説明

クリーンペーパー及びその製造方法

【課題】低い発塵性、並びに、不透明性、高剛度、低ブロッキング性、又は、裁断する際の裁断刃等の低汚染性、更には、低硫酸イオン放出性を兼ね備えたクリーンペーパーを提供すること。
【解決手段】原紙、少なくとも1種の(メタ)アクリル系樹脂を含む(メタ)アクリル系樹脂含有層、及び、少なくとも1種のバインダーを含むバインダー層を備えるクリーンペーパーであって、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層が少なくとも1種の水溶性高分子を50質量%超含んでおり、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に前記バインダー層が位置しており、前記バインダー層の一方の表面が該クリーンペーパーの少なくとも一部の表面を構成することを特徴とするクリーンペーパー

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンペーパー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業等で使用されるクリーンルーム内では、微細な塵による各種機器の作動不良、製品汚染等を回避するために、発塵量が少ないクリーンペーパー(無塵紙)と称される紙が使用されている。
【0003】
クリーンペーパーは、破れたり、擦れたりしても、紙粉若しくは他の異物が発生しないか、又は、その発生量が少ない特性を備える必要がある。そこで、クリーンペーパーとしては、天然繊維又は合成繊維からなる原紙に、発塵性を抑制するために樹脂を含浸して得られたものが広く知られている。
【0004】
例えば、特開昭60−146099号公報、特開昭63−105199号公報、特開平9−87993公報、特開2001−293951号、特開2003−49392号公報、特開2005−105486号公報、特開2005−281921号公報、及び、特開2008−190065号公報には、原紙に(メタ)アクリル系樹脂エマルジョンを含浸してなるクリーンペーパーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−146099号公報
【特許文献2】特開昭63−105199号公報
【特許文献3】特開平9−87993号公報
【特許文献4】特開2001−293951号公報
【特許文献5】特開2003−49392号公報
【特許文献6】特開2005−105486号公報
【特許文献7】特開2005−281921号公報
【特許文献8】特開2008−190065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、クリーンペーパーは樹脂の含浸量が多いと発塵性が抑制される。しかしながら、樹脂の含浸量が多くなると、クリーンペーパーの不透明度が低下し、剛度(こし)が低下し、クリーンペーパーを重ねた場合にブロッキングが発生し、また、クリーンペーパーを裁断する裁断刃に樹脂が付着して裁断刃が汚染されたり、他のクリーンペーパーの表面に樹脂が付着して当該他のクリーンペーパーが汚染される等の不都合が発生する。
【0007】
ところで、特開平9−87993号公報および特開2008−190065号公報にはブロッキングが少ないクリーンペーパーが記載されている。具体的には特開平9−87993号公報にはガラス転移温度の大きく異なる2種の高分子物質の混合物が付与されたクリーンペーパーが記載されており、特開2008−190065号公報にはガラス転移温度の大きく異なる2種のアクリル樹脂エマルジョン及びポリビニルアルコールの混合物が付与されたクリーンペーパーが記載されている。しかし、これらのクリーンペーパーではガラス転移温度の低い樹脂がクリーンペーパーの表面に部分的に存在するため、完全にブロッキングを防ぐことが不可能であった。また、これらは、樹脂の含浸量を多く必要とするため、樹脂量を少なくすると発塵を抑制できないという問題があった。
【0008】
また、(メタ)アクリル樹脂にはその製造工程における触媒等に由来する硫酸イオンが不純物として必然的に存在する。この硫酸イオンは、例えばクリーンルーム内において、電子回路用リードフレーム等の各種金属配線の腐食の原因となるため、クリーンペーパーから放出される硫酸イオンの量を低減することが望ましい。しかしながら、(メタ)アクリル系樹脂中の硫酸イオンの存在は完全に回避することはできない。そこで、硫酸イオン放出量ができるだけ少ないクリーンペーパーが求められている。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、低い発塵性、並びに、不透明性、高剛度、低ブロッキング性、又は、裁断する際の裁断刃等の低汚染性、更には、低硫酸イオン放出性を兼ね備えたクリーンペーパーを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は
原紙、
少なくとも1種の(メタ)アクリル系樹脂を含む(メタ)アクリル系樹脂含有層、及び、
少なくとも1種のバインダーを含むバインダー層
を備えるクリーンペーパーであって、
前記(メタ)アクリル系樹脂が0.8〜5.0%未満の含浸率で前記原紙に含浸しており、
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層が少なくとも1種の水溶性高分子を50質量%超含んでおり、
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に前記バインダー層が位置しており、
前記バインダー層の一方の表面が該クリーンペーパーの少なくとも一部の表面を構成する、クリーンペーパーによって達成される。
【0011】
前記(メタ)アクリル系樹脂は−40℃〜0℃未満のガラス転移温度を有することができる。
【0012】
前記バインダーは0℃〜200℃のガラス転移温度を有する(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。
【0013】
前記水溶性高分子はポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0014】
前記バインダーは水溶性バインダーであってもよい。
【0015】
前記バインダー層は、前記原紙の単位面積当たりの乾燥重量に換算して、0.05〜10g/mの割合で存在することが好ましい。
【0016】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層と前記バインダー層との間には中間層が存在してもよい。
【0017】
本発明のクリーンペーパーでは、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の一方の表面と前記バインダー層の他方の表面が接触することが好ましい。その場合、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の一方の表面と前記バインダー層の他方の表面との接触面の少なくとも一部が混和していてもよい。
【0018】
前記バインダー層は少なくとも1種の滑剤を含むことができる。前記滑剤はワックスであることが好ましい。
【0019】
