説明

クリール

【課題】原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出すクリールを提供する。
【解決手段】基台1と、基台1の一端側1aから他端側1bに向かう両側面に形成される複数のボビン取付部材3と、前記ボビン取付部材3各々の上方に形成される第一ガイド7と、前記第一ガイド7の上方の基台の両縁であって基台の上面10に平行に突出して形成される第二ガイド11と、前記基台上面10にV字状に立設した複数のローラガイド13と、前記基台の上面一端側に設けられた櫛ガイド15とを有することを特徴とし、複数のボビンから原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出すクリール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出すクリールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来クリールは有機繊維束、ガラス繊維束、酸化繊維束、炭素繊維束等の原糸束を引き揃えて、織機やプリプレグ製造装置等に供給する目的で広く使用されている。図4に示すように、従来のクリール200は、板状のクリール主体50の両側面に取付られる複数のボビン51と、前記ボビンから繰り上げられる原糸53が通過する溝ローラ55と、前記溝ローラ55によって繰り出された前記原糸束53が通過する櫛ガイド57から形成されている(例えば文献特開平7−178827号公報)。
【0003】
上記従来のクリールは、ボビン51から繰り上げられ、溝ローラ55を通ってここで進行方向を約90°変更されて、各原糸束の間隔を徐々に広げながら最終的に櫛ガイド57で糸ピッチを調整する機構になっている。しかし、溝ローラ55を通過する際にトラバース巻きされたボビンから解除される度に断続的に撚りが発生する。また溝ローラ55から櫛ガイド57に到達する間に供給される原糸束53は直角と多少相違する角度に折り曲げられてその方向を変更させられるため単糸同士は収束して原糸束の断面が円に近い形状になりやすい。このため、原糸束に撚りや収束がもたらされ、この原糸束を用いて製造される製品の品質(目付ムラや目スキなど)が低下する問題がある。
【特許文献1】特開平7−178827号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上記問題を解決するために、種々検討した結果、クリールから引き出される原糸束を溝ローラではなくクリール上部に設置されている、製品目付と同等ピッチ幅の、垂直かつV字状に配列されるローラガイドを介すことによって撚りを発生させないで、原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出す方法に想到した。本発明は、上記発見に基づいて完成するに至ったものである。
【0005】
従って、本発明の目的は撚りや収束を生じること無く、原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出すクリールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、以下のものである。
【0007】
〔1〕 基台と、基台の一端側から他端側に向かう両側面に形成される複数のボビン取付部材と、前記ボビン取付部材に取り付けられたボビンから繰り上げられる原糸束が通過する前記ボビン取付部材各々の上方に形成される第一ガイドと、前記第一ガイドの上方の基台の両縁であって基台の上面に平行に突出して形成される第二ガイドと、前記基台上面であって基台の一端から他端に向かうに従って間隔が漸挟になるV字状に垂直に立設した複数のローラガイドと、前記基台の上面一端側に設けられた櫛ガイドとを有し、ボビンから繰り出された原糸束はそれぞれ平行して第一ガイドを通って垂直に第二ガイドに進み、同ガイドで直角に曲げられてローラガイドに向かい、ローラガイドで直角に曲げられた後、櫛ガイドに向かうことを特徴とし、複数のボビンから原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出すクリール。
【0008】
〔2〕 原糸束が、3000〜50000本の単糸からなる〔1〕に記載のクリール。
【0009】
〔3〕 原糸束が、有機繊維束、ガラス繊維束、酸化繊維束、又は炭素繊維束である〔1〕に記載のクリール。
【0010】
〔4〕 V字状に垂直に立設した複数のローラガイドが、可変ピッチ機構を有しているに〔1〕記載のクリール。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクリールによれば、クリール上部に設置され、製品目付と同等ピッチの垂直かつV字状に配列されたローラガイドを設けることによって、原糸束の誘導方向を直角に変換しているので原糸束に撚りや収束が発生しない。その結果、本クリールを用いて巻出した原糸束を用いて製造した製品は目付ムラや目スキが非常に少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照にして詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明のクリールの一例を示す概略図である。図1において、100はクリールで、1は直方体状の基台である。前記基台1の一端側1aから他端側1bに向かう両側面には複数のボビン取付部材3が形成されている。このボビン取付部材3には複数のボビン5が取り付けられる。前記ボビン取付部材3各々の上方には棒状の第一ガイド7が側方に突出して形成されている。前記第一ガイドの上方の前記基台1の両側縁には、基台1の側面及び上面に平行に突出して第二ガイド11が形成されている。
【0014】
前記基台1の上面10には基台1の一端側1aから他端側1bに向かって等間隔に配置された2列のローラガイドがその軸の周りに回転自在に垂直に立設されている。ローラガイドで構成される各列は、基台1の一端側1aから他端側1bに向かうに従って間隔が漸挟になるV字状になっている。即ち、基台1上面には、等間隔で並んだ2組のローラガイド列が立設されており、この2列は基台1の上面10の他端側1bで所定の交差角度αで交差している。
【0015】
前記基台1の上面10の一端側1aには所定間隔を開けて垂直に櫛歯17を立設してなる櫛ガイド15が設けられている。図2は、基台1の上面10に立設されたローラガイド13a、13b、13cを示す部分拡大図である。ここで、ローラガイド13aと13bとの基台側面方向への投影間隔は、矢印Aで示される。また基台の他端方向への投影間隔は矢印Bで示される。
