパスに添加し、攪拌を行いながら間接蒸気で90℃まで加熱し、水分65重量%、脂肪が17%、タンパク質の水中濃度が13%の水溶液を得た。尚、原料中のタンパク質含量に対する溶融塩の含量は6.0重量%であった。この水溶液を50℃(粘度120dPa・s)に冷却し、その水溶液をクリームセパレーターで処理し、脂肪含量45%、タンパク質含量0.5%のチーズ風味のクリーム状チーズを得た。
【実施例3】
【0018】
プロセスチーズ50kg、溶融塩としてJohaSE(ビーケー・ギューリニ・ジャパン(株)社)2.0kg並びにクエン酸ナトリウム2.0kgと水を高速剪断乳化釜に入れ、1000rpmで85℃まで加熱溶解し、脂肪が28%、水分51重量%タンパク質の水中濃度が18%の水溶液を得た。尚、原料中のタンパク質含量に対する溶融塩の含量は、22重量%であった。この水溶液を50℃(粘度200dPa・s)に冷却し、その水溶液をクリームセパレーターで処理し、脂肪含量35%、タンパク質含量1.5%のチーズ風味のクリーム状チーズを得た。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、プロセスチーズ類を主原料として製造するプロセスチーズ由来の天然の旨味やコクを有するクリーム状チーズ及びその製造法に関するものであり、
プロセスチーズを一旦固形分の低い水溶液にした後、クリームセパレーター等を利用する。プロセスチーズ類として再製チーズも利用できる。その得られたクリーム状チーズは、製菓、製パンなどの付加価値の高い新規な商品としての需要が見込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズ類に水を加え溶融して調製した溶融液を、遠心分離することを特徴とするクリーム状チーズ類の製造法。
【請求項2】
溶融液の粘度が200dPa・s以下であることを特徴とする請求項1記載のクリーム状チーズ類の製造法。
【請求項3】
溶融中の脂肪が1〜30%でチーズ由来の水中タンパク質濃度が1〜20%であることを特徴とする請求項1または2記載のクリーム状チーズ類の製造法。
【請求項4】
チーズ類に溶融塩を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリーム状チーズ類の製造法。
【請求項5】
溶融塩がリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムから選ばれる一種又は二種以上である請求項4記載のクリーム状チーズ類の製造法。
【請求項6】
溶融塩の濃度が原料中のタンパク質含量の0.1〜24重量%であることを特徴とする請求項4または5に記載のクリーム状チーズ類の製造法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造したクリーム状チーズ類。