本発明のクリーンペーパーは、原紙に少なくとも1種の(メタ)アクリル系樹脂及び少なくとも1種の水溶性高分子の混合物を0.8〜5.0%未満の含浸率で含浸して、該原紙に含浸している(メタ)アクリル系樹脂含有層を形成する工程、及び、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に少なくとも1種のバインダーを塗布してバインダー層を形成する工程を備えており、前記混合物中の前記水溶性高分子の濃度が50質量%超である、クリーンペーパーの製造方法によって製造することができる。
【0020】
前記バインダー層を形成する工程の前に、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の少なくとも一部の表面上に中間層を形成する工程を設けてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のクリーンペーパーは、低い発塵性及び低硫酸イオン放出性と共に、不透明性、高剛度、低ブロッキング性、又は、裁断する際の裁断刃等の低汚染性の少なくともいずれか、好ましくは全てを両立することができる。
【0022】
本発明では、バインダー層がクリーンペーパーの表面に存在するので、当該表面からの発塵を抑制することができる。そのため、(メタ)アクリル系樹脂を多量に使用する必要がない。したがって、本発明では、原紙への(メタ)アクリル系樹脂の含浸量を抑制した上で、低い発塵性を実現することができる。このように、本発明では、原紙に含浸する(メタ)アクリル系樹脂量を削減できるので、環境負荷が低く、また、製造コスト的にも有利である。更に、本発明では、(メタ)アクリル系樹脂を多量に使用する必要がないので、(メタ)アクリル系樹脂に由来する硫酸イオンの放出を低減することができる。
【0023】
本発明のクリーンペーパーは樹脂含浸量を抑制することができるので高い不透明性を維持することができる。したがって、クリーンペーパー上に記載された文字等が透けにくい。また、本発明のクリーンペーパーは樹脂含浸量を抑制できるので高い剛度を維持することができる。したがって、本発明のクリーンペーパーは筆記特性に優れている。そして、本発明のクリーンペーパーは重ねた場合であってもブロッキングが少ないので保存性にも優れている。更に、本発明のクリーンペーパーは裁断時に使用された裁断刃等を汚染しないので当該裁断刃を介して他のクリーンペーパーを汚染することもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のクリーンペーパーの一例を示す概略断面図
【図2】本発明のクリーンペーパーの他の例を示す概略断面図
【図3】本発明のクリーンペーパーの更なる他の例を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)原紙
本発明のクリーンペーパーの基材である原紙は特に限定されるものではなく、クリーンペーパーに一般的に使用されるものを使用することができる。原紙は天然繊維、化学繊維又はこれらの混合物から構成されることができる。天然繊維としては、例えば、広葉樹、針葉樹等の木材繊維;麻、竹、藁、ケナフ、マニラ麻等の非木材繊維;等の天然パルプが挙げられる。化学繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル等の合成繊維;アセテート、レーヨン等の半合成繊維が挙げられる。また、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプも使用できる。原紙としては、天然繊維が好ましく、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)等の木材繊維が好ましい。原紙は、一種類又は二種類以上の上記繊維を一般的な抄紙機で抄紙することによって製造することができる。抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機、又は、これらの組み合わせ等を使用することができる。
【0026】
原紙を構成する繊維は、必要に応じて、予め叩解されてもよい。叩解手段は特に限定されるものではなく、例えば、ダブルディスクリファイナー、シングルディスクリファイナー、ビーター等の一般的な叩解装置を使用することができる。叩解度についても限定されるものではないが、100〜600mlC.F.S.が好ましく、300〜500mlC.F.S.がより好ましい。
【0027】
原紙には、湿潤時の強度を向上させるために湿潤紙力増強剤を添加することが好ましい。湿潤紙力増強剤は一種類でもよく、二種類以上を併用してもよい。湿潤紙力増強剤は、原紙の抄紙時に添加することが好ましい。湿潤紙力増強剤としては一般的なものを使用することができ、例えば、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂等を使用することができる。湿潤紙力増強剤は、例えば、原紙の0.02〜3質量%、好ましくは0.05〜1質量%の範囲で使用することができる。
【0028】
また、原紙には、乾燥時の強度を向上させるために乾燥紙力増強剤を添加してもよい。乾燥紙力増強剤は一種類でもよく、二種類以上を併用してもよい。乾燥紙力増強剤も、原紙の抄紙時に添加することが好ましい。乾燥紙力増強剤としては一般的なものを使用することができ、例えば、両性ポリアクリルアミド系樹脂等を使用することができる。乾燥紙力増強剤は、例えば、原紙の0.1〜3質量%、好ましくは0.1〜1質量%の範囲で使用することができる。
【0029】
原紙には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般に使用されている填料を添加してもよい。填料としては、例えば、クレー、カオリン、タルク、二酸化チタン、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、合成非晶質シリカ、ゼオライト等の無機系填料;スチレン系又は(メタ)アクリル系樹脂ピグメント、ポリエチレン等の有機系填料が挙げられる。填料は一種類でもよく、二種類以上を併用してもよい。填料は、原紙の抄紙時に添加することが好ましい。填料は、例えば、原紙の0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%の範囲で使用することができる。
【0030】
また、原紙には、上記以外にも各種添加剤が使用できる。例えば、染料、顔料、スライムコントロール剤、定着剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、消泡剤等を適宜使用することができる。
【0031】
原紙の坪量は特に限定されるものではないが、例えば、30〜250g/mとすることができる。30〜100g/mが好ましい。
【0032】
(2)(メタ)アクリル系樹脂
