説明

クリールスタンド用ブレーキおよびゴムシートの製造方法

【課題】簡便で安価な構造で、かつボビンから引き出される線条体補強材料の引出し張力を一定範囲に管理することができるクリールスタンド用ブレーキを提供する。
【解決手段】クリールスタンド用ブレーキ13は、回転支持軸12に挿入され、回転支持軸12に対して回転しないように取り付けられた永久磁石付きの中央ケース15と、中央ケース15の両側面に回転できるように支持され、かつボビン10に連結する連結ピン17を備えた制動回転板16から成る。中央ケース15の両側面には、永久磁石14が取り付けられており、中央ケース15と2枚の制動回転板16により、永久磁石14と制動回転板16との間に非接触で制動力を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールワイヤーを補強材としたタイヤ用ゴムシート製造において用いられるクリールスタンド用ブレーキ、およびクリールスタンド用ブレーキを用いたゴムシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ構造部材用補強材入りゴムシートの製造において、ゴムシート内に埋め込む線条体補強材料、例えばスチールワイヤーがあるが、埋め込み品質を管理したり、ボビンに巻き回された線条体補強材料がクリールスタンドから引き出される際に、線条体補強材料がたるまないようにするために、クリールスタンドに取り付けたボビンに回転制動を付与する機構が使われている。従来は、特許文献1および2に示すような張力を管理するフィードバック機能を有する装置や、簡易構造にできる摩擦抵抗を用いて張力を発生させる装置が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−142891号公報
【特許文献2】特開平11−292395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、張力を管理するフィードバック機能を有する装置は、構造が複雑、高価であり、かつクリールスタンドに使用するボビン数が多い場合に導入コストが高額になるという問題がある。摩擦抵抗を用いて張力を発生させる装置は、摩擦部位の磨耗により定期的な調整、補修が必要なため管理工数が多くなって費用がかかるという問題があり、また、張力を管理するフィードバック機能が無いためボビンの巻き量により引出し作用点が変わり、張力変化が生じるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡便で安価な構造で、かつボビンから引き出される線条体補強材料の引出し張力を一定範囲に管理することができるクリールスタンド用ブレーキおよびゴムシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のクリールスタンド用ブレーキは、線条体補強材料を巻き付けたボビンを回転できるよう支持する支持軸と、前記支持軸に挿入され、支持軸に対して回転しないように取り付けられた永久磁石付きの中央ケースと、前記中央ケースの両側面に回転できるよう支持され、かつ前記ボビンと連結するピンを備えた2枚の回転板とを備え、前記永久磁石と前記回転板との間で非接触により制動力を発生させて、前記ボビンに制動力を付与することを特徴とする。
【0007】
本発明のクリールスタンド用ブレーキは、前記回転板の回転速度に比例して前記制動力を発生させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のクリールスタンド用ブレーキは、前記線条体補強材料を一定速度で巻き出し、巻き径減少により回転速度が増加する前記ボビンと、前記回転板とを同期回転させることで、前記ボビンから巻き出される前記線条体補強材料の張力を一定範囲に制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のクリールスタンド用ブレーキは、前記中央ケースに取り付けた永久磁石と回転軸芯との距離を調整することにより制動力を調整することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のゴムシートの製造方法は、上述したクリールスタンド用ブレーキを用いて、線条体補強材料を巻き付けたボビンに制動力を付与して、前記ボビンから引き出される前記線条体補強材料の引出し張力を管理して線条体補強材料入りのゴムシートを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクリールスタンド用ブレーキによれば、永久磁石付きの中央ケースと回転板とを備え、永久磁石と回転板との間で非接触により制動力を発生させることができるので、簡便で安価な構造で、線条体補強材料を巻き付けたボビンに制動力を付与することができる。
また、本発明によれば、回転板の回転速度に比例して制動力を発生させることができる。
また、本発明によれば、ボビンと回転板とを同期回転させることで、ボビンから巻き出される線条体補強材料の張力を一定範囲に制御することができる。
また、本発明によれば、永久磁石と回転軸芯との距離を調整することにより制動力を調整することができる。
また、本発明のゴムシートの製造方法によれば、ボビンから引き出される線条体補強材料の引出し張力を管理して線条体補強材料入りのゴムシートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】発明のクリールスタンド用ブレーキが適用されたクリールスタンドを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るクリールスタンド用ブレーキ示す斜視図である。
