説明

クリーム用油脂組成物及び該油脂組成物を含有するクリーム

【課題】乳化安定性に優れたクリーム用油脂組成物であって、クリームに使用したときに耐熱性と口溶け性に優れたクリームを得ることが可能なクリーム用油脂組成物、及び耐熱性と口溶け性に優れたクリームを提供する。
【解決手段】本発明のクリーム用油脂組成物は、(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリドを10〜40質量%、および(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂を60〜90質量%含有し、且つ、SFC値(固体脂含量)が5℃で40〜70%、20℃で10〜25%、25℃で5〜20%、35℃で5%以下となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーム用油脂組成物及び該油脂組成物を含有するクリームに関し、特に、乳化安定性に優れたクリーム用油脂組成物及び耐熱性と口溶け性に優れたクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームは、構成する油脂から分類すると乳脂肪だけからなるクリーム、乳脂肪と植物性脂肪(植物性油脂)を混合したコンパウンドクリーム、植物性脂肪(植物性油脂)のみを使用するクリームの3つに大きく分けられる。
【0003】
これらに使用される植物性油脂としては、ヤシ油やパーム核油などのラウリン系油脂、菜種油、大豆油、パーム油などがあり、これらを硬化、エステル交換、分別などの加工、或いは加工しないで、1種或いは2種以上の混合油として使用されている。
【0004】
ラウリン系油脂は、ホイップクリームに口溶けの良さが求められることからよく利用されているが、ラウリン系油脂は温度変化による物性変化が大きく、多量に配合すると耐熱性や耐振性に問題があることが知られている。この問題の解決方法としては、硬化油や極度硬化油の使用などがあげられる(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、耐熱保形性と口溶け性を改善するものとして、ラウリン系油脂を50〜100質量%(67質量%以下を除く)含み、且つ、SFC値(固体脂含量)が25℃で20%以上、35℃で10%以下である油脂を使用した起泡性水中油型乳化油脂が知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許3092364号公報
【特許文献2】特許3238658号公報
【特許文献3】特許3460478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、硬化油や極度硬化油を使用した場合、口溶け性が悪くなるという問題が発生する。また、特許文献1乃至特許文献3記載の油脂組成物によれば、ラウリン系油脂の使用量を大きく減らすことができないため、耐熱性や耐振性の問題が拭い切れない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、乳化安定性に優れたクリーム用油脂組成物及び該油脂組成物を含有する耐熱性と口溶け性に優れたクリームを提供することにある。特に、本発明の目的は、温度依存性の高いラウリン系油脂の配合量を少なくして、且つ、クリームの口溶け性を改良することのできる、クリーム用油脂組成物及び該油脂組成物を含有するクリームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、炭素数8、10で構成された中鎖脂肪酸トリグリセライドと構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10%以上含む油脂とを所定量配合させ、所定温度のSFC値を所定範囲内にすることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、上記目的を達成するため、(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリドを10〜40質量%、および(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂を60〜90質量%含有し、且つ、SFC値が5℃で40〜70%、35℃で5%以下となることを特徴とするクリーム用油脂組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記クリーム用油脂組成物を含有することを特徴とするクリームを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクリーム用油脂組成物によれば、乳化安定性に優れたクリーム用油脂組成物であって、クリームに使用したときに耐熱性と口溶け性に優れたクリームを得ることが可能なクリーム用油脂組成物を提供することができる。
【0012】
また、本発明のクリームによれば、耐熱性と口溶け性に優れたクリームを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
〔本発明のクリーム用油脂組成物〕
本発明のクリーム用油脂組成物は、(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリドを10〜40質量%、および(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂を60〜90質量%含有し、且つ、SFC値が5℃で40〜70%、35℃で5%以下となることを特徴とする。ここでいうクリームとは、食用クリームを指し、主として、冷菓などに使用される起泡性のホイップクリームが該当する。
【0014】
本発明のクリーム用油脂組成物に含有される(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリド(MediumChain Triglycerides、一般に「MCT」と称せられる)とは、構成脂肪酸が、実質的に、全て炭素数8、10の脂肪酸であるものをいう。ここで実質的とは、反応中に精製される、少量の副生成物を考慮しない意味である。好ましくは、炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸98質量%以上で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いる。