本発明で使用される(メタ)アクリル系樹脂は特に限定されるものではなく、例えば、(メタ)アクリル酸のホモポリマー又はコポリマー、(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー又はコポリマー、(メタ)アクリル酸及びそのエステルのコポリマー、スチレン−(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルのコポリマーを使用することができる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸系モノマーを必須とし、必要に応じて、スチレン、スチレン誘導体、酢酸ビニル、或いは、アクリロニトリル、ブタジエン、マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド等のコモノマーを共に重合することによって(メタ)アクリル系樹脂を得ることができる。(メタ)アクリル系樹脂として、一種類を使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0033】
(メタ)アクリル系樹脂はガラス転移温度が−40℃〜0℃未満のものが好ましく、−24℃〜0℃未満のものがより好ましい。ガラス転移温度が−40℃未満であると、クリーンペーパーが過剰に柔らかくなりブロッキングが発生するおそれがある。一方、ガラス転移温度が0℃以上の場合は、クリーンペーパーの内部からの発塵が生じやすくなるおそれがある。
【0034】
(3)水溶性高分子
本発明で使用される水溶性高分子は特に限定されるものではなく、例えば、当該技術分野で汎用されているものを使用することができる。水溶性高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、ヒドロキシルエチルエーテル化澱粉、変性澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類、カゼイン、合成タンパク、大豆タンパク等を使用することができる。ポリビニルアルコールが好ましい。なお、ここでのポリビニルアルコールには、部分ケン化型ポリビニルアルコール、完全ケン化型ポリビニルアルコール、官能基変性型(カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、アミノ基、アミン基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基等の変性)ポリビニルアルコール等の各種の変性ポリビニルアルコールが含まれる。ポリビニルアルコールは0℃〜200℃のガラス転移温度を有することができる。水溶性高分子は、一種類を使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0035】
(4)バインダー
本発明で使用されるバインダーは特に限定されるものではなく、例えば、製紙の分野で一般的に使用されているものを使用することができる。バインダーは非水溶性又は水溶性のいずれであってもよいが、水溶性であることが好ましい。非水溶性バインダーとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、クロロプレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を使用することができる。非水溶性バインダーとして、ガラス転移温度が0℃〜200℃の樹脂、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂を使用することもできる。好ましくはガラス転移温度が0℃〜80℃の樹脂、特に(メタ)アクリル系樹脂を使用するとよい。バインダーのガラス転移温度が0℃未満であると、クリーンペーパーの表面が柔らかくなるのでブロッキングの発生が避けられない。一方、ガラス転移温度が200℃を超える場合は、クリーンペーパーの発塵量が増大し、また、剛度が過剰となるおそれがある。水溶性バインダーとしては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、ヒドロキシルエチルエーテル化澱粉、変性澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類、カゼイン、合成タンパク、大豆タンパク等を使用することができる。バインダーとしては、ガラス転移温度が0℃〜200℃の(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドが好ましく、ガラス転移温度が0℃〜200℃の(メタ)アクリル系樹脂、及び、ポリビニルアルコールが特に好ましい。なお、ここでのポリビニルアルコールには、部分ケン化型ポリビニルアルコール、完全ケン化型ポリビニルアルコール、官能基変性型(カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、アミノ基、アミン基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基等の変性)ポリビニルアルコール等の各種の変性ポリビニルアルコールが含まれる。ポリビニルアルコールは0℃〜200℃のガラス転移温度を有することができる。バインダーは、一種類を使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0036】
(5)クリーンペーパー
本発明のクリーンペーパーは、原紙、(メタ)アクリル系樹脂含有層、及び、バインダー層を必須に備える。(メタ)アクリル系樹脂含有層は、少なくとも一種の上記(メタ)アクリル系樹脂及び少なくとも1種の上記水溶性高分子を含み、また、バインダー層は少なくとも一種の上記バインダーを含む。
【0037】
本発明のクリーンペーパーでは、(メタ)アクリル系樹脂含有層の上にバインダー層が位置しており、当該バインダー層の一方の表面が当該クリーンペーパーの少なくとも一部、好ましくは全部の表面を構成する。ここで、「上」とは、原紙からクリーンペーパーの表面に向かう方向を意味する。
【0038】
図1〜図3に、本発明のクリーンペーパーの例を示す。図1〜図3は本発明のクリーンペーパーの異なる例を示す断面図であり、いずれの例でも、原紙1の両面に(メタ)アクリル系樹脂含有層2及びバインダー層3がこの順に積層しており、バインダー層3の一方の表面がクリーンペーパーの表面を構成している。
【0039】
図1〜図3に示す例のように、本発明のクリーンペーパーでは(メタ)アクリル系樹脂含有層2がバインダー層3によって被覆されているので、(メタ)アクリル系樹脂の使用量を削減した上で低無塵性を発揮することができる。したがって、本発明のクリーンペーパーは、優れた低発塵性と共に不透明性及び高剛度を備えることができ、筆記特性に優れている。しかも、(メタ)アクリル系樹脂の使用量を削減できるので、本発明のクリーンペーパーは、(メタ)アクリル系樹脂に由来する硫酸イオンの放出を低減することができる。そして、バインダー層3の存在により、本発明のクリーンペーパーは重ねた場合であってもブロッキングが少なく、また、裁断時に使用された裁断刃等を汚染しない。
【0040】
図1に示す例では、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の一部が原紙1に含浸している。一方、図2に示す例では、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の全体が原紙1に含浸しているが、原紙1の一部には(メタ)アクリル系樹脂が含浸していない部分が存在する。図3に示す例では、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の全体が原紙1に含浸している状態である。