【図3】中央ケースの一方の面に永久磁石が取り付けられた状態を示す図である。
【図4】回転板に磁束変化を与えることで制動力を得るブレーキの原理を説明する図である。
【図5】回転板の回転速度と回転軸トルク(制動力)との関係を示す図である。
【図6】線条体補強材料の引出し量とボビンの回転速度との関係を示す図である。
【図7】線条体補強材料の引出し量とボビン軸芯トルク(張力)との関係を示す図である。
【図8】クリールスタンド用ブレーキを配置したときの線条体補強材料の引出し量と回転軸トルク(ブレーキ制動力)の関係を示す図である。
【図9】ボビン軸芯トルク(線条体補強材料の引き出し張力)と回転軸トルク(ブレーキ制動力)を合力したときの関係を示す図である。
【図10】実測した線条体補強材料の引出し張力とボビン回転速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明のクリールスタンド用ブレーキが適用されたクリールスタンドを示す図である。線条体補強材料11が巻き取られているボビン10は、回転できるように回転支持軸12に支持されている。2つのボビン10の間には、本発明に係るクリールスタンド用ブレーキ13が配置されている。クリールスタンド用ブレーキ13は、1つの回転支持軸12において、1個のブレーキで2個のボビンの張力を管理できるよう、ブレーキの両側面にボビン10を配置して2式の制動機能を持たせている。
【0014】
ボビン10から引き出される線条体補強材料11は、直径が0.225mmのスチールワイヤーとする。図は、線条体補強材料11が満量状態の時を示している。ボビン10は、巻き付け初期径を118mm、満量巻き径を190mmとし、引出し張力を800gf±100と設定している。図において、矢印は、線条体補強材料11の引き出し方向を示している。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態に係るクリールスタンド用ブレーキを示す斜視図である。本発明のクリールスタンド用ブレーキ13は、回転支持軸12に挿入され、回転支持軸12に対して回転しないように取り付けられる永久磁石付きの中央ケース15と、中央ケース15の両側面に回転できるように支持され、かつボビン10に連結する連結ピン17を備えた制動回転板16から成る。制動回転板16は、ボビン10に連結ピン17で連結され、ボビン10と制動回転板16とは同期回転する。中央ケース15の両側面には、永久磁石14が取り付けられており、中央ケース15と2枚の制動回転板16により、永久磁石14と制動回転板16との間には非接触で制動力が発生する。
【0016】
永久磁石14は、ネオジム磁石(表面磁束密度300mT相当)を使用し、磁束密度を高めるためにヨーク19を備えている。永久磁石14は、制動機能1式に付き8個使用し、中央ケース15の一方の面に8個、他方の面に8個取り付けられている。永久磁石14の数は、必要に応じて増減することができる。図3は、中央ケース15の一方の面に永久磁石14が取り付けられた状態を示す図である。永久磁石14は、中央ケース15の周辺部に等間隔で配置されている。永久磁石14と回転軸芯20との間の距離Lを調整することにより制動力を調整することができる。永久磁石14は、ネオジム磁石の他に、異方性フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石等を使用することができる。
【0017】
中央ケース15は、磁石の磁束に影響を与えないよう非磁性体とするため、ABS樹脂を使用し、回り止め固定は、隣り合う回転支持軸12のブレーキ同士をワイヤーで連結する方法とした。
【0018】
制動回転板16は、導電非磁性体とし、4mm厚のアルミニウム板を使用した。制動回転板16をボビン10と同期回転させるため、制動回転板16には、ボビン側面穴に嵌合する連結ピン17を持ったABS樹脂製の回転ベース18が設けられている。上述の実施例では、永久磁石14と制動回転板16との間隔を約2mmとした。今回の条件の場合、永久磁石14と制動回転板16との間隔は、1〜5mm程度で発明の効果が得られた。
【0019】
次に、本発明に係るクリールスタンド用ブレーキに使用される永久磁石と制動回転板の関係を説明する。図4は、回転する導電体(回転板)に磁束変化を与えることで制動力を得るブレーキの原理を説明する図である。Fは回転力、Bは磁束、Iは渦電流、F’は制動力、Jはジュール熱、Lは回転板の軸と磁石間の距離である。固定された永久磁石21に非磁性体回転板22を相対回転させ、回転板22に渦電流を発生させ、ジュール熱として放熱させることで制動力を得ることができる。
【0020】
図5は、回転板22の回転速度と回転軸トルクとの関係を示す図である。永久磁石21と回転板22にて得られるブレーキ制動力を回転軸トルクで表現すると図5に示す関係がある。L1、L2は回転板22の軸と永久磁石21との間の距離を表し、L1>L2である。回転軸トルク(制動力)は、回転板22の回転速度に比例して大きくなる。また、軸と磁石間の距離が大きいと回転軸トルクは大きくなる。回転速度と磁石位置により回転軸トルクを決めることができる。
【0021】