【0015】
炭素数8の直鎖型飽和脂肪酸と炭素数10の直鎖型飽和脂肪酸の構成比率は、特に限定されるものでないが、例えば、炭素数8の脂肪酸を60〜80質量%、炭素数10の脂肪酸を20〜40質量%の割合で含有しているトリグリセリドを好ましいものとして挙げることができる。具体的には、炭素数8の脂肪酸を約75質量%、炭素数10の脂肪酸を約25質量%含有しているトリグリセリドが挙げられ、このようなトリグリセリドは市販されている(例えば、商品名「ODO」、日清オイリオグループ(株)製)。炭素数8、10の脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリドは、市販されているもののほか、炭素数8、10の中鎖脂肪酸とグリセリンとを使用比率を調整して常法によりエステル化反応に付して得ることができる。
【0016】
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、本発明の油脂組成物中に10〜40質量%含有させる必要があり、好ましくは、20〜30質量%含有させる。
【0017】
本発明のクリーム用油脂組成物に含有される(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂とは、1種又は2種以上の油脂を混合した油脂であって、当該油脂全体において構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上、好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上含む油脂をいう。従って、構成脂肪酸として不飽和脂肪酸が10質量%未満の油脂と構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂を混合した油脂であっても、混合油全体として構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含有していれば本発明の(b)油脂に該当する。例えば、大豆油、菜種油、綿実油、紅花油、ひまわり油、サフラワー油、トウモロコシ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油等のほか、これらの硬化油、エステル交換油等を用いることができる。
【0018】
本発明において、上記油脂は、常温で固形状の油脂であって、植物油脂及び/又は乳脂肪であることが好ましい。常温で固形状の油脂とは、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、これらの硬化油、乳脂肪などの常温で固形状態を保つ油脂、或いは、様々な原料油脂を分別することによって得られた固形の油脂、又、大豆油、菜種油、綿実油、紅花油、ひまわり油などの常温で液状の油脂を1種、或いは2種以上を混合し、硬化することによって得られた常温で固形の油脂、又、上記常温で液状の油脂と上記常温で固形の油脂をブレンド、硬化、エステル交換により得られた常温で固形の油脂が挙げられる。又、これらの常温で固形の油脂を1種或いは2種以上混合しても良い。
【0019】
上記植物油脂としては種々用いることができるが、ヤシ硬化油、パーム核硬化油、大豆硬化油、菜種硬化油から選ばれる1種又は2種以上を混合した油脂を用いることが好ましい。また、本発明の油脂組成物中におけるラウリン系油脂の含有量が50質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、ラウリン系油脂の含有量が5〜40質量%、さらに好ましくは、10〜35質量%である。
【0020】
上記乳脂肪とは、乳由来の脂肪のことをいう。この添加方法としては、バターオイルとして油相に添加してもよいが、乳脂肪を含むクリーム、バター、チーズなどとして乳化相に添加してもよい。
【0021】
構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂は、本発明の油脂組成物中に60〜90質量%含有させる必要があり、好ましくは、70〜80質量%含有させる。
【0022】
本発明のクリーム用油脂組成物は、SFC値が5℃で40〜70%、35℃で5%以下となるようにしたことを特徴とする。このとき、SFC値が20℃で10〜25%、25℃で5〜20%となるようにすることが好ましい。更に好ましくは、SFC値が5℃で40〜60%、20℃で10〜20%、25℃で5〜15%、35℃で3%以下となるようにする。ここでいうSFC値とは、基準油脂分析法に準じて測定した数値をいう。SFC値が上記範囲内となるように、(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリド、および(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂の種類・配合量等を適宜、選択・調整する。
【0023】
〔本発明のクリーム及びその製造方法〕
本発明のクリーム用油脂組成物は、(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリド、および(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂を混合することにより製造することができ、本発明のクリームは、例えば、上記油脂組成物20〜50質量%、乳固形分3〜6質量%、乳化剤0.4〜1.0質量%、水43.0〜76.6質量%で構成される水中油型乳化物であり、必要に応じて、糖類、安定剤、塩類、香料などを添加できる。より好ましくは、上記油脂組成物40〜50質量%、乳固形成分4〜5質量%、乳化剤0.4〜0.6質量%、水44.25〜55.55質量%、塩類0.05〜0.15質量%で構成される水中油型乳化物である。
【0024】
乳固形分は主に風味にコクを与える為に用いる。公知の例としては、脱脂乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、カゼインNaなどが挙げられる。