【0041】
図1〜図3は概略断面図であり、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の原紙1に含浸している側の表面、及び/又は、(メタ)アクリル系樹脂含有層2のバインダー層3と接触している側の面は図示するように直線でなくともよく、例えば、種々の長さ及び方向を有する直線又は曲線から構成される屈曲線であってもよい。クリーンペーパー内部からの発塵を抑えるためには、図2及び図3に示すように、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の全体が原紙1に含浸していることが好ましく、更に、図3に示すように原紙1が完全に含浸されていることが好ましい。これは、クリーンペーパーの表面同士が擦られる際に紙内部にかかる負荷を抑える効果があり、それにより紙内部からの発塵を防ぐことが可能となるからである。(メタ)アクリル系樹脂含有層2の含浸率は原紙1の全質量の0.8〜5.0%未満であり、1.0〜5.0%未満が好ましく、1.2〜4.0%がより好ましく、1.4%〜3.0%が更により好ましく、1.6%〜2.0%が特に好ましい。0.8%未満では発塵性が高まるおそれがあり、また、5.0%を超えると、含浸樹脂量が多すぎて、紙の不透明度、剛度が過剰に低下するおそれがある。また、樹脂量が多いと製造コスト面でも不利である。ここでの含浸率は、式:含浸率(%)={(含浸された樹脂の固形分の質量)/(含浸前の原紙の坪量)}×100 によって算出されるものである。
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂含有層2は低発塵性を損なわない範囲で、水溶性高分子を比較的多く含むことが好ましい。水溶性高分子を(メタ)アクリル系樹脂含有層2中に配合することにより、アクリル樹脂含有量を減らすことができる。水溶性高分子としてはポリビニルアルコールが特に好ましい。水溶性高分子の配合量は(メタ)アクリル系樹脂含有層2の50質量%超であれば特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の55〜90質量%とすることができ、60〜80質量%がより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂含有層2中の(メタ)アクリル系樹脂と水溶性高分子の質量比は1:1.01〜10が好ましく、1:1.1〜7がより好ましく、1:1.5〜4が特に好ましい。
【0043】
図1〜図3に示す例では、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の全表面をバインダー層3が被覆している。このように、図1〜図3に示すクリーンペーパーでは、(メタ)アクリル系樹脂含有層2が表面に露出していないので、(メタ)アクリル系樹脂2に起因するブロッキング、裁断時の裁断刃等の汚染を回避することができる。本発明の目的を損なわない限りにおいて、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の一部は被覆されていなくともよいが、(メタ)アクリル系樹脂の使用量を抑制し、また、露出した(メタ)アクリル系樹脂含有層2によるブロッキング及び裁断刃等の汚染を防止するためには、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の全表面をバインダー層3が被覆していることが好ましい。なお、(メタ)アクリル系樹脂含有層2及びバインダー層3はクリーンペーパーの片側のみに配設されてもよい。例えば、クリーンペーパーの片面に別途フィルム等を貼付する等する場合は、当該フィルム等の存在しない側のみに(メタ)アクリル系樹脂含有層2及びバインダー層3を配設されてもよい。
【0044】
図1〜図3に示す例では、原紙1の全表面が(メタ)アクリル系樹脂含有層2及びバインダー層3で被覆されているが、原紙1の全表面が(メタ)アクリル系樹脂含有層2及びバインダー層3で被覆されていなくともよい。例えば、原紙1の一部の表面上には(メタ)アクリル系樹脂含有層2又はバインダー層3が存在しなくともよい。但し、原紙1に起因する塵の発生を抑制するためには、原紙1の全表面が(メタ)アクリル系樹脂含有層2又はバインダー層3の少なくともいずれか一方で被覆されていることが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂の使用量削減の点ではバインダー層3で被覆されていることがより好ましい。図1〜図3は概略断面図であり、(メタ)アクリル系樹脂含有層2とバインダー層3との接触面は直線として示されているが、当該接触面は図示するように直線でなくともよく、例えば、種々の長さ及び方向を有する直線又は曲線から構成される屈曲線であってもよい。
【0045】
図1〜図3に示す例では、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の一方の表面とバインダー層3の他方の表面が接触しているが、必ずしも、両者は接触する必要はない。例えば、(メタ)アクリル系樹脂含有層2とバインダー層3の間に中間層が存在していてもよい。中間層は任意の物質からなる層でよい。中間層を設けることにより、(メタ)アクリル系樹脂及び/又は水溶性高分子とバインダーとの混合を回避することができる。また、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の一部の表面上にのみ中間層が存在し、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の他の表面上には中間層が存在せずともよい。この場合は、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の当該他の表面はバインダー層3と接触する。
【0046】
(メタ)アクリル系樹脂含有層2及びバインダー層3の接触面の少なくとも一部は混和していてもよい。接触面の混和性は、主に、(メタ)アクリル系樹脂含有層2の構成材料、特に(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子、並びに、バインダー層3の構成材料、特にバインダーの相互の浸透性に依存する。但し、(メタ)アクリル系樹脂含有層2とバインダー層3の全部が混和して一体化することはない。
【0047】
バインダー層3は、原紙の単位面積当たりの乾燥重量に換算して、0.05〜10g/mの割合で存在することが好ましく、0.1〜10g/mがより好ましく、0.5〜10.0g/mがより好ましく、1.0〜5.0g/mがより好ましい。0.05g/m未満では、原紙1を十分に被覆することが困難となり、発塵性が高まるおそれがある。また、10g/mを超えると、クリーンペーパーの剛度が過剰となるおそれがある。また、バインダー量が多いと製造コスト面でも不利である。なお、ここでの乾燥重量は、バインダー層3が原紙1の表裏の両側に存在する場合は両者を合わせたものである。