図6は、図1に示すボビン10から線条体補強材料11を巻き出したときの線条体補強材料11の引出し量とボビン10の回転速度との関係を示す図である。ボビン10は、制動装置が無く、かつ回転支持軸12との接触抵抗が一定の場合、線条体補強材料11が満量状態から巻き出されて巻き径が減少し、引き出し作用点が回転軸芯20に近づいていくと、ボビン回転速度が急激に上昇する。
【0022】
図7は、ボビン10から線条体補強材料11を巻き出したときの線条体補強材料11の引出し量とボビン10の軸芯トルク(線条体補強材料の引き出し張力)との関係を示す図である。ボビン10は、制動装置が無く、かつ回転支持軸12との接触抵抗が一定の場合、線条体補強材料11が満量状態から巻き出されて巻き径が減少し、引き出し作用点が回転軸芯20に近づいていくと、ボビン軸芯トルク(線条体補強材料の引き出し張力)が急激に下降する。
【0023】
図8は、2つのボビン10の間に本発明に係るクリールスタンド用ブレーキ13を配置したときの線条体補強材料11の引出し量と回転軸トルク(ブレーキ制動力)の関係を示す図である。図6の関係に、図5に示す回転板22の回転速度と回転軸トルクとの関係を適用すると、ボビン10からの線条体補強材料11の引出し量と回転軸トルク(ブレーキ制動力)の関係は、図8に示すようになり、ボビン10から一定速度で線条体補強材料11が巻き出されて巻き径が減少し、引き出し作用点が回転軸芯20に近づいていくと、ボビン回転速度が急激に上昇し、回転軸トルク(ブレーキ制動力)が急激に上昇する。従って、線条体補強材料11のボビン満量を決定し、永久磁石14と回転軸芯20との距離Lを調整して、図7のボビン軸芯トルク(線条体補強材料の引き出し張力)と図8の回転軸トルク(ブレーキ制動力)を合力してボビン軸芯トルクとして表現すると、図9に示す関係となり、この合力により、ボビン10からの線条体補強材料11の引出し量に関わらずボビン軸芯トルクは一定となる。これにより引き出される線条体補強材料11の張力を一定範囲に管理することが可能となる。
【0024】
図10は、線条体補強材料11を引き出しながら、実際に測定した線条体補強材料11の引出し張力(g)とボビン回転速度(rpm)を示す図である。この図から、ボビン10から線条体補強材料11が巻き出されて巻き径が減少し、引き出し作用点が回転軸芯20に近づくにつれて、ボビン回転速度は上昇するが、線条体補強材料11の引出し張力は、ほぼ一定範囲にあることが分かる。
【0025】
上述のように、本発明のクリールスタンド用ブレーキは、永久磁石付きの中央ケースと回転板とを備え、永久磁石と回転板との間で非接触により制動力を発生させることができるので、磨耗要素を排除した耐久性のある、簡便で安価な構造で、線条体補強材料を巻き付けたボビンに制動力を付与することができ、ボビンから巻き出される線条体補強材料の張力を一定範囲に制御することができる。
また、本発明のクリールスタンド用ブレーキを使用することにより、ボビンから引き出される線条体補強材料の引出し張力を一定範囲に管理して線条体補強材料入りのゴムシートを製造することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 ボビン
11 線条体補強材料
12 回転支持軸
13 ブレーキ
14 永久磁石
15 中央ケース
16 制動回転板
17 連結ピン
18 回転ベース
19 ヨーク
20 回転軸芯
21 永久磁石
22 回転板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体補強材料を巻き付けたボビンを回転できるよう支持する支持軸と、
前記支持軸に挿入され、支持軸に対して回転しないように取り付けられた永久磁石付きの中央ケースと、
前記中央ケースの両側面に回転できるよう支持され、かつ前記ボビンと連結するピンを備えた2枚の回転板とを備え、
前記永久磁石と前記回転板との間で非接触により制動力を発生させて、前記ボビンに制動力を付与することを特徴とするクリールスタンド用ブレーキ。
【請求項2】
前記回転板の回転速度に比例して前記制動力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のクリールスタンド用ブレーキ。
【請求項3】
前記線条体補強材料を一定速度で巻き出し、巻き径減少により回転速度が増加する前記ボビンと、前記回転板とを同期回転させることで、前記ボビンから巻き出される前記線条体補強材料の張力を一定範囲に制御することを特徴とする請求項1または2に記載のクリールスタンド用ブレーキ。
【請求項4】
前記中央ケースに取り付けた永久磁石と回転軸芯との距離を調整することにより制動力を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリールスタンド用ブレーキ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のクリールスタンド用ブレーキを用いて、線条体補強材料を巻き付けたボビンに制動力を付与して、前記ボビンから引き出される前記線条体補強材料の引出し張力を管理して線条体補強材料入りのゴムシートを製造することを特徴とするゴムシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−184076(P2012−184076A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48109(P2011−48109)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】