【0025】
乳化剤は、i)乳化安定、ii)攪拌、エアレーションなどにより乳化が適度に破壊されること、iii)気泡を安定に取り込むこと、を目的として用いる。公知の例としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0026】
クリームの製造は常法により製造可能であり、具体的には、油相、水相、乳化剤等を適宜混合して、予備乳化、均質化、殺菌、冷却、エージングすることにより製造できる。均質化は殺菌後に行ってもよく、殺菌の前後に行う二段均質でもよい。
【0027】
このクリームは、ホイップ或いはホイップさせないで、食品、特に、ケーキ、ムース、アイスクリーム、パフェ等のデザート、主として冷菓に好適に利用することができる。
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
<クリーム用油脂組成物及び油相の調製>
〔実施例1〕
油脂(a)成分として、炭素数8の脂肪酸を約75質量%、炭素数10の脂肪酸を約25質量%含有しているトリグリセライド(商品名:「ODO」、日清オイリオグループ(株)製)を10質量%、油脂(b)成分として、ヤシ硬化油(商品名:「ヤシ硬化油34」、日清オイリオグループ(株)製、融点34℃)34質量%、菜種硬化油(商品名:「菜種硬化油34」、日清オイリオグループ(株)製、融点34℃)22質量%、大豆硬化油(商品名:「大豆硬化油40」、日清オイリオグループ(株)製、融点40℃)34質量%を混合溶解し、本発明の油脂組成物を調製した。得られた油脂組成物のSFC値(基準油脂分析法に準じて測定)は表1の通りであった。また、油脂(b)成分中の油脂の構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含量(質量%)を表1に示す。
【0030】
次に、得られた油脂組成物44.5質量%に対し、大豆レシチン(商品名:「日清レシチンDX」、日清オイリオグループ(株)製)0.25質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.0625質量%、ソルビタン脂肪酸エステル0.0625質量%、ショ糖脂肪酸エステル0.125質量%、香料0.005質量%を溶解、分散させ、油相を調製した。なお、油相中の上述した数値(質量%)は、後述の製造するクリームの材料全体に対する数値である。
【0031】
〔実施例2〜5〕
実施例1における油脂(a)成分及び油脂(b)成分の配合量を表1に示すように変えたほかは実施例1と同様にして、実施例2〜5の油脂組成物、及び油相を調製した。得られた油脂組成物のSFC値(基準油脂分析法に準じて測定)は表1の通りであった。また、油脂(b)成分中の油脂の構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含量(質量%)を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
〔比較例1〜7〕
実施例1における油脂(a)成分及び油脂(b)成分の配合量を表2に示すように変えたほかは実施例1と同様にして、比較例1〜7の油脂組成物、及び油相を調製した。得られた油脂組成物のSFC値(基準油脂分析法に準じて測定)は表2の通りであった。また、油脂(b)成分中の油脂の構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸含量(質量%)を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
<クリームの製造及びその評価>
〔実施例6〜10〕
次に、脱脂粉乳4.5質量%、ヘキサメタリン酸Na0.1質量%を水50.395質量%に溶解分散させ水相を調製した。この水相に実施例1の油相45.005質量%を加え、60℃〜70℃に調製し、ホモミキサーにて予備乳化した。その後、60kg/cmの圧力下で均質化し、140〜150℃、4秒程度のUHT殺菌(超高温短時間殺菌)を行い、30kg/cmの圧力下で再均質化し、約10℃迄冷却後、5℃の冷蔵庫にて約18時間エージングすることによりクリーム(実施例6)を得た。同様にして、実施例2〜5の油相についてもクリーム(実施例7〜10)を得た。
【0036】
〔比較例8〜14〕
実施例6〜10と同様にして、比較例1〜7の油相についてもクリーム(比較例8〜14)を得た。
【0037】
得られた各々のクリーム(実施例6〜10、比較例8〜14)について、乳化安定性を以下の評価基準に従い評価した。評価結果は表3及び表4に示した。
【0038】
<評価基準>
1)乳化安定性
クリームをビーカーに60g計量し、品温を20℃に調整し、スリーワンモーター(四枚羽根のプロペラ)にて165rpmで回転させ、クリームが凝固・増粘、いわゆるボテるまでの時間を測定した。
20以上:20分以上ボテることなく乳化安定性が極めて良好
10−20:10分以上20分未満ボテることなく乳化安定性が良好
10未満:10分未満でボテが発生し乳化が不安定
【0039】
<ホイップクリームの製造及びその評価>
各々のクリーム(実施例6〜10、比較例8〜14)900gに砂糖63gを加え、ホバートミキサー(ホバートジャパン社製)中速2でホイップし、ホイップクリームとした。得られたホイップクリームを以下に示す評価基準に従い評価した。評価結果は表3及び表4に示した。
【0040】
<評価基準>
1)オーバーラン:OR

【0041】
2)外観
絞り袋にホイップクリームを入れ、花型で絞り出した後の外観を以下の基準で4段階評価した。
(キメ・造花性)
◎表面が滑らかでツヤもあり極めて良好
〇良好
△ややツヤが欠ける状態
×パサついて荒れる状態
(保型性)
◎型崩れなく極めて良好
〇殆ど型崩れなく良好
△わずかに型崩れがある状態
×型崩れが大きい状態
【0042】
3)官能評価
専門パネラー10名により食した際の評価を以下の基準で5段階評価した。
口溶け :良い←5、4、3、2、1→悪い
香味立ち:良い←5、4、3、2、1→悪い
【0043】
4)保存性(5℃で24時間、20℃で2時間)