【0048】
本発明のクリーンペーパーでは、バインダー層3が(メタ)アクリル系樹脂からなる場合、バインダー層3を構成する(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は(メタ)アクリル系樹脂含有層2を構成する(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度よりも高い。これにより、ブロッキングを更に抑制することができる。
【0049】
バインダー層3は少なくとも1種の滑剤を含むことが好ましい。前記滑剤としてはワックスが好ましく、任意のワックスを使用することができるが、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のオレフィン系ワックスが好ましい。ワックスを含むことにより、本発明のクリーンペーパーの発塵抑制効果とブロッキング防止効果を高めることができる。
【0050】
本発明のクリーンペーパーでは、(メタ)アクリル系樹脂含有層2は原紙1にその全部が含浸される必要はなく、原紙1に含浸されていない部分を(メタ)アクリル系樹脂含有層2が有していてもよい。但し、原紙1に対する(メタ)アクリル系樹脂含有層2の良好な固定のためには、原紙1に(メタ)アクリル系樹脂含有層2の全体が含浸されていることが好ましい。バインダー層3は図2及び図3に示されるようにその少なくとも一部が原紙1に含浸されていることが好ましい。なお、図2及び図3は概略断面図であり、バインダー層3の原紙1に含浸している側の表面は図示するように直線でなくともよく、例えば、種々の長さ及び方向を有する直線又は曲線から構成される屈曲線であってもよい。
【0051】
(6)製造方法
本発明のクリーンペーパーは、原紙に少なくとも1種の(メタ)アクリル系樹脂及び少なくとも1種の水溶性高分子の混合物を0.8〜5.0%未満の含浸率で含浸して、該原紙に含浸している(メタ)アクリル系樹脂含有層を形成する(メタ)アクリル系樹脂含有層形成工程、及び、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に少なくとも1種のバインダーを塗布してバインダー層を形成するバインダー層形成工程を備える製造方法によって得ることができる。
【0052】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層形成工程では、原紙中に(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子の少なくとも一部を含浸させるが、そのためには、原紙上に少なくとも1種の上記(メタ)アクリル系樹脂及び少なくとも1種の上記水溶性高分子の混合物を塗布することが好ましい。含浸性向上のために、(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子は液体の形態であることが好ましい。液体としては、(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子の溶液又はエマルジョンの形態のいずれでもよい。前記溶液の溶媒及び前記エマルジョンの媒体は任意であり、水、及び、各種の有機溶媒が使用可能であるが、環境負荷の観点からは水が好ましい。したがって、(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子は、水、又は、水及び水性有機溶媒の混合物からなる水性媒体中に(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子が溶解又は分散した水溶液又は水系エマルジョンの形態であることがより好ましい。前記水性有機媒体としては、水と混和性の任意の有機溶媒を使用可能であるが、エタノール等の低級アルコールが好ましい。前記塗布により、原紙上に、その一部又は好ましくは全部が含浸した(メタ)アクリル系樹脂含有層が第1段目の層として形成される。
【0053】
前記(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子が溶液又はエマルジョンの形態である場合、当該溶液又はエマルジョン中の(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子の濃度は任意であるが、1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%が更により好ましい。前記溶液又はエマルジョンには、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、各種の填料や添加剤を配合することができる。填料としては、例えば二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム、ゼオライト等の無機系填料やスチレン系あるいはアクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、合成樹脂等の有機系填料が挙げられる。添加剤としては、例えば、サイズ剤、耐水化剤、架橋剤、粘度調整剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤、染料、顔料等が挙げられる。
【0054】
(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子の混合物中の水溶性高分子の濃度は50質量%超であれば特に限定されるものではないが、混合物の全質量を基準として55〜90質量%とすることができ、60〜80質量%がより好ましい。混合物中の(メタ)アクリル系樹脂と水溶性高分子の質量比は1:1.01〜10が好ましく、1:1.1〜7がより好ましく、1:1.5〜4が特に好ましい。
【0055】
前記塗布の方法は特に限定されるものではなく、バーコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等の一般的な塗布装置、または各種含浸装置を使用する方法が使用可能である。特にオンマシンサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、その他オンマシンコーター方式を用いれば、一つの工程にて原紙と(メタ)アクリル系樹脂含有層を形成することができるので好ましい。原紙の単位面積に対する(メタ)アクリル系樹脂及び水溶性高分子の含浸量(固形分)が、原紙の当該単位面積の質量の0.8〜5.0%未満となるように塗布を行うことにより含浸率を0.8〜5.0質量%未満とすることができる。含浸率は1.0〜5.0%未満が好ましく、1.2〜4.0%がより好ましく、1.4%〜3.0%が更により好ましく、1.6%〜2.0%が特に好ましい。
【0056】