【0016】
上記クリール100においては、ボビン取付部材3、第一ガイド7、ローラガイド13の基台側面方向への投影間隔Aを等しくしてある。更に、基台の一端側1aから他端側1bに向かう方向への投影間隔Bを櫛ガイド15の櫛歯17の間隔と等しくしてある。従って、後述のようにボビン5から巻出される複数の原糸束9は互いに平行状態を維持した状態でクリール内を走行し、外部に取り出される。
【0017】
次に、上記クリールを用いて原糸束をボビン5から巻出す場合に付き、説明する。先ず、ボビン取付部材3にそれぞれ原糸束を巻回したボビン5を取り付ける。原糸束は、単糸を3000本(3Kと略記)〜50000本(50Kと略記)のものが好ましい。原糸束を構成する単糸としては、有機繊維、ガラス繊維、酸化繊維、炭素繊維等が例示できる。ボビン5から繰り出した原糸束9をそれぞれ第一ガイド7を通して垂直に第二ガイド11に平行に進ませる。その後、原糸束を同ガイドで直角に曲げてローラガイド13に誘導し、ローラガイド13で直角に曲げた後、櫛ガイド15に各原糸束9を互いに平行に誘導する。櫛ガイド15の櫛歯17により所定の間隔で平行に並べられた原糸束は、その後織機やプリプレグ製造装置等の加工装置に送られ、所定の加工が施される。
【0018】
なお、ボビン取付部材3、第一ガイド7、櫛ガイド15の間隔を変える機構(可変ピッチ機構)を形成しておくことが好ましい。また、ローラガイド13の間隔、V字状に配列したローラガイド13の交差角度αを変えられるようにしておくことが好ましい。更にこれらの間隔や角度は原糸束が平行に繰り出されるように関連付けておくことが好ましい。
【0019】
関連付けをする手段としては、図3に示すように、基台の一端側1aから他端側1bに向かう方向に直角方向(幅方向)に、ボビン取付部材3の数と同じ数の溝ガイド60を設け、この溝ガイド60に沿って幅方向に互いに対向する一対のローラガイド13を取り付ける等の手段が例示される。この場合、櫛ガイド15のピッチも、溝ガイド62を用いて可変にするものである。
【0020】
このようにすることにより、任意の間隔の平行に並んだ複数の原糸束を取り出すことができる。さらに交差角度αは、5〜45°の範囲で設定できることが好ましい。
【実施例】
【0021】
実施例1
図1に示すクリールを用いて炭素繊維束を巻き付けたボビンから炭素繊維束を平行に取り出した。
【0022】
先ず、直径7μmの酸化繊維を24,000本束ねた原糸束を巻回したボビン10個を本装置に取り付けた。ボビン取付部材は26個形成してあった。原糸束の巻出し速度20m/secでボビンから原糸束を巻き出した。ローラガイドの交差角度α=15°に設定した。原糸束は各ガイドで直角に進行方向を曲げられ、櫛ガイドに送られた。櫛ガイドの櫛歯間隔は10mmであった。撚れ発生率は0回/mであった。
【比較例】
【0023】
比較例1
図4に示す従来のクリールを用いて、実施例1と同じ炭素繊維束を巻回したボビン10個を従来の装置に取り付けた。原糸束の巻出し速度20m/secで巻き出した。原糸束はボビンから巻出す際にボビン長さ方向の巻出し位置を変えながら溝ローラ55に向かい、ここで誘導方向が変えられた後櫛ガイドに送られた。櫛ガイドの櫛歯間隔は10mmであった。
【0024】
従って櫛ガイドに向かう原糸束は互いに平行にならずに、櫛ガイドに近付くほど各原糸束の間隔は広がっていた。各原糸束のなす角度は10°であった。撚れ発生率は0.6回/mであった。
【0025】
よって、実施例1と比較例1により、本発明のクリールは従来のクリールよりも原糸束に撚りや収束が発生しにくいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のクリールの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示すクリールの部分拡大図である。
【図3】本発明のクリールの可変ピッチ機構の一例を示す平面図である。
【図4】従来のクリールの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0027】
100 本発明のクリール
1 基台
1a 基台の一端側
1b 基台の他端側
3 ボビン取付部材
5 ボビン
7 第一ガイド
9 原糸束
10 基台の上面
11 第二ガイド
13 ローラガイド
13a ローラガイド
13b ローラガイド
13c ローラガイド
15 櫛ガイド
17 櫛歯
200 従来のクリール
50 クリール主体
51 ボビン
53 原糸束
55 溝ローラ
57 櫛ガイド
60、62 溝ガイド
A ローラガイドの基台側面方向への投影間隔
B 基台の一端側1aから他端側1bに向かう方向への投影間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、基台の一端側から他端側に向かう両側面に形成される複数のボビン取付部材と、前記ボビン取付部材に取り付けられたボビンから繰り上げられる原糸束が通過する前記ボビン取付部材各々の上方に形成される第一ガイドと、前記第一ガイドの上方の基台の両縁であって基台の上面に平行に突出して形成される第二ガイドと、前記基台上面であって基台の一端から他端に向かうに従って間隔が漸挟になるV字状に垂直に立設した複数のローラガイドと、前記基台の上面一端側に設けられた櫛ガイドとを有し、ボビンから繰り出された原糸束はそれぞれ平行して第一ガイドを通って垂直に第二ガイドに進み、同ガイドで直角に曲げられてローラガイドに向かい、ローラガイドで直角に曲げられた後、櫛ガイドに向かうことを特徴とする、複数のボビンから原糸束を平行に引き揃えて外部に取り出すクリール。
【請求項2】
原糸束が、3000〜50000本の単糸からなる請求項1に記載のクリール。
【請求項3】
原糸束が、有機繊維束、ガラス繊維束、酸化繊維束、又は炭素繊維束である請求項1に記載のクリール。
【請求項4】
V字状に垂直に立設した複数のローラガイドが、可変ピッチ機構を有している請求項1に記載のクリール。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−234777(P2009−234777A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86319(P2008−86319)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】