各温度で保存した時のシマリ、モドリについて以下の基準で評価した。
◎シマリ、モドリともになく良好な状態
〇シマリ、モドリがわずかに見られるが問題のない状態
△シマリ、若しくはモドリがある状態
×シマリ、若しくはモドリが大きい状態
【0044】
5)冷凍耐性
−18℃の冷凍庫にて1週間保存、5℃冷蔵庫にて解凍後の外観を以下の基準で評価した。
◎表面が滑らかでツヤもあり良好
〇良好
△わずかにひび割れ、組織の荒れが見られる状態
×ひび割れ、組織の荒れが見られる状態
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
表3における乳化安定性の結果から、本発明の油脂組成物を使用したクリーム(実施例6〜10)は、乳化安定性に優れ、流通時の振動にも耐えうる物性であることが分かる。また、ホイップクリームの評価結果から、本発明のホイップクリームは、キメ・造花性と保型性に優れ、食した時の口溶け、香味立ちが良く、5℃24時間及び20℃2時間の保存性(耐熱性)も良好或いは問題がなく、冷凍耐性にも優れる物性であった。
【0048】
これに対し、中鎖脂肪酸トリグリセリドが10質量%未満の油脂組成物を使用したクリーム(比較例8〜10)は、表4に示される通り、ホイップ後のクリームを食した時の口溶け、香味立ちが劣り、且つ、保存性においてシマリ、或いはモドリが見られた。
【0049】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は本発明の範囲内であるが、油脂物性、すなわちSFC値が本発明と異なり、その所定範囲よりも高い値となっている油脂組成物を使用したクリーム(比較例11)は、表4に示される通り、乳化安定性においてボテ易く、ホイップ後のクリームの口溶け及び香味立ちも悪く、保存時におけるシマリあり、冷凍・解凍時のヒビ割れも見られた。
【0050】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は本発明の範囲内であるが、油脂物性、すなわちSFC値が本発明と異なり、その所定範囲よりも低い値となっている油脂組成物を使用したクリーム(比較例12)は、表4に示される通り、ホイップ後のクリームのキメ・造花性、保型性、口溶け、香味立ち、保存性、冷凍耐性、いずれも劣る結果であった。
【0051】
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は本発明の範囲よりも高く、油脂物性、すなわちSFC値が本発明の所定範囲よりも低い値となっている油脂組成物を使用したクリーム(比較例13)は、表4に示される通り、乳化安定性が悪く、ホイップ後のクリームのキメ・造花性、保型性、口溶け、香味立ち、保存性、冷凍耐性、いずれも劣る結果であった。
【0052】
さらに、中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は本発明の範囲内であり、且つ、油脂物性すなわちSFC値も本発明の範囲内であるが、油脂組成物(b)成分が本発明と異なり、不飽和脂肪酸が10質量%未満となる油脂組成物を使用したクリーム(比較例14)は、表4に示される通り、乳化安定性が悪く、ホイップ後のクリームの20℃での保存において戻り易い結果であった。
【0053】
なお、実施例・比較例共にオーバーラン値はクリームとして適当な値であった。
【0054】
以上の結果から、上記の本発明のクリーム用油脂組成物を使用することにより得られたクリームは、流通上の振動による乳化破壊、ボテがなく、ホイップ後のクリームは清涼感のある良好な口溶けとなり、フレーバーリリースに優れる利点がある。且つ、保存性(耐熱性)、保型性も併せ持つという利点がある。更に、ホイップ後のクリームをケーキなどにデコレーションし、冷凍保存、解凍後も型崩れ、ひび割れ、組織の荒れなどの変化を起こすことがないという利点(冷凍耐性)がある。従って、本発明のクリーム用油脂組成物及びクリームは、ケーキ、ムース、アイスクリーム、パフェ等のデザート(特に、冷菓)をはじめとして、食品用途に広く利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素数8,10の直鎖型飽和脂肪酸で構成された中鎖脂肪酸トリグリセリドを10〜40質量%、および(b)構成脂肪酸として不飽和脂肪酸を10質量%以上含む油脂を60〜90質量%含有し、且つ、SFC値(固体脂含量)が5℃で40〜70%、35℃で5%以下となることを特徴とするクリーム用油脂組成物。
【請求項2】
前記(b)の油脂は、常温で固形状の、植物油脂及び/又は乳脂肪であることを特徴とする請求項1記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項3】
前記植物油脂は、前記油脂組成物中におけるラウリン系油脂の含有量が50質量%未満であることを特徴とする請求項2に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項4】
前記油脂組成物は、SFC値が20℃で10〜25%であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂組成物は、SFC値が25℃で5〜20%であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項6】
前記油脂組成物は、SFC値が5℃で40〜60%、20℃で10〜20%、25℃で5〜15%、35℃で3%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のクリーム用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のクリーム用油脂組成物を含有することを特徴とするクリーム。
【請求項8】
請求項7記載のクリームを使用したことを特徴とする食品。

【公開番号】特開2006−149298(P2006−149298A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345564(P2004−345564)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】