前記バインダー層形成工程では、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層形成工程によって形成された(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に少なくとも1種のバインダーを塗布する。塗布性の向上のために、バインダーは液体の形態であることが好ましい。液体としては、バインダーの溶液又はエマルジョンの形態のいずれでもよい。前記溶液の溶媒及び前記エマルジョンの媒体は任意であり、水、及び、各種の有機溶媒が使用可能であるが、環境負荷の観点からは水が好ましい。したがって、バインダーが非水溶性の場合はエマルジョン、特に、水又は既述したような水性媒体中にバインダーが分散した水系エマルジョンの形態であることが好ましく、また、バインダーが水溶性の場合は水又は既述したような水性媒体中にバインダーが溶解した水溶液の形態であることが好ましい。前記バインダーには、必要に応じて、ポリエチレンワックス等の滑剤を配合することが好ましい。前記エマルジョン又は水溶液中のバインダーの濃度は任意であるが、1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、1〜5質量%が更により好ましい。前記エマルジョン又は水溶液中には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、サイズ剤、耐水化剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、抑泡剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、染料、顔料等が挙げられる。
【0057】
前記塗布の方法は特に限定されるものではなく、既述した、バーコーター等の一般的な装置を使用する方法が使用可能である。原紙の単位面積当たりの乾燥重量に換算して、0.05〜10g/mの割合でバインダー層が存在するように塗布を行うことが好ましく、0.2〜10g/mがより好ましく、1.0〜5.0g/mがより好ましい。バインダー層を原紙の表裏側の両方に設けることが好ましい。なお、ここでの乾燥重量は、バインダー層3が原紙1の表裏に存在する場合は両者を合わせたものである。前記塗布により、(メタ)アクリル系樹脂含有層上にバインダー層が第2段目の層として形成される。
【0058】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層形成工程の後、且つ、前記バインダー層形成工程前に、必要に応じて、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の少なくとも一部の表面上に中間層を形成する工程を更に設けてもよい。中間層は任意の物質からなる層でよい。中間層は、例えば、中間層を構成する材料を前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の少なくとも一部の表面上に塗布することによって形成することができる。塗布を容易とするために前記材料は液体の形態であることが好ましい。
【0059】
本発明のクリーンペーパーは、SEMI(SEMICONDUCTOR EQUIPMENT MATERIALS INTERNATIONAL)規格G67−0996に準じて測定した擦り試験において、発塵量が100個/L以下、好ましくは90個/L以下、より好ましくは10個/L以下とすることができる。
【0060】
また、本発明のクリーンペーパーは、JAPAN TAPPI No.40(2000年)に基づくガーレーこわさで表して1.10〜1.50(縦)の剛度を有することができる。
【0061】
そして、本発明のクリーンペーパーは、JIS−P8149(2000年)に基づいて65%以上の不透明度を有することができる。
【0062】
更に、本発明のクリーンペーパーは、50℃の温度条件下、50kg/cmの圧力で重ね合わせた場合に相互に殆ど付着しない高いブロッキング性能を有することができる。
【0063】
更に、本発明のクリーンペーパーは、100℃で、水中で2時間抽出した場合に、1g当たり100ppm以下、好ましくは80ppm以下の硫酸イオンしか抽出されない程度の低硫酸イオン放出性を備えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のクリーンペーパーはクリーンルーム内等の微細な塵・各種のイオン性物質の発生が回避されるべき環境下で好適に使用することができる。例えば、本発明のクリーンペーパーは、クリーンルーム内でコピー用紙、メモ用紙、計測記録用紙、包装紙、作業用紙、工程紙等として使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0066】
「樹脂含浸液の製造」
ガラス転移温度が−20℃のアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製 商品名:AM−920)100重量部に対してポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製 商品名:VF−17)167重量部を添加し、これに水を加えて固形分濃度6%になるように含浸樹脂液を調製した。
【0067】
[バインダー液の製造]
ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製 商品名:VF−17)75重量部、及び、ポリアクリルアミド(荒川化学工業株式会社製 商品名:ポリマセット305)25重量部を混合し、得られた混合物にポリエチレンワックス(中京油脂株式会社製 商品名:ポリロンL−787)を3.5重量部添加し、撹拌して、固形分濃度6%の水系バインダー液を調製した。
【0068】
[原紙の製造]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)85質量部、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)15重量部を叩解度450mlC.S.Fに叩解し、これらに乾燥紙力増強剤(星光PMC株式会社製 商品名:DS4779)0.6質量部、湿潤紙力増強剤(星光PMC株式会社製 商品名:TS4070)0.2質量部を加えて抄紙用原料を得た。この抄紙用原料を長網抄紙機で抄紙し、原紙を得た。
【0069】
[実施例1]
前記樹脂含浸液を樹脂含浸率1.6%になるように原紙に含浸させて、乾燥することにより、坪量64g/mの樹脂含浸原紙を得た。更にその両面に前記バインダー液をバーコーターで片面あたり塗付量が0.60g/m(固形分)となるように塗付して(塗付量の合計1.2g/m)、乾燥することにより、クリーンペーパーを得た。
【0070】
[実施例2]
樹脂含浸液を次のように調製した。ガラス転移温度が−20℃のアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製 商品名:AM−920)100重量部に対してポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製 商品名:VF−17)240重量部を添加し、これに水を加えて固形分濃度6%になるように調製した。この樹脂含浸液を用いた以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0071】
[実施例3]
樹脂含浸液を次のように調製した。ガラス転移温度が−20℃のアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製 商品名:AM−920)100重量部に対してポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製 商品名:VF−17)320重量部を添加し、これに水を加えて固形分濃度6%になるように調製した。この樹脂含浸液を用いた以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0072】
[実施例4]
前記樹脂含浸液を樹脂含浸率が0.8%になるように原紙に含浸させた以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0073】
[実施例5]
バインダー液の塗付量が0.8g/m(片面当り0.4g/m)となるように前記バインダー液を両面に塗付した以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0074】
[実施例6]
バインダー液の塗付量が4.3g/m(片面当り2.15g/m)となるように前記バインダー液を両面に塗付した以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0075】
[比較例1]
バインダー液の塗布を行わない以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0076】
[比較例2]
樹脂含浸液を次のように調製した。ガラス転移温度が−20℃のアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製 商品名:AM−920)を固形分濃度6%になるように水を加えてアクリル樹脂含浸液を調整した。この樹脂含浸液を用いた以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0077】
[比較例3]
樹脂含浸液を次のように調製した。ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製 商品名:VF−17)を固形分濃度5%になるように水を加えてポリビニルアルコール樹脂含浸液を調整した。この樹脂含浸液を用いた以外は実施例1と同様にしてクリーンペーパーを得た。
【0078】
[比較例4]
ガラス転移温度が−20℃のアクリル樹脂(昭和高分子株式会社製 商品名:AM−920)17.3質量部、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製 商品名:VF−17)67.8質量部、及び、ポリアクリルアミド(荒川化学工業株式会社製 商品名ポリマセット305)13.0質量部、及び、ポリエチレンワックス(中京油脂株式会社製 商品名:ポリロンL−787)1.9質量部を添加して、固形分濃度7.0%の樹脂含浸液を調製した。この樹脂含浸液を樹脂含浸率が3.5%となるように原紙に含浸させて乾燥することにより、坪量65g/mのクリーンペーパーを得た。
【0079】
[評価]
実施例1〜6及び比較例1〜4の各クリーンペーパーの発塵性、剛度、不透明度、ブロッキング性、及び、硫酸イオン抽出量の各特性を測定して評価を行った。各特性の測定方法は以下のとおりである。
【0080】
「発塵性−擦り合せ試験」
A5サイズの試験片2枚を、測定器(商品名:グローブボックス、日本エアーテック(株)製)内で、表裏重ね合わせ、これを3回/10秒の速度で3分20秒間手で擦り合せながら、グローブボックス内の空気を吸引し、発生した0.1μm以上の塵の個数をパーティクルカウンター(型式:KC−22A、リオン(株)製)にて測定した。
【0081】
「発塵性−引裂き揉み試験」
A5サイズの試験片1枚を、測定器(商品名:グローブボックス、日本エアーテック(株)製)内で、5秒ごとに4箇所(4cm間隔)を手で引裂いて5枚とし、これを重ね合わせて、1回/15秒の割合で3分間手で揉みながら、グローブボックス内の空気を吸引し、発生した0.1μm以上の塵の個数をパーティクルカウンター(型式:KC−22A、リオン(株)製)にて測定した。
【0082】
「剛度−ガーレーこわさ」
JAPAN TAPPI No.40(2000年)に基づき、試験片の縦方向のガーレーこわさを測定した。
【0083】
[不透明度]
JIS−P8149(2000年)に基づき測定した。
【0084】
[ブロッキング性]
幅4cm、長さ14cmサイズの試験紙2枚の表裏面を重ね合わせ、加熱プレス器にて50℃、50kg/cm条件で15分間加熱加圧させた。プレス後に接着が見られた試験紙を長さ方向で3cm程度剥離させておき、JIS−8113に規定する定速伸張形引張試験機にて幅方向部分をつかみ、毎分30cmの移動速度にて、10cm程度剥離させ、その間の平均荷重を測定した。
【0085】
「硫酸イオン抽出量」
試験片5gを100mlの蒸留水中に浸漬させ、100℃で2時間抽出を行う。得られた抽出液2mlを用いてイオンクロマトグラフィー分析を行ない、試験片1g当りから抽出される硫酸イオン濃度(ppm)を算出した。
【0086】
評価結果を表1に示す。なお、表1中、「PVA」はポリビニルアルコールを表す。
【表1】

【0087】
実施例1〜6及び比較例1の結果から明らかなように、アクリル樹脂及びポリビニルアルコールの混合層と共にバインダー層を備える実施例1〜6のクリーンペーパーは、バインダー層を備えない比較例1のクリーンペーパーと比較して発塵性が低く、またブロッキング性にも優れている。しかも、バインダー層が存在するにも係わらず、実施例1〜6のクリーンペーパーの剛性及び不透明度はバインダー層が存在しない比較例1のものと同程度であり、劣っていない。
【0088】
また、第1段目樹脂含浸率及び第2段目バインダー塗布量が等しい実施例1〜3及び比較例2の結果から明らかなように、第1段目がアクリル樹脂及びポリビニルアルコールの混合層である実施例1〜3のクリーンペーパーは、第1段目がアクリル樹脂のみからなる層である比較例2のクリーンペーパーと比較して同程度の発塵性であるにも係わらず、硫酸イオン抽出量が少なく、また、剛性にも優れている。
【0089】
そして、第1段目樹脂含浸率及び第2段目バインダー塗布量が等しい実施例1〜3及び比較例3の結果から明らかなように、樹脂含浸量がほぼ同量であっても、第1段目の含浸層にアクリル樹脂を含む実施例1〜3のクリーンペーパーは、第1段目の含浸層にアクリル樹脂を含まない比較例3のクリーンペーパーと比較して、発塵性が低い。ただし、ブロッキング性は同程度であり劣っていない。
【0090】
比較例4では原紙に含浸させる樹脂の成分比率及び含浸量を実施例1のものとほぼ同量としている。したがって、比較例4は実施例1において、アクリル樹脂及びポリビニルアルコールとバインダーを混合して塗付・含浸したものに対応する。しかしながら、実施例1及び比較例4の結果から明らかなようにアクリル樹脂及びポリビニルアルコールの混合層からなる第1段目の含浸層及びバインダー層からなる第2段目の含浸層を備える実施例1のクリーンペーパーは、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール及びバインダーの混合層を備える比較例4のクリーンペーパーと比較して、発塵性が低く、ブロッキング性に優れる。
【0091】
これらの結果から、アクリル樹脂及びポリビニルアルコールの混合層とバインダー層を別個に備える実施例1〜6のクリーンペーパーは、アクリル樹脂及びポリビニルアルコールの混合層のみが存在する比較例1、第1段目の含浸層にアクリル樹脂が含まれない比較例3、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール及びバインダーの混合層を備える比較例4のいずれに対しても発塵性が低く、剛性、不透明度、ブロッキング性のいずれにおいても劣ることはない。また、第1段目の含浸層中のアクリル樹脂量が異なる実施例1〜3と比較例2との対比から明らかであるが、アクリル樹脂及びポリビニルアルコールの混合層を第1段目の含浸層とした実施例1は、アクリル樹脂液のみからなる層を第1段目の含浸層とした比較例2と比較して、同程度の発塵性能を持ちながら、アクリル樹脂量が少ないために、硫酸イオン抽出量が少ない。
【符号の説明】
【0092】
1:原紙、2:(メタ)アクリル系樹脂含有層、3:バインダー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙、
少なくとも1種の(メタ)アクリル系樹脂を含む(メタ)アクリル系樹脂含有層、及び、
少なくとも1種のバインダーを含むバインダー層
を備えるクリーンペーパーであって、
前記(メタ)アクリル系樹脂が0.8〜5.0%未満の含浸率で前記原紙に含浸しており、
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層が少なくとも1種の水溶性高分子を50質量%超含んでおり、
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に前記バインダー層が位置しており、
前記バインダー層の表面が該クリーンペーパーの少なくとも一部の表面を構成する、クリーンペーパー。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が−40℃〜0℃未満である、請求項1記載のクリーンペーパー。
【請求項3】
前記バインダーが0℃〜200℃のガラス転移温度を有する(メタ)アクリル系樹脂である、請求項1又は2記載のクリーンペーパー。
【請求項4】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールである、請求項1乃至3のいずれかに記載のクリーンペーパー。
【請求項5】
前記バインダーが水溶性バインダーである、請求項1、2及び4のいずれかに記載のクリーンペーパー。
【請求項6】
前記バインダー層が、前記原紙の単位面積当たりの乾燥重量に換算して、0.05〜10g/mの割合で存在する、請求項1乃至5のいずれかに記載のクリーンペーパー。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層と前記バインダー層との間に中間層が存在する、請求項1乃至6のいずれかに記載のクリーンペーパー。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層と前記バインダー層が接触している、請求項1乃至7のいずれかに記載のクリーンペーパー。
【請求項9】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層と前記バインダー層との接触面の少なくとも一部が混和している、請求項8記載のクリーンペーパー。
【請求項10】
前記バインダー層が少なくとも1種の滑剤を含む、請求項1乃至9のいずれかに記載のクリーンペーパー。
【請求項11】
前記滑剤がワックスである、請求項10記載のクリーンペーパー。
【請求項12】
原紙に少なくとも1種の(メタ)アクリル系樹脂及び少なくとも1種の水溶性高分子の混合物を0.8〜5.0%未満の含浸率で含浸して、該原紙に含浸している(メタ)アクリル系樹脂含有層を形成する工程、及び、
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の上に少なくとも1種のバインダーを塗布してバインダー層を形成する工程
を備えており、
前記混合物中の前記水溶性高分子の濃度が50質量%超である、クリーンペーパーの製造方法。
【請求項13】
前記(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が−40℃〜0℃未満である、請求項12記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項14】
前記バインダーが0℃〜200℃のガラス転移温度を有する(メタ)アクリル系樹脂である、請求項12又は13記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項15】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールである、請求項12乃至14のいずれかに記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項16】
前記バインダーが水溶性バインダーである、請求項12、13及び15のいずれかに記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項17】
前記バインダー層が、前記原紙の単位面積当たりの乾燥重量に換算して、0.05〜10g/mの割合で存在する、請求項12乃至16のいずれかに記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項18】
前記バインダー層を形成する工程の前に、前記(メタ)アクリル系樹脂含有層の少なくとも一部の表面上に中間層を形成する工程を更に備える、請求項12乃至17のいずれかに記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項19】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層と前記バインダー層が接触している、請求項12乃至18のいずれかに記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項20】
前記(メタ)アクリル系樹脂含有層と前記バインダー層との接触面の少なくとも一部が混和している、請求項19記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項21】
前記バインダー層が少なくとも1種の滑剤を含む、請求項12乃至20のいずれかに記載のクリーンペーパーの製造方法。
【請求項22】
前記滑剤がワックスである、請求項21記載のクリーンペーパーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41663(P2012−41663A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186325(P2010−186325)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(507369811)特種東海製紙株式会社 (11)
【Fターム(参考)】